今回は、「対人魅力」についてです。
心理学としてのとらえ方にも幅があるのですが、「魅力」というワードを狭義に解釈して「他者(個人に限りません)から受ける好意や尊敬といった肯定的な態度の大きさ」という定義がわかりやすいと思います。この肯定的態度に加え「どうして嫌われるのか」という否定的態度も対象としてとらえる「対人魅力」もあります。好きと嫌いは表裏一体であるともいえます。
親密な関係は、身近な人から始まる。
友情や恋愛は、まずは身近な人との出会いから始まるのが通常です。高校、大学のサークルや教室で、そして職場といった日常近くで接する人との関わりから育まれていきます。これを「近接性」と呼びますが、会うために費やすエネルギーが最小であり、自身が働きかけをしない受動的態度でも意図しない接触が可能となる、というメリットがあります。よく「どうして彼女(彼氏)がいないの?」と訊かれて、「だって女性ばかり(男性ばかり)の環境だから無理、出会うチャンスがないから」という会話がいたるところで交わされています。
関係性はコミュニケーションから生まれます。なお以心伝心は、関係性が構築された以降で可能な間柄(しかもかなり高度な)ですから。最初からはありえません。
「近接性」によって自然とコミュニケーションが増え、相互関係が促進され、さらに接触頻度が増加することで肯定的態度が形成される「単純接触効果」が指摘されています。
さて「近接性」→ 肯定的態度が生じる、としましたが、実は単純ではありません。
・友人との距離 → 近づくと好ましく感じられる。
・見知らぬ他人 → 接近は回避したい。
さらに「接近行動はすでに持っている感情を増幅させる効果がある」とされています。
・好意を抱いている人との接近 → ますます好きになる。
・嫌いな人に接近されると → ますます嫌いになる。
なかなか難しいところです。
人はどのような人を好ましいと感じ選択するのか?
ところで身近な環境がすべて親密な関係性につながっていくのか? 決してそうではないことを我々は知っています。つまり「選り好み」という感情が生じるためです。では出会いの段階(まだ相手の全体像は把握できていない)で、「人はどのような人を好ましいと感じ選択するのか」をひも解いてみましょう。
1.身体的魅力
ランディとシーガルによる実験から導き出された内容で「身体的魅力を有した人は、好ましいパーソナリティ特性を持ち、才能があると見られている」というものです。『心理学とコーチング』コラムの最初の対人認知で、「ステレオタイプ的認知」「後光効果」を取り上げましたが、まさに典型的事例です。
ただし、面白いのは、身体的魅力は“出会いの一瞬”に最大の効果が発揮されますが、その後さまざまな情報が入ってくることで効果は薄れていきます。
最初に好きだと感じた場合と、そうでない場合のその後の好悪度を調査すると、前者がむしろ嫌いになる率が高まるのに対して、最初は特別な感情がない場合の方がむしろ好きになっていく、つまり期待していなかった分、好ましい情報をキャッチすると好感情が芽生えていく、ということです。
前者は後光効果により相手に対し理想像を投影してしまい、理想と現実のギャップを感じ幻滅してしまう(自分勝手な評価ですから、その幻滅要因は決して身体的魅力の高い相手のせいとは必ずしもいえませんよね)。美人が得ばかりしている、わけではないのかもしれません。
2.類似性
関係性の第一歩である「近接性」の次のステップが「類似性」です。特に態度や価値の類似性が重要だとされています。意見や嗜好性が似通っていると、衝突することが少なくなり、そのためコミュニケーションが円滑に、かつ多頻度に行われるために関係性がさらに深まっていきます。
また、フェスティンガーの「社会的比較過程理論」によると、人は自分の意見や信念の正しさを他者と比べるが、類似した他者の存在は自分の考えの正しさを裏付ける効果をもたらすので好ましく感じる、と説明しています。
3.交換理論
誰と積極的にコミュニケーションしていくのか、という選択の過程を説明する理論で、他者との相互作用においてコストより報酬が高い人が選択される、という結論が導き出されています。報酬は金銭だけでなく、相手からの知識、自尊心が高まる、落ち込んだときにやさしくなぐさめてくれる、などです。コストは関係維持のための物質的(金銭など)、精神的な努力が該当しますが、組み合わせはさまざまですので、報酬が高いと感じるその報酬の中身は、まさに人それぞれですね。
4.欲求の相補性
長く続いているカップルがすべて似た者同士なのか? 決してそうではないことに気づきます。「割れ鍋に綴じ蓋」といわれるように、自分にないものを相手に求め、それによって関係性が安定する場合です。支配欲が強くおしゃべりな妻の夫が無口でおとなしいタイプ、という組み合わせはよく見聞きしますよね。私はついつい「サッチーと野村監督」を思い浮かべます。
「一髪・二風・三器量」とは?
「人は外見で評価すべきではなく内面が大切なのだ」というフレーズは万人が認めるところですが、それを我田引水にとらえ「外面は関係ない、内面を磨けばよい」と身なりにかまわないで自分ファーストに暮らしている人も少なくないようです。
身体的魅力が第一印象を形成する(してしまう)のはある意味自然なことで、目くじらを立てることではない、というのが私のスタンスです。「一髪・二風・三器量(いちかみにふうさんきりょう)」という言葉を化粧品会社の人から聴いたことがあります。
人が相手を見て印象に残る順番とのことですが、まずは髪形。しっかり手入れがされているか、ボサボサは論外。次いでファッション。最後が顔かたち。極端に言えば美人かどうかはそれほど気にする必要はない、ということですね。もっとも化粧品会社ですから、メイクアップで美しくみせることは可能、ということなのでしょう。
いずれにしても私たちが戒めなければならないのは、ステレオタイプ的思考であり、思い込みにとらわれてしまうことです。物事は実に多様であり多彩です。まさにコーチングの立脚点ですね。
坂本 樹志 (日向 薫)
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