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「SLIM」日本初の月面着陸成功を起点に、「悪しき“物語”」と「善き“物語”」を俯瞰し、「〇〇的なものが、〇〇を覆い隠す」を探索する1on1ミーティングです!

もし「精神」などというものがあるなら、それは何らかの形として顕れているはずだ。それを見たり、それに触れたりしてこそわかるのに、「精神的」なことをとやかく言うので、それが「精神」を覆い隠してしまう、と青山二郎は嘆くのである。
(精神的なものが精神を覆い隠す~『こころの処方箋(河合隼雄)』より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2024年4回目の1on1ミーティングです。

デサンティス氏が米大統領選の撤退を表明!

(Sさん)
デサンティス氏が、撤退を表明しましたね。昨日、火曜日の日経新聞は、「強まる“トランプ一強”」、を見出しに使っていましたが、米国最大の推し活イベントである大統領選は1年間のロングラン興行です。まだまだ先は長い。現在は「起承転結」の「起」です。「結」は、果たしてどうなるか…

(A課長)
まさに!

(Sさん)
ええっと、前々回の1on1は1月11日ですね。そのとき、レーガン政権、そして、ブッシュ親子大統領のもとで要職を務めたロバート・ゼーリック氏について、いろいろ語り合っています。日経新聞は、名物企画『直言』の年初に登場する人物として、あえて「昔の大物」を選んだ。つまり、現在の混沌状況について、俯瞰した視点を期待してのインタビューだと感じました。

(A課長)
ええ、Sさんとそのことを共有しましたね。ゼーリック氏の発言を思い出します。

──現時点ではバイデン大統領にトランプ氏が挑戦すれば、トランプ氏が勝つという予測が多い。そうなったら、世界はどう備えるべきか。
「トランプ氏が共和党の指名を獲得することを前提とした議論が多く、その可能性は高いが確定したとは思わない」
「私は1988年から大統領選に関わってきたが、予備選では驚くようなことが起こる。ニッキー・ヘイリー(元国連大使)のような人が共和党候補になる可能性もある。バイデン氏は出馬を望んでいるが、そこにも不確実性がある。彼の年齢からみて健康問題が起こったらどうするかといったことだ」

こんな早い段階で、デサンティス氏が撤退するというのも意外でした。状況は刻々と変わっている。未来は何が起こるかわからない。

ニッキー・ヘイリー氏が共和党候補になるかもしれない!?

(Sさん)
まさに! おっと、Aさんのリアクションがうつってしまった。リフレインは村上春樹さんの文体だ。

(A課長)
春樹さんが、ここで登場しますか(笑)
そういえば、かなり前の1on1で、春樹さんと川上未映子さんの対談を取り上げて、「それはまるでコーチングだ!」と、Sさんと感じ合ったことを思い出します。春樹さんがトランプ大統領のことを語っている箇所を引用しています。

(川上)
例えば宗教の教義というのは物語の最たるもので、あなた方にとってその物語がすごく大事ですよ、真理ですよということをたくさんの人に思わせることによって、物語が実際的な動きを持ってくる。村上さんの作る物語がある。あるいは時代が生むさまざまな物語がある。人々の日常はこの「無意識」の奪い合いで、でも、みんなそれでいいと思っている。自分たちの生み出す物語は何かしら善的なものを生み出すと思っている。誰もそれを戦いだとは思っていないかもしれない。けれども、とにかくわたしにとっては、どちらにも転びうる、解釈されうる、非常に危険なものを扱っているという感覚があります。

オウム真理教だって物語があったわけですよね。もっというと、「物語なんて、小説なんて、そんなの嘘だしくだらないから読まないよ」と言いながら自己啓発本を読んでいる人たちも、自己啓発という名の物語を読んでいるわけです。

(村上)
トランプ大統領がそうですよね。結局、ヒラリー・クリントンって、家の一階部分に通用することだけを言って負けて、トランプは人々の地下室に訴えることだけを言いまくって、それで勝利を収めたわけ。

(川上)
なるほど。

(Sさん)
残念ながら、トランプ大統領の「悪しき“物語”」を共和党支持者が信じている。地下室である「悪しき“物語”」は力を持つということか…

トランプ氏は「悪しき“物語”」を語っている…のだろうか?

(A課長)
今日の1on1は「物語」がテーマになりそうですね。
最初はSLIMでしょう。日本初の月面着陸に成功しました。Sさんとは、去年の8月に、H3ロケットの打ち上げ失敗をテーマにした1on1をやっていますから、今回、成功するかどうか…固唾をのんで見守っていました。

(Sさん)
いやあ~ 成功してよかった。ただ、太陽電池が機能していないようなので心配ですが、JAXAの宇宙科学研究所の国中均所長が、「ギリギリ合格の60点」とコメントされているので、後日発表される正式な報告、つまり「ファクト」を待とうと思います。「ピンポイント着陸」については、一応成功したようなので、そこは信じていますが…

(A課長)
慎重なコメントだ(笑)

(Sさん)
このような国家的プロジェクトについては、何が何でも成功してほしいという「想い」が、自分でも不思議なくらい高まってしまいます。侍ジャパンがWBCで優勝した瞬間は「欣喜雀躍」しました。
ですから、後日報告される「エビデンス」によって、「成功とはいいがたい…」と訂正されるようなことになると、ショックが大きいので、現時点では「冷静」を心がけたいと思うんですね。

(A課長)
なるほど… Sさんは H3ロケットの打ち上げ失敗について、畑村洋太郎さんの『失敗学実践講義』を引用しながら、「失敗があるから成功するのであって、失敗と成功を別のものとして捉える必要はないのでは?」と、言葉にした。印象に残っています。

(Sさん)
そうそう、「失敗は成功の一つの欠片に過ぎない」ことを共有しましたね。
月探査機のSLIMを載せたH2Aロケットは、47回目の打ち上げでした。去年の9月ですから、4カ月という期間をかけてSLIMは月に着陸した。なお48回目も今年の1月20日に打ち上げられ、もちろん成功しています。これまでの打ち上げ成功率は98%ですから、すばらしいロケットだ。

H2Aの驚異的な打ち上げ成功率は6号機の失敗があったから

(A課長)
ただ、唯一6号機が打ち上げに失敗したわけですよね。2003年11月です。その失敗の経緯を、Sさんは『失敗学実践講義』をもとに解説してくれました。元JR東日本の会長職であった山之内秀一郎さんが、JAXAの理事長に就任されていた時期です。その山之内さんは「失敗」に責任を感じ、精神的に追い詰められます。あまりにも過酷過ぎたのでしょう。身体中から脂汗がでるようになり、6号機の打ち上げ失敗の10カ月後に、気を失って倒れてしまいます。

このとき医者から「命か仕事かどちらを取るか、いま決めなさい」と迫られます。即座に副理事長に辞任の意向を伝えると、ようやく認められたそうです。当時のことを振り返って山之内さんは、いいようのない強いプレッシャーの中でそのまま理事長職にとどまっていたら、確実に自分は死んでいたに違いないと話していました。

(Sさん)
壮絶ですね。ただ、その6号機の失敗の後は、48号機まですべて成功しているので、失敗は見事に生かされたわけです。後継機であるH3ロケット2号機の打ち上げが、2月15日に予定されています。初号機失敗によって、さまざまな知見を得られたようなので、否が応でも期待が高まります。失敗によって成功は導かれます。大丈夫でしょう(笑)

(A課長)
今日の1on1もいい流れです。続いて恒例テーマの、21日の日経新聞日曜版2面『直言』をやりますか?

(Sさん)
今回は、日本郵政の増田寛也社長でしたね。Aさんは、このインタビューで何を感じましたか?

(A課長)
いきなりの質問だ(笑)。実は、今回の『直言』については、Sさんに進行を委ねようと思っていましたので…

(Sさん)
というと…?

(A課長)
ええ… 11の質問のほとんどは「政治案件」です。増田社長は2020年に日本郵政の社長に就任されたわけですが、中央2枚の大きな写真の上に記された肩書は、「増田寛也・日本郵政社長(令和臨調共同代表)」とあります。インタビュアーの谷隆徳編集委員も()内の(令和臨調共同代表)の方を意識して質問している印象です。

『直言』(令和臨調共同代表)増田寛也氏へのインタビュー

(Sさん)
確かに。増田社長のキャリアについては、写真の下に、3行ほど綴られていますね。

ますだ・ひろや
1977年東大法卒。建設省(現在の国土交通省)を経て95年から岩手県知事を3期12年務め、その後も総務相などを歴任。2020年に日本郵政社長に就任して以降も、政府の国土計画の策定に関わるなど、国土の姿や将来に向けた様々な提言活動を続けている。

日本郵政は、郵政民営化の流れを受けて、持ち株会社である日本郵政株式会社と、その傘下に事業会社を要するグループとして発足しました。2007年です。ただ、財務省が多くの株式を保有する特殊会社ですから、純粋な民間企業のようにはいかない。

(A課長)
現在、政府が保有する株式の割合はどれくらいだろう?
2023年3月31日期の 有価証券報告書をチェックしてみましょうか… 126ページにありますね。36.28%だ。

(Sさん)
Wikipediaに推移が書かれています。それによると、2017年の9月までは、87.98%を政府が保有していました。売り出しによって63.29%に下がりましたが、その率がずっと続いている。現在の率になっていくのは、2021年10月の売り出し以降です。したがって、まだまだ政府のコントロール下にある“特殊な”会社であることが理解されます。

増田社長は、官僚、地方自治体の首長、そして総務大臣も経験されている。ですから「令和臨調共同代表」なのであり、国家政策を提言する司令塔です。『直言』恒例の「インタビュアーから」のコメントは、その期待感がにじみ出ている。

日経新聞は、この『直言 Think with NIKKEI』のタイトルである大見出しを「地方創生10年 仕切り直せ」としています。2つの見出しは、「地域の魅力増、女性の声を」「人口減、移民問題避けるな」です。

増田氏は今回、市町村の連携の必要性を繰り返し強調した。何でも国に頼ろうとする自治体の現状を「正直、隔世の感がある」と話す。かつて地方分権を求める「改革派知事」だった増田氏から全国の首長に向けた苦言と受け止めた。

(A課長)
ですよね… ただ、一民間企業の人間として、「巨象の日本郵政がどうなるのか?」「増田社長は日本郵政をどこに導いていこうとしているのか?」を、この『直言』によって感じてみたかったんです。Sさんが今言ったように、「日本政府」のコントロール下にある会社ですから、ままならないことも理解できるのですが…

『直言』日本郵政増田社長への最後2つの質問はとてもシビア

(Sさん)
Aさんに、今一つノリがないのがわかってきました。Aさんは、増田社長の言葉にロマンを感じたかった?

11の質問のうち最後の2つだけが、(令和臨調行同代表)とは別の「日本郵政・増田社長」への質問となっていますね。10番目の質問は、「郵政サービスはどこで暮らす国民にも提供する必要があるとはいえ、郵便局網の維持は現実的とは思えないが」、と踏み込んでいます。
その質問に対する増田社長の回答に、インタビュアーの谷編集委員は物足りなさを感じたのか、最後の質問は、強い口調となっています。

──思いはわかるが、慈善事業ではない。郵便料金を値上げしても、黒字は一時的だ。
「郵便物は今後も減るので、物流面で相当な合理化し、コストを抑えたい。ヤマト運輸との協業もある。それぞれの得意分野を生かして収益を上げたい」
「今は収益面では金融2社の比重が高いが、不動産事業がようやく形になってきた。資材価格の高騰が多少痛いものの、25年まで収益を下支えする根っこはできる。駅前の好立地に郵便局はまだまだある」

(A課長)
Sさん、実は今日の1on1で、テーマにしたい内容を温めていました。「SLIMの月着陸成功」の記事に戻ります。1面と3面で取り上げられています。多くは、「ギリギリ合格の60点」の詳報です。この記事を読み進めて、最後にたどり着く「囲み」の内容に響きました。

Sさんは、「増田社長の言葉にロマンを感じたかった?」と言いましたよね。その囲みのタイトルは、「月への“物語”で科学振興」です。矢野寿彦編集委員の描く、その“物語”にロマンを感じたんです。

A課長は日経新聞・矢野寿彦編集委員の“物語”にロマンを感じた!

(Sさん)
おっ、“物語”を語る川上未映子さんと春樹さんにつながった。 Aさんが響いたところを紹介してください。

(A課長)
ありがとうございます。

有人、無人あわせて5カ国目の月着陸となった。半世紀前の米国と旧ソ連は冷戦下の対立を背景に、そして近年、経済成長が著しい中国とインドは軍事利用も視野に国威発揚を掲げて実現した。それに対し宇宙開発の平和利用に徹し、限られた予算の中で成功させた月探査機「SLIM(スリム)」の成果は高く評価してよい。

(Sさん)
宇宙開発の目的は各国さまざまということだ。その中で日本のパーパスは間違いなく崇高です。この度JAXAに参集した科学者をはじめとする多くの関係者はこのパーパスに、「疑いを持ち、違和感を覚える人は誰一人としていない」、と断言していい。まさに「善き“物語”」だ。

(A課長)
Sさんと「はやぶさ2」の成功を語り合った1on1を思い出します。そのときのSさんの発言をメモっていますから、再現してみましょうか?

とにかくパーパスがスゴイ! ミッションの崇高さは説明不要です。関与の度合いは末端であっても、「絶対成功させてみせる!」というモチベーションは、等しく共有されています。一方で、「失敗は絶対許されない」という極度の緊張感も伴います。
ただ、全員がその緊張感を共有する環境は、ともすれば「ひとりくらい手を抜いても全体に影響するわけではないし…」という傍観者の存在を払しょくしたのではないでしょうか。

「はやぶさ2」「SLIM」のパーパスは傍観者の存在を払拭する!

(Sさん)
言ったなぁ~ 今日はこれまでの1on1を振り返る内容になっている(笑)

(A課長)
Sさん、「月への“物語”で科学振興」を書いた矢野編集委員は、実は同じ日の日経新聞12面でも骨太のコラムを書かれています。日経新聞のホームページにあるプロフィールによると、担当されている分野が「医療・科学と社会・原発問題」とあるので、科学技術政策に知見を持たれていることがわかります。
以前の1on1で、矢野さんが担当された「“卓越大”という壮大な実験(Deep Insight)」を取り上げました。

(Sさん)
東北大学ですね。東大でも京大でもない東北大学が“卓越大学”に選ばれたことが、理解できました。そうか… それも矢野編集委員だったんですね。

(A課長)
12面のコラムは、日経新聞の日曜版に紙質を変えて挟み込まれる9~20面、「NIKKEI The STYLE」の「文化時評」です。全面に近いボリュームで、タイトルの大見出しは、「科学的」を求める社会、です。「科学的」の“的”の意味を探ろうとした内容です。

ワクチンの効果やマスクの是非、「2類」のままか「5類」への移行か。4年に及んだコロナ禍でも対策の節目節目において科学的根拠が議論になった。
意味するところがよくわからないが「科学的人事」や「科学的介護」なる奇妙なフレーズも最近目につく。科学的根拠は普通「エビデンス」と訳す。ならば「科学的」とは何だろう。

この「疑問」から、矢野さんは「的」なるものの探求をスタートさせます。

「科学」と「科学的」は、似て非なるもの?

(Sさん)
なるほど… 私たちは、あまり考えることなく「〇〇的」と言葉にしますが、「科学」そのものと「科学的」というのは、似て非なるものだ。

(A課長)
そうなんです。とても長いコラムなので、最後のところだけ読み上げましょうか…

拡張する科学の世界で、科学的にどう向き合えばよいか。社会科学者の松村一志・成城大学専任講師は「巷でエビデンスとされるものが決定的とは限らない。データや数字で示されたといってもグラデーションがある」と語る。
人間はわからないということ、知らないということに耐えられない生き物だ。戦争や紛争、感染症の危機や気候変動、AIの脅威等々。不確実性とリスクが高まる。一方、情報の洪水で真実を知ることは難しい時代をわたしたちは生きている。科学的が心のよりどころになるのは必然なのか。
だが、神のような「絶対性」「万能性」が科学に宿ると信じ、思考停止したまま科学的という心地よい響きに飛びつくのは危うい。

(Sさん)
示唆に富む! Aさんとは、“科学だと称されるもの”は、その時点での“科学的な過程”であることを、何度も確認し合っている。この「科学だと称されるもの」を「科学的」と置き換えてもいい。視野が広がってきた。

(A課長)
そろそろ時間ですね。最後に「不思議を覚えた」ことを、Sさんにお伝えしたい。

(Sさん)
不思議…ですか?

(A課長)
ええ。Sさんには、私が毎日「CBLコーチング情報局」をチェックしていることをお話ししていますが、昨日の解説のタイトルは、われわれは今や周囲を「テキ」に囲まれて生きている…? でした。
共有しますね。

(Sさん)
「テキ」がカタカナになっていますが…

「〇〇的なものが、〇〇を覆い隠す!」とは?

(A課長)
その理由は、最後に書かれています。
河合隼雄さんの場合は、「精神的」と“的”を付さない「精神」という二つの言葉の違いを紐解いています。矢野編集委員の「科学的」と「科学」と、符合しています。

もし「精神」などというものがあるなら、それは何らかの形として顕れているはずだ。それを見たり、それに触れたりしてこそわかるのに、「精神的」なことをとやかく言うので、それが「精神」を覆い隠してしまう、と青山二郎は嘆くのである。

この言葉はなかなか素晴らしいもので、「〇〇的なものが、〇〇を覆い隠す」というようにして応用すると、いろいろなところに使えると思えるのである。たとえば、われわれは自分が「西洋的」と思うことを学んだり、真似をしたりしているが、それは真の「西洋」の姿を覆い隠すことになっていないだろうか。逆に、これで「日本的」というようなことを外国に売り出して、それによって真の日本の姿を覆い隠すようなことをしていないだろうか。こんなことを考えると、われわれは今や周囲を「テキ」に囲まれて生きているような錯覚さえ生じてくるのである。

(Sさん)
「的」を「テキ」に変えて、「敵」につなげているわけですね(笑)。確かに符合そのものだ。ユングのシンクロニシティかな?

(A課長)
それとは、ちょっと違うと思います(笑)
ユングが出てきたところで、Sさんが「善き“物語”」と「悪しき“物語”」を対比させたことについて、感じたことをフィードバックしていいですか?

(Sさん)
今日の1on1の〆は、コーチングのフィードバックですね。ぜひお願いします。

(A課長)
ユングは「善と悪は表裏一体」であり、「善でもあり悪でもある」と言っています。ユング派心理学者の河合さんは、この「相補性」を徹底的に深めていったのですね。「善き“物語”」と「悪しき“物語”」のように、対比させていくと実にスッキリしますが、ここにとどまってしまうと、思考の幅が狭まり、そして奥行きのある思考に至らない。

思考の幅を広げ、奥行きのある思考に至るためには…

(Sさん)
なるほど… 私も対比させてしまった。

(A課長)
私は、このような「思い込みから自由になっている状態」を目指すのがコーチングだと思っています。「あるがままの自分」です。つまり、この高い頂に向かって進んでいくのがコーチングです。私はまだ道半ば、いえ3合目くらいかな…
クライアントの話を真剣に聴いていると、その言葉が身体の中に沁み込んできて、不思議な気持ちなることがあります。クライアントとの対話は学びに満ちています。「自分も変わることができそうだ…」といった感覚でしょうか。その感覚が訪れた時は、とても幸せです。

(Sさん)
深い… Aさんのその感覚は、テクニックでは説明できそうにない。どうしましょう?

信じること…留保なく、まったく無条件で!

(A課長)
そうですよね…(笑)
では… 春樹さんに助けてもらいましょう。『街とその不確かな壁』は全部で655ページですが、639ページにある対話を引用します。春樹さんの至言です。

「落下を防ぐ方法はおそらく見つからないでしょう」と少年は言った。「しかしそれを致命的でなくするための方法は、なくはありません」
「たとえばどんな?」
「信じることです」
「何を信じるんだろう?」
「誰かが地面であなたを受け止めてくれることをです。心の底からそれを信じることです。留保なく、まったく無条件で」

坂本 樹志 (日向 薫)

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