今回、私は大きなチームで失敗からの挽回に取り組んだ。自分自身が精神的に弱くなったときでも、ふと周りを見るとチームのメンバーが本当に粘り強く前に進んでいる。その姿を見て逆に勇気づけられた。チームで取り組んでいる場合は仲間を信じるのが重要だ。
(9月1日(日)日本経済新聞2面総合1『直言~大失敗にも意味はある』より)
日経新聞 9月1日・3日・13日を取り上げるコラムです
今回のコラムは、9月1日(日)、9月3日(火)、そして9月13日(金)の日経新聞を取り上げ、カラフルに綴ってみようと思います。
冒頭は日経新聞の名物企画(毎週日曜日に掲載)である2面の全面を使ったインタビュー『直言 Think with NIKKEI』から引用してみました。見出しは「地獄見たロケット爆破」「リーダーは“良い耳”を持て」の2つが配されているように、2023年3月に、日本中の期待を集めた新型ロケット「H3初号機」の打ち上げの失敗について、開発責任者だったJAXAの岡田匡史理事に、当時をふり返ってもらっているシーンです。
インタビュー記事は、川原聡史記者の次のコメントから始まっています。
人は大きな失敗をしたとき、次の挑戦を恐れる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岡田匡史理事は22年ぶりとなる新型ロケットの最初の打ち上げに失敗した。一瞬で2000億円と9年の歳月を失った。1年後に2号機の打ち上げに成功するまで地獄を見た。何を考え、どう乗り切ったのか聞いた。
「失敗の意義」については、とにかく書き続けてきました。ためしに、弊社コラムのサイト内検索で、「失敗」という文字を入力したところ、92のコラムがヒットしています。
コラムでは「失敗の価値」をこれからも書き続けます
コーチングは未来志向です。「失敗することによってさまざまな“気づき”を得て、その失敗を糧にすることが出来た人は成長し続けることが出来る」というのが、コーチングのスタンスです。特にロケット打ち上げの失敗と成功は、劇的であることもあって、コラムでも繰り返し綴ってきました。
岡田理事は20年前を振り返り、次のように語っています。
2003年にH2A6号機の打ち上げが失敗した際、JAXAの組織改革に7年間、従事した。組織改革の大変さや重要性は一通り分かった。前回は米航空宇宙局(NASA)の元長官から技術マネジメントが欠けていると言われ、徹底的にマネジメント体制を改革した。次の段階として、組織を担う人材の育成に力を入れていく。
2003年に発生した「H2Aロケット」6号機の失敗については、去年の8月16日のコラムで取り上げています。
「『君たちはどう生きるか』『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を語り、失敗は成功の一つの欠片にすぎないことを理解した1on1ミーティングです!」という、ロケットとは一見関係のないタイトルなのですが、コラムの半ばあたりで、失敗の経緯を詳しく紹介してみました。出典は、畑村洋太郎さんの『失敗学実践講義』です。
「第一段ロケットに取り付けた二本の大型固体補助ロケットのうちの一本が分離できない状態となったため、11分後に地上からの指令でロケットを爆破させた」という結末です。
この種のトラブルは、何度も実験を繰り返すことができれば発見でき、容易に避けられたはずです。しかし、前にも説明したように、それができないのがロケット開発の難しさです。一度や二度の試験でおそらく見つからない問題に悩まされるのが宇宙開発事業の宿命なのです。普通の技術のように安全が確認できるまで何度も試すことができないのですから、ある程度の失敗はさけられないことだと私は感じました。
「失敗の価値」の本質を「宇宙開発事業」に見出す!
「失敗学」を提唱された畑村さんの視点は、まさにコーチングです。
それから2024年2月21日のコラムのタイトルは「河合隼雄さんが語る“人との距離感”に着眼し、“自分の強みと弱点を相対化する”を、ゴール設定としたコーチングセッションを描いてみました!」なのですが、アイスブレイクとして「H3ロケットの<中止>と<失敗>」の会見を再現してみる…」の見出しを付して、岡田さんが臨まれた記者会見について取り上げてみました。(Sさん)と(A課長)の対話形式のバージョンです。再掲します。
(Sさん)
私は今、読売新聞の「中止、失敗」という見出し表現を口にしましたが、この「中止」と「失敗」の記者会見も、岡田匡史プロジェクトマネージャーが臨まれている。JAXAの案件は国家的プロジェクトです。その時の心境は筆舌に尽くしがたいものがあったでしょう。YouTubeでもアップされていますから、Aさんにもぜひ視てほしい。「中止」についての会見は、TBS NEWSの「JAXA担当者が涙の会見 H3初号機打ち上げ中止<ブースターに着火せず>」を共有しますね。
1分2秒の動画ですが、岡田さんが涙をガマンできなかったところを、15秒くらい切りとっています。絞りだされるコメントは…「見守ってくれた方々が大勢いらっしゃいますので…申し訳ないと思っていますし…(涙)…我々もものすごく悔しいです…」
「失敗」は、「H3ロケット打ち上げ失敗 2段目エンジン着火せず“指令破壊”」をタイトルにした、中京テレビNEWSです。
岡田さんは、2分11秒のところから登場します。「地元の方々をはじめとして多くの方々に見守っていただいた中で、このような結果になってしまいまして、申し訳なく思っています…」
岡田匡史プロジェクトマネージャーは「涙」を乗り越えた!
岡田さんのその時のお気持ちは、まさに「筆舌に尽くしがたかった」と思います。それを乗り越えられた。
さて、冒頭に引用した日経新聞9月1日(日)の『直言』に戻ります。囲みの「インタビュアーから」で、担当記者が感想を述べ、この記事は終わるのですが、川原記者は「産業維持へ立て直せるのか」の見出しを付して、次のようにコメントしています。
米シティグループの予測では2040年の宇宙関連産業の市場規模は1兆㌦(約150兆円)と20年の3倍近くに成長する。衛星事業が主要なビジネスで、打ち上げるロケットが重要だ。日本はJAXAを中心に、民間の育成も進めて存在感を高める戦略を描く。……
ここまで、日経新聞9月1日(日)の『直言』にインスパイアして記述してみました。
続いて9月3日の日経新聞に目を転じます。18面「サイエンス・フロンティア」に、これもほぼ全面で大特集が組まれています。「H3改良でコスト半減へ」という、極めてポジティブなタイトルが掲げられています。9月1日の『直言』を受けたような内容となっており、世界が「ロケット新時代」を迎えていることが詳細にレポートされています。
見出しは「JAXA、推進装置を簡素に」「海外勢は機体の再利用」です。
「H3」はコスト半減で世界にくさびを打つ!
現在運用中の大型ロケット「H2A」が24年度中に退役する。H3は初号機の失敗を乗り越え、2、3号機の打ち上げに成功し、これから宇宙開発の主翼を担う。(中略)
打ち上げコストをH2Aの半額の50億円に抑えるという目標達成に欠かせないのが、補助の推進装置を使わない飛行の実現だ。(中略)
何号機で補助装置を使わない打ち上げに挑むのかは明らかになっていない。H3の責任者を務めるJAXAの有田誠プロジェクトマネージャーは、「早く打ち上げたい。スケジュールはそう遠くない時期に公表できる」と話す。
イラストやグラフも使って、世界をけん引するイーロン・マスク率いるスペースX(23年に96回を打ち上げ、世界の半分のシェアを握る)や、中国の「長征シリーズ」が存在感を示していることが綴られています。記事は次のコメントで〆ています。
政府はJAXAに民間の技術開発を支援する「宇宙戦略基金」を設置した。10年間で1兆円規模の支援を見込む。世界に対抗するため、円滑な官民連携が重要になる。
宇宙開発事業こそ「日本の大機」に!
今回のコラムの最後は、9月13日(金)の日経新聞を取り上げます。23面の「大機小機」です。実は、この内容を読んだことで、9月1日(日)、9月3日(火)の「宇宙開発事業」がつながり、今回のコラムの構成がイメージできた、という経緯です。タイトルは「政策論争」です。書き出しは次の通りです。
自民、立憲民主両党のトップを決める選挙戦が本格化している。自民党総裁は、次の首相に直結するだけに大いに注目している。
ところが各候補者による政策論争は視野が狭く目先にとらわれすぎている印象がある。「世界の中の日本」の視点が決定的に欠如している。
かなり刺激的な論調で始まります。そして最後も……
このような世界環境の中で、日本はどう生きようとするのか。どう世界の難題解決に貢献しようとするのか。各候補の構想力に期待したい。矮小(わいしょう)な「コップの中の争い」に見える。(一直)
一直さんは熱いですね。
民主主義における選挙制度は、どうしても「ポピュリズム」を孕んでしまう宿命を帯びています。ただ、国の政(まつりごと)を担う政治家は20年、30年レンジで壮大な「夢」を語ってほしいな、と誰もが感じていると思うのですね。
同じ日の日経新聞の9面「Opinion」は、英FINANCIAL TIMESのチーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターのギデオン・ラックマンさんの寄稿(これもほぼ全面掲載)です。
「イーロン・マスク氏の振る舞いは、世界情勢にとってかなり危険である」という内容です。そうなのかもしれません。ただ、マスク氏の宇宙開発事業に対する「夢とこだわり」は、「誇大妄想だ」とも受けとめられながらも、信じられないスピードで「ものすごい実績」を積み上げています。「火星移住計画」については、狂信的ともいえる真剣さで臨んでいます。
「壮大な夢」を私たちは共有したい!
地獄を見た「H3」は成功を勝ち取りました。そこには岡田理事が語る「チームの存在」がありました。大きな夢を共有できた時、「日本は底力を発揮」します。「初代ハヤブサ」の奇跡の生還と「ハヤブサ2」のパーフェクトな成功。さらに、精密月着陸と越夜に成功した「探査機SLIM」。
宇宙開発事業は、失われた30年を経た日本が「壮大な夢として共有できる大テーマ」のような気がしています。
坂本 樹志 (日向 薫)
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