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日本の俗称「ハゲタカ投資銀行」はネガティブリフレーミング、米国での名称は「ブティック銀行」~イオンの意思決定を思索する1on1ミーティングです!

デジタル戦略の共通化など、25日に同時に打ち出したスケールメリットの活用は、ロス氏の再生手法そのものだ。投資負担が予想される割にはイオンの株価が下げなかったのは、再生の担い手としての期待を反映している面もある。
水がコップの半分を満たしている光景を今こそ想像しよう。カネ余りのこれまでは、多くの経営者が「まだ半分残っている」と楽観的だった。今は「もう半分しか残っていない」と冷徹に準備すべきだ。イオンもいなげやも、そう考えて決断したに違いない。
(日本経済新聞5月6日5面Deep Insight~「コップ半分」しかない企業~より引用)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、2023年18回目の1on1ミーティングです。

「A課長は私のことを信頼している」と口にするSさん!

(Sさん)
前回もAさんの「小説解体新書」のような視点で1on1が展開されましたね。Aさんは、その題材として『乳と卵』を選びました。読まないと世界観が絶対伝わらない小説でした。私は『チコちゃんに叱られる』も視ていたので、関西弁の理解も深まりましたよ。

(A課長)
世界観と言われましたが、まさに自分の世界に入ってしまって… そのような1on1をやったあとは、必ず自省というか、反省してしまいます。自分の価値観を押し付けてしまったのではないか… と振り返るんです。

(Sさん)
Aさんに助け舟を出すわけではありませんが、“私だからこそ”そのようなテーマを選んで1on1をやってみようと、思われたと感じています。つまり、「虚心に共感してくれるだろう」という“私に対する信頼感”です。

(A課長)
ありがとうございます。自己肯定感が回復する“きっかけ”をいただきました(笑)

(Sさん)
いえいえ、自然体で話しています(笑)。 “きっかけ“を大切にする私は『乳と卵』を読みました。「緑子は、母親への切々たる愛情というか本音を日記に正直に綴る一方で、母親には一切口をきかずすべて筆談で、しかもそれは辛辣な表現であふれかえっています。アンビバレントです…」というAさんの解説に興味を覚え、それを体感してみようと思ったのです。

母娘喧嘩で子供が、「わたしは生んでくれと頼んだ覚えはない!」と叫んでしまうことがありますよね。それを川上さんは緑子が書く日記に仮託し、再現します。
日記は実に切ないというか、迫真の記述です。赤字を引いていますから、ちょっと読み上げます。

思わず「なんであたしを生んだん?」とはずみで言ってしまった!

お金のことでお母さんといいあいになって、なんであたしを生んだん、ってこと前にすごいケンカしたときにはずみでゆうてもうたことがあって、あたしはそれをよく思いだす。セリフ的にまずいなって思ったけど、いきおいで仕方なくて、お母さんは怒ってるねんけど、黙ってしまって、すごい後あじが悪かった。あたしはお母さんとはしばらくしゃべらんとこうかってかんがえてて、しゃべったらケンカになるし、またひどいことゆうてまうし、働いてばっかりでつかれてるの、それも半分、いや、全部、あたしのせいやって思ったら、厭厭厭ではやく大人になって一生懸命に働いてお金をあげたいけれど、今はそれができんから優しくぐらいしてあげたいけど、でもうまくできひん。

Aさんは読んでいるから、これくらいにしておきましょうか。

(A課長)
ああ… そこですね。巻子の境遇を妹の夏子が語っているので、読者は感情移入できる。ええっと… このあたりですね。

巻子の家計は母子家庭の補助もあることはあるが、そんなもの焼け石に水もええとこで、巻子は離婚した直後からスーパーの事務、工場のパート、レジ打ち梱包、などなどの仕事をしていたけれども、そんな賃金では生活はどうにもならんので、それに加えてホステスの仕事もするようになった。どちらかというと性格的には人見知り、かつ地味目な巻子ゆえに…

離婚して一人奮闘を迫られるワーキングマザーです。着実に増えていると言っては何ですが、離婚数の増加は顕著です。確か令和2年の国勢調査では、片親と子供だけの世帯は9%です。ググってみましょうか… そのうち母子世帯は86.8%ですね。

片親と子供だけの世帯は1割に…その圧倒的多数は母子家庭!

(Sさん)
リアルだ! 日本文化のジェンダーバイアスはかなりのものです。「日本国家の喫緊の課題は少子高齢化」と叫ばれていますが、性役割分業の価値観は、大多数の日本国民が「おかしい…」と口にしながら、巻子の状況は決して小説の世界だけではない。構造的な要因が複雑に絡み合って、そもそも結婚しない人が増えています。不可逆的といってもいい!

(A課長)
Sさん熱い! 私は不可逆的ではない世界をフューチャーペーシングしています。ただし現実はまさにリアルですね。
単身世帯の割合は実に4割に迫っています。もっともメジャーな世帯です。日本全体に重くのしかかる価値観に阻まれ、急激な変化にまったく追いついていない。「両親+子どもの世帯」はマイナーになりつつある。

(Sさん)
ものすごい変化です。でも日本全体がリフレーミングできない!

(A課長)
今日の1on1は、前回までの「小説解体新書」から、別の大きなテーマにシフトチェンジしませんか? Sさんは何か準備していると私のセンサーが反応しています(笑)

(Sさん)
気づかれましたか(笑)。実は6日土曜日の日本経済新聞に掲載された梶原誠本社コメンテーターのオピニオンに響いています。5面のDeep Insightで、タイトルは「“コップ半分”しかない企業」です。

(A課長)
ああ… イオンが取り上げられていましたね。

(Sさん)
私はAさんから紹介された「CBLコーチング情報局」を毎朝チェックしているのですが、梶原さんのオピニオンは「まだはもうなり、もうはまだなり」というリフレーミングがテーマです。そのことがいつだったかな… CBLコーチング情報局でもアップされていました。

(A課長)
ありましたね。サイトを開いてみましょうか? サイト内検索欄に「リフレーミング」と打ってみましょう… 6つ出てきました。最初の…「リフレーミング」のスキル~リフレーミングの種類とは?…だったと思います。

「もうはまだなり、まだはもうなり」はリフレーミングの至言!

リフレーミングの目的は、今までの考え方とは違った角度からアプローチしたり、視点を変えたり、焦点をずらしたり、解釈を変えたりして、誰もが潜在的に持っている能力を使って、生き方を改善していくことにあります。

同じ物事でも、人によって見方や感じ方が異なり、ある角度から見たら強みになり、また弱みにもなります。同じことを体験していても、人それぞれの価値観という枠組み(フレーム)で判断しますので、ある人にとって良い出来事でも、別の人にとっては最悪の出来事にもなります。

(Sさん)
Aさん、その次の例示が梶原コメンテーターの言いたい内容と符合しています。

「まだはもうなり、もうはまだなり」→「もう半分しかない」と「まだ半分ある」
「優柔不断」→「いろいろな観点を考慮して深く考えられる」
「意志が弱い」→「状況に応じて柔軟に対応できる」
「心配性」→「物事に慎重」
「物事に落ち着きがない」→「好奇心が旺盛」

梶原さんは、カネ余りの実態をコップの水が半分残っている状況に例えて、「まだ半分残っている」から「もう半分しか残っていない」と、リフレーミングすることが求められている、と訴えています。

(A課長)
リフレーミングは、コーチングのスキルとして極めて重要です。人が変われないのは、強固な価値観に囚われてしまっているからです。リフレーミングが自在にできるようになると、説明にあるように「生き方を改善していくこと」が可能になります。決して大げさではなく。アドラーは価値観をライフスタイルの視点でアプローチしています。ユニークな視点です。

「そもそも正常なライフスタイルなどはなく、予期しなかったことが起こって弱点が表に出るまでは、どんなライフスタイルでも適切である」

リフレーミングによって生き方も改善できる!?

(Sさん)
面白い! 逆境という変化が生じなければ楽しく過ごすことができる(笑)。でも環境は変化する…
日経新聞での梶原さんのトーンは、「米国の金融環境は急激かつ、大きな変化に見舞われている。『金融不安は収まるだろう』という見解は願望であり希望的観測だ」というシリアスな視点で、前段部をまとめています。

だからこそ、世界の市場関係者は、FRBが来週早々に公表する調査結果に身構える。米国内の銀行を対象に、3カ月ごとに融資姿勢を調べる「上級貸出担当者調査(SLOOS)」。3月のSVB破綻後に強まった貸し渋りの実態が、明らかになる。1月までの前回調査でも貸し渋りは強まっており、4月まで今回はさらに厳しい内容になる公算が大きい。

(A課長)
Sさん、今朝の日経新聞の1面は、まさにそれを裏付ける内容でした。
『米景気に3つの壁~「銀行は融資を厳格化」「細る家計の余剰貯蓄」「政府債務での駆け引き」』、と大きな見出しが躍っています。FRBが8日に発表した「銀行融資担当者調査」を受けて記事にしています。梶原さんの見通し通りでしたね。
リフレーミングには、ポジティブ、ネガティブの両面がありますが、この場合は「ネガティブの視点」ですね。

(Sさん)
ええ、でも中段部から梶原さんの筆致は転換するのです。

もっとも、逆境は米経済の底力を見せつけるだろう。歴史を振り返っても、企業破綻の増加とともに「再生請負人」の分厚い層が企業をよみがえらせてきた。
米株式市場はすでに期待を映している。債権者らと債権カットなどを交渉して破綻企業の再建を財務面から助言する「ハゲタカ投資銀行」の株高だ。この半年、同業務の大手エバコアの株価は、株式引き受けなどに強いゴールドマン・サックスを上回ってきた。

ポジティブリフレーミングに変化しました。そして後段部でイオンが登場します。

企業再生待ったなし。そんな後のない状況に追い込まれた日本の縮図が、4月25日の「いなげやショック」だ。米出資先の破綻という荒波を浴びたばかりのイオンが、今度は出資先のいなげやの子会社化に動く。発表を受け、いなげやの株価は50%以上急騰した。

梶原さんは、この再編には「二つの待ったなし」が背景にあると分析します。第一が「いなげやの救済」、第二が「限られた市場に群雄割拠するスーパーマーケットの糾合」です。
イオンの判断を時間軸で捉えた上で、「神風と逆風」で〆ています。変化を捉えるセンサーの起動はリフレーミングが鍵を握っていると梶原さんは訴えています。

両社は幸運だ。イオンがいなげやに出資して21年。再編に時間をかけられたのは、金融緩和やコロナ禍の巣ごもり需要という神風が吹いたからだ。神風は逆風に変わりつつある。巻き返しにかけられる時間は、刻々と消えていく。

イオンの企業哲学は「超長期戦略+フレキシビリティ」!?

(A課長)
ダイエー、セゾン、そしてマイカルなど、バブル景気によって一時代を築いた流通帝国は崩壊しました。リフレーミングの欠如です。視点を変える、焦点をずらす、解釈を変える… それができなかった。セブンアイホールディングスもコンビニ業態だけに頼る1本足打法ですよね。
それなのにイオンだけが、現在56万人の社員を擁する超巨大流通グループに成長しました。Sさんは以前の1on1で、その背景として、ジャスコ、そしてイオンのファウンダーである小嶋千鶴子さんの存在が精神的支柱となっているからだ、と指摘されましたね。ええっと… 去年の8月22日です。

(Sさん)
ええ、しっかり憶えています。
イオンというのは不思議な会社です。貪欲にM&Aを展開したというより、ホワイトナイトの風情を感じます。ガツガツしているというより、どこかゆるい…

(A課長)
ええ、Sさんはそのことを「組織スラック」で説明しています。ちょっと待ってください、メモっていますから…

…イオンの風土にはイトーヨーカ堂にはない“適度な組織スラック”の存在がイメージされてきました。30歳の頃、経営の本を読んでいて出会ったキーワードです。ただ、「理論としての組織スラック」は評価が定まっていないので、最近はあまり登場しない用語です。

私はビジネスツールのSlackを連想しました。意味そのものは知らなかったので、ネットでチェックしてみたんですね。「ゆるい、たるんだ、いいかげんな、怠慢で、のろい…」などが出て来たので笑ってしまいました。

(Sさん)
その時も“適度な”スラックと言っています。ネガティブではないポジティブリフレーミングです(笑)

(A課長)
私たちの世代で小嶋千鶴子さんのことを知る人は、流通業界に籍を置く人は別として、いないと思います。なのでWikipediaで調べています。柳井正さん、そして鈴木敏文さんがオマージュを捧げる人だったんですね。

ファーストリテイリング創業者の柳井正は大学卒業後に(合併で)発足したばかりのジャスコに入社し、当初は千鶴子に「うるさい人」という印象を抱きながらも、9か月後に自発的に退社する際千鶴子にだけ理由を書いた手紙を出した。後年千鶴子の著書などを読んでその考え方に共感し、訃報に接して「本当にすごい人だった」と評した。またセブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文は、ヨーカ堂(イトーヨーカドーの前身)に入社後、ジャスコから多店舗展開での組織のあり方を学ぼうとした際に千鶴子から指南を受け、「当時、同業他社の中で私が一番、小嶋さんと会っていた」と述べている。

小嶋千鶴子さんはポジティブなグレートマザー!

(Sさん)
巨大流通業での親族間承継は成功事例がほとんどないのですが、イオンは見事に成功させました。それについても小嶋千鶴子さんの偉大さが光ります。

イオンの初代社長は共同創業者である弟の卓也さんですが、息子である元也さんが45歳で二代目社長に就任します。会長であり父でもある卓也さんとの関係に悩んだ元也さんは、伯母である千鶴子さんに相談します。そのとき元也さんに放った言葉は強烈でした。でも関西弁の包容力を感じる(笑)

(A課長)
その言葉をSさんは、日経新聞に掲載された追想録から引用してくれましたね。

「当主はお前だ」。おいっ子の岡田元也氏が相談に来ると、こう告げた。45歳で社長に就いた元也氏は会長で父でもある卓也氏と経営方針で意見が分かれる場面もあった。自身の判断に迷うな、と元也氏の背中を押した。
若い元也氏が「次々にいろいろ起きて大変です」とこぼすと「次々起きるに決まっているやないか。大変ならやめたらええ。社長になりたいやつはいくらでもいる」と突き放した。

(Sさん)
私がこの追想録を紹介した際に、Aさんが思わず口にした言葉が印象に残っています。日頃あまりメモをとらない私も、思わず備忘録にしていました。

ユングが元型として捉えているグレートマザーを想起しています。コーチング視点で考えているのですが、言葉はハードですけれど、偉大な父親との関係性に葛藤というか、出口のない悩みだと思い込んだだろう元也氏は、グレートマザー千鶴子伯母の言葉によって、救われたと思います。“当主”ということばも元也氏の心に刺さったでしょうし、トップである自分の役割を相対化できたのではないでしょうか。小嶋千鶴子さんは、元也氏にとっての真のエグゼクティブコーチです!

(A課長)
言いました、言いました! グレートマザーのポジティブな側面です。その千鶴子伯母の言葉は、元也氏をリフレーミングさせるポジティブフィードバックです。気づきというか目が覚めたと思いますよ。

(Sさん)
今日の1on1テーマであるリフレーミングは、あらゆるところにつながっていく…
梶原コメンテーターのオピニオンは、リフレーミングを考える恰好の題材となったと思います。ただ一つ気になる表現があるんですね。ちょっと細かいのですが、今日の1on1の最後に、Aさんと共有したくなりました。
「エバコアがハゲタカ投資銀行の大手である」という箇所です。ハゲタカ・ファンドという言葉は見聞きしますが、それに「投資銀行」が付いているというのに違和感を覚えました。

(A課長)
なるほど…

「ハゲタカ投資銀行」は辺境の島国が生んだ俗称だった!

(Sさん)
ハゲタカ・ファンドは、もちろん日本語ではありません。vulture fundの直訳です。vultureはハゲタカですから、こういうネーミングを生み出す米国の金融業界は面白いと感じます。ですから「ハゲタカ投資銀行」も米国発だと思ったのですが、調べてみると英語表現には存在しないようです。つまり日本でつくられた俗称ですね。エバコアも知らなかったので、同じく調べてみると、「米国のブティック銀行」とありました。

(A課長)
ブティック銀行ですか? 初めて耳にします。ブティックってアパレルのショップで使われますが、そのブティックですか?

(Sさん)
ええ… ブティックはフランス語です。「小さな個性的ショップ」が語源です。銀行の場合も、特定分野に特化した業務を得意とする小規模な銀行です。vulture fundについても、米国でのニュアンスは決してネガティブではありません。梶原さんも書いているように「再生請負人」としてのステータスを米国社会が認めているのですね。

(A課長)
Sさんの言いたいことがだんだんわかって来ました。日本だと「ハゲタカ」が独り歩きしている感じですね。M&Aもどこかネガティブに捉えている向きもある。

(Sさん)
M&Aというと、敵対的買収など戦闘的なケースがマスコミを賑わすことがありますが、買収にしてもさまざまなタイプがあります。さらに、合併、会社分割、資本提携、業務提携、合弁会社設立など、M&Aの裾野は実に広大です。ですからマスコミにはぜひともポジティブリフレーミングをお願いしたい。新陳代謝こそ日本が活性化していくための必須条件ですから。

米国はダイナミズムあふれる国です。名称についても、そこにウイットが込められていることもある。vulture fundの捉え方もリフレーミングが必要だと私は感じています。

(A課長)
『乳と卵』からスタートした今日の1on1も無事着地できましたね(笑)。
最後は「ハゲタカ銀行」から「ブティック銀行」という、ポジティブリフレーミングを提言することで〆ることができました(笑)

(Sさん)
一人で考えていると、なかなかリフレーミングできませんが、1on1は実にすばらしい。対話のポテンシャルを実感できます。Aさん、引き続きケミストリーを起こしていきましょう!

坂本 樹志 (日向 薫)

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