69年に岡田屋など3社が合併しジャスコとなる。3社統一の登用試験で融和を進め、業界で「人事のジャスコ」と評判になる制度を整えた。「上が気に入った人間だけ昇格させれば派閥ができる」と周囲には真意を説明した。「会社を潰す気か!」。経営幹部にはカミナリを落とす激しさもあった。
(日本経済新聞8月19日 夕刊2面「追想録 小嶋千鶴子さん(イオン名誉顧問)」より引用)
今回の1on1は、心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を経て定年再雇用としてA課長のチームに配属されたSさんが、久しぶりに出社しての対面ミーティングです。
さて、Zoomとは違ったやりとりが展開されるのでしょうか?
リンネル、STORY、VERY、InRed…
(Sさん)
Aさん、お久しぶりです…というのも変な話ですが、対面ライブの1on1もちょっと新鮮ですね。
(A課長)
ホントですね。Zoomの場合は、お互いアップの顔だけを見ながら、ひたすら会話するという環境で、下半身はパジャマだったりが普通になってしまっています。まあ、楽と言えば楽なのですが…
(Sさん)
メリハリというのは必要だなぁ、と感じています。仕事も家となると、オンオフの切り替えも、ちょっと苦労しますしね。
(A課長)
今日久しぶりに会社に来て、実感したことがあります。商品企画部なので当たりまえですが、リンネル、STORY、VERY、InRed… 女性ファッション誌の主だったものなら何でもありますし、グループ企業は尖がった男性メークも出しているので、男性ファッション誌もそろっています。情報に接しておくためには、やはり会社の環境ですね。
(Sさん)
昔の話をするようで恐縮ですが(笑) Aさんがリンネルから始まる雑誌の種類に時代の変化を感じています。私が商品企画のときは、さすがに、アンノン族のan・an、non-noの時期は過ぎていましたが、with、MOREの全盛時代です。LEE、Rayあたりの広告効果も高かったですね。
ファッション誌のトレンドをたどっていくとその時代が浮かび上がってきます。withは今年の5月号で定期刊行が終了しました。
アンノン族からwith、MORE、そしてLEE、Rayへ… 中国は?
(A課長)
化粧品業界の歴史はSさんにかなう人はいない(笑) リンネルは化粧品の扱いは少ないのですが、世界観は勉強になります。メークというよりスキンケアのコンセプトを考える上で参考にしています。
(Sさん)
中国に駐在した2005年からの数年を思い出しています。今はどうか知りませんが、日系の雑誌ではRayの独壇場でした。中国ではルイリー、瑞麗と書きます。
(A課長)
その頃からなんですか… 海外事業部が瑞麗の広告費が高いので嘆いていました。日本でも20代ターゲットの雑誌ではまずまずの位置につけています。ただ編集は「カワイイ系」なので、国内事業では広告掲載の優先度は低いですね。
(Sさん)
多くの雑誌がネットで見られるようになって、雑誌は冬の時代を迎えているとも言われますが、会社でこうやってページをめくっていくと、やっぱりいいですね。紙の風合いも悪くない。もっとも、ビジュアルの質を問わない文字だらけの週刊新潮、文春などは、楽天マガジンでしか読まなくなりました。長女に「サブスクで1000以上の雑誌が月330円で読み放題よ。パパは週刊新潮とか毎週買っているけど、バカバカしくない?」と言われて、そんなバカな(笑)… と思いチェックしてみたのですね。ホントなので驚いています。
(A課長)
私はまだ加入していませんが、そんなに安いんですか?
(Sさん)
サイトを出しますね… おっ、キャンペーンで月165円だ。ただ今日までになっている。
(A課長)
わかりました。早速申し込んでみます。
(Sさん)
長女から薦められなかったら、週刊新潮など週刊誌系はコンビニで買い続けていました。着実に世の中は変わっている…
日経MJは流通業態の動向に関する情報の宝庫!
(A課長)
知るか知らないかで、人生は変わってきます(笑)
Sさん、午前中時間が空いたので、紙の日経MJをしっかり読んでみました。日経本紙は電子版でチェックするクセはついているのですが、MJは自分の中の優先度が低いので、ほとんで見ていませんでした。
それが意識を変えて読むと…面白いですねぇ~ 特に8月17日は「21年度コンビニ調査」で、特集が組まれています。コンビニの今を俯瞰できる内容です。
(Sさん)
MJに名称が変わる前の日経流通新聞のころは、業務直結なのでよく読んでいましたが、中国に異動してからはご無沙汰です。
ええっと… コロナ前の19年度比でみると売上高は3.9%減となっていますね。20年度比では2.1%増ですが、コンビニ業態も頭打ちといえるかもしれません。
大手3社の合計売上高は10兆5999億円で、コンビニ全体に占めるシェアは93.3%… 3社の寡占が極まってきましたね。セブンが4兆9527億円で店舗数は2万1327店、ファミマは3兆297億円で1万6569店、ローソン2兆6174億円の1万4656店…
(A課長)
8月8日の1on1で、セブン&アイ・ホールディングスの有価証券報告書を調べているので、ファミマとローソンもチェックして比較表を作ってみましょうか。少し時間をください…
出来ました。
有報の場合、セブンはホールディングスとして開示されるので、国内コンビニのセグメントになります。メドとして比較できると思います。
王者セブンイレブンの営業利益率は群を抜いている!
(Sさん)
営業総収入は、各店舗オーナーであるフランチャイジーからのロイヤリティの合算ですね。直営店も含まれますが割合は低い。コンビニの場合、飲食サービス業態などと比べてロイヤリティは高額です。
コンビニのロイヤリティは、粗利益配分方式が中心です。店舗スタッフの人件費は、ロイヤリティを支払ったその残りから捻出しなければならないので、採用難と併せてパート人件費の高騰は、コンビニオーナーにとって、最大の経営課題といえるかもしれません。賃上げの流れは時代の要請です。
ロイヤリティを支払うのは、そのチェーンに加盟すると、個人営業では得難いノウハウによって儲かる可能性が高くなるからです。コンビニ本部は継続的なシステム投資、商品開発力などによって、高度なノウハウを提供し続けています。コンビニ業態は、現在10兆円を超える巨大な市場に拡大しました。
まさに「フランチャイズシステムとしての最高レベルのビジネスモデル」と言えます。
(A課長)
ただし… 日経MJの記事のトーンは辛口ですね。タイトルは「戻るのか コロナ前に」です。見出しに「PB・無印… 来店動機に腐心」とあり、ファミマは新たなPB「ファミマル」の立ち上げ、セブンはPBの「セブンプレミアム」のてこ入れ、ローソンは店内調理した総菜の提供と「無印良品」の取り扱い拡大、などが書かれています。
(Sさん)
ファミマオリジナルの「ラインソックス」を取り上げていますね。コンビニのソックスが大ヒットする、というのは意外性があってキャッチ―だ。
ファミマのソックスはコンビニ業態の可能性を飛躍的に高めた!
(A課長)
今ググってみました。700万足売れているようですよ。「キムタクが履いているグリーンとブルーのラインが入ったソックスはファミマのソックスだった」、ということで、SNSで一気に広がったとも書かれています。
(Sさん)
人は欲しいものはすぐ手にいれたくなるので、中食などの最寄品だけでなく買回品も近くのコンビニで買えるとなると… ファミマの場合1万5000店以上あるから、それはすごいことになる。ファミマの親会社はテキスタイルに圧倒的な強みを持つ伊藤忠なので、仕掛けたのかどうかわかりませんが、なんだか納得です。
コンビニに目的を持ってソックスを買いに行く…という行動はかつてなかったと思います。
(A課長)
今気づきました。記事の最初はセブンではなくファミマですよね。新ネタというか、ファミマやローソンと比べて、取り上げたい内容に乏しかったのか、セブンに対する記者の熱量がちょっと低い感じがします。
(Sさん)
ローソンが無印良品、というのも私としては新鮮です。無印良品はセゾングループの堤清二さんのコンセプトを体現した、もともとは「ノーブランド商品」を志向しています。つまり「ブランドという実体のないものに価値がつくのはいかがなものか? ブランドを感じさせないシンプルな商品を開発する」という発想でした。私は青山通りにオープンした1983年の1号店以来のファンです。
面白いもので、ブランドの否定によって「画期的なブランド」のイメージが付与されます。ネーミングも秀逸です。結果的に、他社の模倣を拒絶する差異化されたブランドとして確立します。“生成り”というか、ナチュラルなテイストを体現する世界観によって、MUJIは現在、SPA業態ではUNIQLOと並ぶ日本発の世界ブランドです。
SPAは、speciality store retailer of private label apparelのことで製造直売小売業と訳されます。もともとはアパレルなので、ユニクロはそのままの業態です。無印良品は、食品、雑貨、家具… そして住宅まで作っていますから、あらゆる商材をMUJIのコンセプトで貫く、総合型SPAです。
UNIQLOとMUJIはSPA業態の世界ブランド!
その無印良品は、セゾングループ解体の過程で切り離され、ファミマの棚からもいつの間にか消えてしまいました。そしてローソンに置かれるようになる…
ファミマはセゾングループによる、米国から輸入のセブンやローソンとは異なる、日本オリジナルのコンビニです。これもセゾンの解体によって切り離され、さきほども言ったように、現在の親会社は伊藤忠です。絶対王者のセブンイレブンを脅かす存在になりつつあります。
(A課長)
ローソンは確かダイエーでしたね。ダイエー解体によって今では三菱商事の子会社です。ファミマもローソンも優良子会社として、総合商社は戦略投資の姿勢です。
(Sさん)
私は判官贔屓の傾向があるので「セブンにちょっと厳しいかも…」、と感じています。
24時間営業を墨守するセブンのかたくなな姿勢が、オーナーとの契約を巡って世間を騒がせました。コンビニオーナーは基本的に独立事業主であり、セブンの社員ではありません。パートナーです。「顧客第一主義」をドグマにまで高めてきたセブンの中央集権的なマネジメントが、「人の時代」を迎えて、どこかズレが生じてきているように感じます。人であるパートナーへの目くばせよりも、ルールに縛られてしまう倒錯に陥っているのでは… といった印象です。
儲かる仕組みを構築した「セブンイレブンのシステムオペレーションは芸術レベル」であると、以前お話ししました。「いずれは倒産するしかない…」と暗い見通ししか描けない個人商店主に希望をもたらし、業態転換を促してきました。その結果としての業界10兆円です。多くの中小企業を救ってきたことも事実です。
でも、ここにきて制度疲労を起こしてしまっている…
セブンイレブンのオペレーションには“無駄”が存在しない…?
(A課長)
Sさんの視点に共感します。セブンは儲かっている分、オペレーションというかオーナーの自由度が他のコンビニより厳しいのかもしれない。
(Sさん)
Aさん、大手3社の次のコンビニ… 私は4位のミニストップが気になってしょうがないのですね。自宅から最も近いコンビニがミニストップなので、ロイヤルユーザーを自負します。8月12日から発売されているアップルマンゴーパフェを、昨日も孫と一緒にイートインコーナーで食べています。400円くらいしたと思うのですが、おいしいですよ。
(A課長)
ミニストップは本牧にはないので縁がないなぁ~ セブンは複数あるのでお世話になっていますが…(笑)
ミニストップの全店舗の売り上げは… 2929億円、1959店舗ですね。 4位と言っても上位3社とは圧倒的な格差だ。Sさん、正直なところ私の意識の中にミニストップは存在していませんでした。
(Sさん)
Aさん、前回の1on1で私は「イオンがどのようなプロセスを経て現在の超巨大グループとなったのか、別の機会にお話ししたい…」と言っています。
(A課長)
ええ… そうでした。それが何か関係あるのでしょうか?
(Sさん)
ミニストップはイオンの連結子会社です。
(A課長)
ええっ、またしてもイオンですか… 知らなかった。
(Sさん)
今日はホームセンターとディスカウントストアの業態変遷をテーマにするつもりで準備していたのですが、8月19日に小嶋千鶴子さんの追想録が日経夕刊にあったので、ホットなところでテーマを変更してよろしいですか?
(A課長)
ええ… 小嶋千鶴子さん…ですか?
(Sさん)
イオンの前身であるジャスコの創業者です。ソニーでいえば井深さんであり盛田さんです。イオンについては共同創業者という位置づけです。
夕刊を切り取ってもってきたので見てくれますか? この箇所に響いています。
「教育は最大の福祉」「不正には峻、失敗には寛」と繰り返した。卓也氏は偲ぶ会の冊子に、この言葉を「イオンの重要なDNA」と記した。
71年の入社面接で会い、一時社員であったファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は「凛(りん)とした女性で強い雰囲気があった」と語る。
小嶋千鶴子さんはジャスコ、イオンのファウンダー!
(A課長)
まったく知りませんでした。素晴らしい方だったのですね… 柳井さんがジャスコを経ていたとは… これも驚きです。
(Sさん)
今年の5月に106歳で逝去されました。卓也氏というのは、イオングループの名誉会長で千鶴子さんの弟です。岡田卓也さんの言葉として最も有名なのが、「狸や狐の出る場所に出店せよ」です。郊外型の大型ショッピングセンターの開発はこの言葉が原点です。
私はイオンがすごいなぁ、と思うのは親族間の事業承継の素晴らしさです。創業者が偉大過ぎると、次を継ぐ息子や娘は苦労しますし、多くはつぶれてしまいます。
記事を書かれた浅山亮さんの筆のスタートに私はしびれました。
「当主はお前だ」。おいっ子の岡田元也氏が相談に来ると、こう告げた。45歳で社長に就いた元也氏は会長で父でもある卓也氏と経営方針で意見が分かれる場面もあった。自身の判断に迷うな、と元也氏の背中を押した。
若い元也氏が「次々にいろいろ起きて大変です」とこぼすと「次々起きるに決まっているやないか。大変ならやめたらええ。社長になりたいやつはいくらでもいる」と突き放した。
当主は会長ではなく社長だ!
(A課長)
う~ん、私もしびれます。
ユングが元型として捉えているグレートマザーを想起しています。コーチング視点で考えているのですが、言葉はハードですけれど、偉大な父親との関係性に葛藤というか、出口のない悩みだと思い込んだだろう元也氏は、グレートマザー千鶴子伯母の言葉によって、救われたと思います。“当主”ということばも元也氏の心に刺さったでしょうし、トップである自分の役割を相対化できたのではないでしょうか。
小嶋千鶴子さんは、元也氏にとっての真のエグゼクティブコーチです!
(Sさん)
「社長になりたいやつはいくらでもいる」は、ウルトラ級の真実です。私はトップにとって最重要な心性は「責任感」だと感じています。テクニカルな能力や論理的思考とかは、部下で優秀な人はいるので、言葉を超えて「責任は私が持つ」と彼らに伝えることが出来れば、部下は喜んでサポートしてくれます。
ただ、その責任感を過剰に意識し、はき違えると…「自分しかいない、会社のことを知り尽くしているのは自分だけだ。私に替わる人材はいない」と、自らを追い込み、承継も企業の存続もアウトにしてしまうトップが実に多いですよね。
話しながら、イオンの風土にはイトーヨーカ堂にはない“適度な組織スラック”の存在がイメージされてきました。30歳の頃、経営の本を読んでいて出会ったキーワードです。ただ、「理論としての組織スラック」は評価が定まっていないので、最近はあまり登場しない用語です。
(A課長)
slackですか… ネットで調べてみます。意味は「ゆるい、たるんだ、いいかげんな、怠慢で、のろい…」、いや~ ネガティブな訳が続きます。
イオンが56万人の社員を抱えるのは“適度な組織スラック”が機能しているから…かもしれない。
(Sさん)
私は組織スラック肯定派です。ただし匙加減は難しい。ですので“適度な”を付けることにしています。レジリエンスはこういう“余裕”がないと、いざというとき発揮できないと思うのですね。
イオンがここまで大きくなっていったのは、この組織スラックが機能したからだと私は解釈しています。
イオンについては、今後もさまざま語りたくなりました。そろそろ時間だと思うので、今日は、wikipediaに“イオンの変化対応力…柔軟さ”が伝わってくる記述があるので紹介させてください。
1980年代までは『連邦制経営』を標榜し、提携先とは比較的少額の資本提携のレベルにとどめて、実際の運営は各社の自主的判断に任せる形式をとっていたが、バブル崩壊以降は中央集権的なトップマネジメントの強化へと方針の転換がおこなわれた。1990年代後半以降は積極的なM&Aと自社PBの拡大を前面に押し出す政策を取っていたが、画一的な売り場政策が顧客の支持を得られなくなったこともあり、2014年以降は再び地域密着と地域や現場への権限移譲を柱とする地方分権的な運営方針へと再転換している。
もともとは「連邦経営」なので、イトーヨーカ堂と違って、中央集権的なマネジメントは得意じゃなかったように感じます。
8月18日の日経新聞の『埼玉首都圏経済 点描』に「イオンが担う行政サービス」という記事が掲載されていました。千葉県旭市に4月にオープンした「イオンタウン旭」の2階に、「市がつくった公共施設の指定管理者として、単なる受託運営にとどまらずに市民の自己実現を手助けし、地域の活力づくりに一役買う」、という内容です。
(A課長)
民間のイオンが公共サービスを担う…ということですか? 世の中も変わってきましたね。
(Sさん)
イオンについては、自治体とのコラボレーションであるスケールの大きな計画が発表されています。次回はこの内容に触れてみようと思います。
(A課長)
いろいろ興味が湧いてきました。次回もよろしくお願いします。
坂本 樹志 (日向 薫)
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