「リーダーシップ理論の変遷」を大枠のテーマとして重ねてきた1on1ミーティングも前回で完結することができました。今回からは、新たなテーマを設定し展開することにします。
1on1ミーティングは対等の立場でコミュニケーションを交わしていくことが原理原則です。
ただ、人間関係に上下関係が存在することを理解していない3~4歳児ではなく、立派な大人同士で行われますから、普段の上司・部下としての振る舞いを引きずって実施されているのが一般的なのかもしれません。
Aさんは心理学を学びコーチングの資格をもつ若手課長であり、一方のSさんは、部長職として定年を迎え、再雇用の平社員としてA課長のチームに配属されています。
コーチングの3原則、「双方向」「個別対応」「現在進行形」とは?
A課長はコーチングの3原則である、
- 双方向 … 対等なパートナーシップの関係
- 個別対応 … 個性を尊重し合い上司が部下の個性をジャッジメントしない関係
- 現在進行形 … 継続することで時間と共に深まっていく関係
を、自らが実施する1on1ミーティングで実現しようと始めましたが、ビジネス経験が豊富な現実主義者、しかも直前まで部長職を歴任していたSさんの「大人の風情」にどこか違和感を覚え、数回の1on1を経て、自分の感情をコーチングのスキルも活用してSさんにフィードバックします。
Sさんも、A課長が真摯にコーチングの魅力を語るその態度に影響を受けつつあったタイミングであり、そのフィードバックに心が動かされ、“素の自分”の気持ちを自己開示します。
こうした二人の努力の甲斐あって、親と子供ほどに年が離れた二人にケミストリーが生じ、まさにコーチングの3原則が自然に流れていく1on1ミーティングが展開されるようになりました。
阿吽の呼吸、不立文字…といった言葉で関係性を語ることがありますが、もしそれが、両人そして客観視できる第三者ともに、真に実現されていると感じられる場合は、相性のよさはもちろんのことですが、それ以上に両者が真剣に努力を重ねてたどり着いた間柄なのではないでしょうか。
信頼感を共有する二人の新テーマ探索の1on1がスタートします!
さて、今回の1on1は、両者が新たなテーマを探すところからスタートします。さて、どんなケミストリーが生まれるのでしょうか?
(A課長)
おはようございます。
今日はSさんの提案で朝8時からの1on1ですが、そちらは晴れていますか?
(Sさん)
快晴ですよ。今日は3月5日の土曜日ですが、柔軟なシフト制のおかげで、本日、しかも私が最も頭が冴える時間帯に1on1を入れていただき感謝しています(笑)
(A課長)
Sさんは本当に朝早いですよね。今日も朝マックですか?
(Sさん)
そうなんですよ。今日も自然に5時に目が覚めてしまい、日経新聞を持って24時間営業のマックに行きました。新型コロナで2年前から始まったzoom中心の勤務体制もあって、何となく始めた朝マックですが、それがルーチン化してしまい、行かないと1日のリズムがどこかおかしいんですね(笑)
(A課長)
習慣化ですね。それによってストレスフリーになりますから、他者が「そんなに無理することないじゃない…」と感じる行為も、本人はまったく違っていて、むしろモチベーションアップになっていく…
「習慣化」とはクセであり、ストレスフリーな行動となる!
(Sさん)
その通りです。妻からは変な目で見られているのですが、Aさんは理論的な裏付けも含めて承認してくれるので、心理的安全性を得ることができます(笑)
(A課長)
実に今日的キーワードです(笑)
新型コロナウイルスによって、2年前ではまったく想像できなかった世界が現実のものとなりました。zoomのおかげで、移動のストレスなく、朝8時からこうやってミーティングができるのですから、私のようなタイプにはありがたいという実感です。
他方でコロナ前の在宅勤務は、特殊な勤務形態として一部の人が遠慮しつつ、ただし特殊だったので周りも協力的というか……これって面白い現象で、会社にとってもチームにとっても制度的優先度が低いため、テーマになっていなかった、ということだったのですね。
(Sさん)
それが当たり前に実施する勤務形態に突然なってしまった!
この2年間は世界が共有するてんやわんやの状況です。それまで聞いたことのないエッセンシャルワーカーという言葉が登場し、zoomで何とか対応できる仕事とは別に、リアルに動かなければ機能しない多くの重要業務がクローズアップされることになる。
(A課長)
本当にそうですね。
私の場合、妻もzoomでほぼ対応できますし、子供もいないのでお互いにこの環境を享受できています。産むかどうかについては…妻と繰り返し話し合っています。妻の年齢もありますから、留保できるのもあと1年くらいかと…
小さい子どもを抱えているご家庭は、保育園とかの休園もあって大変だろうなぁ、と想像しているので… とにかく悩ましいですね。
「表の顔」と「プライベートの姿」を使い分ける長女…!?
(Sさん)
確かに… 長女は大手企業の管理職ですが、その表の顔と5歳の娘を持つプライベートの姿を使い分けることに、実に苦労しています。
おじいちゃんとして孫と遊ぶことがサポートになると思って、私は孫と友だちになって愉しく遊んでいますが…(笑)
(A課長)
表の顔とプライベートの使い分け…すべての人が悩みながらも折り合いを付けようと日々悪戦苦闘しているのでは、と思いますね~
(Sさん)
長女の奮闘ぶりを見ながら、その長女の子育てに死に物狂いになっていた頃を私は思い出しています。3時間睡眠とミルク…手足の力が限界を超えても、立って抱っこして揺らすことを要求し続ける自然児たる幼子… 壮絶でした!
妻は、バルコニーから子供を放り投げる幻影まで見た、といいます。
その時の妻は「夫の帰りを待ちわびる妻」でした。その期間が1~2年くらいあったでしょうか? その後35年となりますが、「待ちわびる妻」の姿はどこへいってしまったのか…(笑)
(A課長)
なんとなくわかるような… (笑)
妻の預言通りになった男親であるSさんの子育て体験とは…?
(Sさん)
あいまいな表現でスミマセン。
私が会社から帰宅すると育児をバトンタッチします。
妻が「あなたも大変なのはわかるけど、男親はとにかく子育てに関与しておかないと、子供が成長すると相手にされなくなるわよ。苦労して育てたという実感が、あなたのなかで娘への愛情として育っていき、娘はそれによって理屈ではない父親への親密さ、自然な態度が形成されるのだから…」、と言うのです。
これは実に含蓄ある言葉でした(笑)
妻に対して自覚的に感謝することはほとんどないのですが、結果としてその通り…自分の口から言うのも何なのですが、娘たちとの今に続く関係を振り返ると、妻はまさに預言者でした。
(A課長)
以前の1on1でSさんが奥様との関係性について迫真の自己開示をされましたが、今回も奥様はSさんにとってのコーチであり、メンターだなぁ、と気づかされます。
(Sさん)
雑談になると口が軽くなって困ったものです(苦笑)
子供を持つかどうか…という判断は、新型コロナの脅威、さらにロシアのウクライナ侵攻… とにかく幸せな未来がなかなか見通せない今日、実に悩ましいテーマだと感じています。
私たち昭和の世代は、子供を産むということに関してAさんの世代が悩むような状況ではなかったのですね。今思えば、まだ社会が成熟していなかった、ということなのですが、価値観として選択肢が少ないので、悩みようがなかったとも言えますし、「知らぬが仏」ということだったのかもしれない…
正常なライフスタイルなど存在しない…!?
(A課長)
アドラーがライフスタイルをどう捉えているかを思い出しました。
私はアドラーのことをコーチングの父だとリスペクトしています。ライフスタイル…つまり価値観ですが、基本的に良い悪い、のジャッジメントをアドラーはしていません。
ただ、面白いことを言っています。
逆説的ですが「正常なライフスタイルなど存在しない」という立場で、「予期しなかったことが起こって“弱点”が表に出るまでは、どんなライフスタイルでも適切である」と言うのです。
(Sさん)
なるほど…さすがの捉え方だ。
(A課長)
Sさんが「知らぬが仏」と言ったので、「これってアドラーも言っている」と結び付けました。要は所属する文化に同化できており、かつその文化が外部に対して閉じた状態であっても、生存することについて…この言い方はちょっと原始的なので改めるとして…まあストレスをそれほど感じることなく生活できるのであれば「悩む必要がない」、ということです。
自己完結できるのであれば幸せです。
GAFAが我々にもたらした世界を変えたその本質的価値とは…
(Sさん)
ところが…と続きますね。私の方で引き受けます。
幸か不幸か…インターネットのポテンシャルを最大限引き出し、世界にひしめいている膨大な情報を瞬時に検索出来て、何でも知ることができるプラットフォームをつくったグーグルによって…
その実現を、スマホという手のひらに収まるガジェットとして実装化させ、世界中の人に生活必需品として最高の価値を共有させることに成功したアップルによって…
また、世界中の人が瞬時につながることを可能にしたフェイスブックによって…
さらに、世界中の商品をクリック一つで自分のところに届けてくれる、世界最大のアマゾンという会社によって…
…強大な力を持つ国家がどんなに頑張っても、閉じた価値観では自国民に心理的安全性を与えることが不可能になった今、その新しい世界を受容しないことには生存そのものが立ち行かなくなる、ということです。
(A課長)
一部の国のトップはその現実に抗っています。
プーチン大統領は大統領になって20年以上、世界中のリーダーと交流し続けていたので、その過程でスターリン時代の価値観から自由とは言わないまでも、相対化できる視点を持つことができているのではないか… と想像していました。
(Sさん)
それが…「実は希望的観測だった」というリアルですね。西側だけでなく中国も「まさか今、この状況で侵攻するとは…」と思ってもみなかった訳で、世界中が「共同幻想を抱いていた」ことを突きつけられました。
(A課長)
ユングは「すべての人間は善と悪を併せ持った存在である」と言っています。核を持つ超大国のトップに権限が集中してしまうことの恐怖が現実のものとなっています。
(Sさん)
今朝の日経新聞の13面の国際ページに、「プーチン氏、追い詰められると暴発?」という記事が掲載されています。「無差別攻撃判断に疑心」とあり、バイデン政権がプロファイリングを、つまり「精神状態の分析を最優先課題に位置づけていることがわかった」という内容です。
(A課長)
まだ読んでいないので… すごいことになっていますね。
本日の肝のテーマに話題が移ります…
(Sさん)
朝マックをしながら、今朝の日経新聞を隅から隅まで目を通しました。ウクライナ侵攻がもちろん圧倒的なウエイトです。そのなかで、異業種である大企業2社の提携が、1面、3面、14面で、それぞれが大きく取り上げられているのが目を引きました。
(A課長)
不祥事ではない企業トピックで3つの面はすごいですね。「それぞれが大きく」、というのも珍しい取り上げ方です。その大企業とは…?
(Sさん)
ソニーとホンダです。内容は…
- ソニー・ホンダ、EV提携~25年発売へ新会社設立
- EV、「ソフト×量産」で勝負
- 異業種の存在感示す~水平分業の流れ加速
- 次世代車開発では異業種提携が相次ぐ
ソニーについては「投資情報」の17面にも登場します。「ソニーG格上げ~ムーディーズ 10年ぶり“A格”に」とあります。
日経新聞としての記事コンセプトは「異業種」ですね。
(A課長)
Sさん得意のソニーウォッチャーぶりが伝わってきます。
ソニー吉田社長とホンダ三部社長が語る壮大なビジョンとは…?
(Sさん)
私は特に14面のソニー吉田社長とホンダの三部社長の記者会見コメントを熟読しました。
日本における提携や合併というと、そのほとんどが同業や関連業種であり、つまるところ体力の弱まった企業を呑み込んでいく規模の拡大が中心です。
鉄鋼など素材型の産業、そして流通業は終わることのない業態革新の連続で、栄枯盛衰に明け暮れています。「狭い日本は米国のように通販はそれほど広がらないよ…」と多くの識者が語っていた20年前に設立された楽天が、ここまで巨大化することを誰が予想したでしょうか?
だからこそ日経新聞は「異業種」、それが何と世界のソニーとホンダというビッグネームのカップリングということで、「これでもか!」というくらい「異業種」を前面に出した記事に仕立てています。
ホンダの三部社長のコメントにはトヨタは出てきません。ですが、トヨタという絶対的王者に呑み込まれそうな危機感と切迫感がひしひしと伝わってきます。ソニーとの提携は、「それでもトヨタに対抗してやる!」という決意であり、町工場からスタートし、共に日本より先に世界で認められた、志を共有できる友としてのタッグです。
ベンチャースピリットが両社には沸々と煮えたぎっているのを感じることができます。
(A課長)
Sさん、熱いですね~
(Sさん)
ソニーが絡むと、ついつい熱くなってしまいます(笑)
同業者同士の提携は、なかなか夢を感じることができません。今回の提携は、ソニー、ホンダの従業員もワクワクし、未来への展望を感じるビジョンとして受けとめていると想像します。
三部社長はこう語ります。
「25年販売を目指す車はできるだけ新会社を中心に、ホンダとソニーが強力に進める。その先はオープンな環境にしていきたい。ホンダとソニーで終わることを考えていない」
それを受けて、吉田社長が新会社の10年後の姿を、
「ソニーはモビリティの進化への貢献が目的だ。台数など具体的な目標は今後決めていく」と、共に自分たちの会社という枠を一気に飛び越えて、新しい価値を創造し社会全体に貢献したい! という大志がそこには込められています。
「新結合」そして「イノベーション!
(A課長)
まさにシュンペーターのいう「新結合」です。だからこそイノベーションなのですね。
(Sさん)
Aさん、次回の1on1は、新規事業開発をテーマにやってみませんか? 私も実際取り組んできました。1990年代に野中郁次郎さんや石井淳蔵さんが書いた『経営戦略論』をむさぼるように読んだことを今思い出しています。
野中郁次郎さんはそのときからのファンで、今日では経営学という範疇を忘れさせてくれる思想家だと認識しています。2020年に出版された『共感経営(日本経済新聞社)』には、まさに共感しています。
ソニーとホンダの新会社設立…おそらく小さな器からスタートするのでは…と想像しています。
企業、特に大企業がその組織の中で新規事業を起こし成功させるのは至難の業なのですね。だからこそ成功させるにはセオリー、そしてノウハウも必要です。そのあたりを語ってみたくなりました。
いかがでしようか?
(A課長)
ぜひともお願いします。
Sさんの実践も踏まえた熱い語りを鶴首して待機することにします!
坂本 樹志 (日向 薫)
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