特殊ねじのニッチ市場を切り拓いたサイマコーポレーションの事業化と組織づくり
人手不足による採用難が叫ばれる昨今、特殊ねじやいたずら防止ねじ市場でユニークポジションを確立し、定着率が極めて高く、採用活動をほとんど行わない企業として知られる、神奈川県藤沢市辻堂の「株式会社サイマコーポレーション」斎間孝社長に、自社の強みをどう見つけ、事業化し、それを支える人と組織をどうつくっているのか、お話を伺った。

企業プロフィール
- 会社名:株式会社サイマコーポレーション
- 創業・設立:1952年(昭和27年)1月
- 代表者:代表取締役社長 斎間 孝(三代目)
- 所在地:神奈川県藤沢市辻堂2-9-7
- 社員:28名
- 事業内容:ねじ、機械加工部品の製造および販売、ECサイト運営
- ホームページ:https://www.saima.co.jp/
代表取締役社長 斎間 孝(さいまたかし)
- 1992(H4)年 University of Pennsylvania ELP Pre-MBA Program受講
- 1996(H8)年 産業能率大学 経営情報学部卒業
- BOS SARD KKのSales Manager
- 1998(H10)株式会社サイマコーポレーション社長に就任
事業化の基本は観察と分析
事務局:御社のホームページの社長メッセージを拝見し、外資系ねじ企業での『海外・日本双方の目線から見えた歪み』を自社の独自の強み、いわば極小のニッチとして、縫製工場から全く異なる事業へ転換された経緯をお聞かせ下さい。
斎間:事業化しようとした時は、縫製工場としての実態はほぼ無く、不動産などの資産が残されているだけでした。ですから、それを活用したということに過ぎません。
事業化を考える際には、「安く提供できるか」「知識や技術がないと難しいのではないか」といった制約や不安が出てきます。王道に行こうとすると、余計にそうなるんです。
しかし、成功・失敗の経験を現実的に分析すると、自分が向き合いたい顧客や課題が見えてきます。成功した時は、「誰に、何を伝えたのか」「お客様の悩みの根本は何だったのか」を、誰かの悩みに応えようとした経験として深く考え、掘り下げていく。一方で失敗例についても、何が原因だったのか、どこに境界線があったのかを分析し、同じことを繰り返さない方法、人がやっていない方法を考える。徹底的な観察と分析が、事業化の土台になるのだと思います。
事務局:ニッチを見い出す際の「観察と分析」の思考は、どのように培われたのでしょうか?
斎間:多分、それは育ってきた環境ですね。私は、神奈川県の強豪公立校野球部に入りました。ただ、このままだと体格も肩も無いので目立たないし、チームにいても意味がないと思ったんです。体格も技術もある人は王道を選択すればよいけど、自分にはそれがない。ではどうするかと捉え方を変えて、チームの弱点を観察して見い出し、そのポジションを獲得するにはどのような考え方を持ち、何をすればよいのかを徹底的に考えました。その結果、レギュラーを獲得していったんです。
何が本質的に求められているのか、コアを見極める
事務局:ニッチを形成するためには、市場のニーズをどう探求していくかがポイントになると思います。そのために、どのようなアプローチをされているのでしょうか?
斎間:失敗したままになっているものでも、今のテクノロジーや何かしらの方法を使うと、ニーズに合うことがあります。また、この国では、無料の範囲でできることも案外あります。そこから、どう発信していくかにかかっていますね。私のスタンスは、基本GIVEが先です。
事務局:ホームページでは、斎間社長自ら「技術コラム」を定期的に発信していらっしゃいますね。
斎間:SNSなどでの発信は、AIのおかげで、そのコンテンツを関心がある人に的確に届けられるようになってきています。そのため、アイディアを持っている人、いろいろ意見を持っている人、お金を持っている人とつながることができる。どこかの会社で、何をどのように使っているのかを聞いて回ると、なんとなく、何が求められていて、そのうち何が満たされていないのかが見えてくるんです。
事務局:その中で選ばれる企業になるためには、何を大切にしていらっしゃるのでしょうか?
斎間:大所帯になって、他社と同じやり方をしているだけでは、やりにくくなるだけです。今サイマコーポレーションでやっているものと同じ状態のものを、もう一つ作ろうとは思いません。この会社だからこそできることを考えたいんです。
たとえば私たちの世界では、「この商品が売れている」というデータは出てきます。ただ、売れ筋商品を並べようという視点だけではよくありません。その商品の特性を抽出し、お客様にとっての価値をどう伝えるかが重要になります。それは、すべての商品に対して必要な視点です。この視点は非常に大事で、これが持てないのは、まだ半人前だと思っています。そうした考え方を一人ひとりが身につけ、自分で考えて動ける会社を目指してます。
事務局:それが、最近の「解析サービス」のようなサービスに繋がっているのでしょうか?
斎間:もともとはマーケットプレイスが出発点でしたが、この2〜3年は、よりマーケットイン、つまり、顧客や市場から求められているものを起点に考える流れが強まっています。一方で、多くの人が同意しているからといって、それが本当に正しい方向性とは限りません。ある仕組みやサービスについて、「これを使うのが当然だ」と広げていくだけでは、本質を捉えきれないと思っています。
まず大切なのは、それがどういうサービスなのか、全体像の中で何が本質的に求められているのか。つまりコアを見極めることです。そのためにあえて要素に分解し、事業として成り立つ形にしていく取り組みを重ねてきました。※マーケットプレイス(売り手と買い手が直接取引を行うプラットフォーム)
世界にはさまざまな成功事例がありますが、地域ごとの制約は必ずあります。だからこそ、日本における可能性や限界をきちんと考える必要があります。すべてを行うことは難しくても、まずは自分たちで取り組んでいくしかないと思っています。
管理ではなく、自律と意味の共有で動く組織
事務局:それでは、これだけのプロダクトとサービスを生み出し続けられる「人と組織」の仕組みに迫りたいと思います。社員数30名の組織でそれが実現できるのには、どんな秘訣があるのでしょうか?
斎間:私たちが事業を進めていくうえでは、東京のように土地代が高騰している場所ではなく、この地域で事業を続ける意味や価値を大切にしたいと考えています。「ここがなくなったら困る」と思われる場にしていきたいんです。
社員数が少なくても事業を続けられているのは、この会社が長く積み重ねてきたものに対して、「この会社にこうなってほしい」という思いを持って関わってくれる人がいるからだと思っています。そうした人の気持ちを大事にしながら、働き続けてもらえる関係をつくることが大切です。
仕事の中には、何をしているのか、どこに価値があるのかが外からは分かりにくいものもあります。ただ、長く似たようなことを続けてきた会社だからこそ、そこにある意味や必要性を感じ取ってくれる人もいる。そういう人たちが、この会社の継続を支えているのだと思います。
基本的には、細かく管理する組織にはしたくないと考えています。だからこそ、個人のモラルや自律性がとても大事になります。普段から、指示されないと行動できない、時間を取っただけで行動に繋がらないという働き方では難しいんです。実際に、会社が長く続いてきた中で、指示待ちではなく、自分で考えて動ける人、「会社にどうなってほしいか」を自分なりに考えられる人が残ってきたのだと思います。
事務局:社員に対してどんな経営者でありたいと考えていらっしゃいますか?
斎間:経営者としては、まず自分自身が幸せであることが大事だと思っています。自分が幸せでなければ人を幸せにすることはできないからです。目の前の売上に苦労している状態だと、本来は断るべき仕事も断れなくなってしまいます。ある程度、稼げる状態ができているからこそ、自分たちが本当にやりたいことや、相手にとって価値があると思うことに向き合えるのだと思います。たとえば、メニューに載っていないことでも、お客様にとって必要だと思えば対応する。単に価格や決められたサービスだけではなく、そこに価値を感じてもらえることに、自分たちの仕事の意味や幸せがあるのだと思っています。
事務局:その中で、会社としての共通目的を、どのように社員に浸透させているのでしょうか?
斎間:社員はそれぞれできることを持っていて、単純に単価や時間で考えるのではなく、意味のある仕事にするにはどのような整理が必要なのか考えながら動いています。それを一度共有してもらえば、外部の会社に頼むよりも効率的に進められることが多いですね。他社と比べても、人が関わる部分は多いと思います。ただ、管理ではなく、意味のある仕事の定義が共有できており、一定の方向性を持ちながら動いていけるところが、この会社の特徴だと思っています。
事務局:人手不足の中、採用に困っている企業が多い一方で、社員の定着率が極めて高く、採用しなくてもよいと伺っておりますが、社員の皆様とは、どのように関わっていらっしゃるのですか?
斎間:採用や定着については、結果的に、いろいろな事情を持つ人が働きやすい環境になっているのだと思います。たとえば、保育園に預けられるかどうか、近くで働けるかどうかは、子育て中の人にとって大きな問題です。また、子育てだけでなく、自宅で介護をしている人や独身世帯の人など、それぞれに事情があります。
こちらが最初から狙っていたわけではありませんが、そうしたバラバラな背景を持つ人たちが集まり、働き続けられる働き方を提供してきました。ライフステージに合わせて働き方も柔軟に変えられるようにしています。たとえば、子育てが一段落した段階でパートから正社員になる、といった形です。皆さんが働き続けられる場になってきました。人手を確保するうえでも、一人ひとりの生活や事情に合った働き方を考えることが大事になっていると感じています。
また、我々の製品やサービスが実際にお客様にどのように役立っているのかを、社員にどんどん見てもらいたいと考えています。そのため、子連れ出張も行っているのですよ。
事務局:その経験は、社員の皆様だけでなく、お子様にも心に残る体験になりそうですね。最後に、今後の展望をお話していただけますか?
斎間:息子がサラリーマンを辞めて入社したところです。取引先とのゴルフにも一緒に行き始めています。
私は、事業ありきというよりも、置かれている環境によってやることが変わるんですよ。その時、社員一人ひとりを観て、最大限力を発揮してもらうには何ができるか、何に挑戦してもらえるかを考えます。とにかく「人がやっていないところはどこか」を、これからも探し続けていきたいですね。
事務局:独自のニッチ市場を切り拓くだけでなく、働く人の背景に寄り添い、自律性を重んじるサイマコーポレーション様の組織づくり。その根底には、徹底した観察と、関わる人への深い信頼があるのだと強く感じました。斎間社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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