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第3回:本当に“聴く”とは、言葉の外側に耳を澄ませること

本当に“聴く”とは

「よく聴くことが大切」。
それは、コーチングにおける最も基本的な原則として、初学者の段階から繰り返し語られる言葉です。しかしながら、ICFマスター認定コーチ(MCC)のレベルにおいては、「聴く」という行為は、単なる“聞き取り”や“傾聴技法”をはるかに超えた深い在り方として捉えられています。
本当に“聴く”とは、相手の話を理解することでも、上手に相槌を打つことでもありません。それは、相手の言葉の背後にある“沈黙”“感情”“場の気配”に、全身で耳を澄ませる在り方です。

「聴くこと」と「わかろうとすること」は違う

私たちはつい、相手の話を“理解しよう”としてしまいます。
「なるほど、つまりこういうことですね」とまとめたくなったり、「この人はこう感じているんだろうな」と内心で解釈してしまったり…。
しかし、こうした“わかろうとする”姿勢は、実は無意識のジャッジを含んでいることがあります。
本当の「聴く」とは、“わかろうとする”ことを手放し、ただそこに在ることをそのまま受け取る”姿勢です。
「理解するよりも、響き合うこと」――
それが、MCCの“聴く”という在り方における重要な質です。

言葉の外側に広がる「沈黙」や「空気」に耳を澄ます

クライアントが語る内容は、多くの場合、思考で整理された「外側の言葉」です。
しかし、コーチが深く聴こうとするとき、耳を澄ませるべきはむしろ、

  • 言葉の合間の沈黙
  • 声のトーンの揺らぎ
  • 感情の微細な波
  • 身体の緊張感やエネルギーの流れ

といった、“言葉にならなかった部分”です。

たとえば、クライアントが「まあ、なんとかやってます」と笑って話したとき、その声のトーンにわずかなかすれがあったなら、そのかすれの方が本音かもしれません。
そのとき、コーチは無理にその場を進めたり、答えを急いだりせず、そのかすれに“共に居続ける”ことを選びます。それは、問いではなく「沈黙」や「まなざし」そのものが問いになっていくような関わりです。

“Beingとして聴く”という在り方

ICFのコア・コンピテンシーでも、「傾聴(Listens Actively)」は技術ではなく在り方の一部として定義されています。
そこでは、以下のような態度が求められます。

  • クライアントが語っていないことに耳を傾ける
  • クライアントの意図、価値観、信念、感情に敏感である
  • コーチ自身の直観を信じ、沈黙を共にする勇気をもつ

つまり、“聴く”とは、「耳」で聴くことではなく、“存在全体”で共鳴することなのです。それは、コーチが完全に「今ここ」に在り、自分の思考や評価を脇に置き、相手の内的世界に寄り添う空間を開いている状態です。こうした在り方があって初めて、クライアントは自分自身の奥深くに触れ、今まで語ったことのない言葉を“自分に対して”語り始めるのです。

聴くことは、変容の第一歩を支える

あるクライアントが、こう語ったことがあります。
「初めて、誰かが“話を聴いてくれる”というより、“存在ごと受け取ってくれる”という感覚を味わいました」
この言葉は、まさに“Beingとして聴く”在り方がもたらした影響です。
クライアントは、言葉を整理する前から「感じている」存在です。
だからこそ、コーチが“耳”よりも“存在”で聴こうとすることで、クライアントの無意識が安心し、語られていなかった真実が表に出てくるのです。
そしてその瞬間に立ち会えたとき、コーチングは「問いかけ」でも「目標設定」でもなく、“ともに在ること”そのものが最大の支援となるのだと、深く実感できるのです。

“聴くこと”を信じられる静けさを持つ

優れたコーチは、話し上手ではなく“聴き上手”であるとは、よく言われることです。
しかし、MCCレベルでは、「聴き上手」とは技術的に巧みな人のことではなく、自らの静けさと整合しながら、相手と響き合える人を意味します。
「聴く」とは、クライアントの中にある“まだ言葉になっていない何か”に寄り添い、そこにともに立ち会う行為です。
それは、問いを生み、沈黙を尊び、信頼を育て、変容を可能にする、コーチングにおけるもっとも根源的な在り方なのです。

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国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
五十嵐 久

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