先日、NHKスペシャルで「大廃業時代」と題したショッキングな番組が報道されました。
『廃業』と『倒産』は違う
『廃業』とは、後継者難や経営難など、理由を問わず自主的に事業を止めることを言います。
会社を廃業するには、事業を停止しなければなりませんが、会社の事業を停止しただけでは廃業したことにはならず、「休眠」や「休業」と呼ばれる状態です。
会社の事業を廃業とし、会社を閉鎖するには、会社を「解散」し、「清算」する必要があります。会社の解散や清算は、法律に定められた手続きによって行います。
会社の清算手続きが完了することを「清算結了」といいます。清算結了してはじめて、会社の法人格は消滅し、会社がなくなります。会社が清算結了し、法務局で清算結了登記を行うことによって、会社の登記簿(登記記録)も閉鎖されます。
一方、『倒産』とは、会社が支払不能の状態に陥り、会社の目的である経済活動ができなくなってしまうことを意味します。いわゆる経営破たんした状態が倒産ということになります。『廃業』とは、経営破たんしたかどうかに関係なく、事業を止めて会社を畳むことです。
会社を廃業するときには、株主総会の決議や官報への公告、法務局での登記、税務申告などの手続きが必要になります。会社法で官報に公告するには、2か月以上の期間をとることが求められています。したがって、廃業の手続きをして会社を閉鎖するまで、最短でも2か月はかかってしまうことになります。
今後1年間に31万社が廃業?
帝国データバンクの調査によると、全国140万社の廃業リスクを分析したところ、今後1年間に31万社が廃業するリスクがあるとしています。これが本当だとすると、およそ5社に1社が廃業してしまうことになります。
中小企業庁が発表した2019年版「中小企業白書」では、厚生労働省「雇用保険事業年報」を用いて開業・廃業の状況をまとめています。
2017年の日本の開業率は5.6%です。国際的にみると、開業率ではフランスで13.2%、イギリスで13.1%、ドイツでも6.7%となり、日本の開業率は低い水準であることがわかります。一方、日本における廃業率は3.5%。諸外国ではイギリスで12.2%、フランスで10.3%、ドイツで7.5%となっており、廃業率においても低い水準であることがわかります。
しかしながら、(株)東京商工リサーチの「休廃業・解散企業動向調査」を見てみると、2013年は休廃業・解散で34,800件から2018年には46,724件と増加しています。白書では「経営者の高齢化や後継者不足を背景に休廃業・解散企業は年々増加傾向にある」としています。一方、倒産件数では10,855件(2013年)から8,235件(2018年)と減少しています。国際的に比較して開業率も廃業率も低い水準となっていますが、今後も休廃業の増加が予測されます。
年間の休廃業・解散件数について、倒産件数と比較して確認すると、倒産件数は2008年をピークに減少傾向にあり、3年連続で1万件を下回っています。他方で、休廃業・解散件数は増加傾向にあり、2016年の休廃業・解散件数は過去最高となり、2000年と比較して2倍近い件数となりました。
『廃業』の増加は、人口減少による地域経済の縮小による経営難や後継者難が背景にあると考えられます。中小企業の廃業は、雇用の場がなくなり、納税者もいなくなるということです。取引先の廃業による連鎖倒産にもつながり、金融機関にとっても貸し倒れリスクが増大し、地域経済、日本経済に深刻な影響を与えかねません。
NHKの同番組で、日本銀行の試算によると、地方銀行や信用金庫の半数以上が10年以内に赤字に転落し、このままでは、2025年に、GDP22兆円、雇用660万人が消失するとしています。
大廃業時代を生き抜くには?
番組では、「会社のおくりびと」と称するコンサルタントが円満な会社の終え方を指導していましたが、『廃業』は単に一中小企業の問題ではありません。雇用や地域経済への影響などを考えると、社会的・国家的な視点からも考えていく必要があります。
『廃業』した後の取引先や雇用問題、地域経済への影響を考慮しなければなりません。『廃業』後をどうするかを含めた支援が大切です。その点からも、これからは「M&A(企業の合併・買収」がとても重要な選択肢になってくるでしょう。
【参考リンク】M&Aとは?意味、メリット、成功手法・流れを解説!【事例10選あり】
私も以前、公的な中小企業支援機関である東京信用保証協会で、中小企業の資金調達や再生支援に取り組んでいたことがあります。リーマンショックの時の『金融円滑化法(モラトリアム法)』で生き残った企業はあったものの、当時からこの負債はいつか大きな問題になると危惧していました。倒産・廃業に苦しむ多くの中小企業も目にしてきました。
廃業したくても廃業できない
最悪の事態に陥る前に余力のある段階で、会社を整理することは、その後の生活や再生を考えるととても大事なことです。しかしながら、多くの中小企業は、会社の事業そのものが生活基盤となっています。廃業には大きな決断が必要であり、生活していくことを考えると、いわゆる「廃業したくても廃業できない」といった状況にあるのも現実です。
企業の撤退・縮小は、経営者にとっても苦渋の選択であり、最も重い経営判断の一つです。長年続けてきた会社を閉じなければならないのは、経営者にとってこれ以上悲しいことはありません。生き甲斐を失い、命まで絶ってしまう経営者もいます。
一方、撤退の時期を誤ると致命傷となってしまい、大きな負債を抱えたまま倒産ということになりかねません。次の新たな再出発への道も難しくなってしまいます。経営者には決断と覚悟が求められます。
尚、『撤退・縮小』戦略を考えるうえで、マッキンゼー社の次の9象限事業マトリックスを使った戦略策定法が参考になります。
エグゼクティブコーチの役割
『廃業』は必ずしもマイナスばかりではありません。次の新しい未来に向かっての再出発でもあります。時代は大きく変化しており、新しい時代に対応した形への事業転換や質的転換が必要です。
エグゼクティブコーチは、『経営者・会社の成長』はもちろん、苦境にある中小企業の『撤退』(廃業)戦略、後継者問題、雇用問題、取引先や地域経済への影響など多角的な視点に立って、経営者をサポートできる存在です。経営者や従業員の新たな人生の再出発を支援する立場でもあります。
経営者と一緒になって経営者の真の想いを汲み取り、経営者に寄りそい「どうありたいか」「何がベストか」をサポートするエグゼクティブコーチの存在が益々重要になっています。
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