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読売新聞が報道する「JAL機、脱出劇“プロの仕事”」に感動し、日本経済新聞『直言』の「ロバート・ゼーリック氏が語る不確実性」を思索する1on1ミーティングです!

「輸出規制のほか、経済制裁、人の移動の制限などその他の問題でも保護主義が拡大している。第2次世界大戦後の日本や米国の成功の源であった『開かれた国際経済』を傷つける恐れがある」
(日本経済新聞1月7日2面「直言~それでも対中「関与政策」で~」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2024年2回目の1on1ミーティングです。

旧田中角栄邸の全焼は「昭和政治の終焉」を物語る!?

(Sさん)
Aさん、旧田中角栄邸が全焼しましたね。私は結婚して最初の住まいは、西武新宿線の下落合駅から歩いて5分のアパートでした。長女は、目の前の聖母病院で生まれています。妻と目白通りを散歩し、角栄邸あたりまで足を延ばすこともあったので、驚きました。
田中角栄氏は、バブル崩壊が実感された1993年の没です。失われた30年を経て、今この時、文字通り「昭和の政治は焼け落ち、終焉した」ことが実感されます。角栄氏は、「昭和政治」を体現・象徴する、不世出の傑物であったことはまちがいありませんから。

(A課長)
私の世代にとって、田中角栄氏は影も形もないのですが、すごい政治家だったようですね。

(Sさん)
ええ、読売新聞は9日火曜日の1面で、角栄邸が全焼したことを取り上げ、「旧田中邸は“目白御殿”と呼ばれ、往時には政治家や陳情客らが出入りし、昭和政治の舞台となった」と綴っています。「政治を語る新聞」の、読売らしい取り上げ方だなぁ、と思いました。

今日の1on1のスタートは、この読売新聞から始めたいと思います。前回、年初1月4日の1on1で、海保機と日航機が衝突した事故について、Aさんは次のように語った。

客室乗務員の使命感に脱帽です。日頃の訓練の賜物だと思いますが、危機に瀕した時こそ、本当のプロかどうかの「リアル」が表出します。Sさんとは、稲盛和夫さんのJAL再建について、1on1でさまざま語ってきましたが、いろいろ思い出しています。

このAさんの思いを受けたかのような内容が読売新聞に掲載されていました。
「旧田中角栄邸全焼」の上の1面「カタ記事」。そして3面。さらに6面は広告なしの全面で、上半分はイラストと写真を組み合わせて、事故に至る流れを「秒刻み」で詳述しています。

(A課長)
読売新聞は見ていないので、ぜひ紹介してください。

読売新聞は「JAL機、367人脱出劇」を詳報

(Sさん)
はい。6面の下半分左側の大見出しは「脱出劇“プロの仕事”」です。「『落ち着いて』乗客混乱防ぐ」「機外に炎 安全な非常口判断」の2つの小見出しを添えて、「プロの仕事」ぶりを語り、全員が脱出するまでの経緯を、緊迫感・臨場感あふれる筆致で伝えています。
まず「海外メディア」がどう報道したのか、を引用します。

乗客数十人が負傷したものの、死者が出なかったことに英BBCなど海外メディアは、「奇蹟を目撃した」「乗員は驚くべき仕事をした」などと報じた。

(A課長)
まさに「奇蹟」であり、「驚くべき仕事」です。

(Sさん)
内容をすべて紹介したくなりますが、一つ、二つ読み上げますね。

客室乗務員は、非常口の前で、窓から機外の炎の様子を確認した。その場所に立ち続けることは、乗客が勝手に非常口を開け、炎が機内に吹き込まないように出口を守る役割もあった。
脱出用シューターを出し、地上へ安全に非難させることができるか──。八つの非常口を担当する客室乗務員たちは、最前列の左右と、最後列の3か所だったら安全に脱出できると判断し、シューターを展開した。

(A課長)
すごい! 死と背中合わせの「あの時」に、そこまでの冷静な判断をし、実行しているんだ。日頃の訓練に対し、「ただの訓練」ではなく「実際の起こっている」という想像力を頭いっぱいに描いて、臨んでいたことがわかります。
たくさんの「プロ」を語る本が出版されていますが、今回の「JAL客室乗務員の判断と行動」は、永遠に語り継がれるのではないでしょうか。

(Sさん)
今回の事故は、さまざまなヒューマンエラーが複合して発生したようですね。「事故原因の究明」は、これから本格的に始まると思うのですが、機長らの証言についても取り上げています。

海保機が待機を始めてから約40秒後の午後5時47分過ぎ、日航機が後方から接近。2機が衝突した。
このときの詳しい状況は明らかになっていない。日航機の機長らは同社の聞き取りに、「海保機は視認できていなかった。車輪が接地した後、何かがすっと横切るような違和感があり、直後に衝撃があった」と説明した。

JALは2010年に経営破綻し、稲盛会長・大西社長という体制で再建がスタートします。その渦中にあって、2012年に稲盛さんは、長くパイロットを務めた植木義晴氏を、大西社長の後任として社長に指名します。パイロット出身ということで、驚きをもって報道されました。稲盛さんが見込んだ人なんですね。

事故が起こると、最終的な責任を問われるのは機長だと思います。飛行機という完結した空間における指揮官であり、最高責任者ですから。その機長の行動についても読売新聞は記事にしています。この箇所を読んだ時、なぜか植木氏のことが脳裏に浮かびました。

操縦席を出た機長は、機体後方に向かって進んだ。座席の間をのぞき込み、取り残された客が居ないか見ていく。全員の脱出を確認し、最後に機外に出たのは午後6時5分だった。間もなく機体は黒煙を上げて激しく炎上した。

航空機という完結した空間における最高責任者は機長

(A課長)
年初2回目の1on1も深いテーマからスタートしましたね。続いて、日本経済新聞2024年1月7日、年初の『直言』について、Sさんと語り合ってみたい。
『直言 Think with NIKKEI』を、私たちが取り上げるようになって、1on1の内容が深みを増したことを共有しています。

(A課長)
実感できます。深まると同時に視野も広がってきた。
最初に登場したのは、沖縄科学技術大学院大学、OISTのカリン・マルキデス学長です。去年の6月21日の1on1でしたね。そして、毎週登場する斯界のオーソリティーは、ときに意外な人選であったりして、日経新聞が考え抜いて、この『直言』の企画を立てていることが伝わってきます。
ジャーナリズムには、「旬のテーマを追い続ける」というDNAが自明のこととして生体に組み込まれていると思います。したがって、今この時の「注目されている大物」にインタビューしていく、というのが業界としての習わしのように感じるのですが…

(Sさん)
ところが日経新聞の『直言』は、ちょっと違っている。

(A課長)
ええ。もちろん「旬の大物」にもインタビューしていますが、「渦中の当事者」というより、そのテーマに対して「俯瞰した眼差し」を持てる立ち位置にある人も選んでいる。

(Sさん)
「旬の大物」という表現はグッドですね(笑)。
「旬ではない、渦中の当事者でない人物」…つまり「過去の大物」です。トニー・ブレア元英国首相が、早々に登場したのは、そのことを物語ります。

私は新規事業をさまざま担当してきましたが、当然「絶対成功させたい」という強い願望をもって事業に当たってきました。振り返ってみると、「撤退」という文字は自分には存在しなかったのですね。もちろん、戦略・戦術は「これしかない」ではなく、レジリエンスを心がけ、失敗も糧にしながら、進化させていったつもりでした。それでも、追い詰められてしまうことはありました。
新規事業は、基本的にゼロから始めますから、収益がもたらされるまで投資が続きます。当初の計画との乖離が生じてくると、経営からは糾されますし、そのリカバリーをどうしていこうか、と焦りも生じます。

事業継続か撤退か、M&Aも含めた別の手法をとるか…については、事業当事者ではなかなか判断できない。だからこそ、大所高所に立てる経営の判断がカギを握るのです。

全身全霊でコトに臨む当事者は大所高所の判断ができない…のかもしれない

(A課長)
Sさんはご自身の体験を語っている。なるほど… 日経新聞が『直言』で「誰にインタビューするかの基準」で、「旬」ではない人が登場する人選の意図が理解できるようです。「当事者」からは伝わってこない、リフレーミングを感じることができそうだ。

(Sさん)
まわりくどい話で恐縮です。今回の『直言』は、ロバート・ゼーリック元世界銀行総裁です。「世界銀行総裁」というのはピンとこなくて、おぼろげに、共和党政権の大物閣僚のイメージが残っていました。中央に大きく掲載された写真の下に添えられたプロフィールを見て、像が結ばれてきたんですね。

Robert Zoellick
レーガン政権で財務省幹部、ブッシュ政権(第41代)で国務次官、ブッシュ政権(第43代)で米通商代表部(USTR)代表、国務副長官を歴任。世界銀行総裁を経てプランズウィック・グループ上級顧問。近著は「アメリカ・イン・ザ・ワールド」(日本経済新聞出版)

このプロフィールだけでは、どのような人物かは「?」なので、一応Wikipediaを、『直言』のインタビューを読む前に目を通してみました。
すると、藤井彰夫論説委員長の質問の意図がわかってきたんです。改めて感じたのですが、その人が過去どのような振る舞いをしてきたか、どのような思想を持って仕事にとりくんできたか、などの予備情報をもたず、「ある情報」に接して、その人となりを判断するのは危険であるということを。

(A課長)
Sさん、それは真実ですよ。「速断」したがるのが人間です。カーネマン教授による「システム1」です。コーチングのエグゼクティブコーチは、そのことを心に刻みこみ、「システム2」を意図的に起動させます。「待つ」姿勢を体得することもプロコーチには、求められます。

エグゼクティブコーチは「システム2」を起動させ「待つ」ことができるプロ!

(Sさん)
ありがとうございます。Wikipediaには次のような記述があります。『直言』を読み込むための予備情報になると思います。

ゼーリックの国務副長官就任は日本にとっては、前任のリチャード・アーミテージが築いた日米蜜月時代とは打って変わり、日米の間に隙間風を吹き込む。アーミテージ時代に設立された、次官級の「日米戦略対話」はゼーリックの在任時代、ただの一度も開かれておらず、他方、中国に対してはブッシュ政権1期目に掲げていた「戦略的競争相手」から打って変わり、「責任あるステークホルダー(利害共有者)」という位置づけをしている。
台湾に対する対応は日本以上に顕著なもので、陳水扁総統が国交を持つ中南米訪問の際には、給油のみを認め、米国国内での政治活動は一切認めなかったほどである。
ちなみに一期目においては、陳総統はブッシュ大統領の地元であるテキサス州滞在を許されている。日米間で行われなかった戦略対話は米中間においては何度も行われている。

(A課長)
書かれている通り、共和党政権にあってアーミテージ氏は日本と良好な関係を築いてくれたイメージです。「くれた…」というのは、ちょっと言い過ぎかな。Sさんがゼーリック氏のイメージが希薄なのは、日本との間に隙間風を吹かせたという背景があったのかもしれませんね。

(Sさん)
隙間風かどうかも、実はわかっていなかった。というのも、アーミテージ氏のときは、「日米戦略対話」が行われていましたから、新聞各紙も、その内容を詳述していた。アーミテージ氏へのインタビューも数多く実施されています。つまり、アーミテージ氏はどのような人物なのか、日本をどう捉えているのかの情報提供があり、共有されていたのです。

(A課長)
心理学には「対人魅力」という分野があるのですが、人を好きになるかどうかの第一歩は「近接性」です。近い関係だと、対話が生まれ、お互いの中に相手の情報が蓄積されていきます。それによって「好き」だという感情が高まってくるんですね。

(Sさん)
なるほど… アーミテージ氏は、日本に対してポジティブな情報を多頻度に提供してくれていますから、当然日本の多くの国民も好感を持つようになった。

「対話」によって「対人魅力」と「返報性」は起動する!

(A課長)
それも心理学的に説明されます。「返報性」です。
今私は、「隙間風」という言葉に接しましたが、この解説を読まなければ、「隙間風」なのかどうかもわからない。つまり、Wikipediaを執筆したゼーリック氏をよく知る人にとっては「隙間風」なのかもしれませんが、マスコミを通じての情報発信がほとんどないので、ゼーリック氏そのものを知らない。知らない人間にはイメージも湧いてこない。好きも嫌いも生じない。
Sさんが「おぼろげに…」というのは、そういうことではないですか?

(Sさん)
整理いただいた。心理学は役に立つ(笑)
ゼーリック氏は、明快に中国寄りでした。台湾への対応も、今の米国のスタンスとは真逆です。藤井論説委員長は最初の質問で、そこから切り込みます。

──あなたが旗を振った、中国を世界経済に統合すれば民主化も進むとする「関与政策」は失敗されたとされている。
「05年の演説で私は中国が『責任あるステークホルダー』になったとは言っていない。中国にそのようになるよう促したのだ」
「当時の時代背景が重要だ。日米欧は中国が国際システムに入るよう促し国際通貨基金(IMF)や世界銀行、世界貿易機関(WTO)の一員になった。私の演説の主張は、中国は『統合』からさらに進み、国際システムの責任を引き受けるべきだということだ」

(A課長)
2005年というと、Sさんが中国の上海駐在を開始した年ですね。いかがですか?

(Sさん)
現在の「監視社会・中国」を目の当たりにすると、当時は実に大らかでした。中国バブルが始まった頃です。その時代にゼーリック氏は政治的な権限を持ち、中国政策を担っていたわけだから、何となく理解できるんですね。藤井論説委員長の質問は、少し「後出しじゃんけん」を感じます(笑)

(A課長)
時代が明らかに変転しましたから、ゼーリック氏の回答も、どこか「弁解」のニュアンスが伝わってきますね。

「トゥキュディデスの罠」は回避できる?

(Sさん)
「未来はわからない」ということだと思います。私たちは預言者ではありませんから、断定口調で「未来は〇〇〇になります!」と、自信たっぷりで語る人ほど、要注意です。
ゼーリック氏は習近平国家主席が、国家副主席のときに会っています。そのときどのように感じたかのコメントはないのですが、2012年に総書記になり、権限が集中する過程で習氏は変わっていった、というニュアンスが伝わってきます。
4つ目は「トゥキュディデスの罠」を踏まえた質問ですが、その回答からは、悲観論ではなくバランスを感じます。

──グレアム・アリソン米ハーバード大教授は、歴史上、覇権国が台頭する新興国と衝突し戦争につながる例が多いと分析している。米中軍事衝突は避けられるか。
「米中の衝突は誰にとっても災難なので回避を願う。国際経済や気候変動などで協力の基盤をつくるべきだ。習政権下で中国が南シナ海や尖閣諸島で脅威になり、貿易で威圧の問題が生じた。日本、インド、韓国、米国が安全保障上のプレゼンスを持つ限り抑止を生み出せる。

後半で藤井論説委員長は、トランプ氏が優勢だとされている大統領選挙について質問しています。

──現時点ではバイデン大統領にトランプ氏が挑戦すれば、トランプ氏が勝つという予測が多い。そうなったら、世界はどう備えるべきか。
「トランプ氏が共和党の指名を獲得することを前提とした議論が多く、その可能性は高いが確定したとは思わない」
「私は1988年から大統領選に関わってきたが、予備選では驚くようなことが起こる。ニッキー・ヘイリー(元国連大使)のような人が共和党候補になる可能性もある。バイデン氏は出馬を望んでいるが、そこにも不確実性がある。彼の年齢からみて健康問題が起こったらどうするかといったとだ」

(A課長)
「未来はだれもわからない」ことを、Sさんと共有しています。予備選、そして1年後の結果は、それこそ「驚くようなこと」が起こるかもしれない。

(Sさん)
私は「トランプ氏が大統領になってしまったら…」ということで、その対策についてさまざま検討されていることは、悪くないことだと思います。以前の1on1で、日経新聞の秋田コメンテーターが提起する「サブナショナル外交」を取り上げました。JALの日頃の訓練と結びつけるのは、我田引水かもしれませんが「備える」ことは大切です。

Wikipediaは、ゼーリック氏の日本に対する印象を「ネガティブ」として捉えていますが、当時も「そうではなかったのではないか…」という推測も成り立ちます。いえ、それも我田引水かな。米国の政策を背負って立つ重責から解放され、世界を俯瞰してみることが出来るようになって、ゼーリック氏の捉え方も変わったのかもしれない。

ニッキー・ヘイリー氏も国連大使の時は、トランプ大統領の意を受けた発言をしていた。ただ、それが自分の「信念」との乖離が広がっていく中で、耐えられなくなったのではないでしょうか。「自分に誠実でありたい」という思いが、国連大使の辞任につながったのだと想像しています。
情報がないと、人はさまざま憶測を働かせる。それは「悲観」に流れがちだ。
最後の質問は「日本の将来」についてです。

──日本の将来をどうみるか。
「興味深いのは、日本国内では日本経済への懸念があるが、世界の投資家の間では日本への関心が高まっているということだ。コーポレートガバナンス(企業統治)の変革が進み、価格面からも投資に好機だ」

世界の投資家が抱く日本への期待は本物!

(A課長)
この発言は嬉しいですね。今日の1on1は、未来をネガティブに捉えるのではなく、「未来は何が起こるか分からない」からこそ、ポジティブに描くことが必要であることを、Sさんと改めて共有した内容になりました。
昨日、1月10日の日経新聞1面は、「日経平均33年ぶり高値~稼ぐ力映す株高」の大きな文字が躍っています。囲みは「企業、今こそ攻めの好機」でした。その内容は、まさにゼーリック氏の発言を裏付けるコメントです。
今日の1on1の〆として、その冒頭を引用させてください。引き続き「未来志向」の1on1ミーティングを重ねていきましょう。

世界の投資家が抱く日本への期待は本物だ。「人と差を付けたければ日本語を学べ」。米大手投資家のジョージ・ロバーツ共同会長は最近、若手社員に促した。研修費用を出し、日本への転勤も歓迎する。
33年前に世界が抱いた「強い日本」への関心と重なる。企業や大学で日本ブームが起きていた。次は日本企業の番だ。市場の期待に応えて改革し、成長するかが株高持続のカギを握る。

坂本 樹志 (日向 薫)

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