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「成功の循環モデル」の本質は“急がば回れ!

「成功の循環モデル」とはマサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した、組織を活性化させるためのシステム的なアプローチです。

「どうすれば組織は活性化するのか?」という命題は、組織論にとどまらず、モチベーション理論、リーダーシップ理論、そして戦略論など経営全体に関わる中心テーマです。
「成功の循環モデル」はその一つですが、コーチングとの親和性を強く感じることができる理論であり、今回のコラムで紐解いてみようと思います。

「成功の循環モデル」はシステム論を踏まえて展開していきます。
システム論は、「全体のシステムは個々のサブシステムが相互に作用しあいながら一つのまとまった存在として機能する」と説明されます。
システムというと「情報システム」をすぐ連想するように、IT系をイメージしますが、心理学、社会学をはじめ、さまざまな分野で援用される概念です。

「家族心理学」はシステム論がベースとなっている…

例えば「家族心理学」では、ある子供の問題行動の原因を「母親の育て方」とか、「父親と母親の不仲」のせい、というように特定化しないのが通常です。
つまり、子供の問題行動は家族システム全体の機能不全が象徴的なかたちで表れている、と捉えます。原因を部分として捉えるのではなく、さまざまな要因が相互に関係しあっているという前提に立ち、複眼的にアプローチしていくのですね。

「家族とは閉じた世界である」と、捉えてしまいがちですが(特に父母の視点では)、子供を巡る人間関係は、家族空間だけで成り立っているわけではなく(無人島に家族だけで暮らしているであれば別ですが)、本来オープンな世界です。祖父母、親せきを含めた拡大家族、そして学校…さらに今日ではデジタルネイティブこそが主流であり、文字通り世界につながっています。

さらに、システム論のなかでキーとなるフィードバックの視点も織り込みます。「結果に含まれる情報が原因に反映されて循環していく」という傾向です。
例示すると、良かれと思って働きかけたアクション(例えば、過干渉)が、問題現象の原因となり、ループのごとく繰り返されてしまうという状況です。

「成功の循環モデル」…2つの循環(サイクル)とは…?

<バッドサイクル>

活性化していない組織 ➡ 成果を上げようと「結果の質」からサイクルがスタート

(結果が芳しくない状況にあると…)
1.結果の質…結果としての数字ばかりに意識が集まる。(売上・利益至上主義?)
2.関係性の質…上司は話し合いを回避し指示命令に頼る。人間関係がギスギスしてくる。
3.思考の質…仕事をしても面白くない。心理的安全性が脅かされ不安感が膨らんでいく。
4.行動の質…失敗してとがめられるのを回避すべく受身的態度、面従腹背、協働の減退。
1.結果の質…結局のところ“結果”につながらない悪循環のループになっていく。

<グッドサイクル>

活性化している組織「関係性の質」を重視する組織は最終的に「結果の質」が向上していく

(結果が芳しくない状況だからこそ…)
1.関係性の質…上司は指示命令に頼ることなく部下との1on1ミーティングに注力する。上司の態度に感化され、メンバー間でも信頼感が徐々に形成されていく。
2.思考の質…心理的安全性が醸成され不安感が薄まる。狭まっていた思考の幅が広がり、メンバー個々のなかに“気づき”が生まれるようになる。
3.行動の質…メンバーの受身的態度が能動的態度に変わっていくことで、ダイナミズ溢れる組織に変容していく。閉じていた組織から組織間連携も活発になっていく。
4.結果の質…結局のところ“結果”に結びつく好循環のループとなっていく。

私は大手企業で40年におよぶサラリーマン人生を送っています。“組織の中にどっぷりつかって”仕事をしてきました。多くの部門を担当し、結果が出せなかった部署、好結果につながった部署…今さまざまなシーンを思い返しています。
そのことを踏まえ、私が定年再雇用の立場(部長職を長く経験し現在は平社員のSさん)で若手課長Aさんの部署に配属されたと仮定し、Aさんが「成功の循環モデル」をテーマに1on1ミーティングを実施する、というセッションを考えてみました。

A課長と定年再雇用のSさんが「成功の循環モデル」をテーマに1on1ミーティングを実施しています…

<A課長>
「働きがいのある組織」は、組織の中に信頼感が醸成されている。だからこそ、モチベーションが高まって、仕事に前向きに取り組むことができる… そのように日頃から感じているのですが、Sさんはどのようにお考えですか?
そのような組織では好循環サイクルが形成され、そうでなければ悪循環に陥る… これを組織論としてモデル化したのが、MITのダニエル・キム教授です。
課長以上に実施されている「360度評価」の意義について、先日の研修で、「関係の質」を高めることがいかに重要であるのか… 学んできたところです。

<Sさん>
私は営業畑が長かったので、バッドサイクルとグッドサイクルについては実感できるところです。営業は数字の世界ですから、気づいてみればバッドサイクルに陥っている… ということがあるんですね。私は、長い会社経験… 成功も失敗も数多く経験したことで、一つの境地に達しています。

<A課長>
その境地を是非とも教えてください。

<Sさん>
いや~ ちょっと言葉を盛ってしまいました(笑) “急がば回れ” です。このVUCAの時代にそぐわないかもしれませんが、私の実感です。

<A課長>
なるほど。そういえば『京セラ フィロソフィ』の中で稲盛さんが、… 願ったこと、心に描いたことの結果が1週間や1ヶ月、長くて1年くらいであれば皆がもっと心や考え方を大切にするのでしょうけど… と言っていますね。

<Sさん>
稲盛さんが言うのは、…因果応報は必ず起こる。ただスパンは長い。だいたい30年くらい見ておくと帳尻が合う… という時間のスケールです。これくらいの構えであれば、少々なことには動じなくなると思いますよ(笑)

稲盛さんの根底には仏教思想があると思うのですが、短期的な視点に囚われてしまい、一喜一憂に振り回され疲弊してしまった、という過去を思い出します。つくづく振り返ると、芳しくない状況は、自分が招き寄せてしまっていたのですね。

まあ、50過ぎてからは、自分が気持ちよい状態で仕事ができているかどうか、ということを考えるようになりました。自分が楽しければ、周りはストレスを感じることなく仕事ができると思いますし…

結果が上がらないと、往々にして責任転嫁、犯人捜しが始まります。当然ギスギスします。結果がほしい上司は意見に耳を貸さず、指示命令が中心になります。部下は面白くないし、意見が通らないので、受動的態度となりパフォーマンスが低下します。したがって、欲しいはずの成果はますます下がっていくバッドサイクルに陥るのです。

<A課長>
だからこそ、成果が上がらない現実に遭遇したとき、そのままであれば「関係性の質」が悪化する。その流れを変えるべく「関係性の質」を良化させることに上司は最大の努力を注入する、ということですね。

理論をおさらいします。「関係性の質」が良化すると、お互いを尊重し共に考えることができるようになる…「思考の質」が強化されます。メンバー各々が自分で考え、自発的に行動する流れをつくっていくのです。すると「行動の質」が高まります。結果として成果につながる。「結果の質」が向上し、一回りすることで上司は力むことなく「関係性の質」も良好になる、というグッドサイクルが到来します。

すべては「関係性の質」ということになりますね。いかにコミュニケーションが重要か…マネージャーは、本当の意味としての1on1ミーティングにコミットしていく… このことを「成功の循環モデル」が説明しています。コーチングの大切さを証明してくれるエビデンスとしての理論であると私は受けとめています。

ソニーを3回再生させた平井さんは、まさに「成功の循環モデル」の体現者です!

「成功の循環モデル」は、組織活性化を語る上でいかに実践に裏付けられているのか… 私は『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」 日本経済新聞社』である平井さんの行動に、それを見出しています。

35歳の若い平井さんがSCEA(ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ)のトップを任されたときの組織風土は最悪で、「もうこんな会社では働きたくない」と泣き出す社員がいたり、「ここはストレスが大きすぎる」、「みんな言っていることがバラバラなんです」など、平井さんが始めた1on1ミーティングのなかで社員は堰を切ったように訴えるのです。

その1on1ミーティングでの平井さんは、社員に向かって、「将来はこんな風にゲームビジネスを展開したい」といった夢や希望については、ほとんど話すことがなかった、と語っています。「目の前にある混乱し疲弊しきった組織を立て直すこと」が先決であり、だからこそ、社員の話を聴くことに徹したのです。

結果は、「成長循環モデル」のグッドサイクル通りの流れとなり、ソニーは復活するのですね。
“急がば回れ!” です。

坂本 樹志 (日向 薫)

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