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リーダーシップ理論の変遷(完結編)~サーバントリーダーシップとシェアードリーダーシップ~

責任者がひとりという状態が普及しているせいで、社会全体が重荷を背負う羽目になるだろう。リーダーシップよりも、支配力の方が優先されるからだ。若者たちは、頂点に立つために繰り広げられる不健全な奮闘を目の当たりにする。有能な人の頭の中に、有能とはボスになることだという概念ができる。そして、悪意ある狭量な地位争いを堂々と正当化するのだ。そんな争いをすれば誰もが腐ってしまうのに。(『サーバントリーダーシップ』より)

1on1ミーティングの進め方を、よくある「〇〇〇すればうまくいきますよ」という解説にとどめるのではなく、実際にはどのように進行していくのか… それがイメージできるように、「あるある!」が感じられる具体的なセッションを描いてきました。

心理学を学びコーチングの資格を持つA課長と、部長職を経験し定年を経て再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんとの、脱線あり、迫真の自己開示あり、ケミストリーありのセッションです。

今回のコラムは、大枠のテーマとして掲げた「リーダーシップ理論の変遷」の完結編として、進めてみようと思います。
さて、どんな展開となっていくのでしょうか…

前回の『ドライブ・マイ・カー』を振り返るアイスブレイクから1on1がスタートします…

(A課長)
前回の1on1で、Sさん流『ドライブ・マイ・カー』紐解き解説に触れて、少々驚きました。

(Sさん)
それはどういうことですか…?

(A課長)
Sさんと15回くらいでしょうか…1on1を続けてきて、映画の話は1回も出てこなかったので、Sさんが映画好きのツワモノであるとは、想像していなかったのですね。

(Sさん)
『ドライブ・マイ・カー』の舞台が広島だったので、興奮のあまり熱く語ってしまいました。映画論については、おそらく日本中の人が、それぞれ一家言をもって語れるのではないかと思いますよ。

(A課長)
そうかもしれませんね… 実は私も映画が大好きで、いろいろ話したい気持ちもあるのですが、どこかブレーキをかけてしまうところがあります。

(Sさん)
うん? それはどういうことですか?

(A課長)
Sさんにはお話ししますが、というか…Sさんだから告白することができるのですが、自分にはオタクの傾向があると自覚しています。映画の好みも偏っています。
前回庵野監督にふれましたが、「新世紀エヴァンゲリオン」が東京12チャンネルではじまったのが、確か小学4年生のときで、それを見てショックを受けました。
もうのめりこんじゃって…すべてビデオに録画し、台詞もほとんど憶えています。
劇場版も当然、映画館ですべて見ていますし…

(Sさん)
そうなんですか… 別に隠すほどのことでもないですよ。私の娘たちもエヴァは大好きですから。Aさんの世代はエヴァを語れない方が異端のような気がします…(笑)

(A課長)
いえ、エヴァはほんの入り口で…もっと深いところなので…

「人は見かけによらない」は大ウソ…!?

(Sさん)
いいですねぇ~ 
私は「人とは?」という根源的テーマに対して、確信をもっていることがあります。それは「人は見かけによらない」という言葉は、大ウソだということです。

(A課長)
……意味不明なのですが(笑)

(Sさん)
すみません、ヒネった解釈です。
この言葉の前提は、そもそも外づらというか、意識的か無意識的かは別にして、わかりやすく表れる振る舞いだけを見て、「この人って〇〇〇という性格なんだな…」と、キャラを勝手に決めつけています。
実際に多くの人がそのスタンスだからこそ、この言葉が共有されているということです。

(A課長)
なるほど… 心理学者のジョセフ・ルフト とハリ・インガムが発表した「ジョハリの窓」を連想しました。
自分の態度、性格に関して、「自分」と「他者」の視点の組み合わせを4つに分類して説明したのです。

「自分は自覚していて、そのところを他者も知っている」…これは「開放された窓」です。
「自分は自覚していないけど、他者はそのことを見抜いている」…「盲点の窓」です。
「自分は自覚しているが、それを他者に知られないように隠している」…「秘密の窓」
「自分も自覚していないし、他者も気づいていない」…「未知の窓」
という内容です。

ちなみに、ジョハリは、二人のファーストネームのジョセフとハリを合体した表現です。

(Sさん)
いや~ わかりやすいですね。
Aさんとお話しすると、すぐさま整理していただけるので、次の展開が楽になります。
心理学の知見もいただくことにして、つまり「人は見かけだけではわからない…」というのは当然で、「見かけと違う」とびっくりすることが、そもそもおかしい! ということを私は言いたいのですね。

バイアス・ヒューリスティック・経験則・速い思考と遅い思考……

(A課長)
実践派のSさんによって、人が陥りやすいバイアスについて気づかせてくれます。
ついでに理論的に補足させていただくと、行動経済学でノーベル経済学賞を獲得した心理学者のカーネマン教授は…
「普通の人であるヒューマンは、ヒューリスティックに基づいてあまり考えることなく判断してしまうことが多い」と説明しています。システム1として「速い思考」と呼んでいます。

ただ、じっくり考えて結論を導き出す、システム2の「遅い思考」ももっている、と補完してくれていますから、救われます。

ヒューリスティックとカタカナにしてしまいましたが、これは「経験則」をカッコよく言い換えた表現ですから、私もちょっとカッコつけてしまいました(笑)

(Sさん)
面白いですね~ オタクだと思っているAさんに対して、「みんな隠している部分があるんだし、人間ってそんなものだから、そもそも気にすることなんかないですよ」と、言いたかったのですが、心理学理論まで広がりましたね~

ただ、辺境の島国という特殊な環境である日本には、そもそもオタク化を育む風土があると思いますし、オタクという言葉も市民権を得ているんじゃないですか。

(A課長)
中学の時はまだマイナーというか、ニッチだったので、それを隠そうとする意識が、むしろ反動形成として違う自分を自己演出してしまい、それが固まってしまった、と自己分析しています。
カミングアウトするほどの大仰なことではないのですが、オタクである自分を自己否定しているところがあります。

コーチングの最終的な目的と言ってもいいかもしれませんが、自己基盤を確立する、ということがあります。要は「カッコつけないで自然体の自分を素直に表現できる」ということですが、Sさんにはそれを感じるんですね。
Sさんは個性的です(笑) その個性をSさんはご自分で楽しんでいる…

(Sさん)
ありがとうございます。素直に受けとめます(笑)
年の功でお話しさせていただくと…Aさんは36歳でしたっけ? まだまだ若いですよ。心理学とコーチングを学ばれ、その知識はすごいなぁ~と感じています。「頭の中はどんなになっているんだろう?」と頭を割って覗きたくなりますよ(笑)

私もまあまあ本を読んできましたが、Sさんにはかなわない… この年でAさんに嫉妬しているところもあります(笑)
ただ、そこに止まってしまうのもシャクなんで、Aさんがリーダーシップ理論の鑑のように語るグリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』を読んでみることにしました。

トップの座に就いてしまうと、部下から見て、扱いにくくなるときが出てくる…

(A課長)
そうなんですか! すごく嬉しいです。

(Sさん)
今日持ってきているので、響いた箇所を紹介させてください。

ピラミッドの頂点に立つただひとりの責任者になるということは、まともとは言えないし、堕落に陥りやすい。どんな人も自分ひとりでは完璧でいられない。まわりの同僚に助けられたり、間違いを直してもらったりすることが必要だ。

ピラミッドの頂点まで登りつめた人にはもはや同僚がいなくなり、部下がいるだけになる。どれほど率直で勇敢な部下でも、身分が同じ同僚と話すようには上司と話さないし、通常のコミュニケーションの型もゆがんでしまう。

これまで長い間、同僚に受け入れられていた人でも、トップの座に就いてしまうと、部下から見て、扱いにくく(穏やかな言い方をすればだが)なるときが出てくる。ピラミッド構造のせいで、非公式なつながりは弱まり、正直な反応やフィードバックを得るルートが遮断され、上司と部下という制限のある関係が作られるので、トップにいる人は<組織>全体にかなりの不利益をもたらすことになる。

グリーンリーフの目はリアルを洞察しています。

(A課長)
思い出しました… グリーンリーフは複眼で対象を見ています。

(Sさん)
続きを紹介します。

自己防衛的な全知全能のイメージは、このようにゆがんで、フィルターのかかったコミュニケーションからできていくことが多い。やがて、どんなリーダーでも判断がゆがめられてしまう。というのも、判断力とは、自由に反論や批判ができる他人とのやりとりの中で最も研ぎ澄まされていくものだからだ。

(A課長)
最後の「自由に反論や批判ができる他人とのやりとり…」がまさに肝中の肝です。本当にそうです。

「ひとりじゃないよ!」

(Sさん)
今回の1on1がおそらく「リーダーシップ理論の変遷」の最後というか、まさに今、そして未来に求められるリーダーシップを語ることになると思うのですが、これまでの理論を全部呑み込んで、そして私なりの見解を見出しています。

(A課長)
ぜひとも教えてください!

(Sさん)
それは、「ひとりじゃないよ!」ということですね。

(A課長)
……

(Sさん)
「三隅二不二のPM理論」を柔らかく否定し、その上で、対象者のスキル成熟度に応じてリーダーシップスタイルを変幻自在に変える必要性を説く、「ブランチャードのSL理論」をエレガントである! とSさんは、解説してくれました。
私は一応納得していますが、別のことも考えています。

(A課長)
それはどういうことですか?

(Sさん)
SL理論の説くリーダーシップも結局のところ、スーパーマン志向だと思うのですね。
部下はスキルの違いは当然のこと、性格そのものも多様です。それに合せて自分のリーダーシップスタイルをコロコロ変えていくことが果たして可能なのか… ということです。

「PMという唯一最善のリーダーシップスタイルを過剰に意識してしまうと、ビョーキになりそうですねぇ」、と以前の1on1で言いましたが、SLについても、「その場その場でリーダーシップスタイルを変えなければならない!」と自分に強いてしまうと、これまたビョーキになりそうです(笑)

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
「地球上の全ての人が、世界中の情報に簡単にアクセスできて、瞬時に知りたいことを知り得ることができる世界」というグーグルの設立目的…パーパスですが、それが現実のものとなっています。
以前のように、上司と部下の情報量の非対称性を利用して成り立っていたリーダーシップは、完全に過去のものだと思うのですね。
IT化がここまで進展してしまうと、「ひとりのリーダーが…」というのは、ありえないですね。

グリーンリーフが言う「自己防衛的な全知全能のイメージ…」は、まさに幻想であり、ここが行きついてしまうと、ロシアのプーチン大統領になってしまいます。

(A課長)
ウクライナ侵攻……

(Sさん)
世界にとっても、プーチン大統領自身にとっても最悪の悲劇です。

私はソニーを復活させた平井さんのことを、繰り返し話しますが、平井さんは自分の能力を等身大としてメタ認知し、出来ることできないことを峻別することができたリーダーだと感じています。
つまり、シェアードリーダーシップです!

(A課長)
シェアードリーダーシップ… 特定の提唱者はいませんが、今日だからこそ注目されているリーダーシップスタイルです。
これもグリーンリーフの洞察が背景にあります。

(Sさん)
私もそれを感じます。

(A課長)
『サーバントリーダーシップ』の最後に、この考えを広めるために設立されたNPO、グリーンリーフ・センターの前所長を勤めたラリー・スピアーズが、グリーンリーフの考えを「サーバントリーダーシップを実践するための10の気づき」としてまとめてくれています。

私は「コーチングのバリューでありプリンシプル」としても受けとめています。

<スピアーズによる「サーバントリーダー10の属性」>

1.傾聴 (Listening)
大事な人たちの望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。

2.共感 (Empathy)
傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。

3.癒し (Healing)
集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習することだ。欠けているもの、傷ついているところを見つけ、全体性 (wholeness) を探し求める。

4.気づき (Awareness)
一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づき (self-awareness) がサーバントリーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。

5.説得 (Persuasion)
職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他の人々を説得できる。

6.概念化 (Conceptualization)
大きな夢を見る (dream great dreams) 能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。

7.先見力、予見力 (Foresight)
概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。

8.執事役 (Stewardship)
エンパワーメントの著作でも有名なコンサルタントのピーター・ブロック (Peter Block) の著書の書名で知られているが、執事役とは、大切なものを任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。

9.人々の成長に関わる (Commitment to the growth of people)
人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在そのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。

10.コミュニティづくり (Building community)
人間の歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動の母体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。

坂本 樹志 (日向 薫)

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