リーダーシップ理論の変遷(5)~ソニーのEV参入と変革型リーダーシップ~(2022/01/14)

変革型リーダーシップは、1980年代頃から提唱が始まったカテゴリーです。変化の激しい状況を受けて、「生産性や効率をいかに高めていくか」がテーマの中心であったリーダーシップ研究が、「組織改革」「フォロワーの意識改革」こそが、リーダーシップに求められる重要なファクターである…という焦点のシフトがその背景にあります。
したがって、リーダーシップ論だけにとどまらない広がりを持ち、経営ビジョン、経営戦略、経営組織…といったテーマも包含する内容です。

今回のコラムは、その代表理論である1988年に発表された「ジョン・コッターのリーダーシップ論」を取り上げます。
コッターの慧眼は、インターネット革命による変化が常態化する1990年代を先取りし、止まらない世界に適応するために企業、組織自らが変革し続けていくこと… その実現はリーダーシップにかかっている、と主張したことです。

そして、リーダーシップにおける最も重要な要素は「リーダーの掲げるビジョン」であるとし、「変革を実現する為の組織改革の8段階」を提唱しています。ビジョンに関するところを太字にしてみました。

<変革を実現する為の組織改革の8段階>

第1段階…危機感の醸成と徹底
第2段階…既存チームとは異なる変革を強力に推進するチームを結成する
第3段階…変革のビジョンを策定する
第4段階…変革のビジョンを組織内に浸透させる
第5段階…ビジョン実現を阻む障害を取り除くために変革チームを強力に支援する
第6段階…目に見える短期目標の設定と実行、成果に対する表彰と褒奨の授与
第7段階…成果による信頼獲得を踏まえ組織体制を見直しプロセスを連続化させる
第8段階…変革を自明のこととして定着させるべく変革型リーダーシップを育成継承

今回もこれまでのコラムに引き続き、定年再雇用のSさんと心理学を学びコーチングの資格を持つ若手A課長に、1on1を展開してもらうことにしましょう。

新聞紙上にソニーが多く取り上げられています!

<Sさん>
新聞紙面をはじめマスコミが取り上げる企業はGAFA…最近はマイクロソフトのMも加えてのGAFAMばかりで、グローバルの視点で日本企業が登場しません。忸怩たる思いを抱いていたのですが、そんな中でソニーの露出が増えています。嬉しい限りです。

<A課長>
世界最大手のファウンドリであるTSMCとの合弁工場ですね。それからEV、電気自動車への参入を吉田会長兼社長が表明しました。夢のある話です。

<Sさん>
私はソニーウォッチャーを自認していますから、「やるな!ソニー」という思いです。創業者である井深さん、そして盛田さんがまさにカリスマ的リーダーであった1970年から1980年代にかけてソニーはグローバルに輝いていました。
そのソニーは2000年以降長期低迷となります。「どうした?ソニー」が延々と続きます。

<A課長>
私はSさんと世代が違うので、ソニーがすごい会社だというイメージはないのですね。その象徴としてウォークマンの世界的大ヒットが語られますが、技術的なインパクトはそれほどでもないのでは… と感じていました。
私はプレステというより、ジャパンクールの先駆けをつくったニンテンドーのマリオで育った人間なので…

<Sさん>
確かにアップルが2001年に売り出したiPodと比較してしまうと技術的な印象は薄いですね。ただウォークマンの凄さは、カセットテープという規格の大きさは変えようがないので、音質という本質的な機能を落とすことなく、どこまでカセットテープサイズに近づけるか… その限界に挑戦したところなのですね。そのため録音機能をカットしています。マルチ機能に縛られてしまいガラパゴス化に陥る日本企業が多いのですが、これは盛田さんが最終的に意思決定した、と言われています。

<A課長>
それは知らなかった…

ウォークマンは和製英語…!?

<Sさん>
それからウォークマンは和製英語です。当時世界ブランドになっていたソニーが、正式な英語ではない変なカタカナ語を使うのは… と否定的な見解が多かったと言われています。盛田さんは英語をネイティブのように話せる人でしたが、そのウォークマンに最終的に決めたのも盛田さんなんですね。

<A課長>
つぎつぎに逸話がでてきますね。成功体験を得てしまうと、それを守ろうとするのが人の常です。前回1on1で紹介した、コンガーとカヌンゴのカリスマ的リーダーとして認知される要因である「型にとらわれない行動」「現状にとらわれない」、を裏付けていますね。

<Sさん>
盛田さんの発想力はすごいですよ。
それからもう一つ、成功体験の呪縛として象徴的なのが、儲け頭の商品… ボストンコンサルティンググループが提唱したPPM、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントでいうところの「金の成る木」を維持しようと、自社競合…カニバリゼーションを避けようとします。

ビジョンは文書化されるだけではダメ…!?

それを盛田さんはよくわかっていて、「一番売れている商品がダメになる技術、商品を開発しろ!」と社内を鼓舞していたのですね。トップがそう言ってくれると、前例踏襲を意識することなくイノベーションに挑戦できます。
失礼… 分析型のPPMは1970年代の戦略策定論なので、古い概念を持ち出してしまいました。

ソニーの設立趣意書は「自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」です。鼓舞する言葉は、設立趣意書を受けています。ビジョンは文書化されるだけではだめで、トップが語る日頃からの言葉に宿る、と感じています。
ビジョンはメンバーに腑に落ちる言葉として実体化させる必要があります。盛田さんのコミュ二ケーション力はすごいですね。

カリスマ的リーダーと変革型リーダーはビジョン重視!

<A課長>
コンガーとカヌンゴが、カリスマ的リーダーの最初の要因として挙げた「戦略ビジョンを打ち出す」にも嵌っています。

リーダーシップ理論の変遷については「カリスマ的リーダーシップ」の次に登場するのが「変革型リーダーシップ」です。「ジョン・コッターのリーダーシップ論」がまさにそれで、8つのステップを踏んで、企業内に定着させていくプロセスを理論化しています。

<Sさん>
なるほど… これもビジョン重視だ。
ウォークマンはエンドユーザーが手にする最終商品なので、マーケティング上のブランド・ネーミングが重要なファクターとなります。

ソニーがフィリップスと共同開発したCDや、2001年にJRのSuicaに導入されて以降、広がっていった非接触ICカード技術は、ソニーらしさを体現する画期的技術です。ところが、非接触ICカードはフェリカのブランドで訴求しているものの、カタチのない技術であり機能なので、ブランド名を知っている人はほとんどいないというのが実情だと思います。

<A課長>
CDはアップルのiPodの登場以来、今ではほぼ消滅した感じですね。昭和の演歌を愛する人たちが、なんとか購入してくれている印象です。

レコード針のナガオカの今…

<Sさん>
私は、中学生の頃父親が買ってくれた『ワールド・クラッシック 不滅のカラヤン名演集』の30㎝LPレコード15枚セットを今も持っています。ノスタルジアもあって、最近よく聴きます。レコード針の微妙な雑音が郷愁をくすぐります(笑)
CDが登場した時、レコード針で圧倒的シェアを持つナガオカはつぶれるんじゃないか、と心配しました。

<A課長>
ナガオカ、ですか…?

<Sさん>
Aさんは知らないと思います(笑)
ドーナツ盤時代の音楽を愛する者にとっては身近な会社でした。最近インターネットで検索してみると、技術力を生かしてレコード針以外にも、超硬合金刃物、測定機器用端子、ダイヤモンド工具、測定プローブ各種…といった製品群でしっかりとした地歩を築いているようです。

会社案内にある「NAGAOKAの歴史」を見ると、旧ナガオカの歴史と、新ナガオカグループの歴史が縦に二列で書かれており、“旧”では1974年まで毎年とはいわないまでも頻繁な記述があるのに、その後に出てくる年は1990年となっています。その年から“新”の歴史が始まっています。「ICソケット開始」とあります。

その次は、1999年と9年間空いて「新工場落成 (株)ナガオカに社名変更」とシンプルな一行、続いての表示は2016年「高音質オーディオ機種 新ブランド 美音『VINON』設立」です。

私は書かれていない空白の年月、つまり行間を想像してしまいます。企業存続のために想像を絶する努力… 絶体絶命の危機に直面した時のリーダーシップ、そしてフォロワーである社員、ステークホルダーの気持ちと行動… 勝手にストーリーを頭の中に描いてしまいます。

<A課長>
私はSさんの40年の会社人生を勝手に想像してしまいました。Sさんもいろいろな思いと行動を経て、今の語りがあるんでしょうね…

2000年以降のソニーは大企業病に陥っていた…

<Sさん>
自分の世界に入ってしまい失礼しました(笑)
中小企業庁による「中小企業者の定義」は、「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」なので、資本金が7500万円のナガオカは中小企業です。

私はあの大ソニーが長期低迷に至ったのは、まさに大企業病だと感じています。
創業者の井深さんと盛田さん、そして大賀さんはアニマルスピリットを持ち続けていました。ところが、名実ともに大企業となってからの世代は実感がわきません。ソニーに内在していたアニマルスピリットが薄まっていったように感じます。

<A課長>
なるほど… ソニーの凋落はそのあたりに原因を見出せそうですね。
ひょっとして、設立趣意書にある「…理想工場」、つまりメーカーである、という存立基盤が今思えば障害になった…?

<Sさん>
私もそう感じています。ただそれをわかっていた人が1995年にソニーのトップに就任します。出井伸之さんです。

私は創業者の井深さん、盛田さん、そして東京芸術大学声楽科を卒業しベルリンフィルのカラヤンとも親交のあった大賀さんまでを、ソニーのリーダーシップ1.0と受けとめています。ちなみにそのカラヤンの最期を、偶然とはいえ看取ったのが大賀さんであることをウィキペディアで知りました。驚きです。

その大賀さんの後を継ぎ、「デジタル・ドリーム・キッズ」というスローガンを掲げ、「インターネットは隕石だ!」と象徴的なワードで変革の必要性を訴えた出井社長が、ソニーのリーダーシップ2.0です。四半世紀前ですね。

ソニーの歴史は戦後日本経済の歴史を辿る写し鏡なのか…!?

<A課長>
なるほど… ただそこからソニーは長期低迷を辿る。

<Sさん>
そうなんです。出井社長は25年前にAVやIT機器といったハードをネットワークで連携させることをイメージします。ソニーは盛田さん、大賀さんが1989年に米国のコロンビア映画を当時の為替レート4800億円で買収していますから、コンテンツも持っています。ちなみにこの金額は、日本企業による米国企業買収の過去最高額でした。

ところが買収したコロンビア・ピクチャーズはヒット作に恵まれず、1994年7~9月四半期の連結決算でのれん代の約3150億円を一括償却することになります。通常のれん代は20年の均等償却なので、5年後ですから3150億÷15年=210億円、つまり…

「今後の売上と利益見通しでは、200億円以上を15年継続して費用化できるメドが全く立ちません。大変申し訳ありませんが、このタイミングで全額を費用化させていただき、再スタートを切らせてください…」というお詫びの宣言です。

ソニーとは不思議な会社です。1民間企業に過ぎないのですが、ソニーという会社の動向が日本経済全体の変化とダブって語られるように感じます。「ソニー経営者の意思決定の流れを研究すると戦後から今に続く日本の歴史が見えてくる…」というカンジでしょうか。

買収の年である1989年はバブルのピークでした。12月29日の大納会の日、日経平均株価が史上最高値の38915円を付けています。そこから失われた20年、いや30年が始まるのです。

私はその頃まだ20代だったので、マネージャークラスのお金の使い方を見て、「何だかタガが外れているなあ~」と感じたものです。バブルの直接的な恩恵を受けていないこともあり、ちょっと冷めた目で見ていました(笑)
とにかく日本全体がユーフォリアでしたね。

一括償却を決めたタイミングで出井さんがソニーのトップとして登場します。逆風からのスタートです。いよいよバブル崩壊であることを日本全体が共有化する時期でもあるのですね。

中国のバブルはそろそろはじける…?

<A課長>
日本にもそのような時期があった、という話は聞くものの、私たちの世代にとっては歴史書の記述を見るようでまったく実感がわきません。この10年くらいに中国の人たちが経験している感覚かなぁ、と想像しています。

<Sさん>
中国、なるほど… 私が中国上海に駐在したのが2006年からの4年間なので、そのあたりから中国バブルが始まった印象ですね。アリババを象徴するネット通販Tモールは2008年スタートです。天猫ですね。中国語ではティエンマオと発音します。
それが直近2021年「独身の日セール」の10日間だけで9兆6千億円です。とんでもない規模です。

格差是正にカジをきった中国政府に遠慮して、派手なイベントを行っていないにもかかわらず、対前年で2割アップしています。

ちなみに、この“遠慮”は日本人にはなかなか理解しづらいのですが、中国には法令とは別の「潜規則」という、明文化されていないにもかかわらず、広く認知、共有される裏規則のようなものがある、と聞いています。
法令は「表」であり、白か黒かとなりますから、この「潜規則」は中国流の柔軟対応といえるかもしれません。忖度とも異なる概念です。

A課長は似非1on1が実施されている社内の状況を嘆くのですが…

<A課長>
「潜規則」という言葉は知りませんでした。Sさんとの1on1のおかげで、とても貴重な…といいますか、この場でしか知りえないカスタマイズな情報を得ることができていると私は感じています。

これまで会社は、評価面談の年2回実施をルール化していましたが、多くの管理者が「1on1はそれとどう違うの?」という半信半疑の思いで始めています。
さらに忙しくなって、「負担しか感じられない1on1ミーティング」がここかしこで行われているのではないか…?
ちらほらと聞こえてくるささやきで、私はそのように想像しています。

私はSさんで救われました。Sさんによって、私たちの企業の歴史だけでなく、日本と言いますか、よりスケールの大きい歴史の教訓を学ぶことができています。

<Sさん>
いやいや恐縮です。それってホメですかねぇ~ コーチングは基本的にホメないときいていますよ。あっ、これをホメと感じてしまう自分こそ独りよがりの反メタ認知かな(笑)

ところでソニーグループ決算概要によると、直近2021年3月期のグループ全体売上は9兆円で利益は経常、当期とも1兆円超えです。
2022年の見通しについては、映画分野の売上を1兆1400億円、営業利益は830億円としています。利益は3年連続で800億円を超えていますから、1989年買収時の毎年ののれん代は余裕で落とすことのできる状況になっているのですね。
『鬼滅の刃』を始めとして優良コンテンツがどんどん誕生する好循環です。

1月11日の日経新聞の社説に、ソニーのEV参入が大々的に取り上げられています。ソニーモビリティという新会社の設立に関する内容です。ソニーがいよいよ私たちにジャパニーズ・ドリームを見せてくれるのでは… と期待が膨らんでいます。

いよいよ創業の時代、中小企業の時代が到来する!

<A課長>
今回の1on1の締めの言葉と受けとめました(笑)

<Sさん>
もう少し長広舌を続けます(笑)
日本は外圧がないと変われない、と言われますが、黒船来航に度肝を抜かれて目を覚まし、明治維新を起こします。渋沢栄一という農民出身者が大活躍する環境が生まれました。
そして現在です。新型コロナウイルスという人類全体が共有する外圧は日本人の価値観を変えることになります。

ハーバード大学在学中の1975年にマイクロソフトを立ち上げ、その後中退しているビル・ゲイツはガレージで創業しています。これに刺激を受けたのか、アップルのスティーブ・ジョブズ、グーグルのラリー・ペイジとサーゲイ・ブリン、アマゾンのジェフ・ベゾス… 彼らの創業秘話にガレージが出てきます。

日本にもやっとそんな時代が到来する、と私はわくわくしているんですね。
東大をはじめとする優秀な学生が国家公務員ではなく、ベンチャーを選び、創業する時代が現実になってきました。『下町ロケット』ではありませんが、まさに中小企業の時代です。

1on1の醍醐味はケミストリー!

<A課長>
Sさんやめてください、転職したくなりますから(笑)
リンダ・グラットンの『ライフシフト』を読んで、影響も受けています。私はコーチングの時代が到来しているように感じているのですね。私にも何かできるのではないか… そんな予感が萌し始めています。

<Sさん>
1on1によって、Aさんと私にケミストリーが起こっているのかもしれませんね(笑)

坂本 樹志 (日向 薫)

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リーダーシップ理論の変遷(4)~箱根駅伝とカリスマ的リーダーシップ~(2022/01/06)

「リーダーシップ理論の変遷」の4回目は、カリスマ的リーダーシップを取り上げます。
カリスマ的リーダーという言葉は、カリスマがキリスト教の「神の賜物」に由来することから、一般的には超自然的な力、非日常的な力を有する特別な資質、能力をもつリーダーとイメージしがちですが、1970年代後半から登場するリーダーシップ理論の枠組みでは、「フォロワーからの信頼を受け、認知されることでカリスマ的リーダーになりうる」と捉えられます。

コンガーとカヌンゴのカリスマ的リーダーシップとは…?

では、何をもってそのリーダーはカリスマとして認知されるのか… リーダーの行動が問われる訳ですが、コンガー(J. Conger)とカヌンゴ(R. Kanungo)が発表した研究が注目されています。

<カリスマと認知されるための具体的な行動>
① 戦略ビジョンを打ち出す
② 環境変化を察知する
③ 型にとらわれない行動
④ リスクを甘受する
⑤ フォロワーの感情を察知する
⑥ 現状にとどまらない

これらが、カリスマと認知されるために重要である、として特にビジョンを重視します。

さてここからは、これまでのコラムに引き続き、定年再雇用のSさんと心理学を学びコーチングの資格を持つ若手A課長に、1on1を展開してもらうことにしましょう。

箱根駅伝の青学大総合優勝から1on1がスタートします!

<Sさん>
箱根駅伝は青山学院大学が総合Vを達成しました。タスキをつないでいく駅伝はまさにチームプレイですし、和を自然に受け入れている我々日本人にとって… いや日本人全体にしてしまうと語弊がありますね… 私にとっては、自分が箱根を走っているような気持の一体感を感じることができます。まさに人間ドラマでした。

<A課長>
Sさん、熱いですね~

<Sさん>
Aさん、以前私のチームで活躍してくれていたT君ですが、これまで箱根で数多くの優勝を誇ったX大出身であったのはご存じですか?

<A課長>
T課長はX大なのですか? Sさんが部長のとき、もっぱらSさんの懐刀という印象でした。どこかカリスマ性をもっていますよね。リーダーシップ能力にも定評があって、最も部長に近い存在だと言われています。

<Sさん>
彼は中途採用組ですが、面接でのコメントに私は引き付けられました。
「高校ではインターハイで上位の成績ということもあり、当時黄金期であったX大に進学しました。2年の時に箱根の10人に選ばれたのですが… 大会直前に故障してしまい、裏方として4年をまっとうし卒業しています」、というのですね。

<A課長>
どんな思いだったのでしょう…?

<Sさん>
まさかこの自分が… と絶望に近い状態がしばらく続いたそうです。退部することも考え、そのような葛藤を経ながらも、皆のサポート役に徹しようと肚を決めたと言うのですね。私は、彼の“決めた”ということばに力を感じました。

<A課長>
Sさんの言いたいことはこういうことでしょうか… 「起こってしまったこと、どうしようもないことをグジグジ考えてもしようがない。できることをしっかりやっていこう」との思いが、T課長の言葉から伝わってきたと。
そして、その原体験が現在のT課長をつくっている…

<Sさん>
明瞭なフィードバックです(笑)
T君は、「自分の故障の原因は監督のせいだ」と思い続けていたと語りました。

「故障は練習のし過ぎが原因なのですが、体調が思わしくないときも監督が強いるハードトレーニングの結果だとうらみました。でも… 猛練習は自分がレギュラーになりたい一心であり、自分が選択した結果であると気づいたのです。監督は時にブレーキをかけてくれていたこともありました。とにかく復帰が絶望的なことが受け入れがたく、他者…そのときは最も身近な監督に責任を転嫁していたのです」

アドラーの「自己決定論」とは?

<A課長>
アドラー心理学の中心概念に「自己決定論」があります。人が生きていく過程で困難な状況に遭遇すると、往々にして「自分が招いた結果ではなく他者のせいである」と責任転嫁をしてしまいますが、アドラーは「自分の行動は自分が選択しており自らの決定である。他者を責めるのはお門違いである」と言うのです。

<Sさん>
なるほど… 私は今であればそう実感できますが、アドラーは厳しいですね。ただ2年前の日大アメフト部の危険タックル事件はどうなんでしょう? 「クォーターバックを潰してこい!」と言ったコーチの言動が焦点になりました。「怪我をさせてこい」とは言っていないようです。

当事者であるM選手の謝罪会見、そして日大の監督やコーチの記者会見では、日大広報部の司会者の対応が物議をかもしています。
私は企業不祥事に関する危機対応の研修も受けていますが、その司会者はその知見に欠けているなぁ、と感じたものです。とにかく日本中を巻き込んだ異例ともいえる喧騒となりました。

<A課長>
「アイヒマン実験」と呼ばれる、権威者の指示に対して人はどのように振舞ってしまうのか、という有名な社会心理学実験があります。

「記憶に関する1時間程度の実験」ということで20歳~50歳の男性が報酬付きの被験者として集められます。くじで実験者と生徒役が選ばれるのですが、募集された人間はすべて実験者となるよう仕組まれており、実験を指示する教師と生徒はサクラなのですね。

生徒は別室で単語に関する問題が与えられます。間違うと教師役が生徒に電気ショックを与えるよう、被験者である実験者に指示します。間違った答えの都度、その電気ショックのボルトを上げていく、という設定です。

「アイヒマン実験」から驚くべき結果が導き出されます!

<Sさん>
いや~ とんでもない実験ですね。

<A課長>
60年前の実験です。もちろん実際には電気ショックは与えられません。現在では倫理的な観点からこのような実験は否定されています。ただ驚くべきというか、恐るべき結果が出ました。

<Sさん>
えっ? ということは…

<A課長>
実験者にはあらかじめ75ボルトの電圧を経験させます。私は漏電で100ボルトの家庭電圧を経験していますが、結構こたえました。

実験者には、別室のサクラ役の生徒の声だけが聞こえるように設定してあります。実験は45ボルトからスタートし15ボルトずつ上げていきます。
生徒役は300ボルトが迫ると苦悶の金切り声を出し、300ボルトになると壁を叩き、その後は無言になる、という迫真の演技をします。

教師役は声音を変えず冷静に指示し続けます。「どのような結果になっても責任は私が取りますから、電圧を上げ続けてください…」と。

<Sさん>
引っ張りますね~ 結果を教えてください。

<A課長>
失礼しました。設定条件を説明しておかないと正しく伝わらないような気がして…
結果は、被験者の65%が最高電圧の450ボルトまで押し続けています。

アイヒマンは、数百万人のユダヤ人を絶滅収容所に送る責任者でした。ドイツが敗戦するとアルゼンチンに逃亡し身を隠します。イスラエルのモサドに逮捕されたのは1960年ですから、イスラエルもすごい執念です。
世界中が注目したアイヒマン裁判は翌1961年行われます。そのときのアイヒマンは、小心な一公務員といった風情だったのですね。

心理学実験はアイヒマン裁判の翌年に実施されています。普通の人が一定の条件下では残虐とされる行為を行ってしまうのか… という検証が目的でした。

ちくま学芸文庫から出版されているハンナ・アレントの論文集である『責任と判断』を最近読んだのですが、今回Sさんに紹介したくて持ってきました。その中の一節に次のような言葉があります。

第三帝国の殺人者たちのことを思い出していただきたいのです。彼らは非難の余地のない家庭生活を送っていただけでなく、余暇にはヘルダーリンの詩を読み、バッハの音楽に耳を傾けるのを好んでいました。そしてほかの誰にも劣らず、知識人にも犯罪を犯す傾向がそなわっていることを証明したかのようでした……

「自己決定論」には“選択”というニュアンスが含まれている…

<Sさん>
日大アメフト事件から、すごい話になってきました。
アドラーの自己決定論からすると、危険タックルを行ったM選手の心の弱さが指摘される、という流れになりそうですが、アイヒマン実験の結果を見るとリーダーによっては、つまり権威をまとったリーダーのもとで仕事をすると、平凡な市民であってもその権威によって歪んだ行為も受け入れてしまう、ということになる…

<A課長>
アドラーの自己決定論のある側面を強調しすぎると、Sさんの捉え方になるかもしれません。ただしアドラーは決して硬直した考えではありません。
決定というと強い言葉ですが、アドラーは選択という言葉を使います。つまり受身だと思っていても、ある範囲のもとで選択の自由を有するという表現です。そして選択の自由を無限の選択とは言っていないのですね。

<Sさん>
ホッ、としました(笑)
T君の話に戻すと、自分の失敗体験を踏まえて、3~4学年の科目選択で科学的トレーニング法に関する科目を多くチョイスし、徹底的に勉強したというのですね。大学もその分野については当時から先端をいっていました。そして監督に新しいトレーニング方法をどんどん提案したようです。監督も素晴らしいですね。それを取り入れてくれた、とT君は言います。結果的にX大学は箱根で優勝します。T君は箱根メンバーではないにも関わらずキャプテンに選ばれます。

<A課長>
T課長にはそのような背景があったのですね。私はカリスマ性をT課長に感じる、とい言いましたが、コンガーとカヌンゴのカリスマ的リーダーシップからの連想です。

T課長は決して、オレがオレがというタイプではないのですが、いつのまにか周りは自然にリーダーとして受け入れてしまう、といったイメージです。提案についても静かな口調で感情的ではありません。そしてアイヒマン実験の教師のように「責任を取る」ということを口にしません。ところが部下の失敗もいつのまにかT課長が責任をとってくれており、それを感じた部下はモチベーションが自ずと上がってくるのです。

<Sさん>
T課長のことをよく見ていますね(笑)

<A課長>
実はT課長を私はロールモデルとして研究しています(笑)

<Sさん>
彼にはビジョンがあります。彼と酒を飲むと、自分のチームだけでなく会社の将来について私にいろいろ語ります。なかなか鋭いですよ。
おそらく今年部長に昇格すると思いますが、彼と仕事をした部下は心理的安全性を感じることができて、忖度感情がなくなっていきます。他チームからすれば、生意気な奴らだなぁ~ と感じているようですが(笑)

青学大の原監督はサーバントリーダーシップ…?

<A課長>
少し前でしたか… 日経新聞で原監督のインタビュー記事に目が留まりました。箱根を前にして優勝最右翼の監督ですから、新聞社側も鉄板コンテンツです。そして総合優勝ですから絵にかいたような流れですよね。

原監督のコメントを紹介する記者の視点も秀逸で「原監督はすごいなぁ~」としみじみ感じさせられました。ただ私が印象に残ったのは、記者が原監督のことを、サーバント型リーダーと表現していたところです。

<Sさん>
サーバントリーダーシップについては、確かAさんが最も信頼を寄せている理論だと前回の1on1で話してくれましたよね。

<A課長>
そうなんです。ちょっと嬉しかったというか…
そして1月4日の日経の青学優勝の記事タイトルは “「自ら律する」群抜く強さ” です。内容は、プロトレーナーの中野ジェームズ修一氏も登場するなど、間違いなくカリスマの原監督であるのに、俗にいうカリスマ色を抑えているというか、そういう構成です。
組織としての成熟、自らを律するチーム、という表現でした。

<Sさん>
カリスマという言葉だけを聞くと、強権的なイメージも伝わってきますが、なかなか奥深いですね。今回もリスキリングです。Aさんとの1on1はエキサイティングですよ。次回もよろしくお願いします。

<A課長>
ありがとうございます。こちらこそ!です。

坂本 樹志 (日向 薫)

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岸田首相の「聞く力」と「調和」、そしてコーチング(2021/12/28)

新型コロナウイルスが確認された2年前に感じたことを思い返しています。
「まさかコロナが2年経っても終息しないとは…」との思いを、2021年の年末になって世界中の人々が共有することになると、誰が想像できたでしょうか。

12月26日の朝日新聞朝刊に、「コロナ2年 世界が学んだ共生」という一面すべてを使った特集記事に目が留まりました。
1964年広島県に生まれ、現在は長崎大熱帯医学研究所の山本太郎教授へのインタビューを軸としたコロナ2年の総括です。

記者が「ウイルスと共存する姿勢が大切だと思います」という意見を込めた質問に対して、山本教授が答えたコメントに共感しました。

戦う相手とみなし、根絶させようとするのは違います。攻撃すれば、相手も強くなろうとする。人を含めて生物は、競争と協調を繰り返し、均衡点を見出してきました。同じ場所で交わっているのではなく、互いにテリトリーを尊重しながら、それぞれの場所で生き続けるのが共存なのです。

私は常々仕事に限らず、生活の中で交わされる会話の多くが「論点先取(せんしゅ)」に侵食されていると感じています。
「論点先取」をグーグルで検索すると、難解な説明が多く登場するのですが、つまり会話が「双方にとっての結論ありき」の状態で展開していくことです。

人には「自分の考えに同意してもらいたい」という願望があります。それが高じてしまうと、論破することが目的化してしまい、他者を拒絶することでカタルシスを得る、という不幸な精神状態に陥ってしまうことにもなりかねません。

岸田首相の「聞く力」

岸田首相は、山本教授と同じ広島県出身です。
岸田首相の打ち出しは「聞く人」です。「聞」という漢字が使われているのは、マスコミがこう決めているのか… 定かではないのですが、できれば「聴」に変えていただきたいなぁ、と感じています。

「聴」の漢字を深掘りすると…

「耳」は、つま先立ちしている人を横から見て耳を強調した象形文字が語源のようですが、門には「音」の意味があって「聞」はそれが合わさった漢字とされています。

他方「聴」は、右側が「14+心」という説と、「10+目+心」の両方が存在するようです。私は後者の「目」が加わった説を贔屓としています。
さらに「聴」は「徳」のつくりと同じです。つまり「聴く」は徳をもった人が五感を総動員しての「きく」姿なのですね。

心理学者のメラビアンが実験の結果を踏まえ明らかにした理論に「メラビアンの法則」があります。コミュニケーションの要因それぞれについて影響度の大きさを割合化したものです。当然、話す内容…言語の意味が大きなウエイトを占めると思われるかもしれません。

話の内容そのものが相手に与える影響はたったの7%!

ところがそれは7%に過ぎず、声の大きさや抑揚、速度や言葉の使い方(たとえば関西弁か東京言葉か、マツコ・デラックス調か…など)、目の動き、笑顔、あるいはイライラした風情が漂っていないか、腕組みをしているのかどうか、といった話し方やボディランゲージという視覚も含めた情報が大きな(ほとんどの)影響を与えていることが示されています。
つまり全く同じテキスト情報にもかかわらず、話す人によっては受容されるか否かに大きな差が出てしまう、ということです。

コーチングにとって最も大切な態度は「傾聴」です。メラビアンの法則を理解し、その上で相手の真意をつかみ、共感するために徹底的に「聴く」のですね。

日本のトップマネジメント、トップリーダーは岸田首相です。就任して早々、公約であった「金融所得課税の見直し」を「当面の間撤回する」、というまさに「君子豹変」でした。この「君子豹変」を、ネガティブな意味として理解している人が多いようですが、本来は「君子」とあるように「優れたトップは、他者の提案、意見が優れていると感じたら、すぐさま過ちを認め取り入れる」という意味なのですね。

「金融所得課税」というテクニカルな政策の是非は正直なところ私は判断がつきかねます。ただ広島人の持つ「未来志向・ポジティブ思考」を岸田首相にも強く感じるところがありますので、「聞く改め聴く力」を発揮され、「新しい資本主義」の創造…格差是正には「調和」が欠かせません…に向かって突っ走っていただきたいと切に希求しています。

渋沢栄一の根幹には「調和」が存在する!

12月26日に『青天を衝け』全41話が完結しました。
最終回は、嫡男であった篤二が女性問題によって廃嫡されたことで栄一の後継者となった孫の敬三が語り手となってのストーリーが展開しました。敬三の視点での栄一像が描かれます。

敬三は後に日本銀行総裁、大蔵大臣となる人物です。それとは別に民俗学者として高い評価も確立したマルチタレントの持ち主です。さらにその妻は、世の中が渋沢栄一の不倶戴天の敵と(勝手に)評価した岩崎弥太郎の孫娘です。

渋沢栄一が日本で最初の経済団体(現在の日本商工会議所)をつくった際に、岩崎弥太郎も賛同したこと(しぶしぶ…といった風情でしたが)が『青天を衝け』の中のシーンにありました。
渋沢栄一が自身の経営している会社の利害を超えて、経済団体の設立に奔走したのは、パークスの「日本には世論がない」という指摘を受けたからです。その世論を形成することは、当時の日本国家にとっての最大目的である「不平等条約改正」のためでした。

私は渋沢栄一のコラムを8回綴っていますが、渋沢栄一の世界観を次のように理解しています。
「フィクションに惑わされることなく、論語を拠り所に現実を見据え、常に中庸(バランス)に気を配り、レジリエンスを駆使して“調和”する世界をつくり上げることに一生を捧げた“リアリスト”」です。

コーチングの「聴く力」の先には「調和」が存在します。 コロナとの共生が実現し、新しい資本主義に向かって歩を進めている初夢を是非とも見たいと願っているところです。

リーダーシップ理論の変遷(3)~SL理論(状況対応型リーダーシップ)はエレガント!?~(2021/12/22)

今回のテーマは、条件適合モデルへの帳を開いたフィードラーの「コンティンジェンシー理論」を発展させ、部下の技能(パフォーマンス)と意欲(コミットメント)の高低に応じて、リーダーシップスタイルを変幻自在に変えていくことを説いた「SL理論」を深掘りしてまいります。

SLとはSituational Leadership の頭文字であり、状況対応型リーダーシップと訳されています。条件適合モデル…という分野名称は少し硬い訳ですが、状況対応はわかりやすい表現ですね。
部下の技能と意欲の組み合わせをD1~D4の4つの状況に整理し、それぞれに相応しいリーダーシップスタイルをS1~S4で提示しています。

前回はSL理論を語るはずの1on1が、いつの間にか「コーチングの3原則」にテーマがシフトしたという経緯でした。
今回の1on1(バーチャルです)は、「リーダーシップ理論の変遷」の3回目として、定年再雇用のSさんと心理学を学びコーチングの資格を持つ若手A課長に、SL理論を語ってもらうことにします。

『新1分間リーダーシップ』の紹介から1on1がスタートします。

(Sさん)
部長職で定年を迎えた私が、再雇用としてAさんのチームに配属され、部下として1on1に臨むことを通じて、改めて自分が管理職として部下に接してきた日々を思い返しています。こうしてAさんとの1on1を続けていくことで、新鮮な気づきを得ることができています。

(A課長)
新鮮な気づき… 素敵な言葉ですね。

(Sさん)
今回のテーマであるSL理論については、少し時間があったので、理論提唱者であるケン・ブランチャードと、パトリシア・ジガーミ、ドリア・ジガーミとの共著である『新1分間リーダーシップ』を読んでみました。翻訳版としてダイヤモンド社から2015年に出版されています。ストーリー仕立ての対話形式です。ソフトカバーで薄めの本だったので手に取りました(笑)

(A課長)
私はケン・ブランチャードの同じダイヤモンド社の『リーダーシップ論(完全版)』は読んでいますが「1分間シリーズ」は読んでいないので、ぜひとも紹介してください。
ちなみに『リーダーシップ論(完全版)』は450ページのボリュームです(笑)

(Sさん)
Aさんがそうくると思ったので、準備しています(笑)
以前出版された『1分間マネージャー』…これは世界的ベストセラーとのことですが、この主人公が“新1分間マネージャー”と名前を変えて登場します。働きすぎの起業家が、多様なチームメンバーの力を最大限引き出していく方法を“新1分間マネージャー”から学んでいく姿を時系列で追っていくという筋書きです。

無手勝流と自認していた自分のリーダーシップのある局面を見事に説明してくれているなぁ、と感じる一方で、別のシーンでの私のスタイルは、部下の置かれていた状況とアンマッチのまま対応していた、と思い返したり… とにかく新鮮な感覚で読み通すことができました。
「SL理論はエレガント」とAさんが称する意味が、分かったような気がしています。

エレガントとは「あいまいではなくシンプル」ということ…?

(A課長)
私は国語や暗記ものの科目が苦手だったのですが、数学は好きでした。最近、数式の美しさを語る本とかが増えていますが、さまざま複雑な現象を、最も抽象的といえる記号だけで説明してしまう数学という世界に「すごいなぁ~」と感じていたのですね。

(Sさん)
そういう意味では私は典型的な文系です。大学も文学部ですし… 記号に置き換えられた瞬間に思考が止まってしまいますから(笑)
ただ国語と社会は得意でしたよ。枝葉末節の記述に親和性を感じる方です(笑)

SL理論は複雑極まりない人間の行動を、技能と意欲の2つ変数に絞りその高低のパターンで、対象者の置かれている状況を説明しているのですが、文系脳の私も腑に落ちる理解ができました。

(A課長)
そうなんですね。エレガントと格好つけて表現しましたが、シンプルかつリアルに適用できる捉え方です。

(Sさん)
Aさん、この図表を見てくれますか? 『新1分間リーダーシップ』の98ページの図表に、文系脳の私も理解できるよう、いろいろ手を加えてみました。

まず図表タイトルなのですが、著作では「SLⅡモデル リーダーシップスタイル」とだけになっています。
SLにⅡがついているのは、1960年代に開発されたハーシー&ブランチャードのSL…状況対応型リーダーシップ…をより精緻化して1985年にSLⅡとして発展させている、と説明されています。ちなみに「SLⅡ®」とありますので、登録商標のようです。

そのタイトルを「対象者の状況・発達レベル(D1~D4)に合わせるリーダーシップスタイル(S1~S4)」と変えて、Dが対象者の状況・発達レベルの4つの類型化であり、Sはそれに柔軟に対応していくリーダーシップスタイルであることを、図と関連付けました。

(A課長)
なるほど。インターネットで「SL理論の画像」を検索すると、膨大な図表が出てきますが、図表のデザインを変えたものがほとんどなので、Sさんの図表はユニークですね。

(Sさん)
文系の人間がつくってしまう図表です(笑)
それから、Dは部下の「技能」と「意欲」の組み合わせが、図の下で右から左に向かう枠で囲ったところの高低でだんだん変化していくことを表しています。

(A課長)
その発達に対応するリーダーシップスタイルがオレンジ色のカーブであるパフォーマンス曲線ですね。あれっ? 矢印になっていませんが…
右下の象限のS1である「指示型」から始まり、S2の「コーチ型」に向かって登っていき、S3である「支援型」、そしてS4の「委任型」に下がる、という矢印で表されるのが一般的だと思うのですが。

(Sさん)
それは発達曲線でもあるからですね。
ある人が担当する業務について経験を積み精進することでD4の「業務知識にも精通+意欲も高い」状況に至ります。そうなるとリーダーシップスタイルもS4の「委任」、すなわち判断、意思決定も含めて「お任せ」のスタイルで臨むと、その人はより高いパフォーマンスを発揮する、ということです。
まさにその通りです。ところがその人が人事異動により、経験したことのない新しい業務を担当しなければならない状況となった場合、S1の「指示型」リーダーシップが求められることになります。

指示という日本語は命令といったニュアンスを感じますが、ここでいう指示は教えてもらい学ぶことで業務を一から習得していくということです。「お任せ」にされてしまうと、本人は辛い状況になってしまいます。

つまり、状況によっては同一人物が4象限のすべてにプロットされることもある、となります。同書でもそこはしっかり書かれていますから、矢印はあえて消してみました。

(A課長)
納得です。一般化した図表をスタンダードとして受けとめ、考えることを止めてしまうと誤解が生じるかもしれませんね。

(Sさん)
それから… 私の文系が出ているところは、ブルーの四角で囲った象徴表現を各象限に組み込んだところです。
インターネットで「SL理論」に関するさまざまな紹介に目を通してみたのですが、たとえば部下の置かれた状況がD1だとして、「技能は低く意欲は高い」という説明にとどまっており、リアル感がピンとこないのですね。

同書もそのリアルな状況を図表内では説明していませんが、さすが本家本元のブランチャードさんの本です。その状況を「意欲満々の初心者」と象徴化させているのですね。
次のように会話が交わされます。

「ある目標ないしタスクでD1の発達レベルにあるとしたら、その人は“意欲満々の初心者”です。やる気にあふれていますが、経験が足りません。そのタスクないし目標に取り組むのは初めてで、いろいろな意味で、自分に何が足りないかさえわかりません。要するに実力不足です」
「熱心でやる気満々ということは、学習意欲も旺盛ということでしょうか」
「そのとおり。期待と好奇心でいっぱいで、簡単にマスターできると信じています。自分の汎用スキルを使えばすぐに覚えられると考え、難しいとは思わないのです」

Sさんは「意欲満々の初心者」であった過去を語ります。

このくだりを読んだとき、新入社員のころを思い出しました。最初に人事労務部門に配属され、社員の借り上げ社宅の契約や、住宅資金の貸し付けに関する抵当権設定業務などを担当していたので、上司から勧められたこともあり宅建の資格を取ったのですね。その過程で民法などの法律に興味を覚え、関連する上位の資格…不動産鑑定士を取ろう! と意欲に燃えました。難解な資格であることはわかっていたのですが、某受験対策会社の講座に申し込んでいます。

そして出席して早々に…「太刀打ちできない」ことを悟ります(笑)
受講生のレベルがものすごく高く、講師の質問にもスラスラ答えます。私は質問されてもちんぷんかんぷんで立ち往生するばかりでした。 その時のなさけなさと恥ずかしさは忘却不可です。結局数回だけ出席し通学を放棄してしまったのです。結婚したばかりの安月給にも関わらず高い受講料だったので、妻から猛烈に非難されたことを思い返し、今冷や汗が出てきました。

(A課長)
面白い…と言ったら申し訳ありませんが、「意欲満々の初心者」のリアル感が伝わってきました(笑)
“知らない者の強さ”というか、痛い目を経験していない初心者だからチャレンジできる、というのも真実味があります。
そして技能が徐々に高まっていくことで現実を知る、ということですね。だからD2の段階になると「期待が外れた学習者」という訳だ…

(Sさん)
その次のD3は、経験を積み技能が高まっていることで会社にしっかり貢献できている状況です。ただし失敗も経験することで、慎重にもなります、だから「慎重になりがちな貢献者」なのですね。同書で、D3の人への対応であるS3について次のようなやりとりがあります。

「……意思決定も自分でしたい方ですが、私にくらべると自分の考えに自信がもちきれないところがあります。もっと自信をつけ、タスクへの情熱を取り戻す必要があり、それには支援型スタイルが役に立ちます。ただし、どんな場合にも支援型が有効というわけでもありません」
「例えば?」

この後、1分間マネージャーは、夫婦関係がおかしくなった友人の例を話題にします。二人を説き伏せて「結婚カウンセラーのところへ行った方がよい」とアドバイスしています。二人は面倒見のよい、しかし指図をしないカウンセラーのもとを訪れます。

1分間マネージャーは「どんなカウンセラーのところへ行くかまでは尋ねなかった」と前フリしているのですが、これが伏線になっています(笑)

「それでどうなったのです?」起業家は身を乗り出した。
「ふたりは1時間あたり200ドルもの料金を払い、やることといえばお互いに罵り合うだけでした。その間、カウンセラーは何もせず、ひげをなでながら言いました。『フーム。どうやら怒りがあるようだ』。ふたりはカウンセリングを3回受け、離婚しました」

この後のやりとりについては割愛します。「D3は支援型で対応すべきです!」と、言い切っていないところが私は気に入りました(笑)

(A課長)
割愛したところを想像すると愉しくなりますね。

(Sさん)
1分間マネージャーは柔軟ですよ(笑)
そして最後のD4は一つの境地である「自立した達成者」となります。対応していくリーダーシップスタイルのS4については最初に説明したとおりです。

(A課長)
図表の中に、リアル感が伝わる状況を盛り込んだということですね。確かに、この説明があることで、図表がいきいきとしてきた感じです。

(Sさん)
ありがとうございます。
SL理論は、意欲という内面的な動きという説明しがたい要因を技能レベルという数値化も可能な客観的要因と関連付けることで、その人が感じている「状況」を一般化できるところまで精緻化することに成功しています。つまり「あるある」が実感できるのです。
それぞれ状況が異なっている部下に対して、同じような働きかけでよいのか… 当然「違うでしょう」となります。

その違いを「指示的行動」と「支援的行動」の配分で示すのですね。そして曲線として描いているところが、対応の範囲というか幅を感じることができて「なるほど…」と腑に落ちる理解につながります。

(A課長)
最後に残ったのがS2のコーチ型リーダーシップになりますが、『新1分間リーダーシップ』の中で、どのように説明されていますか?

(Sさん)
S2については次のようなやりとりがあります。

「コーチ型スタイルの場合は、相手の意見を聞いて、双方向のコミュニケーションをはかるわけですね。そして最終的な判断はマネージャーがくだすのですか」
「もちろんそうです。ただし相手の意見も聞きます。部下の意見のほうがすぐれている場合もありますから、支援は十分に行います。マネージャーは、部下がリスクを恐れず斬新な発想をするように奨励しないといけません」
「スタイル2とは、チームメンバーの意見を聞くということですね。……」

(A課長)
実務能力を高めていくプロセスなので当然ティーチングも含まれますね。もっともingがついているコーチングはより広い概念です。
ブランチャードの『リーダーシップ論(完全版)』の冒頭、「我々はなぜ本書を書いたのか」の中にある次のコメントに私は引き付けられています。

我々がこの本を書いた理由はいくつかある。第一に、すべての人がより高いレベルのリーダーにどこかで出会えるような時代がくることが、我々の夢だからだ。利己的なリーダーは過去のものであり、世界中のリーダーが、ロバート・グリーンリーフのいう「奉仕第一、リーダーシップ第二」の人ばかりになるだろう。我々はその夢を実現するために、この本を書いているのである。

グリーンリーフの著作に『サーバントリーダーシップ』があります。リーダーシップスタイルをSL理論として描いたブランチャードが、“夢である”と称揚しリスペクトしているのが、グリーンリーフが唱える「奉仕第一」のリーダーシップということなのです。

Sさんと1on1のテーマを「リーダーシップ論の変遷」として語り合いましょう、と方針を定め始めていますが、コーチングを学んだ私の最も共感するリーダーシップ論はグリーンリーフなのですね。自らもリーダーシップ論を提唱しているブランチャードが同様に感じてくれていることに「わが意を得たり」と嬉しくなりました。

グリーンリーフについては、「1on1リーダーシップ論の変遷」の完結編として、もう少し後にやってみるということで、いかがでしょうか?

(Sさん)
いいですねぇ~
『新1分間リーダーシップ』の最後のあたりに、1分間マネージャーに学んだ起業家が次のように語るシーンがあります。

あなたから教わったのは、人間を肯定的に見るのが大前提だということ、だれもがハイパフォーマーになる潜在力をもっているということです。だから、部下がどれだけ指示や支援を必要としているかによって、むしろリーダーの方が行動を変えるべきなのです。

そしてブランチャードの化身ともいえる1分間マネージャーは、第6章の「今やっていることを分かち合う」の冒頭で、双方向コミュニケーションの重要性について、熱い言葉で次のように言い切ります。

部下などというものは存在しません。その人が“下の者”だったら雇う必要などないのです! 私のほうも“上司”などではありません。だから、SLⅡリーダーになりたいのなら、自分が何を意図しているのかを伝えないといけないのです!

(A課長)
熱いですねぇ~
Sさん、ありがとうございます。SさんがここまでSL理論を深掘りされているとは… コーチングを学ぶ者として、Sさんのアプローチに触発されました。

(Sさん)
こちらこそ、です。今後の1on1でもリーダーシップについて、どんどん深めていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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コーチングの3原則「双方向」「個別対応」「現在進行形」を包摂した1on1とは…?(2021/12/13)

コーチングの3原則とは、双方向(インタラクティブ)、個別対応(テーラーメイド)、現在進行形(オン・ゴーイング)のことです。
1on1ミーティングはこの3原則が自然に組み込まれていることが求められます。

  1. 双方向… 上司と部下という役職に基づく関係ではなく、お互いが対等なスタンスでセッションを進めていきます。ところが、そのことを事前に確認し合っていても、暗黙裡に「肩書」が作用してしまい、本音の会話が紡がれていない1on1が数多く行われているのが実態です。パートナーシップこそが1on1の前提となります。
  2. 個別対応… 人には個性があります。上司部下ともまずはその個性を尊重し合い、上司が部下の個性をジャッジメントすることなく会話は流れていきます。したがって、それぞれの1on1は実に多様であり、誘導されて進行していくわけではありません。
  3. 現在進行形… 1on1は継続です。1回2回のコミュニケーションで成果を出そうとするのではなく、また1on1以外のシーンでも1on1を意識した関係性が続いていくと認識することが大切です。時間と共に両者の関係が深まっていくのが1on1です。

前回のコラムは、リーダーシップ理論のコンティンジェンシー理論を取り上げました。その最後のところで、A課長が「……次回はP. ハーシィ & K. ブランチャードの『SL理論』を取り上げたいと思います。私はとてもエレガントな理論だと感じています。いかがでしょうか?」と発言しています。

今回はその続きとなりますが、書き手である私もSさんとA課長の会話の趣くままに身を委ねてみようと思います。

コンティンジェンシー理論とコンティンジェンシー計画って違うの?

<Sさん>
今回の1on1のテーマはAさんが「エレガント!」と感じているSL理論ですね。私は美意識に自信がないので、Aさんと思いを共有できるか少し不安ですが、よろしくお願いします。

<A課長>
Sさんの言い回しには毎回刺激を受けます。エレガントという外来語を美意識と結びつけるSさんにまたしても一本とられた感覚です。こちらこそよろしくお願いします。

<Sさん>
また分析癖が出ていますよ~ フィーリングで思わず出た言葉なので、何も考えていません。そうそう、外来語で思い出したのですが、前回テーマのコンティンジェンシー理論について、実は大昔コンティンジェンシー計画について勉強したことがあって、それと混同していました。コンティンジェンシーは、不測の事態、偶然、偶発性と訳されます。つまり不測事態対応計画です。今日ではそのネーミングは一般に広がっておらずBCP…ビジネス・コンティニュイティ・プラン(Business continuity plan)に包含されているようですね。事業継続計画と訳されます。

<A課長>
BCPがレジリエンスという視点で企業の存続を考えていくのに対し、コンティンジェンシー計画は緊急性という初動を中心とした対応と定義する向きもあります。BCPは初動対応も当然含みますからSさんが言うように、BCPに含めて捉えても問題ないと思います。

<Sさん>
同じコンティンジェンシーなので、前回の1on1では途中まで「?」が点滅していました。何となく質問がはばかれるような気がして… 無知であることを隠そうとしたのかな? 見栄を張るのはよくないですね(笑)
後半になってまったく別の概念であることに気づきました。

日本語には3種類の文字が…他方中国語は漢字のみ!

<A課長>
そうなんですか… 得意になってしゃべってしまいSさんが疑問の表情を浮かべていることに気づきませんでした。コーチとしては反省です。

<Sさん>
いえ、Aさんのせいではありません。この歳になると無知であることを隠す能力といいますか、表情変化は生じていないと確信しています(笑)

<A課長>
またしても救われました…(笑)
日本語は外国語をいちいち訳さないでカタカナのまま使ってしまう、という特技が使えるので、“理論”と“計画”の二文字だけで両者の違いを理解しろ、と言われても無理な話です。日本語は、漢字、ひらかな、カタカナという3つの文字を使い分ける極めて特殊な言語です。融通無碍ともいえる日本文化の背景に思いを巡らせてしまいます。

<Sさん>
私は中国に駐在した経験からそれを実感しましたね。中国語の文字は漢字のみなので、外国語を外来語として表現する場合も全部漢字にしなければいけないので「大変だなぁ」と思っています。
一方で、それは日本人としての思い込みではないか… とメタ認知が起動してもいます。外国語を漢字に変換していく技はまさに中国文化のウイットそのものです。

<A課長>
メタ認知ですか… フェイスブックがメタに変わったことで世界的なトレンドワードになっていますね。

<Sさん>
フェイスブックの社名変更以前よりAさんがよく話してくれていたので、メタ認知はニアリーイコール幽体離脱感覚として腹落ちさせています(笑)
このワードはいろいろなシーンで使えるなぁ~と感じたので、私のトーク用の引き出しに格納しました。

メタからヒューリスティックに話題が転じます…

<A課長>
実は私がメタ認知を語るようになったのは、コーチビジネス研究所の五十嵐代表が2019年11月29日にアップした「メタ・コミュニケーション」というコラムを見てからです。影響を受けました。
それにしてもSさんの“言葉のマジシャン”ぶりは、磨きがかかっていますね。勉強になります。

<Sさん>
またしてもその気にさせるフィードバックです(笑)

<A課長>
メタ認知はもともと認知心理学で使われていたキーワードなのですが、コーチングにおいてクライエントに限らず、さまざまな対象を理解しようとする場合に最も重視する認識の方法です。

行動心理学でノーベル賞を受賞した認知心理学者のカーネマン教授は「多くの人はまず“速い思考”で対象を捉える」と言います。ヒューリスティックです。経験に基づいた近道の理解の仕方…と説明できるでしょうか。そのほとんどは認知のバイアスを伴います。つまり、ステレオタイプの類似性で同一視したり、思い込みが生じてしまう、という訳です。
ただ人間にはもう一つの“遅い思考”も持っていると言うのですね。メタ認知に近い捉え方です。

<Sさん>
“速い思考”ですか… 気を付けなければいけないですね。私は芸人ではありませんが、“反応型”で会話を進めてしまいますから。
中国語については、私の“勝手メタ認知”によって外国ブランドがどのように中国語化していくのか、 結構調べました。例えば… 「萨莉亚」は何のブランドだと思いますか…?

<A課長>
簡体字ですね、台湾で使われている繁体字だと漢字が特定できるような気がしますが… ちょっとわかりません。

話の流れがサイゼリヤの中国進出に…

<Sさん>
サイゼリヤです。繁体字だと「薩莉亜」です。サイゼリヤはこのブランドで展開しています。サリヤーと発音するのですが意味はない、といいますかネガティブな印象を感じさせない漢字を選択しています。
ちなみに吉野家はそのままですね。ジーイエジアと発音します。ビールの場合、キリンは麒麟で発音はチーリン、朝日はチャオリーです。サントリーはカタカナ名しかないので三得利という漢字にしています。サンドリ―と発音します。三つの利を得る… おそらく中国人スタッフによって生み出されたネーミングだと思いますが、思わず笑みがこぼれます。

<A課長>
なるほど… 面白いですね。

<Sさん>
サイゼリヤについては、私が中国上海での駐在を開始したのとサイゼリヤの中国進出がほぼ同時だったので印象に残っています。業界は違うもののしっかりウォッチしていました。

サイゼリヤも「日本ブランドは高級だ!」という当時多くの日本企業が抱く自己認識に基づき、高めの価格設定により品質感を訴求することで中国事業を始めています。
日本では低価格チェーンとして大成功していますが、廉価ブランドで成功した企業もどこか「上に…」という思いがあるように感じます。上昇志向ですね。これは理屈ではなく情念のような気がします。
ダイエーやイトーヨーカドーも百貨店業態を模索した過去がありますし…

<A課長>
ユニークな解釈ですね。心理学的経営論でしょうか、そんな分野は存在しませんが(笑)

<Sさん>
すぐ脱線してしまいます。
そのサイゼリヤですが、閑古鳥が続くのですね。同じ日本ブランドとして心配しました。実は私もとても苦労しましたから…

サイゼリヤが中国でバズったその背景とは…?

<A課長>
それで現在はどうなのですか?

<Sさん>
中国における日本ブランドのファミレス業態では一人勝ちだと言われています。

<A課長>
それは… 閑古鳥状態をガマンし続けた結果、ということですか?

<Sさん>
いえ、そうではありません。
ここからはそのとき上海にいた日本人としての純粋な想像です。サイゼリヤはしばらくガマンしていました。1号店の場所の家賃相場は知っていましたし、結構店舗面積も広かったので投資負担がどんどん増しているのが手に取るように理解できました。

<A課長>
それは大変だ…

<Sさん>
サイゼリヤとしてこの状況をどう打開していったのか…? それは「開き直り戦略」だと私は勝手に名付けています。
思いっきり低価格に価格を変更したのですね。半端ではないシフトです。低価格戦略で失敗すると、もう後がありませんから… これについては高度な経営判断であったと想像しています。

その結果… バスった、といいますか、SNSで評判が一気に広がり、店の前はとんでもない行列になります。
そこからサイゼリヤはもうイケイケ状態です。

中国の大規模デモに遭遇したSさんの迫真の語りがスタート!

<A課長>
そういえば私たちの会社が、中国有数の高級ブランドとして高い認知を得ることになったきっかけは、ハリウッドでも活躍していた中国人大女優の〇〇〇がブログで「素晴らしい」と書き込んでくれたその一言ですから… ヤラせ、ではなかったので我々も驚愕したことを思い出しました。

<Sさん>
初代の私は直営店とは別に高級百貨店にカウンターをもつ方針を掲げ、上海だけでなく、北京、瀋陽、大連、杭州、成都、重慶…と、バスに乗るように飛行機で飛び回り、何とか当時の中国で有名な7百貨店まで進出できたところで交代しました。大化けするのは結構後のことです。まさかあの世界的女優の〇〇〇がブログにしてくれるとは… 涙が出ましたよ(笑)

サイゼリヤに戻します。サイゼリヤの公式な中国ヒストリーでは、今私が語る内容は書かれていないので、あくまでも私の想像です。

中国のSNSについては、小泉首相が靖国神社に参拝したことで上海の延安路での大規模デモが起こったことを思い出しています。
私が上海に最初の直営店を構えたのは水城路という場所で、当時上海のGMSでもっとも賑わっていたカルフールの近くです。

そこからタクシーで淮海中路と烏魯木斉路の交差点にあるマンションに帰ろうとタクシーを拾いました。当然延安路を避けるよう運転手に伝え、運転手も「当然そうします」と言うのですが、いたるところが通行止めで、くねくね行くうちに延安路に出てしまいました。恐怖でしたね。あの恐怖は体験した人にしか分からないと思います。もしスーツを着ていたら…と思うと、ぞっとします。当時もスーツを着るのは日本人くらいですから。

隣の白い車は日本車で、その上に複数の人間が飛び乗ります。ルーフはボコボコです。運転手は中国人の女性で、「私は中国人だ!」と絶叫しているにもかかわらず…です。
とにかくものすごい人でした。まさに津波が押し寄せてくる感じです。
群集心理というか集団になったとき、いつものその人ではなくなるように感じました。一人一人がモビルスーツを着たガンダムになってしまう、という印象です。

ただ、旅行者でなく中国で長く生活していると、「中国人は…」という発想がなくなってきました。PHP新書に田島英一さんが書いた『中国人、会って話せばただの人』という本がありますが、まさにそんな感じです。もちろんそれぞれが個性的です。個人に対して国家をかぶせていくのは…認知のバイアスが生じてしまう、と感じます。

<A課長>
Sさんの表情がさきほどとは様変わりです。リアル感が伝わってきます。

<Sさん>
失礼しました。クールダウンしますね。
会社に戻ってスタッフに告げると… とても心配してくれて、今後のデモ情報についてしっかり教えてくれました。

中国人にとってSNSは生活そのもの…

<A課長>
えっ、今後のデモがどうなるかわかるのですか?

<Sさん>
私も半信半疑だったのですが、SNSを通じた中国人のネットワークには驚きました。
「〇日の午前〇時に予定されていたデモは公安が□□という判断をしたという情報をもとに中止が決定されています。だからその日のデモは起こりません」
ときっぱり言うのですね。残念ながら私の情報は日本領事館というか、日系企業間で共有されたものにとどまっていたので、実際とはかなり違っていることがさまざま判明します。改めて郷に入れば郷に従う…という諺を想起しました。

今から20年近く前の話です。スタッフが「上有政策下有対策」と笑いながら話してくれました。「上に政策あれば下に対策あり」ということで、中央政府が政策を発表し展開しても地方政府や市民は、それをかいくぐる方策を編み出して実行する、という意味です。実感しましたね。SNSが中国人にとっては生活そのものを左右する重要な情報源であった、ということなのです。中国のSNSは我々とは歴史が違います。
ただ市民の武器であるSNSも今は全部監視されているので… 彼らの思いをいろいろ想像してしまいます。

SさんとA課長の1on1はインタラクティブな化学反応を起こします!

<A課長>
今回、Sさんに中国の実体験を赤裸々に語っていただく1on1になるとは… 思ってもみませんでした。これは伝承ですね。貸借対照表に表れる企業資産は企業の価値を金銭として評価するものですが、Sさんのお話は今注目されている非財務情報として受けとめました。経営とはゴーイング・コンサーンである、が自明です。「継続すること」と訳されます。伝承によって歴史が紡がれていくのですね。

<Sさん>
長く続いていく企業というのは、歴史を教訓としてメタ認知で分析理解し、それをしっかり企業内に包摂させているのだと感じています。
失敗も成功もあります。だからこそメタ認知です。「失敗は成功の母」であり、それ以上に「成功は失敗の友」です。過去の成功に酔ってしまうと… その企業は劣化していくのだと思います。

デモでの体験や中国のSNSで感じたことは、これまで社内で話題にしていません。ですが… この1on1でなぜか話してしまいました。問わず語りです。これがコーチングなんですね…

今回の1on1はAさんがエレガントと称するSL理論の解説を聴いて、「唯一最善なリーダーシップは存在しない」というリーダーシップの本質を考えてみようと意気込んでいました。それなのに… 雑談になってしまい恐縮です。

<A課長>
私は少し不思議な心持です。「コーチングとは何か?」と問われると、さまざまな回答が返ってきます。ただしコーチングの3原則は広く共有化されるプリンシプルです。それは、双方向、個別対応、現在進行形の3つです。

1on1がオン・ゴーイングに展開していくことで、Sさんが徐々に裃を脱いでくれているのを感じています。インタラクティブなコミュニケーションにより、お互いの個性と個性が融合して化学反応を起こす…ということなのですね。
この3原則がコンクリートの用水路ではなく里山の自然豊かな小川に流れているのを感じています。

<Sさん>
その表現は文学ですね(笑)

<A課長>
恐縮です(笑)
今感じたことをお話ししてもよろしいですか?

<Sさん>
もちろんです。

<A課長>
Sさんの「雑談になってしまい恐縮です」こそ、余計な言葉かなぁ~と…(笑)
若輩のマネージャーである私は、大先輩であるSさんのような人たちにどのように接していけばよいのか… すごく悩んでいたんです。それが今回、問わず語りをしていただいたことで私は救われました。自己開示させていただくと… 気持ちよさに浸っています。
次回もよろしくお願いします。

<Sさん>
お互いに救われた、ということでハッピーエンドになりましたね(笑)
私こそ次回もよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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リーダーシップ理論の変遷(2)~コンティンジェンシー理論…唯一最善のリーダーシップは存在しない!~(2021/12/07)

前回のコラムは「リーダーシップ行動理論」を取り上げました。その代表理論である三隅二不二の「PM理論」を中心に解説しています。

行動理論とされる理論にはこの他にも、レヴィンの「リーダーシップ類型論」、リッカートの「マネジメント・システム論」、ブレイク、ムートンの「マネジアル・グリッド論」などがあります。それ以前の特性論は、“論”が付されているものの、「理論」の要件を満たしていたとは言えず、この行動理論の登場によって、リーダーシップが社会科学として認識されるようになる刮目すべき分野となりました。

ただし、一旦「理論」としてオーソライズされたとしても、次の瞬間から「その理論」に疑問を持つ人が現れ、巧みな論理構成を駆使してその理論が含有する矛盾が指摘され、「別の新たな理論」に塗り替えられてしまう… ということが起こります。

リーダーシップ研究についてその役割を果たしたのが、フィードラーの「コンティンジェンシー理論」です。

理論が変遷していく大枠の分野を、特性論 ➡ 行動理論 ➡ 条件適合理論… と前回コラムで説明しています。「コンティンジェンシー理論」が登場することで、行動理論が前提としていた「理想のリーダーシップとは?」というアプローチが覆されてしまいます。

リーダーシップ研究における記念碑的な理論なのですね。

それでは前回に引き続き、部長職を歴任し現在は定年再雇用(平社員)のSさんと、心理学を学びコーチングの資格を有する若手A課長による1on1ミーティングで、この「条件適合理論」を解説してみましょう。

そもそも唯一最善のリーダーシップは存在しない!

<A課長>

前回の1on1はSさんの巧みなファシリテーションで熱く語ってしまいました。今回もワクワクするセッションになりそうで楽しみです。よろしくお願いします。

<Sさん>

こちらこそ!

私はこれまで「理論」と呼ばれるものに対して少し斜に構えていたのですが、Aさんのおかげで自分の固まっていた価値観を見直すきっかけとなりました、リスキリングでありリカレントです。ネットで心理学や経営学に関する理論を再勉強しています。おっと、カタカナワードを使ってしまいました。ちょっと見栄を張っているかな…(笑)

でも不思議ですよ。この歳になって知的好奇心が覚醒しています。

<A課長>

まさにVUCAの時代を迎えて、あらゆる世代が常に学ぶことを要請されています。老若男女は関係なしです。

<Sさん>

早速フォローいただきありがとうございます(笑)

<A課長>

えっ? いえ… そんなつもりで言っているわけではありません。

<Sさん>

その発言もAさんらしさがにじみ出ていて愉しくなります(笑)

<A課長>

(苦笑)……

<Sさん>

今回のテーマはリーダーシップ理論の変遷で、行動理論の次の条件適合理論ということですね。解説を是非ともお願いします。

<A課長>

わかりました。この条件適合理論からリーダーシップ理論が大きく拓けてきた印象です。私はこの理論群を学ぶことで視野が広がった、と感じています。

Sさんはアドラーの「自己理想」に共感します!

<Sさん>

Aさんが前回の1on1でアドラーの「自己理想」について話してくれましたが、行動理論の理想的リーダーシップを説明されると少々疲れますね。理論を説明されるまでもなく、PM型がすぐれたリーダーシップスタイルであることは「当然だよなぁ」と感じます。

習得可能だとしても、それに向かって「頑張りなさい! 」と言われているようで… 特に人間関係で「〇〇しなければならない」に憑依されてしまうと… シンドイものですよ。

私は病気になるタイプではありませんが、一生懸命勉強するまじめな人の中には挫折感を抱いてしまい産業医に助けを求める… というケースも出てくるような気がします。

<A課長>

Sさんの本音を語る… に接すると都度考えさせられます。経験を積んだ人のリアル感が伝わってきます。

<Sさん>

Aさんの承認ポイントは私をくすぐりますね。

<A課長>

そうやってフィードバックをいただけるのでノってきます(笑)

分野のネーミングからわかるように「条件に適合させるリーダーシップ」です。

ところで、行動理論がリーダーシップを発揮するところの“場”について触れていないことに気づきませんでしたか?

<Sさん>

“場”ですか? ということはリーダーにとってのチーム、組織、企業ということですね。

<A課長>

そうです。わかりやすい例を挙げましょうか。今Aさんが言うように、リーダーがそれを発揮する場をイメージすると会社の組織やチームを思い浮かべると思いますが、教育現場を想定してみましょう。

小学校と大学、そうですね… 大学も大学院のMBAコースにしましょうか。先生の役割はリーダーです。両者のリーダーシップのあり方は行動理論でカバーできるでしょうか?

<Sさん>

高度な論文をスラスラかける大学の先生が、“動物園”のような小学生の学級を教えるイメージはちょっと思い浮かばないですね。

<A課長>

そんな小学生に対しても、わかりやすく抜群の教え方をされる大学の先生はいらっしゃいます。では、その大学の先生は小学生と院生に対して同じトーンで講義というか、教えているのか…というと、想像はつきますよね。

MBAコースには社会人クラスもあります。経験豊富、そして知的能力が高い院生と、知識そのものが備わっていない小学生…つまり未成熟な対象とでは、効果が期待できる教え方は異なるのが自明です。

<Sさん>

行動理論は確かに“場”といいますか、組織の特徴、属性についての見解が出てきませんね。組織、企業には文化があるので、ある会社で成功したリーダーシップやマネジメントが別の会社でそのまま適用できるか、というと… なかなか難しいものがありますね。

条件適合理論はリーダーシップを発揮する“場”の違いに着目する!

<A課長>

「条件適合理論」はそのあたりに着目した理論です。まずは「コンティンジェンシー理論」からです。これは「条件適合理論」に含めるのではなく、独立した理論として捉える向きもあります。リーダーシップ研究に多大な影響を与えました。

その理論を一言で説明すると「唯一最善のリーダーシップは存在しない!」です。

行動理論が目指した「理想型の探求」を覆したところが新鮮でした。そして「組織のあり方」を研究することになる… さまざまな組織は一律ではないというリーダーシップ論と組織論がリンクしていく流れとなります。

<Sさん>

私はマネジメントを長くやってきましたから、私なりの感覚を持っています。ただ無手勝流というか自分スタイルでやってきたなぁ、と振り返っているのですね。

<A課長>

マネジメント、そして組織論にもさまざまな理論が存在します。改めて1on1のテーマにしましょうか?

<Sさん>

次々とテーマが生まれてくるので愉しくなります。コンティンジェンシー理論はよく知らないので、Aさんに深掘ってもらいましょう(笑)

<A課長>

チャレンジしてみます(笑)

コンティンジェンシー理論は、業績を上げるリーダーシップと組織状況の関係について解明を目指したアプローチです。

その組織の置かれている課題状況によってそのスタイルは違っていた、ということが浮かび上がります。その状況に関する変数をフィードラーは3つ設定しています。

<3つの状況変数>

(1)リーダーが組織の他のメンバーに受け入れられている度合

その組織でメンバーに支持されているかどうかです。

(2)仕事・課題の明確さ

業務目標、手順、成果が明確で、構造化されているかどうかです。

(3)リーダーが部下をコントロールする権限の強さ

メンバーの採用・評価・昇進・昇給に関する影響力の度合いです。

それぞれの組織状況が好ましいか否か? で把握していくのですが、この変数が高い場合はリーダーシップが発揮しやすく、そうでないケースは、仮に有能だと評価されているリーダーであってもその能力がなかなか発揮できない、としています。

ここまでは「なるほど…」と言うか、まあ当たり前だなぁ、と感じるところです。

LPCは「最も望ましくない仕事相手」のことです。

フィードラーは、この3つの変数に、LPC(Least Preferred Coworker)という指数を組み合わせます。LPCの直訳は「最悪の同僚」です。「最も望ましくない仕事相手」という対象をイメージしてもらい、その対象の捉え方でリーダー像を大きく2つに分類します。

対象を仕事以外でもネガティブというか、厳しく評価するタイプのリーダーを「低LPC(課題動機型)」と設定し、他方仕事上ではそのように感じていても、仕事を離れればそれほど低く評価しないタイプを「高LPC(関係動機型)」とします。

<Sさん>

その2タイプの設定だと結論が見えてくるような気がします… ただPM理論より複雑な設定というか、組み合わせであり、意外な結果が出たことで学界を驚かせた…ということも想像されますね。

<A課長>

さすがの推理です。2つにどうやってタイプ分けするのか… 質問票の回答に基づき判別していきます。各質問はかなり練られており「なるほど…」と感じさせる内容になっています。

<Sさん>

LPCの高低ということですが、PM理論のPが強く出ているのが<低>であり、Mが強く出ているのを<高>としている印象です。

<A課長>

そう解釈してもよいと思います。ただ次のステップがフィードラーらしさです。「組織の業績」は次の数式で導き出されるとしたのですね。

「組織の業績」=「LPC」×「状況変数(リーダーと集団の関係・課題の明確さ・リーダーの権限の強さ)」

状況変数も捉え方によってキリがなくなるので「リーダーにとっての恵まれた環境の程度」を3つのスケールで捉えています。とても恵まれている<高>、普通の<中>、そして厳しい環境の<低>です。

その3つの組織状況とLPCの2タイプがどう組合されれば、「組織業績」が向上したのか、という調査です。

<Sさん>

つまり、<高><中><低>のそれぞれの環境に対するかみ合わせにふさわしいのは、課題動機型の低LPCなのか、それとも関係動機型の高LPCがフィットするのか… ということですね?

<A課長>

YES! です(笑)

Sさんはどう思われますか?

<Sさん>

これはむつかしいぞ… 恵まれた環境というのは… 部下が前向きでリーダーも受け入れられている環境だから、お任せスタイルというか関係動機型の高LPCのリーダーシップによって組織全体も活性化するような気がするなぁ~

いや、だからこそ課題動機型がさらに業績を上げるかもしれない。もっともこのリーダーは嫌な部下を遠ざけるタイプのようでもあるし…

単純に判断することはできないですね。

<A課長>

Sさんの疑問はもっともだと思います。

ちなみに調査の結果、つまり一連の調査スキームから導き出された結論は次の通りです。

1.恵まれた<高>環境       ➡「課題動機型(低LPC)」

2.可もなく不可もない<中>環境  ➡「関係動機型(高LPC)」

3.恵まれていない<低>環境    ➡「課題動機型(低LPC)」

<Sさん>

う~ん、謎ですね。

恵まれた環境になると異なるタイプのキャラクターに替わってしまう…!?

<A課長>

フィードラーも謎を感じたようです(笑) 最初の論文発表後も追加でさまざまな調査を行い、その成果を発表しています。

フィードラー自身、そして他の研究者も「そうだろう…」と認めたのが、3の恵まれていない混とんとした環境と2の普通の環境では、両リーダーシップともそのキャラクー通りに振舞うが、1の恵まれた環境の場合は振る舞い方が逆転するというのですね。

<Sさん>

謎が深まりました(笑)

<A課長>

そうなのです。この謎により多くの研究者が刺激を受けてリーダーシップ研究が一気に広がっていくのです。その謎は謎として、画期的だったのはリーダーシップスタイルと“場”であるところの環境の関わり合いを解明しようとしたところです。

その結果は「唯一最善のリーダーシップというのはそもそも存在しない!」という発見につながりました。

「PM型にならなければダメだ!」という「思い込みの呪縛」から、多くの人を救ったと言えるかもしれません(笑)

ただし、キャラクターを前面に出し、かつLPCの<高><低>という側面で理論をつくり上げようとしたところに無理があったのかもしれません。

<Sさん>

なるほど… 脳科学者の中野信子さんが『ペルソナ』の中で、「わたしはモザイク状の多面体である」と言っていましたが、人の性格をみんながイメージできるよう決めつけるのには無理があるのかもしれません。

私も大きく分ければ、LPCのどちらかに分類されると思います。ただ外面(そとづら)が求められる環境と、家族という自分の素をすべて出し切れるありがたい環境での振る舞いが同じかというと絶対違いますから。モザイク… これは断言できます!

<A課長>

Sさんの迫力ある宣言に脱帽です(笑)

フィードラーによって「条件適合モデル」が一気に開花します。次回はP. ハーシィ & K. ブランチャードの「SL理論」を取り上げたいと思います。私はとてもエレガントな理論だと感じています。

いかがでしょうか?

<Sさん>

エレガント…いいですねぇ~ セッションを盛り上げましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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リーダーシップ理論の変遷(1)~行動論のPM理論で1on1を展開してみる!~(2021/11/29)

「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、三者のリーダーシップの共通項は?」と問われて、
あなたは何と答えるでしょうか?
多くの経営者、そして識者に「リーダーシップとは?」と尋ねると、おそらくさまざまな回答が返って来ると想像します。それでも多くの研究者が、リーダーシップを定義すべく取り組みを重ねており、さまざまな理論が登場しています。
もっともその理論は、発表された時代の価値観、空気によって形づくられたところもあり、社会環境が変化する過程で、理論もまた変遷しています。
まずは理論の流れをみてみましょう。

リーダーシップ理論の変遷

<リーダーシップ特性論(~1940年頃)>

1940年頃までの理論と言われています。遡ること中国では諸子百家、日本においては17条憲法をつくった聖徳太子が現実感を伴うリーダー像として描かれた最初だと感じているのですが、この特性論でリーダーシップを捉えています。理論のはじまりの年代が書かれていないのはそのためです。
残されている文献をたどると、そこには「すぐれたリーダーはどのような特性を有しているのか…」というリーダーのもつ個人的な資質に焦点が当てられています。すなわちこの特性論は、大昔から1940年頃まで一貫して続いていた、と解釈可能です。
「すぐれた資質を持っている人がリーダーになるのだ」
「リーダーはつくられるのではなく、もともとその人が有している能力に起因する」
という視点です。
今日では「理論とは別物である」とされる捉え方ですが、現在もこの考えを支持する雰囲気はありそうですね。
「偉人伝」はどうしても、全体観としてその人を「ヒーロー・ヒロイン」として描きます。世間でいうところの「成功者」に対して、トータルな人格が「素晴らしい」とイメージしがちです。ハロー効果であり、後知恵バイアスです。
私たちには、どこか「カリスマを求めたい」という気持ちがあるのでしょうか。ビジネス本の多くは、この「カリスマ性」を色濃く打ち出していますから…

<リーダーシップ行動論(1940年代~1960年代)>

“行動”と名付けられているところに注目です。
リーダーの資質を問うのではなく、「優れたリーダーはどのような行動スタイルをとるのか…」というアプローチです。行動は結果として現れるので、成果を導くための機能は何なのか? を探っていきます。したがって機能であり、その能力は開発可能である、と捉えます。
ブレイク & ムートン「マネジリアル・グリッド理論」
三隅二不二「PM理論」

に代表されます。

<リーダーシップ条件適合理論(1960年代~1970年代)>

リーダーシップのスタイルに関する研究で、その集団の置かれている状況によって、有効なリーダーシップスタイルは異なるという理論です。
F・フィードラー「コンティンジェンシー・モデル」
R・ハウス「パス・ゴール理論」
P・ハーシィ & K・ブランチャート「SL理論(Situational Leadership Theory)」

に代表されます。

<カリスマ的リーダーシップ論(1970年後半~)>

1970年代後半から提唱され始めたリーダーシップです。
カリスマというと「特性論」をイメージするかもしれませんが、この理論は「フォロワーからカリスマと認知されることによって、リーダーはカリスマとなりうる」という考え方です。
「J・コンガーとR・カヌンゴの研究」を取り上げます。

<変革型リーダーシップ理論(1980年代~)>

1980年代頃から提唱が始まったカテゴリーで、「生産性や効率性をいかに高めていくか」がテーマの中心であったリーダーシップ研究が、変化の激しい状況を受けて、「組織変革」「フォロワーの意識改革」こそが、リーダーシップに求められる重要なファクターである…という焦点のシフトがその背景にあります。
リーダーシップ論だけにとどまらない広がりを持ちます。経営ビジョン、経営戦略、組織改革…といったテーマも包含する内容ですね。
「P・コッターのリーダーシップ論」を取り上げます。

<今日注目されているリーダーシップ理論>

条件適合理論、そして変革型リーダーシップについては古びることなく今日でもその有効性が認められています。ただし、VUCAの時代が実感として受けとめられる今日だからこそ、クローズアップされるリーダーシップが登場しています。コーチングとの親和性が伝わってくる理論です。
「ロバート・K・グリークリーフのサーバントリーダーシップ」
「シェアード・リーダーシップ」

が注目されています。
さて、ここから前回でも実施したバーチャル1on1を展開してみますが、リーダーシップ論の変遷は、とても1回の1on1で完結できそうにないので、以後もシリーズでコラムにしてみようと考えています。
初回の1on1は「行動論」、特に三隅二不二の「PM理論」を軸にミーティングを進めることにします。

「ダイバーシティ&インクルージョン」で1on1がスタート!

<A課長>
前回の1on1で、「成人発達理論」の“段階”に違和感を覚えたSさんの語りによって、私も気づきを得ました。漠然と考えていた“包摂”という言葉が浮かんできて哲学に思いを巡らせたところです。西田幾多郎の「絶対矛盾的自己同一」まで想起してしまいましたよ。
<Sさん>
包摂… 素晴らしい言葉ですね。ダイバーシティ&インクルージョンは、ダイバーシティが前面に出てしまいがちです。私はインクルージョンに惹かれます。というのは、多様性はポリティカルコレクトネスとして多くの人が知的に理解しているように感じるのですね。それに対してインクルージョンは包摂であり包み込む、です。この言葉は実感を伴います。まさに身体感覚というか、自問自答できる言葉じゃないでしょうか。
… 真面目に語ってしまった。ちょっと青臭いなぁ~(笑)
ところで今回のテーマなのですが、前回ミーティングの最後に「哲学にしませんか?」と言ってしまいました。実は… 勉強不足なので別のテーマに変更したいのですが…
<A課長>
了解です。 私も「望むところです」と応えましたが、哲学を語れるようになるのはまだ先の話だなぁ~ というのが本音です。
またこれでSさんに救われました(笑)
<Sさん>
私は別に救世主ではありませんよ(笑)
それでは… 企業、組織にとっての根幹テーマといえるリーダーシップはいかがですか?
若い頃、三隅二不二のPM理論を勉強した時、納得したものです。係長、課長になってからは「やっぱり実践だよ」という思いが強くなって、理論はほとんど勉強していません。ただ、松下幸之助さん、本田宗一郎さん、ソニーの盛田さん…そして稲盛さんのフィロソフィーとかは、結構読んでいます。
理論は再現性が問われる…とのことですが、星の数ほどある企業にはそれぞれ文化があって、リーダーシップこそもっとも理論化が困難なテーマだと感じています。
<A課長>
なるほど… Sさんの今の発言は言い得て妙です。星の数ほどある企業それぞれに固有の文化がある、さらに部署によってもメンバー構成によっても、効果的なリーダーシップは異なる… という考えを多くの人が持っていると思います。
実はそのことを理論化したリーダーシップ論もあるのですね。逆説的ですが…
<Sさん>
面白いですね~ そういえば…リーダーシップ論はドラッカーを勉強しました。ドラッカーのことを「実証的ではない」という学者もいますが、私にはとても響きます。
学者に対して私は、「そんなに重箱の隅をつつかなくてもいいじゃない!」と思ってしまうところがあります。ただ、虚心に学ぶことも大切なので、この機会に心理学を学んだAさんの力を借りて整理したくなりました。よろしくお願いします。
<A課長>
ありがとうございます。
アカデミズムの世界はどうしてもカテゴリー化してしまうところがありますよね。私も「境界って誰が決めるのだろう…?」と感じるところはあります。ここは結構深いテーマですね。
リーダーシップ論はとてもすそ野が広いので、初回の1on1は対象理論を絞ってみませんか? 「その理論についてどこまで深掘できるか…」をゴールイメージとしてやってみる、というのはいかがでしょうか?
<Sさん>
望むところです(笑)
PM理論は多少とも語ることができます。PM理論でやってみましょう。

今回のテーマは「PM理論を深堀してみる」です!

<A課長>
合意形成です(笑)
まずはSさんから理論内容についての紹介をお願いします?
<Sさん>
了解です。PM理論では、この表が必ず出てきますね。

リーダーシップを、目標達成機能である「Performance」と集団維持機能の「Maintenance」の2軸に区分し、その強弱の組み合わせで4パターンに分類しています。強く出ているのをPとM、弱いのをpとmとし、PM型、Pm型、pM型、pm型に象徴化させています。そして調査の結果、「PM型」を最も好ましいリーダーシップスタイルとしました。
立てた目標の達成にこだわり、かつその達成に向けて集団のまとまり、チームワークにも留意してマネジメントしていく、というリーダーシップです。両方とも弱いpm型はリーダーシップとはいえませんが…
<A課長>
ありがとうございます。
<Sさん>
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という、日本人ならそのキャラクターについて概ね共有できている3人を例に、このPM理論を説明することが多いですね。一般的には、信長は「Pm型」、秀吉は「pM型」、そして家康は「PM型」といわれています。
<A課長>
そうなのですね。260年間継続した「幕藩体制」を築いた家康は、マネジメント、リーダーシップの鑑といえるかもしれません。NHKの大河ドラマ「青天を衝け」でも、北大路欣也が演じる家康を理想像として描いていますからね。
ただ… 私はこのPM理論は参考にとどめることにしています。
<Sさん>
ううん? PM型は理想ではないと…?
<A課長>
いえ、理想です。理想そのものです。だからこそ、少し距離を置きたいと思っているのです。アドラーは理想の前に自己をつけて「自己理想」という概念を提示しています。
理想とはそもそも現時点で自分が獲得していないものです。これに向かって努力していく、ということは誰しもが思い描くことですし、これによって素晴らしい人格の陶冶につながっていくことはあります。ただし、この「獲得していないもの」を切望するのが強すぎる、それに「こだわりすぎること」で、それが獲得できていない自分に対して「自信が持てない」、「劣等感を抱いてしまう」ということをアドラーは言っているのですね。
<Sさん>
う~ん、アドラーですか…
<A課長>
PM理論が提唱するリーダーシップはスーパーマンです。オールマイティの人物像ですよね。ポジティブシンキングもメタ認知で捉えた方がいいように感じます。
日本エグゼクティブコーチ協会会長でコーチビジネス研究所の五十嵐代表の「背伸びをしてポジティブシンキングになる必要はない」というコラム(2019年3月21日)を読んだのですが、なるほどなぁ~と、腑に落ちました。
<Sさん>
Aさんの解説に私も「なるほどなぁ~」と合点しました(笑)
それからPM理論は、リーダーシップの機能をシンプル化しすぎているようにも感じますね。信長、秀吉、家康を、目標達成機能と集団維持機能の2つの軸だけでとらえることができるだろうか、と感じています。
「理論はシンブルであればあるほどエレガント!」との捉え方もあるようですが…
<A課長>
実は膨大な行動項目を挙げて情報収集しています。それを帰納的に分析していくうちに、2つの軸が浮かび上がってきた、というプロセスですね。経営分野で日本発の理論は限られていますが、当時世界に認められた研究成果です。したがって、エレガントな理論といえるかもしれませんね。
ただ、出来上がった理論に実際の人物を当てはめてみると…
秀吉は、信長に見いだされ出世していく過程は、絵にかいたような「pM型」です。ですが、天下を取って以降はどうなのか…?
信長は独裁者の典型とみられがちですが、秀吉を見出したように、身分というフィルターに囚われておらず、そして組織の凝集性を高める能力はすごいものがありました。
また、秀吉の振る舞いを嘆くねねへの手紙は…温かみに満ちています。ですから本能寺の変」という結果によって、皆が思い描きたいイメージが定着したようにも感じます。
あと家康は、天下を取るまでさまざまな経験を重ねています。老境になっての天下取りなので、まさに「鳴くまで待とうホトトギス」でした。だからこそ、その性格はきわめて複雑です。忍従の経験が家康をつくったといえますし、かなり強い根っこの「Pm型」である自分を、家康自身がメタ認知で相対化させ、意志の力でもって「PM型」というテクニカルとしてのリーダーシップ使えるようになったのではないか… と私は感じるんですね。
確かに両方を合体させれば、「PM型」となります。時と場合によって「使い分ける」リーダーシップだったのではないでしょうか。
<Sさん>
いや~ 勉強になります。Aさんの“決めつけない話しぶり”は新鮮です。
<A課長>
ありがとうございます。妻からは「はっきり言ってよ!」と叱られることが多いのですが… 断定するのが怖いのかもしれません(笑)
1on1の進め方については、実は勉強しています。ところがSさんと話していると、そんなことは忘れてしまいます。チクセントミハイのフロー体験を実感します。「集中しすぎて浸食も忘れてしまう…」といった精神状態のことですが、言葉のマジシャンであるSさんによって、その感覚に浸ってしまいました。
<Sさん>
Aさんこそ1on1の申し子ですよ… あっ、これはホメではないですから(笑)
次回もリーダーシップ論での1on1を続けてみたいですね。
よろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

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メタ認知で「成人発達理論」の自己変容・相互発達を考えてみる!(2021/11/22)

前回のコラムは5歳児の孫娘とのかかわりを通じて、発達理論とコーチングを語ってみました。今回は、ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン教授が提唱した「成人発達理論」を取り上げることにします。

発達理論というと、子どもや大人になる前の青年期に焦点を当てた理論が多くを占めています。「成人発達理論」が注目されたのは、発達としての成長が見えにくい(止まってしまう?)“大人も成長する”という理論を提示したことにあります。

ただし、すべての大人が等しく成長していく…という捉え方ではなく、ある人は低いままにとどまり、最終段階に至るのはごく少数に限られる、と解説します。

ではなぜ、とどまるのか? 逆に成長し続ける人は何が違うのか? … 紐解いてみましょう。まずは理論の概要です。

キーガン教授は発達モデルを5つの段階で説明しています。

<発達段階1は「具体的思考段階」>

この段階は、言葉を獲得したばかりの子どもの段階と説明されているので、成人一般には適用されていません。前回コラムで描いた5歳の孫娘の状況をイメージしていただければよいでしょう。大人の発達は次の段階から始まります。

<発達段階2は「道具主義的段階」または「利己的段階」>

「他者に対する共感性が乏しいので他人を道具のようにみなす」、と捉え「道具主義的」という言葉を用います。「自己チュー」ですね。キーガン教授によると、人口の1割が当てはまる、としています。

<発達段階3は「他者依存段階」>

名称から、どのようなタイプなのか類推できると思います。平たく言うと「流されやすい人」です。自分で意思決定するのが苦手で、組織などで形成され、すでにつくられている基準によって自分の行動が決定づけられます。ある意味で「従順」ですから、マネージャーにとって、「ありがたいタイプ」と受けとめる場合も多いかもしれません。「権威」とされるものに弱い、それに対して疑いをあまり持たない、と解釈することも可能です。実はこの段階が圧倒的なボリュームゾーンです。

<発達段階4は「自己主導段階」>

3の段階との違いは、自身で価値観を形成しており、自らの基準で意思決定していくことです。自己成長への思いが強く、他律ではなく自律的に行動します。自分の意見にこだわりを持ち、そのことを主張します。自分が何を考えているのか、それを言語化することが得意なタイプです。「自己著述段階」という言い方もします。

<最後の発達段階5は、「自己変容・相互発達段階」>

発達段階の4は、自分の価値観がどうしても前面に出てしまいますが、この段階は、価値観を持ちながらも、それに縛られておらず、また他者がさまざまな価値観を有していることを十分理解しており、そのことを受容できます。

「自己変容」そして「相互発達」というワードの通りで、自ら変わっていくことができ、さらに他者が成長することを喜び、だからこそ自分も成長できることの実感を得て、思いを共有することができる状態です。

私はこれまでのコラムでアドラー、そして渋沢栄一について語っています。この最後の段階である「自己変容・相互発達段階」は、まさに両者の姿を彷彿とさせます。「共同体感覚」「公共心」という概念が、言葉を超えて血肉化されているタイプですね。

さて、11月8日の「成功の循環モデル」のコラムで、若手課長Aさんと、定年再雇用でAさんのチームに配属された部長経験者のSさん(会社の制度で現在は平社員)による、仮想1on1ミーティングを描いてみました。

今回、再度両人に登場いただき、「成人発達理論」をテーマとした続編の1on1ミーティングをやってもらうことにします。

A課長とSさんによる第2回目の1on1が始まります。

<A課長>

前回の1on1では、「成功の循環モデル」をテーマにSさんとミーティングを進めましたが、Sさんの長年の経験知からくるリアルなマネジメントに接することができて、触発されています。今回も刺激的な会話ができそうで、わくわくしています。

<Sさん>

Aさんのフィードバックはさすがですね。言葉そのものはホメではないのですが、私を承認してくれている感覚が伝わって来て…調子に乗りそうですよ。営業を経験すると、数字という明快な評価が現れることもあり、予算を大幅に超過した場合は部署全体で大盛り上がりです。全員がマウンティング状態です(笑)

<A課長>

マウンティングですか…(笑)

Sさんは、多くの営業マンをその気にさせる「言葉のマジシャン」である、と聞いたことがあります。ツボにはまる言葉の引出しが多く、部下をいつの間にかその気にさせている、とその人は言っていました。

<Sさん>

Aさん、コーチングは基本的にホメないと聞いています。ホメては駄目ですよ。 マウンティングは否定すべきものですよ(笑)

<A課長>

いえいえ、ホメではありません。Sさんはマウンティングということばをメタ認知でお話しされています。つまり相対化されています。マウンティングする人は、自分でマウンティングしていると気づかない人ですから…

<Sさん>

いや~ まいりました。Aさんに真顔で言われてしまうと…(苦笑)

<A課長>

あっ、申し訳ありません。私は交流分析のエゴグラムによると、厳しい親の要素であるCPは低いのですが、大人のAが強く出ているんですね。分析癖がある…と評価されました。

<Sさん>

面白いですね~ 要は個性ですよ。私はエゴグラムはやっていませんが、おそらくフリーチャイルドのFCだと思います。同じ子供でも従順ではありませんから、アダプティッドのACではないですね(笑)

<A課長>

Sさんには救われます。会話が途切れることなく自然に流れていく感じです。コーチングの学習を特にしていなくてもコーチングマインドを身に着けている人のことを、ネイティブコーチと呼称しますが、今その言葉を思い出しました。

コーチングのアイスブレイクが終わり、いよいよ本題です。

<Sさん>

もうこのくらいにしましょう…(笑)

今回のテーマですが、「成人発達理論」はいかがですか? 前回「成功の循環モデル」を知ったことで、心理学に興味を持ちました。組織論やモチベーションに関する心理学の知見はないか…と探していると「成人発達理論」をネットで見つけました。定年を迎えた私にとって朗報たる理論なので、心理学を勉強されたAさんに、私が感じたことをぶつけてみたくなりました。

<A課長>

了解です。キーガン教授の本は『なぜ人と組織は変われないのか(英知出版 2013年)』を読んでいます。「成人発達理論」は確か2001年に発表した考えで、この著作はコンサルタントもしているキーガン教授の最近の本なので、進化させている印象ですね。

この本で、キーガン教授は、「免疫マップ」というテンプレートのようなシートをベースに論旨を展開しています。まず「改善目標」、それを「阻害する行動」、さらに「裏の目標」、最後にそれを補強しているというか、価値観であるところの「強力な固定観念」という項目で、クライエントの会社や経営者、マネージャーなどを把握していきます。コンサルタントとして、クライエントに対してズバズバ切り込んでいくのだと想像します。

「裏の目標」は、本音と建前の“本音”ですね。日本では「空気を読む」ことを当然のスキルのようにいわれることもあって、“本音”を引き出すのは、米国以上に高度な能力が求められるようにも感じます(笑)

<Sさん>

興味深い視点ですね。私は多くの部下と接してきて、「こいつ建前で話しているなぁ~」と、なんとなく気づくことがあるんですね。言語化は難しいのですが、あえて言えば“違和感”です。これを意識すると、そこから本音を引き出すプロセスに入ります。うまくいくこともあるのですが… まあ、最後まで口を割らない部下もいますね(笑)

米国文化は「裏の目標」、日本文化は「忖度」…!?

<A課長>

忖度能力ですね。高度な日本文化と言えるかもしれません。

自分がどちらかというと営業系ではないので、豪放磊落といいますか、オープンマインドな人を見るとうらやましさを感じるところもあります。ただそのような人のなかには、相手の性格がどうあれ「自分はすぐ打ち解けることができる」、という自信があるので、案外相手が見えていないんじゃないかなぁ~ と感じることもあります。このタイプの人はかえって騙されやすいような気がします。

京都の人を一般化するつもりはありませんが、「洗練された建前」を駆使できる人に対して結構無防備です。心の中で「いけずな方やなぁ~」という思いを隠しながら素敵な笑顔ではんなりと話されてしまうと…

<Sさん>

気を付けないと…(笑い)

<A課長>

私はメタ認知こそが自分のテーマであるとずっと考えてきました。キーガン教授の『なぜ人と組織は変われないのか』で、次のような箇所があります。

……「知る」という行為は、その人が何を見るか(その人が客観視できる「客体」であるもの)と、何を通じて見るか(その人の認識を支配する「主体」であるもの。「フィルターやレンズ」と言ってもいい)の関係で説明できる。幼い子どもは、自分の認識プロセスを客観視できない。そのため、高い建物の屋上から下を見下ろしても自動車や人間を見たときのように、自分にとって小さく見えるものは、実際に小さいと考える。三歳や四歳、五歳くらいまでの子どもは、ビルの下を見てこう言う───「見て! あの人たち、すっごくちっちゃいね!」。けれども、八歳、九歳、十歳くらいになると、自分の認識という行為そのものを客観視できるようになる。「見て! あの人たち、すっごくちっちゃく見えるね!」と言うようになるのだ。

メタ認知がどういうものか、わかりやすく説明してくれています。

大人になると固定観念のレンズの度数がどんどん増していく…

<Sさん>

成人発達理論の成長のためには何が必要か…特に5段階目を理解するためのアナロジーですね。大人の場合、価値観がどんどん強固になり、変わろうと思ってもなかなか変わることができない。価値観、つまり「裏の目標」が「強力な固定観念」となってしまっており、「行動を阻害」するという訳だ。なるほど…

キーガン教授によると、5段階目の人はほとんどいない、ということになっていますから、極めて難易度の高い境地ですね。

<A課長>

本当にそう思います。

その境地に至らしめるためのさまざまな「教本」が出版されていますが、私は「教示」されて、それを体得できるとは思えないのですね。

その「裏の目標」の存在をしっかりと認識できる…つまり「真の気づき」ですが、深いところの洞察に至らないと、とても近づくことはできないと感じています。

強制されるのではない…まさにコーチングの哲学です。

<Sさん>

私は成長の過程を段階で説明していることに実は違和感を覚えています。最初に私の考えをA課長にぶつけてみたい… といいましたが、段階というと、一気に上位にアップする、という印象です。さらに前段階を捨て去って別の人間に生まれ変わる、みたいな… 昆虫じゃあるまいし脱皮できるとも思いません。

もっとも、先日亡くなった瀬戸内寂聴さんが「人間は時々脱皮する必要があります…」と、どこかで言っていたように記憶しています。寂聴さんは宗教家であり文学者なので納得の言葉ですけれど…

「段階」ではなく「包摂」…!?

<A課長>

なるほど… 推測ですが原語である英語と翻訳された日本語のニュアンスの違いもあるように感じます。私は、脱皮ではなく、下位の段階は上位の段階に含まれて大きな段階に拡大していく、と捉えています。段階だとわかりにくいので、円で考えましょうか。

子どものときの小さな円がだんだん大きくなっていく。小さな円とそれを包摂する大きな円の境界も、はっきりとした線ではなくグラデーションといったところでしょうか。つまり器がどんどん大きくなるイメージです。

それから、昆虫などが脱皮するのは、身体を守る骨が外側…つまり外骨格だからですね。脱皮は命がけのパワーを要するので失敗もあるようです。そうすると死んでしまいます。

他方、内骨格の人間は外皮が柔らかいので、脱皮不要です。成長も劇的ではありませんよね。

<Sさん>

わかりやすいなぁ~ 合点です。

そしてメタ認知ですね。見る対象のレンズを変えていく。固定観念を溶解させていくためには、今までのレンズのままだと、全然見えてこない。

<A課長>

Sさんの提案で、「成人発達理論」の深掘りができました。コーチングの哲学と相通じるものを感じています。

<Sさん>

哲学…いいですねぇ~ 私は、その“哲学”という響きが大好きなんですよ。次回は、コーチングの哲学について、深掘りしたいですね~

<A課長>

望むところです(笑)

ぜひともよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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5歳の孫娘と“ともだち”の私が「自己肯定感と自己効力感」について考えてみる!(2021/11/16)

最初に「自己肯定感」と「自己効力感」の定義をおさえておきましょう。
「自己効力感」は心理学の分野で「self-efficacy」として定義されています。対して「自己肯定感」は、一般的な用語として使われている印象です。ただ今日では英語の「self-esteem」を意味する「自尊心」を「自己肯定感」として捉える向きもあります。

ただ「自己肯定感➡自尊心」とすると概念が狭まってしまうので、肯定を「同意すること、認めること」と定義する広辞苑のニュアンスを受けとめ、「自己肯定感➡自己を承認する意識」として、コラムを進めてみようと思います。

<自己肯定感>

自己肯定感は、「自分という存在を、優劣や高低という評価を含まない、ありのままの自分として受けとめること。つまり自然体の自分である自己を承認すること」です。

<自己効力感>

self・efficacy(自己効力感)は、「自分が、ある具体的な状況において、適切な行動を成功裡に遂行できるという予測および確信。バンデュラ[A.Bandura]が提唱した概念である。彼は、自己効力感を高められるか否かで心理療法の効果のほどが決まるとした。そして自己効力感を高める要因として成功体験、他者の成功体験の観察、生理的要因などを挙げている…(『カウンセリング辞典/誠信書房』)」、のことです。

妻は私のことを「子どもと同じレベル…」と捉えています。

以前のコラムで、私の振る舞いに関してその多くに厳しい視線を向けている妻が、「あなたがすごいなぁ、と思うのは、子どもと同じレベルで遊べることね…」と評していることを書きました。(2020年10月16日)。

その表れる態度は私が意識しているから…という訳ではなく、交流分析のエゴグラムの結果、「自由奔放な子どもとしての要素」であるFC(Free Child)が強く出ているので、「自分の素」がそういう性格なのだろうなぁ、と自己肯定しています。

私には現在5歳になる孫娘がいます。発語がままならない時より、私のことを「おじいちゃん」と当たり前のように呼称するママ(私の長女)でしたが、孫娘はいつの頃からか私を「たっちゃん」と呼ぶようになり、加えて「ともだちだから」と真顔で言うようになりました。

私とその孫娘とは今現在、その“ともだち関係”が強固となり、極めて安定しています。つまり、私への接し方は、「おばあちゃん」と呼ぶ妻、また「ママ」である長女とは明らかに異なる態度なのですね。妻と長女が笑いながら、「まさに対等関係ね」と指摘します。

妻は、孫娘に対して基本的に“しつけ”を意識しながら対応しています。
長女はコロナ禍以降、zoomを使ってのリモートワークが中心となり、東京の自宅(や私の住まいである緑豊かな埼玉…新型コロナからの疎開)で過ごすことが多くなっています。保育所の休園も続き、仕事をしながら娘の面倒を見なければならないというストレスフルな環境です。

管理職の長女が在宅勤務の子育てで注力した行為とは…

この環境の下、長女は娘(孫)とどう接していたのか? というと…… 手が空いたときは、とにかくギュッギュッしているのですね。もうベタベタに抱っこしまくっています。
孫娘も、「ママは〇〇ちゃん(自分)が大好きすぎるんだから~」と、ギュッギュッに身をゆだね、嬉しそうに長女に告げます(私から見ると、自己効力感たっぷりの優越感を漂わせている風情です…笑)。

少しを補足すると、子どもの自我が著しく成長する2~3歳(意識・思考の発達に比べて言語能力が追いつかないので、自分の気持ちを上手く表現できず癇癪を頻繁に起こす)の時期を迎えた時、長女はホトホトまいってしまい(孫娘の個性もあって私が見てもハードな状況でした)、育児への自信が揺らぎます(多くの夫婦が経験することです)。

そのころ私は長女に…「シンドイよなぁ~ 言葉を尽くしてどんなに伝えても、2~3歳では受けとめることが難しいから… だから、とにかくギュッギュッだけすればいいよ。とにかくギュッギュッだ」と、繰り返し話したのですね。

“魔の3歳”を無事クリアすることができた孫娘は、見違えるような安定期を迎えています。そして、私、妻、ママ(長女)、そしてパパに対してのそれぞれの接し方を観察すると、まさに変幻自在です(笑)。
エリック・バーンが提唱した交流分析の人間観は「人は年齢、性別に関わらず、5つの自我要素を出したり引っ込めたりして他者に対応している」、となります。
5つの強さに偏りはあるものの、モザイクであることが前提なのですね。

交流分析における5つの自我要素とは…

  1. 厳しい親としての要素であるCP(Critical Parent)
  2. 優しい親としての要素NP(Nurturing Parent)
  3. 大人としての要素A(Adult)
  4. 自由奔放な子どもとしての要素FC(Free Child)
  5. 従順な子どもとしての要素AC(Adapted Child)

孫娘は5歳ですが、交流分析の視点を援用すると、徐々に社会的な存在としての成長をたどっているようです(笑)

子どもの自己肯定感、そして自己効力感を高めるための方法を伝授する書籍が多く出版されています。そこには、「ほめ方」「叱り方」、「上手だね~」、そして「やればできる」、「強いメンタルの育て方」といったワードが登場します。つまり「教本」です。教育のシンプルな捉え方は、「先生が生徒に教示する…ティーチング」です。

一方、コーチングのスタンスはティーチングとは異なります。
コーチは自分とともにクライエントを肯定した上で、クライエントに接します。その関係は“対等”なのですね。

コーチングとティーチング(教育)は何が異なるのか…

コーチングは、クライエントをジャッジメントしません。つまり「ほめないし」「叱らない」のですね。そして「上手だね~」というのは評価ですから、コーチングにおいて、その表現は基本的に用いません。

世の中全般に、「親が子どもに接する態度➡教育」として受けとめられていることを私は否定しません。実際に妻の孫娘への「しつけ」は教育です。
食事の際、孫娘がごはんの椀を左手で添えないでいると、「〇〇ちゃん…左手はどうしたの?」と、言葉にします。孫娘はあわてて、左手で茶碗をもつのですね。
ただ、すべてが教育となると…

「性役割分業」の意識が現在も拭いきれない日本文化ですが、長女が孫娘と同じ年ごろであった時期を思い返しています。
長女は私が26歳の時に生まれています。私は若くして父親になりました。時に感情的になって叱った私の態度を見た妻が、「叱るのは私がやるから男親のあなたが感情的になるのはみっともないわよ!」と、結構厳しく指摘します。これは「性役割分業」とはちょっと違うと受けとめています(笑)

さて現在の私が孫娘と接するシーンは、ほとんどが遊びです。
例えば、レゴブロックで3階建ての家を共同でつくるケースでは…

「たっちゃんはさぁ~、この壁は白にしたいんだけど、〇〇ちゃんはどう思う?」
「私は透明のブルーがいいと思うよ。アナと雪の女王のイメージでつくりたいから…」
「じゃあ2階はたっちゃんのイメージでつくっていい? かわりばんこってどうかなぁ?」
「いいよ」

こんなカンジで会話が進みます。
誤解しないでほしいのですが、このとき私は「真面(マジ)に孫娘と一緒に素敵な家をつくりたい」というシンプルな感情に浸りきっています。
そして振り返ってみると、特にほめ言葉は使っておらず、考えや思いを伝えあって(ときに喧嘩しながら…笑)、共同作業に勤しみます。
お互いの承認を積み重ねながら会話が進行していくのですね。

肯定を「承認…認めること」という言葉で説明しましたが、「承認」と「ほめ」は意味が異なります。
五十嵐代表が ~「ほめる」と「認める」は別のもの~ であることをコラムで紹介していますのでご覧ください。
https://coaching-labo.co.jp/archives/2264

ニンジンやピーマンを食べない子どもに対しては…

バンデュラは、行動を起こすモチベーションにおいて、自己効力感の高さが大切であるとしています。まさにその通りであり、「ではどのように働きかけていけば自己効力感が高まるのか」について、その方法を提示しています。そのカギとして「成功体験」を重視しているのですが、それは「自分の成功体験」だけでなく「他者の成功体験の観察」も含まれています。
子どもの場合それが顕著に表れます。まず「他者の観察」に着目です。

たとえば、ニンジンやピーマンが嫌いで食べようとしない子どもに対し、
「食べないと大きくなれないよ」
「〇〇ちゃんもおねえちゃんになったから食べようね~」
と、言葉を尽くしても子どもは食べようとしません。

ところが、親が子どもに何も告げることなく、「このニンジンおいしいなぁ、ママ(パパ)は大好きなんだよね、本当においしいなぁ~」と満面の笑顔でおいしそうに食べるのを繰り返すうちに…子どもはいつの間にか食べるようになる、という場合が多いのですね。
この方法はモデリングといわれる手法です。

子どもは「食べることができた!」という「自分の成功体験」によって「自己効力感」も高まります。

価値観が形成され変わることが困難になっていく大人と比べ、子どもの場合は、価値観(理屈)が形成されるのは後のことで、「観察する」という行動が成長の過程で自然に組み込まれています。とにかく「まねをしたがる」のです。
このあたりのことは大人になってしまうと忘れてしまい、子どもに対して、ついつい理屈を語ってしまうのですね。

子どもと大人を分類しないで考えてみる…いかがでしょうか?

今回のコラムは、5歳の孫娘を通じてのコーチングを考えてみました。多くの大人が子どもの頃の感性を忘却するのに対し、私の場合はまだ子どもっぽいところが残っているようです。
今回のコラムは、「子どもっぽい」ことを自己肯定している私の姿が浮き彫りになっていると感じられるかもしれません。ところが私の内心は少し複雑(コンプレックス)です。

「子どもと対等に付き合える…」という言葉を、プラス評価であると真に受けてはならない。「大人にもなってもいつまでも子どもっぽくて困ったものだ…」という、世の中がつくり上げた「大人の価値観」こそがスタンダードであり、素直に自己肯定してはいけない…と、自己効力感に疑問を感じる私が存在しているのですね(笑)

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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「成功の循環モデル」の本質は“急がば回れ!(2021/11/08)

「成功の循環モデル」とはマサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した、組織を活性化させるためのシステム的なアプローチです。

「どうすれば組織は活性化するのか?」という命題は、組織論にとどまらず、モチベーション理論、リーダーシップ理論、そして戦略論など経営全体に関わる中心テーマです。
「成功の循環モデル」はその一つですが、コーチングとの親和性を強く感じることができる理論であり、今回のコラムで紐解いてみようと思います。

「成功の循環モデル」はシステム論を踏まえて展開していきます。
システム論は、「全体のシステムは個々のサブシステムが相互に作用しあいながら一つのまとまった存在として機能する」と説明されます。
システムというと「情報システム」をすぐ連想するように、IT系をイメージしますが、心理学、社会学をはじめ、さまざまな分野で援用される概念です。

「家族心理学」はシステム論がベースとなっている…

例えば「家族心理学」では、ある子供の問題行動の原因を「母親の育て方」とか、「父親と母親の不仲」のせい、というように特定化しないのが通常です。
つまり、子供の問題行動は家族システム全体の機能不全が象徴的なかたちで表れている、と捉えます。原因を部分として捉えるのではなく、さまざまな要因が相互に関係しあっているという前提に立ち、複眼的にアプローチしていくのですね。

「家族とは閉じた世界である」と、捉えてしまいがちですが(特に父母の視点では)、子供を巡る人間関係は、家族空間だけで成り立っているわけではなく(無人島に家族だけで暮らしているであれば別ですが)、本来オープンな世界です。祖父母、親せきを含めた拡大家族、そして学校…さらに今日ではデジタルネイティブこそが主流であり、文字通り世界につながっています。

さらに、システム論のなかでキーとなるフィードバックの視点も織り込みます。「結果に含まれる情報が原因に反映されて循環していく」という傾向です。
例示すると、良かれと思って働きかけたアクション(例えば、過干渉)が、問題現象の原因となり、ループのごとく繰り返されてしまうという状況です。

「成功の循環モデル」…2つの循環(サイクル)とは…?

<バッドサイクル>

活性化していない組織 ➡ 成果を上げようと「結果の質」からサイクルがスタート

(結果が芳しくない状況にあると…)
1.結果の質…結果としての数字ばかりに意識が集まる。(売上・利益至上主義?)
2.関係性の質…上司は話し合いを回避し指示命令に頼る。人間関係がギスギスしてくる。
3.思考の質…仕事をしても面白くない。心理的安全性が脅かされ不安感が膨らんでいく。
4.行動の質…失敗してとがめられるのを回避すべく受身的態度、面従腹背、協働の減退。
1.結果の質…結局のところ“結果”につながらない悪循環のループになっていく。

<グッドサイクル>

活性化している組織「関係性の質」を重視する組織は最終的に「結果の質」が向上していく

(結果が芳しくない状況だからこそ…)
1.関係性の質…上司は指示命令に頼ることなく部下との1on1ミーティングに注力する。上司の態度に感化され、メンバー間でも信頼感が徐々に形成されていく。
2.思考の質…心理的安全性が醸成され不安感が薄まる。狭まっていた思考の幅が広がり、メンバー個々のなかに“気づき”が生まれるようになる。
3.行動の質…メンバーの受身的態度が能動的態度に変わっていくことで、ダイナミズ溢れる組織に変容していく。閉じていた組織から組織間連携も活発になっていく。
4.結果の質…結局のところ“結果”に結びつく好循環のループとなっていく。

私は大手企業で40年におよぶサラリーマン人生を送っています。“組織の中にどっぷりつかって”仕事をしてきました。多くの部門を担当し、結果が出せなかった部署、好結果につながった部署…今さまざまなシーンを思い返しています。
そのことを踏まえ、私が定年再雇用の立場(部長職を長く経験し現在は平社員のSさん)で若手課長Aさんの部署に配属されたと仮定し、Aさんが「成功の循環モデル」をテーマに1on1ミーティングを実施する、というセッションを考えてみました。

A課長と定年再雇用のSさんが「成功の循環モデル」をテーマに1on1ミーティングを実施しています…

<A課長>
「働きがいのある組織」は、組織の中に信頼感が醸成されている。だからこそ、モチベーションが高まって、仕事に前向きに取り組むことができる… そのように日頃から感じているのですが、Sさんはどのようにお考えですか?
そのような組織では好循環サイクルが形成され、そうでなければ悪循環に陥る… これを組織論としてモデル化したのが、MITのダニエル・キム教授です。
課長以上に実施されている「360度評価」の意義について、先日の研修で、「関係の質」を高めることがいかに重要であるのか… 学んできたところです。

<Sさん>
私は営業畑が長かったので、バッドサイクルとグッドサイクルについては実感できるところです。営業は数字の世界ですから、気づいてみればバッドサイクルに陥っている… ということがあるんですね。私は、長い会社経験… 成功も失敗も数多く経験したことで、一つの境地に達しています。

<A課長>
その境地を是非とも教えてください。

<Sさん>
いや~ ちょっと言葉を盛ってしまいました(笑) “急がば回れ” です。このVUCAの時代にそぐわないかもしれませんが、私の実感です。

<A課長>
なるほど。そういえば『京セラ フィロソフィ』の中で稲盛さんが、… 願ったこと、心に描いたことの結果が1週間や1ヶ月、長くて1年くらいであれば皆がもっと心や考え方を大切にするのでしょうけど… と言っていますね。

<Sさん>
稲盛さんが言うのは、…因果応報は必ず起こる。ただスパンは長い。だいたい30年くらい見ておくと帳尻が合う… という時間のスケールです。これくらいの構えであれば、少々なことには動じなくなると思いますよ(笑)

稲盛さんの根底には仏教思想があると思うのですが、短期的な視点に囚われてしまい、一喜一憂に振り回され疲弊してしまった、という過去を思い出します。つくづく振り返ると、芳しくない状況は、自分が招き寄せてしまっていたのですね。

まあ、50過ぎてからは、自分が気持ちよい状態で仕事ができているかどうか、ということを考えるようになりました。自分が楽しければ、周りはストレスを感じることなく仕事ができると思いますし…

結果が上がらないと、往々にして責任転嫁、犯人捜しが始まります。当然ギスギスします。結果がほしい上司は意見に耳を貸さず、指示命令が中心になります。部下は面白くないし、意見が通らないので、受動的態度となりパフォーマンスが低下します。したがって、欲しいはずの成果はますます下がっていくバッドサイクルに陥るのです。

<A課長>
だからこそ、成果が上がらない現実に遭遇したとき、そのままであれば「関係性の質」が悪化する。その流れを変えるべく「関係性の質」を良化させることに上司は最大の努力を注入する、ということですね。

理論をおさらいします。「関係性の質」が良化すると、お互いを尊重し共に考えることができるようになる…「思考の質」が強化されます。メンバー各々が自分で考え、自発的に行動する流れをつくっていくのです。すると「行動の質」が高まります。結果として成果につながる。「結果の質」が向上し、一回りすることで上司は力むことなく「関係性の質」も良好になる、というグッドサイクルが到来します。

すべては「関係性の質」ということになりますね。いかにコミュニケーションが重要か…マネージャーは、本当の意味としての1on1ミーティングにコミットしていく… このことを「成功の循環モデル」が説明しています。コーチングの大切さを証明してくれるエビデンスとしての理論であると私は受けとめています。

ソニーを3回再生させた平井さんは、まさに「成功の循環モデル」の体現者です!

「成功の循環モデル」は、組織活性化を語る上でいかに実践に裏付けられているのか… 私は『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 日本経済新聞社』である平井さんの行動に、それを見出しています。

35歳の若い平井さんがSCEA(ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ)のトップを任されたときの組織風土は最悪で、「もうこんな会社では働きたくない」と泣き出す社員がいたり、「ここはストレスが大きすぎる」、「みんな言っていることがバラバラなんです」など、平井さんが始めた1on1ミーティングのなかで社員は堰を切ったように訴えるのです。

その1on1ミーティングでの平井さんは、社員に向かって、「将来はこんな風にゲームビジネスを展開したい」といった夢や希望については、ほとんど話すことがなかった、と語っています。「目の前にある混乱し疲弊しきった組織を立て直すこと」が先決であり、だからこそ、社員の話を聴くことに徹したのです。

結果は、「成長循環モデル」のグッドサイクル通りの流れとなり、ソニーは復活するのですね。
“急がば回れ!” です。

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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