
新入社員研修が終わり、配属が始まると、現場からこんな声が聞こえてくることがあります。
「特に問題はなさそうだ」
「真面目で大人しい」
「言われたことはきちんとやっている」
一見すると順調に見える新入社員。しかし、その内側では、強い不安と孤独が静かに広がっていることが少なくありません。
新入社員にとって最もストレスの多い最初の90日
新入社員にとって、入社から最初の90日は人生の中でも特にストレスの高い期間です。
環境は一変し、人間関係はゼロからの再構築。仕事の正解も、評価基準も、職場の空気も、すべてが不確かです。この時期に彼ら・彼女らが最も強く感じているのは、「できるかどうか」よりも、「ここに居ていいのか」「頼ってもいいのか」という問いです。
しかも、この不安は表に出にくいです。新入社員は「弱音を吐いてはいけない」「迷惑をかけてはいけない」と思い込み、質問や相談を控えるようになります。その結果、周囲からは「問題が見えない新人」に見え、不安は本人の内側で膨らみ続けます。そしてある日、突然の体調不良や意欲低下、最悪の場合は早期離職として表出するのです。
ここで重要なのは、心理的安全性を制度やスローガンでつくろうとしないことです。
「何でも相談していい」「失敗しても大丈夫」と言葉で伝えても、新人がそれを信じられるかどうかは、日々の体験で決まります。
心理的安全性とは、「言っても大丈夫だと頭で理解すること」ではなく、「言っても大丈夫だった、という経験の積み重ね」なのです。
最も大切なのは新入社員の内的安全性
コーチングの視点では、この時期に最も大切なのは、新入社員の“内的安全性”――つまり、自分の中にある安心感を育てることです。
そのためには、
・正解を教える前に、まず話を聴く。
・評価する前に、感じていることを言葉にしてもらう。
・「どうしたらいいか」よりも、「今、何に戸惑っている?」と問いかける。
こうした関わりが、新入社員に「ここでは、自分のままでいい」という感覚をもたらします。
ある企業では、配属後3カ月間、新入社員に対して週1回の“リフレクション・チェックイン”を実施しました。
内容はシンプルで、「今週、安心できたこと」「少し不安だったこと」をそれぞれ一つずつ話すだけです。評価も助言もありません。それでも、新入社員の表情は次第に柔らぎ、「不安を言葉にしていい」という空気がチームに広がっていきました。
結果として、相談の質と量が増え、問題の早期発見にもつながりました。
心理的安全性は、「甘やかし」ではありません。
それは、学びと挑戦の前提条件です。
人は安心できて初めて、考え、試し、成長することができます。
特に新入社員にとって、最初の90日で「ここでは話していい」「助けを求めていい」と
感じられるかどうかは、その後の数年間の行動様式を決定づけます。
新入社員研修の役割は、安心の土台をつくること
新入社員研修の役割は、スキルを詰め込むことではありません。
それは、配属後も続く安心の土台をつくることです。
不安や孤独を「乗り越えさせる」のではなく、「受け止め、言語化し、共に扱う」。
この姿勢こそが、コーチング的新人育成の核心です。
新入社員が最初に学ぶべきことは、仕事のやり方ではなく、「この会社では、人としてどう扱われるのか」です。その答えは、最初の90日の関わり方の中に、すでに刻み込まれています。
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日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久
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