無料相談・資料請求はこちら

「持続的・安定的な2%物価上昇」の真意を植田和男日銀総裁候補の所信聴取によって理解する!

田村貴昭氏(共産) : デフレの要因をどう考えるか。
植田氏 : 私の使命は魔法のような特別な金融緩和を考えて実行することではない。基調的なインフレ率動向をみると良い芽は出ているが、まだ2%に安心して達するまでにはちょっと時間がかかる。適切なタイミングで正常化していく判断が求められる。
(日本経済新聞2月25日5面「日銀総裁候補・植田氏の所信要旨」より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年8回目の1on1ミーティングです。

日銀総裁候補植田氏の国会所信聴取にSさんは響きます!

(Sさん)
いつもの1on1は、コーチングの流れに沿ってアイスブレイクから始めますが、今日はナシでやってみたいのですが。

(A課長)
今日のSさんは気合が入っていますね。

(Sさん)
2月25日土曜の日経新聞は、24日がプーチンロシアのウクライナ侵攻のちょうど1年ということで、その検証を踏まえた記事が目につきました。それと併せて、日銀の新総裁候補である植田氏の所信聴取が国会で行われたので、その内容も詳述しています。

(A課長)
植田氏はまさに時の人ですね。土曜は朝から仕事に入ったので、その日の日経新聞は目を通していません。ですから、今日はSさんの日経解説で埋め合わせさせてください。エネルギーの効率的使用です(笑)

(Sさん)
了解しました。人に与えられた時間は平等です。是非とも頼ってください(笑)

1面の大きな見出しは、「異次元緩和~効果を検証」です。「植田氏、緩和を継続」と続きます。そして文中の小見出しで、「副作用否めず~所信聴取」を挟みます。
そして5面は下段の広告枠を無くし、大きく4段のスペースで国会での詳細な「所信要旨」、そして、各党代表者の質問に丁寧に対応する植田氏の回答を再現しています。

(A課長)
金曜日の夕方あたりから、テレビで植田氏の国会質疑のシーンが出始めました。ほとんどが静止画だったので、植田氏が何を話されたのかは伝わってきません。
ただ、どのテレビだったかな? 私が遭遇した生の声は、「昼食にコンビニ弁当をよく食べる。その値段が450円から500円に上がった…」でした。「そこなの?」と感じましたね。

(Sさん)
私も視ましたよ。10年続いた黒田総裁の日銀政策のひずみが、かなりヤバい状況となっているので、植田氏への期待を込めて、そのシーンを選んだのでしょう。
田中角栄じゃないですが、「偉い人だけど庶民のことをわかっている」と感じさせることが人物評価としてプラスに働く、というマスコミの捉え方がそこに反映されていますね。

日本の世論は「偉い人も庶民性が備わっている!」を求める?

(A課長)
日本はもうそういう時代じゃないと思います。何というか… 初の学者出身ですから、日本に漂う先入観を感じ取って、植田氏に対する好感度を演出しようとそのシーンをチョイスしているのではないでしょうか?

本当に大切なのはノブレスオブリージュです。国家全体の方向を定めていくという、至高の意思決定を担う人物は、そういう目線とは次元の異なるパースペクティブをもった人であってほしい。

(Sさん)
ノブレスオブリージュ… フランス語ですね。デジタル大辞泉によると…

身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。もとはフランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」の意。

Aさんも気合が入ってきました(笑)
質疑応答に興味を覚えたので、YouTubeにアップされていた朝9時半からの衆議院国会中継をチェックしてみました。
植田氏がマイクに向かって、言葉を最初に発したのは始まって11分42秒のところです。そして議長が休憩を宣言するのが2時間55分40秒後です。その間植田氏は終始冷静でした。

私は経済、金融の素人ですが多少かじった者として、植田氏の語りからはメタの視点が伝わってきて、「頼もしいなぁ~」と感じましたね。

(A課長)
メタは「俯瞰している」という意味ですが、そういうことですか?

(Sさん)
ええ、金融政策に関して歴史認識をしっかりもたれている。そして、私が感心したのは植田氏のスタンスです。内閣や財務省、日銀といった組織…言い換えればオーナー的な存在の影響を感じさせないところでした。フラットです。学者なので「どの学派なのか」はあるのでしょうけど、それもいい意味でよく分からない。

(A課長)
ひと言でいうと、どんなイメージの方ですか?

(Sさん)
う~ん…「バブル経済の発生から数十年を俯瞰して把握されているリアリスト」でしょうか?

植田氏から伝わってくるのは、いずれの組織や機関の影響を感じさせないフラットな人

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
日経新聞5面に掲載された内容で、響いたところを紹介させてください。ちなみに記事は要約がベースなので、「ですます調」ではありませんが、植田氏の語り口はとても丁寧です。「上から目線」を感じさせません。

消費者物価の上昇率は4%程度と目標とする2%よりも高くなっている。しかしその主因は輸入物価上昇によるコストプッシュであって需要の強さによるものではない。こうしたコストプッシュ要因は、今後減衰していくとみられることから、消費者物価の上昇率は23年度半ばにかけて2%を下回る水準に低下していく。

(A課長)
いつだったかな?… 去年の11月14日の1on1でした。Sさんは「日本のCPIは諸外国ほど上がらない」と、その時点で言っていましたね。10月17日時点の諸外国の物価上昇率を日経新聞が調べていましたが、米国7.9%、英国は9.1%でした。日本は2.4%です。

(Sさん)
インフレ率の是正は政策金利をアップさせるのが常道ですから、そのとき米国は3.125%、英国は2.25%に高めています。日本はマイナスの0.1%でした。現時点は、米国は4.75%、英国も4.0%まで上げていますね。

一方の物価上昇率は、米国、英国ともまだ予断を許す状況にありません。日本と比べてかなり高い。日本の消費者物価について植田氏は、「4%程度に高まっているがコストプッシュインフレであり今後減衰していく」という見通しを立てています。

(A課長)
減衰の根拠は今一つわからないのですが、デフレが延々と続いたことが日本の失われた30年の背景です。ただ庶民感覚では「モノが安い」ことを否定しないムードが漂っていませんか?

(Sさん)
ええ… ただ何ごとも表裏があります。その結果は「貧乏になってしまった」ということですね。消費の主役である中間層がしぼんでいき、格差が生じ、成長できないことでメンタル的にも自信を失っている。

国家が元気になれるのは、国民の所得が上昇することです。日本はサラリーマンが多いので給料ですよね。それが上がっていくと嬉しいし、モノやサービスを買いたくなる。経済が活性化する、ということです。そうならないと将来に対する希望が持てない。

節約志向は日本をどんどん貧乏にしていくのか…?

(A課長)
私たちの世代は不安が先行します。「使わないで貯めておかないと…」、という意識が強いと思います。だから新型コロナで大量の国債が発行されても消費に回らない。

(Sさん)
新型コロナ禍は異常事態としても、“先行き不安”によってお金が回らない。それこそが景気が向上しない根本原因です。日本人は株式などのリスクマネーを嫌って、ひたすら現金を持ちたがる。銀行に預ける。

米国と日本の家計の状況をチェックしてみましょうか…「米国と日本の家計 現金」でググってみましょう。トップに出て来たのは…日本銀行の資料ですね。

(A課長)
この表を見ると、米国人は「現預金」という概念そのものが存在しないようですね。つまりお金が入ってくると「株式などに換える」という発想だ。それが当たり前であることが、この表から伝わってくる。つまり家計も「投資」が常態化している。

(Sさん)
日本のバブルとその崩壊は過剰流動性が要因です。マネーは株式にももちろん回りましたが、圧倒的に「土地」に向かいました。日本には「土地神話」という共同幻想が、まさに共有されていました。日本人にとって土地はリスクではなかったのですね。どんなときもリスクを嫌うメンタリティが日本には漂っています。

Aさんは以前の1on1で、マイカル破綻の経緯を詳細に分析してくれました。クローズアップされたのは「土地という担保があれば事業の将来性には無頓着だった!」という銀行をはじめとする金融機関の放埓な姿です。私も再勉強させていただきました。

「辺境の島国」という閉じることを可能にしてしまう日本の地政学的な環境が、いい意味でもそうでない意味でも、「わが道を行ってしまう」という流れを生むような気がしています。

「辺境の島国」日本は、とにかくリスクを嫌う!?

(A課長)
またしてSさんの口から「辺境の島国」がでましたね。

(Sさん)
そうですね。繰り返しますが、いい意味でもそうでない意味でも…
海で四方を囲まれていることが、天然の要害となっています。日本以外の国は地続きになっている。つまり、姿かたちの異なる言語も文化も宗教もバラバラな人たちが、当たり前のように行き交っているということです。

(A課長)
日本と同様、島国のイギリスは日本に似ていませんか? 王室も健在だ。

(Sさん)
う~ん、イギリスは実に複雑な国家です。
イギリスの正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」です。4つの国の連合体なのですね。名称として抜き出されている「北アイルランド」については、宗教対立によって過去悲惨な紛争も発生しています。ベルファストの地はその象徴です。
少し余談になりました。話を戻します。

黒田日銀総裁の10年の最大のひずみは、国債の異常な膨張です。ただこれを可能にしたのは、日本の国民がせっせと銀行などの金融機関にお金を預けてくれるからです。そのお金は、最上位の信用とされる「国債」の購入に充てられた。
「国債引受シンジケート団」、略してシ団ですが、そのような機関までつくられたので、もう自律回転です。

これもググってみましょう。「公益財団法人日本証券経済研究所」のサイトがいいかな?

日本の国債は,長らくの間,10年国債が中心で,10年国債はシ団引受によって発行されてきた。国債種類の多様化が進み,公募発行が増加するのは昭和50年代後半以降のことである。
シ団引受発行は,世界に例を見ない日本固有の発行方式である。そして,この発行方式は,日本の国債管理と金融政策と密接に関連していた。シ団引受発行の歴史は,日本の国債管理と金融政策の歴史でもある。この発行方式が廃止されたということは,国債管理と金融政策の変化を象徴するだけでない。シ団引受の歴史的役割も終わった,ということである。

「国債引受シンジケート団」まで存在していた日本…

(A課長)
何だか究極のイエスマンたる機関ですね。

(Sさん)
言い得て妙だ(笑)
植田氏は言質をとられないようにしながらも、国債の膨張に歯止めをかけようとしているのが伝わってきます。3面は大きく「植田日銀、副作用軽減探る」というタイトルで、日経新聞としての解釈を含めながら、3つ視点で解説しています。見出しがその要約です。

「物価~23年度半ば2%下回る」
「長短金利操作~政策修正の可能性示唆」
「2%達成なら~大量国債購入やめる」

(A課長)
植田氏は2%達成を最優先テーマとしていますね。この優先順位をSさんはどう捉えていますか?

(Sさん)
私の理解も途上ですが、植田氏の所信要旨を読むと少しわかってきました。「今の状況は2%程度の健全なインフレが安定的に持続する状態ではない」、という判断です。コストプッシュが要因であり、今すぐの金利操作には慎重です。
3面の囲み記事に「デフレ脱却~4指標重視、3つは勢い欠く」というタイトルの用語解説がありました。

植田和男氏が次期日銀総裁に就任すれば、25年にわたるデフレ脱却に向けた取り組みは総仕上げに入る。
政府は①消費者物価指数(CPI)②総合的な物価動向を示す国内総生産(GDP)デフレータ③賃金動向を映す単位労働コスト④需要と供給力の差を示す需給ギャップ、この4指標を重視している。CPIの前年同月比の上昇率は円安と資源高を背景に4%を上回る一方、残りの3指標は勢いを欠いたままだ。

つまりデフレ脱却は、①から④がトータルに反映されなければ現実とならない、ということです。

「デフレ脱却」は4つの指標によって判断される!

(A課長)
なるほど… テレビの報道は「物価高に悲鳴が上がっている」というトーンを強調していますが、その対策を優先して金利を上げると… デフレスパイラルに突入する! という植田氏の見立てですね。

(Sさん)
植田氏の所信要旨には、次のような表現があります。

ただ、目標の2%を持続的・安定的に達成するまでにはなお時間を要する。こうした経済・物価情勢の現状や先行きの見通しに鑑みれば、現在日銀が行っている金融政策は適切だ。金融緩和を継続し、経済をしっかりと支えることで企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要がある。

(A課長)
バランスを感じます。

(Sさん)
27日月曜日には参議院でも植田氏の所信聴取が行われています。昨日の日経新聞では3面に記事化されています。24日の衆議院で語られた内容の繰り返しですから、記事そのものの扱いは小さくなっています。
ただ注目すべきは、アベノミクスの中心的存在として、参議院安倍派を率いる世耕参院幹事長を自民党が質問者に立てたことですね。

「官房副長官、経済産業相としてアベノミクスの一端に関わってきた者として確認しておきたいことがあった」と切り出し、植田氏に質問を矢継ぎ早に浴びせた。

その回答も絶妙なバランス感覚です。リフレ派を背景とするアベノミクスに配慮しています。その継続についての植田氏のコメントを日経新聞は、次のようにつないでいます。

継承するかは「(物価2%目標の達成を目指すことを)続けるという意味で踏襲する」とし、現行路線を継続する姿勢を示した。

植田氏の回答は絶妙なバランス感覚を保ちつつブレていない!

(A課長)
継承はするが出口は考えている。それが「2%の持続的・安定的な物価上昇」、ということだ。絶妙ですね。衆議院の所信聴取ともブレていない。

(Sさん)
今日の1on1の最後として、25日の日経新聞5面に戻って、植田氏の決意を感じさせるところを引用させてください。

もし私を日銀総裁として認めていただけたならば、政府と密接に連携しながら経済・物価情勢に応じて適切な政策を行い、経済界の取り組みや政府の諸施策とも相まって構造的に賃金が上がる、そういう状況をつくり上げるとともに一時的ではなく持続的・安定的な形で物価の安定を実現したい。

(A課長)
賃金が上がる! これこそが根本的な命題ですね。この実現がさまざまな動きにつながっていくことが理解できます。何かイベントがあると「経済波及効果」という表現で、イベント単体の収益だけでなく、その影響力が試算されます。
つまり、賃金上昇こそが日本経済への最大の影響力、波及効果をもたらす、ということだ。

植田氏の考え方、方針を日経新聞が紐解いてくれました。それをSさんが解説してくれたことで、「2%の物価上昇」の意味がわかってきました。
“2%”はこの10年、延々と語られてきました。ただ専門家は別として、日本の世論がどこまで理解していたのか… 私も少し恥じ入るところですが、植田氏の存在に私は希望を感じます。

(Sさん)
ただし、痛みは伴いますよ。その痛みを覚悟する世論形成も必要です。未来は神のみぞ知る世界ですが、「辺境の島国」のメンタリティを相対化させ、「日本のあるがまま」を日本全体が共有できれば、未来は拓けていくと確信しています。

(A課長)
最後はSさんの「セカイ系」ですね。私も大きなドリームを描き、同時に地面をしっかり踏みしめながら前に向かっていこうと思います。ときに後ずさりするかもしれませんが(笑)

今日はSさんのおかげで、日経新聞を読むことなく植田氏の方針を理解することができました。受動型学習スタイルですが、「効率学習とはまさにこのことだなぁ~」と実感至極です。
Sさん、これからも引き続き1on1ミーティングをやっていきましよう!

坂本 樹志 (日向 薫)

現在受付中の説明会・セミナー情報