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「異和を覚える論説」にも「三猿」ではなく「異質の調和」を目指そうと語り合う1on1ミーティングです!

多様性のある組織こそが、目まぐるしい市場の変化を先取りし、進取の適応ができる。近年積極化しているキャリア採用や年次主義の見直しも重要な取り組みだ。ただ新卒採用で一定比率を占める女性が、男性同様に管理職を経て普通に役員に就くことは、企業トップが腰を据えて取り組まないと実現しない。
京大経営管理大学院は今年「女性エグゼクティブ・リーダー育成プログラム」を始める。企業派遣の女性受講生に、現役の女性役員らを交えたグループコーチングを行なう。
(日本経済新聞7月3日8面オピニオン「核心~同質性壊し変革を前へ~」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年26回目の1on1ミーティングです。

京大大学院がコーチングを取り入れている!

(Sさん)
Aさん、前回は「目まぐるしく世界が動いているのを感じます」、と私の口火で1on1がスタートしましたが、おととい3日月曜日の日経新聞「核心」のOpinionに、「目まぐるしい市場の変化…」という文言を見つけました。
「目まぐるしい」は、このところ慣用句のように使われていますから、それ自体どうこうではないのですが、そこから「エグゼクティブ・リーダー」「グループコーチング」というワードにつながっています。内容も「多様性で進取の適応力」がテーマです。エグゼクティブコーチの資格を持ち、グループコーチングに造詣の深いAさんがこの記事を見逃すはずはない、と確信しています。

(A課長)
以心伝心でしょうか? Sさんの提案なかりせば、私の方でこの記事を話題にしようと思っていました(笑)

(Sさん)
よかった! 私の想像力は捨てたものじゃない(笑)
さて、ここまでは前フリです。実は今回のテーマについては、悩んでいます。もう一つ候補を挙げていました。その前の日である日曜版2面の「直言」です。

(A課長)
紙面刷新なった初回の「直言」は沖縄科学技術大学院大学長のカリン・マルキデス博士でしたね。そこから今帰仁グスクなど、Sさんの沖縄を語る1on1に広がった。3日前の日曜版は誰だったかな… 思い出しました。トニー・ブレア元英国首相だ。

日本経済新聞の新企画「直言」は、世界を俯瞰している!

(Sさん)
そうなんです。渋みを増したブレアさんの写真が添えられています。秋田浩之コメンテーターのロングインタビューが掲載されています。

(A課長)
Sさん、そちらにテーマを変更しても構いませんが…

(Sさん)
ありがとうございます。
Aさんとの1on1は日経の大型コラム、「Deep Insight」を取り上げることが多いと感じています。社説や一般の記事と違って、対象分野に精通された本社コメンテーターが“独自の”見識を世に問うています。自由度が感じられていいですね。ほぼ、インスパイアできています。

(A課長)
ほぼ…?

(Sさん)
はい、「“独自性”がいつもより前面に出てるなぁ…」、と私の感性がキャッチしてしまうと、違和感を覚えることがないわけではないので…

本社コメンテーターは、この秋田さんをはじめとする錚々たるメンバーです。専門分野をそれぞれお持ちなので、内容が重複しないのもいいですね。
「グローバル市場」は梶原誠さん、「産業・企業経営」は中山淳史さん、「国際経済・金融・貿易」の西村博之さん、「マクロ経済・国際情勢」については小竹洋之さん、そして「スタートアップ」を追いかけている村山恵一さん、という布陣です。

(A課長)
お名前を聞くと、全コメンテーターのコラムを話題にしているかな?

(Sさん)
いえ、お一人だけはテーマアップをやっていません。今回ブレア元首相にインタビューされている秋田浩之さんのコラムです。

(A課長)
なるほど… 秋田さんは論説委員と編集委員も担当されているようですよ。「Deep Insight」以外の一般記事でも、記名で登場することが増えていませんか?

秋田浩之コメンテーターの見解を求める環境が加速している!?

(Sさん)
はい、私も感じています。米国で中国脅威論が登場するのは、トランプ大統領肝いりの「国家防衛戦略」で、中国を民主主義の価値に対する最大の挑戦者である、と名指しにした2018年あたりからですが、その頃から秋田さんのお名前を目にする頻度が増えてきました。さらに、プーチンロシアのウクライナ侵攻によって、「外交・安全保障」のエキスパートである秋田さんの見解を求めるニーズが、格段に高まったことが背景にあると思います。

(A課長)
にもかかわらず… Sさんは秋田さんのコラムを話題にしていない?

(Sさん)
両親の被爆とは切り離して捉えたいと思うのですが… かなりきな臭くなってきた現実を前にしても、「この日本も有事に備えなければならない」「軍備増強を怠ってはならない」という論調には、どこか整理できない“何か”を感じてしまうのです。
一方で、「三猿」ではいけないなぁ…という思いも生じています。

(A課長)
Sさんは葛藤を抱えている?

(Sさん)
そうかもしれません…

(A課長)
秋田さんは安全保障に造詣が深いので、少し前だと日経新聞には珍しい「タカ派」の論客として捉える向きもあったと思います。ところが…

(Sさん)
ええ、このカテゴリーは溶けてきましたね。“世界のリアル”がそれを促しています。秋田さんは、日本経済新聞を代表する外交・安全保障のプロ記者として、世界の要人に直接会い、インタビューを重ねています。パワー・ポリティクスの現場です。ですから、執筆される内容には緊張感が漲っている。月曜日の「直言」のインタビューは、秋田さんの「真骨頂」です。

(A課長)
その「真骨頂」を感じたくなりました。テーマを前半と後半に分けて、今日の1on1で語り合ってみましょう!

「対イラク戦争」を主導したブレア元首相は何を語るのか?

(Sさん)
ありがとうございます。ちょっとスッキリするかな?(苦笑)
秋田さんの質問力には凄みを感じます。インタビュー記事は15の質問で構成されています。ブレア元首相も丁寧に答えています。特に踏み込んだ口調となった、最後2つの質問を取り上げますね。

秋田 : 首相在任中、米同時テロ(01年)、イラク戦争(03年)など世界的な危機に直面した。得られた教訓は何か。特に、対イラク開戦の教訓について聞きたい。

ブレア : イラクのサダム・フセイン政権は残忍な独裁政権で、周辺国と戦争し、自国民に化学兵器を使った。このような政権が存在しなくなったことで、世界は良くなったと信じている。しかし(同政権を倒した)後に生じる問題については、重要な過小評価があった。

秋田 : 03年の開戦前に時間を戻せても、やはり同じ決断をしましたか。

ブレア : 起きたことを後知恵で振り返るのは、いつもつらいものだ。もっと違ったやり方があったかもしれないと思うことはたくさんある。しかし、最終的に中東からフセイン政権を排除することが重要だったとの考えは今も変わらない。

(A課長)
インタビューを終えて、秋田さんが感想を書いていますね。見出しは「表情を曇らせた2度の瞬間」です。

彼の表情が曇り、口ごもったように見えた瞬間が2度あった。1回目は第3次大戦の危機をたずねたときだ。紛争がウクライナ内に限定されることに「望みを抱いている」と応じ、発言を切り上げようとした。(中略)
再び表情が曇ったのが、イラク戦争の是非を2度、聞いたときだ。開戦理由の大量破壊兵器は見つからず、首相だったブレア氏は非難を浴びた。イラクの独裁政権を倒したのは正しかったと信じつつ、なぜ情報収集を誤ったのか、今も自問しているように感じた。

ノンバーバルな情報こそ、その人の真実の思いを伝えている…

(Sさん)
秋田さんはノンバーバルにフォーカスしている。そこにブレア元首相の本音を感じとっています。

イラクが1990年にクウェートに侵攻すると、時間を置かず湾岸戦争が起こります。父ブッシュ大統領の時代です。当時の米国は圧倒的な覇権国家であり、国連の決議を経て多国籍軍を主導してイラク軍を、アッという間に撃退します。ただクウェートから追い出した時点で、戦争を終結させました。

ところが2001年の「9.11」は、アルカイダという国家とは異なる存在が仕掛けてきた「戦争」でした。対外戦争にもかかわらず、国家である「敵」が見えないという、初めての現象です。子ブッシュ大統領とブレア首相は、その「敵」をイラクと早々に決めつけ、前のめりで戦争に突入していきます。

「イラクが大量破壊兵器を隠し持っている」という主張によって、戦争を正当化しようとしたのですが、後にそれは虚偽であったことが判明します。そのことを秋田さんは、改めてブレア元首相に糾しています。
イラクとアルカイダにつながりがなかったことも明らかになっています。

(A課長)
日本経済新聞は秋田さんを立てて、歴史の教訓をブレア元首相から引き出そうとしている。それにしても凄いインタビューだ。ロシアがウクライナに侵攻したのは、感情に囚われ、思い込みの世界にプーチン大統領が取り込まれてしまったことも、その背景にあります。

インタビューは、知りたい情報を得るために行われるので、クライアントの側に立つコーチングとは目的が異なります。ただ、この場合のクライアントであるブレア元首相は、サッチャー政権に次ぐ長期政権を築いた世界が認める大政治家です。その人物に秋田さんは、物おじすることなく、質問を繰り出している!

エグゼクティブの心をわしづかみにする質問力とは?

(Sさん)
Aさん、そこです! 私が秋田さんのインタビューを取り上げたくなったのは、エグゼクティブコーチングの一つの姿が、このインタビューに見出せると感じたからです。

エグゼクティブであるクライアントは、修羅場をくぐってきた会社経営者であり、トップ層です。その人たちと渡り合う…ちょっと言葉がハードになってきましたが… そのことを実現するには、コーチ側の力量が問われます。忖度に囲まれているのがトップ層の日常です。だからこそ、それを超えてエグゼクティブの心をわしづかみにするには、この「直言」は参考になります。

(A課長)
納得です。
今回の1on1も実に濃い内容となりました。さて、一息つきましょう。後半戦に移りましょうか?

(Sさん)
了解です。
Aさん、新海監督を語り合った1on1を思い出しています。新海監督は世界が認めるクリエーターですが、私たちの1on1では、リーダーシップの視点で、新海監督にアプローチしています。私もAさんからコーチングの手ほどきを受けるうちに、コーチング的センスが身に付いてきたようです。おっと、自己肯定が過ぎるな(笑)

そのときの1on1は、世間の汎化された新海監督観を超えた語り合いができたと感じました。10年前に東日本大震災を目の当たりにした新海監督は、自分の内部で「何とか3.11を受けとめなければならない」と、心が揺さぶられています。ところが、精神的なダメージが大きすぎて、うつ状態といえる状況に陥ったのでは… と想像します。
自分を癒やし、自分を「普通の状態」を戻さなければ… と自問自答したのではないでしょうか。

(A課長)
それが『言の葉の庭』につながった。

(Sさん)
ええ、Aさんとそのことを確認し合いました。「3.11」を微塵も感じさせない、対極ともいえる静寂に満ちた作品です。私は、ユダヤ人のスピルバーグが、『シンドラーのリスト』と並行して『ジュラシックパーク』という、ある意味能天気な作品を手掛けることで、結果として精神のバランスを取ることができたのだと思っています。
今日の1on1は二部構成になったので、私も少しホッとしています。

新海誠監督とスピルバーグ監督は、真逆の作品を世に送り出した!

(A課長)
バランス…大切ですよね。極端に走ると、必ず揺り戻しは起こります。
さて、後半のテーマは合意済みの、日経新聞月曜日の「核心」です。メインフレームで世界の頂点に立ったIBMは危機に陥ります。30年前です。それが現在では業態が全く異なる会社として不死鳥のごとく蘇えり、盤石なビジネスモデルを築いている。

04年のハーバード・ビジネス・レビューはガースナー改革を高評価しています。「多様性で多文化的な市場を理解し、より広範囲な顧客にアプローチして大きな収益を上げた」と。
一例として、女性経営者などが多い中小企業向けサービスの売上高が3年で30倍に高まったことを挙げている。

(Sさん)
そしてNTTグループの取り組みに話がつながりますね。

ここで最新の日本企業の取り組みを紹介しよう。IBMに匹敵する日本の巨象ともいえるNTTグループだ。
21年にリモートワークを基本とする新しい経営スタイルを発表しが、そこには女性や外国人、外部人材の活躍が盛り込まれている。多様な取り組みは、持ち株会社の役員の変化を見れば明らかだ。
今年1月の持ち株会社取締役+執行役員+監査役に占める女性比率は42.3%に達した。取締役を除く持ち株会社の執行役員も45.3%と半数近くにのぼる。いずれも21年の21.7%、18.2%から倍増した。

(A課長)
画期的です。それから、日本の転職市場が活性化することが日本経済復活には欠かせませんが、NTTグループは中途採用が年間採用数の3割を占めるようです。

(Sさん)
グループシンク集団浅慮についても言及している。

製造現場などで近年相次ぐ不祥事の原因に、縦割りで同質的な集団の弱さを見出すことも出来る。「グループシンク(集団浅慮)に陥らないために多様性が重要」。女性役員の数値目標を掲げた内閣府の男女共同参画局の岡田恵子局長はこう話す。
グループシンクは米国の心理学者アーヴィング・ジャニスが提唱した学説だ。自らの集団を過大評価し、同調圧力が働くことで、状況分析を誤る傾向があるという。

(A課長)
人も組織も成長するための最上位の態度は「オーブンであること!」に尽きると思います。気持ちをとにかくフラットにする。そして虚心に坦懐に、自分も対象も見つめていくことです。

京大の大学院が、企業から派遣された女性受講生にグループコーチングを実施しているという状況は、「いよいよ日本にも“本格的な”コーチングの時代が到来する」と受けとめています。
米国発のコーチングについては、学問としての枠組みではない自由度があります。ただ、そのことで本来のコーチングではないにもかかわらず「これこそがコーチングだ!」と訴え、集客している団体、個人にも見受けられるのですね。

コーチングというカタカナ用語そのものが独り歩きしている状況であったこともあり、「何だかよくわからない…」と捉えている人も多いのが現状です。それを踏まえて、日本エグゼクティブコーチ協会の会長で、コーチビジネス研究所の五十嵐代表が、「CBLコーチング情報局」を開設し、「“本当の”コーチング」が普及していくよう、コーチングに関する多様なキーワードを一つひとつ解説しています。全体を横断するテーマは「異質の調和」です。

(Sさん)
私も毎日チェックしています。コーチングとは多様性に富んだ世界であることを日々実感しています。またしても「セカイ系」の話をしてしまいますが、コーチングの世界観が世界中の人々に広がっていけば、いずれ戦争はなくなる! と私は確信しています。

(A課長)
Sさんにフロイトが乗り移ったようだ(笑)

(Sさん)
またしても、調子に乗ってしまうヒロシマ男が出てしまいました(苦笑)。これからもコーチング型1on1を続けていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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