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前半は、伊坂幸太郎さんの『777 トリプルセブン』『マリアビートル』、後半は、武見敬三・厚生労働相の『直言』を語り合う1on1ミーティングです! 

現実の建物や人物、事件とは無関係の、架空の国の、架空の建物における、架空の人物たちによる(架空のチーズケーキが登場する)話だと思っていただけると助かります。
また、ある登場人物たちが、「資本主義」のことを話す場面がありますが、これは、作家の水野敬也さんとリモートで雑談を交わした際に教えていただいた話から発想したものです。刺激的な、たくさん笑える話をいつも聞かせてくれ、本当にありがたいです。
(『777 トリプルセブン 伊坂幸太郎』「あとがき(293ページ)」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年48回目の1on1ミーティングです。

年を取ると新幹線並みの速さで景色が変わっていく…?

(A課長)
おはようございます。2023年も師走を迎えるタイミングとなりました。子どものころと比べて歳を重ねていくと「時が過ぎるのをとても速く感じるようになる」、と言われますが、実感されますね。

(Sさん)
ミレニアム世代のAさんに、そう言われてしまうと、65歳の私は「新幹線並みの速さで景色が変わっていく…」と、表現しなくちゃならない(笑)

(A課長)
また極端な…(笑)
新幹線といえば、昨日再読し終えた小説の舞台は東北新幹線でした。文庫本で600ページに迫る大長編ですが、懐かしく読み返しています。伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』です。その主人公は、あらゆることにツキがない「天道虫」という「コードネーム」…いや、殺し屋業界でそう呼ばれているだけで、「ニックネーム」と言った方がよいかもしれませんが、「七尾」という殺し屋が主人公のエンタメ小説です。

(Sさん)
伊坂さんですか… エンタメ小説における巨匠的存在ですね。最近のものは、あまり読んでいませんが、中国駐在時に読んだ『重力ピエロ』は、情緒が刺激されました。感涙です。

(A課長)
カンルイ…?

(Sさん)
失礼、「感激のあまり涙した」の感涙です。

Sさんは2006年に『重力ピエロ』を読んで「感涙」していた!

(A課長)
ああ、なるほど。
日頃見聞きしない言葉なので、「?」が明滅しました。学の不足に反省です。

(Sさん)
いえいえ、世代がわかってしまう(苦笑)。ところで「再読」というのは何故?

(A課長)
ええ、9月21日に発表された伊坂さんの最新作『777 トリプルセブン』は『マリアビートル』の続編ですから、その小説を読み返したくなった、という訳です。
『マリアビートル』は、「はやて」が東京駅から出発して盛岡に着くまでの、2時間強の間に起こるドタバタ殺人劇です。悪役はサイコパスの中学生なんですが、「よくもまあ、こんな怪物じみた少年を造形できるなぁ~」と、リアルな恐怖が伝わってきます。ただし、エンタメですから、合間にユーモアを盛り込んで、バランスをとります。そして伊坂マジックの「最後はカタルシス」につなげてくれます。どんな小説も読後感は爽やかです。

(Sさん)
Aさんの解説に熱がこもっている。ところで、「はやて」ですか? 今は「はやぶさ」に替わっていますから、『マリアビートル』はかなり前の本ですね。

(A課長)
さすが「鉄っちゃん」だ(笑)。ええっと…2010年の発刊です。

(Sさん)
細かいことが気になってしまう(苦笑)。ところで、続編の『777』はどういった内容ですか?

(A課長)
はい、新幹線で完結する話から、ホテルに変わります。すべての出来事が高級シティホテルに詰め込まれます。伊坂さんの小説家としての技巧が冴えわたるエンタメ小説です。主人公は、13年後の「七尾」ですが、さまざまな殺し屋が登場する群像劇でもありますね。

『マリアビートル』は「横」、『777』は「縦」の動線で物語が展開!

(Sさん)
よしっ、読んでみよう。
ところでAさんからは、エンタメ小説を熱心に読むイメージは伝わってきませんが、伊坂さんには、かなり入れ込んでいる…?

(A課長)
かもしれないですね。
私は心理学を専攻した、ということもあるので、「心理学的な視点」で書かれた小説に興味を覚えます。Sさんとの1on1は2年前から始めていますが、それより前に… ちょっと待ってください。探してみますから。

2020年6月10日でした。コーチビジネス研究所のコラムで、伊坂さんの小説が取り上げられています。タイトルは「心理学とコーチング ~『聖なるズー(濱野ちひろ)』と文化人類学、そして『SOSの猿(伊坂幸太郎)』と家族心理学~」です。

(Sさん)
SOSの猿』ですか? 知らないなあ…

(A課長)
そうなんです。伊坂さんの「実験小説」といっていいかもしれない。伊坂さんはユング心理学からインスピレーションを得て、不思議な小説世界を築きます。コラムは、家族心理学の視点で、コーチングに敷衍させているんですね。
伊坂さんには珍しいこの「売れていな本」を、コーチビジネス研究所が取り上げているのが新鮮でした(笑)。チャットGPTに、この本の売上を質問したところ…

『SOSの猿』は伊坂幸太郎さんの作品の中ではあまり売れていないようです。私が検索したところ、売上ランキングのデータは見つかりませんでしたが、感想やレビューの数から推測すると、人気のある作品の下位に位置すると思われます。

「人気のある作品の下位」と言う表現は、ちょっと意味不明ですが(笑)。心理学とファンタジーのコラボ的作品が創作されています。

(Sさん)
伊坂さんの小説はコーチングにもつながる、という訳だ。

(A課長)
はい、それから…2021年3月9日のコラムは、伊坂さんの『AX』を取り上げて、エリック・バーンの「交流分析」を解説しています。「交流分析」は、フロイトが創始した精神分析の口語版と言われます。現在でも多くの臨床で用いられているんですね。
この『AX』は2020年に文庫化されました。この売れ行きも、チャットGPTで確認しています。

『AX』は伊坂幸太郎の殺し屋シリーズの第3作目で、2020年に文庫化された人気作          品です。その年の文庫に関する年間ランキングで4冠を達成し、55万部を突破しました。 以下は、『AX』がランクインした文庫の年間ランキングの一部です。
第1位:オリコン年間“本”ランキング 2020 文庫ランキング
第1位:2020年 年間ベストセラーランキング 文庫部門
第1位:2020年 年間販売BOOKランキング:文庫総合
第1位:ダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR 2020 文庫ランキングTOP20
『AX』は、家族想いの殺し屋・兜の物語で、淋しさとあたたかさが感じられる作品です。 伊坂幸太郎のファンの方はもちろん、殺し屋シリーズの初心者の方にもおすすめです。

『SOSの猿』はユング心理学、『AX』は交流分析との関りが濃厚

(Sさん)
「殺し屋シリーズの初心者」というのはいいな(笑)。これも読んでみよう。
Aさん、今度改めて「伊坂幸太郎さんの世界」を語り合ってみませんか? 『777』も読んでみますから。

(A課長)
ありがとうございます。
アイスブレイクの話題のつもりでしたが、前半のテーマとなったかな? 『777』はSさんに読んでおいてもらうとして、この小説の中で、「おやっ?」と感じた箇所があります。小説全体の流れからは、ちょっと異質というか、ジャーナリスティックな纏いです。

伊坂さんも「読者は違和感を覚えるかもしれないけど、言っておきたいから…」と、自覚されていたようです。
それが分かったのは「あとがき」に、わざわざ「また、ある登場人物たちが、資本主義のことを話す場面がありますが、これは、作家の水野敬也さんとリモートで雑談を交わした際に教えていただいた話から発想したものです」、と書かれていたからです。

私が「おやっ?」と感じた箇所かどうかの説明はありませんが、河合隼雄さんが指摘した「日本の中空構造」の負の面が如実に表れた、現在の「政治の逼塞状況」をズバリ指摘していると思いました。今日の前半テーマの最後に、132ページにあるその部分を紹介させてください。

「面倒臭いから変えたくない、という人間もたくさんいます。気持ちは分かりますよね。どうしても、これはやらなくちゃいけない、という改革でも、誰かが反対するわけです。そして、『説明しろ』と言ってきます」
「説明、ですか」
「何かといえば、説明しろ! 説明が足りない! と言ってきます。ただそこで、『あなたたちは損するけれど、国の未来に必要なんだ』と説明しても納得はしてもらえません。メディアは怒るし、野党がさらに声を上げます。そして、怒られないための説明を考える必要が出てくる。これが不毛だとずっと思っているんですよ。損する人の損を少しでも減らすために、もしくは減ったように見せるために、ああだこうだと変更を加えれば、結局、ルールや手続きが煩雑になって、コストが増えます。救済措置を入れると、仕組みは複雑になりますからね。せっかく変えようとしたのに、変えるためにあちこち配慮して、結果的に骨抜きの仕組みと負債だけが残る。がっくり来ますよ。僕が議員だった時は、この、がっくりばかりでした」

結果的に骨抜きの仕組みと負債だけが残ってしまう…

(Sさん)
日本の多くの国民の心に潜在している「思い」を言語化しているようだ。今このとき、国債の残高が1000兆円を超えている日本のリアルを踏まえると、あらゆる課題が「トレードオフ」と言ってもいい。「あちらをたてればこちらがたたず」です。
ライドシェアしかり、民泊しかり。世界的には当たりまえのこのような「ちょっとあたらしいこと」をしようとしても、損する人…言い換えると「既得権益者」の抵抗にあう。護送船団方式という文化を隠れ蓑にして…

(A課長)
日本は「やさしい国」なのかもしれませんね。「みんなで幸せになろう」とか、「誰一人取り残さない」というスローガンに縛られてしまう。

(Sさん)
「誰一人取り残さない」は、最近よく耳にする言葉だ…

(A課長)
SDGsの一つです。

(Sさん)
なるほど、崇高だ。ただし日本の場合、それが「八方美人」の政治によって、森を見ることなく、木ばかり… いや、木の根元ばかりを見てしまう。フリーズそのものです!

(A課長)
Sさん、後半のテーマに移りましょうか。26日の日経新聞日曜版2面の『直言』は、日本が抱える政治案件の最大テーマであり、喫緊の課題を取り上げています。本丸中の本丸です。タイトルは「DX推進へ医療界動かす」でした。

(Sさん)
伊坂さんの小説が、後半のテーマにつながった!

(A課長)
いえ、ちょっと不思議ですが、自然につながった感じですね。今回は、武見敬三・厚生労働大臣へのインタビューです。
10月25日に実施した1on1で、シェリー・ケーガン米イエール大学教授の『直言』を語り合ったときに、「国の一般歳出の約51%は社会保障関係費」のデータを紹介したと思います。とにかく、強烈な制度改正をしないことには、日本のカタストロフはいずれやってきます。ところが、政治が動かない。そんな思いもあって、私は、2面を開いてタイトルが目に入ったとき、「医療業界動かす」を「医療業界動かず」と見誤ってしまいました。

ただ、内容を読むと、日経新聞は武見大臣の姿勢を評価している印象です。最後にインタビュアーが感想と、短い提言をコメントする「インタビュアーから」は、次の書き出しからはじまります。今回は編集委員の大林尚さんです。

医療政策を軸に、国政の場で長く社会保障改革に携わってきた。厚労官僚が用意した想定問答集に目をやることなく、どの問にも、よどみなく答えた。

そして、中間からの大林さんのコメントは、期待感をにじませている。

医療DXに対し、医療界は各論反対の弊に陥っている。今や世界標準ともいえるオンライン診療にさえ距離を置く日医幹部がいる。まして診療代替アプリの活用は、もってのほかといわんばかりだ。この点について、DX推進は開業医を含めて待ったなしだと明快に語った。年金など昭和時代に土台をつくった制度の改革では、問わず語りに「古い世代を切り捨てず未来志向は見失わない」。ぜひ未来に比重をおいてほしい。

武見敬三厚生労働相の問わず語りは「未来志向は見失わない」

(Sさん)
「問わず語り」というのはいいですね(笑)。

(A課長)
はい、未来志向はコーチングそのものです。

(Sさん)
国全体の厚生労働行政を統べる大臣ですから、「古い世代を切り捨てず」という言葉も組み込まれている(笑)。「高齢者」にくくられる私としては「ありがたい発言」ですが、現実は、そんな「甘いもんじゃない」、と受けとめざるを得ない。ただ、日本も世界に準ずるDXが進んでいけば、30年間感じることが出来なかった「新しい日本」の景色が広がっていくと確信しています。

(A課長)
「準ずる」という表現は微妙ですね(笑)

(Sさん)
気づきましたか(笑)。DXについては、日本は超後進国ですから、「準ずる」を目指せばいい。世界に冠たる日本のポテンシャルは半端ないはずですから、そこからシナジーは爆発します。

(A課長)
相変らず熱い!

(Sさん)
広島オトコですからご容赦を(苦笑)
武見大臣は冒頭の回答で、日本中が体感したデジタル後進性を語っている。

コロナ禍で明らかとなったのはデジタル敗戦だ。診療所の電子カルテ普及率はいまだ5割に満たない。致命的なのは、各医療機関の電子情報を結び、全国的に管理するプラットフォームがなかったことだ。保健所とのやりとりはファックス、各都道府県の陽性者確認は電話だった。パンデミック初期は感染者動向をリアルタイムで把握するのが特に重要だったが、治療と効果などの臨床データが把握できなかった。

ここから、医療業界を巡る「さまざまな課題」が浮き彫り化されていきます。「かかりつけ医療機能」「薬価改定の在り方」「既存の製薬企業と創薬ベンチャー」「保険医療、介護、福祉の労働者の賃上げ」「第3号被保険者」「……」。

(A課長)
Sさんはカタストロフと言ったけど、そうならないためにも、「先ず隗より始めよ」ならぬ「先ずDXより始めよ」です。

「先ず隗より始めよ」→「先ずDXより始めよ」

(Sさん)
グッドです! 国がボロボロになった燕の昭王が学者の郭隗に相談すると、その隗が「何の取柄もない私をまず採用してください。愚人も登用されることを知ると、“昭王は実に太っ腹な人だ”というイメージが広がっていきます。そうすると、全国から優秀なメンバーが集うことでしょう」と、答えたという中国の故事ですね。この説明には、少し私の解釈も入っていますが(笑)

(A課長)
補足いただきました(笑)
今度は私の方で、Sさんの「準ずるレベルに至ったら、シナジーは爆発する」というコメントを補足させてください。

DXそのものはツールです。でも、それが一定のレベルに進化すると、それによって、埋没していた「価値」が掘り起こされ、市場が生まれます。当初は、関連のなさそうな、それぞれの「新市場」が、パワーアップし続けるDXによってリンケージし、イノベーションの爆発的連鎖が起こるわけです。つまり、次々と新たな仕事が誕生し、広がっていくという循環です。

(Sさん)
なるほど… 私の「過程を飛ばした感覚的結論」に、Aさんのロジックとプロセスが重なった。いや~ ありがとうございます。

そうだ、具体例と言えるかどうか… 最近次女が、ファストドクターと契約して、まあまあの頻度で利用しています。深夜でも往診してくれて、その場で薬ももらえます。このサービスを経験してしまうと、仕事を休んで何時間も待たされて受診していたのは「いったい何だったのか?」と、ため息交じりに振り返っています。孫娘は3歳ですから、重宝しているみたいですね。

(A課長)
ファストドクターですか? ネットで検索してみますね…
なるほど… さまざまな声が上がっている。医療業界の岩盤規制は、「医療従事者の行動をも縛っていた」という側面もありそうだ。このファストドクターはDXあっての動きですね。面白くなりそうだ。

ファストドクターはDXがベースにある!

(Sさん)
「日本のやさしい政治」は、どう解釈しても「角を矯めて牛を殺し」ています。それが、日本の「はなはだしい制度疲労」に帰結してしまった。そのことを、国民全体が体感し始めている。だからこそチャンス到来です。

(A課長)
そろそろ時間ですね。最後に、伊坂さんの『重力ピエロ』に関するエピソードを紹介させてください。伊坂さんのWikipediaを出しますね。紹介したいところは、この部分です…

なお直木賞については、2003年『重力ピエロ』、2004年『チルドレン』『グラスホッパー』、2005年『死神の精度』、2006年『砂漠』で候補となったが、2008年、同賞の影響力の高さゆえに環境が変化する可能性を憂慮し、選考対象となることを辞退している。

(Sさん)
おおっ、『重力ピエロ』が最初の直木賞候補だったわけだ。ただ、4年連続で候補になりながら…

(A課長)
ええ、Sさんが感涙した『重力ピエロ』は、プロである選考委員の評価は厳しかった。

(Sさん)
見る目がないなあ~(笑)

(A課長)
(笑)… 一方で、伊坂作品の読者からの評価はうなぎ上りでした。『死神の精度』を書いたころから、伊坂さんにとって「直木賞」は、どうでもよくなっていったのだと想像します。もっとも伊坂さんは、そんなことは言っていませんが…

現在、伊坂さんは世界的に評価されるエンタメの巨匠ともいえる存在です。勝手な想像ですが、もし伊坂さんが「直木賞」をとっていれば、現在の伊坂さんは生まれなかったかもしれない。

村上春樹・伊坂幸太郎両氏が世界化したその背景とは?

(Sさん)
そういえば村上春樹さんも、「芥川賞」をとっていない。なまじっか日本で認められると、日本的「同調圧力」に、知らず知らずのうちに呪縛されていくということなのか… 伊坂さんには、「枯れることないベンチャー精神」が宿っているのかもしれませんね。

(A課長)
今日の1on1は、伊坂幸太郎さんで始まり、伊坂幸太郎さんで終わりました。知らず知らずのうちに導かれた感じです(笑)
Sさん、これからもエキサイティングな1on1を重ねていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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