前回は「態度の機能」を説明しました。今回は「態度はどのようにして形成されるのか?」を取り上げます。その態度について心理学で必ず学ぶのが「条件付け理論」です。心理学の理論の多くは海外で誕生しオーソライズされてきました。したがってそのネーミングは日本語に訳されたものが多く、かつ日常使う平易なことばを避けるきらいがあるので、わかりにくい日本語となっていますが、最初に紹介する理論は、その理論を導き出した実験内容がとてもわかりやすく「理論提唱者+実験動物」として世界に広がりました。それが「パブロフの犬」です。パブロフは1904年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞しています。
条件付け理論は「パブロフの犬」を起源に発展していきます。
犬に餌を与える都度特定の音を鳴らして聞かせる。それを繰り返していくと、餌を与えなくてもその音を聞いただけで唾液の分泌を始めてしまう、という内容です。この実験を端緒として「条件付けの理論」が発展していくことになるので「古典的条件付け理論」と呼ばれています。
余談ですが、実験を行う場合には仮説を立てて臨みます。つまり実験とは「結果を見通した上でそこに至る道筋を設計し実行すること」と定義できるでしょう。面白いことにパブロフは別の目的で犬の唾液成分を研究していた際に、このことを偶然発見したと言われています。大発見が偶然(別の目的の実験時)の産物、インスピレーションから生まれることはつと知られる話です。
もう一つの代表的条件付け理論に「オペラント条件付け」があります。
さて、条件付けにはもう一つ別の理論があります。スキナーによる実験の「レバー押すと餌が出て来る箱」から導き出されました。マウスが偶然にレバーを押すと餌が出てきます。するとネズミのレバーを押すまでの時間が短くなってくる、つまり餌=ご褒美(報酬)というフィードバックによって、レバーを押すという技能を学習したといえるのです。これはオペラント条件付けと言われます。二つの条件付けを整理しましょう。
<古典的条件付け>
食べ物と唾液はセットです(無条件反応)。自分の意志でコントロールされているわけではなく生理的なものです。ところが、特定の音(中性刺激)によって、本来結びつかない唾液が出るという反応、つまり、特定の刺激(経験)が重なる、あるいは強い刺激が与えられると、一見説明がつかない態度が形成されてしまうことをこの理論は示しています。
私の場合なのですが、なぜか病院で血圧を測ると普段と比べ必ず高くなります。数年前の人間ドックでそのときたまたまだと思うのですが、高い血圧になったのです。「あれっ?」という感覚が残り、その後病院で測ると高くなることが繰り返され、今では「いやだなぁ、絶対高く出るものなぁ」と病院に行く前から鼓動の高鳴りが自覚されます。これは「白衣高血圧」と呼ばれているようで意外に多くの人が経験しており安堵していますが、まさに自分のコントロールを超えたところの不随意反応です。
<オペラント条件付け>
オペラントは作動を意味するoperateの造語です。スキナーが名づけ親ですが、道具的条件付けとも言われます。不随意反応とは異なり、コントロール可能な随意反応です。
血圧を下げたいという動機に対して、医者に「塩分とお酒を控えると血圧は下がりますよ」と言われて、意志の力でもってそれを実行します。すると血圧が下がってきた。まさに達成感です。そして以前は大好物であったインスタントラーメンのスープを飲まなくなることにストレスを感じなくなった(残念ながら私の場合は意志の力が弱く実行できておりませんが)。このケースは、血圧が下がるという報酬がスープを飲むことにより与えられる快刺激(別の報酬)を凌駕した、ということですね。
条件付け理論を背景として精神療法の「行動療法」が開発されています。
この2つの条件付け理論は、精神療法の一分野である「行動療法」につながっています。クライアントが抱えている行動上の問題点(恐怖症や習癖)に対して、カウンセラー(精神科医、あるいは臨床心理士などの専門家)が行動面において、恐怖症の場合その対象に少しずつ近づいていきステップを踏んで慣れさせていく、という手法です。具体的ケースとして高所恐怖を取り上げましょう。
まずは10cmの台に上ってもらいます。「ええっ?10センチからですか?」と驚かないでください。思考と異なり恐怖症の人に表れる精神的な感覚、あるいは身体的症状は、健常な人は体験できていないので、理解しづらいものです。高所恐怖が強く出てしまっている人は、ほんの10センチでも「高い」という意識にとらわれ、鼓動が高まるということもあるのです。カウンセラーは知的な理解に基づいて、その人に寄り添い、適切なことばをかけながらその恐怖を解いていきます。そして次に20cm、30cm…1m、というように徐々に高くしても動悸がしない感覚をクライエントが得ることで自信が生まれ、恐怖症が克服されていく、という療法です。
言葉で説明するのは簡単ですが、症状が治まるまでの期間が順調な場合でも数か月を要するのが一般的です。また恐怖を覚える原因がクライアント本人の無意識層に隠されているケースなど、行動療法だけでは治癒に向かわないこともあります。なかなか奥の深い世界ですね。
コーチングのメイン対象者は特定分野でのパフォーマンス向上を目指す人々。
高所恐怖症を事例に取り上げましたが、他方、コーチングは特定の分野においてパフォーマンスの向上を目指す人たちが中心になるので、精神療法とは異なります。もっとも治療を必要とする行動には至らないまでも、人々が態度を形成するその背景に、古典的条件付け、あるいはオペラント的条件付けなど、外部刺激と反応にパターンが存在することを理解しておくことは、実際のコーチングセッションにおいても役立ちます。次回も引き続き心理学的アプローチで「態度(その3です)」を解説してまいりましょう。
坂本 樹志 (日向 薫)
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