「クレドは“わが社は何のために存在しているのか?”」というパーパスを言葉にしたもの…についてコーチング視点で考えてみる!(2022/07/01)

見逃せないのが社内教育だ。「サーバントリーダーシップ」という言葉が経営学にあるが、J&Jはそれを実践している。経営者はトップに君臨するのではなく、「従業員一人一人の模範、コーチ」(デュアト氏)との考え方だ。
(『日本経済新聞6月30日7面 オピニオンDeep Insight』より引用)

今回も前回に引き続き、A課長と妻とのコーチングを描いてみます。多忙な妻の状況に遠慮しつつ、A課長は何かを妻に伝えたいようです。

(A課長)
今日少し話したいんだけど、そっちの仕事の状況はどう?

(A課長の妻)
社長報告用の資料作成の予定。ただ、まだエンジンがかからないから、30分くらいならいいわ。

(A課長)
相変らず忙しそうだね。

(A課長の妻)
まあ、ストレスは半端ないけど、会社は評価も明快だから、モチベーションは維持できる。気が抜けないところもあるけど、役員も信頼してくれているので、最強の悪玉ストレスである人間関係のストレスからは、まあ…フリーといったとこかしら。

サラリーマンにとっての幸不幸は上司との関係性…?

(A課長)
それはなにより!(笑)
ESG評価をはじめ、社会からすばらしいと絶賛されている会社であっても、その会社のサラリーマンがみんな幸せかというと、決してそうではないんだよね。
結局は人間関係というか、特に評価者である上司との関係に行きつくと思う。君はマイクロアグレッションに詳しいけど、パワハラする上司は、自分がパワハラしているとは気づいていない! というのが実態。

(A課長の妻)
C社は世界から人材が集まっているので、その環境の中で、マイクロアグレッションの判別ができるようになっていく。誰かに教わる…というのとも違うわね。環境が先生よ。

「パワハラ対策講習」を管理職研修でやるのは重要だけど、マチズモとかが染みついている上司は、通り一遍の研修では変わることはできないわね。講座修了のアンケートで、「とても理解できた」と書いていながら、職場に戻ると「果たして講習を受けて来たの?」と、部下に見透かされてしまう上司が、日本企業のメジャー占める管理職じゃないかしら。
職位に胡坐をかく上司は特にやっかいね。

パワハラ対策講習にコーチングを組み込むと…

(A課長)
今君は「通り一遍の研修」って言ったけど、そこにコーチングを組み込むと、気づきを得る研修が実現する

パワハラ上司には、「相手に対する自分の言動、態度、行為」そのままを、自分が受けた場合はどうなのか… 感情レベルが体感としてイメージできるまでに至る、といったノウハウもあるからね。
ところでダイバーシティというと、LGBTQがすぐ連想されるけど、君の会社はどんな雰囲気?

(A課長の妻)
そうね…個性的カルチャーの会社だと思う。染まってきた、というわけではないけど、私もだんだん変わってきた。LGBTQという概念が溶けていく、というか…
つまり、身近にさまざまな個性を持った人たちがいることを実感すると、ポリティカル・コレクトネスとは違った尊重というか、それが当たり前になっていくのよ。

LGBTQというワードを浸透させるということは大切よ。とにかくマチズモとかに染まっている人にとっては、バイアスであることから紐解いていかなければならないから。

でも理想は、LGBTQという言葉そのものが消滅することだと思う。とにかくいろいろな人がいて、それぞれの個性というか、得意なところを提供し、補い合うことで、素敵なチーム、組織、共同体が育まれていくのだと思う。

「姿かたちの異なる」男女を「同型」と捉えてみることによって…

(A課長)
語るなぁ~(笑)
日本は辺境の島国で、古事記以来の歴史という「物語、ナラティブ」を国民が共有している。「姿かたち」の同じような人たちが、出入りも少ない環境で暮らしているので、「違い」を実感しにくい、というところがある。

その点、日本以外の多くの国は、「姿かたち」の違う人たちが行きかっているのが普通だ。アメリカのニューヨークに行って、つくづく実感した。
ところで、「分類する」というのは、そもそも学問というか科学としての前提だけど、ヒトについては、「男と女」という分類を自明としているのが問題なのかもね。

まあ「姿かたち」で対象を判別していく、というのはどうも脳に組み込まれているようだけど、「外形の違い」に気をとられてしまうことが根源にあると思う。ここを起点にして、「男は……」「女は……」といった、実体とは違う「物語、ナラティブ」が、次々とつくられていく。バイアスは量産化され、バイアス百貨店ができあがる。

僕がアドラーを好きなのは、アドラーは「男女同型」から思考をスタートさせていること。よく「前提を疑え!」と言われるけど、「〇〇ありき!」だと、視野狭窄に陥る可能性は大だよね。

(A課長の妻)
あなたも語るわね~(笑)
C社に興味があるようだから、ついでに紹介するけど、この口コミサイトを見てくれる? 会社評価の口コミサイトはいろいろあるけど、C社はかなり上位にポジショニングされている。

(A課長)
どれどれ…? ほんとだね。
レーダーチャートの数値でもっとも高いのは… 「20代の成長環境」、次に「風通しのよさ」が続いているね。「社員の相互尊重」「法令順守意識」は同率の3位かぁ… たいしたもんだなぁ~

「人材の長期育成」に難のあるC社は「20代の成長環境」で高評価!

(A課長の妻)
もうすぐ創業50年で規模は大企業に分類されるけど、いまだに中小企業的なガッツがあるわね。永遠のアントレプレナー企業といったらいいのかしら。トップは三代目だけど、社内のすみずみまで設立当初の起業家精神が、薄まることなく浸透している。

(A課長)
なるほどね… 外から見ると、トップの存在はあまり見えてこないけど、濃厚なカルチャーは感じるね。
おっ、レーダーチャートを見ると、一つだけ凹みがあるね。「人材の長期育成」だ。

(A課長の妻)
帰国子女や外国人が多い環境なので、「会社に染まろう」という以前に、「自分が会社でどういうキャリアを積みたいか」、という個人としてのやりたいこと… つまり目的意識がはっきりしているから、そこにアンマッチを感じると、まあ… 辞めていくわね。

(A課長)
なるほどね。社員の定着率を高めることが人事部の最大のテーマ、という会社が多いなかにあって、C社のカルチャーは、ちょっと特殊だなぁ~

(A課長の妻)
C社の人事部も定着率を高めようとしているのは一緒よ。ただ、考えてみると、人それぞれ個性、価値観は違うし、相性というのも大切。しばらく頑張ってみて、「この会社の環境では、自分の成長が見込めない」と感じれば、別を探す、というのはアリよ。

現にレーダーチャートのトップは「20代の成長環境」だから、あなたがいつも口にするVUCAの時代にあって、これからの時代を担うZ世代はC社のカルチャーを高く評価している。縁も大切だけど、ひとつの縁にしがみつくのではなく、「望めば縁はやって来る!」と、捉えることも必要ね。

(A課長)
ポジティブだなぁ~ 実に強い女性だ!

(A課長の妻)
マイクロアグレッションは意図的に使うものじゃないわよ。底が割れてるわ。
ところで何? 話したいことって…

日経新聞が取り上げる「サーバントリーダーシップ」とは…?

(A課長)
うん、日経電子版を見てくれる? C社のことが話題になったのでちょうど良かったと思う。

6月30日の7面Opinion…『中山淳史コメンテーターのDeep Insight』なんだけど、タイトルは「J&JのESG歴79年」。

J&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は、創業136年という超老舗企業であり、2021年まで60年連続して増配を重ねている。時価総額も旧フェイスブックの米メタを超えて、世界8位に順位を上げている。中山コメンテーターが、CEOのホアキン・デュアト氏にインタビューし、それを踏まえたOpinionだ。

僕が印象に残ったのは、この箇所…

経営上の判断を支えているのは、1943年に3代目社長(創業者の息子)がA4紙1枚にまとめた「アワクレド(我が信条)」というパーパス(存在意義)だ。同文書はESGの始まりや、米大手企業による脱株主市場主義宣言(18年)にも影響を与え、日本でも研究する企業は多い。
そんな同社のCEOが語ったのは主に3つ

▶「クレドは79年前から我々のESGであり不変の価値だ」
▶「CEOはサーバント。組織をレジリエント(強じん)にし、利害関係者の利益を守る奉仕者だ。(1944年の)株式上場以来、8人目の私までみな同じ役割を持ち、つないできた。カリスマである必要はない」
▶「経済にはサイクルがあり、悪い時もある。だが、長い目で見れば、世界は良い方向に向かっている。技術革新があるからであり、J&Jも25年先を見据え研究開発に最高水準の投資をしている」

この後で、中山コメンテーターもサーバントリーダーシップに触れている。この理論というか哲学は、ロバート・K・グリーンリーフがかなり前に提唱しているんだけど、現代によみがえったというか、ESGの本質を見事に描き切っていた、ということ。実践との親和性も抜群なんだよね。
(『サーバントリーダーシップ 25周年記念版/2008年12月・英治出版』)

「サーバントリーダーシップ」にはコーチングの理念が凝縮されている!

グリーンリーフは、コーチングをイメージして本を書いてないのかもしれないけど、出来上がったものは、コーチングの理念がギュッと濃縮されている。
地下水脈でつながっている感じだ。

実は、この理論・哲学については、これまでSさんとの1on1ミーティングで5回くらい、とことん語り合っている。
https://coaching-labo.co.jp/archives/5150

Sさんは、サーバントという語感からくるイメージに抵抗があって、最初はピンときていなかった。「召使いのリーダー… ですか?」とZoomの表情は否定的だった(笑)

ただ、世界で4000万部売れた大ベストセラー『7つの習慣』の著者であるコビー博士や、リーダーシップ理論で最も実践にフィットすると世界で認められた「SL理論」のブランチャードが、最大級のリスペクトをグリークリーフに送っていることを話すと、興味が出て来たみたいで、「私は権威の薦めに弱いんで…」と笑いながら、本も手に取ってくれている。
今ではSさんもサーバントリーダーに、共感している。

クレドであるパーパスは企業の根幹!

(A課長の妻)
日経にサーバントリーダーが登場したことが、よほど嬉しかったようね。私は読んでないから、あなたのように共感は出来ないけど、空気感はわかるわ。
いずれにしてもクレドであるパーパスが企業の根幹ということ。

(A課長)
クレドはラテン語の“信条”から来ているけど、「わが社は何のために存在しているのか?」というパーパスを言葉にしたものだ。それが、単になる文字ではなく、企業の隅々に浸透し、血肉化すると、その企業はレジリエンスを発揮する。強靭なパワーでもって、荒波を乗り越えていくことができる。

日本の大企業って、本音と建前の乖離が見えてしまう企業が多いと思うけど、C社の企業文化は、クレドと会社の実際に向かっている方向にズレがないというか、コーチング的自己基盤が会社として確立しているような気がする。

人も会社も有機体…エンパワーメントによって自律する自己基盤がつくられていく!

会社は法律的には法人という“人”の文字が付されている。経営者は脳であり、心臓や肺といった臓器は組織と喩えることも出来る。従業員一人ひとりはその細胞だよね。

コーチングの母であるロジャーズは、有機体ということばを多用している。有機体である人は、本音と建前がズレていくと、心の安定から遠ざかっていくことを指摘した。
組織、そして会社もまた有機体だ。

君の会社のトップは、目立っていないけど、健全な有機体のごとくC社は自律して行動しているね。エンパワーメントによって組織構成員が気概を持って仕事に取り組んでいるんだろうね。ひょっとしてC社のトップは『サーバントリーダーシップ』を読んでいるのかもしれない…

(A課長の妻)
有機体のあなたは今心の安定を獲得できているようだから、私との20分のコーチングセッションは意義があったということね。C社に関して共感してくれたようだから、それもよかった。

(A課長)
こちらこそサンキュー。日常の何気ないよもやま話もいいと思うけど、コーチングを意識して会話すると、また違った景色が見えてくる感じだ。夫婦ではコーチングがなかなか機能しないと言われることもあるけど、まあボチボチやっていきましょう…

坂本 樹志 (日向 薫)

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「コーチングのフィードバックとは何か?」を、妻とのコーチングセッションで考えてみた!(2022/06/27)

今回のコラムは、前回6月20日の「(株)コーチビジネス研究所 ニュース」に掲載したコラムhttps://coaching-labo.co.jp/archives/5282の続編です。
当該コラムだけでも主旨を把握できるように構成していますが、前回のコラムも併せてご覧いただくと幸いです。

<承前>

(A課長の妻)
あなたどうしたの? 元気ないじゃない。

(A課長)
いや、そんなことないよ…

(A課長の妻)
あなたって隠そうと思っても素直に態度に出るから、わかりやすいのよ(笑)

(A課長)
……

(A課長の妻)
言ってみなさいよ、ちゃんとフィードバックしてあげるから。それとも私に話せないようなことがあるの?

(A課長)
何言ってるの…(苦笑)
これまでSさんとの1on1ミーティングのことを、時おり君に話したと思うけど…

(A課長の妻)
ええ…中国駐在も経験した元部長のSさんね。お互いなんでも話せる関係性ができたって、あなた、喜んでたじゃない。

Sさんはファーウェイのスマホを使っていたので…

(A課長)
そう、それはOK… だからSさんが、日経でジョブズが取り上げられていたことを話題にしたので、スイッチが入ってしまい、そこからAppleのことをベラベラ話してしまった、という訳。
中国通のSさんはファーウェイのスマホを最近まで使っていたから、iPhoneやAppleのことは特に話題にしなかったのだけど、Sさんがジョブズのことを口にしたから…

(A課長の妻)
それが落ち込む理由?

(A課長)
落ち込むというか… いや、確かに落ち込んでいる。
自己開示を超えて自己呈示してしまったというか… 君も知っているように僕はジョブズマニアだから、ジョブズのヒストリーをガレージ創業から話はじめて、ピクサー買収の話をしたんだ。すると映画好きのSさんも反応してくれて、『トイストーリー』や『アバター』を観たときの感想を語ったんだよ。

自己開示はself-disclosure、自己呈示はself-presentation!

(A課長の妻)
いいじゃない、お互いに盛り上がったようだから。

(A課長)
うん、そこまではよかった。その後なんだよね。映画の『アバター』からの連想で、ヘッドマウントディスプレイメタバースがどう展開していくか… 君が話してくれるNFTについての解説までしている。

君は金融のプロで、業界的にも評価されている立場だけど、君からの聞きかじりを、ちょっと得意になって、仮想通貨と暗号資産、そしてウェブ3.0についてSさんに説明している。

(A課長の妻)
ふ~ん、それでSさんはどうなの? 

(A課長)
うん… SさんとのZoomの1on1については、録音している。20分くらいだけど、とりあえず聴いてくれるかな? 妻に聴かせるかもしれない…と、Sさんに伝え了解をとっているから。

1on1セッションを傾聴したA課長の妻の反応は…?

(A課長の妻)
なるほどね… あなたのまんじりともしない気持ちが、何となくわかってきた。
真ん中あたりで「デジタルネイティブのAさんによって、見事に解説いただきました」って、Sさんが口にしているところ…

あなたはよく、コーチングのフィードバックの重要性を私に語るけど、つまり評価ともジャッジメントとも違う「感じたことをそのまま自分の言葉で告げる」、ということよね。
この定義を踏まえると、Sさんのこの言葉は、フィードバックじゃないわ。

それから、声だけを集中して聴く、というのもちょっと新鮮。あなたが以前、「メラビアンの法則」を話してくれたことを思い出したの。

(A課長)
そういえばつい最近、LINE登録している『【公式】五十嵐久(コーチング専門家)』からのメッセージが、その「メラビアンの法則」だった。
ちょっと開いてみる…

「メラビアンの法則」とは?

Aさんも、「メラビアンの法則」って聞いたことあるのではないでしょうか?
メールなどを使用し、文章で思いや考えを伝えることはできますね。
ですが、その話し手が

  • 今どのような心の状態にあるのか
  • 健康状態はどうか
  • 話は真意を本当に伝えているのか
  • 真に話したいことはまだ心の底に溜まっているのではないか

このようなことは、やはり顔や表情、話し方などから読み取るしかありません。

有名な言語学の教授アルバート・メラビアン教授は、相手に真意が伝わる印象の強さの比率として、

話の内容:7%
話し方:38% 
ボディランゲージ:55%

となると発表しています。
非言語の方が、話の内容よりその人の真意が伝わっているということになります。

もしAさんが、一生懸命に何かを伝えようとしたとき、その真意は内容よりも、Aさんの話し方や身振りによって受け手は感知するということです。

「話し方」はシチュエーションも変えてしまう…?

(A課長の妻)
これこれ! 話の内容というのはテキストにしたときの意味だから、「デジタルネイティブのAさんによって、見事に解説いただきました」を、人の存在を消して文字情報だけを解釈すれば100%、いえ200%肯定している表現ね。

それから私は声だけを聴いている状況… つまり38%と結構大きなウエイトを占めている話し方に当たるけど、55%という印象形成に圧倒的な影響を与えるボディランゲージの観察に頼れない分、声のトーンに集中できている。ある意味でノイズからも解放されている状態ということね。確かに非言語である話し方の方が気になっている

ふと思ったのだけど、同じ意味のテキストにもかかわらず、関西弁と東京言葉では雰囲気が変わってくるわ。文芸評論家が面白いことを言っていた。
「川端康成の『雪国』のなかの駒子が、東京言葉を使っているのは、明らかに川端康成の脚色であり、フィクションそのものだ」、と。
越後湯沢の方言はよく知らないけど、その言葉を駒子が使ってしまうと、自分がイメージする「雪国の世界」ではなくなることを、川端はわかっていたのよ。

話し方はシチュエーションも変えてしまう、ってことよね。

(A課長)
相変らずスルどいね(苦笑)
それで君はどう感じた?

A課長の妻のフィードバックは“直球”…?

(A課長の妻)
Sさんはあなたにヨイショしてる! NFT、仮想通貨、暗号資産、そしてウェブ3.0を、あなた流の理解でSさんに伝えているけど、抽象的すぎるというか… プロが聞いたら行間を補いたくなるし、もし予備情報をもっていない素人が、あなたの説明だけで理解できたとしたら、その人は紛れもない天才よ。

(A課長)
キツイなぁ~

(A課長の妻)
私が真剣に話すと、あなたは必ずそういう言い方をする。社会学のロマンチック・ラブを持ち出すつもりはないけど、夫に気をつかわなければうまく関係性が保てない…というのは、THE ENDということよ。

(A課長)
わかった、わかった…
そういう言葉が返ってきそうなことは、予感していたから… まあ覚悟していたよ。

(A課長の妻)
大げさな… 覚悟するほどのこと?

(A課長)
話し方は印象形成に大きな影響を与える… という見本だからさ。
言葉の強さは別として、君のコメントはコーチングにおけるフィードバックだと受けとめる。まんじりとしなかった理由も、君のフィードバックで腑に落ちた。

Sさんは、日経FINANCIAL TIMESのOpinionを読んで、感じたことを僕に伝えようと思い、1on1を提案し、スタートした。
ところが僕は、Sさんにとって想定外のことを一方的に話し始めた。だからSさんは、しばらくガマンしたというか、言いたいことを呑み込んでいる。僕は君から聞きかじっていたNFTについても話している。得意になって…

妻のフィーバックでA課長の内省は促進されていく…

1on1が終わって、改めて録音を聴いてみたら、僕が7割方しゃべっている。
そもそもSさんがテーマにしようとしたそのOpinionは、実は最初のところしか目にしていなかったんだ。それはこの部分…

米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏はデザインに明確な方針を持っていた。「シンプルに。とにかくシンプルに」と公言もしていた。独デザイン学校バウハウスの機能美を重視し、その「レス・イズ・モア(少ないほど美しい)」という規範を自らも徹底して追求した。

この箇所で僕は、「Sさんもジョブズファンなんだぁ!」と思い込んでしまい、「同好の士」と認定してしまった。

Sさんの内なる思いは、Opinion全体を踏まえて、「尖がっているジョブズの価値観はときにトレード・オフになってしまう… それを超える皆が共感できる価値観とは?」について、僕と1on1を展開してみたかった、ということだった。

(A課長の妻)
あなたがよく言う、コーチングにおける「メタ認知」、「俯瞰する視点」、「相対化できる心の余裕」が、伴っていなかったということね。
ZoomでのSさんの表情はどうだったの?

(A課長)
そうなんだ。話すことに熱中してしまって、あまり表情は見えていなかった…

(A課長の妻)
あらあら、真意をつかむ情報の55%を占めるボディランゲージをあなたは見逃したわけね。

(A課長)
Sさんとの1on1はコーチングをベースとしつつ、化学反応を重視するという合意をもってやってきたから、上司である僕がコーチであり、部下のSさんがクライエント、と役割はあえて決めないで、ときにコーチとクライエントが逆転する1on1も展開できている。

だからこそ、深い関係性が生まれてきたと感じている。
だけど…

(A課長の妻)
今回は脇が甘くなってしまった(笑)

自己肯定感は自己効力感につながる…

(A課長)
その通り。ただ自己否定はしたくないし、自己肯定感は持ちたいと思っている。それが自己効力感につながっていくから。
Sさんは営業のプロと言われた人だから、ときに過酷な営業現場で、部下が気持ちを鼓舞して立ち向かっていくための言葉を豊富に持っている。ヨイショもお手のもの。
まあ、今回のヨイショは、話題を一端脇に置くことで流れを変える、というSさん的ファシリテーションの妙として、受けとめている。

(A課長の妻)
ポジティブでいいと思う。未来志向になっているじゃない(笑)

(A課長)
何だか、君にコーチングしてもらっている感じだなぁ… 一応ありがとう、と言っておくよ。今回君のおかげで、コーチングにおけるフィードバックを再確認する機会を得た。

コーチングのフィードバックは、相手に「気づき」を促すことが、その目的。僕が君との10年の付き合いで感謝するのは、ダイバーシティを深く考える、という機会を与えてくれたこと。
ダイバーシティというと、LGBTQがイメージされるけど、もっとも根源的なバイアスは、マチズモだと思う。

マイクロアグレッションは無自覚な悪意で相手を傷つける…

(A課長の妻)
男性優位が文化の基底に価値観として根付いてしまっていることね。マッチョはマチズモからきているワードね。

最近、マイクロアグレッションが話題に上ることもあるので、少しずつ変わってきているわね。「他者への小さな攻撃」という意味だけど、本人は無自覚というか、悪意はないんだけど、相手を傷つけてしまう「何気ない一言」。
あなたも、私と付き合い始めた頃は「女性なのにスゴイ!」とか、口にしていたわよね。

(A課長)
そう… 自分としては無邪気にしゃべった言葉に対して、君はその都度「それはマイクロアグレッションよ!」、と僕にフィードバックした。
最初の頃「なんでこんなことまで…」と、ムッ!としたけどね。

(A課長の妻)
あなたが素敵な人になってほしい、という素直な気持ちがあったからよ(笑)

プロコーチとは、本当のフィードバックを理解し実践する人!

(A課長)
ただ考えてみると、日本文化はオブラートに包んだ発言が好まれるというか、コーチングのフィードバックの意味を、ほとんどの人が理解できていない。

つまり「相手の話をしっかり聴いて、そして感じたことを、ポジティブ、ネガティブに限らず、自分の言葉でそのまま伝えること」が、真のフィードバックということ。
そしてその言葉は、忠告、批判、評価、非難、強制を含まない!
本当のプロコーチというのは、その力を備えている人ということになる。

マイクロアグレッションは、人種や民族といった大きなところから、家族構成やLGBTQなど、ここかしこに存在する。ところが多くの人はバイアスに侵食され気づいていない。

僕の場合は、君が徹底的にフィードバックしてくれたおかげで、「“気づき”とはどういうことなのか?」が、少しずつわかってきた。それがコーチングを学ぼうと思ったきっかけにもなった。

(A課長の妻)
日本の男たちが大切に育んできた「男性優位社会」の価値観も、そろそろ崩壊の兆しが見えているから、そうなったときオロオロしないためにも、今後も私のフィードバックをしっかり受けとめることね(笑)

(A課長)
わかっているけど… 君の何気ない一言もマイクロアグレッションになっている、ということも気づいてほしいけどね(笑)

坂本 樹志 (日向 薫)

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「スティーブ・ジョブズの価値観はトレード・オフ?」そしてメタバース、NFT、ウェブ3.0、バーチャルプロダクションなど、多彩なテーマに関する一考察(2022/06/20)

現実の被写体と仮想空間の背景を組み合わせて映像を撮影する「バーチャルプロダクション」と呼ばれる手法が広がっている。ソニーグループは日米で専用のスタジオを新設し、映画やドラマ、CMの撮影用の需要を取り込む。
(『6月17日日経新聞15面(ビジネス2)』より引用)

今回のコラムは、日経新聞の記事内容に触発された、心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を経て定年再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんとによる1on1ミーティングです。
予定調和なき二人の世界は果たしてどのようなケミストリーが展開されるでしょうか?

アイスブレイクはフジタスケールの話題からスタートしました!

(A課長)
Sさん、おはようございます。そちらの天気はいかかですか?

(Sさん)
曇りです。夜半から雹が降る、との予報も出ていたので心配しました。今月のいつだったかな… 私の住む埼玉北部は猛烈な雹に見舞われたので、その記憶が鮮明でしたから…
ちょっとググってみます。
ええっと… 群馬県南部から埼玉県北部にかけて、2日に大量の雹が降り被害が大きくなっています。渋沢栄一の故郷である深谷市で「トウモロコシ畑が全滅した!」とありますね。

関東平野の中央から北関東は、わたし的解釈では大陸性気候です(笑) 米国の竜巻街道は、北米大陸中心部の広大な平野であるグレートプレーンズとかぶっていますが、強風、雹、竜巻を伴う激しい嵐が頻繁に発生するのが特徴です。

おっ、NHKのサイトをみると、2012年5月6日に北関東で発生した竜巻は、5秒間の平均風速が70~92メートルのレベルである、フジタスケールF3を記録したようです。
茨城県、栃木県で観測され、死者1名を含む55名の人的被害、全半壊585棟を含む2,400棟以上の住家被害をもたらした日本最大級の竜巻被害、とあります。

(A課長)
地球温暖化の影響も加速している… 気候変動でもまさにVUCAの時代の到来です。

(Sさん)
さすが! アイスブレイクからVUCAというキーワードにつながりました。ではセッション開始、ということで…
Aさん、今日は月曜日ですが、金曜日の日経朝刊の記事に触発されています。そのあたりから1on1を始めたいのですが、いかがでしょうか?

(A課長)
もちろん了解です。

アイスブレイクを経てFINANCIAL TIMESがテーマアップ!

(Sさん)
今回も私の蒙を啓いてくれる、FINANCIAL TIMESのOpinionです。この記事は新鮮でした。

(A課長)
確か、その記事は私の大尊敬するスティーブ・ジョブズから始まっていましたよね。印象に残っています。

米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏はデザインに明確な方針を持っていた。「シンプルに。とにかくシンプルに」と公言もしていた。独デザイン学校バウハウスの機能美を重視し、その「レス・イズ・モア(少ないほど美しい)」という規範を自らも徹底して追求した。

シビレますね。Sさんはソニーマニアですが、私はアップルマニアです。ジョブズの価値観が浸透しているAppleはデザインだけでなく、PCのMacintosh…現在はMACですが、起動音にも徹底的にこだわっています。Sさんが前回口にした「神は細部に宿る」とは、まさにスティーブ・ジョブズのことです。
起動音は、2012年に米国で、登録商標に認定されるのですね。

(Sさん)
Aさんのアップルマニアぶりもすごいですね~

熱を帯びるAppleマニアのA課長の語りです…

(A課長)
語ります! ご了解ください(笑)
ジョブズは20歳の時にガレージで創業し、AppleⅠを開発します。次世代機のAppleⅡが大ヒットし株式を公開、いきなりの大金持ちです。そしてMacintoshが誕生するのですね。1500万ドルかけた伝説の広告は有名です。

ただし… イケイケのジョブズは強気に出すぎたせいか、生産過剰で在庫がとんでもなく膨らんでしまい、初めての赤字決算に見舞われ、そして自分でつくった会社にもかかわらず、1985年にAppleを追われてしまうのです。

(Sさん)
ここまでがジョブズの人生第1章ですね。
そして1997年にAppleに復帰する。この10年間がジョブズの第2章ですね。

(A課長)
Sさんは隠れジョブズマニアですか(笑)
ジョブズがすごいジョブズに変身していく第2章が始まります。2005年にスタンフォード大学卒業式でのスピーチは伝説となっていますが、ジョブズは、「Appleを追われなかったら今の私はなかったでしょう」と語っています。

Appleを追われたスティーブ・ジョブズは…

ジョブズは屈辱的失敗を経たからこそ、自分を徹底的に見つめ、真のアントレプレナーというか、二段変身によって…すみませんセーラームーンの月野うさぎじゃないですね… 再起動し、復活します。

1986年にジョブズはピクサー社を1000万ドルで買収し、最高峰のアニメスタジオに育て上げます。20年後にそのピクサーをディズニーに売却し、ジョブズは役員に就任するのですが、ディズニーの買収額は74億ドルです。

(Sさん)
ピクサーの前身は、ジョージ・ルーカスが設立したルーカス・フィルムですね。『スターウォーズ』の第1作を私は大学時代に、結婚前の妻と新宿の映画館で観たのですが、使われたCGの臨場感には度肝を抜かれました。

(A課長)
SさんはCGの始まりを知る世代なのですね。なるほど…

(Sさん)
映画という世界が共有する最高のソフトコンテンツとリンクして、CG技術の飛躍的進歩を実感できる象徴的作品が、節目で誕生しています。

ピクサーは『トイストーリー』で、世界初のフル長編アニメを制作していますね。これまた第1作目を観た時は感動しました。シリーズ化したすべての作品を私は映画館で観ています。
2009年の『アバター』は、「映像美という世界観をアニメでもここまで表現できる!」というクリエイティビティを世に証明しました。

我々はメタバースの世界に没入していくのか…?

(A課長)
Sさん、ヘッドマウントディスプレイが軽量化し、日常で違和感なく使用できるガジェットになることは予想の範囲内です。

その視界が『アバター』のような世界で、自身のアバターの立ち居振る舞いも『アバター』のようになれば、眼鏡を掛けている人が、掛けているのを忘れているがごとく、メタバース礼賛者が唱える「一日のほとんどをメタバースの世界で暮らすようになる」、というのもリアル感がでてきますね。

(Sさん)
映画論になってしまいそうな流れを、Aさんの巧みなファシリテーションで引き戻してくれました。ジョブズに戻しましょう(笑)

(A課長)
ありがとうございます(笑)

下野した期間であるAppleを離れていた間のジョブズの活動は実にエネルギッシュです。ピクサー買収以外にも、自ら高性能コンピュータを開発製造するNeXT社を創業します。この第2章がドラマチックなのは、ジョブズなきAppleの経営が傾いていくという流れとなるからです。

エッジの利いたAppleらしさが影を潜め、特に次世代のOS開発について限界が露呈し、結局はジョブズ頼みというか、AppleがNeXTを買収し、ジョブズがAppleのCEOに就任することで、第3章がスタートします。

VAIOはソニーのイメージを進化させた!

(Sさん)
なるほど… ソニーのリーダーシップ2.0の出井さんによる「Apple買収を考えたこともあった」という回想が語り草になっていますが、ビル・ゲイツとのつながりが強かったので、私は「思っただけ」だと想像しています(笑)

ソニーは満を持してPCのVAIO第1号を1996年に米国で発表しています。出井さんのときであり、ソニーに「デジタル・IT」という新しい企業イメージが創られていくのです。
市場を牽引していたNECや富士通のPCとはまったく異なる、ソニーらしさの尖がったPCです。デザインの洗練度は抜群でした。
少し昔の話が続きました。

ところで、AさんはiPhoneが新しくなるたびに買い替えていますが、Appleの術中にはまってしまっているのでは?…(笑) 

(A課長)
おっしゃる通りです(笑) マーケティング戦略上の計画的陳腐化です。自覚しています。ただアパレルと違って、技術進化が伴っていますから、買い替えについては自己肯定できています。

(Sさん)
それって、認知的不協和じゃないですか?…(笑)

(A課長)
う~ん、Sさんに1本とられました。
そうだ、きのう日曜日の日経に、「メタバースとファッションの親和性」に関する記事がありましたね。ええっと…12面の「文化時評」です。

三越伊勢丹が仮想都市で開いたファッションショーを取り上げています。仮想空間であれば、売れ残りや廃棄を心配する必要はないですし、優れたデザインのデジタルアパレルをNFTとして売り出すことも可能です。

「NFTとは何か?」そして「ウェブ3.0」が始まっていることをAさんが解説します!

NFTはNon-Fungible Token…「代替不可能で唯一の存在であることが証明されている」という意味です。その裏付けがブロックチェーンです。
仮想通貨…現在は暗号資産に名称が統一されていますが、その技術は当初、まるでイコールのように解釈されました。

今では「唯一性を担保する最高度のデジタル技術」としての認識が定着し、これまでの価値観を覆す新用途開発のラッシュです! そこにさまざまな「価値」が生まれています。
まさに「ウェブ3.0」の到来です。

「計画的陳腐化」というキーワードは死語となるかもしれませんね。

(Sさん)
デジタルネイティブのAさんによって、見事に解説いただきました。

(A課長)
Sさんのソニーマニアぶりに煽られて、ジョブズから少し離れてしまいましたが、コーチの私がSさんにお伝えしたいのは、実はここからです。

(Sさん)
Aさんはどんな時でもコーチングのことを考えている…

(A課長)
これまで、1on1のテーマを1回完結だけでなく、シリーズでもやってきました。そのなかで「リーダーシップ理論の変遷」は、昨年の11月29日から今年の2月28日まで11回取り上げています。
2月13日の1on1では『1兆ドルコーチ(ダイヤモンド社)』ビル・キャンベルに焦点を当てました。そのときには話題にしなかったのですが、ビル・キャンベルはスティーブ・ジョブズのエグゼクティブコーチだったのですね。ジョブズに関するところを引用させてください。

ビルはスティーブのかけがえのないコーチ、メンター、友人だった!

スティーブ・ジョブズが1985年にアップルを追放されたとき、ビル・キャンベルはそれに抵抗した数少ない同社幹部の一人だった。当時のビルの同僚ディブ・キンザ―は、ビルがこう話すのを聞いたという。「スティーブを会社にとどめなくては。あんなに才能のあるやつを手放すわけにはいかない!」

スティーブは彼の誠意を忘れなかった。1997年にアップルに復帰してCEOに就任し、ほとんどの取締役が退任すると、彼は新しい取締役の一人にビルを指名した(ビルは2014年までアップル取締役を務めた)。

スティーブとビルは親しい友人になり、しょっちゅう行き来した。日曜の午後にはパロアルト界隈を散歩して、あらゆるテーマについて意見を戦わせた。ビルは幅広い分野でのスティーブの相談相手であり、コーチ、メンター、友人だった。

(Sさん)
なるほど… 素敵な関係ですね。

(A課長)
本を読むとわかるのですが、部下に対して非常に厳しいというか、天才型で妥協を拒絶するマネジメントのイメージがあるジョブズが、ビルに対しては胸襟を開いています。一般にイメージされるCEOと取締役の関係ではないのですね。
対等…を超えた関係です。う~ん、このあたりのニュアンスは難しい。魂と魂の交流…と言えるかな?

(Sさん)
なるほど… 私の勝手な想像ですが、Appleを離れている期間にジョブズは、自分のマネジメントにおける強みと弱み…SWOT分析のようなことを試みて、それなりに相対化したのではないでしょうか。
ただし、実際の経営では、弱みというか、PM理論でいうラージPが強く出てしまう「独善的スタイル」になることもあったでしょう。自分も分かっているのに、でも抑えられない…

そんなとき、ビルにコーチングしてもらうことで、そうなってしまっている自分に気づき、余裕を取り戻していったのではないでしょうか。

世界ナンバー1の経営者のスティーブ・ジョブズには、ビル・キャンベルというエグゼクティブコーチが必要だったのです。
ビルは黒子に徹した人のようですね。私の好きな言葉である「菊づくり、菊見るときは人の影」を彷彿とさせる人物です。

(A課長)
Sさんの捉え方も沁みるなあ…

FTのコラムニスト、ギャッパーは迷走している…?

(Sさん)
FINANCIAL TIMESの記事の冒頭でジョブズが登場したので、Aさんワールドが展開されました(笑)
私がこの記事に興味をひかれたのは、実はAさんとは別の視点です。この記事を書いたビジネス・コラムニストのジョン・ギャッパーを私は好きになりました。「考えが迷走している」からです。「こうあるべきだ!」ではなく、「迷いに迷って」書いているのです。
タイトルは「EU充電規格統一の是非」です。

スマホに代表される電子機器の充電ポートやケーブル端子がバラバラで、とにかくストレスフルであることを世界中の人が共有していますが、EUはその一因として、Appleの「ライトニング」という独自規格にある…つまり、他社の携帯電話が使用する「USBタイプC」ではないことを挙げているのですね。
ギャッパー氏はこのように書いています。

ジョブズ氏はこの規格統一の動きを歓迎しただろうか。確かにシンプルになるし消費者の使い勝手もよくなる。だがアップルは独自の道を歩み、常にあらゆる要素を念頭に置いて魅力ある商品を開発すべきだとの経営哲学を貫いたことを考えると、彼が今回の規格統一に賛成したとはとても思えない。

(A課長)
私は「見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞く…」でした。
タイトルが、ISOのように規格統一というEUの得意とする政治的思惑の記事だと思い込んで、最初のところしか読んでいないのですね。

(Sさん)
私はこの手の内容が好きなのでしっかり目を通しました(笑)
ギャッパーさんが最後に言いたいことをまとめているのですが…

……こういうわけで筆者も何がベストか判断しかねている。シンプルさも大事だが革新も必要だ。たかが充電の話であってもだ。ワイヤレス化が進んでいるだけに接続ケーブルを巡る問題は重要でなくなるかもしれない。だが考え方は重要だ。

世界で充電ポートの規格が一つに統一されたら素晴らしいと思いがちだ。だがそんなことをすれば新たな革新の機会を失うことになりかねないということを忘れてはならない。

(A課長)
何を言いたいのかわかりませんね(笑)
「あることを追求すると別のことが犠牲になってしまう…困ったものだ」、という結論ですね。

(Sさん)
トレード・オフです。「あちらを立てればこちらが立たず」です。夏目漱石の『草枕』の冒頭を思い出しました。
参考までに、ググっておきましょう。

山道を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹差せば流される。
意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

まさに人生です。

(A課長)
今日の1on1は極めて多彩なセッションになりました。Sさんの最後の山場である口伝が予感されます。

バーチャルプロダクションは映像制作に新たな価値をもたらす!

(Sさん)
ありがとうございます。
金曜日の15面はまたしてもソニーが大きく取り上げられています。大見出しは「ソニー、仮想×実写の撮影場所」です。中見出しは「映像を融合、ロケ不要に」「日米に新設、制作効率化」となっています。

バーチャルプロダクションと呼ばれる「現実の被写体と仮想空間の背景を組み合わせて映像を撮影する手法」を、ソニーが本格的に事業化していく、という内容です。

マツダ「CX-5」のCMがその手法で実際に撮影されていたことを、私はこの記事で知りました。美しい広がりのある映像が、小気味よいテンポで遷移します。その技に感動していたのです。
それが実写ではなく、はめ込み合成とも違うことを知って、「ソニーってスゴイ!」をかみしめています。

「誰しもが共有できる価値」を実感できれば、その「新たな価値」は一気に広がっていきます。これまで飛行機やヘリコプターを使って、手間とコストがかかっていた空撮が、ドローンの登場によって、コペルニクス的転換を果たしたように、FINANCIAL TIMESのギャッパーさんがトレード・オフに悩む次元を超えるイノベーションは起こるのです。

(A課長)
スティーブ・ジョブズの価値観を、また別の視点で考えてみる、ということですね。さらに多彩な1on1になりました。とても一人だけではここまではたどり着けない…
Sさん、次回もよろしくお願いします!

坂本 樹志 (日向 薫)

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孫文にみる“異質の調和”、そして緒方貞子さんの「内向きは無知につながる」を起点に“価値観”を深掘りする一考察(2022/06/14)

アドラーは言います。
「人の行動は、その人の考えを源としている……なぜなら私たちは事実ではなく、単に主観的なイメージを受け入れているからである」、と。

「ひとそれぞれ価値観は異なっている…」については、心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を経て定年再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんとによる1on1ミーティングで、話題に上ってきました。

今回のコラムでは、この”価値観”について改めて語ってみようと思います。さてどんな展開となるでしょうか。

アイスブレイクは「成功の循環モデル」からスタート!

(A課長)
Sさんとはかなりの回数の1on1を重ねて来ましたが、果たして何回だろうか? と振り返ってみました。

(Sさん)
数えてみたのですか?

(A課長)
スケジューラーをチェックしてみました。去年の11月8日が初回で、今日で29回目となります。ほぼ週イチでやっているので、それくらいになりますよね。

(Sさん)
いや~ それはスゴイ。「千里の道も一歩から」「継続は力なり」ですね。ちょっとオーバーかな(笑)
私はAさんのコーチングをベースとした1on1に大いに影響を受けて、いつのまにかコーチャブルになってきました。私たちはコーチングの3原則の一つである「オンゴーイング」そのものですね。

(A課長)
それはホメではなくフィードバックとして受けとめます(笑)
私はSさんとの1on1が終わった後、気づいたことを毎回メモっているのですが、第1回目は「働きがいのある組織」について語り合っています。

私が管理職研修で学んだ「MITのダニエル・キム教授が提唱した成功の循環モデル」をSさんに紹介しています。

業績責任を担う管理職は、結果が芳しくない状況になると、往々にして肩書がもつ権威に頼ってしまい、部下の意見に耳を貸さず、指示命令が中心になってしまう。
そうなると部下は面白くないし、意見が通らないので、受身的態度となりパフォーマンスが低下する。
したがって、欲しいはずの成果はますます下がっていくバッドサイクルに陥る…
という内容です。

(Sさん)
思い出しました。バッドサイクルは「結果の質」が起点になっている。
私は営業が長いので、実感するところです。とにかく「何とかしなければ!」という思いが強くなりすぎて視野狭窄に陥ります。まさに「貧すれば鈍す」の流れになっていきます。だからこそ、ジタバタするのではなく、部下の意見、感情をしっかり受けとめ「関係の質」を高めていくことに最大注力する! ということでしたね。それがグッドサイクルです。

前回の1on1でも話題になりました『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」(平井一夫/日本経済新聞社・2021年7月)』の中で、平井さんがやり続けたことが、まさにそれです。
「平井流1on1ミーティング」は、「成功の循環モデル」を実践で証明した、ということになります。もっとも平井さんは「成功の循環モデル」という理論は意識していなかっと想像します(笑)

続いて「成人発達モデル」に話題が転じます…

だんだん思い出してきました。私はAさんに刺激されて、心理学に興味を持ち、初回の1on1のあと、理論名にくすぐられて、「ハーバード大のロバート・キーガン教授による成人発達モデル」を調べてみました。「還暦過ぎてもあきらめるには及ばない!」と、自分を鼓舞しています。
2回目の1on1はそれがテーマになったと思います。

(A課長)
そうなんです。私のメモに、Sさんのコメントが残されています。

…大人の場合、価値観がどんどん強固になり、変わろうと思ってもなかなか変わることができない。価値観が「強力な固定観念」となってしまって「行動を阻害」する…

(Sさん)
へーっ、そんなことを言ったのですか?

(A課長)
私は、ビビッときた話は書き留めることにしています(笑)

(Sさん)
なかなか気の利いたことを言っていますね。おっと、マウンティングは慎まないと…(笑)

“異質の調和”と緒方貞子さんのコメントがフィット!

(A課長)
今日の1on1は、この”価値観”を深掘りしてみませんか?
このところ緒方貞子さんについて、Sさんと語り合っていますが、5月20日の1on1で、コーチビジネス研究所の五十嵐代表が提唱する”異質の調和”という概念と、緒方さんのコメントがフィットしているので、確認し合ったと思います。

……どこか違う土地に行って、かなり勝手に「これが望まれている」と言って押しつけることは今でもやっていますよ、いろいろなところで。そうでしょう?……

……例えば、アメリカがアフガニスタンにリーダーを送る場合も、アメリカにとって全部プラスになるような人を置いてもしょうがない。あちら側にとってもプラスになることを理解して協力できる人を送るのが、今度はアメリカ側の責任になるわけです。全ての人が同じような生活をしているわけではないですから……

……内向きはだめですよ。内向きの上に妙な確信を持ってそれを実行しようとすると、押しつけになりますよね。理屈から言えば、そうではないですか。内向きというのは、かなり無知というものにつながっているのではないでしょうか? 違います?……

(Sさん)
「内向きは無知につながる」というのは、緒方さんの名言だ!
緒方さんの価値観は、どこまでもオープンマインドだと思います。「ダイバーシティ&インクルージョン」は、世界全体の集合的価値観としてもっとも崇高な理念だと思うのですが、多くの人は「アタマでの理解」にとどまっているように感じます。カッコつけた言い方だと、ポリティカル・コレクトネス…直訳は「政治的正しさ」ですが、「そうあるべきである!」 という捉え方です。

多くの人はダイバーシティを身体感覚では受けとめていない…!?

(A課長)
価値観は、あらゆる人が日常会話であたり前のように使われる言葉になりました。だからこそ、と言ったらよいでしょうか…Sさんの言うように、ダイバーシティを身体感覚として受けとめていない人が多いような気がしています。
どこまでその「価値観の本質」に迫れるかわかりませんが、チャレンジしてみたくなりました。

(Sさん)
緒方貞子さんという人物を研究し始めた私たちですから、イケそうな気がしています(笑)

(A課長)
では最初に広辞苑で調べてみましょう。

「個人もしくは集団が世界の中の事象に対して下す価値判断の総体」が広辞苑による価値観の定義!

(Sさん)
スケールが大きい捉え方ですね。個人だけでなく集団も入っている。つまり、家族、会社、民族、国家…
前々回の1on1で私は、民族は長い歴史によって「物語・ナラティブ」が形成されている、と話したと思いますが、中国の4年間の駐在生活によって、「民族ってなんだろう…」と考える経験を得ました。おそらく日本に居たままでは、その思考体験は生じなかったと思います。

(A課長)
環境が変わることで新しい考えが生まれてくる…

(Sさん)
毛沢東と蒋介石は水と油の価値観でしたが、その両人とも尊敬する人物が孫文です。孫文は少数民族である満州族が支配する清を倒すべく辛亥革命を起こします。「なぜ清を倒さなければならないのか!」というその思想基盤として「三民主義」を提唱します。民族、民権、民生です。

ただ、その民族の概念は、当初は「滅満興漢」でした。つまり「漢民族国家をつくろう!」です。それが1919年の五・四運動あたりから、西欧列強の帝国主義打倒に軸足が変化していき、対西欧という視点で、広大な中国という地に住む少数民族も含めた「中華民族」という概念をつくり上げていくのです。
そして中華民国が誕生します。

「孫文は“異質の調和”を実行している」、とSさんは解釈した!

孫文はマルクスの影響をそれほど受けていないのですが、中国が一体となって反帝国主義に向かっていくためには、共産党も受け入れる必要があると考え、容共、そして工農扶助を打ち立て、国共合作が成立します。
まさに、コーチビジネス研究所の五十嵐代表の概念である”異質の調和”です。

ところが国民党を引き継いだ蒋介石は、財閥資本の筆頭である宋家との結びつきを強めます。莫大な活動資金の裏付けとなるパトロンの獲得です。

そもそも共産党とは真逆の立ち位置です。したがって、孫文の死後国民党の実権を握った蒋介石は、反共産党色に染まってしまい、毛沢東の共産党と血みどろの内戦に突入していくのですね。

(A課長)
辛亥革命、中華民国成立、国共内戦…中国の近現代史を説明いただきました。国民党のファウンダーである孫文が、中国共産党からも「建国の父」と崇められている理由も納得です。

(Sさん)
ついでに付け加えると、「宋家三姉妹」というキーワードが存在します。中国近現代史を語る上で必須キーワードです。
私は、『宋姉妹~中国を支配した華麗なる一族(伊藤純/伊藤真 角川文庫・1998年11月)』を読んだのですが、出色の歴史ノンフィクションです。

日本の歴史教科書ではあまり描かれない「宋家三姉妹」とは?

長女の宋靄齢は大財閥の当主孔祥熙と、次女の宋慶齢は孫文と、三女の宋美齢は蔣介石と結婚しています。次女の慶齢については、中国の国家副主席を務め、1981年、88歳で亡くなる直前に「中華人民共和国名誉主席」が授与されます。とても美しい人です。

孫文の妻という特別のポジションが、その背景にありますが、国母と称揚されるように、包容力、そして高い政治的能力も有していました。毛沢東の妻であった江青と思わず比較してしまいます。
上海市の西に慶齢の陵墓があるのですが、広大な公園になっていて、私は休日になると、自転車に乗ってよく出かけましたね。

他方、三女の美齢は蒋介石とともに台湾に逃れます。蒋介石の死後は米国に移住、その後台湾に帰国するものの、終生政治的な活動を続け、マンハッタンの自宅で老衰により105歳で亡くなります。

(A課長)
表の歴史は、ともすれば男性側視点で描かれがちですが、「三姉妹」という視点で捉えると、また違った様相の歴史がクローズアップされそうです。
視点の違い…価値観の違い、につながりますね。

(Sさん)
血を分けた姉妹といえども、3姉妹の価値観は大きく異なります。まさに環境によって、それぞれの価値観が形成されていったことが理解できます。

緒方貞子さんは筋金入りのマルチな帰国子女!

(A課長)
Sさんと私は緒方さんに関わる本を読んでいるので、緒方さんの生い立ちはだいたい頭の中に入っていますが、Wikipediaでおさらいしてみませんか。おっ…簡潔に書かれている。

1927年(昭和2年)9月16日、東京府東京市麻布区(現東京都港区)に外交官・元フィンランド特命全権公使の中村豊一・恒子夫妻の長女として生まれる。命名は犬養毅による。父の転勤で幼少期をアメリカ・サンフランシスコ(バークレー)、中国・広東省、香港などで過ごす。

小学校5年生の時に日本に戻り、聖心女子学院に転入、聖心女子大学文学部英文科(現:英語英文学科英語英文学専攻)を卒業(自治会の会長も務める)。その後、父や、聖心女子大学学長のブリットの勧めでジョージタウン大学およびカリフォルニア大学バークレー校の大学院で学び、政治学の博士号を取得した。大学院での指導教員はアジアの政治・国際関係を専門としたロバート・スカラピーノ。

(Sさん)
緒方さんの英語がネイティブレベルだったのは、小学5年生になるまで、海外で過ごした、という帰国子女であったことからうかがわれます。

ところで、Aさんは緒方さんの「ロール・モデル」について話したい、と前から言っていましたよねぇ、 おそらくその人物は私がイメージしている人と同じだと思います。

(A課長)
マザー・ブリット!

(Sさん)
イエス!(笑)

緒方貞子さんの「ロール・モデル」はマザー・ブリット!

(A課長)
戦後の新制大学制度で認可された5つの女子大の一つである、聖心女子大の初代学長です。他の4大学は、津田塾大、日本女子大、東京女子大、神戸女学院大でしたか…
緒方さんは聖心女子大の一期生ですね。

緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(小山靖史/NHK出版・2014年2月)』のなかにある、著者の小山さんが緒方さんにインタビューするシーンを紹介させてください。

……緒方さんを語る上で欠かせないリーダーシップが、この聖心女子大学時代に、大いに磨かれたのではないかと取材の中で耳にしたからである。そして何より、マザー・ブリットを語る時の、緒方さんの懐かしむような表情が印象的だったからだ。

「マザー・ブリットの影響は大きいでしょうね。ほかのみんなにとっても、すごく大きかったはずです。四年制の女子大学になるのは日本で初めてですから、非常に張り切っておられました。新しい女子大学を作る意味を、一生懸命に私たちに励ましを含めて話してくれたのです。すごい愛情でしたよ。私たちは大きな影響を受けましたね、あの方から。素晴らしい人だったな、本当に稀有な人、というのでしょうね」

この本でインタビューを受ける緒方さんは、一貫しているというか、極めて冷静かつ凛とした態度が崩れません。ですが、このシーンは、無防備…ちょっと違うな、素の姿が自然に出てしまったというか、それくらいマザー・ブリットを敬愛し、影響を受けたということが伝わってきます。

同書の第4章は「リーダーシップの原点」というタイトルで、「マザー・ブリットがどのような人物であったのか」、が描かれます。

「皆さん、頭を使いなさい! 考えなさい!」
「聡明になりなさい!」
「あなた方の生涯は、決して、ほうきとはたきで終わってはなりません!」
「あなたたちは、鍋の底や皿を洗うだけの女性になってはいけません!」
「一度に一つのことしかできない女性になってはいけません!」
「自立しなさい! 知的でありなさい! 協力的でありなさい!」
「あなた方は、社会のどんな場所にあっても、その場に灯をかかげられる女性となりなさい!」

週一回の学長集会で、マザー・ブリットが全生徒に英語で語りかけた内容です。
その活躍ぶりも描かれています。

敗戦後、日本はまだ復興途上にあり、物資も不足していた。マザー・ブリットは学長として奔走し広大な敷地を取得。新校舎、聖堂、修道院、インターナショナルスクールの建設、大学院や新しい学科の設置と、短い期間に聖心女子大学の基礎を確立した。

ある時には、資金を得るため、アメリカ軍のシボレーを進駐軍から調達、シボレーが当たるくじを売ることを考えついた。マザー・ブリットは、試験の前日にもかかわらず、学生たちに、「チケットを銀座の和光の前で売りなさい、外務省で売ってきなさい」とせきたて立てたという。

(Sさん)
3歳目前の身長81センチの緒方さんは、父親、母親、そして弟とともに家族そろってアメリカに引っ越して以来、外交官である父親の転勤で、日中戦争まっただなかの中国でも暮らしています。

アメリカ、中国、そして日本… まったく環境の異なる国の空気を吸い生活をした、というバックボーンは、マザー・ブリットに触れることにより、まさにケミストリーが起こり、“国連難民高等弁務官の緒方貞子”につながっていったのではないでしょうか。

アドラーが語る「偏見の生じない環境」とは…?

(A課長)
アドラーは100年前に、講演で次のように語っています。
人間の本性 人間とはいったい何か(長谷川早苗訳)/興陽館(2020年2月15日)』を引用します。

現在の文化で、女児が自信や勇気を持ちつづけることは簡単ではありません。一方、能力検査では、おもしろい事実が判明しています。14~18歳の女児の一部が、男児を含めたどのグループよりも優れた能力を示したのです。調べてみると、こうした女児の家庭では、母親も、あるいは母親だけが自立した職業についていました。

つまり、女児たちは家庭で、女性の方が、能力が低いという偏見がない状況、または偏見をほぼ感じない状況であったのです。これは、母親が才腕で生計を立てている様子をじかに目にしたことが理由です。そのため、女児たちはずっと自由に自立して育つことができ、女性への偏見につきまとう妨害からほぼ影響を受けずにすんだのです。

(Sさん)
緒方さんが「内向きはダメですよ」と言う閉じた世界のままだと、バイアスであることにも気づかない「強力な固定観念」が形成されてしまう。
緒方さんのように異なる価値観の世界をさまざま体験することで、相対化、俯瞰できる成熟した価値観が育まれていく…
今回の1on1のまとめになりそうです。

Valueは「価値」、Valuesが”価値観”

(A課長)
Sさん、広辞苑の定義はわかったので、英語で「価値観は何だろう?」と思い、今調べてみました。英語のスペルはValuesです。

(Sさん)
えっ、価値のバリューですか?

(A課長)
いえ、複数のsがつくバリューズです。ちなみに“価値”は単数のバリューで、つまり“価値観”はさまざまであり、複数形となる、という発見です。

(Sさん)
お見事! 今日の1on1の〆が決まりましたね。
次回も新たな発見につながる1on1にしていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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「ソニーのEV世界連合視野」、「はやぶさ2の砂に生命の源」、そして「ウクライナ戦線の再拡大」に関する一考察(2022/06/08)

日本経済新聞6月7日朝刊の3面(総合2)には、世界が共有するど真ん中のトレンドである「EVを核に世界連合を目指すソニー」、「はやぶさ2」が持ち帰った砂の中にアミノ酸が初めて検出されたことを受けての「生命誕生の謎に迫る」、他方、膠着が懸念される悲惨な現実の「ロシアのウクライナ侵攻」という、次元の全く異なる大テーマが、同じ紙面に掲載されていました。

3つの異なる記事をテーマに1on1が展開されます!

今回は、この記事内容に触発された、心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を経て定年再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんとによる1on1ミーティングが展開されます。
「1on1はケミストリー」との思いを共有する2人のコミュニケーションは、果たしてどのように展開していくのでしょうか…

(Sさん)
今日もルーチンで、朝マックしながら日経新聞を読んでみました。1面は「国の委託、競争働かず」という大見出しで、国の委託事業が大手のコンサルに偏っていることを指摘した内容です。

ベンチャーの育成、といいながら、国は結局大企業頼み、という本音が透けているというか、日本という国の保守性が浮き彫りになっていると感じます。
日本は99パーセントが中小企業ですから、ここから第二、第三のソニーが次々と誕生する環境が現出した時、初めて日本の未来が語れるようになるのだと思います。

(A課長)
ソニーウォッチャーのSさんは健在ですね。
Sさんがその話から始めたのは、日経の3面を語りたいからじゃないですか?

(Sさん)
ご名答です(笑)
毎日とは言わないまでも、最近ソニーの記事は日経でよく登場しますが、今日は大きなスペースで取り上げています。
Aさん、今回の1on1は、日経の記事をテーマに語ってみませんか? 緒方貞子さんについては、継続テーマになっていくと思いますので、今日はインターミッションということで…

(A課長)
了解です。臨機応変であるSさんの面目躍如ですね(笑)

どうしてSさんは日経3面を読んでアタマがくらくらしたのか…?

(Sさん)
ポジティブに受けとめます(笑)
今日の日経を一通り読んで、実はアタマがクラクラしています。というのは、その3面に大きな文字で「ソニー、EV世界連合視野」、という見出しが躍る7段組み記事のその横が、「戦線拡大 懸念広がる」というロシアのウクライナ侵攻が膠着しつつある状況の内容です。

そして、ソニーの記事の下3段が、「生命誕生の謎に迫る…はやぶさ2 海外調査とデータ共有」という、ソニーの現実に根差した夢とはまた異なる、“神は果たして存在するのか否か”という、これこそ究極のテーマを遠望してしまうような内容ですから…

(A課長)
Sさんもそうですか。実は私も「今日の日経はスゴイな‼」と感じています。総合面とはいえ、まったく内容の異なる記事を、同じページに配置するというのは、日経に明快な意図があるのではないでしょうか… 読者を刺激しているというか、揺さぶっています。

この3つの記事は、この先世界はどの方向に向かっていくのか、文明の発達と成熟は私たちに幸せをもたらしてくれるのか、といった遠大なテーマに思いを馳せる体験を与えてくれる、と言っても過言はないと思います。

(Sさん)
なるほど… 私は編集の意図までは思い至りませんでした。言われてみればそんな気もします。

A課長は編集意図の深読みからアドラーの「目的論」を想起します!

(A課長)
私は心理学を学んだせいか、深読みしてしまうクセがあります。ただ、この3面のおかげで頭が冴えてきました。他の面の記事もいつもより、集中して読んでいます。

アドラーをコーチングの父、そしてロジャーズをコーチングの母、とSさんには事あるごとに話していますが、ある刺激を受けて、頭が回転を始めるとき、アドラーの「目的論」と結びつきます。これは、人は何も考えていないと感じている状態でも「常にある目的に向かって思考は動いている」、ということです。

私は、それが常態なのであれば、ある刺激を受けて、何かピンとくるものがあれば、その意識を覚醒させていけば、その目的がある程度フォーカスされ、その目的に向かっていく力というか、強度が高まっていく、と解釈することにしました。
自己流の解釈ですが、プラスになっているような気がします。

(Sさん)
なるほど… Aさんの探求心というのは「なんとなく形成されている」のではなく「自覚的に生み出されている」ということですね。
私はプラス志向であることを自覚していますが、ロジックに落とし込むのは苦手なので、勉強になります(笑)

(A課長)
妻からは「あなたは理屈っぽいのよ」、と言われます。「聞く人によっては面倒がられるわよ」、とも注意喚起されるので、気を付けるようにしています。Sさんだと安心して話せるので、甘えていますが…

(Sさん)
どんどん甘えてください(笑) 心理的安全性こそ人間関係における潤滑油の極みです。

(A課長)
心理的安全性は、コーチングにおいてラポールが形成されている状態のことですね。「心理的安全性」などのニューワードに接すると、過去のさまざまな心理学者が提唱してきた内容が想起されます。言葉を変えただけ、とは言いませんが、切り口を変えて説明している… それが新鮮に受けとめられる、と解釈してしまいます。

「神は細部に宿る」のか…!?

(Sさん)
Aさん、そこがまた面白いところです。私は“微差を肯定する派”ですね。
「神は細部に宿る」と言いますが、ネーミングは実に大事ですし、ブランドって、さまざまな要素が“物語”として、そこにギュッと凝縮されています。ですから私たちは、その“物語”にお金を払っているのですね。

(A課長)
Sさんの切り口もさすがだ。
「同じでもまた違う」…ちょっと禅問答になってきました。

(Sさん)
そろそろ記事内容にいきましょうか(笑)
ソニーの記事は、「EV世界連合」という大見出し、中見出しが「ホンダと新会社核に」、そして小見出しが「他社出資受け入れも」とあります。最後に「センサー技術で貢献」に併せて、「メタバース、研究開発急ぐ」という流れでまとめています。

現在のソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長へのインタビューです。私は、前社長兼CEO、そして会長であったの平井一夫さんが、この吉田さんを後継者にしたことがすごいな~と感じています。

『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」(平井一夫/日本経済新聞社・2021年7月)』のなかで、平井さんが吉田さんを「三顧の礼」で招いたことを語っています。ご自身のことを「まったくカリスマではない」と強調しているのも平井さんらしさです。

「随処」の平井さんはカリスマではない…?

この本は平井さんの「随処」というか、ソニーグループの“辺境”であるCSB・ソニーに1984年に入社して以降、会社が変わり環境が変わる都度、「ひたすら1on1ミーティングを続けてきた」ことが書かれています。その本質は“自分”ではなく“チーム”なのですね。
平井さんはまさに劉備玄徳であり、吉田さんは諸葛亮…孔明です。

(A課長)
本日、ソニーの一時代を創られた出井さんがお亡くなりになったことが報道されました。出井さんもすごい人だったのですね。

(Sさん)
私は、スカイセンサーという短波放送も聴くことのできるラジオを、45年前に手にして以来のソニーファンですが、創業世代の井深さん、盛田さん、そして大賀さんまでが「ソニーのリーダーシップ1.0」、まだインターネットの可能性がはっきりしていなかった時期に、「インターネットは隕石だ!」と強いメッセージを発した出井さんは「ソニーのリーダーシップ2.0」、そして、ソニーを大復活させた平井さんと吉田さんが「ソニーのリーダーシップ3.0」と勝手にネーミングしています。ダンディな佇まいの出井さんはカッコよかったですね。

(A課長)
Sさんの言う「リーダーシップ3.0」の世代となる異端者の平井さんをトップに選んだのは、外国人トップのストリンガーさんですよね。その流れをつくったのは、中小企業のソウルを忘れないソニーという「器」のような気がしています。

現状の儲け頭の商品がダメになる商品を開発し続けろ!

(Sさん)
その視点です! 確かにソニーは大企業です。でも衰退する大企業ではなく、そのカルチャーは「中小企業の連合体」なのだと感じています。

ソニースピリットというのは、創業者の盛田さんが口酸っぱく言っていた「現状の儲け頭の商品がダメになる商品を開発し続けろ!」でした。グループ全体にこの精神が宿っているのだと思います。ですから、危機を感じるセンサーがとても発達しているし、それによって難所を乗り越えていく…
現在のトップである吉田さんは、まさにソニー精神の体現者なのだと思います。

(A課長)
熱い! Sさんがソニーを語ると、その熱で溶けてしまいまそうです(笑)
ベンチャー・スピリットがテーマになってきましたが、私は6面の「Deep Insight」に啓発されています。コメンテーターの梶原誠さんのオピニオンです。
テーマは「日本に“開拓社”はあるか」です。ソニーの記事と連動しているような内容です。真ん中あたりの記述だったと思います。

株式市場も、開拓する企業を選んできた。例えばエレクトロニクス業界。ソニーグループは5割の世界シェアを握る画像センサーを、村田製作所は4割のシェアを握る積層セラミックコンデンサーを育てて株式時価総額の序列最上位にいる。中国や韓国メーカーとの消耗戦に明け暮れた企業の株価は低迷し、再編に呑み込まれた。

日本の中小企業はオンリーワンの集合体!

スマップではないですが、オンリーワンの重みを感じるコメントです。
そしてオンリーワン技術というと、「はやぶさ2」ですよね。「初代のはやぶさ」が奇蹟の生還であり…人ではありませんから、“生きて還る”という表現も変ですが、日本中が興奮のるつぼとなったことを思い出します。

致命的ともいえるトラブルの連続に見舞われながら、技術者の創意と総意を結集したオペレーションが注目されました。まさに達人技です。
そして「はやぶさ2」です。

ミッションという点では、中途半端な結果となった初代のプロジェクトを挽回すべく、トラブルの原因を徹底的に究明し、パーフェクトとも称される成功につなげました。

「はやぶさ2」では、200~300社の企業が参画したと書かれています。今回の記事は「生命誕生の謎に迫る」なので、企業名は登場しませんが、重要パーツの多くは、オンリーワン技術をもつ数多くの中小企業や町工場製であることは、広く知られたところです。

パーパスがスゴイ! そしてバリュー、プリンシプル!

(Sさん)
『ドキュメント「はやぶさ2」の大冒険 密着取材・地球帰還までの2195日(NHK小惑星リュウグウ着陸取材班/講談社・2020年12月)』は、夢に向かって、そしてそれを実現したというドキュメントの最高傑作だと思います。

私は参加企業、そして膨大な数の参画メンバーは、会社人生における幸せを心の底から実感できたのではないかと想像しています。

とにかくパーパスがスゴイ! ミッションの崇高さは説明不要です。関与の度合いは末端であっても、「絶対成功させてみせる!」というモチベーションは、等しく共有されています。一方で、「失敗は絶対許されない」という極度の緊張感も伴います。
ただ、全員がその緊張感を共有する環境は、ともすれば「ひとりくらい手を抜いても全体に影響するわけではないし…」という傍観者の存在を払しょくしたのではないでしょうか。

(A課長)
パーパスですよね。これが全社員に腹落ちする実感として血肉化できれば、その会社は夢に向かってブレることなく進んでいけるのではないでしょうか。

「はやぶさ2」は、「ミッションそのもの」であるパーパスのP「生命誕生の謎に迫る」というバリューのV、参画者全員が、どんな困難が待ち受けようとも「絶対実現してみせる!」というプリンシプルのP、この3つがPVPとして合体されれば、その企業にはウルトラのパワーが与えられるのだと思います。
またしてもコーチビジネス研究所の五十嵐代表の言葉を使ってしまった…(笑)

(Sさん)
いいですね~ 私もPVPを肝に銘じて、ともすれば周囲のノイズに振り回されてしまうことのないよう、自己基盤をつくっていこうと思います。
おっと、“独りよがりではない自己基盤”であることが、真の肝ですが…(笑)
次回の1on1も盛り上がりましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

リーダーのための自律型人材育成術&会話事例
~成功する1on1ミーティングの進め方~

コーチングの資格を目指したい方は、日本で唯一中小企業経営者向けエグゼクティブコーチを養成しているCBLコーチングスクール

『ひとはなぜ戦争をするのか』のアインシュタイン、そして「緒方貞子さんは“上善如水”の人」に関する一考察(2022/06/06)

緒方先生の話しぶりが非常にクールで、淡々と話される方でした。余計なことは言わない。しかし自分の考えはストレートに述べるという印象でした。“冷めた目と熱い心を持ったリアリスト”ともいえるでしょうか。決して空想家や理想家ではなく、もっと現実を自分の目で確認して捉えるタイプの方でした。服装などは地味で、物静かな雰囲気の先生でしたが、言葉遣いは至って上品な“山の手言葉”でした。皆、かっこいいなあと思っていました。

緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(小山靖史/NHK出版・2014年2月)』のなかで、東洋学園大学教授で一橋大学名誉教授でもある野林健さんが語る緒方貞子さんの印象です。

(A課長)
前回の1on1ミーティングの最後で、今回のテーマを緒方さんの「ロール・モデル」と「ノブレス・オブリージュ」をテーマにしたい、と言いましたが、それは次回にさせていただきたいのですが…

(Sさん)
それは構いませんが、 新しいテーマは何でしょう?

(A課長)
「国際連合とは?」について考えてみたいのです。「もし緒方さんが国連事務総長だったら」というIFが話題になりました。そのあたりも踏まえて…
「セカイ系」の話になってしまいそうですが。

(Sさん)
了解しました(笑)

地球全体を包摂できる真のトップは生まれ得るのだろうか?

(A課長)
国連安保理常任理事国のロシアが、一方的に、戦略性の欠片もない戦争を始めてしまう、という現実を目の当たりにして、一国の利益代表ではなく世界全体を俯瞰するというか、国境という概念を超越した地球全体をインクルーシブする、真のトップの存在を希求したくなります。

機能不全が指摘される国連ですが、緒方さんが、もし事務総長だったら現在とは違うパラレルなIFが現出したのでは、と想像したくなります。
それくらい緒方さんってすごい人だったのではないか…と、想像を膨らましています。

(Sさん)
共感です!
今思い出しました。アインシュタインとフロイトが「戦争」をテーマに、往復書簡でその思いを真摯に語るという『ひとはなぜ戦争をするのか(A.アインシュタイン/S.フロイト 浅見昇吾 訳・講談社学術文庫)』のなかで、アインシュタインが語っている箇所です。
ちょっと待ってください。その本を持ってきます… このあたりです。

破壊の衝動は心の奥底に眠っている。それが…!?

破壊への衝動は通常のときには心の奥深くに眠っています。特別な事件が起きたときにだけ、表に顔を出すのです。とはいえ、この衝動を呼び覚ますのはそれほど難しくはないと思われます。多くの人が破壊への衝動にたやすく身を委ねてしまうのではないでしょうか。
これこそ、戦争にまつわる複雑な問題の根底に潜む問題です。この問題が重要なのです。人間の衝動に精通している専門家の手を借り、問題を解き明かさねばならないのです。

(A課長)
その往復書簡はいつ交わされたのですか? 近現代世界史における究極のビッグネーム同士ですが、まったく分野が異なるのに…その二人が手紙を交換していたというわけですね。

(Sさん)
実は、Aさんが時おり紹介してくれる、コーチビジネス研究所のホームページコラムを私もチェックしてみました。すると、去年の4月6日のコラムが「ロジャーズ、フロイト、アインシュタイン」で、その内容がこの本の紹介でした。興味を憶えて私も買って読んでみました。

(A課長)
なるほど… 合点しました。

(Sさん)
1932年に国際連盟がアインシュタインに、「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄を、いちばん意見を交換したい相手と書簡を交わしてください」と、依頼しています。アインシュタインはフロイトの名を挙げました。

アインシュタインはフロイトに自説を語ります…

(A課長)
1932年は昭和7年ですから、前回の1on1で深掘りした「満州事変」が起こった翌年ですね。その後第二次世界大戦が勃発し、アインシュタインの言うところの「破壊の衝動」が世界を覆ってしまった…とも解釈してしまいます。

(Sさん)
アインシュタインは、第二次世界大戦後に発足した国際連合のような形態を、フロイトに語っています。ただそのイメージは、すべての国家の上に立つスーパー権限を有する国際組織です。

戦前の国際連盟は、米国は参加していなかったし、理想を語れるような状況ではありません。アインシュタインは1932時点で、国際的な平和を実現するための方法を次のように語ります。

国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない。他の方法では、国際的な平和は望めないのではないでしょうか。

(A課長)
主権の全部、とは言っていないので、その一部が何を意味するのか微妙ですね。ただ“完全に”という表現は強いですね。

(Sさん)
アインシュタインもフロイトもユダヤ人ですから、当時ユダヤ人国家は存在していないので、そのような言葉を口にすることが出来たのかもしれません。

(A課長)
う~ん… 国家があたりまえに存在することを、あたりまえの恩恵として空気のように感じている人たちには、理解が及びにくい捉え方なのではないでしょうか。特に私たち日本人には…

民族は長い歴史により「物語・ナラティブ」が形成されていく…

(Sさん)
民族と国家の関係については、人間の尊厳というか人権というテーマにおいて、50年、100年、いやそれ以上の射程で人間が挑んでいかなければならない最大の課題かもしれません。

ミャンマーのロヒンギャは国籍を持つことができない過酷な状況に置かれています。本来守ってくれるはずの国家から、法制上の観点からも迫害を受けています。クルドしかり、長い歴史によって「物語・ナラティブ」が形成されている民族は、国境という人為的なラインで囲まれている国家とはまた別次元の存在です。ある意味で“情念”の世界です。

(A課長)
Sさんの話を聴いて、緒方さんが「UNHCRの歴史を動かした」と言われる決断の内容と結びつきました。『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(小山靖史/NHK出版・2014年2月)』の170ページあたりから書かれている内容です。
緒方さんは1991年2月に国連難民高等弁務官に就任し、スイスのジュネーブで業務をスタートするのですが、その2か月後…

1991年4月にイラクのフセイン政権に弾圧されていたクルド人が武装蜂起します。ところが、政府軍に敗れたために、隣国のイランとトルコに難民として逃れます。その数は180万人でした。

イランは、逃れてきた難民140万人を受け入れています。しかしトルコは、国内にいるクルド系の武装勢力に悩まされていたため、受け入れを拒んだのですね。
そのため、40万人のクルド人がイラク国境の山間部に取り残されてしまうのです。「絶望の淵」という表現で語られます。
長く緒方さんの側近を務めたピーターセンさんが語ったところを引用します。

難民高等弁務官に就任した早々に“洗礼を受けた”!

緒方さんは、UNHCRの歴史上、いや、近代史の中でも最大の緊急事態の一つに、いきなり直面したわけです。世界が注目する中、難民高等弁務官として、まさに、“洗礼を受けた”と言えます。

緒方さんは直ちに現場へ向かわなければならないと判断しました。ヘリコプターで、高地にあるイランとトルコの国境を訪れ、一日中歩き回り、立ち止まっては難民に話しかけていました。「どこから来たのか」「なぜここに来たのか」「どんな希望を持っているか」ということを難民たちに問い、その答えにじっと耳を傾けていました。

(Sさん)
緒方さんに関する本を読むと、「聞く人」ということばが随所に出てきますよね。緒方さんにかかわったすべての人が異口同音に語りますから、「真実の姿」であることは間違いない!

(A課長)
ジュネーブの本部に戻った緒方さんは、すぐに幹部を集め、シニア・マネージメント委員会を開催します。その場が、緒方さんが「UNHCRの歴史を動かした」というシーンです。
ピーターセンさんは語ります。

シニア・マネージメント委員会は10~15人で構成されていました。緒方さんと私に加え、各部署の局長が参加していました。

女性は、緒方さん以外に、ヨーロッパ局長と人事局長の二人いたと思います。ほかに、チュニジア人の男性の中近東局長、レバノン人の国際保護局長などが出席していました。まずは緒方さんから、現場を見てきた感想や、イランとトルコの大統領との話し合いについて説明がありました。

そして、会議の出席者に意見を求めました。とても重要な決定でしたから、意見を聞くことが本当に大事だと考えたのでしょう。

今回の論点は、「UNHCRが、まだ国境を越えていない人びと、つまり“国内避難民”と呼ばれる人びとに関与するべきかどうか」でした。
彼らに対して、UNHCRは正式に関与する義務はありませんでしたから。

少し補足しますね。UNHCRは難民条約の規定に基づき、その活動がオーソライズされています。それによる“難民”の定義は、
「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるか、あるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れた人びと」であり、したがって、国境を越えて自国を出ていない人は、UNHCRの支援の対象外なのです。

シニア・マネージメント委員会全員の意見に傾聴で臨む…

(Sさん)
シニア・マネージメント委員会の場にいた人の語りですから、臨場感が伝わってきますね。

(A課長)
難民高等弁務官に対して、法体制や法律上の助言提供を担当する国際保護局長は、「UNHCRは厳格にその責務を順守すべきです」と強く主張しています。これに賛同して「トルコの国境封鎖を認めれば、UNHCRの難民保護に関するマンデート(責務、権能)は今後間違いなく弱まるだろう」という発言もあったとあります。つまり、難民と定義される状態になるよう、トルコ側との交渉を優先すべきである、という意見ですね。

中東の担当による「柔軟に、難民が現在いる場所で支援する努力をすべきだ」という意見も出ますが、「賛成意見を述べない人や、賛成か反対かの立場をとることに慎重な人もいた」、と書かれています。

全ての幹部の意見に粘り強く耳を傾けた2時間が経過して、いよいよ緒方さんが意思決定をするシーンとなります。
ピーターセンさんの語りが続きます。

全員の意見を聴いた緒方さんが意思決定した内容とは…?

そして緒方さんは「決心した」と言いました。
「私は介入することに決めました。なぜならUNHCRは、被害者たちが国境を越えたかどうかに関わりなく、被害者たちのもとに、そして側にいる必要があるからです」と言ったのです。
国境の反対側で何もせずに待っているのではなく、被害者たちと一緒にいることを望んだのです。これが、彼女が下した、最初の重要な決断でした。

(Sさん)
難民条約とは異なる判断…つまり国連という世界機関でオーソライズされた規定に反する意思決定であり、その最高責任者である難民高等弁務官が自らその掟を破ったわけだから、責任問題というか、就任早々、罷免される可能性もあったわけだ。

(A課長)
不完全であるヒトがつくる法律は、ともすれば制度疲労を起こします。だから状況に合わせて改変させる必要があります。その最たるものが、国連の安全保障理事会の常任理事国が有する拒否権です。しかしながら歴代の国連事務総長は不作為を決め込んでいます。

(Sさん)
Aさんは、以前の1on1で、その拒否権をウルトラ権限と言いましたね。

(A課長)
国連は主権国家である各構成メンバーの尊重を第一とする連合組織であり、事務総長に与えられた権限とは「調整機関としてのトップ」です。

ちなみに“同盟”と“連合”は、その意味する内容が大きく異なります。
国際“連合”という組織は、米国、中国の覇権を争う両大国、そして今回のロシア… これら安保理常任理事国に対して「何ができるのか」と問われると、歴代の事務総長の行動を振り返ってみても、世界は「?」という回答を用意するでしょう。

(Sさん)
歴史が証明している…

(A課長)
“調整”という、一見力を持たない役割だからこそ、私は緒方貞子さんが事務総長であれば、「何かをやってくれたのではないか!」とIFの世界に思考が浮遊していきます。

緒方さんが一貫して追求してきた政策概念は「人間の安全保障」

『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』の最後の第9章は、緒方さんが国連難民高等弁務官として、難民支援に当たる中で着目し、その後一貫して追求してきた、新しい政策概念の「人間の安全保障」が綴られています。
緒方さんの言葉を引用します。

人間の安全保障は、人びと一人ひとりに焦点を当て、その安全を最優先するとともに、人びと自らが安全と発展を推進することを重視する考え方です。

安全保障とは、従来、国家がすべきものということを前提に考えられてきたのですが、もはや国家を超えて、『人びと』というものを、保護の対象にしていくことを考えないといけないのです。国家に頼っていれば全てが良くなる時代ではありませんから。(中略)

所属がはっきりしないとか、かつて所属していた国家の形態がかわっていくとか、非常に大きな変化の中で、それぞれの人びとをどう守っていくかかという問題が、私どもの仕事になったのです。

大事なのは……、“人びと”です。人びとというものを中心に据えて、安全においても繁栄についても、考えていかなきゃならないということを痛感しましたね。

国連の場合は国家間機関ゆえに、国と国との話し合いというものが安保理の中にあったのですが、それだけでものが解決するのではなくて、その国の中に、あるいは裏に、人びとがいるということを考えないとダメなのです。
人びとというものを頭に置かないで、威張って国を運営できる時代ではないのですよ。

(Sさん)
最後の一行はしびれました。

(A課長)
私の独自解釈であることを許していただくとして、緒方さんは日本人という看板を超越していると思います。メタ認知で日本を俯瞰できる人であり、かつ、“イズム”から解放されたナチュラルな視野で世界を捉えている人ではないでしょうか。

『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』は、「緒方さんに関わった50人以上の人たちに対するインタビュー」+「10時間におよぶ緒方さん(85歳の時)へのインタビュー」をまとめた本です。

15ページから17ページにかけて、関わった人が語る言葉のエッセンスを26項目で抽出していますが、その紹介は次回に譲るとして、今日の最後に、緒方さんの部下だった元外務省の加藤俊平さんのコメントを紹介させてください。

緒方さんは“上善如水”のひと!

私が、緒方さんにいちばん感心するのは。『我がない』ということですよね。『我意がない』ということです。非常に公明正大な方ですよ。『上善如水(じょうぜんみずのごとし)』という言葉がありますけれども、水のようなイメージです。ですからお話をしている、あるいはお話を聞く、そういう時に100パーセント信用できる。これが緒方さんの圧倒的な印象ですよね。だからこそ、さまざまな判断が非常に正確なのだと思いました。“自分”というものを介して何かを判断するとか、そういうことのない人でした。全く客観的に公正になれる人、という印象でしたね。

(Sさん)
老子ですね。“上善水の如し”に続く言葉は、“水はよく万物を利して争わず”です。人としての境地ともいえる姿かもしれない。自然体で生きていく…

(A課長)
私はどのようなときもコーチングのことを考えています。自己基盤であるファウンデーションを確立することがコーチングの目的ですが、緒方さんのことを知れば知るほど、何を目指すべきかが見えてきました。
もちろん緒方さんにはなれません。でも宮沢賢治の『雨二モマケズ』ではありませんが、「そうなりたい!」というイメージが晴れ晴れとしてきました。

次回も緒方さんについてSさんと語ってみたいと思うのですが、いかがでしょうか?

(Sさん)
Aさんからオーラのようなものが伝わってきます(笑)
その感じ方…私も体験してみたいので、緒方さんの世界をさらに探求してみますね。

坂本 樹志 (日向 薫)

リーダーのための自律型人材育成術&会話事例
~成功する1on1ミーティングの進め方~

コーチングの資格を目指したい方は、日本で唯一中小企業経営者向けエグゼクティブコーチを養成しているCBLコーチングスクール

『満州事変(緒方貞子)』、『地ひらく(福田和也)』とコーチングに関する一考察(2022/05/30)

小山 : その当時からリーダーシップがありましたか?
澤田 : もちろん。でも、あまり強い口調ではおっしゃらない。柔らかくおっしゃる。物事をはっきりおっしゃるのですが、かと言って強く言わない。理想的な方でいらっしゃいますね。
小山 : 将来、国連難民高等弁務官のお仕事をされる素地はあったのですね?
澤田 :おありになったと思います。何しろ人の意見をよくお聞きになりますから。国連みたいなところで物事をおまとめになるのは、なかなか大変でございますよね。私なんてとてもできませんよ。

前回のコラムでも紹介した『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(小山靖史/NHK出版・2014年2月)』の中で、大学時代の緒方さんは、どのような学生だったのか… 著者の小山さんが友人の澤田正子さんに尋ねたシーンです。

今回も、緒方貞子さんについてA課長とSさんの熱き語り合いの1on1ミーティングがスタートします。

(A課長)
緒方貞子さんのご両親、祖父、そして曾祖父が誰であるかを知ってしまうと… それだけでもう何というか、かしこまってしまいますね。

(Sさん)
昭和史に関する多くの本を読んできたことを前回お話ししました。私はその嗜好性がさらに高まっている興奮を憶えています(笑)
もともと読書は好きで、山手線の2~3駅でも、何か必ず本を開いてしまうというクセというか、常に本を携帯していないと情緒不安定になる(笑)のですが、このところ緒方さんに関わる本を持ち歩いています。

(A課長)
私は心理学やコーチング関連の本が中心で、まあ深掘りしているのですが、Sさんはとにかく幅広いですよね。

(Sさん)
雑食傾向があるようです。この歳になっても好奇心だけは衰えていないのが救いです。
緒方さんの曾祖父が、五・一五事件で海軍青年将校の凶弾に倒れた犬養毅総理であることは、もちろん知っていました。なので、緒方さんがご自身の学術研究である『満州事変 政策の形成過程(緒方貞子/岩波現代文庫・2011年8月)』の中で、この事件をどう捉えているのか、前のめりになって読んでみました。
ところが…

(A課長)
ところが…?

(Sさん)
私の読書の姿勢をいみじくも気づかされることになります。この本はジャーナリスティックではないのですね。評論でもありません。文学者とはスタンスを異にする、社会科学者の矜持というか、徹底的に客観的であろう、という緒方さんの姿勢が行間も含めひしひしと伝わってくるのです。

緒方貞子さんの『満州事変』はメタ認知の書!

以前、Aさんからコーチングにはメタ認知が求められること、つまり対象に対して高い次元でその実体を把握できている状態ですが、『満州事変』の視点こそ、まさにそれだな、とAさんの言葉を思い出しています。
私は、“歴史もの”を読むと喚起される“情動”を、どこか期待していたようです。

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
だから…と言いますか、知的興奮を覚えます。モヤモヤ感がクリアになるというか、尾崎行雄と並ぶ憲政の神様といわれた犬養毅がどうして暗殺されるに至ったのか、さまざまな巡りあわせによって、まさにそのタイミングに居合わせてしまった、ということが腑に落ちました。政党政治はこれによって命脈が絶たれます。

現在の視点でとらえるならば、犬養総理はリベラルです。大陸中国と台湾の双方で、国父として尊敬を集める孫文の支援者でもありました。

犬養首相の前は、ライオン宰相と呼ばれた浜口雄幸首相です。さらにその前任は、張作霖爆殺事件の対応で天皇に叱責を受け、その3か月後に心臓発作で急死した田中義一首相でした。この経緯は、Wikipediaに次のように書かれています。

狭心症の既往があった田中に、張作霖爆殺事件で天皇の不興を買ったことはやはり堪えた。退任後の田中は、あまり人前に出ることもなく塞ぎがちだったという。内閣総辞職から3ヵ月もたたない1929年(昭和4年)9月28日、田中は貴族院議員当選祝賀会に主賓として出席するが、見るからに元気がなかった。

そして翌29日午前6時、田中は急性の狭心症により死去した。65歳没。田中の死により、幕末期より勢力を保ち続けた長州閥の流れは完全に途絶えることになった。

昭和天皇は、田中を叱責したことが内閣総辞職につながったばかりか、死に追いやる結果にもなったかもしれないということに責任を痛感し、以後は政府の方針に不満があっても口を挟まないことを決意した。

(A課長)
何だかドラマチックですね…

(Sさん)
昭和4年のことですから、昭和天皇による治世のほんの始まりの時期です。戦前の天皇は絶対的君主ですが、一方で帝国憲法の立憲君主制という体制は、天皇を独裁者にしないよう制度的な縛りをつくっています。つまり、その枠内で天皇が動いている限り、直接的な責任が天皇に及ぶことのない配慮が盛り込まれています。

もっとも、天皇自身が「独裁者になりたい」と思えば、いくらでもそれが可能でした。現に、以後軍によるクーデター事件が未遂も含めて頻発するのは、「天皇は取り巻きに壟断されている」という青年将校たちの思い込み、もちろんそれを利用した上の存在もあるのですが、「天皇親政」を求めるアクター側の苛烈な行動が生じていくのです。

(A課長)
そういうことなのですか… 何となく理解できたような気がします(笑)

“統帥権干犯”という言葉によって政府はフリーズする!

(Sさん)
確かにわかりにくいですよね。やっかいなのは、軍のトップは内閣総理大臣ではなく、「統帥権」という次元を異にする権限をもつ天皇であり、「統帥権干犯」という言葉を軍が巧妙に操作することで、戦争の流れが形成されていくわけです。
シビリアン・コントロールという大前提が帝国憲法には存在していません。

(A課長)
Sさんによって昭和初期の状況が再現されたようです。

(Sさん)
いえ… 一応の流れは理解できていたつもりなのですが、緒方さんの『満州事変』を読むことで輪郭がはっきりしました。

話を戻すと、次の浜口雄幸首相の意思決定、政策判断は大失敗でした。緊縮財政によって財政の均衡を取り戻そうとします。とにかく、曲げないのです。

「傾聴」がコーチングの大前提となりますが、「聞く耳を持たない」と周囲は受けとめました。強い意志は頑迷さと表裏です。内外環境は、浜口首相の想像力を超えていたのです。結局のところ、すべて望まない流れとなっていきます。
『満州事変』の該当箇所を引用します。

昭和5年(1930年)、ロンドン海軍軍縮小条約の締結をめぐって、軍部対政府ならびに議会の対立は遂に頂点に達した。かねてから海軍は対米7割を主張していたが、浜口内閣は国際協調の立場からこれを譲歩し、軍令部の強硬な反対を押し切って条約を成立させた。

ここにおいて軍令部は極度に憤慨し、国防用兵の責任者である軍令部の意見を無視して国際条約を取り決めたのは統帥権の干犯であるとし、さらに軍令部長加藤寛治は、条約で規定された兵力をもって完全な国防計画を確立することはできないとの理由で辞任した。

(A課長)
“統帥権干犯”を伝家の宝刀のごとく利用していますね。田中義一の死によって、統帥権の主体者である天皇が自ら声を発しない“決意”をしたとありますが、それも影響したのでしょうか…?

(Sさん)
緒方さんの記述の続きです。

財政緊縮と国際協調とを基本政策としていた浜口内閣にとって、ロンドン条約を締結したことは大きな成功であった。しかしながら軍令部の反対を強引に押切って条約を成立させたため、政府は海軍部内のみならず、陸軍部内ならびに民間側国家革新論者を甚だしく刺激する結果となった。その上、昭和5年(1930年)夏から秋にかけて農村へ波及した恐慌は、これらの革新論者を一層急進的な反政府の方向へ駆り立てた。

特に軍の場合、国家改造運動を推進していた少壮将校の多くは中産階級または中小地主層の出身であり、しかも彼らが兵営生活において接触する兵士達の多数は農民階級に属していた。政党内閣のもとで、外、満州において日本の権益が脅かされ、内、世界恐慌下において中小企業が没落し、農民階級が深刻な窮乏に陥って行き、そして軍縮が軍の存立そのものを圧迫するのを見て、彼らは断乎として国内政治を刷新するため行動しなければならないと決心した。

この流れを受けて、浜口雄幸首相は東京駅で右翼団体のメンバーに至近距離から銃撃されます。

(A課長)
その後が犬養内閣となるわけですね。

昭和6年にすべての環境要因が臨界点を迎え、そして解き放たれてしまった!

(Sさん)
犬養首相の在任期間は、昭和6年12月から翌年の五・一五事件までの156日です。
満州事変は昭和6年9月18日に勃発します。二・二六事件は5年後の昭和11年の発生ですが、その際の天皇はクーデターを首謀した彼らに断乎とした態度で臨んでいます。ただ…五・一五事件のときは、天皇の動きが見えてこないのですね。

満州事変の年である昭和6年、1931年がまぎれもなくすべてのターニングポイントであったことを痛感します。

私は、緒方さんの『満州事変』を読む前に、『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢(福田和也/文春文庫・2004年9月10日)』を書棚から引っ張り出して、再読しました。上・下合わせて900ページの大部の書ですが、描かれる年代が緒方さんの研究書と重なるので、比較したくなったのです。

(A課長)
Sさんは、過去の本をよく読み直しされますよね。私は、再読はナシなのですが、気に入った映画は2度見、3度見してしまいます。現に「シン・ウルトラマン」は2回見てしまいました。

(Sさん)
面白いですね~ 人それぞれライフスタイルは違う!(笑)
『地ひらく』は、文芸評論家の福田和也さんが膨大な資料を渉猟して、不世出の大戦略家である石原莞爾を描ききります。その射程は広く実に深い。単純なオマージュとも違う、それでいて人間味あふれる石原莞爾の魅力が躍動しています。博覧強記を体現する福田さんの最高傑作だと感じています。『地ひらく』を引用します。

満州事変は「天皇大権を石原らが私してしまった行為!」にもかかわらず…

……張軍の何十分の一という劣勢にありながら、事変がかくも迅速に、成功裡に進行したことは、日中のみならず、国際社会においても大きな驚きをもって迎えられた。
四十万という軍勢をもちながら、さしたる抵抗も見せずに敗退した中国軍にたいする、西欧列強の軽蔑は極めて強く、中華民国の国際的評価、信用は致命的なほど下落した。(中略)

石原は、決定戦争、つまり短期間に相手の主力を殲滅することで勝敗の決着を明瞭につけるタイプの戦争が成り立つ要因を、片方の、圧倒的な戦力上の優位と、戦略目標の明確さにあるとしている。

その点からすれば、満州事変において、比較にならない量的、質的劣勢におかれていた日本側が、決定戦争を挑みうる可能性はないかに見える。
にもかかわらず、石原が決定戦争を試みえたのはなぜなのか。
それは関東軍が、ただの軍事力のみならず、全社会的と言ってもいいような、総合力をもって張学良軍にあたったからである。

関東軍の奇襲は、歩兵や砲弾をもってのみなされたのではなかった。
部隊間の連携を断ち、戦況をふくむ全体の情報を遮断し、事態のいかんを知る通信方法を奪い、資金を断ち、資材の供給を不可能にしたのである。

いわば、日本側の全般的な作戦行動によって、在満30余万の張学良軍は、互いに孤立した分配戦力にされたのみならず、攻めてくる日本軍の規模もわからず、司令本部や他部隊からの指示や連絡もなく、また報道機関からの情報もないため事態を把握することが出来ない、いわば盲目のまま孤絶した状態に、突然に陥れられてしまったのである。……

(A課長)
100年近く経って、ロシアのウクライナ侵攻が起こっていますが、いろいろ考えさせられますね…

(Sさん)
歴史にIFを持ち込むのは、いかがなものか… ですが、もし石原莞爾が満州に居なかったら、そして満州事変が、こうまでスマートに展開することなく、激烈な戦闘が起こっていたら… つまり失敗を経験していれば、歴史が大きく変わったと感じています。
あまりにも成功したために、その成功体験によって判断がどんどん甘くなっていく… 成功体験の呪縛です。

石原莞爾が満州国で描いたパーパスとは?

その後の石原莞爾は、上司である東條英機との関係が抜き差しならないものになっていきます。Wikipediaを引用してみます。

昭和12年(1937年)9月に関東軍参謀副長に任命されて10月には新京に着任する。翌年の春から参謀長の東條英機と満州国に関する戦略構想を巡って確執が深まり、石原と東條の不仲は決定的なものになっていった。

石原は満州国を満州人自らに運営させることを重視してアジアの盟友を育てようと考えており、これを理解しない東條を「東條上等兵」と呼んで馬鹿呼ばわりにした。これには、東條は恩賜の軍刀を授かっていない(石原は授かっている)のも理由として挙げられる。

以後、石原の東條への侮蔑は徹底したものとなり、「憲兵隊しか使えない女々しい奴」などと罵倒し、事ある毎に東條を無能呼ばわりしていく。一方東條の側も石原と対立、特に石原が上官に対して無遠慮に自らの見解を述べることに不快感を持っていたため、石原の批判的な言動を「許すべからざるもの」と思っていた。

結局石原莞爾は、太平洋戦争開始直前の昭和16年3月に予備役に編入されるのですね。実質的な引退です。

(A課長)
実にドラマですね。東條英機という人物が最後の最後に日本のトップになってしまうというか、そのような人物しか残っていないというか、また任命されてしまうという日本全体のありさま…つまり国家ガバナンスが崩壊してしまった!
ショックです。

(Sさん)
今日の1on1は満州事変を深掘りする1on1になりました。これで終わるわけにいかないので、コーチング的な視点で、緒方さんの文章というか、福田さんとも比較しながら語ってみたいのですが、よろしいですか?

(A課長)
ぜひとも!

緒方さんはファクトを見つめている…ジャッジメントなし!

(Sさん)
私は福田さんの描き方は、それぞれの事象であるチャンクを具体的に紐解き、その一つひとつを、ときに情感あふれる福田史観で評論していく「チャンクダウン」
一方の緒方さんは、チャンクである欠片を抽象度の高い複数のアクターとして立たせながら、それらの化学反応により全体環境が大きく変化していく様相を描く「チャンクアップ」であると理解しました。

そして、緒方さんのスタンスにはジャッジメントがない、と感じています。
緒方さんの『満州事変』の序論の最後に、次のような箇所があります。

満州事変の政策決定過程を分析すると、外交政策における選択…殊に目標の選択…の可能性が、非常に限定されたものであることが明らかとなる。たとえば、日露戦争以後の日本では、満州における権益を拡大発展させることが国策となっており、議論の余地はその手段、時期、および程度に限られていた。さらに国内の権力構造の変化に伴い、外交政策に一層大きな制約が加えられるようになったことも事実である。

満州事変において、外交政策の決定権は本来の外交政策決定者の手を離れて、新たに擡頭した軍の中堅層の手中に完全に収められるに至った。合法的に政策決定の権限を与えられていた内閣総理大臣以下官僚は、軍部大臣を含めて、満州における事態の進展を決定することも統御することも出来なかった。しかも彼らとしては、そのような進展の結果生じた既成事実に対しては、これをその後の外交政策の与件として甘受することを余儀なくされたのである。

要するに、本事変中における外交政策の変化は、関東軍の要求が国策に編入されて行く過程であり、当時の内部における権力関係を如実に反映するものということが出来よう。

(A課長)
決して難解ではなく、無駄がそぎ落とされたシンプルな文体だ。国家としてのガバナンスが機能しなくなったその背景が明快に書かれている。

(Sさん)
「文は人なり」「文は体を表す」…さまざまな言い方がありますが、セレブリティそのものである緒方さんが、どのようにして緒方さんになっていったのか…非常に興味があります。

(A課長)
Sさん、次回の1on1は緒方さんの「ロールモデル」、そして、緒方さんが真の「ノブレス・オブリージュ」であることを実感する私の思いをお伝えしたいと思うのですが、いかがでしょうか?

(Sさん)
いいですね~ ぜひともお願いします!

坂本 樹志 (日向 薫)

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『難民に希望の光を 真の国際人緒方貞子の生き方』『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』etc.…にみる「異質の調和」に関する一考察(2022/05/20)

隣の人は自分と同じとは思わない方がいいですよ。あなたと私は違うのです。違った部分については、より理解しようとするとか、より尊敬するとかしなくてはいけないのではないでしょうか。“異人”という言葉。あれ、“異なる人”と書くでしょう。人間を見る時には、本当はにんべんの“偉人”でなくてはいけないのですよ。
(『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』より)

今回の1on1は、緒方貞子さんについて“語り合いたい”という、A課長とSさんの1on1が展開されます!

(A課長)
前回の1on1の最後に、Sさんが難民に希望の光を 真の国際人緒方貞子の生き方(中村恵/平凡社・2022年2月16日)の中にある、緒方貞子さんの言葉を紹介されましたが、同様な意味のことを、コーチビジネス研究所のコラムで読んだ記憶がありました。

私が「コーチングの母」と認識する心理学者のロジャーズを解説したコラムなのですが、10回以上の連載であり、いずれの回のものかわからなかったので、試しに“ロジャーズ コーチング”のワードでググってみました。

Sさん)
ロジャーズについては、Aさんから耳にタコができるほど、聴いています(笑)
提唱理論の『クライエント中心療法』の3原則である「無条件の肯定的受容」「共感的理解」「自己一致」は、コーチングのプリンシプルを理解する上で、現在も多大な影響力を及ぼしているのですよね。

確か1980年代のアメリカ心理学協会のアンケート調査…「もっとも影響力のある10人の心理療法家」で第一位に選ばれていたことを、誇らしく(笑)話してくれたAさんの表情も思い出します。ノーベル平和賞候補にも選ばれていたとか…

(A課長)
ありがとうございます。
一般検索でヒットするとは思わなかったのですが、ロジャーズを再勉強するつもりで、エンターを押すと、何と126万件のトップに「心理学とコーチング ~カウンセリング理論の歴史とロジャーズ」がヒットし、まさにこの回がその解説でした。ちなみに“ロジャーズ 心理学”でも6番目にヒットしています。

前回の1on1で、Sさんがユングのシンクロニシティを彷彿させる体験を、臨場感たっぷりの語りで紹介いただきましたが、それが私に乗り移ったようです(笑)

2020年11月16日のコラムでした。「共感的理解」についての解説なので、ええっと…このあたりです。

「共感的理解」とは、相手と自分の違いを認識すること…!?

「共感的理解」についても、コーチングにおけるコーチに求められる基本的要件となります。共感とは「ともに感じる」ということですから、簡単ではありません。人はそれぞれ別々の個体ですから、つまり自分ではないので、考え方、捉え方、感受性は当然異なります。ですから「私はあなたと同じ感覚です」とは、言えないのが自明です。厳密に言えば、同じ感覚にはなれないのです。だから「共感“的”理解」なのです。

いかがですか?

(Sさん)
ホントですね!

(A課長)
スクロールしますね。続きは…

クライエントは私ではない。したがって同じではない。その上で、どのように考えているのか、どのように感じているのかを、五感をフルに働かせて、クライエントの気持ち、感じ方を想像します。謙虚に、思い込みを排してクライエントに寄り添うのです。その「努力と思い」がクライエントに伝わって信頼関係が形成されていくのです。
言い換えれば、「私はあなたの気持ちがわかる!」と言い切ることに慎重になる心持が、「共感的理解」につながっていくと言えそうです。

(Sさん)
瓜二つ、といっても緒方さんに叱られないと思います(笑)

緒方さんはコーチャブルな人だった!

(A課長)
私は緒方さんとロジャーズがダブって見えてきました。
これまで緒方さんとコーチングを結び付けて理解したことはなかったのですが、「緒方さんって、コーチングマインドにあふれた人だ!」と私のセンサーが反応し、『難民に希望の光を…』を早速買っています。

そして、Sさんが紹介してくれた緒方さんの語りは、同書最後のブックガイド…緒方さん関連本11冊の一つである『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(小山靖史/NHK出版・2014年2月)』の中の言葉であることも知りました。その本も購入しています。

(Sさん)
前回、私は思わず「1on1とは化学反応である」と言いましたが、その捉え方が補強されました。Aさんの内部でケミストリーが起こっている…
実は私も自覚的にケミストリーさせています(笑)
国連UNHCR協会から紹介いただいた『難民に希望の光を…』の帯にはこうあります。

日本初・女性初の国連難民高等弁務官として、10年間、世界の難民のために尽力した緒方貞子。
退任後の数年間、パーソナル・アシスタントとして近くでその姿を見続けた著者が、その生涯と強みを語る、「緒方貞子入門書」

とあり、その横に

とプリントされているのですね。

つまり、2019年10月22日にご本人がお亡くなりになった後に著された、緒方さんへのオマージュとして著された書です。
随所にご本人の言葉が盛り込まれていますが、著者の中村恵さんを通しての緒方貞子像です。緒方さんの凛とした姿が伝わってきます。

ただ、ブックガイドを見ると、ご本人執筆のものもたくさんあるので、伝記とは別の切り口、つまり緒方さんの一次資料というか、学者がベースである緒方さんの文章を体感したくなりました。
そこで購入したのが次の2冊です。

満州事変 政策の形成過程(緒方貞子/岩波現代文庫・2011年8月)
私の仕事 国連難民高等弁務官の10年と平和の構築(緒方貞子/朝日文庫・2017年5月)

教育は身に付いた経験や知識を全てはぎ落したとき、最後に残るもの!

(A課長)
なるほど…『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』も、ご本人の著作ではなく、2013年8月17日に、NHKスペシャルで放映された番組を制作した小山靖史さんが、その取材を通して、TVの時間枠では表現しきれなかった緒方さんのライフヒストリーを描いたものでした。

一次資料といえば、この本の中に、緒方さんが上智大学の教授として教鞭をとられた時の1期生だった方…冨田壽郎さんですね…その冨田さんが小山さんのインタビューに応えたところが、「一次資料の重要性」を熱く語る緒方教授の姿でした。

緒方さんは、学生たちに、学問の方法や学ぶということがいかなることなのかを伝えようとしていた。冨田さんは「先生については、いくつもの言葉を憶えている」と続ける。

『手に入る一次資料を集めなさい。いろいろ探し回ること自体が勉強なのです。それは、必ずしも論文に反映されなくても無駄になりません』と何度も言われました。ほかに、『教育は身に付いた経験や知識を全てはぎ落したとき、最後に残るものです』という話も印象に残っています。……」

(Sさん)
凄みある言葉だ。私もWikipediaを読んでわかった気になることが多いので、気を付けないと…

この2冊については、まだ途中ですが、圧倒されています。『満州事変…』は、緒方さんがカリフォルニア大学バークレー校に提出した博士論文で、いわば学者としての緒方さんのデビュー作です。
1964年、37歳の時にアメリカで出版されています。もちろん英語で書かれていますから、その日本語版は2年後の1966年出版です。

岩波現代文庫は、緒方さんが「岩波現代文庫版に寄せて」という2011年7月に書かれた「まえがき」のある新しい版で、私が購入したのは2021年1月発行の10刷ですから、いかに読まれているのかが理解できます。

緒方貞子さんの博士論文は「満州事変」に関する世界でオーソライズされた第一級の学術研究書!

(A課長)
どんな印象の本ですか?

(Sさん)
極めて冷静な筆致です。多角的で、かつロジカルです。

私は日本の近現代史について、保阪正康さん、半藤一利さん、福田和也さん… 日本学術会議の任命拒否問題で話題になった東大大学院教授の加藤陽子さんの本も含めて、たくさん読んできました。
いずれの本も「なるほどなぁ~」と感じ入るのですが、緒方さんのアプローチは、それらのいずれとも違っています。

満州事変については、企画立案者の石原莞爾と関東軍高級参謀の板垣征四郎を軸として描かれがちですが、タイトルに“政策の形成過程”とした理由を序章で次のように記されています。論文執筆の目的です。

私は本書において、満州事変当時の政策決定過程を逐一検討することにより、事変中如何に政治権力構造が変化し、またその変化の結果が政策、特に外交政策に如何なる影響を及ぼしたかを究明することとしたい。

このような変化は、対立する諸勢力間の争いの結果生じたものであるが、軍部対文官の対立ということで説明出来るような単純なものではなかった。むしろ、それは佐官級ならびに尉官級陸軍将校が対外発展と国内改革を断行するため、既存の軍指導層および政党ならびに政府の指導者に対し挑戦したという、三つ巴の権力争いとして特色づけられるものである。

(A課長)
なるほど… “逐一検討する”“三つ巴”がキーワードですね。よく「対立軸」とか、「敵と味方」と言うように、単純化してしまうというか、したくなりますが、緒方さんはそうではなく、プロセスという時間軸で、複雑極まりないアクターの関係性がどう変化していったのかを、一次情報を渉猟して、徹底的にリアルに分析していった、ということでしょうか?

(Sさん)
Aさんの解釈も切れ味鋭いですね。

(A課長)
実は、『難民に希望の光を…』でも、この論文について、カリフォルニア大学バークレー校で学んだ「外交政策決定過程論」に啓発を受けたことが、緒方さんのコメントで挿入されています。

これは、さまざまな政治的、組織的、心理的属性を持つアクターたちが、一定の内外環境の制約のもとで、相互に影響し合いながら政策を選択していく過程(プロセス)とその結果(アウトカム)との関係に焦点をあてた分析枠組みですが、私にとっては非常に刺激的でした。

従来の政治制度論や、圧力団体が政治を動かすといった荒削りの政治過程論ではなく、心理学や社会心理学、行動科学の最新の知見を活用して政策決定のダイナミズムを分析するという、野心的なアプローチでした。

心理学との関連で言えば政策決定者のパーセプション(認知)という変数が重要視されましたし、社会心理学の集団力学論(グループ・ダイナミクス)や組織リーダーシップといった視点もうまく取り込んでいました。
(『聞き書 緒方貞子回顧録』より)

(Sさん)
心理学を学んだAさんにとって、“興奮するワードのオンパレード”じゃないですか!

(A課長)
その通りです! 私は社会心理学を専攻したので、“社会心理学”が2回も登場するこの箇所をSさんに「話すしかない!」と準備していました。もう読みたい本だらけで、時間との闘いです。
ただ、『満州事変』については、前回も話題になったコーチングのキーワードである「チャンクアップ」「チャンクダウン」をSさんにお願いした上で、その後で読むことにします(笑)

緒方さんは、研究者かつ現場主義を貫く実践家!

(Sさん)
了解しました(笑)
もう一つの本である『私の仕事…』も並行して読んでいるのですが、この本こそ圧倒されます。緒方さんは「徹底した現場主義」であることが伝わってくるのですね。研究者であり実践家です。
チャプター1は「ジュネーブ忙中日記」というタイトルで、全体のほぼ1/3を占めています。“すさまじい”としか言いようのない活動が記されています。

緒方さんが難民高等弁務官に就任されたのは1991年1月ですが、ここには1993年と94年、つまり「世界の緒方」としての評価が確立しつつある頃の2年間を切り取っています。
まさに日記なので、ほぼ毎日の緒方さんの“動きと思い”が、リアルそのままに浮かび上がってきます。

語りたいだらけの内容なので、どれをチョイスしてAさんにお話しすべきか…頭が痛いのですが(笑)、これも次回の1on1でぜひとも紹介させてください。

(A課長)
ありがとうございます。
今回、Sさんとの1on1によって、コーチビジネス研究所の五十嵐代表が提唱する「異質の調和」の重要性を再認識しています。それは、『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で』の半ばあたりの第5章、「戦争への疑問…満州事変研究」のなかで緒方さんが語る次の言葉に接したことで、その思いを強くしています。
深い愛情と極めて次元の高いリアリズムが一体となった姿が伝わってきます。

緒方さんが語る「異質の調和」とは…

緒方 : 自分の国の将来にとってプラスがあると考えるのは、当然だったと言えるでしょう。けれども、そのプラスというものが、ほかの人びとの非常に甚だしいマイナスにならないようにしなければならない。その時に、どこまで現地の人たちにマイナスになるものが許されるのか、それは考えなければいけませんよね。
どこか違う土地に行って、かなり勝手に「これが望まれている」と言って押しつけることは今でもやっていますよ、いろいろなところで。そうでしょう?

小山 : それは、無責任になってしまうことですね?

緒方 : やり方によっては無責任になってしまいます。例えば、アメリカがアフガニスタンにリーダーを送る場合も、アメリカにとって全部プラスになるような人を置いてもしょうがない。あちら側にとってもプラスになることを理解して協力できる人を送るのが、今度はアメリカ側の責任になるわけです。全ての人が同じような生活をしているわけではないですから……

緒方さんはそう言った後、次のように続けた。

緒方 : 内向きはだめですよ。内向きの上に妙な確信を持ってそれを実行しようとすると、押しつけになりますよね。理屈から言えば、そうではないですか。内向きというのは、かなり無知というものにつながっているのではないでしょうか? 違います?

次回もSさんと緒方さんを語ってみたいのですが、よろしいでしょうか?

(Sさん)
もちろんです! 緒方さんワールドをさらに深めておきますので!

坂本 樹志 (日向 薫)

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~成功する1on1ミーティングの進め方~

コーチングの資格を目指したい方は、日本で唯一中小企業経営者向けエグゼクティブコーチを養成しているCBLコーチングスクール

『日本左翼史』『ロヒンギャ危機』にみる「閉じた世界」に関する一考察(2022/05/13)

3年越しで外国との接触を断たれた日本人の人々が、外国人の入国に一定の警戒感を抱くのは無理もない。だが、現状維持に安住する鎖国政策を敷いた日本のソフトパワーの衰えは、国の将来に深い爪痕を残しつつある……

日本経済新聞5月11日朝刊の「中外時評(上級論説委員 菅野幹雄)」の中の一節です。

今回の1on1は、Sさんのユング体験からスタートします。

(Sさん)
前回の1on1で、Aさんが国連難民高等弁務官事務所のデータを紹介してくれたこともあり、難民問題を調べてみよう、という内発的動機付けが芽生えています。そして、以前Aさんがユングの“シンクロニシティ”を解説してくれたことを想起する経験をしています。

(A課長)
“共時性”ですね。一般に「意味ある偶然の一致」と説明されます。ユングはそれを「偶然」という捉え方をしておらず、現在の科学では解明されていない“何か”が作用している、と考えました。私たちも「虫の知らせ」といった表現で、「あるある」的に話題に上ることがありますが、ユングはこのことを突き詰めようとしました。
ただ、現時点でも科学的説明には至っていませんが…

(Sさん)
英語表現は、シンクロナイズドスイミングに関連付けて憶えています。私のあいまいな理解を補完していただきました(笑)
もっともスイミングの方は、アーティスティックに名称が変わってしまいましたね。

さて、その経験なのですが…
前回の1on1でのZoomが終わるやいなや、「〇〇ちゃんの大好きな牛乳が無くなったから買ってきてくれる?」と妻に言われたので、駅前のコンビニに自転車で向かいました。日頃妻の指示に対してすぐに反応しない私ですが、孫のことは機敏に身体が動いてしまうのが不思議です(笑)
そのとき、私の頭の中は「難民問題」が占めていました。

そして…駅前に着くと、そこに国連UNHCR協会の人がいて、難民の支援に関するPRをしていたのです!

(A課長)
確かに… Sさん的にはシンクロニシティと受けとめる状況かもしれない。

国連UNHCR協会Our Valuesの第一は「人間の命と尊厳を大切にします」

(Sさん)
もちろん、ロシアのウクライナ侵攻があるので、その流れだとは理解できますが、30年以上、毎日のように立ち寄り続けた最寄駅で、かつこんな田舎の駅で目にするのは初めてです。

国連難民高等弁務官って緒方貞子さんが就任していたよなぁ~」と考えていたジャストのタイミングで、その協会の人が目に飛び込んできました。さすがに肝をつぶしました。別に幽霊ではないのですが…(笑)

それもあって、普段は話しかけるタイプではない私がその人に声をかけています。30分くらい話し込んだと思います。

「UNHCRは難民が発生した場合、即動きます。初動であり“ザッツ現場”です。一方でUNICEFはその後なのですね」というコメントもありました。

ちなみに私が「UNICEF…ユニセフは発音しやすいですが、UNHCRは日本語的に辛いですね」と口にすると、「みなさんそうおっしゃいますが、早口のユーエヌエチアールで通じますよ」という回答でした。

素晴らしい体験でした。初対面でありながら、コーチングでいうラポールが形成されたと私は感じています。

(A課長)
ラポール…「安心して感情の交流を行うことができる信頼関係が成立している状態」ですね。素晴らしい!
今回の1on1のテーマが見えてきました。

(Sさん)
はい、今日の1on1は「難民問題」をAさんと話してみたいと考え、1週間準備しています。協会の人に「お名刺を戴けますか?」とお願いすると、「あまりお渡しはしないのですが…」と言われながらも頂戴し、そこには「ファンドレイジンググルーブ 国連難民支援プロジェクト ファンドレイザー」という肩書が記されていました。
「どのようなお仕事ですか?」と私が尋ねてからの30分は、あっという間のひとときでした。

コーチングマインドによってラポールは形成される!

(A課長)
Sさんがその方と会話している姿が目に浮かびます。虚心坦懐に… Sさんがその方の話に耳を傾け、そして質問している情景が…

(Sさん)
Aさんからは体系だったコーチングを学んだわけではないですが、Aさんより毎回繰り出される(笑)コーチングの本質的な話題に接するうちに、私の中にコーチングマインドが育まれていくのを感じています。
その30分が終わって振り返った時、そのことを実感しました。

「私にとって緒方さんは雲の上の存在ですが、1度だけアフリカの難民支援の現場でお会いしたことがあります…」と、その人は遠慮がちに口にします。

そのエピソードを聴いて、私は「緒方さんって、とんでもなくすごい人だな~」と感動しています。ただ「このことは他言しないでほしいのですが…」と言われているので、話したいのはガマンです。

(A課長)
了解です。コーチングには守秘義務が伴います。Sさんとその方は別にコーチング契約を結ばれているわけではないですが…(笑)
よく「ここだけの話だけど…」と目を輝かせて、「あなただけに話します…」というのは、ほぼウソですね。そうやって信用が崩れていくのですが、多くの人は無頓着です(笑)

Sさんは「難民」、A課長は「左翼」に関する本を話題にします…

(Sさん)
ありがとうございます。コーチングのプロであるAさんは何気ない話にもコーチングが宿っている(笑)

その人から薦められた本があります。『難民に希望の光を 真の国際人緒方貞子の生き方(中村恵/平凡社・2022年2月16日)』です。出版して間もないにもかかわらず、私は2刷の4月15日版を購入しているので、多くの人が手に取っている本ですね。

この本を一気に読んで、間髪入れず購入したのが『ロヒンギャ危機「民族浄化」の真相(中西嘉宏/中公新書・2021年1月25日)』なのですが、これも一気に読みました。気持ちが入ると集中力が高まります。

(A課長)
私も読書体験を話したくなりました。よろしいでしょうか(笑)
前回の1on1で、Sさんがスターリン、そしてフルシチョフの「スターリン批判」のことを話題にされたので、「マルクスを起源とする社会主義、共産主義を解釈する過程で、それをドグマ的に受けとめていくと、どうしてスターリンやプーチン大統領といった人たちが世に誕生してしまうのだろうか…」と、思いが巡ります。

なので、前から気になっていた本なのですが、真説 日本左翼史 戦後左翼の源流 1945―1960(池上彰 佐藤優/講談社現代新書・2021年6月)激動 日本左翼史 学生運動と過激派 1960―1972(池上彰 佐藤優/講談社現代新書・2021年12月)を、この際読んでみようとアマゾンで購入しました。

Sさんではありませんが、この2冊を私はむさぼるように読んでしまいました。“しまいました”というと変ですが、「観念論に支配され相対化ができなくなっていくと、その人たちはどうなっていくのか…?」というプロセスが、「戦後40年間の左翼の歴史」という大河ドラマ… いえドラマではなく現実世界で起こったことが描かれていて、サスペンス小説を読むように“読破してしまった”という訳です。

『真説…』の方は、真っ赤なカバーで、
戦後左派の巨人たち、武装闘争の幕開け、野党の躍進と55年体制。
「左翼」は何を達成し、なぜ失敗したのか。忘れられた近現代史を検証する。

というキャッチコピーが記され、

『激動…』の方には、真っ黒なカバーに、
高揚する学生運動、泥沼化する内ゲバ、あさま山荘事件の衝撃。
左翼の掲げた理想はなぜ「過激化」するのか。
戦後左派の失敗の本質。

という刺激的コピーが踊っています。

「山岳ベース事件」は“現実”に起こったこと!

(Sさん)
「あさま山荘事件」が発生する前に、「榛名山のアジト」でとんでもないことが起こっていたことが明るみになりましたね。確か私が中学生のときで、ものすごいショックを受けています。
Wikipediaでググってみましょうか… ええっと「山岳ベース事件」だったと思います。

本事件は1971年(昭和46年)年末から1972年2月にかけて、新左翼の組織連合赤軍が警察の目を逃れるために群馬県の山中に築いたアジト(山岳ベース)において、組織内で「総括」が必要とされたメンバーに対し、人格否定にも近い詰問・暴行・極寒の屋外に放置・絶食の強要などを行い、結果として29名のメンバー中12名を死に至らしめた事件である。

本事件による犠牲者の続出、脱走者や逮捕者の続出で最終的に5名だけになったメンバーは警察の追跡を逃れる過程であさま山荘事件を起こすことになる。

(A課長)
私はその事件について耳にしたことはあっても、内容の理解はほぼゼロでした。
それが『真説…』『激動…』の2冊を読むことで、この「あさま山荘」と「山岳ベース」の2つの事件によって、「新左翼」の終焉というか、トドメというか、自滅崩壊してしまった、その流れが腑に落ちました。

その描かれ方は、研究分野にどうしても拘束されがちな学者のアプローチを超越する、池上彰と佐藤優という、“汎用的知性溢れる両巨人の語り合い”なのです。お二人の戦後日本の歴史観は、ほぼハーモナイズしていますから、読んでいて心地よかったですね。

(Sさん)
佐藤優さんの知性の幅は広大で、かつマニアックなところがあるので、理解するのに私は骨が折れるのですが、Aさんはいかがですか?

(A課長)
私もSさんと近しいところを感じていました。ただこの2冊での佐藤さんはちょっと違っています。おそらく編集の力もあると思います。つまり「会話そのまま」ではないと勝手に想像しています。

加えて、佐藤優さんの難解な語り口を池上彰さんが分かりやすい言葉で、都度補足していくので、つまりコーチングにおける「チャンクダウン」と「チャンクアップ」が的確に挿入されているのです。

「チャンクダウン」「チャンクアップ」とは?

(Sさん)
「チャンク」は“かたまり”のことですね。それを具体的に紐解くのが「チャンクダウン」、逆に、細分化された欠片を総合化し抽象度を高めていくのが「チャンクアップ」であると、以前Aさんから教えてもらいました。

(A課長)
ありがとうございます。
常にコーチングのことを考えている私は、この2冊の会話もコーチング的セッションとして読んでいます。
いろいろ紹介したいところもあるのですが、『激動…』の最後あたりの会話を紹介させてください。

池上 : それにしても、こうやってふりかえってみても、全共闘の活動がどうしてこうも先鋭化し、最終的に赤軍派や連合赤軍のようなテロ行為、集団リンチ殺人に至ってしまったのか不思議だという人は多いかもしれませんね。

佐藤 : そうですね。ただこれは「そういうもの」としか言いようがないです。
ナショナリズムにおいては、「より過激なほうがより正しいことになる」という原則があります。たとえば北方領土問題では、ロシアが実効支配している四島のうち歯舞諸島と色丹島の二島を返還させるよりは択捉島、国後島も含めた四島返還のほうが正しいということになる。さらにはサンフランシスコ講和条約締結時に日本が領有権を放棄した千島列島や南樺太も含めて全部返せというほうが正しいということになってしまう。

固まった空間の中に限られた人間だけで活動していると、どうしてもそうなるんです。革命運動もそれと同じで、より過激なほうがより正しいということになってしまうから当然に先鋭化する。

池上 : そうですね。閉ざされた空間、人間関係の中で同じ理論集団が議論していれば、より過激なことを言うやつが勝つに決まっている。

佐藤 : (前略)… それに加えて権力というのはもともとあまりに大きすぎる敵で全体像が見えにくいですから、権力よりは革命勢力の内側にいながら権力と迎合する(かのように見える)日和見分子の存在がどうしても目に入ってきてしまう。結果として権力よりも先に反革命勢力を打倒しないと革命は起こせないという思い込みから内ゲバに走っていく。

「閉ざされた空間」では何が起こってしまうのか…!?

(Sさん)
腑に落ちます! 共闘してこそ目的に近づいていくことができるのに、逆方向に進んでいく。
「全共闘」というネーミングに共感を得てスタートした仲間にもかかわらず、閉じた世界であるがためにフィクションである観念論に支配され、俯瞰する力が削がれ、圧搾空気が異常に高まった結果としての自滅ですね。

そうだ…今朝読んだ日経新聞の「中外時評」のなかに、確か「鎖国」という見出しがあったことを思い出しました。ちょっと待ってください… これです。
~「優しい鎖国」の見えない損失~というタイトルです。

新型コロナ対策で、一部緩和したものの、外国人観光客の入国を認めない鎖国ともいえる閉じた政策を続ける政府に対して、一考を促す記事です。

(A課長)
私も読みました。確か政府だけでなく、閉じていることで安心を感じる日本全体のムードを懸念する内容でもあったと思います。

私はその記事のとなりの、イーロン・マスクのツイッター買収に関する「FINANCIAL TIMES」の記事も印象に残っています。
ツイッターというのは、そもそも対話するツールではないですよね。目に留まったところは…ええっと、このあたりです。

……ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスは「公共圏」という概念を生み出し、それを「社会的地位に関係なく発言できる場」と定義したが、ツイッターはその点でも公共の広場とは言えない。……

ツイッターの実態とは…?

記事タイトルは、「ツイッターは派手な“劇場”」です。小見出しが「増幅される著名人の声」とあり、ハーバーマス氏の言う「ザ・ディスコース(討論)」ではなく“パフォーマンス”である、という趣旨です。

(Sさん)
なるほど… “劇場”と“パフォーマンス”というのはわかるなぁ~ つまり「目立ってナンボ!」の世界ですね。しかも「言論の自由」の裏腹には「ヘイトスピーチ」とトランプ政権が強弁した「オルタナファクト」も混在する… 実に悩ましいですね。
コーチングとは別次元の世界だ…

次回は「緒方貞子さん」について語り合う1on1です!

(A課長)
今日の1on1は、Sさんの提案により「難民問題」に焦点を当てて語ってみよう、という合意のもとにスタートしましたが、『真説…』と『激動…』にインスパイアを得た私の話が中心になってしまいました。申し訳ありません…

(Sさん)
とんでもない! 私は「1on1とは化学反応である」という考えに思い至っています。今日の1on1はAさんと私が流れのままに…村上春樹氏が喩える「自然な思考水路」に導かれていったセッションになったと感じています。そしてコーチングがベースの1on1は、Aさんから「オンゴーイング」であると聴いていますよ。

Aさんの解説で、『ロヒンギャ危機』を招いた国軍の振る舞いが、典型的な「自己中心的な閉じた世界」での意思決定であると、私の中で像が結ばれました。
ミャンマーは「鎖国的な価値観」を未だに抱えた国家であることが伝わってきます。昨年の2月には、またしても国軍のクーデターが発生し、国民民主連盟(NLD)政権の実質的な指導者であるアウンサンスーチーが拘束されています。

次回の1on1は、この『ロヒンギャ危機』と『難民に希望の光を 真の国際人緒方貞子の生き方』に触発された私の思いを披露させてください。
そうですね…その予告編として、緒方貞子さんの言葉を紹介させていただきます。

他者を尊敬・尊重するコーチングの世界観!

“多様性”への対応ですよね。このごろ、多様性というものはポジティブなこととして出されていますけれどもね。では、多様性にどう対応するか… やっぱり尊敬しなくてはいけないのでしょうね。尊敬というのはオーバーかな? 尊重でしょうか。

隣の人は自分と同じとは思わない方がいいですよ。あなたと私は違うのです。違った部分については、より理解しようとするとか、より尊敬するとかしなくてはいけないのではないでしょうか。“異人”という言葉。あれ、“異なる人”と書くでしょう。人間を見る時には、本当はにんべんの“偉人”でなくてはいけないのですよ。

(同書ブックガイド~『緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で(NHK出版)』より)

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プーチン大統領とゼレンスキー大統領の「成功・失敗」に関する一考察(2022/05/06)

権力にはしばしば偽善が伴う。冷戦時代、米国は民主主義を標榜しながら、収奪や大量殺人に手を染めるならず者政権を世界各地で擁立したり、支援したりしてきた。おそらくEUはこの先も本音と建前を使い分けていくだろう。身勝手な利益を「欧州の価値観」と言い換え、ロシアの脅威に対する安全保障を、民主主義やよき統治より優先するはずだ。

日本経済新聞5月4日朝刊の『FINANCIAL TIMES/危ういEUの「価値観外交」(シニア・トレード・ライター アラン・ビーティ)』の一節です。

今回の1on1は「異質の調和」からスタートします!

(A課長)
以前の1on1で、Sさんが日経新聞の「ソニーとホンダ」の異業種提携の記事を紹介いただき、価値観が似通う同じ業界同士の企業ではなく、異なる価値観だからこそ「新結合」、すなわちイノベーションが生まれるのではないか、という話が展開されました。

そして前々回の1on1では、4月19日の日経新聞の「連合会長、自民会議に出席~野党の支持団体で異例」という記事に目が止まったことで、コーチビジネス研究所の五十嵐代表が提起している「異質の調和」という概念について思い至り、熱く語ったように記憶しています。
今回の1on1は、そのあたりをもっと深めてみたいと思うのですが、いかがでしょうか?

(Sさん)
「異質」と「調和」…考えてみれば対極ともいえる言葉ですね。
「それによって創造的な仮説が得られる可能性が大きく高まり、だからこそ調和する力は、人の成長と組織の変革にも深く関わっている」と、いう内容だったと思います。
実に深遠な捉え方だ。

ところで日経新聞については、「こうあるべきだ!」というイズムが漂っていないのが気に入っています。ある意味で柔軟な新聞ですよね(笑)
今日はAさんが日経を読み込んで臨まれているようなので、私としても望むところです。

(A課長)
Sさん流言い回し…「のぞむ」の連呼ですね。さすがです(笑)

(Sさん)
見破られましたか(笑)
私もいつものようにしっかり読んでいますので、OKです。

(A課長)
私が取り上げたいのは、5面Opinionです。英フィナンシャルタイムズのコラムや記事を翻訳して、月水金に掲載されるページです。
確か2015年でしたか、世界的なクオリティペーパーとして高い評価が確立している英フィナンシャルタイムズを日経が買収したことを知って、驚きました。買収額も1600億円です。

(Sさん)
1600億円ですか… それはスゴイ!
金額は知りませんでした。2015年ということは、兆円単位のM&Aが飛び交う前ですね。日本の新聞社が世界に名をとどろかせているマスコミを買収したわけで、画期的なことでした。

私も英フィナンシャルタイムズのページは読むことにしています。日本文化の価値観が内在化している自分のモノの見方に、必ず一石を投じてくれるので、毎度毎度新鮮な感覚を得ることができます(笑)

英フィナンシャルタイムズは思考の相対化につながる…!?

(A課長)
私もSさんと同じです。買収によって日経新聞はドメスティックでありながら、他の新聞とは異なる、世界を俯瞰する立ち位置を得たと感じています。

今日の記事は、ウクライナのEU加盟がテーマです。NATOは軍事同盟ということもあり、EU、米国、そしてウクライナ自身も加盟を否定しています。ただEUについては、ウクライナが意欲を示していることもあって、私も含め多くの日本人がウクライナの加盟を応援する気持ちになっていると思います。
ところが、今日の英フィナンシャルタイムズの記事は異なる視点です。

(Sさん)
そうでした。私も少し違和感を覚えたのですが、考えてみれば英国はEUを離脱しているので、「はは~ん、もろ手を挙げて肯定できないわけだ…」と解釈した次第です。

(A課長)
そうなのですね。ただし「一理あるな」、と感じました。記事の主要テーマはロシアのウクライナ侵攻ではなく、EUの移民の流入に関するスタンスです。

……EUは「欧州人の生活様式を守るために」という当てつけがましい大義名分の下、移民の流入を制限している(この文言はさすがに批判を受け、変更を余儀なくされた)。そのため移民申請にやって来る人たちをEU域外へと押し戻す違法行為を繰り返し、国際法や人権をないがしろにしている。

15~16年の難民申請ではトルコに資金援助をし、シリアなどから欧州を目指していた難民を受け入れてもらうという見苦しい策を講じた。リビアとの合意は倫理的にいっそう強く非難されるべきもので、大勢の難民が性的暴行、拷問、殺人の横行する刑務所に収監された。……

同じ難民でも受け入れ国のスタンスは異なってしまうのか…!?

(Sさん)
プーチンロシアという安保理常任理事国がウクライナに侵攻したその衝撃によって、日本のマスコミ…おそらく世界も同様だと想像しますが、戦況が毎日報道されています。SNSによるリアルな映像もあり、対岸ではなく自分ごとのように受けとめる環境が生じています。さらに、ものすごい数のウクライナ難民がポーランドなどに流入しています。

ただ… 記事で取り上げているシリア難民とは、受け入れのスタンスが違っているのも、現実を映し出しています。

戦争は直接的被害もさることながら、拡大し長期化が必然となる宿痾たる難民問題が現出することを改めて実感させられます。

(A課長)
Sさん、私は地球規模の二大問題は、気候変動がいよいよ実感される地球環境問題と、この難民問題だと感じています。国連難民高等弁務官事務所、UNHCRのホームページは次のようなコメントで始まります。

UNHCRのホームページ ~数字で見る難民情勢(2020年)~

2020年末時点で、紛争や迫害により故郷を追われた人の数は8,240万人となりました。
2020年の間に、新たに故郷を追われた人は約1,120万人に達しました。初めての人もいれば、これまで複数回移動を余儀なくされている人も含まれます。

(Sさん)
今日は、私が想像するのとは埒外の数字をAさんから教えてもらう1on1になっている… ウクライナの状況は毎日報道されるので、受身でもどんどん情報が入ってきますが、報道されないことで、我々が知り得ない真実が膨大に存在することに気づかされます。
Aさん、今私は「覚悟」という言葉を想起しています。

真実に少しでも近づくには、情報に関して常にオープンにあらねばならない!
このことは、とてつもない努力を起動させ、強い意志をもって臨んでいかなければ実現しない!

つまり「覚悟をもつ」ということです。

(A課長)
私も実感します!
「見たいものだけを見て、聞きたいものだけを聞く」という認知心理学の知見を平たく表現したこの言葉を、Aさんと何度も確認し合っていますが、「バイアスに囚われてしまう私たち」から「少しでも進化していく」ためには、まさに「覚悟」が求められます。

(Sさん)
Aさんとプーチン大統領について、前回は「権威」、そして前々回は「孤独」というテーマで、1on1をやってみました。
プーチン大統領は就任して早々に、長期にわたるチェチェンとの紛争を力でねじ伏せます。

世界紛争地図/「世界情勢」探究会(角川SSC新書・2010年)』で、次のように書かれています。

02年10月には、チェチェンの武装勢力がモスクワの劇場を占拠する事件が起きた。自動小銃や爆弾で武装した約50人の犯行グループは、700人以上の観客を人質に立てこもると、チェチェン共和国から1週間以内にロシアが撤退することを要求。それが受け入れられなければ劇場を爆破すると訴えた。
これに対してプーチン大統領のロシア政府は、事件発生の4日後に特殊部隊を突入させ、犯行グループ全員を殺害。同時に人質約130人も死亡するという大惨事となった。

この事件に象徴されるように、00年にロシア大統領に就任したプーチン大統領は、チェチェン問題に対して極めて強い態度で臨んだ。チェチェンの過激派がテロ攻撃で抵抗しても、あくまで制圧を優先する姿勢を貫いたのだ。04年には北オセチア共和国の中学校に攻め入ったチェチェン独立派が1000人以上を人質に立てこもる事件も起きたが、この時も300人以上の犠牲者を出しながら制圧している。

プーチン大統領にとっての最初の成功体験はチェチェン紛争…!?

遡ること16世紀に帝政ロシアからの侵攻を受け、19世紀にロシアに併合されたのがこの地域であり、チェチェン人は民族としての独立心が強く、ロシアから常に警戒されていたという背景があったようです。

そして登場するのがスターリンです。
第二次世界大戦中に、「チェチェンは敵国であるドイツに協力するのでは…」という猜疑心が膨らんだスターリンによって、50万人以上がシベリアや中央アジアへ強制移住させられています。

プーチン大統領はそのチェチェン人に対して呵責容赦ない手法で制圧したのです。
世界は当然非難しています。ただチェチェンはロシア連邦内の共和国ということで、このたびのウクライナのような非難決議の広がりはなかったのですね。

(A課長)
私が中学生の頃だったと思うのですが、チェチェン紛争についてはおぼろげに記憶しています。そうか… プーチン大統領は、「前任のエリツィン大統領には手に負えなかった大問題を自分の力によって電光石火で解決した!」という成功体験として受けとめたのかもしれないですね。

それから…旧ソ連時代に、粛清の累積による恐怖政治で100以上の民族を統治したスターリンをロールモデルにしているような気がします。

(Sさん)
スターリンという人物は、大戦後世界に広がっていった社会主義的国家にとってのカリスマであり、崇拝の対象でした。他の独裁者のように悲惨な最後をとげるどころか、神のような存在のまま亡くなっています。

ただし、フルシチョフの「スターリン批判」によって、実像が世界に発信されます。
このことは、世界の信奉者の間に大混乱をもたらすのですが、とにもかくにも本人は英雄のまま生を全うしています。

徹底した情報統制は秘密警察であるKGBが作り上げた密告網によって維持強化されます。スターリンの頃も2億人の人口を抱える連邦国家でしたが、隠蔽体質というか、情報を外部に漏らさない監視国家の稠密な機構をスターリンはつくり上げています。

KGBが出自のプーチン大統領にとっては、フルシチョフ以前の国家体制こそ、独裁者として盤石な権限、権威を獲得するための必要にして十分な条件であると、信じるようになっていったのではないでしょうか。

プーチン大統領の経済的手腕とは…

(A課長)
Sさん、ウラジミール・プーチンでWikipediaを検索してみます。ちょっと待ってください… おっ、すごいボリュームだ。

私はプーチン大統領に関して、石油や液化天然ガスといった資源によってロシアを復活させた経済的手腕をイメージします。ええっと…このあたりですね。
2期目となる2004年のロシア大統領選挙で70%以上の圧倒的得票で再選したと書かれています。

……ロシア経済は原油価格の高騰に伴い2期目も実質GDP成長率で年6~8パーセント台の成長(2004年 – 2007年)を続けた。ただしその多くがエネルギー資源に依存していたため、その経済構造を是正し、より一層の経済発展を達成することを目的として、プーチンは2005年7月に製造業とハイテク産業の拠点とするための経済特区を設置する連邦法に署名した。
それによって同年12月に6箇所の経済特区が設けられた。

8年間のプーチン政権でロシア経済は危機を脱して大きく成長し、ロシア社会から高い支持と評価を受けている。国内総生産(GDP)は6倍に増大(購買力平価説では72パーセント)し、貧困は半分以下に減り、平均月給が80ドルから640ドルに増加し、実質GDPが150パーセントになった。……

豊かになる実感を得たロシア国民にとってプーチン大統領は救世主です。
ただし続けて読んでいくと…だんだん雲行きが怪しくなっていく…

……2011年12月4日投開票の下院選挙において、プーチン率いる統一ロシアの不正を示す動画がユーチューブに投稿された。また、下院選挙に国際監視団を派遣した欧州安全保障協力機構は「水増しなどの不正操作が行われた」、欧州会議は「多くの不正が行われ、政府による監視活動妨害があった」と発表した。ロシアの民間団体「選挙監視団」も統一ロシアの得票率が中央選管発表の49.3パーセントを大幅に下回る30パーセント以下だったとする調査結果を発表した。……

ロシアの飛び地であるカリーニングラードで、不正疑惑をめぐって政権を批判する12万人規模のデモが開かれたとも書かれていますね。

独裁型長期政権の行く末とは…

(Sさん)
「長期政権は必ず腐敗する」と言われますが、プーチン大統領にとっての逆回転が始まっています。こうなるとなかなか変わることができない… 独裁体制を築いてしまったから、誰も意見を言えない。

「孤独」「権威」、さらに「成功体験の呪縛」が加わり、プーチン大統領は、俯瞰した意思決定ができない精神状態に追い込まれていったのかもしれません。

(A課長)
一方のゼレンスキー大統領はコメディアン出身です。
私は日本のTVは吉本興業の芸人の人たちの力でもっている、と常日頃より感じています。芸風はさまざまですが、視聴者の気持ちをつかむ能力というか、次から次へと繰り出される会話術というか、本当にスマートな人たちですよね。

特にTVで視聴率を稼ぐことができる芸人は、ハンパない努力を積み重ねている人たちです。吉本興業の芸人とゼレンスキー大統領を符合させてしまうのは「いかがなものか」と言われてしまいそうですが…

(Sさん)
レーガン大統領はハリウッドのB級俳優でした。役者としては成功していないようですが、「視聴者から受け入れられることがすべて」という自分を徹底的に相対化させる努力を積み重ね、その上で政治の世界に入り、問題意識を高め、理念を行動につなげていった延長上に大統領職が待っていたのだと思います。

(A課長)
ゼレンスキー大統領のWikipediaには、こうあります。

……2015年、ウクライナの「1+1」でゼレンスキーが主演する政治風刺ドラマ『国民の僕』(こくみんのしもべ)が全24話で放映された。一介の歴史教師がふとしたことから素人政治家として大統領に当選し、権謀術数が渦巻く政界と対決する姿を、ユーモアを交えながら描いた同作はウクライナで大流行した。(中略)

ドラマ『国民の僕』の流行によって、国民の間では作中で描かれた主人公とゼレンスキーを重ね合わせ、現実の大統領選挙への出馬を期待する動きが起きた。2018年、ゼレンスキーは期待に応えて来年の大統領選出馬を声明した。……

そして決選投票で圧倒的な得票率によりポロシェンコに勝利し、大統領に就任します。まるで劇画のような展開です。
ただ現実は甘くなかったようで、期待が膨らんでいた分、支持率はどんどん下降していき、2021年10月には支持率25%まで後退しているのです。

ものすごく悩んだと思います。ただこの失敗体験によって、「どうしてこのような状況を招いてしまったのか」を自問自答し、そして周囲のアドバイスに耳を傾け、立て直していったのだと想像します。まさにレジリエンスです。

ウクライナ侵攻以降のゼレンスキー大統領の肝の据わった態度とコミュニケーション能力は世界が認めるところです。

「孤独感の有無」「権威の強弱」「成功と失敗体験」のファクターを人間という対象に当てはめ研究した場合のアウトプットとして、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の姿がクローズアップされるような気がしています。

本日の1on1の〆はPVPです!

(Sさん)
Aさんはコーチングの素晴らしさをいつも語ってくれますが、人が生きる目的である「Purpose」、人は何を価値として生きていくのかという「Value」、それを実現するためのブレない意志である「Principle」…このPVPを探求していくことがコーチングということなのですね。
あれっ? このPVPってAさんから伝授されたと思うのですが…

(A課長)
はい、コーチビジネス研究所五十嵐代表のメッセージです。VUCAの時代であり、私個人もアップダウンの連続だと覚悟していますが、このPVPを追い続けていこうと思っています。

坂本 樹志 (日向 薫)

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