アーレントは古代ギリシャのポリス(都市国家)に、民主主義の範を求めた。政党制や議会制の限界を知り、市民の直接参加で政治を進める「評議会制」に、次の希望を見出したりしている。
(日本経済新聞1月25日11面~「Deep Insight~哲人が問う民主主義の危機」より引用)
「符合の感覚」は「アドラーの目的論」なのかもしれない
一週間前に公開したコラムの最後に「モチベーションにつながる“符合の感覚”を大切にしたい!」という見出しを付して、深く考えていることが「なぜだか向こうの方から私に近づいてきてくれる感覚(自分は努力していないにもかかわらず)」について、語っています。「これってアドラーの目的論かもしれない…」と、妙に納得しています。
それは、毎日新聞1月19日の特集記事(1面+3面)を読んだ際に感じた「有難い感覚」でした。その記事から、奇しくもハンナ・アーレントにつながったのです。それが今度は、1月25日の日経新聞の11面を開いた際に訪れたのですね。
ハンナ・アーレントについて、ちょうど3年前にコラムで取り上げています。「アイヒマン実験」にも触れています。それ以来、アーレントは私の中での大きなテーマとなっています。そこで今回は、この11面を端緒に、1月25日の日経新聞を横断的に読み込んでみようと思います。
引用は、日経新聞本社コメンテーターの小竹洋之さんによる「Deep Insight/Opinion」の中の一節です。左側1/4のスペースにアーレントの写真と、記事全体の骨子…「アーレントは何を語っていたのか」がチャンクアップされています。
私が「アーレントがすごいな」と感じるのは、新聞各紙が「社説」として「あるべきだ」という表現(文体?)で「意見」するのとは異なり、「現実に起こったこと・起こっていること」を、ものすごく冷静な視点、つまりメタ思考で「淡々と記述する」のですね。そこからアーレントの思索が開始され、いくつかの見解を私たちに届けます。「べき論」ではありません。とにかく私たちに徹底的に考えることを促すのです。
小竹洋之さんは、アーレントの著作と論文のなかから、アーレントの箴言を3つ抽出しています。引用します。
哲学者アーレントは「処方箋」を提示しているわけではない
『全体主義の起源(1951年)』
全体主義運動はアトム(原子)化され孤立させられた個人の大衆組織だ
『人間の条件(1958年)』
共通世界に関わる活動と生命の維持に関わる活動の境界線はかすんでしまっている
『真理と政治(1967年)』
真理はわれわれが立つ大地であり、われわれの上に広がる天空である
さて、ここで一旦アーレントから離れます。続いて土曜日に掲載される読書欄(30-31面)を取り上げます。ここには、毎週かなりの数の書籍(最近出版された本)が紹介されています。
今この時、VUCAの時代であることが、トランプ大統領の復活によって、世界で共有されることになりました。それは、私たち個人レベルの「実感を伴う“気づき”」にまで昇格したのではないでしょうか。
出版される本は、その時代の映し鏡です。そして識者とされる批評家(書評家)が、それらの本をどのように読み込んでいるのか…コーチング思考を動員して、チョイスし、引用してみようと思います。私のコメントは控えます。当該箇所を選択したことがその答えだと受けとめていただければ幸いです。<>は書評のタイトルです。
キーワードは「対話」「領域をまたぐ」「双方を包括」「予断の戒め」
『読まれる覚悟(桜庭一樹 著)』…「あとがきのあと」と題した記者のインタビュー
論理に根ざした良質な批評に触れた時の「前向きのキラキラした悔しさ」は次作に生きるという。「書評家や批評家は小説家の教育者(メンター)になりうる。(中略) 誰でもSNSに読書の感想や作品の考察を投稿できる。SNSは誹謗中傷のリスクもあるが、言論の活性化が「良い形で小説を批評することにつながったらいい」。
<小説と批評、対話できる関係に>『エッシャー完全読解(近藤滋 著)』…「評」芸術学者 布施英利
著者の近藤氏は大阪大学で長年にわたって生命科学の研究に取り組んできて、現在は国立遺伝研究所長である。え? 科学者が美術の解説をしている本? つまり研究の傍ら、趣味で芸術を愛好した余技なのか。(中略) そこで、これは科学の本なのか、芸術論なのか、と思う。(中略) 養老(孟司)先生は、自身のジャンルを鴎外に重ね、科学でもなく文学・哲学でもない「もう一つの系譜」をそこに見たのだろう。本書そして著者の取り組みも、まさにその系譜の現代にあける達成であろう。科学と芸術にまたがる知の喜びが、この本には溢れている。
<科学と芸術にまたぐ知の喜び>『二項動態経営(野中郁次郎 ほか著)』…「評」開志専門職大学副学長 徳田賢治
野中名誉教授は、多くの企業の組織的知識創造の実践に通底する視点として、単純な「あれかこれか」という二項対立ではなく、「あれもこれも」という二項動態的な考え方により、不確実な将来の中でも、双方包括する新たな道を切り開いていく姿勢が、組織的知識創造に不可欠であることを見抜いたのである。
<双方を包括 新たな創造の道>『姉と弟(藤原聡 著)』…「評」専修大学教授 武田徹
予断に縛られたまま死刑判決を下し、プライドを守るために再審請求を退けたのではと思いたくなる、非人間的な司法関係者とのコントラストを際立たせる。「袴田事件」ではジャーナリズム自身も実は批判を免れない。「(事件後)最初の報道がひどかった」と語るひで子さんの言葉を著者は引くが、58年前にジャーナリズムは警察発表を鵜呑みにして冤罪づくりに加担していた。
<司法・報道、予断が招いた冤罪>
「未来」は、現在の混沌がそのまま引き延ばされるわけではない
『シンギュラリティはより近く(レイ・カーツワイル 著)』…「評」東京大学教授 松尾 豊
本書を上梓した意味も私にはおぼろげながら分かるように思う。それは、近い将来、シンギュラリティが来るとますます信じているからだ。そして、より良い形でシンギュラリティを迎えたいと思っているからだ。(中略)最後にギリシャ神話における「悲劇の預言者」カサンドラをしっかりと説得する「カサンドラとの対話」で本書は締めくくられる。まるで、人類の行く末が幸福であることを確信するかのように。
<人類の幸福な行く末を予言>
もっと取り上げたいのですが、このあたりにとどめます。
ところで、ここまで書いて1月27日(月)の日経新聞を手に取ったのですが、「野中郁次郎氏死去~知識経営の権威『失敗の本質』」の文字(1面に掲載)が目に飛び込んできました。御冥福をお祈り申し上げます。
見通しが立たない世界だと鮮明に自覚されるようになると、多くの人は「身構え、慎重に未来を描いてしまう」と言えそうです。人間に備わっている「防衛本能」が起動するわけで、それ自体は否定されるものではありません。
ただコーチングの世界観は、「未来はまだ起こっていない。未知数そのものである。だからこそ未来をポジティブに見通すことでその人の未来は開けていく」、と捉えます。「シンギュラリティ」に関する見解を選んだのは、その視点に基づきます。AIの未来については、喧々諤々の議論が展開されています。
「シンギュラリティ」と「AGI」については、「チャットGPT-4o」の登場の際にコラムにしてみました。一読いただくと幸甚です。
自分自身で徹底的に考える!
さて、コラムのまとめに入りましょう。アーレントに戻り、小竹洋之さんが最後に語る言葉を引用します。識者の言葉に啓発されることも意味あることですが、「自分自身で徹底的に考えることが何よりも大切なことなんだ…」、と噛みしめているところです。
振り返れば、トランプ政権の1期目にもアーレントブームはあった。「解答より問題を考える思想家」(川崎氏)に教えを請う動きは、戦後80年の節目を迎える世界中に広がるだろう。「デーモン」を追い払うための「解答」を、あとは私たち自身で探すしかない。
坂本 樹志 (日向 薫)
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