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天然水素(ホワイト水素)を起点に、多和田葉子さんの『献灯使』を思索する2024年スタートの1on1ミーティングです!

「江戸時代はいい時代だった、鎖国は必ずしも悪いことではない」という意見が新聞を一色に染めた。そんなこと書いている評論家たちは、実は自分も鎖国に反対だったのに、何も知らされずに勝手に鎖国を決められて屈辱の泥を顔に塗られたことに耐えられず、かと言って、そんな気持ちを正直に告白したのでは庶民と同じく馬鹿をみたことになり商売にならないので、「実は自分は初めから鎖国に賛成で近々政府に提案するつもりだったのだ」という葡萄好きの狐も呆れるような見栄見栄の負け惜しみをはくのであった。(『献灯使(104ページ)』より引用))

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、年頭の1on1ミーティングです。

1995年以降能登半島地震まで最大震度7の巨大地震が7回発生

(A課長)
Sさん、おはようございます。「明けましておめでとうございます」との言葉を呑み込んでしまう2024年のスタートです。巨大地震は場所を選ばない。日本列島のどこでも発生しうる。

(Sさん)
私は30代の後半で北陸エリアの販売会社を担当しましたから、TVに写る場所はほとんどと言っていいくらい知っているし、その場所に立っている…

(A課長)
……

(Sさん)
2日には、支援のために羽田空港を出立しようとした海保機と日航機が衝突し、海保職員5名が命を落としました。JAL機の消火活動にあたる消防関係者も命がけだったと思います。379人が全員脱出できたのは奇蹟といっていい。

(A課長)
客室乗務員の使命感に脱帽です。日頃の訓練の賜物だと思いますが、危機に瀕した時こそ、本当のプロかどうかの「リアル」が表出します。Sさんとは、稲盛和夫さんのJAL再建について、1on1でさまざま語ってきましたが、いろいろ思い出しています。

(Sさん)
今日は2024年第1回目の1on1ミーティングです。去年も同じ1月4日にやりましたね。そのときAさんと確認し合ったのは「未来はまだ起こっていない、だからこそフューチャーペーシングです!」でした。今年は重く厳しいスタートですが、今回も未来を見据えていきたい。

(A課長)
はい!
今年の元旦は7時半にセブンで日経新聞を買っていますから、紙面を見ながら語り合いましょう。

(Sさん)
おや? 電子版派のAさんが新聞を買うとは珍しいですね。

(A課長)
ええ、昨年末の1on1で、Sさんが紙の新聞の良さを語ってくれたことが、影響しています。

新聞紙面は場所をとりますが、見開きにするとスペースは、縦54.6㎝×横81.6㎝です。文字通り「俯瞰」できます。問題意識をもっていれば、紙面をめくっていくうちに、知りたい内容の全体が必ず目に飛び込んできますから。

納得しましたよ。それから今日の1on1は、日経新聞の1月1日、元旦特集がテーマになることがわかっていますから、紙面を「俯瞰」しながら、じっくり読んでみました。

(Sさん)
それはありがたい。
私の場合は、Aさんより少し早く起きて、6時半に近くのファミマで朝日と読売も買っています。日経の内容と比較してみました。そのあたりも今日、Aさんに語ってみたい。

(A課長)
いいですね、やりましょう。ただその前に、大晦日の日経新聞もざっくり押さえておきたいのですが…

日本経済新聞の「転換2023」を要約してみた

(Sさん)
ええ、それもありだ。ちょっと待ってください。31日の分も持ってきますから…

8面から17面までが、「転換2023」を通しタイトルとした大特集だ。9つのテーマを掲げ、2023年を総括している。見出しに日経新聞の意図が込められていると思うので、確認しておきましょう。各テーマには(DATA2023)としてグラフを付し、ファクトも伝えていますね。

「日銀、異次元緩和を修正~近づく“金利ある世界”~マイナス解除 時期計る」
(DATA2023)日米金利差が拡大…円安進み一時151円台
「岸田政権 支持率が急落~減税不発、裏金疑惑も噴出~広島G7の効果帳消し」
(DATA2023)首相 情報発信の回数増やす…重要政策、自ら説明
「戦火に揺れる“極なき世界”~米、3正面対応が重荷に~中国は経済停滞が弱み」
(DATA2023)難民、世界で3600万人…受け入れ国にも負担
「賃上げ30年ぶり高水準~物価高に迫られ企業動く~成長への歯車 回せるか」
(DATA2023)実質賃金 マイナス続く…中小、低いベア実施率
「そごう・西武 売却巡りスト~ブランドに傷 教訓残す~労使協議 重要さ再認識」
(DATA2023)労働争議少ない日本…年300件前後で推移
「生成AI 爆発的進化~人知への脅威か 各国規制~米巨大テック 熾烈競争」
(DATA2023)スタートアップ投資 世界で2.5兆円…大手、囲い込みへ動く
「芸能界・企業…続く不祥事~内輪の論理で統治不全に~外部の目届かぬ風土」
(DATA2023)社内不正「関与・目撃した」13%…窓口認知4割どまり
「大谷・藤井 さらなる高みに~キング・八冠 無双の強さ~前人未到の偉業に喝采」
(DATA2023)プロ野球 観客2500万人回復…阪神は平均4万人超

(A課長)
2023年が俯瞰できます。新聞ジャーナリズムは「言葉遣いプロ」ですから、とても勉強になりますね。
ところでSさん、特集とは別なのですが、見出しに「科学界で注目の3テ―マ」を使った「科学の扉」にとても響いています。

(Sさん)
ちょっと待ってください、開きますから。確か最後あたりだったかな…最終社会面の一つ前の22面ですね。3テーマは「肥満症・糖尿病薬」「背景重力波」、そして「天然水素」とある。私も目を通していますが「背景重力波」はチンプンカンプンで理解できなかった。

「天然水素(ホワイト水素)」は自然界に豊富に存在する!?

(A課長)
ええ、私もそれはスルーしています(笑)。感銘したのは「天然水素」です。

(Sさん)
同感! Aさんは、以前の1on1でわが社がCDPでA評価を獲得できた背景について、語ってくれました。環境問題に造詣の深いAさんだから、納得です。

(A課長)
Sさんも、トヨタの燃料電池自動車MIRAIに触れた時、トヨタの仮想の未来を熱く語っています。Sさんらしい、ぶっ飛びの未来でしたが(笑)
zoomで録画していますから、再生してみましょう。

世界最大、かつ最先端のインダストリーを集約するのは自動車であるし、今後も自動車であり続けると思います。人口で中国を逆転したインドで圧倒的なシェアをもつスズキも、トヨタファミリーの一員です。繰り返しますが、トヨタは世界最大のモノづくりの会社なのです。

その自動車について、世界はEV一色かのようですが、トヨタはその波に飲み込まれる必要はないのでは… と思うのですね。EVは当たり前すぎます。追いかけたところで、テスラのように世の中を変えることはできない…
ここでトヨタのバーチャルリアリティを描いてみます。

……投資がかさみ過ぎて、トヨタのブランドは消えてしまうかもしれない。他の会社に買収されるかもしれない。ですが10年後、それはちょっと早すぎるかもしれませんね。20年後を想像したときには、世界中に水素エネルギー車が走っているかもしれません。私は今その夢を見ています。I have a dream today!
トヨタはグレーでもブルーでもないグリーン水素をつくるところから手がけます。水素ステーションなどのインフラにも積極的に関与してまいります。水素エネルギーが秘める底知れない価値を具現化し、世界に提供します。
現時点では1自動車メーカーですが、すべての人が希求する地球の未来を創造する、企業を越えた地球共同体に変身してまいります!……

かなり妄想が入りました。申し訳ありません。

(Sさん)
去年の2月1日か… それがもう2024年だ。年を取ると時間経過にアクセルがかかってくる。またしても新幹線がイメージされる(笑)
「天然水素」というワードは新鮮でした。考えてみれば、酸素も窒素も炭素も、自然界にその状態で存在することが可能なのに、水素はそうではない。
興味がわいたので、チャットGPTに質問してみました。回答は以下の通りです。

水素は宇宙全体では最も多く存在する元素ですが、地球上では純粋な水素分子(H2)はほとんどありません。それは、水素が酸素と反応しやすく、水(H2O)や有機化合物などの安定した化合物になってしまうからです。水素は非常に軽い気体なので、大気中にもほとんど残らず、宇宙空間に散逸してしまいます。
小学校の理科の実験では、水に電気を流すと、水素と酸素に分離します。これは電気分解と呼ばれる現象で、水素と酸素の結合を電気エネルギーで切り離すことができます。しかし、このときに得られる水素は、空気中の酸素と再び反応して水に戻るか、大気中に拡散してしまうので、自然界には残りません。

水素は宇宙全体で最も多く存在する元素

(A課長)
ところが、日経新聞で科学や新技術に関する記事を担当している藤井寛子記者は、「天然水素」というフロンティアが存在することをレポートしている。

米地質調査所(NSGS)によると、世界の埋蔵量は1兆トンと、世界需要を数千年満たす規模の可能性があるという。米著名科学誌サイエンスは23年の科学十大ニュースで「天然水素のエネルギーラッシュが始まった」と探索の過熱を取り上げた。

(Sさん)
私は1年前に「トヨタはグレーでもブルーでもないグリーン水素をつくるところから手がけます」と、妄想としての言葉を発しています。「ホワイト水素」という、私にとって未知のワードがいきなり目に飛び込んできましたから、引き込まれました。

「ホワイト水素」とも呼ばれる天然水素への期待が高まっている。きっかけは、西アフリカ・マリの首都から約50キロ離れた町「プーラケブグー」。1987年に水井戸を掘削していた際、たばこの火が漏れ出た水素に引火し爆発を起こした。
長らく掘削孔は塞がれていたが、12年にフランスのエネルギー会社、ハイドロ―マが水素を燃料に発電する試みを始めた。水素の濃度は98%あり、10年以上近隣の村に電力を供給している。掘削孔内のガスの圧力は下がっておらず、水素が地中で継続して補充されていると考えられる。

「科学だ」と称されるものは、その時点での「科学的な過程」ですから、現時点で「無理だ!」と思い込んでいるコトも、未来には、当たり前のように現実になりますよ。歴史が証明していますから。

(A課長)
Sさん、日経新聞、読売新聞、朝日新聞の元日特集に移りましょう。Sさんの脱線も面白いのですが、チャンクダウンではなく、チャンクアップでやってみましょう(笑)

(Sさん)
了解です(苦笑)
1面を比較してみましょうか。元日号ですから新聞社の性格が顕著に表れます。

(A課長)
さて、Sさんは3社の視点をどう捉える?

(Sさん)
はい、日経新聞は「政局」から距離を置いて「未来」を展望しています。「政官」に対して興味が薄い、と言うと語弊がありそうですが、明快に「民」志向です。

日本経済新聞は「政局」から距離を置こうとしている新聞?

(A課長)
驚きました! 見出しと言っていいのか、あまりにも巨大な文字なので定規で測ってみたんですね。5㎝×5㎝です。それが斜めに4文字ですから、新聞1面の予定調和的なデザインを崩しているというか、破壊している。電子版ではまったく伝わってこない(笑)

(Sさん)
解き放て
でしたね(笑)。伝統の読売新聞と朝日新聞にとっては「ありえない!」(笑)

(A課長)
では、伝統の読売新聞の1面の「アタマ」は何でしたか?

(Sさん)
はい、意外感を覚えました。私が世間に疎いのかもしれませんが、東大、京大、東北大の3大学に、臓器提供が集中しすぎたため「移植が見送られた件数が60件を超えていた」という内容を、「アタマ」に持ってきていたからです。大見出しは「移植見送り60件超」ですが、大きな文字をズラリと並べている。私も定規を当ててみます…
一文字3㎝×3㎝です。黒地に白抜きですから、インパクトありますね。

そして左の「カタ記事」は、「安倍派100人不記載疑い」を見出しにして、「安倍派を巡る政治資金規正法違反事件」を報道しています。スペース的には、1面の中央に配置した「藤井竜王 みなぎる棋力」と同じくらいのスペースですから、それほど目立たない。

(A課長)
読売新聞は「政治を語る」のが特徴だと思うのですが、いかがですか?

(Sさん)
ええ、4面のほぼ全面で岸田首相へのインタビューを掲載しているので健在です。ただ、場合によっては、政局がらみも積極的に報道する読売新聞ですが、今回の政治資金規正法違反を追求する姿勢は、朝日と比べて少し抑えている印象です。
内閣支持率が大幅に低下している岸田首相へのインタビューも、オーソドックスな内容となっていますから、バランスをとっているとも言える。

読売新聞は「政治」を積極的に語る新聞!?

(A課長)
岸田首相へのインタビューが「バランス」とは?

(Sさん)
安倍首相が、憲法改正を巡って国会で思わず、「読売新聞を見てくださいよ」と発言したことを思い出しています。読売新聞としても「複雑な思い」だったと思うのですね。それがトラウマになっているのかどうか不明ですが、安倍派の問題が、こうまで「あからさま」になってくると、読売新聞としての立ち位置をどうとっていけばいいのか、なかなか難しいと思うのですね。

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
朝日新聞は、その点明快です。アタマで「安倍派“中抜”裏金8000万円か」を大見出しに掲げています。「還流パターン」「中抜きパターン」の流れが理解できるように、フロー図も添えています。「追及の手は緩めないぞ」、という姿勢が伝わってきます。

(A課長)
朝日新聞らしいスタンスと言えるかもしれない。

(Sさん)
それぞれ新聞社の性格が表れています。比較することで相対化につながっていく。それと、朝日新聞の「カタ記事」には驚いたというか、新鮮でした。

(A課長)
新鮮…ですか?

(Sさん)
1年を占う元日版に、多和田葉子さんを1面と3面で取り上げ、インタビューしています。

朝日新聞は元日に「多和田葉子さんのインタビュー」を掲載!

(A課長)
多和田さんの本は読んでいないなあ、ちょっと難解なイメージなので…

(Sさん)
これまでAさんとの1on1で、多和田さんは話題にしていなかったのですが、朝日が取り上げてくれたので、語りたくなりました。実は大ファンなんです。出版デビューは、1987年にドイツで発表された詩集です。ドイツの永住権も2001年に獲得されています。読むと分かるのですが、「日本という国を世界視点で巨視的に捉えると、こう描かれるのか…」と、リフレーミングが感じられます。

(A課長)
リフレーミングですか? コーチングですね。

(Sさん)
はい、多和田さんはすべてを相対化させています。徹底的なリフレーミングです。

(A課長)
Sさんの視点が聴きたくなった。ぜひお願いします。

(Sさん)
ありがとうございます。1面の見出しは「その未来は幸せか 希望は言葉の中に」です。3面は「少し満足できるかが大事」でした。1面は、次の言葉から始まります。

元気な高齢者がひ弱な若者を介抱する。日本の高齢社会の行き着く先を暗示するかのような小説を10年前に執筆したドイツ在住の作家、多和田葉子さんに聞いた。

その本とは『献灯使』です。暗い未来を描いたディストピア小説と捉える向きもありますが、文庫本化された2017年にこの本を手に取った際、「そうではない!」と感じていたので、多和田さん自身が、「否定的な世界を創作する意図はなかった。今ある問題がどうなっていくかに想像力を働かせた」と言葉にされているので、ちょっと嬉しくなりました。

(A課長)
Sさん、今Wikipediaをチェックしているのですが、世界的に評価されるすごい作家なんですね。村上春樹さんに次ぐノーベル文学賞候補なんだ…

著作はドイツ語でも20冊以上出版されており、フランス語、英語、イタリア語、スペイン語、中国語、韓国語、ロシア語、スウェーデン語、ノルウェー語、デンマーク語、オランダ語などの翻訳も出ている。ドイツの作曲家イザベル・ムンドリー、オーストリアの作曲家ペーター・アブリンガーとのコラボレーションでも知られる。ごく近年では村上春樹に次いでノーベル文学賞候補の一人としてヨーロッパのブックメーカーで名前が挙げられる作家である。2023年のドイツの日めくりカレンダーにも登場している。

多和田葉子さんは私たちを想像の世界に運んでくれる…

(Sさん)
多和田さんの想像力は「想像を絶します」。日本語の漢字は中国で使われるのと異なり、同じ文字でもさまざまな発音が存在しますが、多和田さんの手にかかると、ある言葉はいつの間にか別の言葉に変身したりして、異なる世界が立ち昇ってきます。場面転換のスピードも圧巻です。
『献灯使』では、早々の2ページから次のような記述が登場します。

用もないのに走る人のことを昔の人は「ジョギング」と呼んでいたが、外来語が消えていく中でいつからか「駆け落ち」と呼ばれるようになってきた。「駆ければ血圧が落ちる」という意味で初めは冗談で使われていた流行(はやり)言葉がやがて定着したのだ。無名の世代は「駆け落ち」と恋愛の間に何か繋がりがあると思ってみたこともない。

散りばめられるユーモアとウイットによって、読者は幻惑されながらもページを繰っていくことになります。100歳を超える「義郎」と曾孫である「無名」の二人を軸に物語が展開されます。多くは義郎の一人称語りですが、無名や他の登場人物も一人称に転換したりして、技巧もふんだんに使われています。

(A課長)
Sさんの解説にドライブがかかってきた(笑)

(Sさん)
ノってきました(笑)
朝日新聞の3面は、インタビューの詳細です。ただ、インタビュアーが『献灯使』の設定である「元気な高齢者がひ弱な若者を介抱する」ばかりに意識がいってしまい「質問の幅が狭いなぁ~」と感じたんですね。多和田さんは誠実に回答していますが…
多和田さんによる、この「極端な舞台設定」は手段であり、訴えたいことはもっと深いところにあると感じました。

(A課長)
その深いところとは?

(Sさん)
この本は「鎖国となった世界」がテーマです。全154ページの53ページに、無名がその状況を、「どうして?」と質問します。義郎の回答は…

「どの国も大変な問題を抱えているんで、一つの問題が世界中に広がらないように、それぞれの国がそれぞれの問題を自分の内部で解決することに決まったんだ。前に昭和平成資料館に連れて行ってやったことがあっただろう。部屋が一つずつ鉄の扉で仕切られていて、たとえある部屋が燃えても、隣の部屋は燃えないようになっていただろう。」
「その方がいいの?」
「いいかどうかはわからない。でも鎖国していれば、少なくとも、日本の企業が他の国の貧しさを利用して儲ける危険は減るだろう。それから外国の企業が日本の危機を利用して儲ける危険も減ると思う。」

鎖国は他の国の貧しさを利用して儲けることを防ぐ…のか?

(A課長)
深いですね…

(Sさん)
「献灯使」の意味は、少しずつ輪郭を帯びてきます。101ページで義郎の妻である鞠華が一人語りをするシーンです。

鞠華は、優秀な子どもを選び出して使者として海外に送り出す極秘の民間プロジェクトに参加していたが、最近、審査委員の主要メンバーに選ばれた。施設にはこんなにたくさんの子どもがいるのに、使者としてふさわしい子はなかなか見つからない。頭の回転が速くても、それを自分のためだけに使おうとする子は失格。責任感が強くても、言語能力が優れていなければ失格。口はうまくても自分のおしゃべりに酔う子は失格。他の子の痛みを自分の肌に感じることのできる子でも、すぐに感傷的になる子は失格。意志が強くても、すぐに家来や党派をつくりたがる子は失格。人と一緒にいることに耐えられない子は失格。孤独に耐えられない子は失格。既成の価値観をひっくり返す勇気と才能のない子も失格。なんでも逆らう子は失格。日和見主義者も失格。気分の揺れが激しい子は失格。こうしてみると使者にふさわしい子などは存在しそうにないのだが、一人だけ完璧な適任者がいる。

(A課長)
コーチングはジャッジメントしません。ただ、肯定面とそうではない面を併記して、こうやって並べられると、人間はモザイクそのものであることが理解できます。オールマイティーなスーパーマンは存在しない。
ところが小説は何でも描けるので、その造形も可能になります。適任者は、ひょっとして無名ですか?

スーパーマンは創作によって生み出される「あり得ない人」

(Sさん)
そうなんです。最愛の曾孫に危険な使命は負わせたくないと思い、「自分さえ黙っていれば、無名は審査委員会に発見されずにすむだろう」と、曽おばあちゃんの鞠華は考えるのですが、15歳になって、無名は選ばれてしまいます。151ページです。

献灯使になってほしいと頼んできたのは、小学校の時に担任だった夜那谷先生だった。ずっと連絡がなかった先生が、十五歳になった無名をある日突然、家に訪ねてきた。

無名はこの時初めて「献灯使」という言葉を耳にします。

政府の公式見解によれば、鎖国政策とは、開国推進のイデオロギーを公に広める運動を抑圧するものであっても個人の旅行の自由を法的に束縛するものではない、ということだった。たとえそれが本当だったとしても、国の政策は一晩のうちに変わることもある。今週は誰も気にとめていなかった些細な行動を理由に、来週は終身刑を言い渡される人がいないとはいいきれない。

そして無名が受諾するシーンとなります。154ページです。

十五歳になった無名は精神的にも充分成熟したと夜那谷は判断し、これ以上待って呼吸を助ける機械などが必要になると面倒なので、声をかけることにしたと言う。もちろん断ってもいいし、もう少し待ってもいい、と言う夜那谷先生のこめかみには血管が青く浮き上がっていた。
「わかりました。すぐ行きます。」
一生声変わりすることのない無名の声は澄んでいて高かった。

本からの引用はこれくらいにしておきましょう。

(A課長)
読んでみます。そしてSさんともっと語ってみたい!

(Sさん)
ぜひとも! そろそろ時間ですね。さきほど、朝日新聞の記者の質問力は今一つ… と僭越なことを言ってしまいましたが、多和田さんが最後あたりで話す内容は、『献灯使』につながっています。
「分断」という言葉が、毎日のように飛び交っている今だからこそ、多和田さんの言葉をしっかり受けとめ、今年もコーチング型1on1を重ねていきたい!

(A課長)
望むところです。Sさん、今年もよろしくお願いします!

平安時代からみたら私たちは宇宙人みたいな未来人!

──40年以上暮らすドイツでも人手不足はありますか?
移民大国ドイツでは人手不足はあまり聞きません。私は移民は受け入れるべきものだと考えていますが、人手不足と切り離して考えないといけない。商品として買い入れるみたいな考え方は、違うと思います。自分が移民になったらどうなるかを想像してほしいと思います。 
──未来を前向きにとらえるために心がけていることはありますか?
未来を考えるときに一番大事なのは、どれだけ長く記憶を伝えていくことができるかだと思う。過去10年のことしか思い出せない頭で物事を判断していくと、未来は非常に暗いものになる。100年前、1千年前はどうだったかを考えてみる。平安時代からみたら、私たちも宇宙人みたいな未来人ですよね。

坂本 樹志 (日向 薫)

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