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「コーチングのフィードバックとは何か?」を、妻とのコーチングセッションで考えてみた!

今回のコラムは、前回6月20日の「(株)コーチビジネス研究所 ニュース」に掲載したコラムhttps://coaching-labo.co.jp/archives/5282の続編です。
当該コラムだけでも主旨を把握できるように構成していますが、前回のコラムも併せてご覧いただくと幸いです。

<承前>

(A課長の妻)
あなたどうしたの? 元気ないじゃない。

(A課長)
いや、そんなことないよ…

(A課長の妻)
あなたって隠そうと思っても素直に態度に出るから、わかりやすいのよ(笑)

(A課長)
……

(A課長の妻)
言ってみなさいよ、ちゃんとフィードバックしてあげるから。それとも私に話せないようなことがあるの?

(A課長)
何言ってるの…(苦笑)
これまでSさんとの1on1ミーティングのことを、時おり君に話したと思うけど…

(A課長の妻)
ええ…中国駐在も経験した元部長のSさんね。お互いなんでも話せる関係性ができたって、あなた、喜んでたじゃない。

Sさんはファーウェイのスマホを使っていたので…

(A課長)
そう、それはOK… だからSさんが、日経でジョブズが取り上げられていたことを話題にしたので、スイッチが入ってしまい、そこからAppleのことをベラベラ話してしまった、という訳。
中国通のSさんはファーウェイのスマホを最近まで使っていたから、iPhoneやAppleのことは特に話題にしなかったのだけど、Sさんがジョブズのことを口にしたから…

(A課長の妻)
それが落ち込む理由?

(A課長)
落ち込むというか… いや、確かに落ち込んでいる。
自己開示を超えて自己呈示してしまったというか… 君も知っているように僕はジョブズマニアだから、ジョブズのヒストリーをガレージ創業から話はじめて、ピクサー買収の話をしたんだ。すると映画好きのSさんも反応してくれて、『トイストーリー』や『アバター』を観たときの感想を語ったんだよ。

自己開示はself-disclosure、自己呈示はself-presentation!

(A課長の妻)
いいじゃない、お互いに盛り上がったようだから。

(A課長)
うん、そこまではよかった。その後なんだよね。映画の『アバター』からの連想で、ヘッドマウントディスプレイメタバースがどう展開していくか… 君が話してくれるNFTについての解説までしている。

君は金融のプロで、業界的にも評価されている立場だけど、君からの聞きかじりを、ちょっと得意になって、仮想通貨と暗号資産、そしてウェブ3.0についてSさんに説明している。

(A課長の妻)
ふ~ん、それでSさんはどうなの? 

(A課長)
うん… SさんとのZoomの1on1については、録音している。20分くらいだけど、とりあえず聴いてくれるかな? 妻に聴かせるかもしれない…と、Sさんに伝え了解をとっているから。

1on1セッションを傾聴したA課長の妻の反応は…?

(A課長の妻)
なるほどね… あなたのまんじりともしない気持ちが、何となくわかってきた。
真ん中あたりで「デジタルネイティブのAさんによって、見事に解説いただきました」って、Sさんが口にしているところ…

あなたはよく、コーチングのフィードバックの重要性を私に語るけど、つまり評価ともジャッジメントとも違う「感じたことをそのまま自分の言葉で告げる」、ということよね。
この定義を踏まえると、Sさんのこの言葉は、フィードバックじゃないわ。

それから、声だけを集中して聴く、というのもちょっと新鮮。あなたが以前、「メラビアンの法則」を話してくれたことを思い出したの。

(A課長)
そういえばつい最近、LINE登録している『【公式】五十嵐久(コーチング専門家)』からのメッセージが、その「メラビアンの法則」だった。
ちょっと開いてみる…

「メラビアンの法則」とは?

Aさんも、「メラビアンの法則」って聞いたことあるのではないでしょうか?
メールなどを使用し、文章で思いや考えを伝えることはできますね。
ですが、その話し手が

  • 今どのような心の状態にあるのか
  • 健康状態はどうか
  • 話は真意を本当に伝えているのか
  • 真に話したいことはまだ心の底に溜まっているのではないか

このようなことは、やはり顔や表情、話し方などから読み取るしかありません。

有名な言語学の教授アルバート・メラビアン教授は、相手に真意が伝わる印象の強さの比率として、

話の内容:7%
話し方:38% 
ボディランゲージ:55%

となると発表しています。
非言語の方が、話の内容よりその人の真意が伝わっているということになります。

もしAさんが、一生懸命に何かを伝えようとしたとき、その真意は内容よりも、Aさんの話し方や身振りによって受け手は感知するということです。

「話し方」はシチュエーションも変えてしまう…?

(A課長の妻)
これこれ! 話の内容というのはテキストにしたときの意味だから、「デジタルネイティブのAさんによって、見事に解説いただきました」を、人の存在を消して文字情報だけを解釈すれば100%、いえ200%肯定している表現ね。

それから私は声だけを聴いている状況… つまり38%と結構大きなウエイトを占めている話し方に当たるけど、55%という印象形成に圧倒的な影響を与えるボディランゲージの観察に頼れない分、声のトーンに集中できている。ある意味でノイズからも解放されている状態ということね。確かに非言語である話し方の方が気になっている

ふと思ったのだけど、同じ意味のテキストにもかかわらず、関西弁と東京言葉では雰囲気が変わってくるわ。文芸評論家が面白いことを言っていた。
「川端康成の『雪国』のなかの駒子が、東京言葉を使っているのは、明らかに川端康成の脚色であり、フィクションそのものだ」、と。
越後湯沢の方言はよく知らないけど、その言葉を駒子が使ってしまうと、自分がイメージする「雪国の世界」ではなくなることを、川端はわかっていたのよ。

話し方はシチュエーションも変えてしまう、ってことよね。

(A課長)
相変らずスルどいね(苦笑)
それで君はどう感じた?

A課長の妻のフィードバックは“直球”…?

(A課長の妻)
Sさんはあなたにヨイショしてる! NFT、仮想通貨、暗号資産、そしてウェブ3.0を、あなた流の理解でSさんに伝えているけど、抽象的すぎるというか… プロが聞いたら行間を補いたくなるし、もし予備情報をもっていない素人が、あなたの説明だけで理解できたとしたら、その人は紛れもない天才よ。

(A課長)
キツイなぁ~

(A課長の妻)
私が真剣に話すと、あなたは必ずそういう言い方をする。社会学のロマンチック・ラブを持ち出すつもりはないけど、夫に気をつかわなければうまく関係性が保てない…というのは、THE ENDということよ。

(A課長)
わかった、わかった…
そういう言葉が返ってきそうなことは、予感していたから… まあ覚悟していたよ。

(A課長の妻)
大げさな… 覚悟するほどのこと?

(A課長)
話し方は印象形成に大きな影響を与える… という見本だからさ。
言葉の強さは別として、君のコメントはコーチングにおけるフィードバックだと受けとめる。まんじりとしなかった理由も、君のフィードバックで腑に落ちた。

Sさんは、日経FINANCIAL TIMESのOpinionを読んで、感じたことを僕に伝えようと思い、1on1を提案し、スタートした。
ところが僕は、Sさんにとって想定外のことを一方的に話し始めた。だからSさんは、しばらくガマンしたというか、言いたいことを呑み込んでいる。僕は君から聞きかじっていたNFTについても話している。得意になって…

妻のフィーバックでA課長の内省は促進されていく…

1on1が終わって、改めて録音を聴いてみたら、僕が7割方しゃべっている。
そもそもSさんがテーマにしようとしたそのOpinionは、実は最初のところしか目にしていなかったんだ。それはこの部分…

米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏はデザインに明確な方針を持っていた。「シンプルに。とにかくシンプルに」と公言もしていた。独デザイン学校バウハウスの機能美を重視し、その「レス・イズ・モア(少ないほど美しい)」という規範を自らも徹底して追求した。

この箇所で僕は、「Sさんもジョブズファンなんだぁ!」と思い込んでしまい、「同好の士」と認定してしまった。

Sさんの内なる思いは、Opinion全体を踏まえて、「尖がっているジョブズの価値観はときにトレード・オフになってしまう… それを超える皆が共感できる価値観とは?」について、僕と1on1を展開してみたかった、ということだった。

(A課長の妻)
あなたがよく言う、コーチングにおける「メタ認知」、「俯瞰する視点」、「相対化できる心の余裕」が、伴っていなかったということね。
ZoomでのSさんの表情はどうだったの?

(A課長)
そうなんだ。話すことに熱中してしまって、あまり表情は見えていなかった…

(A課長の妻)
あらあら、真意をつかむ情報の55%を占めるボディランゲージをあなたは見逃したわけね。

(A課長)
Sさんとの1on1はコーチングをベースとしつつ、化学反応を重視するという合意をもってやってきたから、上司である僕がコーチであり、部下のSさんがクライエント、と役割はあえて決めないで、ときにコーチとクライエントが逆転する1on1も展開できている。

だからこそ、深い関係性が生まれてきたと感じている。
だけど…

(A課長の妻)
今回は脇が甘くなってしまった(笑)

自己肯定感は自己効力感につながる…

(A課長)
その通り。ただ自己否定はしたくないし、自己肯定感は持ちたいと思っている。それが自己効力感につながっていくから。
Sさんは営業のプロと言われた人だから、ときに過酷な営業現場で、部下が気持ちを鼓舞して立ち向かっていくための言葉を豊富に持っている。ヨイショもお手のもの。
まあ、今回のヨイショは、話題を一端脇に置くことで流れを変える、というSさん的ファシリテーションの妙として、受けとめている。

(A課長の妻)
ポジティブでいいと思う。未来志向になっているじゃない(笑)

(A課長)
何だか、君にコーチングしてもらっている感じだなぁ… 一応ありがとう、と言っておくよ。今回君のおかげで、コーチングにおけるフィードバックを再確認する機会を得た。

コーチングのフィードバックは、相手に「気づき」を促すことが、その目的。僕が君との10年の付き合いで感謝するのは、ダイバーシティを深く考える、という機会を与えてくれたこと。
ダイバーシティというと、LGBTQがイメージされるけど、もっとも根源的なバイアスは、マチズモだと思う。

マイクロアグレッションは無自覚な悪意で相手を傷つける…

(A課長の妻)
男性優位が文化の基底に価値観として根付いてしまっていることね。マッチョはマチズモからきているワードね。

最近、マイクロアグレッションが話題に上ることもあるので、少しずつ変わってきているわね。「他者への小さな攻撃」という意味だけど、本人は無自覚というか、悪意はないんだけど、相手を傷つけてしまう「何気ない一言」。
あなたも、私と付き合い始めた頃は「女性なのにスゴイ!」とか、口にしていたわよね。

(A課長)
そう… 自分としては無邪気にしゃべった言葉に対して、君はその都度「それはマイクロアグレッションよ!」、と僕にフィードバックした。
最初の頃「なんでこんなことまで…」と、ムッ!としたけどね。

(A課長の妻)
あなたが素敵な人になってほしい、という素直な気持ちがあったからよ(笑)

プロコーチとは、本当のフィードバックを理解し実践する人!

(A課長)
ただ考えてみると、日本文化はオブラートに包んだ発言が好まれるというか、コーチングのフィードバックの意味を、ほとんどの人が理解できていない。

つまり「相手の話をしっかり聴いて、そして感じたことを、ポジティブ、ネガティブに限らず、自分の言葉でそのまま伝えること」が、真のフィードバックということ。
そしてその言葉は、忠告、批判、評価、非難、強制を含まない!
本当のプロコーチというのは、その力を備えている人ということになる。

マイクロアグレッションは、人種や民族といった大きなところから、家族構成やLGBTQなど、ここかしこに存在する。ところが多くの人はバイアスに侵食され気づいていない。

僕の場合は、君が徹底的にフィードバックしてくれたおかげで、「“気づき”とはどういうことなのか?」が、少しずつわかってきた。それがコーチングを学ぼうと思ったきっかけにもなった。

(A課長の妻)
日本の男たちが大切に育んできた「男性優位社会」の価値観も、そろそろ崩壊の兆しが見えているから、そうなったときオロオロしないためにも、今後も私のフィードバックをしっかり受けとめることね(笑)

(A課長)
わかっているけど… 君の何気ない一言もマイクロアグレッションになっている、ということも気づいてほしいけどね(笑)

坂本 樹志 (日向 薫)

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