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「AT1債は債権なの?」を起点に「シリコンバレーバンク破綻」「クレディ・スイス損失吸収条項適用」、さらに「トラスティ(Trustee)」につながった1on1です!

──そのような金融機関のビジネスモデルの失敗を各国の監督で防ぐことはできないのか。
「金融監督は、つまるところ当局と金融機関との自然な対話を伴うものだ。もし弱点があるのなら、当局は銀行の経営陣や取締役に質問する権限をもつべきだ。ただ、監督当局に必要な人材がいないことが多い。(どのような対応が必要なのか)今後検討すべき分野だ」
(日本経済新聞7月9日2面「直言~財政・金融頼み もう限界~」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年27回目の1on1ミーティングです。

アグスティン・カルステンスBIS総支配人の「直言」インタビュー!

(A課長)
6月21日の1on1は、沖縄科学技術大学院大学長のカリン・マルキデス博士、28日はトニー・ブレア元英国首相の「直言」インタビューをテーマに語り合いました。
日本経済新聞が紙面の大幅刷新をアナウンスし、その第一弾というか、目玉企画の2面「直言」をテーマに選んだことで、これまでとは趣の異なる1on1が展開されたと思います。

(Sさん)
新しモノ好きなので… Aさんと語り合ううちに、結構濃い内容に深まったと思います。日経新聞の力の入れ方も伝わってきます。マルキデス博士、そしてブレア元首相という人選も新鮮でした。世界のビッグネームであることは間違いないですが、ブームとして世界がウォッチしている人物とも違って、日経新聞のテーマ性を強烈に感じます。インタビューも日経新聞のビッグネーム記者が担当している。啓発されます。

(A課長)
本当にそうでした。今回の1on1テーマも「直言」が候補になることは想定できたので、日曜版は1面のマスク氏を取り上げた「チャートは語る」はスルーして、まず2面を開き、「さあ読むか…」と気合を入れたのですが……

(Sさん)
ううん… その間は何を意味します?

(A課長)
ええ… 今回の「直言」は、世界中の中央銀行の中央銀行であるBISの総支配人に、日本経済新聞の藤井彰夫論説委員長がインタビューしています。このレベルになると私の知識量は絶対的に足りない。以前の「直言」と同じくSさんの主導で今回もやってもらおうか…という弱気な気分が兆したんです。

今回はA課長がちょっと苦手としている「金融」にチャレンジ!

(Sさん)
……

(A課長)
1on1ミーティングは上司というよりも、部下が提案するテーマの方がふさわしいので、それもアリだと思いますが、Sさんはただの部下ではありませんし(笑)、このところ、対等というより、私が受け身になってしまっている。「これではイカン」と思い直し、真剣に読んでみました。すると… イメージが湧いてきたんです。

(Sさん)
いいなぁ~(笑)。了解です、Aさんの視点でやってみましょう!

(A課長)
では……
私はその記事で、グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』を思い出しました。

(Sさん)
おっ、新鮮な切り口だ。かなり前、さまざまなリーダーシップ論について、歴史を紐解く1on1を10回くらい連続シリーズでやったとき、その最後に…3回くらいでしたか… Aさんがしっかり解説してくれました。分厚い本でしたが、苦労しながら私も読みましたよ。

(A課長)
ええ、コーチングと最も親和性の高いリーダーシップ論です。従来型のカリスマリーダーの時代は終わっています。そして、グーグルが基盤を作り、SNSによってニセ情報も含めた世界中のありとあらゆる情報が瞬時に検索、把握できる時代ですから、情報の非対称性で成り立っていたリーダーシップスタイルも使えません。
サーバントリーダーシップは、リーダーシップ論という側面だけでなく、経営哲学として腹に落ちてくる

「情報の非対称」に頼るリーダーシップはもう使えない!

(Sさん)
ええ、それが極めて専門性が問われる金融とどう結びつくのか、興味があります。
3月、シリコンバレーバンクの破綻で、世界はリーマンショックを連想しました。ただ、教訓が生かされたこともあって、かなり乱暴でしたが、迅速な処理策によって、一応封じ込めに成功している。ただ欠陥も露呈した。

(A課長)
ええ、そこなんです。「直言」では、「保護主義が効率を壊した」「銀行監督は人員足りず」と、BISのトップであるカルステンスさんが語っています。私は「銀行監督の在り方」に注目しました。

(藤井彰夫論説委員長)
米欧の金融不安は一服したが、金融システムは引き続き心配すべき状況なのか。BISにあるバーゼル銀行監視委員会は銀行の自己資本規制などを定めているが、規制・監督が十分ではなかったのではないか。
(カルステンスBIS総支配人)
米国やスイスの出来事は特異だ。米国の場合強い規制が適用されていなかった中堅銀行で事件が起こった。それぞれのビジネスモデルやリスク管理にも欠陥があったとみている。
クレディ・スイスは破綻直後も(金融機関の健全性を保つ)バーゼル規制は満たしていた。問題は、長期にわたり適切なビジネスモデルを欠いていたことだ。
とはいえ、今の規制に問題がないのか見極める必要がある。特にオンラインバンキングが普及してきたことで、預金が従来より移動しやすくなっている問題は検討していくべきだ。深い分析を要するが、必要なら規制の枠組みを見直す用意はある。

金融規制と高度な金融商品の開発は「いたちごっこ?」

(Sさん)
金融行政、特に規制は「いたちごっこ」ともいえますね。欲望がエネルギーとなっている「金融」は時に暴走する。リーマンショックが典型でした。失敗を経験すると、それをカバーしようと規制をつくる。それに対して「金がカネを生む」ことで商売している金融業界は、これまで存在しない高度な金融商品を開発し、売り出す。

米国のシリコンバレーバンクの破綻によって、1万キロ離れているクレディ・スイスに信用不安が広がります。金融の世界には国境がないことを痛感させられます。一商業銀行のシリコンバレーバンクと違って、桁違いの大きさを誇るユニバーサルバンクのクレディ・スイス・グループは、「世界の金融システム上で重要な銀行であるG-SIBs」です。「Too Big to Fail」ですから、2.2兆円のAT1債を無価値にするというスイス政府当局の措置で、UBSに救済買収されました。

(A課長)
AT1債という金融商品が存在することを初めて知りました。おかしいですよね。「債権」は元本保証が原則のはずなのに、株式よりも劣後の扱いとされたのには驚きました。

(Sさん)
ええ、日本語訳の「AT1債」だと、AT1は意味不明ですから、債権としか理解できない。AT1の正式英語名は「Additional Tier1 bonds」ですが、債権を意味するbondsを省略し、Tier1だけで呼ばれることも多いようです。Tier1は中核的自己資本ですから、capitalの意味も含みます。英語名では誤解されることはほぼないですね。

しかも、リスク情報は開示されていて、発行主体の自己資本比率が一定の水準を下回った場合に、損失吸収条項を適用することができます。つまり、無価値にすることができるんです。だから利回りは高い。

AT1債は、リーマンショック後に、バーゼルⅢで求められた自己資本比率を満たすために開発された金融商品です。制度設計そのものはグレーではなかった。ですから迅速な措置が可能であったし、それによって、世界の金融業界が「おかしい!」と、声を上げるようなことにはならなかったわけです。

ただし、クレディ・スイスに損失吸収条項が適用されたことは、世界にとってまちがいなく想定外の出来事です。しかも、いきなりの2.2兆円規模です。カルステンスBIS総支配人は、そのような諸々の背景を踏まえて回答しているんですね。

「AT1債」は負債と資本の両面の性格を有する「ハイブリッド証券」

(A課長)
「直言」に選んだ、という“きっかけ”で私の金融知識も深まった。“きっかけ”によって人間は変わることができます(笑)

Sさん、日経新聞のアーカイブをチェックしているうちに、3月31日の「真相深層」を見つけて、『サーバントリーダーシップ』が輪郭を帯びてきました。その記事は「揺らぐ経営、数値基準に限界」です。小見出しの「対話で本質を探る」のところを紹介します。

銀行救済の是非という選択を迫られた時、当局は救済を選ばざるを得ない。問題は、そこに至る前にいかに危機の芽を摘んでいくかだ。ヒントは世界の金融規制・監督の新たな潮流の中にある。

「『市場の失敗』と『当局の失敗』の総量をできるだけ小さく」。2018年、金融庁はこんな方針をまとめた。旧日本長期信用銀行の破綻から20年、検査局を廃止し、数値規制に傾斜した検査をやめると決めた。

銀行の財務諸表だけでなく、将来のリスクを対話を通じて探っていく。重箱の隅をつつくのではなく、銀行経営の実質、全体を見極めていくという考え方が根底にある。
グレディ・スイスの経営の実態をスイス当局は把握していたのか。今回の問題を単純な規制強化に結びつけても危機の再発は防げない。過剰規制などの「当局の失敗」を避けるためにも、対話を重視した金融規制の在り方は解になり得る。(金融エディター 玉木淳)

『サーバントリーダーシップ』は、理想を語っているだけでなく、これまでのあらゆるリーダーシップ論のなかで、最も実践的な理論でもあるのです。権力の乱用を抑制するためチームを「トラスティ」と名付け、その在り方を詳述しています。

「トラスティ(Trustee)」の直訳は「信頼され託される」こと!

(Sさん)
トラスティ… ああ、ありましたね。トラスティの意味は「信託」だ。

(A課長)
グリーンリーフは、第2章の冒頭でこう言っています。

現代の新しい必要条件は、組織に対する高レベルでの信頼だ。それがなければ、組織は奉仕できないし、今持っている自律性さえも失いかねない。「信頼」が今の緊急課題であり、そのためにトラスティの役割を広げる必要があるのだ。

(Sさん)
私は“守り”が苦手なので、そのあたりのコメントはうろ覚えだ(笑)。

(A課長)
グリーンリーフは、第1章の最後で、次のようにコメントし、第2章につなげているのですね。

強制的な権力はあからさまで暴力的なこともあれば、ひそやかで微妙なやり方で操作を行う場合もある。前者はオープンで目に付くが、後者は狡猾で目につきにくい。われわれのほとんどは、自分で思うよりも強制を受けている。それに気づくよう、もっと注意深くならなければならない。

第2章の最後あたりのコメントにも響きました。

一人の責任者という概念があまりにもしっかりと根づいてしまっている。この概念に馴染んだ者が多すぎるのだ。いまだに、疑問視もされずに権力が受け入れられる。そして組織の凡庸さは、今日、組織への期待感が大きく変わる中でも、見過ごされているのだ。(中略)

権力の濫用を抑制するには、権力保持者のまわりを強力で対等なメンバーが取り囲めばいい。そして、監視グループであるトラスティがそのチームをしっかり監督するのだ。
権力にはいくつか種類がある。その一つは強制的な権力で、おもに破壊のために用いる。この権力を使って作られるのは、たいして長続きしない。おそらく独裁的だと思われる企業のような組織も、強制的な権力を使用すると逆効果だということを学びつつある。手本を示すリーダーシップこそが、何かをつくり上げる方法なのだ。それはどんな分野にも通用する。

グリーンリーフの語りは「箴言」に満ちている!

(Sさん)
キーワードだらけですね。しかもリアルだ。監視グループももう一方の権力です。しかも「法律」という絶対的な権力のみで、規制しようとすると、ラポールは築けない。「倍返し」のネガティブモチベーションが膨らんでいく!

(A課長)
グリーンリーフが言うように、最後はやはり「対話」です。そこはまさにコーチングの出番です。
TBSのテレビドラマ『半沢直樹』では、金融庁の黒崎検査官を見事な悪役イメージで造型しています。それが大ヒットにつながりました(笑)。そうではない金融庁の姿を、日経新聞は記事にしている。

銀行の財務諸表だけでなく、将来のリスクを対話を通じて探っていく。重箱の隅をつつくのではなく、銀行経営の実質、全体を見極めていくという考え方がある。

という記述は、トラスティとなろうとしている金融庁の思いが伝わってきますね。

(Sさん)
何事も「チェック&バランス」です。今回の「直言」で、グリーンリーフの深みをさらに感じることができました。

(A課長)
インタビュアーの藤井彰夫解説委員長は、「構造改革の必要性、日本も」というタイトルで、感想をまとめています。

今春、世界をヒヤッとさせた米欧の銀行危機をカルステンス氏は「特異なケース」と指摘したが、金融のデジタル化に伴う預金の逃げ足の速さなど新たなリスクを気にかけている。
BIS規制は最近発表した年次報告書でも財政・金融のマクロ経済政策への過度の依存に警鐘を鳴らした。成長力を高める構造改革が必要というカルステンス氏の指摘は、財政・金融で大判振る舞いを続ける日本にもあてはまる。

構造改革は利害関係者間の徹底的な「対話」なくしては実現しない!

(Sさん)
日経新聞の2面は、通常「総合欄」です。それが7月9日の日曜日は「金融一色」となっている。社説も「国民の金融リテラシー向上が欠かせない」です。「貯蓄から投資へ」がコンセプトの岸田内閣ですが、日本文化には「投資のそもそも」を理解する感性がいまだに育っていないのではないか、と感じています。

(A課長)
3月1日の1on1でテーマにした「植田和男日銀総裁候補の所信聴取」の中で、Sさんはそのファクトを紹介してくれました。
「社説」もそのあたりのことを指摘している。

個人金融資産は2000兆円を超え、半分が預貯金だ。日本証券業協会の調査では個人の8割が株式などへの投資経験がなく、関心自体がなかったのが実情だ。
資産形成しまずライフプランを考え、リスクを踏まえて自分にあった投資をするのが本来の姿だ。しかし複雑でリスクが大きい「仕組み債」で高齢者が損失を被るといった例が後を絶たない。
販売側が相手の知識不足につけ込むのは論外だ。ただ「分からないものは買わない」「低リスク・高リターンという商品はありえない」といった知識が買い手にあれば避けられた可能性はある。

日本は「金融リテラシー」を軽んじ過ぎている未成熟国…

(Sさん)
日本は、投資リテラシーが成熟していない状況で、バブルが発生します。「土地神話」というまさに神のお告げのごとく、異常な共同幻想に支配され日本中が浮かれてしまいました。いよいよヤバい…となって、規制当局は、その反動形成のごとく、強引な「総量規制」にカジを切ります。そうして、失われた30年が始まったのですね。
金融リテラシーの向上は日本における喫緊のテーマですよ。

(A課長)
社説の最後は、先の国会で成立が見送られた「金融経済教育推進機構」の創設について、強く訴えています。

機構の役割の一つとして中立的なアドバイザー制度を設けるのは有効だろう。金融機関から報酬を得ず、家計のために助言する専門家として束ね、要請があれば学校や職場などに派遣するものだ。
英国は金融教育を担う公共機関を持ち、国家戦略に位置づける。金融知識が家計に広く共有されなければ運用立国は前進しない。

今日の1on1は、金融規制をコーチングである「トラスティ」の視点で捉えるところから始めました。最後は金融教育につながった。ただ「教育」という概念も見直しが進められています。すぐれた教師はすぐれたコーチングのコーチであることが共有化され始めています。

日本にもいよいよコーチングの時代が到来する!

(Sさん)
新たに導入される専門家派遣は、英国より一歩進んで、必ずコーチングのプロコーチが一緒に派遣される、というのがいいですね。そうすれば日本は変わっていく!
Aさん、日本にコーチングを広めるべく夢を持って取り組んでいきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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