地球規模の脱炭素に向け、関西企業が存在感を増している。有望なスタートアップも目立ってきた。国際博覧会(大阪・関西万博)まで2年、新型コロナウイルス禍が落ち着き、大阪を中心に人を呼び込む動きは活発だ。カジノを含む統合型リゾート(IR)計画も追い風に、地域全体の進化を目指す。
(日本経済新聞6月26日27面「関西経済特集」より引用)
心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年25回目の1on1ミーティングです。
「プリゴジン蜂起、それが1日で撤収」が話題に上ったが…
(Sさん)
目まぐるしく世界が動いているのを感じます。一昨日月曜日の全国紙は「ワグネル部隊撤収」についての記事が溢れていました。
(A課長)
大義なき戦争を始めたプーチンロシアは、いつかは内部から崩れていく…と想像していましたが、このタイミングでワグネルのプリゴジンが蜂起し、そして1日で収束してしまう、という状況には、驚いたというか、わけわかんないですね。
(Sさん)
今日の1on1のテーマについては、各紙がこれだけ派手な見出しを躍らせているので、このクーデター未遂をAさんと語ってみたい気にもなったのですが、ちょっと待てよ…と気持ちが変わりました。
(A課長)
それはなぜ…?
(Sさん)
ええ、日本のマスコミ報道は、どうも後手に回っているように感じます。このクーデター未遂も、スクープというかナマ情報ではなく、リアルタイムで実情を把握し、ウォッチし続けている海外の機関からの“薄められた”提供情報だと思うのですね。つまり二次情報です。
(A課長)
薄められた…?
日本のマスコミが把握し報道する内容は二次情報…なのか?
(Sさん)
はい。IT、そしてAIが異常に発達したご時世です。その最先端技術を駆使して情報収集している海外の情報機関は、よりナマの実態を把握していると思います。かなり機微な内容も含まれるでしょう。したがって、この2~3日間で報道された情報は、ある意味で当たり障りのない薄まった情報なのではないでしょうか。
ですから、今このとき、Aさんと私が知り得ている情報をもとに語り合うのは、どうなのだろう…という思いです。
(A課長)
なるほど… では気が変わったSさんは、何をテーマにやってみようと思っている?
(Sさん)
ちょっと大げさに言ってしまいました。いつものように日経新聞を取り上げたいと思います。月曜日は日経も、朝毎読と同様に「ワグネル」について記事にしています。ただ他紙がトップ記事なのに対し、カタ記事なんですね。別の紙面での扱いも他紙に比べて少ない。
その分といいますか、近未来、あるいは先の未来について、想像力を補完してくれるようなテーマをさまざまピックアップしています。ですから、今日は、断片的になるかもしれませんが、月曜日の日経新聞を多面的に語ってみたい。
(A課長)
了解しました。やってみましょう。
日経新聞6/26のトーン&マナーは他紙と明らかに違っていた!
(Sさん)
ありがとうございます。では月曜日の1面トップ記事から…
シリーズ「テクノ新世~Technopocene」の「岐路に立つ人類①」です。見出しは、「ヒトは衰退するのか」というセンセーショナルな文言を充てています。
そして火曜日の「岐路に立つ人類②」は、「偽投稿拡散 溶ける虚と実」です。
(A課長)
私も印象に残っています。電子版を開きますね… 月曜日の記事のボリュームはすごいですね。「人知超す技術、歴史の主役に」、そして、「共感するAI/惑星の環境改変」と続きます。日経は実に大きく出た!
(Sさん)
「医者がまさかAIに惨敗するなんて」と、始まります。
AIは疲れることもいらだつこともない。待ち時間なく診療を受けられるなら患者にはいいことづくめだ。ただ便利さと引き換えに、専門教育を受けた医師もAIが代替する未来がちらつく。米ゴールドマン・サックスは事務や法務など米国の仕事の4分の1が将来自動化されると予測する。
(A課長)
下の方に行くと、ネガティブな表現が目立ちますね。
AIによる人類絶滅のリスクは核戦争に匹敵する……。AI研究の大家ジェフリー・ヒントン氏ら350人超は5月末、共同声明に署名した。
声明をまとめた団体は、AIがもたらすリスクの一つに「衰弱」を挙げる。重要な判断を機械に託すようになると、人間は知識やスキルを得る動機が減る。いずれ人類は衰え、自治能力を失う恐れがあると警告する。
AI活用によって仕事は減っていく…は、実態とは大きく異なる!?
(Sさん)
その警告のすぐ後で、米マッキンゼー・アンド・カンパニーによる、「生成AIは年最大4.4兆ドル(約630兆円)の経済価値をもたらす」という試算を添えることで、バランスを取っています。もっとも、大見出しは「ヒトは衰退するのか」ですから、警鐘を鳴らす意味内容です。
ただ、私はポジティブに捉えたいと感じています。いつの記事だったかな… ええっと、日経新聞6月5日の8面オピニオンです。FINANCIAL TIMESのエンプロイ・コラムニストのサラ・オコナ―さんの「AI活用でも仕事は減らず」に響きました。次のコメントからコラムはスタートします。
筆者は最近、生成AI(人工知能)を日常業務で使い始めた弁護士、会計士、コンサルタントたちを取材した。誰もが技術的なリサーチや文書の下書き作業での時短効果を指摘した。そして節約できた時間をもっと多くの仕事に費やしている。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中も、ホワイトカラー労働者に同様の傾向が見られた。今年発表された世界27カ国での調査を見ると、在宅勤務の導入により、2021年と22年は1人当たりの通勤時間が週平均2時間ほど短くなった。
余った時間が一体どう使われたのだろうか。さらなる仕事に費やされた割合が約40%で首位を占め、レジャーや育児に充てられた時間を上回った。ネット上で共有可能なカレンダーやテレビ会議システムの普及により予定が一段ときつく詰め込まれるようになった。
(A課長)
Sさん、ありがとうございます。この記事は見逃しました。ただ、実感できます。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン博士らが2014年に『雇用の未来』と言う論文を発表し、702の職種について、10~20年先に、失われるリスクを試算しています。米国の雇用の47%が奪われるという可能性を指摘したんですね。
パラダイムチェンジが予感される場合、未来を悲観的に見るメンタリティが人類には組み込まれているのでしょう。すでに10年近く経っていますが、当時の予測値とかなり乖離が出ているような気がします。
ヒトは空いた時間ができると常に“何か”を生み出し続ける!?
(Sさん)
「なくなる仕事…」という側面が強調されすぎていますよね。オコナ―さんが指摘するように、AIによってかなりの業務が効率化しています。劇的改善もここかしこで起こっている。じゃあヒマになった人たちが世間に溢れかえっているのか、というと、そのようなことはないですよね。むしろ逆です。
ざっくり言うと人間は、常に仕事をつくり出すという本能が一方で存在するのではないでしょうか。ヒマには耐えられないのです。ですから、人間はひたすら新しいというか、新しくなくても業務をさらにさらに精緻化させていき、過去の経験則で分類していた職種の枠組みが意味をなさなくなるのです。とにかく「何ものか」が生まれ続けるというのが実態だと思います。
仕事…という呼称というか分類も、意味をなさなくなると感じています。「ワーク・ライフ・バランス」ではなく「ワーク・イン・ライフ」がリアルになってきました。それまで価値を生み出さなかった「仕事として認知されなかったコト」がにわかに価値を帯び、それを世の中が共有すれば、そのコトは立派な市場、マーケットに成長します。
(A課長)
Sさんの発想は、ときに「飛びすぎでは?」と感じることもありますが、ベースはポジティブなので勇気づけられます(笑)
最先端技術のあらゆるシーンにソニーの姿が見え隠れしている…
(Sさん)
少し熱くなってしまいました。別の記事に転じましょう。ソニーウォッチャーの私が嬉しくなる記事が7面にあります。「アップル10年の計~始動Vision Pro(上)」のタイトルで大きく取り上げられています。「ゴーグル型端末 ソニーと高精細画面」が見出しです。
この有機ELを使った超小型の高解像度ディスプレーを供給するのが、ソニーグループだ。部品供給についてアップルからは回答がなく、ソニーはコメントを控えたが、アップルに近い関係者は「相当前から交渉してきた」と証言する。(中略)
5日に公開したビジョンプロを紹介する動画には、家庭用ゲーム機のコントローラーがさりげなく映り込んでいる。これがソニーのゲーム機のもので、長年の協力に対する謝意を示したと受け取る人もいた。
(A課長)
「ここもソニーか!」と、世界の最先端テクノロジーには必ずと言っていいほど、ソニーが絡んでいますね。
(Sさん)
嬉しい限りです。
その隣の記事である「経営の視点」では、ダイナミックプライシングが取り上げられています。「割安ニッポン脱却の実験」がタイトルです。「ぴあが目指すユニクロ型」が見出しです。
日本ではこれまでサービス価格で極端な差を付けることは好まれなかった。しかし高級サービスを求めるイバウンドは日本経済の活性化に欠かせず、幅広い分野で顧客ニーズに応じた価格コントロール力を持てるかどうかが重要になる。ぴあの取り組みは割安ニッポンからの脱却に向けた実験と言えそうだ。
(A課長)
記事のスタートで、横浜・みなとみらいのイベント施設を満員にしたコンサートを話題にしています。日本で2020年に初めて放映され、タイドラマ旋風を起こした「2gether」で主演したブライトとウインによる「歌とトーク」です。
開演するやいなや40~50代が中心の女性ファンは一斉に総立ち。終始黄色い声援が飛び交い、時間とともに熱量は増していく。17~18日の2日間の開催で、1万人収容の施設は両日とも満員御礼。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり生活の中で「沼」にはまったファンが数多く醸成されていたわけだ。
日本もダイナミックプライシングが日常の風景になっていく!?
(Sさん)
「推し」が高じて「底なし沼にはまって出られなくなってしまった…」と、いいたいのかな(笑)。記事そのものは、情報とチケットの流通だけでは経営基盤が安定しないことを理解している「ぴあ」が、SPAのユニクロのように自前コンテンツを増やし収益力を高めようとしている、という内容です。
そしてダイナミックプライシングの実験を始めている。
ぴあは19年にラグビーのワールドカップ、21年には東京五輪のチケット販売を受託。海外のビジネスパートナーや顧客から「日本はなぜ一律的な料金が多いのか」との疑問を何度となく投げかけられた。
世界のエンタメビジネスでは様々な特典やラウンジのあるプレミアムサービスは当たり前。そこで今年に入り、特別コースをすでにいくつか提供してきた。例えばラグビーのリーグワンの決勝では豪華なランチやトークショーを見ることができる。「オフィシャルホスピタリティチケット」を発売。最高値は11万円だ。富士山近くの花火大会でも2万5000~10万円のコースを設けた。
(A課長)
階級・クラスをつくらない…という文化は日本の美徳とされてきました。ダイナミックプライシングについても、諸外国と違って「実験」しながら模索していくのでしょうね。
(Sさん)
サービス業におけるダイナミックプライシングは「需要の平準化」につながります。一応合理性は見出せる。TDRは、それを前面に出してアナウンスしていますね。
今朝28日の日経新聞16面の「投資情報」に、「OLC、時価総額10兆円~入場料値上げを好感」という記事が掲載されています。時価総額がコロナ前を上回ったようですよ。
東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランド(OLC)の時価総額が27日、終値ベースで初めて10兆円を超えた。先週末に発表した10月以降の入場料の最高価格引き上げやインバウンド(訪日外国人)の増加などから業績拡大への期待が高まり、買いが集まった。
26日の日経に戻ると、17面の「Inside & Out」で大特集が組まれています。「広がる変動価格、消費者不満も」を、大きくタイトルにして、多面的に分析している。サービス業だけでなく、さまざまな業種に広がっているようです。
変動価格制は「需要を均衡させ経済効率性を上げる機能がある」(京都大依田高典教授)のも事実だ。
飲食料の販売サイトを営むクラダシ(東京・品川)は22年~23年、賞味期限や売れ行きなどをもとに1週間ごとに価格を決める実験をした。売り切りまでの期間が26%短縮され食品ロスを減らした。協力した日本総合研究所は佐賀県のスーパーで電子値札を使ってパンを1日3回値下げし、シール貼りの時間を月57時間削った。
関西だからこそ実現したIRの導入!?
(A課長)
大特集といえば、27面から29面の3つの紙面を使って「関西経済特集」が組まれています。27面が「脱酸素 関西企業がけん引」「ヒートポンプ 欧州に的」「CO2吸収や核融合 京大発の新技術続々と」。28面と29面は見開きで、「IR、訪日客誘致の核に おもてなし再開 急ピッチ」と、両面にまたがるタイトルを掲げています。とてもポジティブに関西経済圏の未来が描かれています。見出しは「鉄道各社、延伸や新施設」「百貨店・外食、拡大に動く」「万博後の経済先導へ」「万博まで2年切る 未来社会を提示」です。
Sさんは以前の1on1で、関西弁とコーチングの関係を、川上未映子さんの『乳と卵』を引用しながら、独自の視点で語っている(笑)
(Sさん)
関西圏は、東京圏とはかなり違う文化であることを日本中が共有していますよね。IRである統合型リゾートについては横浜市も名乗りを上げましたが、住民の反対でとん挫しています。文化の違いを象徴する出来事ですよ。
ただし、ロシアの今この時の状況、そしてお隣の大国、さらに米国の分断… 世界を俯瞰してみると、億単位の人口を抱えていながら、国家レベルにおける「ダイバーシティ&インクルージョン」を堂々と語れるのは日本ぐらいではないか、と確信めいた思いを私は抱いています。
「失われた30年」という言葉を、私たちは過剰に体内に棲まわせてしまった。日経新聞は「目覚めよ日本!」と、自己肯定感を回復せるべく鼓舞していると解釈できます。
ウエスタン(関西~沖縄)インパクトによって日本は浮上する!
(A課長)
Sさんの「セカイ系」というか、ポジティブ・リフレーミングは筋金入りですね。まさにコーチングを体現している。
格差の顕在化、疲弊するシングルマザーの増大… リアルに目を向けると日本も問題山積です。ただ、混とんの世界にあって、ここにきて日本の立ち位置はかなり変化しているように感じます。ネガティブを脱しつつある。それもリアルだと思います。
前回の1on1はBリーグの沖縄、そしてTリーグの「琉球アスティーダ」に元気をもらっています。「沖縄の時代が到来する」をSさんと共有しました。関西も元気だ。健全な革命が地方から巻き起こるのかもしれない!
(Sさん)
日経新聞に煽られて、私の語りは広がってしまいましたが、今日の1on1も、Aさんに最後まとめていただきました。ありがとうございます。
(A課長)
コーチングはフューチャーペーシングです。今日の1on1は、そのことをかなりイメージすることができました。これからもワクワクする1on1ミーティングを続けていきましょう。
(Sさん)
こちらこそ!
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