
“ヨーロッパの盟主”
“自由民主主義の最後の砦”
はたまた、ロシア融和で、ウクライナ侵攻のすきをつくった“責任”者
さまざまな評価をされてきた宰相が来日しました
日本のテレビの取材に答えるのは、首相退任後初めてです
激動するポストメルケル時代を横目に書き上げた回顧録
タイトルに選んだ言葉は「自由」でした。
(在任16年での“後悔”とは…ドイツ・メルケル元首相が語る“混迷”の世界【報道ステーション】2025年5月29日)
メルケル元首相の生きざまをとおしてリベラルアーツを考えます
5月29日、テレビ朝日の「報道ステーション」にメルケル元ドイツ首相が登場しました。大越健介キャスターによるロングインタビューです。
引用は、テレビ版ではなく、YouTubeにアップされている「ANNnewsCH」の冒頭ナレーション(テロップ付)のコメントそのままを再現しています。映像は、メルケル元首相がテレビ朝日社屋の廊下を、スタジオに向かって歩を進めるシーンからスタートします。なかなか凝った導入でした。
今回のコラムは、「このYouTube版」を取り上げ、「リベラルアーツとは?」について考えてみようと思います。
インタビューの大越キャスターは、いつもと明らかに違っていました。緊張感が漂っています。リラックスした雰囲気は皆無。事前に練りに練ったと想像される質問内容を、噛みしめるようにゆっくり(滑舌を意識し確認するように)言葉にします。最初の質問とメルケル氏の回答を紹介します。
(大越)
今回発刊された自伝について、表題に自由という言葉を用いられた理由を教えてください。
(メルケル元首相)
テーマの自由は、私の人生全体を貫いています。この本は自由のない東ドイツの子ども時代から政界引退までを書いたものです。
「自由」は子ども時代に特別なものでした。当時、自由はありませんでしたが、政界に入り重要な意味を持ちました。自由は民主主義国家にしかなく、そのために私は活動してきました。
画面が変わります。「東ドイツで育ったこと、それがメルケル氏の原点です」とのナレーション。テロップは「1954年生まれ 東ドイツ育ち」。小さな本を持ち、大きな木を背にした4~5歳くらいの女の子が笑っています。
ナレーションは続きます。
東西冷戦の始まりと共に生まれた分断国家。その東側は貧しく、どこに秘密警察が紛れているかわからない灰色の世界でした。自由なき独裁体制下を生き抜いた少女が目指した道は、理系であり物理学。
「2たす2は東ドイツでも4なのだ」
回顧録の『自由』(KADOKAWA)の一節が紹介されます。物理学の研究者だったメルケル氏は、どうして政治の道に進むことになったのか? サイエンスの世界を突き進んでいた研究者に転機が訪れます。画面が変わります。ナレーションは……
世界を引き裂いていた分厚い壁が一夜にして崩壊しました。この日、西側になだれ込む群衆の中に、メルケル氏もいました。毎週木曜日が楽しみだったサウナのバッグを抱えたまま。
テロップは「1989年11月9日ベルリン」。映像はあまりにも有名なシーン。硬いコンクリートの壁の上に立った男性が、鶴嘴を振り下ろします。何度も何度も……
歴史の転換点をつかみ取り、政治の世界に飛び込んだメルケル氏。副報道官を皮切りに、閣僚、党首、そしてドイツ史上初の女性首相へと駆け上がっていきます。
このYouTube版は14分構成ですが、この2行のナレーションは、3分0秒から3分15秒までの15秒間流れています。この間、「東ドイツ副報道官」「女性・青少年問題相」「CDU党首」、そして「初の女性首相」の4つのテロップが現れ、スピーディに切り変わります。4つのタイミングに合わせ、メルケル氏のその時代の写真を被せます。首相就任は2005年11月22日。51歳でした。ベルリンの壁が崩壊し、メルケル氏は政治の世界に飛び込んだわけですが、「副報道官」は「東ドイツ」とあります。そこでWikipediaをチェックすると、次の記述となっていました。
ベルリンの壁が崩壊した後に、先行きが不安になった科学アカデミーを辞職し、「民主主義の出発」の結党メンバーになる。同党では報道官を務めた。1990年に東ドイツで行われた最初にして最後の自由選挙でこの党はCDU(西ドイツのCDUとは別組織。但し、同名の両党は再統一後合流した)と政党連合を組んでいたため、東ドイツ最後のロタール・デメジエール政権で副報道官に就任した。
1990年のメルケル氏は36歳、つまり15年間のメルケル氏を、写真と共に15秒で紹介したわけです。首相に就任した51歳のメルケル氏(現在より20年前)も、もちろん若々しい。そのような言葉で補うまでもなく、政治家として新たな道を歩み始めた36歳のメルケル氏は輝いている(ルッキズムと誤解しないでくださいね)。
リベラルアーツは「哲学」であり「自由学芸」と訳されます
「コーチングはリベラルアーツ」です。リベラルアーツの源流は「ソクラテスの対話(無知の知)」です。そして、「政治こそリベラルアーツが最も問われる最大の事象」であることが、政治家メルケル氏の生きざまをとおして、痛感されるのです。メルケル氏の回顧録のタイトルは「自由」。ドイツ語では「Freiheit」。政治がリベラルアーツの精神を失うと何が起こるのか……
6分あたりからのナレーションを紹介します。
一方のプーチン大統領、緊張と対立は常にありつつも、関係を維持してきました。ロシア語大会で優勝の経験もある秀才と、東ドイツに派遣されていた元工作員。互いの言語を理解し合える仲です。メルケル氏の首相退任の前に花束を贈ったプーチン大統領。その半年後の事でした。
大越キャスターは質問します。
(大越)
欧米諸国の首脳の中ではもっともプーチン大統領と長い時間会話をされた首相がメルケルさんだと思います。メルケルさんから見て、プーチンさんはどのような人物ですか。
(メルケル元首相)
プーチン大統領は早い段階で言いました。彼にとって20世紀最悪の出来事はソ連崩壊だと。そのソ連崩壊は私にとっては独裁政権からの解放でした。彼はウクライナとベルラーシが、独自の道を進むのが許容し難いのです。
おそらく、メルケル氏はプーチン大統領がウクライナ侵攻をしたがっていることを知っていた。そして、その非を懸命に訴えていた。ロシア語という「共有言語」による対話で。
2022年4月21日に<プーチン大統領とゼレンスキー大統領の「孤独」に関する一考察>というタイトルを付し、公開したコラム(架空の対話)の一節を再掲させていただきます。
前回のコラムで「西欧派とスラブ派の相克」、というキーワードが登場しましたが、ウクライナが西欧派に取り込まれていくことを恐怖と感じてしまっているのではないでしょうか。ソ連時代、そして栄光のロシア帝国の幻影に支配されており、現在のロシアを自分一人で背負っている(背負わされている)という、相対化が全くできない究極の孤独感がプーチン大統領を突き動かしているように見えてしまいます。
反EUの思念がどんどん膨らんでいきながらも、暴走をかろうじて止めていたのは、メルケル氏の存在であったように感じています。二人には会話ではない「対話」が確実に存在していた。そのメルケル氏が政治の世界から退いた。
メルケル氏は、ロシアとの断絶を次のように言葉にします。
プーチンと直接話す機会がなくなりビデオ会議や電話だけになりました。それがプーチンの判断を誤らせたのです。ウクライナの政権転覆がすぐにできると考えていました。
曲げて、曲げて、曲げて、けれど折れないようにすることです(フランシスコ教皇)
大越キャスターの最後の質問とメルケル氏の回答を引用します。
(大越)
メルケルさんがそのフランシスコの言葉に打たれた理由と、いまこれから、いろいろ壁が立ちはだかっている自由と民主主義を守っていくために、最も大事なことを教えてください。
(メルケル元首相)
自由を守るために最も重要なことは妥協を良しとすることです。妥協をする覚悟がなければ、共存はできません。多くの人がともに暮らせば異なる意見も出ます。家庭内でも休暇の計画を立てればみんな意見が違います。
全員が自分の主張に固執すればコミュニティーは崩壊します。妥協を軽視せず重視すること。それが私からのアドバイスです。
「言葉とは厄介だな」と感じます。ドイツ語の「Kompromiss」… 日本語では単純に「妥協」と訳されるのが一般化しているためか、テロップでもそう表示されています。ただ「妥協」という日本語が耳に入ってきた瞬間、メルケル氏が語る本質は、ぼやけてしまう。
そこで、生成AIに「Kompromissの妥協以外の日本語訳は?」と質問してみました。
(Copilotの回答)
「Kompromiss」の訳は状況によって少し異なるニュアンスを持つことがあります。日本語では「妥協」以外にも、以下のような言葉で表現できる場合があります。
折衷 : 意見や方法をすり合わせて中間点を見つける行為。
協調 : お互いに歩み寄る姿勢を強調する表現。
調整 : 違う意見や状況を上手くまとめる行動。
歩み寄り : お互いが理解を深めるプロセス。
ドイツ語の「Kompromiss」は、必ずしもネガティブな意味ではなく、「合意形成」や「協調的な解決」を示すポジティブなニュアンスが強いので、日本語に訳す際に文脈に応じた選び方が重要ですね!
表意文字の漢字には、「中観」「中庸」という熟語も存在します。「妥協と異なる世界」が広がっていますよね。ルリベラルアーツは「言葉」について深く深く探求します。優れたプロは「言葉」によって、クライアントとの間に深い深い関係性を築きます。
「リベラルアーツの本質」に向かって、ぜひとも学ばれ、行動されることを祈念しています。
詳しくはこちら:答えのない時代に対処できる力を養う「リベラルアーツ×コーチング」シニアエクゼクティブコーチ養成講座
坂本 樹志 (日向 薫)
現在受付中の説明会・セミナー情報
- 縦割り組織に悩む経営者・組織開発、人事担当者の皆様へ!「グループコーチングWA」体験会のご案内
- 【開催無料・中小企業経営者限定】エグゼクティブコーチングって何だ!できる社長こそコーチをつけている!
- 新『仕事と人生に役立つコーチング講座』がスタートします
- 人生が輝きだす最強のコミュニケーション術 無料講座
- 超入門初級コーチングいろは1DAY(10:00-17:00)セミナー
- ビジネスリーダーのための傾聴1DAYセミナー
- 1on1がうまくいかない・・なんとかしたいと思っているあなたへ上司として自信を取り戻す1on1スキル向上セミナー
- 【2025年6月1日、6月7日】コーチングスクールの説明会を開催します
- 【無料開催・経営者・人事担当者限定】これで会社を変える!社員の自律と成長を促すコーチング活用セミナー