前回は「態度の形成」について「古典的条件付け」「オペラント条件付け」の2つの理論を取り上げ解説しました。今回のコラムは「態度のまとめ」として、「態度の形成要因」についての2つの視点を紹介します。
オルポートによる態度形成要因
1.統合
さまざまな経験が累積的に統合化、体制化されて態度が形成される。
オルポートは「態度は1回の経験で形成されるわけではない」と言います。私たちの実感を踏まえると、“癖”は突然始まった、というより、積み重ねの行動を経て固定化してしまったように感じます。
2.分化
最初は大まかで未分化かつ非特殊的な態度は、経験が増加することで対象態度の相違に対応し次第に個別化、分化、特殊化していく。
上記の「統合」される個々の態度は経験を通じて分化していったものだ、と説明します。
3.衝撃
一方で強烈な情緒的ショックの場合は1回の経験で態度が形成される。
「統合」に当てはまらない態度形成もあるとしています。それは特定の経験があまりにも強烈すぎて情緒的ショックとして刻印されてしまい、固有な態度となって表れる場合です。心的外傷が典型です。トラウマ(Psychological Trauma)という英語表現の方が一般化しました。そのシーンが折に触れてよみがえり(フラッシュバック)、それが続くことでPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)という疾患にまで至ってしまう態度形成も指摘されています。
4.採用
重要な他者(父母など濃い関係)の態度をそのまま模倣し、採用することで態度が形成される。
ミラーリングというキーワードがあります。これは相手の行動やしぐさ、言動などを、そのまま真似てしまうことで、鏡(ミラー)に写るように、という意味合いを持っています。パートナーとの付き合いが始まりしばらくすると、友人から「今の態度、カレシにそっくりー!」と指摘される、という場合ですね。
クレッチ、クラッチフィールドによる態度形成要因
1.欲求の充足度合
自分の欲求を充足させてくれる、目標達成の手段となる、という自分にプラスとなる相手にはOKな態度をとるが、そうでない場合はNOの態度をとる。
本人の自覚の程度は別として、対象を合理的にとらえる視点での態度です。この態度形成が当てはまるか否かを自問自答した場合、「自分はそのようなタイプではない」と自我が受けとめている人が、他者から「まさにそういうタイプである」と見られていることはありそうですね。
2.情報量
態度の対象に関する直接的、または間接な情報に接することで態度が形成されていく。それは情報量により変化していく。
生きていく過程において外部の情報、刺激をまったく受けない、ということはありえないので、当該指摘は「あたりまえのこと」と理解できます。ポイントは「情報量」です。ただし特定の情報につき同じ情報量を受けた複数の人間がすべて同じ態度になるか、というとそのようなことはなく、個々人のパーソナリティなど他の因子も加わってきます。
3.所属集団
所属集団に影響される。
態度形成の対象は個人のみでなく所属している集団の影響を強く受けます。大学時代は似た者同士が、一方は銀行に、他方は商社に就職することによって、大きく異なる態度、雰囲気に変わってしまうというのは実感するところです。所属している集団のフィロソフィー、価値観、暗黙の集団規範を受容する過程で、固有の態度が形成されていきます。
4.パーソナリティによる多様性
同じ集団に属していても、本人のパーソナリティにより、集団への帰属意識や情報を処理する過程に相違があるので、個々人によって形成される態度には差異が見られ多種多様となる。2番目の「情報」の後段で “個々人のパーソナリティなどの他の因子”と説明したように、4つ目の「多様性」は、1~3までの一般的指摘(公約数として成立する)には例外があり、そのことを補完する意味合いがありそうです。
私はこの「多様性」というワードがとても好きです。近年では「ダイバーシティ」と英語での表記も広がっています。心理学における各理論の提唱は、人に関わるそれぞれの現象をパターンとしてとらえグルーピングしていくアプローチです。ところが…
世界中の賢人が解明しようとして、それでもわからないのが「人の心」。
「人を理解するのは実に厄介ごとである。常にモヤモヤ感を覚えてしまう。それを少しでも腑に落ちるよう助けてくれるのが心理学である」
これは私の解釈ですが、それでも全容を解明できないのが「人の心」であり、だからこそ心理学者をはじめ、あらゆる分野の賢人(そこには小説家も哲学者も、そして市井のお父さんお母さんなどあらゆる人たちが含まれます)が解明しようと悪戦苦闘している…これこそがリアルな日常の営みですよね。
坂本 樹志 (日向 薫)
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