日本経済新聞6月7日朝刊の3面(総合2)には、世界が共有するど真ん中のトレンドである「EVを核に世界連合を目指すソニー」、「はやぶさ2」が持ち帰った砂の中にアミノ酸が初めて検出されたことを受けての「生命誕生の謎に迫る」、他方、膠着が懸念される悲惨な現実の「ロシアのウクライナ侵攻」という、次元の全く異なる大テーマが、同じ紙面に掲載されていました。
3つの異なる記事をテーマに1on1が展開されます!
今回は、この記事内容に触発された、心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を経て定年再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんとによる1on1ミーティングが展開されます。
「1on1はケミストリー」との思いを共有する2人のコミュニケーションは、果たしてどのように展開していくのでしょうか…
(Sさん)
今日もルーチンで、朝マックしながら日経新聞を読んでみました。1面は「国の委託、競争働かず」という大見出しで、国の委託事業が大手のコンサルに偏っていることを指摘した内容です。
ベンチャーの育成、といいながら、国は結局大企業頼み、という本音が透けているというか、日本という国の保守性が浮き彫りになっていると感じます。
日本は99パーセントが中小企業ですから、ここから第二、第三のソニーが次々と誕生する環境が現出した時、初めて日本の未来が語れるようになるのだと思います。
(A課長)
ソニーウォッチャーのSさんは健在ですね。
Sさんがその話から始めたのは、日経の3面を語りたいからじゃないですか?
(Sさん)
ご名答です(笑)
毎日とは言わないまでも、最近ソニーの記事は日経でよく登場しますが、今日は大きなスペースで取り上げています。
Aさん、今回の1on1は、日経の記事をテーマに語ってみませんか? 緒方貞子さんについては、継続テーマになっていくと思いますので、今日はインターミッションということで…
(A課長)
了解です。臨機応変であるSさんの面目躍如ですね(笑)
どうしてSさんは日経3面を読んでアタマがくらくらしたのか…?
(Sさん)
ポジティブに受けとめます(笑)
今日の日経を一通り読んで、実はアタマがクラクラしています。というのは、その3面に大きな文字で「ソニー、EV世界連合視野」、という見出しが躍る7段組み記事のその横が、「戦線拡大 懸念広がる」というロシアのウクライナ侵攻が膠着しつつある状況の内容です。
そして、ソニーの記事の下3段が、「生命誕生の謎に迫る…はやぶさ2 海外調査とデータ共有」という、ソニーの現実に根差した夢とはまた異なる、“神は果たして存在するのか否か”という、これこそ究極のテーマを遠望してしまうような内容ですから…
(A課長)
Sさんもそうですか。実は私も「今日の日経はスゴイな‼」と感じています。総合面とはいえ、まったく内容の異なる記事を、同じページに配置するというのは、日経に明快な意図があるのではないでしょうか… 読者を刺激しているというか、揺さぶっています。
この3つの記事は、この先世界はどの方向に向かっていくのか、文明の発達と成熟は私たちに幸せをもたらしてくれるのか、といった遠大なテーマに思いを馳せる体験を与えてくれる、と言っても過言はないと思います。
(Sさん)
なるほど… 私は編集の意図までは思い至りませんでした。言われてみればそんな気もします。
A課長は編集意図の深読みからアドラーの「目的論」を想起します!
(A課長)
私は心理学を学んだせいか、深読みしてしまうクセがあります。ただ、この3面のおかげで頭が冴えてきました。他の面の記事もいつもより、集中して読んでいます。
アドラーをコーチングの父、そしてロジャーズをコーチングの母、とSさんには事あるごとに話していますが、ある刺激を受けて、頭が回転を始めるとき、アドラーの「目的論」と結びつきます。これは、人は何も考えていないと感じている状態でも「常にある目的に向かって思考は動いている」、ということです。
私は、それが常態なのであれば、ある刺激を受けて、何かピンとくるものがあれば、その意識を覚醒させていけば、その目的がある程度フォーカスされ、その目的に向かっていく力というか、強度が高まっていく、と解釈することにしました。
自己流の解釈ですが、プラスになっているような気がします。
(Sさん)
なるほど… Aさんの探求心というのは「なんとなく形成されている」のではなく「自覚的に生み出されている」ということですね。
私はプラス志向であることを自覚していますが、ロジックに落とし込むのは苦手なので、勉強になります(笑)
(A課長)
妻からは「あなたは理屈っぽいのよ」、と言われます。「聞く人によっては面倒がられるわよ」、とも注意喚起されるので、気を付けるようにしています。Sさんだと安心して話せるので、甘えていますが…
(Sさん)
どんどん甘えてください(笑) 心理的安全性こそ人間関係における潤滑油の極みです。
(A課長)
心理的安全性は、コーチングにおいてラポールが形成されている状態のことですね。「心理的安全性」などのニューワードに接すると、過去のさまざまな心理学者が提唱してきた内容が想起されます。言葉を変えただけ、とは言いませんが、切り口を変えて説明している… それが新鮮に受けとめられる、と解釈してしまいます。
「神は細部に宿る」のか…!?
(Sさん)
Aさん、そこがまた面白いところです。私は“微差を肯定する派”ですね。
「神は細部に宿る」と言いますが、ネーミングは実に大事ですし、ブランドって、さまざまな要素が“物語”として、そこにギュッと凝縮されています。ですから私たちは、その“物語”にお金を払っているのですね。
(A課長)
Sさんの切り口もさすがだ。
「同じでもまた違う」…ちょっと禅問答になってきました。
(Sさん)
そろそろ記事内容にいきましょうか(笑)
ソニーの記事は、「EV世界連合」という大見出し、中見出しが「ホンダと新会社核に」、そして小見出しが「他社出資受け入れも」とあります。最後に「センサー技術で貢献」に併せて、「メタバース、研究開発急ぐ」という流れでまとめています。
現在のソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長へのインタビューです。私は、前社長兼CEO、そして会長であったの平井一夫さんが、この吉田さんを後継者にしたことがすごいな~と感じています。
『ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」(平井一夫/日本経済新聞社・2021年7月)』のなかで、平井さんが吉田さんを「三顧の礼」で招いたことを語っています。ご自身のことを「まったくカリスマではない」と強調しているのも平井さんらしさです。
「随処」の平井さんはカリスマではない…?
この本は平井さんの「随処」というか、ソニーグループの“辺境”であるCSB・ソニーに1984年に入社して以降、会社が変わり環境が変わる都度、「ひたすら1on1ミーティングを続けてきた」ことが書かれています。その本質は“自分”ではなく“チーム”なのですね。
平井さんはまさに劉備玄徳であり、吉田さんは諸葛亮…孔明です。
(A課長)
本日、ソニーの一時代を創られた出井さんがお亡くなりになったことが報道されました。出井さんもすごい人だったのですね。
(Sさん)
私は、スカイセンサーという短波放送も聴くことのできるラジオを、45年前に手にして以来のソニーファンですが、創業世代の井深さん、盛田さん、そして大賀さんまでが「ソニーのリーダーシップ1.0」、まだインターネットの可能性がはっきりしていなかった時期に、「インターネットは隕石だ!」と強いメッセージを発した出井さんは「ソニーのリーダーシップ2.0」、そして、ソニーを大復活させた平井さんと吉田さんが「ソニーのリーダーシップ3.0」と勝手にネーミングしています。ダンディな佇まいの出井さんはカッコよかったですね。
(A課長)
Sさんの言う「リーダーシップ3.0」の世代となる異端者の平井さんをトップに選んだのは、外国人トップのストリンガーさんですよね。その流れをつくったのは、中小企業のソウルを忘れないソニーという「器」のような気がしています。
現状の儲け頭の商品がダメになる商品を開発し続けろ!
(Sさん)
その視点です! 確かにソニーは大企業です。でも衰退する大企業ではなく、そのカルチャーは「中小企業の連合体」なのだと感じています。
ソニースピリットというのは、創業者の盛田さんが口酸っぱく言っていた「現状の儲け頭の商品がダメになる商品を開発し続けろ!」でした。グループ全体にこの精神が宿っているのだと思います。ですから、危機を感じるセンサーがとても発達しているし、それによって難所を乗り越えていく…
現在のトップである吉田さんは、まさにソニー精神の体現者なのだと思います。
(A課長)
熱い! Sさんがソニーを語ると、その熱で溶けてしまいまそうです(笑)
ベンチャー・スピリットがテーマになってきましたが、私は6面の「Deep Insight」に啓発されています。コメンテーターの梶原誠さんのオピニオンです。
テーマは「日本に“開拓社”はあるか」です。ソニーの記事と連動しているような内容です。真ん中あたりの記述だったと思います。
株式市場も、開拓する企業を選んできた。例えばエレクトロニクス業界。ソニーグループは5割の世界シェアを握る画像センサーを、村田製作所は4割のシェアを握る積層セラミックコンデンサーを育てて株式時価総額の序列最上位にいる。中国や韓国メーカーとの消耗戦に明け暮れた企業の株価は低迷し、再編に呑み込まれた。
日本の中小企業はオンリーワンの集合体!
スマップではないですが、オンリーワンの重みを感じるコメントです。
そしてオンリーワン技術というと、「はやぶさ2」ですよね。「初代のはやぶさ」が奇蹟の生還であり…人ではありませんから、“生きて還る”という表現も変ですが、日本中が興奮のるつぼとなったことを思い出します。
致命的ともいえるトラブルの連続に見舞われながら、技術者の創意と総意を結集したオペレーションが注目されました。まさに達人技です。
そして「はやぶさ2」です。
ミッションという点では、中途半端な結果となった初代のプロジェクトを挽回すべく、トラブルの原因を徹底的に究明し、パーフェクトとも称される成功につなげました。
「はやぶさ2」では、200~300社の企業が参画したと書かれています。今回の記事は「生命誕生の謎に迫る」なので、企業名は登場しませんが、重要パーツの多くは、オンリーワン技術をもつ数多くの中小企業や町工場製であることは、広く知られたところです。
パーパスがスゴイ! そしてバリュー、プリンシプル!
(Sさん)
『ドキュメント「はやぶさ2」の大冒険 密着取材・地球帰還までの2195日(NHK小惑星リュウグウ着陸取材班/講談社・2020年12月)』は、夢に向かって、そしてそれを実現したというドキュメントの最高傑作だと思います。
私は参加企業、そして膨大な数の参画メンバーは、会社人生における幸せを心の底から実感できたのではないかと想像しています。
とにかくパーパスがスゴイ! ミッションの崇高さは説明不要です。関与の度合いは末端であっても、「絶対成功させてみせる!」というモチベーションは、等しく共有されています。一方で、「失敗は絶対許されない」という極度の緊張感も伴います。
ただ、全員がその緊張感を共有する環境は、ともすれば「ひとりくらい手を抜いても全体に影響するわけではないし…」という傍観者の存在を払しょくしたのではないでしょうか。
(A課長)
パーパスですよね。これが全社員に腹落ちする実感として血肉化できれば、その会社は夢に向かってブレることなく進んでいけるのではないでしょうか。
「はやぶさ2」は、「ミッションそのもの」であるパーパスのP、「生命誕生の謎に迫る」というバリューのV、参画者全員が、どんな困難が待ち受けようとも「絶対実現してみせる!」というプリンシプルのP、この3つがPVPとして合体されれば、その企業にはウルトラのパワーが与えられるのだと思います。
またしてもコーチビジネス研究所の五十嵐代表の言葉を使ってしまった…(笑)
(Sさん)
いいですね~ 私もPVPを肝に銘じて、ともすれば周囲のノイズに振り回されてしまうことのないよう、自己基盤をつくっていこうと思います。
おっと、“独りよがりではない自己基盤”であることが、真の肝ですが…(笑)
次回の1on1も盛り上がりましょう!
坂本 樹志 (日向 薫)
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