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海外赴任先で現地メンバーが動かない ─指示待ちを「自走」に変えた駐在リーダーの転換点─

前回、私は30年間の変革で学んだ「人が動かない本当の理由」をお伝えしました。「伝える」をやめて「対話する」に変えたとき、初めて人が自ら動き出した、と。
「で、具体的に何をしたの?」
そう思いますよね。今回は、まさにその「対話」をタイの現場で実践した駐在リーダーの話をします。

駐在員が抱える「指示待ち」の壁

在タイのZOJIRUSHI SE ASIA CORPORATION LTD.(以下、象印SEアジア)でディレクター兼管理部門のゼネラルマネージャーを務める奥山雅史さんが直面したのは典型的な「指示待ち」の現場でした。
業務改善を指示する。現地メンバーは「わかりました」と答える。でも、何も変わらない。催促すると、やる。でも言われたことはやるが、それ以上はやらない。
欧米系の企業には、優秀なローカル人財が集まりどんどん育っている。「“仕事も給料もそこそこ”を良しとする現地人財が日系企業を選ぶ」── 長年、駐在員の間でまことしやかに語られてきた定説。「日本人が全部決めて、現地が実行する」。奥山さんはその構図に疑問を持ちながらも、「現地の文化だから」と自分を納得させていました。
でも、現実は変わりつつあった。タイの会社でもローカルメンバーが力をつけ、管理職が増えている。それなのにトップダウンだけで回そうとするから、駐在員の負担ばかりが増えていく。奥山さん自身が、それを一番感じていたそうです。

現地メンバーが自ら動いた「たった一言」の転換点

奥山さんの転換点は、数字の伝え方を変えたことでした。
あるとき、固定費の削減が必要になった。普通なら「コストを○%カットせよ」と数字で指示する場面です。でも奥山さんがメンバーに伝えたのは、数値目標ではなくこういう言葉でした。
「みんなの給料やボーナスを、ちゃんと評価してあげたいんだよ」
なぜコストを下げるのか。会社の都合ではなく、「この会社で働いてよかった」とみんなが感じられる環境をつくるため── その想いを、自分の言葉で共有したんです。
すると、メンバーたちが率先してコスト削減に動き始めた。指示されたからではなく、自分たちの評価に直結すると腹落ちしたから。結果、コスト目標は達成。頑張ったメンバーの給料・賞与もきちんと評価できた。
数字で追い込むのではなく、「何のためにやるのか」を共有する。この違いが、人の動きを根本から変えました。

現地メンバーの「自走」はどう生まれたのか

奥山さんがもう一つ大切にしたのが、「キーパーソン」── つまり、改善活動の核になるローカル社員の存在です。
駐在リーダーとキーパーソンが「達成したときのありたい姿」を共有し、そこからキーパーソンが同僚を徐々に巻き込んでいった。約1年かけて、改善は組織全体に浸透しました。
キーパーソンは手作りのマニュアルをつくり、現場でワークショップを開いて仲間に広めていった。やがて、メンバーが自発的に改善に取り組む文化が生まれたそうです。
残業時間は4分の1に減少。年間約140万バーツの残業コスト削減。
注目すべきは、この成果が「日本人の管理強化」から生まれたのではないこと。現地メンバー自身が改善方法を考え、自発的に動いた結果です。前回お伝えした「伝えるのをやめて、問いかける」が、まさにここで起きていました。

結局、人は人なんです

奥山さんがTERAKO屋で得た最大の気づきを、こう語ってくれました。
「人種や言語、文化は違っても、傾聴と承認── その本質は同じなんです。結局、人は人なんです」
タイ人だから通じない、日本人だから特別、ではない。「聴いてもらえた」「認めてもらえた」──人が自走する本質は、国境を越えて同じ。
奥山さんはこうも話しています。「自走してもらうために、達成したときの“ありたい姿”を── 数字ではなく感情を── 共有して進めた」と。
前回お話しした「結論を急ぐ上司」を思い出してください。部下の話を最後まで聴かずに結論だけ言ってしまう。それは能力の問題ではなく、リーダーの「在り方」の問題です。
明日の朝、一人の現地メンバーの話を最後まで聴いてみる。それだけで、何かが変わり始めるかもしれません。

次回は、この「在り方」と正面から向き合った別の駐在リーダーの話をします。「言い訳を聞いていると態度に出てしまう」── そう悩んでいた彼女が、どう変わったのか。

一言まとめ

指示で人を動かすのには限界がある。「何のためにやるのか」── この共有が、現地メンバーの自走を生む。


このブログは、部下の行動が変わらないと悩むすべてのリーダーに向けて書いています。その中でも、異文化の壁の中で孤独な戦いに挑む海外駐在員、すべての責任を一身に背負う現法リーダー、そして駐在員の成功が会社の生命線である経営者・人事リーダーの皆さんに届けたい。DLQ(対話知能指数)の実践と、現場が動いた実際の成果を、全10回でお届けします。

河原 説子(エグゼクティブコーチ/CBL海外駐在サポート「Polar Star」)
私たち「Polar Star」は、海外駐在歴30年の元大手メーカー北米Executive VP、欧亜5カ国で駐在員500名以上と対話したタイ永住コーチ、グローバル企業で人事20年のプロ、外資系企業でJapan CFOのキャリアを持つコーチ、大手総合商社で海外新規事業を手がけた戦略家── 6人のエグゼクティブコーチが、駐在リーダーの「孤軍奮闘」を終わらせるために集まったチームです。一人で抱え込まなくていい。私たちが、あなたの隣にいます。

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