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賃上げは、「味の素(日本経済新聞『直言』)」・「連合」・「経団連」の異なるセクターが、“志”を一にする喫緊の大テーマ!

──産業界に巣くう「病理」にどう対処すべきだと考えるか。
「縦割り組織に横串を刺すことだ。当社はデジタル、イノベーション、トランスフォーメーションの3分野の責任者を置き、縦の組織と交差させている。縦と横のリーダーの対話で考え方の違いを乗り越えれば挑戦しやすくなる。一番要らないのは忖度(そんたく)。改革で業績も上向いた。
(日本経済新聞1月14日2面「直言~値上げ もう謝らない~」より引用))

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2024年3回目の1on1ミーティングです。

2024年の世界は「選挙Year!」、台湾は民進党の頼氏が総統に

(Sさん)
世界が選挙Yearとなる2024年、幕開けとなる台湾総統選の結果が出ましたね。与党民主進歩党の頼氏が選ばれました。ただし、同時に実施された、日本の国会議員選挙にあたる立法委員選は、民進党の議席が過半数を割り込み、ねじれとなっています。政権運営は、当然不安定となることが想定されるので、このような状況に興奮をおぼえるマスコミは、報道に熱が入っている。

(A課長)
Sさんらしい捉え方だ。

(Sさん)
現在の日本の立ち位置としては、肯定できる結果なので、上川外相は早々に祝意を表しています。

(A課長)
そのようですね。7日日曜の日経新聞『直言』はゼーリック元国務副長官でしたが、前回、米国の対中国観が、どのように変わったのかを振り返る1on1になったことで、「世の中は変化し続ける」ことが実感されます。そして、「未来は何が起こるかわからない」ことを、Sさんと共有しました。

(Sさん)
はい、頼氏が選ばれたことで、米中、そして日本の関係がどのように推移していくか… 識者がさまざま語っていますが、結果は歴史が示してくれます。それは「想定外」という結果かもしれない。でも「想定外」と感じてしまうこと、そのものが「俯瞰する視点ではなかった」、という証明なのかもしれませんね。
私たちは預言者ではありませんから、とにかく「思い込まない」よう、心がける必要があります。

「想定外」こそが「歴史の常道」!

(A課長)
ええ。クライアントとコーチングを重ねていくと、本当に何が起こるか分からないことが痛感されます。
エグゼクティブコーチの資格を生かして、最近のクライアントは企業のトップ層が中心なのですが、それまでの経験を踏まえた強固な価値観をもった方がほとんどです。とにかく頑固なんですね。コーチャブルな方はほとんどいない(笑)

(Sさん)
それは大変だ(笑)

(A課長)
はい。でもだからこそ、クライアントから大きな学びを得ています。
セッションのはじまりは、セオリー通り「傾聴」です。でも、私も人間ですから、シンドクなります。私の元々の性格は、交流分析のCPが強いので、ロジャーズのようにはなれないんですね。「なりたい」とは思っていましたが、最近は放棄しています(笑)

あるとき、某社のK社長に、私の気持ちを率直にお伝えしたことがあります。
「Kさんのお話を聴いていて、部下はKさんのことをどのように受けとめているのだろうか? と想像しています。私はプロのエグゼクティブコーチですから、部下の方々とは、異なります。人に関わる専門職としての矜持をもっています。ただ、Kさんのお話をひたすらお聴きしていると、精神的に“ちょっとシンドイなぁ~”と感じるんです。『なぜだろう?』と、自問自答しています」、とフィードバックしました。

(Sさん)
おっ、K社長の反応が見ものだ。

(A課長)
ええ、対話が止まりました。そして私に対する表情も変わりました。ノンバーバルの「不満」が伝わってきます。ただし、「そうですか… それはありがたい。その『なぜ?』を先生から、教えてもらいたい」と、言葉そのものは丁寧ですが、私に対して、少し挑戦するような雰囲気が漂っています。

プロコーチはクライアントのノンバーバルに五感を研ぎ澄ます!

(Sさん)
(笑)…K社長の気持ちがわかるなぁ~

(A課長)
私は初回のセッションで、「私のことを“先生”ではなく、“さん”と呼んでください」と言っても、「いえいえ…」と、“A先生”を通されるので、その2回目のセッションに、その『なぜ?』の質問には、あえて反応しないで、「“先生”を取ってくれないと、K社長も裃を脱いでくれませんから…」と、“呼称”をテーマに対話を進めました。
そして、その時感じている私の気持ちを率直にフィードバックしています。忖度を全く廃して。

(Sさん)
どうなりました?

(A課長)
その時は、外形的には芳しいセッションとはいえない状態で終わっています。毎回のセッション時間は1時間と決めていますから、あえて延長していません。ただ、珍しく次回のセッション予定を、K社長の方から訊いてきたのです。

(Sさん)
なるほど…

(A課長)
次の3回目のセッションから、明らかに変わってきました。一生懸命、裃を脱ごうとされているのが伝わってきます。私も「それは辛いだろうなぁ…」という気持ちを共有しながら、K社長との間に徐々にラポールが形成されていくのを感じたのです。

(Sさん)
エグゼクティブコーチングのリアルな姿だ!

(A課長)
コーチングとは、「自己実現」を果たそうとするクライアントに伴走することです。ただ、臨床心理学者の河合隼雄さんは、「自己実現は、危険と苦しみを伴う」と言います。特に会社を切り盛りし、成功も経験している経営層は、その傾向が強いともいえます。

経営者だからこそ「自己実現」は困難極まりない…

(Sさん)
深いな…
Aさんとの毎週の1on1で、日経新聞の『直言』を取り上げることが習慣となっていますが、14日の日曜日は、「味の素」の藤江太郎社長でした。インタビューの回答をじっくり読んでみると、藤江社長ご本人が、困難な「自己実現」に向かって走り続けてこられたことが伝わってきます。

それからAさんは「価値観は強固」と言った。日本の失われた30年は、日本のなかで形成された「価値観」があまりに強固で、それを打ち破るという「自己実現の苦しみ」を直視できず、避け続けてきた30年だということが、藤江社長の言葉から伝わってきます。

(A課長)
その「価値観」とは?

(Sさん)
タイトルの大見出しが象徴的です。「値上げ、もう謝らない」です。記事は、次の記述から始まります。

物価と賃金の上がらないデフレ経済が30年にわたって定着した日本で、値上げラッシュの先頭に立っているのが大手食品メーカーだ。味の素は値上げと成長を両立させる方針を示し、食品大手で時価総額トップを競う。藤江社長は、企業が値上げを謝らずに済む社会の実現に向けて、価値の追求と企業体質を改善する必要性を説く。

(A課長)
藤江社長の肉声は、「味の素の自己実現」と同時に、「日本の自己実現」を語っている。直視すべき課題であると。

(Sさん)
『直言』にこれまで登場した人物で日本の企業経営者は、ファーストリテイリングの柳井正さんです。ただ、柳井さんは、日本の将来を語る「啓もう家・思想家」といった大きな存在になっています。
一方で、味の素はグローバルな大企業ですが、社長である藤江さんは、純粋に「味の素の業績をいかに上げていくか」を語られている。ただ、その言葉が「日本の価値観」にまで広がっているのが、今回の『直言』で浮かび上がっています。

「味の素」の藤江社長は労働組合で10年間の専従を経験している

(A課長)
藤江社長のプロフィールを拝見すると、「労働組合に10年間専従で、委員長も務めた」とあります。

藤江太郎
1985年京大農卒、味の素入社。2017年常務執行役員、21年執行専務、22年から現職。低迷していた中国、フィリピンの現地法人を立て直すなど海外経験が豊富。委員長も務めた労働組合には10年間専従で所属し、労使交渉の前線に立った。

(A課長)
ええ、Sさんと「連合」の芳野友子会長について語り合った1on1を思い出しています。藤江社長は労組の委員長も務めた人です。そのことがいかんなく発揮されていると感じた回答がありましたね。全部で11ある質問の7番目です。

──藤江社長は味の素の労働組合で10年の専従経験がある。持続的な賃上げをどう進めるのか。
「値上げと賃上げはセットだ。昨年の春闘賃上げ率は物価上昇に比べ十分でないが、30年ぶりの高水準。政府も最低賃金を引き上げ、いい流れができた。賃金交渉は2%程度の定期昇給と物価上昇分の3%の計5%以上の上乗せが出発点だ」
「賃上げには企業業績、世間相場、労使関係という3要素が重要だ。労使関係では机をたたくだけでは心に響かず、議論の生産性が上がらない。一度に高い要求をし過ぎても企業の体力をそぐことになりかねない」
「労組への加入率を高め、正社員以外の意見も受け止めながら労使関係が良好になれば、熱意をもって働く人が増え業績や労働条件が良くなる」

これが誰のコメントであるのか? ブラインドにすると「社長の発言」だと思う人はいないでしょう。「労組の委員長の発言」だと言っても違和感を覚えない(笑)

一民間企業「味の素」、ナショナルセンター「連合」、経済団体トップ「経団連」が、“賃上げ”について”志”を一にしている!

(Sさん)
Aさん、味の素のHPのなかに、藤江社長の「2023年の年頭挨拶(従業員へのビデオメッセージ)は和装で臨みました」という、6分9秒のビデオがあります。視聴してみたんですね。”志”と言う時に、左胸に広げた手のひらを当てたり、といった身振りを交え、表情豊かに語られています。

『直言』の回答に、「熱意を持って働く人が増え…」という言葉がありますが、昨年の年頭挨拶で藤江社長は、この意味をかみ砕いて「なるほど…」が感じられるところがありました。
2分27秒からのところです。

味の素グループの「アミノ酸の働きで食と健康の課題解決」という”志”と、皆さん一人ひとりの人生の”志”との重なりを小さくてもよいので、ぜひ見つけてください。味の素グループの”志”は比較的、広い概念でもあるので重なる部分はあるはずです。例えば、「子どもたちが笑顔になれる社会づくりに貢献したい」という人がいるとすれば、子どもと一緒に料理をしたり、共食を推進したりすることが重なる部分になります。
この重なる部分が見つかると一人ひとりの「熱意」も自然に高まってきますし、働きがいをもって仕事をすればするほど、実力も「磨」き込まれていくと思います。
この「志×熱×磨」をぜひ大切にしてください。

このあとは、「人財資産を強化する具体的施策を推進してまいります」と戦略面についての話が続き、4分58秒からが、最後のまとめです。

私たちの”志”への「熱意」ある取り組みが小さな波となって、そして”志”に共感いただける関係者の皆さんと共に取り組んでいければ、大きな大きなうねりとなって、“10億人の健康寿命の延伸”と“環境負荷の50%削減”を通じて、世界を変えていく原動力になるのだと思います。それをけん引することに喜びと誇りをもって挑戦していきましょう。
そのための心理的安全性につながる取り組みや自発型組織風土づくりにも取り組んでいます。2023年が皆さん一人ひとりとご家族にとって、また味の素グループにとって、そして”志”に共感頂ける関係者の皆さんにとって、より良い年になることを心より願っています。本年もよろしくお願いします。

この「志×熱×磨」をぜひ大切にしてください!

(A課長)
響いてきました。大企業の「パーパス」と、従業員一人ひとりの「思い」をリンクさせていくのは、とても難しい。味の素のような世界企業は、なおさらだと思います。それを藤江社長は「この重なる部分をぜひとも見つけてほしい」と、かみ砕いている。腑に落ちると思います。「心理的安全性」「自発型組織風土」というキーワード、そして「共感」で〆られている。まさにコーチングです!

9番目の質問に対する回答は、自社の反省と日本企業が抱える課題を並行させてコメントされている。

──成長を阻む構造的な問題は何だったのか。
「組織が縦割りで意思決定がたこつぼのように分断していたことだとみている。自分の部門だけ考えて連携できない状況は多くの日本企業が抱える課題だ。縦の序列が強く、上ばかり見て挑戦しづらい組織風土が根づいた。当社も革新的な商品・サービスを出しづらくなった反省がある」
「エコノミックアニマルと呼ばれた時代、日本はどんどん挑戦して高度成長を実現した。ある時期から挑戦が止まった。海外赴任中に見たグローバル大手のトップはとにかくチャレンジするし、動きが速い。チャレンジしないリスクの方が大きい。攻める力が強くなると守りも強くなる」
「日本企業は利益など『分子』を大きくして付加価値のアウトプットを増やす生産性よりも、投入する人やお金などを減らす効率化に傾斜してしまった。十分な利潤が生まれず賃上げ余地が小さくなり、適切な物価上昇にもつながらず『安い国』になっしまった」

この『安い国』を日経新聞は、見出しに使っている。「価値追求で『安い国』脱却」です。

(Sさん)
野中郁次郎一橋大学名誉教授も同じことを話されている。世界から「エコノミックアニマル」と指摘された高度経済成長は、当時ネガティブな響きとして受けとめられていましたが、今このとき、日本の最大の課題は「野生を取り戻せ!」です。

今このとき、日本最大の課題は「野生を取り戻せ!」

(A課長)
そして、最後の質問への藤江社長の回答に「我意を得たり」を感じました。「23年~30年度に教育などの人材投資に1000億円以上を投じる」ときっぱり発言されています。もちろんその中には必ずコーチングが含まれているはずであると。

──人的投資を拡大する方針を掲げている。
「挑戦の原動力が無形資産だ。人材、技術、顧客、企業風土も含めた組織の4つがあるが、とりわけ人材は重要で投資が欠かせない。当社では23~30年度に教育などの人材投資に累計1000億円以上を投じる」
「政府も予算の使い方を考えてほしい。有形資産だけでなく、人材育成やデジタル技術といった競争力を高める無形資産を重視してほしい。大学無償化など人に投資する政策には賛成だ」

(Sさん)
Aさんとは、VUCAについて、何度も確認し合っています。未来は何が起こるか分からない。だからこそ、レジリエンスです。
『直言』最後の「インタビューから」にある、質問者の大林広樹デジタルマーケティングエディターのコメントを確認し合って、今日の1on1の〆としましょう。次回もよろしくお願いします。

物価高と軌を一にするように、先の見通せない「VUCA」(プーカ=変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代に突入するなか、企業の地力が問われている。

坂本 樹志 (日向 薫)

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