“コーチングは怪しい”という記事や投稿をよく目にし、耳にします。
コーチングは怪しいと思っている、あるいは怪しいと言っている人の声を聞いてみると、だいたい次のような理由からのようです。
「そもそもコーチングが何なのかがよく分からない」
「洗脳される自己啓発セミナーと同じイメージがある」
「コントロールされるイメージがある」
「スピリチュアルのようなことを言われた」
「コーチングを受けてみたけど、役に立たなかった」
「話を聴いてもらっているだけなら、自分でできる」
「自分にコーチなど必要ない」
一つずつ見ていきましょう。
そもそもコーチングが何なのかがよく分からない。
まず「そもそもコーチングが何なのかがよく分からない」という声です。
他の疑問にも通じるところではありますが、コーチングは目に見えない、形のないものを扱っていますので、分かりにくいということをよく言われます。
コーチという言葉が最初に登場したのは1500年代と言われています。
その本来の意味は「馬車」です。馬車に乗る人を目的地まで送り届けるというところからきています。
ここからコーチは、対象者を目的地まで送り届ける人と言われます。
コーチというとスポーツのコーチをイメージする方が多いですが、スポーツの世界では、1800年代にボート競技の指導者を「コーチ」と呼ぶようになり、その後、他のスポーツに広がったと言われています。
ビジネスの世界では、1980年代の後半頃からアメリカの企業内研修担当者やコンサルタントなどが様々なプログラムに採用するようになり、1990年代にはプロフェッショナルのコーチが登場するようになりました。
アメリカではコーチングがとても普及していて、トップ企業経営者の7割がコーチを雇っていると言われています。
日本にコーチングが導入されるようになったのは、1998年頃です。
日本でのコーチングの歴史はまだ浅いので、誤解している人も多いですが、これから日本でも益々コーチングの需要は増えていくことが見込まれています。
コーチングの定義についても、いろいろなコーチが様々な言い方をしていますので、余計にわかりにくくなっているのが現状です。
今、世界で最もスタンダードな基準とされている国際コーチング連盟ではコーチングを次のように定義しています。
国際コーチング連盟の定義
「コーチング」- 思考を刺激し続ける想像的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くこと。
“Coaching” – partnering with clients in a thought-provoking and creative process that inspires them to maximize their personal and professional potential.
コーチングは、クライアントが話したいテーマに沿って話を進めます。
コーチはクライアントが話すことをしっかりと聴き、質問するということを繰り返します。
この対話のプロセスを通じて、クライアントは、自分の中にあるリソース(知識・経験・人脈などのこれまで培ってきたもの)や、リソースとさえ思っていなかったもの、さらに全く忘れてしまっていたものまで意識するようになります。
その結果、クライアントは新たな気づきを得て、自信とやる気が高まり、より高い目標にチャレンジする意欲が湧いてきます。
また自分の本来のありたい姿が明確になって、とるべき行動も具体化し、目標達成に向けてのスピードが加速します。
もしコーチによるサポートがなかったとしたら、クライアントは自分自身で気づくのに時間がかかり、もしかしたら気づかずに終わってしまうこともあるかもしれません。
なぜ、このような気づきが起こるのでしょうか?
あなたは誰かと話をしていて、ふと気づくことがありませんか?
私たちが誰かに話をするということは、自分が思っていることを相手に話すだけでなく、自分の考えに気づくきっかけにもなります。
私たちは人と会話をしてアウトプットすることで、自分の考えやアイディアを認識することができます。
人に話すということは、自分の声を自分の耳で聴いているということでもあります。
このことを「オートクライン」といいます。
コーチングの本質は、このオートクラインを起こすことにあるとも言えます。
コーチとクライアントの関係は、このように互いに刺激を与えあう創造的なプロセスです。
コーチングの魅力は、コーチとクライアント双方に、かけがえのない価値をもたらすものであるからです。
コーチングは決して怪しいものではありません。
それどころか、仕事のみならず日常生活のあらゆる場面で活用できる必要不可欠な考え方とスキルです。
しっかりとしたコーチ及びコーチングスクールで学べば、あなたの人生を変える大きな力となります。
洗脳される自己啓発セミナーと同じイメージがある。
コントロールされるイメージがある。
洗脳される自己啓発セミナーと同じイメージがあるということは、もしかしたら、そのようなセミナーに参加されたことがあるのでしょうか?
コーチングも日本に導入された当初は自己啓発セミナーとして開催されていたことがありましたので、もしかしたら当時参加された方がそのように感じられて、そのことが広まっていったのかもしれませんね。
洗脳とは、広辞苑によると、「新しい思想を繰り返し教え込んで、それまでの思想を改めさせること」を言います。
コーチングは上記のとおり、思想を教えたりするものではありません。
コーチングには、
- 人は無限の可能性がある
- 答えは相手の中にある
- コーチはそれを引き出すパートナーになる
という3つの基本的な考え方がありますが、これらは特定の思想といったものではなく、クライアント(相手)と向き合う時の大切な姿勢を表しています。
コーチングは相手の人が目的地に向かうのをサポートする役割を担っています。
「相手の人の無限の可能性を信じる」からこそできることです。
「答えは相手にある」とは、その人にとって最も価値のある答えはその人の中にしかないという考え方です。
コーチはその相手の人が大切にしている価値ある答えを引き出すパートナーになるということを言っています。
コーチングは、あなたが自分で考えるのを側面から支援しているだけです。
一人で考えていると思考の迷路にはまって抜け出せなくなってしまうことがありますよね。
そんな時に、コーチからの質問によって視点が広がり、より高い視座に立って物事を見ることができるようになります。
コーチングは、特定の思想を洗脳し、人をコントロールするようなものではありません。
もちろんコーチングも心理学をベースにしています。
心理学を悪用すれば、洗脳して人をコントロールすることもできなくはないかもしれません。
カルトのような反社会的な集団や組織、詐欺グループなどにみられるように、心理学を悪用していると思われるケースも見られるからです。
もし洗脳やコントロールされていると感じたら、それはコーチングではありませんので、そのコーチからは離れてください。
スピリチュアルのようなことを言われた。
スピリチュアルコーチを名乗っている人も多くいます。
スピリチュアルコーチを名乗っている人の中でも、その意味するところは異なっているようです。
そもそもスピリチュアルとはどういう意味でしょうか?
スピリチュアル(spiritual)の語源は、スピリット(spirit)です。
精神や魂、神や霊、そして心などの意味があります。
スピリチュアルとは目に見えない世界のことでもありますので、なかなか理解しにくいし、信じ難いと感じてしまいます。
スピリチュアルは、誰の身近にもあるものです。
「シンクロニシティ(共時性)」という言葉があります。
心理学者のユングが提唱した言葉で、「複数の因果関係のない出来事が同じ意味を持つ、という偶然の一致」を言います。
「会いたいと思っていた人に、たまたま出会った」
「思い切って仕事を整理したら、やりたかった仕事が舞い込んだ」
というようなことが起きたりします。
このように、何か思いがけない現象が起こった際に、単なる偶然ではなく”意味ある偶然”として捉えるのもスピリチュアルの世界と言えます。
スピリチュアルにも、占いやリーディング、セラピー、宗教、精神世界など、いろいろあります。
そして、人によって”感じる力”が強いなど不思議な力を持っている人もいるようです。
一般社団法人スピリチュアルライフコーチ協会という団体があり、団体名と同じく『スピリチュアルライフコーチ』を名乗っています。
同協会ではスピリチュアルライフコーチを「魂レベルの幸せを手にし、それを周りに広げていく職業、自分が幸せになり、周りも幸せに導く職業。スピリチュアルな視点で周りの方にアドバイスをし、その人が魂レベルで幸せになる道を探すお手伝いをする仕事」というように定義しています。
コーチングの最終的な目的はウェルビーイング(幸福)の追求と考えれば、目指す方向は同じですが、スピリチュアル的な視点でアドバイスするとあるように、アプローチの仕方が異なります。
コーチングは基本的にアドバイスや教えることをしません。
スピリチュアルとはまったく別のものと考えた方が良いでしょう。
コーチングを受けてみたけど、役に立たなかった。
「コーチングを受けてみたけど、役に立たなかった」という残念な言葉も時々聞きます。
どんなコーチから、どんな目的で、何回コーチングを受けましたか?
たまたまそのコーチと相性が合わなかっただけかもしれません。
目的に沿ったコーチングがなされなかったためかもしれません。
1回だけのコーチングセッションでそのように感じられた人もいるのかもしれません。
目的によって異なりますが、コーチングは基本的に1回で完結することはなく、3か月、6か月というように継続して実施していく中で、変化・成長が見えてきます。
クライアント(相手)と共に歩む伴走者のような存在ですので、変化・成長に時間がかかることもあります。
コーチである私たちの責任ですね。
コーチにもいろいろなコーチがいます。
コーチングをきちんと学んだこともなく、ほとんど経験もないのに、コーチを名乗っている人もいます。
コーチを名乗るに相応しい人かどうかの見極めが大切です。
多くのコーチがトライアル(お試し)コーチングの機会を設けていますので、複数のコーチのコーチングを受けてみることをお勧めします。
話を聴いてもらっているだけなら、自分でできる。
コーチングはコミュニケーションスキルの一つでもあり、ある意味で、当たり前のことを構造化したものです。
したがって、「これぐらい自分にもできる」と思ってしまう人がいたとしてものも不思議ではありません。
コーチングは、優れた人間関係構築力やコミュニケーション力を持って実績を上げている人たちのことを調査分析して生まれた一つの考え方・手法だからです。
いわゆる”ネイティブコーチャー”と言われるように、優れた才能を持っている人もいます。
しかしながら、どんなに優れたアスリートでも日々のたゆまぬ努力があるからこそ開花するように、才能は磨かれてこそ、より大きな力を発揮することができます。
優れた才能をお持ちの方こそ、コーチングを学んで頂くことをお勧めします。
「当たり前」の中に奥深さがあります。
「当たり前」のことを「当たり前以上」にできるのがプロフェツショナルコーチです。
自分にコーチなど必要ない。
自分にコーチなど必要ないと思っている方も多いです。
本当にそうでしょうか?
心理学者のカート・フィッシャー博士が提唱した『ダイナミックスキル理論』というものがあります。
ダイナミックな成長とは、静的ではなく、動的なプロセスで私たちの能力は成長していくという考え方のことです。
フィッシャー博士が『ダイナミックスキル理論』を提唱するまで、多くの発達心理学者は、能力の成長プロセスを階段のように、決められた順番で階段を一歩一歩登っていくようなイメージで捉えていたようです。
私たちの能力は、単純な直線を描きながら成長していくわけではなく、時に急激に伸び、一時的な停滞や退行を繰り返しながらダイナミックに成長していくものであるということです。
私たちの一つの能力は、実際には、他の能力と関係し合いながら成長していくという特徴があります。
さらに、一つの能力には細かな多様な能力が含まれているという特徴もあります。
こうした特性を考えて、フィッシャー博士は「能力成長プロセスは『網の目』のようなものである」とも言っています。
このことは、例えば職場におけるリーダーの部下育成能力においても、直線的に伸びていくものではなく、一時的な退行や停滞を経ながら、より高度な能力に成長していくことを示しています。
しかも、部下の存在や組織の在り方にも影響されることを考えると、他者や環境との関係性の中で育まれます。
私たちの能力は、多様な実践と他者からの支援を受けることによって成長していくものであることを示しています。
あなたもこれまでのご自身の経験を振り返ってみて、「他の人と一緒に仕事をすることによって、自分が持っている能力以上の力を発揮できたことがある」「上司の助言によって、自分の能力が飛躍的に高まったことがある」という経験をしたことはないでしょうか。
下図は、フィッシャー博士の『ダイナミックスキル理論』を図にしたものです。
『最適レベル』とは、他者や環境からのサポートによって発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。
『機能レベル』とは、他者や環境からの支援なしに発揮することができる、自分が持っている最も高度な能力レベルのことです。
最適レベルと機能レベルには差があり、フッシャー博士は、このギャップのことを『発達範囲』と呼んでいます。
この図のように、発達範囲は、年齢を重ねるごとに両者の幅が拡大していきます。
つまり、私たちは大人になったからといって、他者からの支援を必要としないのではなく、高度な能力を獲得していくまためには、他者からの支援が常に不可欠であることを示しています。
「自分でできる」と思っている人は、この図でいう機能レベルに留まってしまいます。
一流のアスリートの皆さんがコーチをつけているのも、一人では限界があるとわかっているからではないでしょうか。
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