CBLコーチング情報局「コーチング大百科」より引用
- リーダーとフォロワーは相互関係であることをリーダーは明快に理解する
- メンバーに権限を与える、人生の主導権は一人ひとりが握っていると感じさせる
- 仕事の取り組み方、顧客への対応について裁量を与える
- メンバーが自分で判断できるような仕事のしくみ、体制をつくる
- 成功に必要なリソース(特に情報)を付与する
- 可能な限りルーティンの仕事を減らす。効率化重視のムードを高めていく
- ……
心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2024年11回目の1on1ミーティングです。
『君たちはどう生きるか』と『ゴジラ-1.0』がダブル受賞!
(Sさん)
Aさん、アカデミー賞を2作品が受賞した! これは間違いなく快挙です。
(A課長)
映画については一家言をもつSさんだから、今日のアイスブレイクは、そこから始まるのは100%想定内です(笑)
去年の8月にやった1on1で、Sさんは、『君たちはどう生きるか』についての独自解釈を私に披露してくれました。「宮崎駿さんの“贖罪”が『君たちはどう生きるか』に投影されている」、という言葉は強く印象に残っています。
テーマの中心は、2003年11月の、H2Aロケットの唯一の打ち上げ失敗と、昨年3月のH3初号機の失敗を取り上げ、「失敗は成功の一つの欠片に過ぎない」、でしたが、最後は、私が感動した『スーパーマリオブラザーズ・ムービー』との「推し合い」となった(笑)
(Sさん)
そうでしたね。好きなことを自由に語るのは、とにかく楽しい!
今回、視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』も、Aさんはすごく推していた。11月3日の初日に観ていたのには、ちょっと驚きました。推されたので、私も観ています。『シン・ゴジラ』は庵野監督の作家性が全面的に出ていて、それも良かったと思いますが、『-1.0』は、ヒューマンドラマをしっかり盛り込んだ、王道を行くストーリーです。それに、VFXが冴えわたって、実に重厚な「ゴジラ」が復活しました。ハリウッド版の“トカゲの化け物”とは大違いだ(笑)
(A課長)
Sさんの独自解釈と言ってしまいましたが、私も、「ゴジラ-1.0はカウンセリング+コーチングの映画である」と、言葉にしていますから、御相こです(笑)
(Sさん)
(笑い)… 映画話のアイスブレイクは、盛り上がってしまうのが常ですが、今日の1on1は、本テーマの「コーチング問答」が控えていますので、昨日の日経新聞を共有することで、切り上げましょうか。
3面と15面、そして38面で特集されていましたね。特に、15面の「ビジネス面」は、エグゼクティブコーチングとビジネスコーチングを考える上でとても参考になる。日経新聞らしく、事業戦略の視点で分析しています。
『ゴジラ-1.0』を取り上げる日経新聞は「気合」が入っている!
(A課長)
了解です、共有しましょう。
大見出しは…「ゴジラビジネス」完全覚醒…ですね。Sさんは、記事のどの部分に惹かれましたか?
(Sさん)
はい、小見出しが「東宝、商品化権買戻し…知名度抜群、追い風に」です。『シン・ゴジラ』が2016年に大ヒットしたことで、当時、東宝の国際担当取締役だった松岡宏泰社長が奔走して、買い戻しています。これで、展開の自由度を得た。
商品化権を持つことで様々なグッズ開発や世界各地の企業とのライセンス交渉、電子商取引(EC)サイトの構築といったマーケティングの知見を積み重ねた。
まさに、戦略的意思決定です。つまり、アカデミー賞受賞は、長期戦略を根幹に、さまざまな戦術を有機的に組み合わせていった“プロセス”の、一つの帰結だったわけです。
(A課長)
結果には必ず、背景と原因が存在する… 勉強になります。
あと山崎貴監督の、優秀な若手をその気にさせるリーダーシップが光っています。一昨日の日経新聞8面「核心」に、次のような記述がありました。大見出しは「Z世代の育て方改革」、小見出しは「タテ組織のOJTに限界」です。
「40代以上は一定の価値観で育っているが、Z世代の価値観は多様。人事面もどうマネジメントすればいいのか悶絶(もんぜつ)している」。20年も転職支援に取り組んできた人材会社のあるトップは今までにない世代、とみる。
『ゴジラ-1.0』は視覚効果賞です。ハリウッドとは、ケタの違う低予算のなかで、そのVFXを担っているのは、Z世代なんですね。
山崎監督が「うん、いいんじゃない…」と言っても、その彼は、「こんなレベルじゃあ、ハリウッドに太刀打ちできませんよ」、とクールなコメントを返しているようです(笑)
(Sさん)
“世界のタカシ”とタメ口でやりとりしているわけですね。その彼って誰ですか?
(A課長)
ええ、「白組」のエフェクトアーティスト・コンポジターの野島達司さんです。視覚効果賞は、山崎監督だけでなく、同じく「白組」のVFXディレクターの渋谷紀世子さん、3DCGディレクターの高橋正紀氏もノミネートされています。
山崎監督も「白組」の社員からキャリアをスタートさせているんです。
『ゴジラ-1.0』のVFXはZ世代の野島達司さんが担う!
(Sさん)
「白組」ですか? Wikipediaで調べてみよう…
なるほど…すごい会社だ。
(A課長)
「日本の総合映像制作プロダクション」とありますよね。どちらかというと「黒子」の会社でしたが、近年、存在感を増してきて、その一つの到達点が、アカデミー賞の「視覚効果賞」です。ハリウッド映画の場合、VFXに数百億円かけることも珍しくありませんが、『ゴジラ-1.0』のVFXの制作費は、15億円とも20億円とも言われています。
(Sさん)
エグゼクティブコーチでもあるAさんが、山崎監督、Z世代の野島さん、そして「白組」を取り上げた理由が理解できました。山崎監督と「白組」は、双方向だ。「白組」在籍時代から山崎さんは、さまざまなメンバーと共に、現在の「白組」に至るオープンな「組織環境」をつくり上げた。つまり、山崎流リーダーシップです。“ゴジラ愛”に育まれた「心理的安全性」が伝わってくる。
(A課長)
察していただき、ありがとうございます(笑)
(Sさん)
ただ「心理的安全性」という環境は、「人の心」に関わることだから、客観性とか数値で評価することが難しいですよね。
それをチャットGPTに訊いてみるのは“いかがなものか…”、とも感じますが、試しに、「『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞を受賞した白組の組織環境は、心理的安全性を有する環境だと理解していいですか?」、と質問してみましょうか…
はい、「白組」は第96回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』のVFXを担当しました。彼らは、高い映像技術と戦後の人間の心情を見事に組み合わせた作品を創り上げたと評価されています。また、白組は少ない予算の中で効率的に作業を進める環境を持っており、35人のスタッフがワンフロアで作業し、すぐに相談し修正できる体制が整っていることが、時短とコスト削減につながっているとされています。このような組織環境は、心理的安全性を有すると言えるでしょう。チームメンバーが自由に意見を交換し、協力して問題解決を図ることができる環境は、創造性や生産性の向上に寄与すると一般に考えられています。白組の成功は、そのような環境があったからこそ達成できたのではないでしょうか。
うん、間違っていない…かもしれない(笑)
アイスブレイクが少々長くなりました。ここからいよいよ、本題の「コーチング問答」ですね。
前回の1on1を振り返ると、AさんがCBLコーチング情報局のUS英語版である「Coaching Encyclopedia」を紹介してくれたので、内容が英語学習に変わりました。英語音痴を自認しているので、とても新鮮な時間を過ごすことができた、ありがとうございます。
(A課長)
いえ… きっかけはSさんですよ。日本語版の「プロコーチとしての自己基盤は、“あるがままの自分”でいること!」の、“あるがまま”が、英語版では“as you are”、と訳されているのをSさんが見つけてくれました。私も英語のニュアンスを再勉強できた。
もし、英語圏の人が私に、“Mr.A, as a professional coach, what are your thoughts on “Coaching Self Foundations?” と質問してきたら、“My answer is “as I am”. I can answer immediately.” と、答えます。Sさんとの1on1によって、英語圏の人と、“As a Japanese, I think of coaching that way.”といった思いを伝えながら、コーチングの対話ができそうな自信が少し生まれています(笑)
「あるがまま」は、「as you are」であり「as I am」
(Sさん)
ちょっと待ってください… その速さで英語を話されると、ついていけない。中国語だと、少しはいけそうですが(笑)
(A課長)
別の機会に、Sさんに中国を教えてもらおう(笑)
(Sさん)
ちょっと調子に乗りました。さび付いているのでティーチャーは無理です。ちなみに、日本語の「先生」は、中国語になると「老師」です。「ラオシー」と発音します(笑)
さて、今日は「リーダーシップ理論の変遷」の後半です。Sさんは、先々週の1on1の最後に、「カリスマ型リーダーシップ」と「変革型リーダーシップ」について、CBLコーチング情報局の「フォロワーシップとは?」をクリックして、次の箇所を紹介してくれました。
真のリーダーシップとは、双方が緊密な関わり合いを通じて、理想的な組織環境を生み出していくことなのです。ケリーの研究からも、コーチングの意義がしっかり伝わってくることが見て取れます。
(A課長)
ええ、リーダーシップというと、どうしても「リーダーの在り方」に視点が集まります。もちろん、それも重要ですが、コーチングの3原則にもある「双方向」の視点が、案外欠けているのですね。『ゴジラ-1.0』の完成度の高さは、双方向によるケミストリーによって実現したわけですから。
経営層や、マネージャーとのエグゼクティブコーチングを重ねていますが、「部下がなかなか育ってくれない」、「どうして自律的に動いてくれないのか?」、といった悩みの声を多く耳にします。
「心理的安全性」は「コーチングの3原則」によって実現する
(Sさん)
そうでしょうね… では早速ですが、そのようなクライアントを前にして、Aさんはどのようにコーチングセッションを展開していくんですか?
(A課長)
まさに、“早速”ですね(笑)
エグゼクティブ層は、日頃自分の本音を自由に言える環境がほとんどないので、「私はプロコーチという“人に関する専門職としての資格”を有しています。したがって、私には、どのようなことをおっしゃられてもかまいません。自由にお話しください」、と言葉にします。
このことは、折に触れてお伝えしています。
ですから、しばらくは傾聴ですね。クライアントのすべてを五感で受けとめることに留意します。
(Sさん)
なるほど… 「部下についての悩みを口にするクライアントが多い」、ということですが、その内容に傾向、というかパターンのようなものはありますか?
(A課長)
そうですね… 鎧を纏っているうちは、部下のプラス面とマイナス面を、バランスを伴って言葉にされるのですが、その鎧が外れていくと、プラス面が減ってきます。マイナス面を指摘する発言が増えてくるのですね。ここからがコーチングのスタートです。
(Sさん)
というと…?
(A課長)
ええ、先ほども言ったように「本音」が出てこないとコーチングになりません。「他者の面倒を見る」、「マネジメントしていく」、というのは、最も難易度の高い“シゴト”であると、つくづく感じます。「ヒトに関する悩みは数知れず」と言っていい。その悩みを「我慢」しているうちは、コーチングにならない。とにかくまず吐き出してほしい。
(Sさん)
ただ、ネガティブを口にし始めたら、自分に毒が回ってきませんか? 私も、時にイライラして、思わず部下に厳しい言葉を吐いていました。そうなると、その日は、どうもダメでしたね。
クライアントも、そうなってしまうのでは…?
(A課長)
重要なポイントだと思います。多くの経営者は修羅場をくぐってきていますから、「部下のマイナス面ばかりを指摘している自分を別の自分が見ている」ことに、心のどこかで感じているのではないでしょうか。無意識かもしれませんが…
私は、そのように捉えていますし、クライアントを信じています。
(Sさん)
う~ん、深いな…
(A課長)
「傾聴」の大切さは、そこに見出せると思います。多くの“普通の人”は、聞いているようで、聴いていません。相手もそれに気づきます。ですから、だんだん「この人に言っても無駄だ…」と、感じるようになって、「他所行き」の態度が表れてきます。そうなると「対話」にならないし、コーチングとは言えない。
プロコーチは「待つ」ことの大切さを知っている専門家です。
(Sさん)
ただ、鎧をなかなか外してくれないクライアントもいますよね。経営層は自分のやってきたことに対して「信念」を持っている人が多いですから…
経営者だからこそ、自分の纏っている鎧が脱げない!?
(A課長)
はい、コーチングは「質問」と「フィードバック」をしっかり組み合わせます。
経営層がクライアントの場合、私はフィードバックに比重をおきます。つまり、経営のトップともなれば、同僚はいないわけです。つまり全員が部下ですから、本当に知りたい情報ほど届けられない、と受けとめる必要があります。だからこそ、トップにはエグゼクティブコーチが必要なのです。
Sさん、「CBLコーチング情報局」のサイト内検索欄に「メタ思考」を入力していただけますか?
(Sさん)
了解です。ええっと…3つ出て来ました。
(Aさん)
その中の、「経営トップだからこそ『メタ思考』が求められる!」をクリックしてみてください。
(Sさん)
おっ、ビジュアルはピラミッドだ…
ピラミッドの頂点に立つただひとりの責任者になるということは、まともとは言えないし、堕落に陥りやすい。どんな人も自分ひとりでは完璧でいられない。まわりの同僚に助けられたり、間違いを直してもらったりすることが必要だ。
ピラミッドの頂点まで登りつめた人にはもはや同僚がいなくなり、部下がいるだけになる。どれほど率直で勇敢な部下でも、身分が同じ同僚と話すようには上司と話さないし、通常のコミュニケーションの型もゆがんでしまう。
グリーンリーフの言葉ですね。言い得て妙だ…
(A課長)
ですから、エグゼクティブコーチの責任は重いのです。経営層をクライアントとするエグゼクティブコーチングは、高額なフィーで契約されるのが通常です。修羅場をくぐってきた経営層との対話ですから、コーチ側にも「器」が求められます。
同じく「CBLコーチング情報局」の、「フィードバック」を検索してみましょう… 「プロとしての矜持が求められるスキル!」に、そのあたりのことが説明されています。
クライアントから真の信頼を得るためには、クライアントから伝わってくるさまざまな想い、感情に寄り添い、受けとめた上で、コーチが自身の直感に耳を傾け、自分の思いに正対できる強い意志が求められるのです。
自分が何を感じたのかを敏感に察知し、それを明確かつ簡潔に言語化する能力が備わっていることが、コーチングのプロコーチなのです。
(Sさん)
Aさん、今YouTubeにアップされている「アカデミー賞授賞式山崎監督スピーチ」を開いてみたのですが、Aさんは当然視ていますよね?
(A課長)
ええ、何度も視ています(笑)
(Sさん)
ですよね…(笑)
感動モノです。そして山崎監督の「明るさ」、「ポジティブさ」が伝ってくる。今日の1on1は「心理的安全性」が中心テーマになりましたが、山崎監督の「器」があってこそ、その環境が醸成されているのでは…と想像しています。
「心理的安全性」が醸成される環境には「エンパワーメント」が存在する!
(A課長)
「心理的安全性」の環境は、「エンパワーメント」されていないと実現しません。今日の最後に、「CBLコーチング情報局」にある、「エンパワーメント」の解説を共有しておきましょう。
(Sさん)
今日の1on1は「Z世代」が登場しました。Aさん、次回の1on1は、「モチベーション理論」をやってみませんか? 「Z世代に通用する理論は果たして存在するのか?」…とても興味が湧いてくるテーマです。いろいろ考えてみたい。
(A課長)
了解しました、やってみましょう!
エンパワーメントは、自律した社員が自らの力で仕事を進めていける環境をつくろうとする取り組みのことです。社員の中で眠っている能力を引き出し、最大限に活用することを目指します。
エンパワーメントは、トップの考え方を変えることから始まります。トップがこれまでのやり方や成功体験を超えて、柔軟な発想をもって取り組むことができるかが、鍵を握っています。管理者、社員の意識・行動が変わる源流を辿ると、そこにトップの姿が見出せるのです。
エンパワーメントとは、社員への単なる権限移譲ではありません。社員にはもともと知識や経験、意欲というパワーが存在します。エンパワーメントは、そのエネルギーを解き放ち、自らの意志で目標達成に向かっていく行動につなげていくことなのです。
坂本 樹志 (日向 薫)
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