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前半は「政治対話を拒絶するネタニヤフ首相とその真逆だったエジプト・サダト大統領」、後半は「連合・芳野友子会長の『直言』」を語り合う1on1ミーティングです!

「ハマスのイスラエル奇襲で多くの人命が失われ、それが不釣り合いな報復を招いている。将来に目を向けるのも良いが、まず地域と過去の悪魔に対処することが極めて大切だ」
(日本経済新聞11月16日7面Opinion「中東、アブラハムは死なず」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年47回目の1on1ミーティングです。

習近平国家主席が米国を訪れ「直接対話」が実現した!

(A課長)
この1週間で、世界の外交が大きく動きました。

(Sさん)
はい、あの習近平主席が米国を訪れた! 世界は半信半疑だったと思います。米中対立が、ますます緊迫の度合いを増すなかで、直接対話が実現した。

(A課長)
ハマスのイスラエル急襲、それに対する、イスラエルの尋常でない報復が加速しています。世界の政治力学に大きな変化が生じています。だからこそ、俯瞰した視点が大切だと感じているのですが、複雑すぎて私の理解を超えている。

(Sさん)
Aさん、その俯瞰した見方のヒントになりそうな記事を見つけています。16日木曜日、日経新聞7面のOpinionです。国内外の外交・安全保障のエキスパートである、秋田浩之本社コメンテーターのDeep Insightは、まさにディープな内容でした。
秋田さんは、11月3~5日に、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで実施された「世界政策会議」に参加していますから、中東諸国の受けとめ方について、臨場感が伝わってくる情報です。共有しましょう…

(A課長)
なるほど…書き出しは、UAEのアンワル・ガルガーシュ大統領外交顧問の言葉を紹介している。パレスチナ問題を「悪魔」と喩え、危機感を訴えている。ハマスの急襲で多くの人命が失われたことに哀悼の意を表しつつ、イスラエルのあまりにも不釣り合いな報復を非難していますね。

イスラエルの報復はあまりにも不釣り合い!

(Sさん)
ええ、秋田さんはその言葉を受けて、イスラエルが1948年に建国されてからの歴史を振り返っています。

1948年の建国当時、イスラエルは敵国に囲まれ、アラブ諸国と4つの戦争を繰り広げてきた。ハマスを根こそぎにしなければ、国の安全が再び脅かされてしまうという本能が、容赦なき攻撃に拍車をかけている。
これに対し、パレスチナを支持するアラブ側の怒りも強まるばかりだ。アラブ連盟とイスラム協力機構(OIC)は11日の合同首脳会議で、イスラエルのガザ攻撃を非難し、ただちに停戦するよう訴えた。

(A課長)
タイトルは「中東、アブラハムは死なず」ですが、このアブラハムとは?

(Sさん)
はい、2020年の9月に米国の仲介で、イスラエルがUAE、バーレーンと国交を樹立しました。12月にはモロッコも続いた「アブラハム合意」のことです。この流れが、サウジアラビアも動かしたわけで、結果的に、追い詰められたハマスが暴発し、今回の悲惨な戦争に至った、という解釈が幅を利かせています。

(A課長)
秋田コメンテーターの趣旨は、どのあたりにあるのかな… 「塩漬け」という表現がありますね。

ところが、パレスチナ対立が火を噴き、イスラエルとアラブは一転、対立の関係に逆戻りした。パレスチナ問題を置き去りにし、地政学上の利益だけを追求してきたことに、そもそも無理があった。
ガザ紛争が鎮まり、パレスチナ問題に打開の動きが出るまでは、イスラエルとアラブの緊張は続くだろう。双方の接近は当分、塩漬けにならざるを得ない。

ここまでを読むと「悲観的」だ。

イスラエルとアラブの接近は「塩漬け」となってしまうのか?

(Sさん)
ええ、その次から秋田さんの主張が展開されます。俯瞰されている。

だからといって、アブラハム合意の流れが完全に死んでしまうとは考えづらい。イランの拡張に対峙しなければならない地政学的な事情は、変わらないからだ。アラブ側はパレスチナ問題の解決を望んでいるが、イランとつながるハマスも危険視しており、手放しで支持しているわけではない。

実に重層的です。

(A課長)
大きな事件が起こって。それまで積み上げてきたものが「ご破算」になった…「いや、そういうことでもない」という希望をこめた分析だ。その前提は、シーア派の大国であるイランの存在ですね。スンニ派とシーア派の対立については、私たちの想像を超えているので、その本質はなかなか理解できませんが。

(Sさん)
ええ、ハマスはそもそもスンニ派のようですから、実に複雑です。秋田さんは「地政学」をベースにして、次のようにまとめています。

地政学にもとづく潮流を復活させるには、ガザでの戦闘の早い収束とパレスチナ問題の解決に向けた進展が欠かせない。それはアラブ諸国だけでなく、イスラエルの長期利益にもかなうはずだ。

長期利益…この四文字はとても深い意味が込められている。ネタニヤフ首相は「感情爆発」したわけです。イスラエルが背負ってきた「ナラティブ・物語」に支配されているともいえます。ここまでの報復を果たしてイスラエルの人たちは肯定しているのか…

(A課長)
汚職や強引な手法により、支持率の低下に見舞われているネタ二ヤフ氏が、ハマスのテロを利用した、との見方もありますよね。この人は、ガザの人たちの「命に対する想像力」が欠如している…

ネタ二ヤフ首相は「命に対する想像力」が欠如している!

(Sさん)
今回のことがあって、パレスチナ問題を改めて考えてみました。昔読んだ『戦略の本質』を本棚から引っ張り出して、再読しています。野中郁次郎一橋大学教授が中心となって執筆した『失敗の本質』は、70万部売れた大ベストセラーですが、日本経済新聞社から2005年8月5日に出版されたこの本も50万部売れたようです。「研究書」にもかかわらず異例の売上です。私は5刷を買っていますが、9月29日の版ですから2か月も経っていません。いかに注目された「学術的歴史書」であったのか、伝わってきます。

内容は、「毛沢東の反“包囲討伐”戦~矛盾のマネジメント」「バトル・オブ・ブリテン~守りの戦いを勝ち抜いたリーダーシップ」「スターリングラードの戦い~敵の長所をいかに殺すか」「朝鮮戦争~軍事合理性の追求と限界」「第四次中東戦争~サダトの限定戦争戦略」「ベトナム戦争~逆転をなしえなかった軍事大国」の6つの戦争を詳述した「戦争史」です。
執筆代表である野中郁次郎教授の「まえがき」は、次の言葉からはじまります。

勝利を導き出す戦略に共通項はありうるのか。本書の問題意識は、なぜ日本軍は敗北を避けられなかったのかを研究した『失敗の本質──日本軍の組織論的研究』(1984年刊)の議論の過程で、われわれの脳裏から離れないものとなっていた。「失敗の本質」プロジェクトが終了すると同時に、日本軍とは逆に「なぜかれらは勝利を獲得できたのか」を明らかにする「戦略の本質」プロジェクトを立ち上げた。

「なぜかれらは…」の彼らとは、6つの戦争の勝者である中国、英国、ソ連、米国主体の国連軍、エジプト、ベトナムのことです。この本の帯は「大逆転を生み出すDNAを戦史から解明」です。

(A課長)
いずれの戦争も「大逆転」だったということですね。

(Sさん)
そうです。そして、この6つの戦争で、執筆陣がもっとも評価しているリーダーシップは、エジプトのサダト大統領なんですね。他の5つの戦争と比べて、思い入れが違っている。
Aさん、現在のイスラエルによるガザ地区内での一方的な戦闘を、TVなどが報道する際、イスラエルの地図が必ず示されていますが、第三次中東戦争が終結し、イスラエルが獲得した占領地区の地図を見たことがありますか?

(A課長)
いえ… ヨルダン川西岸地区とガザを含めた現在の国境線の内部が、これまでイスラエルが獲得した最大版図だと思いますけど…

イスラエルはエジプトの広大なシナイ半島をも占領していた!

(Sさん)
案外そう思っている人が多いようです。事前にネットで検索して、4回の戦争ごとに変化するイスラエルの国境線を調べています。コトバンクのなかに「小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)」の地図が引用されていますので、それを出しますね。

(A課長)
ええっ? シナイ半島全部がイスラエルの領土になっている…第三次中東戦争でエジプトから奪い取ったというわけですか?

(Sさん)
そういうことです。第四次中東戦争でサダト大統領は、明快に「出口戦略」を定め、「限定戦争」として臨んでいます。そして1979年に、イスラエルとの間で「エジプト・イスラエル平和条約」が調印され、1982年には、シナイ半島がエジプトに全面返還されます。
『戦略の本質』の第6章、217ページから258ページにわたって、内容が詳述されますが、第8章は、6つの戦争を総括しての分析です。第四次中東戦争のところを紹介しますね。

積年のイスラエルとの戦争状態がエジプトの国家財政を破綻に追い込んでいたので、サダト大統領は、これから脱却するためにイスラエルとの和平を究極目的とし、和平を成し遂げるための条件としてエジプトの尊厳と失地回復を実現し、その条件をつくるためにイスラエルに軍事的に挑んで、緒戦の勝利をつかもうとした。このためサダトは、戦争準備を進めるとともに、アラブの統一戦線を強化し、アメリカの外交関与を引き出すため、国務長官キッシンジャーとの間に交渉の窓口を開いた。(325ページ)

エジプトの戦略の構造の重層性は、大戦略レベルから技術レベルまで、まことに典型的であったと言ってよい。戦略の水平的ダイナミックスは、軍事戦略レベルでの限定戦争戦略の採用、作戦戦略レベルでの奇襲としてのスエズ運河渡河作戦の採用に、よく反映されている。垂直的ダイナミックスは、緒戦段階での作戦戦略レベルの勝利および軍事戦略レベルの成功と、最終段階における大戦略レベルでの政治的効果との間に認められる。(326ページ)

11月1日の1on1で、ノーベル平和賞候補だったとされるカール・ロジャーズを取り上げた際、「世界平和」がテーマにのぼりました。「対話」と「政治」について、Aさんはこう語った。

なるほど…最後は「政治」ということになるのかもしれない。高度なレベルの交渉力があっての「対話」です。

戦争は悲惨極まりない。プーチン・ロシア、ネタニヤフ・イスラエルは、「感情に突き動かされて」しまっている。『戦略の本質』で執筆陣が「このケースでも、特筆されるべきは、サダトのリーダーシップである」と、政治対話に力を注いだサダト大統領を活写しています。

サダト大統領は「政治対話」によってシナイ半島を奪還した!

(A課長)
私の内部に、「中東情勢についてもっと深めてみよう」という思いが兆しています。インスパイアしている…

(Sさん)
ありがとうございます。少し重くなりましたね。時間はもう少しありそうだ。
いつも通り『直言』をやってみましょう。このところ、教育関係の方が登場していましたが、今回は違っています。『直言』をテーマにしたときを振り返ってみると、私の方が多くしゃべっている。前半は私のテーマアップで始まったので、ここからはAさんにファシリテーターをお願いしたい。ジェンダーを語るにふさわしい人物の登場ですから。

(A課長)
ありがとうございます。一応、「いえいえ…」と、謙虚さを表すことも必要ですが、Sさんが、そう言ってくれなくても、今日は「私が主導します」、と宣言したと思います(笑)

(Sさん)
はい、想定内です(笑)
連合の芳野友子会長について、Aさんは折に触れて語っている。最初はいつの1on1だったかな…

(A課長)
はっきり覚えています。今日、芳野友子会長を語るために、振り返ってみました。去年の4月21日の1on1です。プーチン大統領のプロファイリングを4回にわたって試みた、その2回目でした。プーチン大統領の「孤独」にフォーカスした回で、私は芳野会長の印象を次のように語っている。反省を込めて…

私は芳野さんが就任したことで連合の雰囲気が変わったように感じています。
経団連会長の十倉さん、芳野さんが出演の、少し前に放映されたNHKの番組が印象に残っています。経団連は自民党を応援する最大のロビー団体ともいえますが、片やそのアンチともいえる連合の看板を背負っている芳野さんとのやりとりです。十倉さんもさすがの人物です。ただ私は芳野さんが意見を述べる際の落着きはらった態度と声音に意外感を持ちました。
以前「連合に初めての女性会長が誕生」という記事を見た際に抱いた、芳野さんのイメージとは違っていたからです。バイアスがかかっていたことを反省しました。

(Sさん)
思い出します。10月の連合定期大会で芳野体制が2期目に入ったことで、このところ日経新聞での露出が増えています。

(A課長)
ええ、日経新聞が、なぜ『直言』で芳野会長にインタビューしたのか、その主旨は次のコメントに表れています。

日本の労働者を取り巻く環境は変革期にある。多くの職場が多様な働き方を追求する一方、労働制度には日本的な慣行が根強く残る。他の先進国と比べて低い賃金水準を是正しなくては企業の競争力も保てない。労働界は企業や政治に何を求め、自らどう変えていくのか、連合の芳野会長に聞いた。

(Sさん)
このご時世、労働組合の存在はどんどん希薄化していますよね。芳野会長は「アウェイ」の立ち位置にいるわけです。順風な環境だと余裕が生まれますから、厳しい質問にもうまく対応できる。Aさんは、芳野さんの回答をどう感じていますか?

芳野連合会長は対立軸ではなく「政府との積極的対話」を重視!

(A課長)
はい、実に率直に言葉にされている。でも「守り」ではない。堂々と…というか、労働運動にありがちの「対立軸を鮮明にしていこう」という思念に囚われていない。むしろ「溶かしていこう」という姿勢が感じられます。
そのあたりについては、8つ目の質問に対する芳野会長の回答に表れています。

──連合内には政府・与党に近づくことに批判的な意見もある。
「国際的には労働組合も政府や経営者との対話を通じて課題を解決していくのが主流だ。政府と対話ができるようになったのは連合が国際レベルになったあかしといえる」
「政権と対話ができる信頼関係を築かなければ連合の政策を理解してもらえない。私は積極的に対話していく」

この回答だけで「対話」という言葉が4回も登場します。

(Sさん)
ほんとうだ…

(A課長)
次の質問に対する回答も明快です。

──今年は政府と経済界、労働界の3者による「政労使会議」を2度開いた。定例で開催するか。
「定期的に開ければベストだ。来年以降も意見交換したい」

(Sさん)
2面の中央に、バストアップと、お顔全体の写真2枚が掲載されていますね。細かなウエーブをしっかりかけるヘアスタイルがトレードマークです。笑顔が素敵な芳野さんですが、日経新聞は、きりりとした「眼光」が印象的な写真をチョイスした。ハンサムです。

(A課長)
化粧品会社にいると、Sさん的なコメントが身についてしまいます。「ルッキズム」にならないよう注意しましょう(笑)

(Sさん)
おっしゃる通り(笑)

上司が女性の部下を慮るのは「好意的差別」と表裏一体!?

(A課長)
それからSさん、あともう一つジェンダーバイアスに関する芳野会長の言葉を紹介させてください。どちらかというと学術的な表現です、一般にはあまり使われませんが、コーチングにとっても、とても重要なキーワードです。

──ノーベル経済学賞の受賞が決まったゴールディン氏は「日本女性の労働参加率は上がったが賃金格差が残る」と指摘した。理由をどう考えるか。
「日本は職場でも家庭でも性別で役割を分業する意識が根付いている。女性には家事や育児などの家庭的責任がのしかかる。長時間労働を解消しなければ仕事と家庭は両立できない」
「職場には『好意的差別』という目に見えない差別が残る。女性が能力やスキルを生かしたくても、子どもがいたら上司が仕事を減らすなどの配慮をする。これが結果として排除につながる」

(Sさん)
「好意的差別」ですか。はじめて聞く言葉だ。深いな…

(A課長)
19日の日曜の日経新聞1面の『チャートは語る』のタイトルは、「高齢独身女性、細る収入」です。「日本は男女の賃金格差が大きい」ことを、G7の各国+スウェーデンと比較し、日本がもっとも格差が大きいことを示しています。
つまり2面の芳野会長への『直言』インタビューと連動させているのですね。

(Sさん)
なるほど… Aさんの思いが伝わってきました。

(A課長)
ありがとうございます。『直言』の最後は、いつものように、質問した記者が感想・提言を短く述べる「インタビューから」ですが、そのタイトルは「古びた慣行、壊す存在に」でした。そのなかで、大場俊介記者と三木理恵子記者が、「労組の衰退について質問した際、『私はまだ希望を持っている』と答えたのは印象深かった」と回答した、芳野会長の言葉を切り取っています。
2つ目の質問に対する答えです。

──若い人は労組の活動に関心がない。
「連合は若い人と女性に人気がない。労組の意義や日々の活動が彼らの目に留まっていない。20代女性は連合のジェンダー平等への取り組みへの関心が高く、私はまだ希望を持っている」

これはコーチングです。「労組の活動」について、現状は「ネガティブ」な環境かもしれない。人は、厳しい環境に置かれると、まだ起こっていない将来についても、そのまま引き延ばしてしまい、悲観的な心持に陥ってしまう。
芳野会長は違います。明快なテーマを抱き、将来に希望を持たれている。

コーチングは「総合知」によって「未来」を切り開く!

(Sさん)
今日の前半は、私の提案で「第四次中東戦争」がテーマとなりました。カリスマであったナセル大統領の影に隠れて、大きな仕事をなすとは誰も想像していなかったサダト大統領が、イスラエルとの和平を実現した。ネガティブをポジティブに変換させたのです。その根幹に「対話」がありました。

4回も発生した中東戦争において、イスラエル最大の敵国がエジプトであったことを、多くの日本人は理解していないのでは? と思ったのでテーマにしたわけです。サダト大統領は「総合知」を、まさに総動員してエジプトの未来を切り開いた!

今日の1on1は、前半と後半で、まったく異なるテーマになったように感じていましたが、「未来志向」であるコーチングとつながりました。

(A課長)
「総合知」という言葉はグッドです! Sさん、コーチングは「総合知」です。そして「未来」を切り開く! 引き続きコーチング型1on1をやっていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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