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プーチン大統領とゼレンスキー大統領の「権威」に関する一考察

「権力とは魔物である」と言われます。それまで謙虚であった人も、実際に権力を握り、自分の一声で他者が意のままに動くことを経験すると(してしまうと)、それが権限のおかげではなく自分の能力の高さである、と勘違いしてしまい、人の意見を聞かない傲慢な人に変わっていく…

今回もプーチン大統領とゼレンスキー大統領についての比較研究を試みます。
前回と同様にA課長とSさんの1on1ミーティングを展開する中で、タイトルテーマに迫ってみようと思います。

「権力をもつと人は変わってしまう」と言われるけど本当?

(A課長)
今日もZoomを使っての1on1ですが、よろしくお願いします。
前回の1on1は、プーチンン大統領が孤立し、その孤独感によって一つひとつの判断が相対化できなくなっているのでは…という話が展開されました。今回も引き続きプーチン大統領の内面を想像していく、というテーマでやってみたいと思うのですが、いかがでしょうか?

(Sさん)
望むところです。Aさんはコーチング、そして心理学を学ばれているので、私流にとらまえている内容を理論的に整理していただけるので、ホッとするというか、「間違っていない…」という安心感を得ることができます。
つまり、学者の理論、つまりオーソリティの力をお借りすることで自信につながっている、ということですね(笑)

(A課長)
オーソリティ…ですか? 日本語では権威と訳されます。オーソリティにはポジティブなニュアンスも感じられますが、権威となると、少しネガティブというか…訳され方によって印象が違ってくるのも面白いですね。

権威で思い出したのですが、コーチビジネス研究所のコラムで「社会的勢力」という社会心理学のキーワードを解説したコラムがありました。

社会的勢力は権威を有することで強化されていく!

定義は「他者に対して社会的影響をもたらす潜在的な力」です。その力は権威を持つことによって強化されます。

いつのコラムだったかな…え~っと、2020年5月7日でした。画面共有しますね。
サブタイトルは ~「権力をもつと人は変わってしまう」といわれるけど、本当?~ です。
このなかで、心理学者のキプニスの実験が取り上げられているので、紹介させてください。

心理学者のキプニスが面白い実験をしています。「与えられる権限の強弱でその勢力者はどのように変化するのか」という内容です。
披験者である勢力者を、一方は強い権限を与える、他方は小さな権限しか与えない、という2つのタイプに分けます。一般的な作業現場を設定し、経営者役の勢力者は会社が儲かるように、部下役に指示命令を与えて課題の達成を目指します。

さて何が起こったかというと、弱い権限しか有していない勢力者は、部下役を粘り強く説得し生産性を上げるよう努力します。一方で強い権限を持つ勢力者(一応実験上の設定ですが)は、説得といった働きかけをしないで、賞罰や配置転換で部下役を動かそうとします。つまり地位(強い権限)を利用して大きな影響を与えるべく試みるという結果になりました。

加えて、課題を達成するにあたって好ましい結果につながったのは、部下役の能力というより自分の勢力の発揮の仕方(管理統制スタイル)が優れているからだ、と解釈したということです。

実験が終わった後、キプニスは部下役との歓談の場を設けたのですが、弱い権限しか与えられなかった勢力者の多くが部下役との歓談を希望したのに対し、強い権限が与えられた勢力者の歓談希望は少数でした。

実験にもかかわらず、権限を駆使することが自分にとっての好結果につながる経験を得ると、対象者を管理の対象として一定の心理的距離を保つようになる、と解説しています。

「権限の強弱」によって人は振る舞い方が変わるのか…?

(Sさん)
これって「実験」であり、実際の企業ではないのに… 部下役もサクラではなく、実験内容というか、一応理解した上で臨んでいるのですよね?

(A課長)
そのようです。設定された状況の中で、経営者役も部下役も“まじめに”取り組んでいるうちに、そのような流れが形成されたのではないでしょうか?

(Sさん)
う~ん、いろいろ考えてしまいますね。

(A課長)
確か年初1月6日の1on1で「アイヒマン実験」を紹介したと思いますが、サクラが迫真の演技で「権威者」と「生徒役」を担当し、一種異様な環境のもと、一般の人である被験者が権威者の指示に対して、どのように振舞ってしまうのか…

つまり、殺人の可能性も想定される状況にもかかわらず、その権威者の要求を受け入れてしまう、という結果が出ています。

(Sさん)
Aさんからその実験結果を聞いて驚愕しました。60年前には、「明らかに倫理的にはどうなのか?」という心理学実験が行われていたことも二重の驚きです。

前回の1on1でAさんが、バイアスについて触れましたよね。
数百万人のユダヤ人を絶滅収容所に送った責任者のアイヒマンが、逃亡生活を続けた果ての1960年にアルゼンチンでモサドに逮捕されました。
そして翌年裁判にかけられるわけですが、その時のアイヒマンの態度に、戸惑いを感じた多くの関係者も、まさにバイアスに陥っていたという訳です。

このことが心理学実験の通称「アイヒマン実験」につながったことも知りました。

絶滅収容所の責任者アイヒマンは「小役人の凡人」だった…

Wikipediaの「アイヒマン裁判」に、次のような一節があります。

……自身にとって不利な証言を聞いているアイヒマンという人物が「小役人的な凡人」という印象を与えるものであったことが、「ふてぶてしい大悪人」であると予想していた視聴者を戸惑わせた。

裁判を通じてアイヒマンはドイツ政府によるユダヤ人迫害について「大変遺憾に思う」と述べたものの、自身の行為については「命令に従っただけ」だと主張した。また、ヒトラーの著書の『我が闘争』については、「読んだことはない」と述べている。

この公判時にアイヒマンは「1人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」という言葉を残したとされる。アイヒマンは死刑の判決を下されてもなお自らを無罪と抗議しており、その模様は記録映像にも残されている。……

(A課長)
「アイヒマン実験」によって「人間とは何か?」という永遠のテーマが浮上してきます。
話を戻しましょう。キプニスの実験結果を参考にロシアのプーチン大統領、対するウクライナのゼレンスキー大統領に思いを馳せてみようと思います。

ウクライナ侵攻以来、国連安保理の常任理事国についての話題が絶えません。第二次世界大戦の戦勝国である、アメリカ、イギリス、フランス、中国、そしてロシアの5か国が該当します。

(Sさん)
Aさんの語りたいことがわかってきました。つまりこの常任理事国の5か国は、現状の世界の枠組みにおいて、お墨付きを与えられた絶対的な権威をもつ国家、ということですね。英語のオーソリティを使った方がなじむかもしれない。

(A課長)
ありがとうございます。この5か国には、国際連合憲章第27条の規定に由来する拒否権が与えられています。私の解釈ですが、人間が編み出した法律において、地球規模で共有されている最もスーパーな…いやウルトラ権限、ウルトラ権威がこの拒否権なのではないでしょうか。

安保理常任理事国による拒否権は世界最強のウルトラ権威!?

(Sさん)
Aさんの視点は斬新だ。
もともとはソ連が常任理事国でした。悲惨極まりないスターリングラードの攻防をしのぎ抜き、ヒトラードイツを崩壊させたスターリンの功績というか、連合国サイドにいたことで常任理事国となっている。
そのソ連が崩壊し、それを継承したのがロシア連邦だ。エリツィンが当時の大統領なので…つまりプーチン大統領は、自らがそのオーソリティを獲得したのではなく、引き継いだことになる。

どさくさに紛れて…というと語弊がありそうですが、もともと大きな器を持っていた人物ではなく、ポストが飛び込んできたことで、必死になってそのポストに合わせようと、無理を重ねてきた、とも解釈できる…

(A課長)
プーチン大統領は、ずっと劣等コンプレックスを持ち続けているのだと思います。私の飛躍した解釈を許していただくとして、そのコンプレックスから脱するためにやるべきことは「ソ連時代の版図を自分の力によって取り戻すことだ」、という幻想に支配されているのではないでしょうか?

Sさんはホロドモール(飢餓ジェノサイド)を語り始めます…

(Sさん)
なるほど…ウクライナはそのシンボルといえますね。キエフ公国以来の兄弟国家であり、むしろ弟であったロシアが増長して…近親憎悪がどうかはわかりませんが、歴史的にウクライナに対してとんでもない仕打ちを繰り返している。

特に1932年から33年に起きたホロドモール…人為的な大飢饉は、ウクライナの学校で学ぶ歴史として教科書にしっかり記述されていると想像します。
Wikipediaにはこうあります。

ホロドモールはソビエトの政策に抵抗したウクライナの農民に対するソビエト国家による攻撃の集大成であり、人工的・人為的な大飢饉であったとされている。ウクライナ飢饉、飢餓テロや飢餓ジェノサイド、スターリン飢饉などとも呼ばれる。

その被害者の数ですが、もちろん正確な数はわかっていません。たださまざまな推計が出されています。同じくWikipediaからの引用です。

1986年にイギリスの歴史学者ロバート・コンクエストは、1932~33年のウクライナにおける飢饉の死者数は500万人と推計した。これはウクライナ人口の18.8%、農村人口の約四分の一にあたる。

ホロドモールについてソ連は隠ぺいし続けていたので、1980年代になるまで「そのようなことが実際に起こった」ことを、世界は知る由もなかったのですね。

ゼレンスキー大統領が、ロシアの横暴に対してひるむことなく毅然とした態度で全世界に訴えることができるのも、その歴史認識によって「共に戦ってくれる!」と、国民を信じることができるからなのかもしれません。

ゼレンスキー大統領は国民を信じている…

(A課長)
ホロドモールは知りませんでした。Sさんがそんなに詳しいとは…

(Sさん)
ウクライナ侵攻の「なぜ?」が知りたくなって、結構本を読んでいます。歴史というのは何とも名状しがたい…

それからAさんの「ソ連時代の版図を自分の力で…」という言葉から、中国駐在時に感じたことを思い出しました。

私が中国に駐在していたのは2008年までの4年間なので、トップは胡錦涛です。習近平については、当時私の情報の範囲では認識できていませんでした。

その習近平国家主席が今、「中華民族の偉大な復興」というコンセプトを掲げています。私は“復興”という言葉から、清の康熙帝をイメージします。

清は満州族がつくった国なので、現代中国の95%を占める漢民族にとって、あまり肯定的ではないイメージです。それでも康熙帝だけは別で、「過去の皇帝で尊敬する人物は誰?」と訊くと、多くの中国人が康熙帝の名前を挙げます。私も中国人スタッフに訊きまくりました。ほぼ康熙帝でした。

(Aさん)
それはなぜですか?

満州族の康熙帝は漢民族からも深く尊敬されている大帝!?

(Sさん)
ここもWikipediaを引用します。

西洋文化を積極的に取り入れ、唐の太宗とともに、中国歴代最高の名君とされ、大帝とも称される。その事実は歴代皇帝の中で聖の文字を含む廟号がこの康熙帝と、宋と澶淵の盟を締結させた遼最盛期の皇帝聖宗の2人にしか与えられていないことからも窺える。

柔軟な価値観をもった皇帝でした。満州族でありながら、自ら漢族の文化を積極的に取り入れています。そしてこの康熙帝の時代に中国は最大版図を有するのですね。

私の想像ですが、その後の中国歴代の皇帝はこの最大版図のイメージが常に頭の中にあり、トップになると、とにかくこの版図を守る、奪還する、という意識が膨らみ、支配されてしまうのではないでしょうか?
もちろん台湾もその版図内です。

(A課長)
過去の亡霊…と言えるかもしれない。
時代は変わっていく。第一次世界大戦、第二次世界大戦…大戦後もベトナム戦争など、悲惨な戦争を経験しています。そこには憎しみあいの連鎖がありました。

ただ、ベトナムと米国がハノイ対話によって、共感には至らないものの、互いの価値観を認識し合ったように、過去に戻るのではなく、現在を起点に未来を考えていく、という努力をしている。

未来志向でありたい!

(Sさん)
まさに未来志向ですね。
中国のことを語ると止まらなくなってしまうので、今度は私が元に戻します(笑)

Aさんが改めてキプニスの実験を解説してくれたことで、権威に対する理解が深まりました。特に自ら獲得したのではなく与えられた権威の場合、その権威はどのように使われてしまうのか…
プーチン大統領の振る舞いを考える上で敷衍できると感じました。

ゼレンスキー大統領は、世界という視点では権威を有していません。
キプニスの実験によると、「……弱い権限しか有していない勢力者は、部下役を粘り強く説得し生産性を上げるよう努力します。……」とあるので、世界に向かって、まさに粘り強く訴えています。
実際に日本の私たちも心を動かされています。

コーチングの力は世界を変える!

(A課長)
コミュニケーションがもつ力をゼレンスキー大統領は信じていることが伝わってきます。「自分に意見する人間は排除する」、というプーチン大統領の感性と決定的に違うスタンスです。

私が学んだコーチングはコミュニケーションそのものです。大げさではなく世界中の人がコーチングを学ぶことで、自分と相手の価値観を相対化していくことができるようになり、戦争という究極の価値観の押しつけもなくなっていくのでは、と感じています。

またしても「世界系」の話をしてしまいました(笑)

(Sさん)
前回も質問しようと思って、なんとなく口をつぐんでしまったのですが、その「世界」に「系」をつけるというのは、大きな視点で捉える…という意味ですか?

(A課長)
いや、その… 実はオタクというかアニメから生まれた表現で「セカイ系」とカタカナを使います。これもWikipediaの力を借ります。

……セカイ系とは「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」であり、代表作として新海誠のアニメ『ほしのこえ』、高橋しんのマンガ『最終兵器彼女』、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』の3作を挙げ、肯定的な評価を与えた。……

(Sさん)
なるほど… Aさんのおかげでまた一つ勉強になりました(笑)

(A課長)
私のオタク性向がSさんによって引き出されていくようです(笑)
引き続きよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

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