公務員の退職者は増加傾向にある。公務員は国家と地方を合わせて約340万人いる。このうち「キャリア」と呼ばれる国家公務員総合職の入省5年未満の退職率は10%(16年度採用者)で、3年前に比べて5ポイント上昇した。
(日本経済新聞7月16日1面「チャートは語る~公務員“現場”求め新興へ」より引用)
心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年28回目の1on1ミーティングです。
「線状降水帯」について、チャットGPTに訊いてみた!
(A課長)
おはようございます。気候変動は明らかに異常ですね。この1カ月くらい、「線状降水帯」はテレビやネットでトップ級に頻出するワードになっている。試しに、チャットGPTに、「この1カ月でネット上に登場する線状降水帯というワードのランキングを教えてください」と訊いてみました。
(Sさん)
いい質問ですね。ちゃんと答えてくれましたか?
(A課長)
さすがに難易度の高い質問だったようです(笑)。次のように返ってきました。
ネット上に登場するワードで線状降水帯のランキングは、私の知る限りありませんが、日本気象協会が2021年6月から7月11日までの間に発生した線状降水帯の発生状況を解析しています。その結果、九州北部、山口、広島、四国南部、大阪湾周辺、近畿北部、岐阜県など多くの地域で線状降水帯が発生しており、その発生数は68回にも及んだそうです。
(Sさん)
なるほど… ただAさんは「この1カ月…」と訊いているのに、情報が古いですね。
(A課長)
チャットGPT4.0ですから、直近情報もカバーできていると思ったのですが、質問の仕方がちょっとあいまいでした。「この1カ月くらい…」は、「あうんの呼吸」を感知できる日本人的日本語です。それで「2023年6月1日から7月18日までの情報はわかりますか?」と、質問を追加しました。すると…
2023年6月1日から7月18日までの線状降水帯の発生情報は、気象庁のホームページで確認できます。その期間には、以下のような事例がありました。
6月3日には、台風2号と梅雨前線の影響で、四国~東海で線状降水帯が相次ぎ発生し、観測史上1位や6月1位の記録的な大雨となりました1。
6月12日には、石川県津幡町でため池が決壊し、道路が崩落するなどの被害が発生しました2。
7月2日には、台風2号が梅雨前線を活発化させ、連続して6県(愛知、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都)で線状降水帯が発生しました3。これは2021年6月以降、気象庁が線状降水帯の発生情報を出し始めてから初めてのことでした。
このように、線状降水帯は非常に危険な現象ですので、気象情報や警戒レベルに注意してください。安全第一で行動してくださいね。
と、一応カバーしてくれました。
チャットGPTの「回答」は「質問力」が鍵を握っている!
(Sさん)
ただ、秋田の情報がないですね。直近中の直近だからでしょうか? しかし驚きました。西日本が多いと感じていましたが、いきなり秋田です。「1日で1か月分の雨量…」というのは慣用句のようになっていますが、秋田の場合「1か月分を超えて1.3倍、1.5倍…」という初めて聞くコメントが登場しています。もう日本中どこでもありえる…
(A課長)
そして熱波です。Sさんのところは熊谷に近いので、大変でしょう。
(Sさん)
おっしゃるとおり、昨日は37度でした。もう「何をかいわんや」です。
(A課長)
7月16日1面の「春秋」で、熱波のなか仕事をしなければならない人たちに、筆者が「私事ながら…」と、身を寄せています。
私事ながら、外回りの仕事が多い妻にも勤務先からファン付のベストが配られた。借りて試してみた。バッテリーを内ポケットに入れケーブルをつなぐ。電源を入れると、うおおっ。腰から首筋へ、思った以上に強く逆巻く風が吹き上がるのである。妻は「自転車の信号待ちで汗が噴き出すことがなくなった」と大歓迎だ。
(Sさん)
「うおおっ」はいいですね。感動が伝わってくる(笑)
Aさん、蘊蓄をちょっと… いいですか?
(A課長)
はい(笑)
(Sさん)
ありがとうございます。ファン付作業服は、一般に「空調服」と呼ばれているんですが、この服を最初に開発したのは、セフトという会社です。「Wikipedia空調服」の、概要のなかにつぎのような記述があります。
ソニーを早期退職した市ヶ谷弘司が1998年に東南アジアを旅した事が、空調服の開発を始めるきっかけとなった。「東南アジアの人々がエアコンを使うようになれば、エネルギー危機が起き、環境問題につながってしまう」と考えた市ヶ谷は、6年がかりで空調服を完成させた。はじめは宇宙服や脳低体温療法用のブランケットと同じ水冷式だったが、改良を経て空冷式に変更。その後、パワフル・省電力な、静音ファンの試作を重ねて、3年後に販売までこぎつけた。
「空調服」はソニー出身者が開発していた!
(A課長)
ソニーウォッチャーのSさんが話したくなるわけだ(笑)
(Sさん)
おっしゃるとおり。ソニーという会社は、とにかく出入りの激しい会社です。実にオーブンなんですね。もともとアメリカンの風土が根付いていますから、業態変革もダイナミックです。日曜版1面「チャートは語る」のタイトルは、「公務員“現場”求め新興へ」です。見出しは「転職4倍、30代で顕著 待遇改善も後押し」とある。
「転職に最も遠い」と思われていた公務員もそうですから、明らかに日本の労働市場に、大変化が起こっている。
私は以前の1on1で、ソニーのことを「やんちゃな中小企業連合体」と喩えました。同じ1面に、「日本企業、今月初めに時価総額10兆円超 最多12社」という記事が掲載されています。ちなみに、現時点の時価総額はトヨタに次いでソニーは2位です。10年前の10倍なんですね。ソニーには夢がある!
ちょっと熱くなってしまいました。クールダウンします(苦笑)
(A課長)
労働モビリティの高まりが実感できます。私の妻の話で恐縮ですが、彼女は某国立大学の経済学部を卒業して、民間の金融機関に就職しています。私と違ってプレゼンス能力が高いというか…(笑)、はっきりものを言うスタイルが上司の目に留まって、官民交流で財務省の課長補佐として出向しています。かなり鍛えられたようです。
2年間頑張った末、古巣には戻らず、大手のIT企業に転職しています。なんだかすごい抜擢人事で、嫉妬したくなるくらい高給取りなんです(笑)
(Sさん)
リアルだ(笑)。「チャートは語る」の筆者である、新興・中小企業エディターの鈴木健二朗さんは、次のように記事をまとめていますね。
日本では新興から公務員への転職は少ない。米国は官民を行き来する双方向の人材移動が活発で、スタートアップ出身者の政府機関での活躍も目立つ。新興で経験を積んだ人材が回転ドアのように官民を行き来しやすくする転職制度の整備も重要になる。
A課長の妻は「回転ドアの人」?
(A課長)
回転ドア…まさに私の妻だ(笑)
Sさん、このところの日経新聞日曜版は、取り上げるテーマがカラフルですね。私は生成AIの動向にすごく興味があるのですが、7面の「総合5」では、「生成AI人材引き抜き~マスク氏新会社、ライバル会社から」をじっくり読んでみました。
(Sさん)
戦争を政治と言ってよいのかは別にして、世界の政治はゼレンスキー大統領が、そして世界経済はマスク氏を軸に回っている。マスク氏は実にモンスターだ!
(A課長)
まったくそうです。記事は見出しにあるように、マスク氏の「xAI」の始動を中心とした、IT企業の人材引き抜き合戦の様相です。記事のスタートは…
「xAIの目標は宇宙を理解しようとする包括的な目的を持った、優れた汎用人工知能(AGI)をつくることだ」。14日、参画する技術者とともに配信した公開質疑の冒頭、マスク氏は哲学的な言葉で切り出した。
(Sさん)
マスク氏ほどわかりにくい人物はいないというか、マスク氏のことがわかる人物はマスク氏になれる可能性があると思うので、そのような人は世界に皆無ですから、やっぱりマスク氏は、特異で理解不能な人物だと私は解釈しています。
(A課長)
いいなぁ~(笑)。マスク氏のことを「わかる」という人は信用できない。「わからない」ということをしっかり受けとめ、それでも「わかりたい」と思う気持ちがコーチングにつながっていきます。
マスク氏のことが理解できる人は信用できない!?
(Sさん)
今度は、私が「いいなぁ~」だ(笑)。記事に戻ると、米国のダイナミズムというか、労働モビリティの環境はケタ違いですね。中国もスゴイ!
米メタ(旧フェイスブック)や中国・字節跳動(バイトダンス)傘下の動画共有アプリTikTok(ティックトック)のウェブサイトでは20万~30万ドル前後、日本円で最大約5000万円の年収を提示する募集も見られる。トップ級の開発者は億円単位の報酬を得ているとされる。
日本は「辺境の島国」ですから、保守性からなかなか脱却できない。ただ黒船以来の大変化の予感です。若者の職業観は確実に変わっています。最難関の試験を勝ち抜き、獲得したキャリア官僚というポジションを、あっさり捨ててしまう彼らの意識がそのことを物語っています。
3面「総合2」にある囲み記事「きょうのことば 公務員」のタイトルは、「339万人、長時間労働など課題」です。
退職理由として「長時間労働」は見えやすいので、理解できますが、私は副次的な要因だと感じています。つまり「公僕」に意義を見出せなくなった。「夢」を語れなくなった、ということなのではないでしょうか。「政治家」についてもイメージの劣化は顕著です。大袈裟ではなく、国家観が根本的に揺らいでいる。
(A課長)
ミレニアル世代のど真ん中の私は、だからこそ期待が膨らんでいます。この20年、いえ30年、多くの識者が「日本の変革」を語ってきましたが、現実には変わっていない。ところがコロナ禍を経て今、大変化が起こりつつあります。
いよいよ「アンシャンレジームのくびきから解かれようとしている」、と思いたいのです。
それで、エビデンスというか、その「大変化」を示すデータはないか? と探していました。わが社は最近、法務部門の人材を厚くしていますが、最近、東大法学部卒の新人と話す機会がありました。彼は、「もう東大文Ⅰは特別じゃないんです。偏差値も文Ⅱの方が高いですから」、って言うんです。
日本のアンシャンレジームが崩壊を始めている…
(Sさん)
えっ、嘘でしょう。
(A課長)
感覚的にはつかんでいたのですが、調べてみると、東京大学の文科Ⅰ類と文科Ⅱ類の偏差値を同じとしているデータもありました。
(Sさん)
それは驚きだ!
東京帝国大学は、最優秀な国家官僚を養成するのが目的でつくられた大学です。そのシンボルが法学部です。法学部は別格ですから、東大を目指す文系の学生は、頂点である法学部に行きたいけど、偏差値に差がありすぎるので、やむなくⅡ類の経済を選ぶ…というのが、通り相場でしたよ。
(A課長)
それはSさんの世代感覚です。とにかく変わってきています。
(Sさん)
なるほど…
日本は、なんだかんだ言っても、これまで東大文Ⅰ閥というか、その人たちをトップとしたヒエラルキーでもって社会構造がつくられていたと思います。暗黙裡ですが…
(A課長)
今回色々調べてみました。私の解釈は、明治10年に東京帝国大学が設立されて以来、アジア太平洋戦争の敗戦を経ても崩れなかったヒエラルキーが今崩れ始めている、というのが私の結論です。
「きっかけ」というのは、後で振り返って理解されます。たかが偏差値ですから、エビデンスとしては無理筋かもしれませんが… ただ私はワクワクしています(笑)
日本は「東大文Ⅰ閥」をトップとするヒエラルキーだった?
(Sさん)
面白くなってきた(笑)
Aさん、線状降水帯の話題から始まった今日の1on1に相応しい記事が、日曜版の「THE STYLE」にありましたね。18、19面の2面を使った大特集です。気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎さんへのインタビューです。Aさんより少し上の39歳。技術官僚と言っていいのかな? 仕事を心から愉しんでいるプロ中のプロです。どアップ写真の笑顔がいい!
(A課長)
私も話題にしたかった(笑)
新海監督の『天気の子』について書かれています。
もう1つが映画製作への参加だ。19年夏公開の新海誠監督の映画『天気の子』の製作に、「気象監修」という形で協力した。映画では東京を経験したことのないような長雨が襲う。真夏なのに豪雨が大雪に変わり、嵐が終わると雲間から日の光がさす……。気象の描写が美しく、動きが豊かでリアルだ。積乱雲が発達していく様子、雨粒の形や振る舞いなど、荒木さんが細かくアドバイスした。作品中に登場する気象研究者のモデルでもあり、声の出演もした。
新海監督は雲を描くのが大好きですから、「雲をモチーフとした究極の作品を創りたい!」という願望がまずあって、「ストーリーは後付けなのでは?」と私は勝手に解釈しています(笑)。それにしても美しすぎるというか、描かれる雲がリアルなので、エンドロールで荒木健太郎さんの名前を見つけた時、記憶に刻まれたのですね。
(Sさん)
見出しの「天気のことはみんなで探る」の下にプロフィール紹介がありますが、新しい官僚像としての姿だ。
光の加減や時間帯によって様々な表情を見せる雲。美しさが人々を魅了する一方、時に狂暴化し、大雨をもたらす。荒木健太郎さんは多くの人に観測を経験してもらい、防災意識の普及に生かす。持ち前の情報発信力とオープンな姿勢は、気象研究の新たな境地を開く。
技術官僚、荒木健太郎さんの「ワーク・イン・ライフ」とは?
(A課長)
優秀な頭脳をもった高級官僚が、辞めていく理由として「長時間労働」ばかり強調するのは的外れだ、と言いましたが、荒木さんの日常も描かれています。
本の執筆も大好きだ。研究が行き詰っていたとき、出版社から教科書執筆の依頼を受けたのが、最初に本を書くきっかけとなった。研究の合間を縫って、時間はいったん帰宅して家族と食事などを済ませた後、夜遅く研究所に戻って取り組む。
いざわかりやすく書こうとすると、専門家のはずなのに「積乱雲のことが全然分からない」と衝撃を受けた。研究者目線とは少し違った立場で、雲と向き合うなかで、雲の面白さに改めて気付いた。今では、執筆が趣味といえるほどになり、監修した本を含めると、30冊以上を手がけた。「毎回すごく勉強になる」
私はこの記事で、Sさんと語り合った「ワーク・イン・ライフ」を思い出しています。公務員ですから、執筆に関わる印税が、荒木さんに懐に入るのかどうかわかりませんが、それも仕事だと想定すると、100時間残業どころではないですよね。でも荒木さんは充実している。Sさんが理想としている「仕事の趣味化」も、しっかり記述されている。
(Sさん)
「面白い」「気づく」がキーワードとして自然に盛り込まれている。残業時間ばかりに目がいくのは「ワーク・ライフ・バランス」の欠点です。私は、その言葉を死語にすることを提案します。
法規制も必要です。ただその扱いを間違ってしまうと、「角を矯めて牛を殺す」となります。日本という国は、法制化されると本来の目的があっという間に雲散霧消してしまい、形式至上主義に陥ります。靴に足のサイズを合すべく、懸命な努力が始まります。
仕事は苦行ではなく本来「愉しい」もの!
(A課長)
仕事って苦行でもなんでもなく、本来「愉しい」ものだと思うんですよ。最高の頭脳の高級官僚を政治家は手足のように、召使いのように使っていることに彼らが幻滅しているからじゃないですか。政治家こそ「ノブレス・オブリージュ」であってほしい。最高のリーダーシップを体得してほしい。それなのに…
(Sさん)
結局政治の劣化にいきつく。でもその政治家を選んでいるのは私たちだ。う~ん…また元に戻ってしまった(苦笑)
でも、今日確認できたことは、アンシャンレジームの崩壊が見えてきたことです。そこには当然混乱は生じるでしょう。でも、五木寛之さんが語ったように、リスキリングの前にはアンラーンが伴う。一旦ガラガラポンにする。
(A課長)
コーチングの世界観は「私たちは変わることができる!」です。未来を信じて、引き続きコーチング型1on1をやっていきましょう。
坂本 樹志 (日向 薫)
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