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新海誠監督の「3.11以降の10年間」に想いを馳せ、語り合う1on1ミーティングです!

鈴芽を描くことで、2時間の間だけでも鈴芽に起きた出来事を体験し、感情移入してもらいたかった。あのとき、多くの人が大きく心を揺さぶられる体験をした。震災という出来事はまだ続いているし、自分自身にもつながっているんだと、作品を通じて若い人に知ってもらえたらうれしい。
(日本経済新聞3月3日「映画『すずめの戸締まり』新海監督の思い」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年11回目の1on1ミーティングです。

3.11に衝撃を受けた新海監督の心の内に想いを馳せてみる…

(Sさん)
Aさん、3月3日日経新聞に掲載された新海監督へのインタビュー記事を改めて読み返してみました。
新海監督は「震災後の私にあったのは、生活必需品ではないエンターテインメント作品を作る“後ろめたさ”でした…」と3.11を振り返っています。そして「“自分が被災者だったら”と強く真剣に考えるようになった」と、語っていますね。

(A課長)
その想いが、凄惨な災害を未然に防ぐという『君の名は。』という作品につながりました。設定はパラレルワールドです。隕石の衝突で多くの人が死んでしまう世界とは別の世界が描かれる訳ですが、「東京に住む少年と被災者の少女が入れ替わる」というストーリーを組み立てることで、観ている私たちをぐいぐいとその世界に引き込んでいきます。
「君の名は。」のネーミングもよかった。

(Sさん)
ただ次の『天気の子』では、災害をなかったことにするのではなく、逆に陽菜を救い出すことで雨が2年半降り続き、荒川、江戸川流域が完全に水没してしまうという結末を描きます。新海監督は『君の名は。』の反響を踏まえて、再構成を意図したのだと思います。

(A課長)
そして、3.11そのものをテーマにした『すずめの戸締まり』が誕生する。「新海誠監督の集大成にして最高傑作!」と最大級の称賛で迎えられました。

(Sさん)
日経新聞の記事にある、「震災から受け取った想像力とつながっている」というフレーズがとても印象に残っています。
体験していない人は、当然ですが災害を共有することはできない。ただいつの1on1だったかな? 政治哲学者のハンナ・アーレントを取り上げましたよね。そのとき「想像力を駆使して対話を重ねていくのも経験の共有だと思う」と、Aさんは言葉にしました。

想像力と対話によって他者の経験も共有できる!?

(A課長)
ハンナ・アーレントが話題に上ったのは… 年初2回目の1月11日ですね。

(Sさん)
そのときAさんは熱を帯びていた。とても印象的だったのでメモっています。

アーレントは深いですよ。Sさんは先ほど、「欧州のようにヒトラードイツという、人間という存在を根底から熟考させられる経験をした諸国とは、経験知があまりにも違い過ぎる」と言葉にされました。まさにその通りです。

経験知はその人に固有のものです。他者はどのようにあがいたところで獲得できないし、共有は不可能です。ただ、人には想像することができるという、まさに力が備わっています。

アーレントを読むと、その想像力が広がっていきます。想像する力を駆使して、そして対話を重ねるのも経験の共有だと思うのですね。コーチングによってそれは可能になります。

(A課長)
思い出しました。

(Sさん)
新海監督の凄みは、その想像力です。大作家というのは「そこ」だと思います。だからこそ、次々とすごい作品を生み出すことができる。

新海監督の凄味は常人が想像だにできない「想像力!」

(A課長)
前回の1on1の最後で、『すずめの戸締まり』鈴芽役の原菜乃華さんによる川口典孝さんへのインタビューを紹介しました。
今日は、新海監督の生の声を中心に触れてみたいと思います。時系列で追っていくと、新海監督がどんどん洗練されていくのが手に取るように伝わってきます。成熟的発展のプロセスを私たちは知ることができます。

最初は、新海監督インタビューが映像特典として含まれているDVDの『秒速5センチメートル』です。15年前に遡ります。質問は字幕なので、新海監督の語りだけが35分続くのですね。

(Sさん)
それは視そこなった…

(A課長)
大丈夫です。響いた言葉をメモっていますので。
まず感じたのは、新海監督のコミュニケーション能力です。自分の思い、考えを言語化し、明快に伝える能力に驚嘆します。よどみなく滑らかに…

コミュニケーションは「聴く力」「表現する力」「関わる力」の3つで構成されます。新海監督は、この3つのバランスが絶妙に溶け合っている感じです。

前回の1on1で、YouTubeにアップされていた『すずめの戸締まり』の鈴芽役、原菜乃華さんが涙ぐんで、「なんか… ホント… 新海監督と仕事できて… 嬉しい…」と、湧き上がってきた想いを口にするシーンをSさんに視てもらいました。

『すずめの戸締まり』の完成度の高さは、原菜乃華さんの存在抜きには語れません。新海監督は、その原さんを1700人の中から見出しています。「原菜乃華=鈴芽」と完璧に同化するまでの世界が実現したのは、アフレコ現場で、新海監督が原さんに伝えた「言葉の力」だったと思うのですね。

DVD『秒速5センチメートル』の映像特典で、新海監督は声優一人ひとりについて丁寧に語っています。篠原明里役の近藤好美さんを選んだ経緯を紹介しましょうか。

近藤さんについては、オーディションでは実はあんまり印象が良くなかったんですね。明里の小学生時代の台詞を読んでもらったのですが、ちょっと演技が過剰に作られている感じ。類型的でこの人はちょっと違うな…と思ったのですが、ただ、引っ掛かるものがあったんですね。
声の裏側に、演技の向こう側に、10代の女の子特有の生々しいものが垣間見えるような気がして。

明里の声がなかなか決まらなくて…思い出したんです。直接会わせてください、とお願いしました。その時、普通の会話、演技をしていない作らない彼女の声っていうのがすごくよくって。その声には、う~ん… 僕の印象なんですけど、まあ当然10代の溌剌さはあるし、あの年代特有の根拠はないんだけど、どこか自信に満ちているカンジであったりだとか。

逆に、あの…言葉に説明できないようなどこか不安を隠しているようなカンジだとか。あとまだ声が定まりきっていない、声の輪郭がはかなく揺れ動いているようなカンジっていうのを、話していてすごく感じたんですね。

で、そういう声が、僕が明里に求めている声だったので、近藤さんに「ぜひお願いします」とお伝えしました。

新海監督は「10代の女の子」のすべてを透視している…のか?

(Sさん)
「10代の女の子とは?」を、新海監督はすべて透視しているカンジだ。それが「声」としてどう表現されるのか、というプロの語りですね。
Aさんはさっき「よどみなく滑らかに…」と言いましたが、そうなんですか?

(A課長)
ええ、考え込むといったシーンはありません。静かな語り口で言葉がつながっていきます。そして原菜乃華さんが言葉にした「柔らかさ」はその頃から新海監督の“地”であることが伝わってきます。
よどみなく、と言うのは… そうですね、考えていることと言語がまっすぐにつながっている、と表現できるかもしれない。

(Sさん)
芸術家の中には、独自の言語世界に生きている人も多く「何言ってるのかわからない」と感じることもありますが、そうではない?

(A課長)
ええ、ものすごく明瞭明快です。
原菜乃華さんをはじめとする声優陣が、アフレコ現場で新海監督が繰り出すコミュニケーション力によって、そのワールドを瞬時に腹落ちさせることができたのだと想像します。『すずめの戸締まり』の興行収入が140億円超えになったということは、絵もさることながら、声優陣が新海監督の世界を全身で受けとめ、それを「声」という媒体を通してつくり上げた、その結果です。

(Sさん)
観客動員数は1000万人を超えていますよね。「2時間の間だけでも鈴芽に起きた出来事を体験し、感情移入してもらいたかった」と新海監督が語る“新海マジック”が日本中に広がったわけだ。

“新海マジック”は視聴する人を感情移入の世界に引き込む!

(A課長)
「アフレコ現場のマジシャン!」と命名してもよいかもしれない(笑)
ところが、2007年に公開された『秒速5センチメートル』でのアフレコについての語りは「謙虚」そのものです。いえ、むしろ自信のなさをそのまま開示しています。

アフレコは、あのう…すごく僕はひたすら緊張していました。なぜか僕が一番緊張していましたね。

アフレコまで1年以上ずっと絵を組み立ててきて、アフレコで声を採ってしまえば、もう元に戻れないというか、一年以上やってきたことがこの日にすべて決まってしまう、という緊張感があったからだと思います。前日は一睡もできずに徹夜状態でスタジオに臨みました。

実際、アフレコとなって皆さんに演じてもらうと、僕が思っているよりずっと豊かなものに、水橋さんや近藤さんや花村さんや尾上さんや声優さんのおかげでなったと思います。

あとアフレコに関して言えば、『雲のむこう、約束の場所』から三ツ矢雄二さんという大ベテランの方にずっとサポートいただきました。

僕はアフレコ経験というのがもうほとんどないので、声優さんにどう指示を出していいのか迷ってしまうことがたくさんあるんです。そんなとき三ツ矢さんがご自身の演技で素早く的確に俳優さんに指示を出してくださるんですね。

あともう雰囲気作りもすごくお上手だし、あとものすごく合理的な進行をして、2日間できっちり収めてくださったのは三ツ矢さんですし、アフレコについては本当に実務面で三ツ矢さんにお世話になりましたね。三ツ矢さんがいたから2日で終わりましたが、僕だけですと1週間とかもっとかかったかもしれないですね。

真のプロである新海監督はプロをリスペクトし感謝を捧げる!

(Sさん)
新海監督の言葉遣いはとても丁寧ですね。そして三ツ矢さんへの感謝と言うかリスペクトがとても自然に伝わってくる。

(A課長)
それも新海監督の人柄というか、まさにトータルな人格から醸し出される”新海ワールド”と言ってもいいのではないでしょうか。学びの姿勢も素晴らしい。

(Sさん)
以前の1on1で、Aさんが「巨人の肩に立つ」という箴言について解説してくれました。新海監督は、巨人の膨大な知識・知見を、稲盛和夫さんが語るところの「素直な心」で貪欲に吸収し続けているのだと思います。

(A課長)
なるほど… 「巨人の肩に立つ」と新海監督は結びつくわけだ。納得です。
ところで、”新海ワールド”は劇場デビューの『ほしのこえ』より、熟成しながら進化してきました。ただ、一作ごと新しいテーマに挑戦しています。実にチャレンジャブルです。前回新海監督のリーダーシップがサーバントリーダーと結びつきましたが、それが変革型リーダーと合体している。
前回の1on1で『言の葉の庭』が好きだ、とSさんは言いましたよね。

(Sさん)
ええ、しっとりとして良かった。

(A課長)
その前の『星を追う子ども』はいかがでした?

(Sさん)
ええっと、ちょっと待ってください。思い出しますから…

(A課長)
ジブリっぽい…

(Sさん)
ああ、全編ファンタジーの… 『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』など、ジブリ作品へのリスペクトが満載されています。ただ、ジブリより内容が複雑と言うか、「善と悪」の両面を持ち合わせている森崎の造形は感心しましたね。
確かに『秒速5センチメートル』とは大きく異なる作風だ。

(A課長)
この作品を映画館で観た時、感動しました。「壮大なスケールの作品も描けるんだ~」という思いに浸りました。新海監督が「巨匠への道」を歩み始める… と私は感じたんですね。
ところが…

(Sさん)
ところが?

(A課長)
新海ファンの間での評価は最低レベルです。Wikipediaで「新海誠」をチェックしてみましょうか。『星を追う子ども』のところに次のような記述があります。

…「日本のアニメの伝統的な作り方で完成させてみる」ことを個人的な目標とし、各作業を通常のアニメ同様、専門のスタッフに任せたという。しかしこれまでの作風との隔たりから、ファンからは賛否の分かれる形となり、ショックを受けた新海は熱を出して寝込んでしまうほどだった。ただ絵や話を作るだけでなく、プロデュースやマッチングの大切さを痛感したという。これ以降、アニメーション監督としてやっていくことを決意する。…

(Sさん)
ショックで寝込んだ…

新海監督は転んでもただでは起きない人!

(A課長)
どうもそのようです。ただ、Wikipediaが書くように、まさに「巨人の肩に立つ」です。新海監督は辛いけどファンのフィードバックをしっかり受けとめました。転んでもただでは起きない新海監督は、この映画でプロデュースやマッチングを学びます。
そして『星を追う子ども』が公開されたのは2011年5月です。その年に…

(Sさん)
東日本大震災… 3月11日だ。

(A課長)
3.11にショックを受けた新海監督は、次に何を作るか… ものすごく悩んだと思います。とても消化しきれない。

(Sさん)
Aさん、今スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』を思い出しています。ヒトラーナチスによるホロコーストを、全編白黒のドキュメンタリータッチで描いた作品です。リアルすぎて視聴するのにかなりの負荷がかかります。

ユダヤ人であるスピルバーグは「自分が残しておかなければならない作品だった」と語っています。ただ、「この作品だけ集中して作っていると身体も精神も持たない」と感じたスピルバーグは、並行してまったく異なるタイプの映画も作っています。

(A課長)
心の平衡を保つために真逆の作品を作る…

(Sさん)
ジュラシックパーク』です。いずれも1993年に劇場公開されています。

(A課長)
何だかすごい話ですね。
そうか、Sさんが言いたいことがわかってきました。だから新海監督は『言の葉の庭』を作った、ということですね。そこには3.11を感じさせるものはまったくない。3.11があまりにもショックで、ここに向き合わなければと強く感じながらも、その直後の精神状態では、作品として相対化させることはとても無理だ、との思いだった!

3.11後の新海監督はスピルバーグの感情と共鳴している…

(Sさん)
ええ、私もそう感じます。
新海監督は『言の葉の庭』で自分自身を立て直そうとしたのではないでしょうか。共感力の強い新海監督は自分が体験していないにもかかわらず、いえ、体験していなかった人間としての強烈なダメージに直撃された…
『言の葉の庭』はひょっとして、自分に対する癒しだったのかもしれない。

(A課長)
その作品を作り終えての次作が『君の名は。』です。ただ3.11そのものをテーマにしていません。ファンタジーを被せています。続いて『天気の子』、そして10年を経て3.11に真正面から取り組む『すずめの戸締まり』に結実していきます。

今日の1on1は『秒速5センチメートル』の頃の新海監督の言葉を紹介するところから始めました。次回は『君の名は。』によって大ブレークした頃の新海監督について語り合ってみませんか?

髪がボサボサで身なりに頓着していない風情の新海監督は、ヘアスタイルもマッシュショートに変わりました。眼鏡もフレームのない平凡なデザインが、黒ぶちの丸型となって、ファッションとしての新海スタイルが確立していきます。洗練度が高まります(笑)

(Sさん)
いいですね~

(A課長)
次回も盛り上がりそうな素材を見つけています。それはインタビューとも違う、コーチングのような対話を交わしている新海監督です。お相手も素敵な人です。コーチングの3原則通り、対等そのもののお二人の関係性が自然に伝わってきます。新海監督の自己開示もあって、楽しくなりますよ。

(Sさん)
いつもは私がもったいぶった話をしますが、今日はAさんのティーザー広告ですね。楽しみです(笑)

(A課長)
村上春樹さんにもつながる流れになると思います。よろしくお願いします!

坂本 樹志 (日向 薫)

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