
研修効果の蒸発現象
多くの企業で実施されている「管理職研修」や「リーダーシップ研修」。
しかし、その多くが現場に戻った瞬間に効果を失ってしまう――そんな課題を感じている人事担当者も多いのではないでしょうか。
研修時には受講者がうなずき、ワークでは盛り上がる。
ところが、翌週には元のマネジメントスタイルに戻っている。
なぜこのような研修効果の蒸発が起きるのでしょうか。
理由は明確です。それは、研修が「知識の理解」で終わり、「行動の変容」にまで至っていないからです。マネジャーがコーチとして成長するには、知る→やってみる→ふりかえる、という三段構えの学びをデザインする必要があります。単発の講義ではなく、体験と内省を繰り返しながら、時間をかけて習慣化させる――そこに行動変容の鍵があります。
三段構えの学びをデザインする
第一段階:「知る」――意識を変える
最初のステップは、マネジメントとコーチングの違いをまず理解することです。
「指示・管理」から「問い・支援」への転換を理論的に学び、ケーススタディを通してその意義を体感します。この段階では、「なぜコーチング的関わりが必要なのか」という納得感を醸成することが目的です。知識のインプットではなく、自分の現状への気づきが重要になります。
第二段階:「やってみる」――体験で学ぶ
次に必要なのは、実践です。ロールプレイやリアルケースを使って、実際に問いかけ・傾聴・承認を体験する。たとえば、部下が成果を出せないケースを題材に、「どう問いかけるか」「どのように沈黙を受け止めるか」を練習します。この段階では、上司としての癖が明らかになります。
ついアドバイスしてしまう、沈黙に耐えられない、すぐに結論を出したがる――。
その「自分の傾向」に気づくことが、変化の第一歩です。
第三段階:「ふりかえる」――内省で定着させる
そして最も重要なのが、実践の後のリフレクション(内省)です。
1on1の録音を振り返ったり、仲間と経験を共有したりしながら、「どの瞬間に相手が動いたか」「自分はどう在ったか」を検証します。
ここで初めて、行動の背景にある思考と感情が見えてきます。
リフレクションがあることで、マネジャーはスキルを「学んだこと」から「自分のもの」に変えていくのです。この三段階を循環させることで、マネジャーは管理する人から育てる人へと進化します。
研修のポイントは「知識習得」から「関係性変容」への転換
実際、あるメーカーでは、半年間のコーチング実践プログラムを導入しました。
講義→実践→内省を3サイクル回すことで、参加者の70%以上が「部下が自ら考えて動くようになった」と回答。エンゲージメント調査では「上司と話すのが楽しみ」と答える社員が倍増しました。ここに見られる変化は、「教え方」ではなく「在り方」が変わった結果です。
人事が研修を設計する際、目的を「知識習得」から「関係性変容」に置き換えることが重要です。知識は忘れても、体験は残ります。体験を通して気づいたことは、行動を変える力を持ちます。コーチングはその「体験学習の構造」を最も自然に組み込めるフレームです。これからのマネジャー研修は、教えるのではなく、気づかせる。単発の研修ではなく、継続的な実践の場にすることです。その転換をデザインできる人事こそ、組織の学びの未来を創るプロデューサーなのです。
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国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC)
日本エグゼクティブコーチ協会認定エグゼクティブコーチ
五十嵐 久
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