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第7回:変容とは、存在の再定義である

変容は「Being(存在)」の変化

「変化」は、コーチングの成果として多く語られます。
行動が変わった、考え方が変わった、関係が変わった――それは確かに価値ある前進です。
しかしながら、ICF認定マスターコーチ(MCC)のレベルで扱われるのは、単なる「変化(change)」ではなく、「変容(transformation)」です。
変化が「Doing(行動)」の変化であるならば、変容は「Being(存在)」の変化――つまり、自分という存在の再定義にあたります。

「変化」は選択の幅を、「変容」は世界の見え方を変える

たとえば、時間管理の課題を抱えるクライアントが、コーチングを通じてToDo管理を整え、スケジュールを改善するようになったとしましょう。
これは「変化」です。
一方で、同じクライアントが「私はいつも“他人の期待”に従って予定を詰めていた」と気づき、「自分の人生を、自分の意志で設計する人間でいたい」と感じ始めたとしたら――それは「変容」です。
変容とは、生き方の前提が書き換えられるような経験であり、それは表面的な行動の変化ではなく、内面の“構造”そのものの更新を意味します。

変容は「痛み」と「再統合」を伴うプロセス

変容には、しばしば“痛み”が伴います。
それは、古い自己像や信念、慣れ親しんだ行動パターンを手放すことでもあるからです。
たとえば、「完璧でなければ価値がない」と思い込んでいた人が、 「未完成なままでも、私は人とつながれる」と気づくこと。
「強くなければ認められない」と思っていた人が、 「弱さを見せることが、むしろ信頼につながる」と経験すること。
これらは、単なる考え方の転換ではなく、“自分はどんな人間なのか”という問いへの新しい答えの発見です。
MCCのコーチは、この変容のプロセスに伴走します。
無理に引き出したり、答えを導くのではなく、その人が自ら「自分を再定義する瞬間」を信じて見守るのです。

対話事例:存在の変化に立ち会う

クライアント:「ずっと、自分には“器がない”って思ってきました。人を率いる資格なんてないって…」
コーチ:「今、その“器”という言葉を使われたとき、どんなイメージが浮かびましたか?」
クライアント:(沈黙)……空っぽの鉢みたいな感じです。でも、最近、その空っぽって“スペース”なんじゃないかって思うようになって。
コーチ:「“スペースがある自分”で在るとき、どんな変化がありますか?」
クライアント:「……人の声をちゃんと受け取れる。今までは、自分を守ることばかりだった気がします」

このように、クライアントは「自分は器がない」というアイデンティティから、「空っぽであることで、他者を受け止められる存在だ」という自己の再定義へと進んでいます。

変容が起こる“場”とは何か

変容は、意図的に“起こさせる”ものではありません。
むしろ、それは偶然のように起きる、しかし必然だったように思える“場”のなかで生まれるものです。

その場とは、

  • 判断や評価のない、完全に“受容された空間”
  • 問いを急がず、沈黙を共有する“余白”
  • 自己との関係性が映し出される“鏡のような対話”

であり、そこにMCCの在り方がにじんでいます。
変容を支援するコーチは、“変えよう”としません。
ただ、“変わりうる存在として信じている”のです。

変容とは「自分に戻る旅」

変容とは、何か別の人間になることではありません。
むしろ、「本来の自分に、静かに戻っていく旅」なのだと思います。
その旅には、忘れていた価値の再発見があり、痛みを抱えたままの自己の受容があり、これまでの人生を意味づけ直す再構成があります。
そして、そうしたプロセスを経て初めて、クライアントは「今、私はこうありたい」と自分の存在を選び直すことができるのです。
コーチングの本質とは、まさにこの“選び直す場”を共に創ることに他なりません。
MCCとは、変容の瞬間を急がず、信じて待ち、言葉にならない自己の変化を、ともに静かに見守る存在なのです。

コーチングの本質に迫る方法の一つとして、リベラルアーツ教育に取り組んでいます。
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国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
五十嵐 久

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