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“包摂”の概念「ワーク・イン・ライフ」、そして「コーチング型1on1ミーティング」を語る1on1ミーティングです!

新たな働き方を象徴するコンセプトが「ワーク・イン・ライフ」だ。仕事と私生活の両立を目指す「ワーク・ライフ・バランス」に対して、仕事を含む人生全体の充実を意味する言葉だ。
(日本経済新聞11月4日 17面特集「強い会社はワーク・イン・ライフ」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、日経新聞11月4日の記事に触発されての1on1ミーティングです。さて、今回はどのような展開となるのでしょうか?

クライアントと同じベンチに座り同じ景色を見る…

(Sさん)
前回の1on1では、Aさんよりコーチングのスキル体系を簡潔に紹介していただきました。そのなかで「傾聴」が特に印象に残っています。「聴」の漢字の“つくり”をしっかり見ると、十の目と心なのですが、意識していませんでした。

(A課長)
コーチングでもっとも重要なスキルです。あえて「スキルを超えるスキル」と説明しています。これが体得できれば、他のスキルはスムーズに使えるようになります。
ただ、私もそうだったのですが、「傾聴しなければならない」と「ねばならない」を意識しすぎて、習い始めの頃は「がまんして聴く」という感じでした。ここから自由になるには、かなりの時間を要しました。

(Sさん)
そうでしょうね。私は、部下の話を聞くと、ついつい口を挟んでしまう…

(A課長)
コーチビジネス研究所のコーチングスクールで、「クライアントと同じベンチに座り、同じ景色を見ているような感覚をもちながら聴くイメージです」と言われ、「なるほど…」と思ったのです。

(Sさん)
私と部下が、欅の落ち葉が敷き詰まった公園のベンチに並んで座っている映像が浮かんできました。確かにがまんは不要だ。

(A課長)
まさに今の季節ですね。欅の落ち葉…しっとりとした風情が漂ってきました。

(Sさん)
ちなみに欅は埼玉の県木です。

(A課長)
Sさんの“埼玉愛”ですね(笑)
実感できる表現というのは大事だと思います。私たちは、言葉によって理解が進むし、一方でその言葉に縛られてしまうこともあります。

Sさん、11月4日の金曜日の日経新聞に、17面から20面の4ページ仕立てで大特集が組まれていました。「Smart Work」です。最初の17面の見出しは「強い企業はワーク・イン・ライフ」です。
ワーク・ライフ・バランスとは違う概念を紹介しています。私は初めてこの言葉を知りました。

ワーク・ライフ・バランスを再考させる新型コロナという外圧…

(Sさん)
読んでいます。私も新鮮に受けとめました。最近、日経新聞に触発されて1on1を実施するパターンが多いので1週間分はとっておくことにしています。ちょっと持ってきますね…

小見出しは「在宅・出社 探るハイブリッド」で、コロナは間違いなく外圧ですが、そのことで在宅勤務制度を持つ会社が19年度の60.3%から21年度は86%に拡大した、とありますね。先行企業では、住む場所を自由に選べる制度も導入されている。つまり、遠隔地に配属されても転居しなくてもすむ、ということだ。

(A課長)
画期的ですね。

(Sさん)
私は中国も含め4回転勤しています。最初の転勤命令は、娘が中学と小学生のときで、家族帯同にするか、単身赴任にするか、本当に悩みました。
「転勤は当たり前」であり選択肢は存在しなかったのです。ですから世の中大変化です。コロナは社会を激変させましたね。

自営業者以外は、自宅と会社が完全に分かれていましたが。会社員でも自営業者のようなスタイルで仕事をする世界の到来です。だから「ワーク・イン・ライフ」がクローズアップされる。

ワーク・ライフ・バランスとは「残業時間の削減」なのか…?

(Sさん)
Aさんが「言葉に縛られてしまうことがある」と言いましたが、1989年に大ヒットしたリゲインのCMソング… ええっと、タイトルは「24時間戦えますか」です… その時代の空を受容していた人間なので、ワーク・ライフ・バランスという言葉が登場した背景は理解できるものの、いきなり「残業時間の大幅削減」が会社の大目標となり、金科玉条のごとく叫ばれたので、部長職になったばかりの私はホトホトまいりました。
仕事は山のようにあるのに、部下に残業させられないので、葛藤にさいなまれました。

(A課長)
1989年は私が2歳の時です。リゲインのCMソングですか? ちょっとググってみます。
…歌の名前は「勇気のしるし」ですね。「24時間戦えますか」は歌詞の一部のようですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=_PoZk8rGfNQ

(Sさん)
ああ、そうでした。最後の「ビジネスマ~ン、ビジネスマ~ン、ジャパニーズビジネスマ~ン」が、今も耳に焼き付いています(笑)

(A課長)
ワーク・ライフ・バランスという言葉が登場した時期も調べてみましょうか?
…2007年ですね。官民を挙げて「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定されたのがきっかけのようです。
なるほど… 高邁な理念が掲げられている。

我が国の社会は、人々の働き方に関する意識や環境が社会経済構造の変化に必ずしも適応しきれず、仕事と生活が両立しにくい現実に直面している。

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり、若者が経済的に自立し、性や年齢などに関わらず誰もが意欲と能力を発揮して労働市場に参加することは、我が国の活力と成長力を高め、ひいては、少子化の流れを変え、持続可能な社会の実現にも資することとなる。

そのような社会の実現に向けて、国民一人ひとりが積極的に取り組めるよう、ここに、仕事と生活の調和の必要性、目指すべき社会の姿を示し、新たな決意の下、官民一体となって取り組んでいくため、政労使の合意により本憲章を策定する。

「ねばならない」に囚われてしまうと…

(Sさん)
そうなんです。まさに国家としての理想です。こうやって言葉により訴えることは重要です。ただ末端の管理職、そして部下は現実とのギャップに苦労するのです。
環境はそのまま、都合優先で制度変革が伴わないルールの独り歩きが始まり、「数字ありき」によるサービス残業が蔓延していったのです。

あまり大きな声では言えないのですが、私の理想は「仕事の趣味化」ですので、ワークとライフを分けなければならない、というこの言葉から伝わってくるニュアンスにどこか違和感を覚えていました。

(A課長)
「ねばならない」ですね。憲章は「社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない」とあります。よく読むと「なるほど…」の表現ですが、〆は「いかなければならない」ですから、う~ん、かなりキツイ…

それが「ワーク・イン・ライフ」になると、微妙にニュアンスが変わりますね。包み込むイメージです。
NTTは7月から「リモートスタンダード」、つまり「勤務場所は社員の自宅」とする制度を始めたようです。出社が出張扱いになるという逆転現象です。ユニークというか面白いですね。人事制度改革担当である山本恭子執行役員の「ワークはライフの一部だ。ライフの充実なくして、仕事の充実はない」とのコメントが目を引きます。

ワーク・イン・ライフは二分法ではなく「包摂」!

(Sさん)
新型コロナという外圧が制度の変革を促してくれた…とも受けとめられます。ただ、「労働時間は拡大 管理職の負担重く」という小見出しで、負荷が高まっている側面も紹介されていますね。

欧米が、職務記述書での仕事内容や責任を細かく定めた「ジョブ型雇用」であるのに対して、日本は、仕事の内容が限定されていない「メンバーシップ型」が一般的であることから、

チームワークを重んじ、上司への「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」など、密接なコミュニケーションが仕事上で大きな役割を果たすが、テレワークでは機能しにくくなる。

と、マイナス面が指摘されています。

(A課長)
その対策として、富士通の「1on1ミーティング」が取り上げられていますね。

月1回の頻度で、上司と部下が1対1で仕事の課題や今後のキャリアプランを話し合う「1on1(ワンオンワン)ミーティング」を強化。過去に話し合った内容を記録し、部下が上司の対応を評価するシステムを導入するなど、コミュニケーションの質を高めている。

(Sさん)
Aさんとは、毎週1回1on1をず~っとやり続けているので、こうやって特別のことのように書かれると、ちょっと違和感があります。

(A課長)
私がコーチングの資格を持っていることにSさんも興味をもってくれているので、私たちの1on1はコーチングがベースです。ところが日本の多くの会社の場合、1on1ミーティングと呼称するものの、その実体は業務報告、あるいはティーチングになっているのではないでしょうか。
ですから、本来の意味での「1on1ミーティング」ではなく一般的な「面談」になってしまっている、と感じています。

それから… 日本文化かもしれませんが、「1on1をちゃんとやっているか」ということを、担当部はまじめにチェックするので、「実施報告」を求める。

「報告」させる以上、受けた側にはフィードバックする必要があります。ところが、担当部は内容など見ていないのです。その結果、「報告」が目的化してしまい「報告書記入」という業務負荷が高まります。1on1ミーティングの形骸化が起こるのです。上司に「やらされている感」があると、1on1は機能しません。

不安な上司は「監視」することで安心感を求めるようになる…?

(Sさん)
そういえば、同じ日の日経「FINANCIAL TIMES」のコラムが「監視」をテーマにしていましたね。5面です。グローバル・ビジネス・コラムニストのラナ・フォルーハーさんが「社員監視、管理職は自問を」というタイトルで書いています。
響いたところをピックアップしてみます。

いずれにせよ、職場の監視強化はマイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が指摘するように、企業側があらためて「生産性を上げなければ」と強く思いすぎている状況を表わしている。在宅勤務がある程度定着し、多くの従業員が在宅勤務をやめたくないと考えていることから、会社側が新たな勤務評定基準を探そうと必死なのは明らかだ。

だが、テーラーイズム(編集注、米経営者フレデリック・テイラーが提唱した工場などでの生産性の管理手法)のいわばデジタル版は、将来の道筋を示すものではない。

(A課長)
テイラーの科学的管理法が書かれていますね。それに対する強烈な皮肉が、チャップリンの「モダンタイムス」だ。
ここにも「生産性を上げなければ」という「ねばならない」という表現が使われている。

「デジタルによる監視技術」という魔法の道具を知ってしまった、持ってしまった現代社会において、権力を握ろうとする人物、権力を握った人物は、ともすれば性悪説に立って「監視」することで不安を紛らわせようとします。

(Sさん)
世の中、悪いヤツはいますよ。ただ環境がそういう人物をつくっていくわけで、やっぱり「性善説」に立脚したいですよね。人は羽目を外すものです。ですから、少々なわるさはスルーしてあげないと…(笑)

(A課長)
Sさんのバランス感覚は好きだなぁ~(笑)
コーチビジネス研究所のホームページに、「『1on1ミーティング』と一般的な『面談』との違い」というタイトルのコラムがあります。違いが分かりやすく整理されていますので、ここで共有しておきましょうか。

(Sさん)
まさにコーチングだ。
4つの見出しで、端的に特徴が示されていますね。

  1. 1on1ミーティングの目的はメンバー(部下)の成長支援にある。
  2. 1on1ミーティングの主体はメンバー(部下)にある。
  3. 1on1のフィードバックは評価や判断を入れない。
  4. メンバー(部下)にとって楽しい時間であることが大事。

ティーチング型からコーチング型1on1ミーティングへ…

(A課長)
1on1の主体は部下なのです。「上司と部下の関係性を取り外すのが1on1」と言われても、日本の会社における上下関係は、染みついてしまっているので、1on1ではそれが出来ないのです。
だからこそ、1on1ミーティングの導入に当たっては、管理職全員が「コーチングの本質」を学ぶ必要がある、と強く感じています。コーチングの3原則を頭だけでなく全身で受けとめることが求められます。

会社で行われる「面談」は、基本的にティーチングとなっています。これをコーチングに変えていくのは、並大抵のことではないと思うのですね。

今日の1on1は、スキルを超えたスキルである「傾聴」をSさんが話題にするところから始まりました。日本の管理職全員がこの「傾聴」を理解し、そして1on1ミーティングの場でそのことを実践できるようにしてほしいと思います。

クライアントがコーチのことを心から信頼し、コーチが「傾聴」によってクライアントに接していると、クライアントにオートクラインという現象が生じることがあります。

心からの安心感を抱いてクライアントはコーチに身を委ねます。「筋道を立てて論理的に話さなければ…」という、「ねばならない」を意識することなく、頭に浮かぶことを「徒然なるままに」クライアントは言葉にします。話の途中でコーチは口を挟むことなく、真剣に聴いてくれます。

時間が経過していきます。すると、クライアント自身が、自分の言葉を自分の耳で聴いていることに気がつきます。自身の内側で「無意識の何か」が「意識」として浮上してくるのを感じるのです。
これがオートクラインです。

「オートクライン」により“その人が本来持っている可能性”が浮上してくる…

(Sさん)
なるほど…

(A課長)
この現象は、プロのコーチとクライアントの間に深い信頼関係が存在しているコーチングセッションの場だから起こることですが、コーチングのことを理解し、コーチングを1on1ミーティングの中で実践しようと上司が取り組むことで、部下の中にオートクラインが起こることはありえます。

(Sさん)
前回の1on1に引き続き、コーチングの深いところをSさんに解説いただきました。コーチングという言葉は氾濫しています。言葉の独り歩きは、なかなかやっかいなことですが、本質としてのコーチングが広がっていくことを私は希求しています。
おっと、ワーク・ライフ・バランス憲章にある高邁な表現を使ってしまった(笑)

Aさん、これからも「コーチング型1on1ミーティング」をやっていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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