
国際政治学者の松本さんは、武器によらないバチカン外交は「見習うべき一つの姿であり、平和への途である」とみる。人権や人道を尊ぶ役割も期待されるだろう。この間、日本でも多くの人々がシステーナ礼拝堂の煙突を見つめた。ここから先、白煙とともに選ばれし人の言質と振る舞いに視線が集まるだろう。
(日本経済新聞5月10日1面「春秋」より)
新ローマ教皇に、バランス感覚のレオ14世が選ばれた!
5月10日の1面「春秋」を引用しています。「選ばれし人の言質」とありますが、日経新聞の同日11面では、選ばれし人であるレオ14世について、全面に近いスペースで、その人柄が語られます。ただ、サンピエトロ大聖堂のバルコニーで信者らに何を語ったのかについては、「あなた方全員に平和がありますように」、とだけしか触れていないので、その「言質」が知りたくなり、ネットでいろいろ検索してみました。その中で「BBB NEWSジャパン」の記事が目に止まったので、その一部を引用します。
「親愛なる兄弟姉妹の皆さん、これは復活されたキリストの最初のあいさつでした」と新教皇は続け、「私もまた、この平和のあいさつが皆さんの心に入り、皆さんの家庭やあらゆる人に届き、あらゆる場所のすべての民、すべての地に届くことを願います。皆さんに平和がありますように」と祝福した。
続けて、「神はすべての皆さんを愛しています」と告げ、前任の教皇フランシスコをたたえ、教皇フランシスコが生前最後に聖ペトロ広場に集まった信徒を祝福したように、自分も集まった人々を祝福したいのだと述べた。
新教皇はさらに、「人類は、神と神の愛にたどり着くための橋として、キリストを必要としています。皆さんもどうか手を貸してください。対話をもって、出会いを通して、互いに橋をかけましょう」と呼びかけた。
11面は、この「対話で橋をかけましょう」をキーワードとして語りを進めます。前日9日のTV報道も、この「橋をつなぐ」に期待を込めて、全ての局が(と言ってもよいと思います)、この言葉を紹介していました。トランプ大統領の「壁をつくる」とのコントラストが鮮明ですから、マスコミが「これだ!」と注目するのも合点至極ですね。
今回のコラムのテーマとして何をキーワードとして選定しようか…と考えるうちに、7面の「米エンタメ、関税が影」という大きなタイトルが目に止まりました。見出しは「トランプ氏、映画に100%表明~国外撮影対象なら打撃」です。「壁をつくる」ことに必死となっているトランプ大統領が、米国が世界から信頼されていた「根本」「本質」までも放棄しようとしているリアルが示されているからです。キーワードは決定です。
「ソフトパワー」です!
米国のソフトパワーからまずイメージされるのは、ハリウッドに代表される映画産業です。「関税」は米国内産業を保護するべく発動されていますから、輸出産業である映画産業にとってマイナスではない…と感じていましたが、そうではないことが7面の記事から伝わってきます。「ハリウッド映画の多くは監督や脚本、キャスティングは米国人が手がけ、シーンの大部分は海外で撮影している」、とあります。「iPhone」のパターンは、映画でもそうだったのか…と、気づかされました。
「外国撮影の映画」も対象となった場合、どのような事態が生じるのか……
ディズニーの映画事業は打撃となる。同社の人気シリーズ「アバター」などは世界中で撮影しており、関税はコスト高要因になる。
他の映画大手にも影響は及ぶ。ワーナー・ブラザーズの「ロード・オブ・ザ・リング」は、ニュージーランドの山々や草原を生かし、物語の世界観をつくり上げた。
トランプ大統領は「米国製造業の復活」を叫び(MAGAはこれで達成できる?)、最終製品(完成品)だけでなく、細々とした部品にまで関税の網を掛けようとしています。「ものづくり」を忘れてしまった米国に「ものづくりを取り戻したい」というのは、心情的には理解できるのですが、米国の産業構造のリアルを考えると、「何と偏った思念に囚われてしまっているのか…」と、感じてしまいます。2022年のGDP比は10.3%ですから(jp.gdfreak.com)。ちなみに日本の製造業のGDP比は20.2%です(同)。
いかに米国が「ものづくり」を、中国を中心に、世界に丸投げしてしまっているかかがデータによって示されています。ただそれが、映画というソフトコンテンツ(サービス業)までも、かなりのウエイトで海外に依存しているのは意外でした。ドメスティックなはずのソフトパワーも米国は海外に頼っている…
米国のソフトパワーを壊すことに邁進するトランプ大統領!?
日経新聞は、5月4日(日)の2面『直言 Think with NIKKEI』で、ジョセフ・ナイ ハーバード大名誉教授へのインタビューを掲載しています。タイトルは「ソフトパワー失う米国」です。見出しは2つ、「トランプ氏が壊した信頼」「対中国、日米に共通利害」です。
ただ驚いたのは、5月8日に同氏の訃報(5月6日逝去)がマスコミ各社から一斉に報じられたことです。5月4日の日経新聞には、ナイ氏の元気そうな写真が大きく掲載されています。立ち姿もキリリとして美しい。インタビューがどのタイミングで行われたのか、などの詳細について、日経新聞は明らかにしていないので、この「符合」についてはちょっと謎ですね。
インタビュアーの清水石珠実記者(ニューヨーク)は、「ソフトパワーとは何か、米国のソフトパワーの源泉は何か」と、最初に質問します。ナイ氏の答えは…
「パワー(権力)とは、他者を自分の望むように動かす能力のことだ。3つの種類がある。威嚇による強制、金銭的な報酬、そして魅力だ。ソフトパワーとは、他者を魅了することによって自分と同じように動かす力のことを指す」
「ソフトパワーを構成するのは、その国が持つ文化、国内社会の状況、そして政治政策や外交方針の3つだ。米国では伝統的に文化や政治、外交などの場面で、シビルソサエティー(市民社会)が大きな役割を果たしてきた。パワーの源泉は政府ではなく、大学や財団、非営利団体などにある。中国の伝統文化はとても魅力的だ。だが、共産党政権が市民社会を厳格に管理し、ソフトパワーが独立して発達する機会を奪っている。これが両国の大きな違いだ」
清水石さんは、最後に「インタビューから」で、ナイ氏との対話を次のように語っています。
ナイ氏は4月に死去したリチャード・アーミテージ元国務副長官と並ぶ知日派「ジャパン・ハンドラー」の重鎮だ。一貫して日米関係の強化に尽くしただけに、揺らぐ日米関係を深く危惧する。(中略)
今年も訪日して日米関係の会議に参加することを楽しみにしているという。米国のソフトパワーの源泉は政府ではなく市民社会だと分析する自らの理論を体現するような生き方だ。(ニューヨーク=清水石珠実)
辛抱強く待ってほしい……
清水石さんが、日本へのメッセージを求めたところ、「私が日本の友人たちに伝えたいのは、米国が困難な4年間を乗り越える間、辛抱強く待っていてほしいということだ」と、期待を込めた表情を浮かべたとのこと。
アジア太平洋戦争での完膚なき日本の敗戦は、80年前です。その後米国は、ハードパワーを相対化することに失敗し、信頼の失墜を招いた時代もありました。ベトナム戦争です。ザップ将軍は、ベトナム戦争を振り返り、次のように語っています。
もちろん、自由と独立のために闘ったベトナム人民の勝利であることは間違いありません。しかし同時に、ベトナム戦争に反対し平和を求めたアメリカの多くの人々の勝利でもあったのです。敗れたのは、ペンタゴンをはじめとして、戦争を好んで遂行した連中でした。
ベトナム戦争は、米国市民(シビル・ソサエティー)の反戦運動によって収束した戦争でもあるのです。米国のソフトパワーが機能したわけです。
80年間、この地球上の支配者をやり続けた米国は、疲労困憊してしまったのでしょう。「盛者必衰の理」です。ナイ氏は「4年間待ってほしい」と言葉にしていますが、トランプ後の米国が、もとの信頼を取り戻すのは…幻想かもしれませんね。
米国は疲労困憊している、だから日本は……
私は、4月30日に公開したコラムを思い返しています。オバマ・バイデン両政権で、米国のインド太平洋戦略を主導した重鎮、カート・キャンベル前米国務副長官に、本社コメンテーターの秋田浩之さんがインタビューした『直言 Think with NIKKEI』です。
そのコラムで私は、秋田さんによる「インタビューから」の最後の言葉を、まとめとして引用しました。
米国は深い分断を引きずり、すぐには身動きできない。その分、日本にもっと頑張ってほしい。彼のことばを意訳すれば、こんな苦渋の訴えになる。
世界のために、日本がほんとうに頑張るタイミングなのでは…と強く感じます。日本は、世界が受容できるすばらしいソフトパワーを、たくさん保有している。ただ、無意識の日本的感性(遠慮?)が作用しているためか、積極的に広めようとしていない…?
「ドラえもん」に、私は普遍化できる日本の思想を見出します。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、世界中の人に誇れる、日米合作の最高傑作です。
世界が日本に求めているのは…「世界のクライストになろう!」と、遠慮をかなぐり捨て、行動する姿なのかも…しれませんね。
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坂本 樹志 (日向 薫)
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