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レジリエンスとVUCAの時代、そしてコーチング!

レジリエンスの狭義の意味は「弾力性」です。元来は物理学等で使用される表現ですが、「回復力」「復元力」として肯定的な心理傾向や企業体質を表す言葉として用いられるようになりました。日本でも英語のままカタカナで表記されるようになったことで、多くの人がこのワードについて語る機会が増えています。
今回は、このレジリエンスとコーチングをテーマに語ってみようと思います。

私はレジリエンスという言葉から、「柳に雪折れなし」「柔よく剛を制す」という諺を連想します。「柔らかいからこそしなやかで強い」という意味ですが、レジリエンスとして再認識される以前から、日本においては自然に受けとめられていた概念だと感じています。
ただ、レジリエンスがここまで注目されるのは、「VUCAの時代」といわれるように、先の見通しが立たない今日だからこその現象だと理解できます。

未来はVUCAである!

VUCAとは、Volatility(不安定・変動性)、Uncertainty(不確実・不明確)、Complexity(複雑性・錯綜)、Ambiguity(曖昧性・多義性)の頭文字を取った言葉です。

未来が予想できると“感じられる”時代であれば、人は、そして社会はそれほどの不安を覚えることなく「やるべきこと」に向かって進むことができます。
ところが、未来学者という専門家が立派に存在し、その人たちの予言に共感することができた時代は過去のものとなりました。未来は、不安定で不明確、複雑極まりなく、断定を否定する曖昧で多義性に満ちた世界です。
私は、コーチングが今日広がってきている背景として、VUCAが認識されるようになったことに強い関連を覚えています。

コーチングは、クライエント一人ひとりの中に秘められた能力、アイデア、強みを引き出し、価値ある目標をサポートする関係性です。
権威とされる他者の言葉に頼ることとは別に、自らを肯定し自らを信じることによって「しなやかな力」を発揮していく…まさにコーチングの世界観ですね。

アドラーは「未来志向」!

さて、ここでアドラーの考えを紹介します。当時権威になりつつあったフロイトの理論に異を唱え、個人心理学を提唱したのですが、フロイトと袂を分かつ背景として「トラウマの否定」があります。
フロイトは神経症を発症する原因として「トラウマ」を挙げています。正確な英語表記psychological traumaであり、心的外傷と訳されます。アドラーはフロイトと異なり、「トラウマ」ではない「ショック」という言葉でその違いを説明します。

フロイトはトラウマについて語りましたが、アドラーは「ショック」について語りました。フロイトにとってトラウマは、概して客観的で普遍的なものでした。エディプス期など、誰もが遭遇しなければいけないような問題があり、そしてそれらが首尾よく乗り越えられない場合、そのトラウマは神経症の苦しみに終わるだろうというものです。(典型的には症状神経症で、最も古典的にはヒステリー性の転換症状を伴う精神神経症的反応です)。

アドラーはショックについて大部分は主観的なものとして一しかし、排他的ではなく一、かつライフスタイルの産物として見ていました。つまりその人のライフスタイルが何らかの偶発性に対して準備しなかった場合、それはショックとして経験されるということです。

『現代に生きるアドラー心理学/ハロルドモサック&ミカエルマニアッチ(一光社)』

同様なショックでも人それぞれの感受性は異なる!

フロイトが「トラウマ」を個人に還元するのではなく客観的で普遍的である、とするのに対し、アドラーは同様な「ショック」を受けてもライフスタイルの違いにより、そのショックに対する感受性が異なる、と捉えます。これについては多くの人が実感できるでしょう。
同一の現象に対して、Aさんは大きなショックと感じるが、Bさんはそれほど感じていない、というケースです。そのことについて私たちは「性格が違うから受けとめ方が異なるんだよね…」と一応納得します。

そしてアドラーは、そのライフスタイルについても、一人として同じものはなく人それぞれである、と解釈します。その違いをレジリエンスとして理解することも可能です。

フロイトは「過去を詳細に分析して現在を理解する」という人間観ですが、アドラーは、過去はもう過ぎ去ったことであり、そこにこだわることに意味はない。つまり「未来志向」です。「人は変わることができるのでありそれによって未来は変わっていく」という人間観です。まさに「コーチングの人間観」ですね。

渋沢栄一は真の意味で「しなやかで柔らかい」レジリエンスの人!

NHKの大河ドラマ『青天を衝け』の第31回のタイトルは「栄一、最後の変身」でした。幕末明治にあって、その変身ぶりは驚天動地です。私は渋沢栄一とは何者か?という命題に対して次のような見解を見出しました。

「フィクションに惑わされることなく、論語を拠り所に現実を見据え、常に中庸(バランス)に気を配り、レジリエンスを駆使して“調和”する世界をつくり上げることに一生を捧げた“リアリスト”」です。

まさに「レジリエンス」であるところのしなやかな強さによって、激動する環境に対して適応し続けることができたのですね。

ところで、「レジリエンスとは何事もポジティブに考えていけばよいのですよね?」と、尋ねる人がいたとします。
みなさんは、どのように回答されるでしょうか?

ポジティブ…とても前向きな言葉です。
「ポジティブになればよい」
「ネガティブではなくポジティブに考えていけば困難は打開できる」
ネガティブな考えが萌すと懸命に、「ダメだ、そのように考えてはダメだ…」と否定してしまう、ということはないでしょうか?

ポジティブシンキングをコーチングの視点でアプローチすると…

五十嵐代表が『背伸びをしてポジティブシンキングになる必要はない(2019年3月21日)』というタイトルのコラムで語っていますのでご覧ください。
https://coaching-labo.co.jp/archives/2274

コーチングにおけるコーチは「誘導」とは無縁の人!

人はそれぞれ固有のライフスタイルを持っています。それはジャッジメントされるものではなく個性でありダイバーシティですね。だからこそ、変わりたいと思っても自分ひとりの力ではなかなか変えられないのも現実です。

失敗を克服しようと変わりたいと思っている人に対する典型的なアドバイス…「そんなの大した失敗じゃないよ、気分を変えて頑張って!」とは異なるコミュニケーションの世界を体験されてみてはいかがでしょうか?

プロフェショナルなコーチは、決してクライアントを変えようと誘導することはありません。クライアントが自ら変わっていくことを援助することこそがコーチの役割ですから。

坂本 樹志 (日向 薫)

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