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今回より、マイクロソフトCEOサティア・ナデラ氏の『Hit Refresh』を紐解き、「共感の経営」についてコラムを綴ってみようと思います

私は楽しみながら本書を執筆したが、やや気が引ける部分もあった。私がたどってきた人生に誰が興味をもつだろうか。また、マイクロソフトCEOに就任してから、まだ数年なのに、自分の指揮のもとでの成功・失敗を書くのは時期尚早だ。あのSLT会議以来、数多くの前進があったが、先はまだ長い。回顧録の執筆など、老いぼれてからでいいと思っていた。……
(『Hit Refresh~マイクロソフト再興とテクノロジーの未来(24ページ)』より引用)

『Hit Refresh』はマイクロソフトの預言書である!

前回のコラムは、『共感経営』の中にある、野中郁次郎一橋大学名誉教授の言葉を引用しています。日本における経営学の泰斗である、野中名誉教授が行き着いた経営哲学は「共感」でした。野中氏はナデラCEOの著作である『Hit Refresh』に触れ、同書にもっとも多く登場する言葉が、この「共感」である、と指摘しています。

マイクロソフトは1975年に、ビル・ゲイツとポール・アレンによって創業されました。つまり、変化の激しいIT業界にあって、50年の歴史を有する老舗中の老舗です。
さて、ここで読者の皆さんに、「ナデラCEOを含めて、この50年でマイクロソフトには何人のCEOが存在するかご存じですか?」と、質問してみましょう。

創業者であるビル・ゲイツ氏は、あまりにも有名ですが、2000年1月に退任し、CEOは2代目のスティーブ・バルマー氏に引き継がれます。その後、ナデラ氏にCEOのバトンが渡されたのが2014年2月です。つまり、半世紀の間、マイクロソフトには3人のCEOしか存在していないのですね(ナデラ氏は現在もCEOです)。

前回のコラムは、野中氏の『共感経営』と日経新聞の『直言』をもとに、コーチングを語っています。野中氏は、「現代の企業経営にとって最重要なキー概念は何か?」という命題を掲げ、それは「共感」である、という解を導き出しました。
ただし、野中氏は経営“学者”ですから、そのことを「理論的」に証明する必要があります。つまり「普遍性」です。『共感経営』には事例(共感が業績に結実している)が豊富に取り上げられています。その嚆矢が、大復活した「マイクロソフト」であり、ナデラCEOの「共感のリーダーシップ」なのですね。

野中郁次郎一橋大学名誉教授は「経営の普遍性」を『Hit Refresh』に見出した!

そこで今回のコラムから、サティア・ナデラ氏の「共感の経営」について、紐解いてみようと思います(数回にわたってチャレンジしてみます)。そのベースを『Hit Refresh』に置きます。

ところで、私が『Hit Refresh(翻訳版)』を購入したのは4年前でした。その時からしばらくは、ナデラ氏の「共感の経営」をコーチングに敷衍してコラムに書いてみよう、という動機は生じていません。というのも、自伝である『Hit Refresh』は、ナデラ氏がCEOに就任されて3年後に書かれた本であり、激動のIT業界にあって、「就任からそれほど経っていないにもかかわらず、自伝を通じて語られるナデラ氏の“哲学”は、はたして“揺るぎないもの”なのか…」と、感じてしまったからです。

ところが今、心の底から「ナデラ氏の“哲学”をこのコラムで綴ってみたい!」というモチベーションに突き動かされています。なぜなら… 野中氏が考察したように、マイクロソフトの大復活は、ナデラ氏の「共感の経営」と軌を一にしていることが、しっかりと読み取れるからです。
この証明の一つとして、まずは、現在に至るマイクロソフトのヒストリーを、ざっくり辿ってみることにしましょう。

マイクロソフトはビル・ゲイツ氏の「戦闘的な志」もあって、2000年代初頭に“帝国”を築きます。ところが、グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンの「GAFA」が、市場を席巻するようになって、マイクロソフトは劣勢を余儀なくされるのです。

「GAFAM」→「Magnificent Seven」→「Fabulous Four」

その「GAFA」は、いつの頃か、マイクロソフトが末尾に加わる「GAFAM」と呼称されるようになります。ナデラ氏がCEOとなる2014年前後からだと記憶しています。「マイクロソフトは復活するのではないか…」と、市場が感知したのでしょう。
さて、それから10年が経過しました。「GAFAM」も変化しているようです。この間、2つの象徴的なグループ名が新たに生まれています。「マグニフィセント・セブン」と「ファビュラス4」です。この呼称について、チャットGPTの回答を引用してみましょう。

マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)
概要
この表現は、主にアメリカのテクノロジー企業を指します。これらの企業は、革新的な技術と圧倒的な市場支配力を持っており、世界経済に大きな影響を与えています。以下の7社が「マグニフィセント・セブン」に含まれます。
テスラ
電気自動車(EV)メーカーとして知られ、エネルギー分野でも活躍しています。
アップル
iPhoneやMacなどの製品で有名であり、生成AI分野でも注目されています。
アルファベット(グーグル親会社)
検索エンジンやクラウドサービスなどを提供しています。
エヌビディア
半導体の設計とAI技術でリーダー的存在です。
アマゾン
eコマース、クラウドサービス、ストリーミングなど幅広い分野で活躍しています。
メタ(旧フェイスブック)
ソーシャルメディアとメタバース(仮想現実)の分野で注目されています。
マイクロソフト
Windows OS、Azureクラウド、Office製品などで世界的に有名です。

ファビュラス4(Fabulous Four)
概要

この表現は、マグニフィセント・セブンから3社が脱落した後の4社を指します。これらの企業は依然としてテクノロジー業界で重要な役割を果たしています。以下の4社が「ファビュラス4」に含まれます。
エヌビディア
半導体の設計とAI技術でリーダー的存在です。
アマゾン
eコマース、クラウドサービス、ストリーミングなど幅広い分野で活躍しています。
メタ(旧フェイスブック)
ソーシャルメディアとメタバース(仮想現実)の分野で注目されています。
マイクロソフト
Windows OS、Azureクラウド、Office製品などで世界的に有名です。
これらの企業は、テクノロジーの進歩と世界経済の変化に対応しながら、私たちの日常生活に大きな影響を与えています。

「GAFAM」からの流れを受けて、マイクロソフトは、いずれも最後尾となっていますが…

マイクロソフトの過去の株価を調べてみようと、ネットを検索していると、2000年につけたそれまでの最高値を、2014年3月に超えたとの記事を見つけました。ナデラ氏がCEOに就任したのは同年2月4日ですから、符合しています。その時の株式時価総額は、3283億ドルです。では現在はというと……

10年間で株式時価総額は、3283億ドルから3兆735億ドルに!

現在のマイクロソフトは、堂々の世界第1位です。
ちなみに、2024年1月24日に、3兆ドルを超えたことが報道されています(YouTubeで公開された「テレ東BIZ」)

『Hit Refresh』は“特殊な自伝”です。「自伝」は、ご自身がこれまでの足跡を振り返り、そのことを虚心に文章として綴っていくものです。日経新聞の『私の履歴書』が典型ですね。つまり「引退された後」に筆を執るのが一般的だからです。ナデラCEOは、就任早々ともいえるタイミングで発表しています。ご本人の業績は未知の段階ですから、「リスクを甘受して“自伝”を書いた」、ということですね。そのことが、しっかりと『Hit Refresh』には記述されています。

日経新聞の『私の履歴書』に登場する著名人の業績は、世の中にオーソライズされており、ご本人は「安心して」自分のことを語ることが出来ます。だからなのでしょうか、「しくじり」を書きながらも、どこか「自慢話」に聞こえてしまうのが往々ですね(笑)

私はこれまで、お二人の自伝に「共感」し、コラムに綴っています。ソニーを大復活に導いた平井一夫さんについて、『ソニー再生~変革を成し遂げた異端のリーダーシップ』を紐解き、シリーズで描いてみました(以下の3回です)。

『ソニー再生』の秘密は1on1ミーティングにあった!(1)
『ソニー再生』の秘密は1on1ミーティングにあった!(2)
『ソニー再生』の秘密は1on1ミーティングにあった!(完結編)

日経新聞の『私の履歴書』からは、ソニーグループに在籍された、丸山茂雄さんについて、同じく3回シリーズで書いています。

丸山茂雄さんの『私の履歴書~社長が一喝「やってみろ」』に触発された1on1がスタートします! 
丸山茂雄さんの『私の履歴書』、そして保阪正康さんの『自伝の人間学』『昭和の怪物 七つの謎』について語ります!
丸山茂雄さんの『私の履歴書…最終回「みんなのおかげ」』を迎えての1on1が展開されます!

私は、丸山さんの2回目のコラムで、保阪正康さんの『自伝の人間学』の中から、次の箇所を引用しています。

自伝は本人の素が如実に表れる…「生半可に書けるものではない!」

自伝を書くというのは、決して生半可なものでない。全人格を賭けた戦いである。しかし裏を返せば、実は誰もが書けるということがわかってくるのではないか。そして、いまの時代は誰が自分の軌跡を書いてもかまわないのである。十人の人がいれば、十冊の自伝ができあがる。百人がいれば、百冊の自伝ができあがる。どれが面白くて、どれが面白くないなどというのは、まったく“読む側”に任せるべきことなのだ。総理大臣の自伝が面白くて、平社員のうだつのあがらない自伝が面白くないなどと決めつけることはできない。

『Hit Refresh』を語る初回のコラムの最後に、冒頭の引用に続くナデラ氏の語りを紹介します。ここから数ページにわたって、ナデラCEOがなぜ『Hit Refresh』を書こうと思ったのか…魂の言葉が続きます。その数ページを引用したいのを我慢して、次回のコラムにつなげるべく、25ページの半ページ(『Hit Refresh』は全348ページ)のみを引用することにします。

2014年2月のあの寒い日、マイクロソフトの取締役会からCEOに指名された時、私は企業文化の変革を最優先課題に掲げた。マイクロソフトの魂、マイクロソフトの存在理由を再発見する必要があると述べた。まず行うべきは、優れた知性を持つ10万人の社員が、これまで以上に人間の未来に貢献できるような企業文化を生み出すことだ。ビジネスリーダーの書く本といえば、のちに現役時代を振り返って執筆する場合がほとんどであり、ビジネスの渦中にある指揮官が執筆することはあまりない。だが、大変革のさなかに現職のCEOが考えたこと、そして今考えていることを、同僚や顧客と共有できたとしたらどうだろうか。……

坂本 樹志 (日向 薫)

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