第7回「廣器会」企業訪問レポート
開催日時:2024年10月10日(木)15:00-17:30(懇親会 18:00~20:00)
開催場所:アシザワ・ファインテック本社工場(千葉県習志野市茜浜1-4-2)
参加人数:13名
今回は、「廣器会」初の企業訪問レポートです
2024年4月に発足した「廣器会」は、毎月第2火曜日に「経営者同士の研鑽・交流の場」として講演会を開催してきました。今回は7回目となります。6回目までは(株)コーチビジネス研究所・セミナールーム(リアル+Zoom)での開催でしたが、今回は「アシザワ・ファインテック本社工場の見学会」です。廣器会メンバーの清田大作さんにお願いし、快諾いただいたことで実現しました。
日本は99%が中小企業で構成されています。製造業については、「資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」がその定義です。同社は、従業員数160人とお聞きしましたので、文字通りの中小企業ですね。
ホームページには、「ナノサイズまでの微粒子を開発、生産したいお客様にお応えするため、<世界最高の微粉砕機メーカー>をめざす会社です」、とあります。
主力製品は「ビーズミル」と呼ばれる微粉砕・分散機です。
さて、私たちは「ビーズミル」と聞いて、その機械のイメージが浮かぶでしょうか? 今回参加した廣器会メンバーに関して言えば、全員が「ビーズミル」の知識はゼロであり、社屋2階の会議室で、経営企画の酒井梢さんの説明を受けたことで、そのような機械の存在を「はじめて知った」わけです。
私たちは酒井さんのお話にどんどん引き込まれます。紹介が進むにつれ、「素晴らしすぎる中小企業!」という感動が、メンバー一人ひとりに刻まれていくのが、しっかりと確認できました。
ところで、これまでのレポートは、講演が実施された日より、それほどの間を置くことなく、「廣器会ホームページ」にアップしているのですが、今回は、見学日の10月10日(木)より、かなり日を経過しての報告となってしまいました。その理由は……
アシザワ・ファインテックさんの魅力を何とか「一言」で伝えたい!
という、その「一言」を思案し続ける日が続いてしまったからです。
日本のメディアは、知名度の高い「大企業」に関する報道に偏っています。もっとも、日本には380万社ともいわれる中小企業が存在するので、それも「むべなるかな」と感じてしまいますが……
ただ、このような素晴らしい中小企業を知ってしまった以上、その魅力を伝えたい、という想いに突き動かされた私は、「同社は他社と何が違うのか…」「私(たち)が感動している、その本質と背景は何であるのか…」、とずっと考え続けていたのですね。
そして、そのヒントを10月21日(月)の日本経済新聞の1面に見つけることが出来ました。「日本も出社回帰の波」という記事です。冒頭は次のコメントからスタートします。
日本企業の出社回帰が進んでいる。アマゾンジャパン(東京・目黒)は2025年1月から原則出社を社員に求めるほか、メルカリは週2日の出社を推奨する取り組みを始めた。業務内容や個別事情に合わせて在宅勤務も活用しつつ、対面中心のコミュニケーションで生産性や会社への帰属意識を高めようとする動きが広がってきた。
新型コロナ禍によって、世界、そして日本の社会は激変を余儀なくされました。多くの企業がリモートワークに移行し、そのことに慣れた従業員が、「出社回帰」に抵抗を覚える、というムードも漂っています。
この記事に接した時、50分の企業紹介の間、酒井さんと清田さんから、「新型コロナ禍・リモートワーク」に関するコメントが、「一言も発せられなかった」ことに気づいたのです。日経新聞の記事には「対面のコミュニケーションで生産性や会社への帰属意識を高めよう」と、わざわざ書かれているということは、多くの会社が「従業員の帰属意識の低下」に悩まされている、ということなのでしょう。
一方で同社は、その真逆の会社であることが伝わってきます。会社内のさまざまな部署で働く従業員のみなさんの雰囲気をしっかりと体感させていただきました。勤務中にもかかわらず、私たちがデスクの横をゾロゾロ歩いても、ニコッと笑顔を投げかけてくれます。
つまり……
アシザワ・ファインテックは「出社したくてたまらない会社」である!
という「一言」が像を結んだのです。それを裏付ける紹介がありました。
- この3年間の新卒者は誰一人退職していない。
- 残業時間の月平均は11.9時間と少ない。
- 有休休暇取得率は驚異的な96%。
- 男性も取るのが当たり前の育児休業取得率は100%。
なかなかお目にかかれない数値です。
ただ、ここに至る道について酒井さんは、私たちに「納得のプロセス」を届けてくれています。
酒井さんの50分に及んだ企業紹介の前半は「ビーズミルとは?」でした。とても興味深いお話でしたが、ホームページにも詳しく説明されていますので、そちらをご覧いただくとして、後半のお話を文字にしてみます。オレンジ色は酒井さんの言葉です。
改革は四代目直太郎社長の就任からスタートします!
では、ここから創業100年のときの「新創業」についてお話させていただきます。20年前です。
昔のアシザワはですね、アシザワ株式会社というのが前身です。女性は事務のパートさんがいるくらい。技術一辺倒、機械系の男性ばかりの会社でした。
現会長である芦澤直太郎、四代目なのですが、当社に入社した頃にバブル経済が崩壊します。業績が低迷してしまいました。歴史の長いオーナー経営、古い体質はそのまま、その時のトップは三代目、現会長のお父様ですね。「俺についてくれば間違いない」と。カリスマ性のある社長だったそうです。
社員は、考えたり意見をする必要はなく、だまって従うだけ、という社風でした。2000年に現会長が社長に就任した時、「このような古い体質のままでは、会社はつぶれてしまう」という強烈な危機感を抱きます。
翌年に100周年を迎える2002年のことでした。社長が何をやったかというと「全社員を解雇します」と、解雇予告したんです。そして、幹部候補の社員10名、あえて20代~30代の若手社員を招集して「百年委員会」と命名したチームを立ち上げます。その目的は100年先に向けた理念、人材育成を考える、ということでした。
四代目の直太郎社長は「全員を解雇します」と宣言した!?
その時のアシザワ株式会社は、確実に利益をもたらす不動産賃貸業と機械製造業の二本の柱でやっていました。機械製造業はいくら赤字を出しても問題ない、危機感を感じないで済む、という会社だったんですね。なので、不動産の会社と機械製造のメーカー…これが「アシザワ・ファインテック」なのですが、分社化を決めます。
100周年まで残り1年のとき、「百年委員会」で社員全員が賛同できる「会社の未来像」をつくりました。それが今皆さんに回して見ていただいている、「ブランドブック」やクレド…「ゴールドスタンダード」に書いてある内容です。
「これを一緒に実現するぞ」、と決意した社員が新会社に再入社する、ということです。このクレドなんですが「乗船証」と書いてあります。「アシザワ・ファインテック号」という船が出航しますよ~、という意味です。会社を船に見立てて、社長が船長、従業員は船員ということです。理念に賛同した人は乗船してください、というストーリーです。結果は、全員が「アシザワ・ファインテック号」に乗船しました。
この会社、「アシザワ・ファインテック」は、そうやってスタートしました。
全員が「アシザワ・ファインテック号」に乗船した!
私はこの会社に入ったのは2008年です。ですから「会社が良くなってきた頃」に入りました(笑)。
清田さんが、ここで「良かったね」と声を掛けます…私たちも大笑い! 清田さんは「私は95年入社なので、当時はボーナスもでないような会社でした…」と、ポツリつぶやきます(笑)。
「社員が自分で考えて行動しなければいけない」という意識改革の芽が新創業によってつくられたんです。「ゴールドスタンダード」として明文化し、社員全員でそのことを実現しよう、という風土が形成されました。
何をやってきたかと言うと……「未来に対する投資」というのがあります。
22年連続して新卒採用をしています。分社化当時は60名だった会社が20年経って、160名に増えました。入社してくれた社員に対しての教育、資格取得をバックアップしています。あと障害者雇用ですね。ここ数年でご縁があって進んでおりまして、現在障害者雇用率は4%になっています。それぞれの部署で活躍してくれています。
ここで、最初に紹介した(スクリーンショットの画像)した「取り組みの成果」が紹介されます。再掲します。
- この3年間の新卒者は誰一人退職していない。
- 残業時間の月平均は11.9時間と少ない。
- 有休休暇取得率は驚異的な96%。
- 男性も取るのが当たり前の育児休業取得率は100%。
育休取得率については、興味深いお話を聴くことが出来ました。
「男性も育児休暇を取るのが当たり前に…」そうなった経緯とは?
育休取得率については、男性も当たり前に取得しています。
ただ最初の一人は、ハードルは当然高かったんです。7~8年前だと思うんですが、会社から「是非とってくれ」、ということで若手に取ってもらいました。
2人目は営業課長が取ります。
廣器会メンバーより、「へーっ、スゴイ!」といった感嘆の声が会議室に響きます。
で、何とかなった、何とかしたんですよね(と、隣の清田さんに声を掛ける酒井さんです)。営業課長が手を挙げたんで、若者が手を挙げやすくなりました。「僕も実は取りたいんです」ということです。
そのあとは、奥様がご懐妊すると、男性もほぼ全員取っています。
営業課長が手を挙げた。それでも会社はちゃんと回っていた!?
ここで「期間は?」と質問が出ます。
期間は、1~2か月ですね。出産した直後と、奥様が復帰する、といったタイミングが多いですね。一人のお子様に対して2回取得できます。
なので、「えいやっ!」で始めて何とか……今は軌道に乗っています。みんなでサポートしながら、という体制がつくられています。ここは結構自慢が出来ますね。あと成果としてはですね、2014年に「男女共同参画推進事業の千葉県知事賞」を取ったんですけれども、そのころから、ちょっとずつ、ちょっとずつ、「表彰と認定」をいただくことが増えてきました。
他の中小企業さんや、地域に対して「アシザワならではの活動」を紹介させていただく、といったことも始めています。他の企業さんとの交流を広げていきたいと思っています。
それからですね。会社認定の「部活動」が19ほどあります。社員が3人集まると「部活」として認定されます。部費も支給されます。この写真はマラソン部なんですが、ここに清田がいます(笑)。
ユニークな「部活」としては、「麻雀部」とか「美味しい野菜を作る部」とか、社員交流のためにさまざま実施されています。
エンゲージメントが高まる施策が次々と語られます…
あと「メンター制度」ですね。定着率が高まっているのは、メンター制度が大きいと思います。2012年の新入社員から始めましたが、1年目と2年目の社員に対して、入社10年に満たないくらいの若い先輩をメンターとして付けています。会社側として「〇〇さんは□□の部署に配属したいな」という思惑がある場合に、「その配属先にならないだろう」という若手社員をメンターに選びます。
配属先で「もやもや」とした場合に、別の部署の先輩に相談できるという組合せになるように調整しています。
「アシザワ・ファインテック」の魅力が、酒井さんの言葉で余すことなく私たちに届けられます。もう少しお話は続きますが、続いて、清田さんに案内いただいた「工場見学」について、紹介させていただきます。
工場内に入ると、まず「ビーズミル」の部品が所狭しと並べられています。その横を通り過ぎると、大型の「ビーズミル」がずらり並んでいます。奥に置いてある1台のところで、私たちは立ち止まりました。清田さんの説明を聞きながら、廣器会メンバーは、清田さんにさまざま質問しています。再現します。
最後に、清田さんと廣器メンバーの対話(一部)を紹介します
(清田さん)
これはですね、結構大型のタイプですね。通常出るのは、2リッター機とか、10リッター機が多いんですけど、この60リッター機がこれだけ並ぶっていうのは数年に1回、といった感じです。同じ色にカラーリングされていますから、すべて一つの会社に納品します。
(廣器会メンバー)
その会社は大量に微細な粉体を作るから、大型のマシンを購入する、ということですか?
(清田さん)
そうですね。大型機の方が、生産性が高いですから。
メーカーさんが、スケールアップ検査をして、一日の生産量は何トンです、と決まれば、この機械は何台ですね、ということになります。そこで営業が提案して契約させていただく、という流れです。
(廣器会メンバー)
アシザワさんは、何タイプくらいのビーズミルを用意されているんですか?
(清田さん)
この機種ですと、7種類ですかね。ただカスタマイズが基本なのでバラバラです。大きいのはどちらかというと海外向けが多いですね。国内ですと10リッタータイプが中心です。少量多品種が当たり前の日本ですから、大型機の場合、1回1回洗浄が挟まれるので大変なんです。ですから、小型機を置いて何台も並べていろんなものをつくっていく、というのが日本特有の製造方法ですね。
(廣器会メンバー)
海外にも納品しているんですね。
(清田さん)
はい、やっています。海外の場合ドイツの提携先がとても強いんですけど、2000リッターとか、そういう大きいタンクもあるんです。それはもう鉱山向けで、石とか砂利をパーッと粉砕する、という機械がありまして、それが一番大きいですね。
(廣器会メンバー)
国内に競合会社というか、他のメーカーさんは何社くらいあるんですか?
(清田さん)
ええっと…6社くらいですね。
(廣器会メンバー)
たった6社ですか?
(清田さん)
はい、市場にしますと100億円くらいです。なかなかニッチなところなんですね。ですから大手が参入するほどのうまみはないんです。我々中小企業だけで成り立っている、ということです。そこはまあ、少しはいいところかな…と思っています。
(廣器会メンバー)
ということは6社ですみ分けられている、ということですか。
(清田さん)
はい、いちばん細かいところではアシザワ、ということになっていますので。粗くて大丈夫ということであれば廉い機械はありますけど。最先端の部品であるとか、ナノレベルということになれば、絶対負けないですね。
(廣器会メンバー)
このマシンはいくらくらいですか?
(清田さん)
これだと本体で3000万円から5000万円くらいですね。
(廣器会メンバー)
すごいですね。
興味深い問答は、まだまだ続くのですが、これくらいにとどめることにします。企業秘密的な情報も同じ廣器会メンバーということで、オープンに開示していただきました。清田さん、ありがとうございました。
工場見学の後は、食堂なども見学しています。一角にスモールな無人売店もあり、カップ麺などが安く置かれていました。
最後は、2階の会議室に戻って、四代目のオーナー社長からバトンを託された五代目(従業員からの生え抜き)の加藤厚宏社長、そして小貫次郎取締役専務執行役員のお話をお伺いすることが出来ました。
「トップのトータルな人格がその会社に顕現する」と言われます。私たち廣器会メンバーは、お二人のお人柄から伝わってくる、「廣く大きな器」を感得しています。
アシザワ・ファインテックのみなさま、本当にありがとうございました!
坂本 樹志 (日向 薫)
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