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『京セラフィロソフィ』の「ベクトルを合わせる」、そして「コーチングは怪しい!?」を語る1on1ミーティングです。

そこで私は、「君もつらいだろう。しかし、話している私のほうもつらいのだ。どっちもつらいのだから、君の考えに合う会社に行ったらどうだ。日本は自由と民主主義の国で、職業を選ぶ自由もある。何も嫌な会社にいなくても、いいだろう。うちの会社しかないという社会情勢なら仕方ないが、会社は他にもたくさんある」ということを言いました。
(『京セラフィロソフィ(稲盛和夫/サンマーク出版)~ベクトルを合わせる』)

心理学を学びコーチングの資格を有する新進気鋭の若手A課長と、部長職を長く経験し、定年再雇用でA課長のチームに配属された実践派のSさんとによる、稲盛さんの『京セラフィロソフィ』を語る6回目の1on1ミーティングです。

今回は、稲盛さんの箴言の一つである「ベクトルを合わせる」について、A課長はどう捉えているのか… 興味を持ったSさんは尋ねます。
さてA課長はどのような見解を持っているのでしょうか?

青春時代の気のおけない関係を語るSさんです。

(Sさん)
おはようございます。『京セラフィロソフィ』を巡っての1on1もいつの間にか6回目となりました。10月3日は、78の箴言のなかで特に響いた箴言を10個ずつ選び、「なぜ響いたのか?」を、お互い自由に語ってみる、という試みをやりましたね。

その時は意識しなかったのですが、大昔…そうですね、学生時代に似たようなことをやっていたなぁ、と1on1が終わって気づいたのです。ノスタルジアめいた感覚でした。

(A課長)
ノスタルジア…ですか?

(Sさん)
ええ。当時家賃2万円の私の下宿に、親友だったKとYがしょっちゅう来ていました。ある時Kが、「読書感想会をやろう」と言い出したのです。

(A課長)
ということは、Sさんとやった『京セラフィロソフィ』を読んで感想を述べ合う…といったことですか?

(Sさん)
そうなんです。Kは読み終えたばかりの『カラマーゾフの兄弟』をやりたい! と言ったのですが、読んでいないYと私は「勘弁してよ…」と訴え(笑)、結局Yも読んでいた『罪と罰』から始めました。

私は、翻訳ものは「推理小説」くらいしか読んでいなかったので、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』にしたい、と提案したのですが却下され、「しょうがない、読むか!」と覚悟を決めたのですね。

Aさんが何度も口にする『京セラフィロソフィ』の「潜在意識にまで透徹する強い持続的な願望をもつ」です。KとYに約束した以上、読まなければバカにされますから… 内発的動機とは言えない外圧めいた動機ですが、なんとか読了できました。
それから10回くらい、作家を変えて続けたと思います。

トリスの水割りとかを飲みながらやったので、結構ヒートして「その捉え方は浅すぎる!」とか、「お前がひねくれているからそういう解釈になるんだ!」など、毎回言いたい放題でしたね。

(A課長)
楽しそうですね(笑)

入社して会社の文化に適応していったSさんでしたが…

(Sさん)
まあ…青春でした(苦笑)
気のおけない者同士が思ったこと、感じたことを遠慮会釈なく口にする、という状況でした。今思えばとても幸せな時期だったかもしれません。入社して鍛えられていくうちに、会社文化に染まっていったというか、それが“適応”だとはわかっていても、Aさんの歳…35くらいまで、どこか抵抗感を覚えていました。空気を読んでいる自分がイヤなところもありました。

(A課長)
……

(Sさん)
ただ、年の功でしょうか(笑) 自分の意識、捉え方が変わってきたのですね。
A課長は抜擢人事で34歳に課長になっていますが、私が課長になったのは38歳です。長女もそろそろ中学生になるタイミングで、今のところ「パパ、あっち行ってよ!」と言われないこの状況を保つためにも、“素敵な父親像”を娘に印象づけておかなければ、と考えるようになったのです。稲盛さんの言う「動機善なるや、私心なかりしや」とは違うような気がしますが、自分としてのモチベーションはこれが大きかったのです。

自分の性格を変えようと決意したSさんの内発的動機とは?

(A課長)
少し笑ってもいいようなお話しですが、Sさんの表情がシリアスなので… 動機が何によって発動されるかは、本当に人それぞれだと思います。

(Sさん)
ありがとうございます。かなり前のことでしたが、Aさんのコーチング魔術にはまってしまい、 思わず自己開示してしまったことを思い出しています。いつの1on1でしたか… 妻と長女のことを話したと思います。

(A課長)
ええ、ちょっと待ってください… 2月5日の1on1でした。

(Sさん)
そうでしたか… その日は「どうしてあんなことまでAさんに話してしまったのだろう」と、ちょっと落ち込みました。でも、それがコーチングの力なのですね。その日を境にして、私のAさんに対する気持ちは確実に変わりました。ふた回り年下のAさんですが、何でも話せるようになったかな(苦笑)

(A課長)
私も嬉しかったですよ。コーチングでいうラポールの実感です。「Sさんに近づくことができた!」という感覚です。

(Sさん)
前も言ったように、私の人生に最も影響を与えたのは妻です。私が悩んでいた時期にこう言ったのです。

「あなた… 管理職を前にして悩んでいるようね。分からないわけじゃないけど、〇子ちゃんはあなたの振る舞いを結構見ているわよ。〇子も中学になれば、世界も広がっていくから、私たちの影響も薄まっていく… 外の世界の大人を感じながら、冷静な目で私たちを見ることになる。家族だから思い切り脇が甘くなるけど、もちろん家族じゃなければその環境はつくれない。それも大事。でもいつまでも“子供”じゃないからね。子育てはあなたと私の共同作業よ。あなたが手を抜くと、それは確実にあなたに返ってくるから… 〇子にとっての父親はあなたしかいないし、かけがえのない存在、というのは私とあなたのことを言うのよ」

日頃とは違って真面目な雰囲気を漂わせて言うのです。内容が仕事に関することを尋ねるのではなく、娘のことだったので刺さりました。同時に「これが母親なのか…」とも感じて複雑ではありましたが、リスペクトの感覚も兆したというか、「変わらなければ!」と本当に思いました。

(A課長)
何だかすごいなぁ… 私にはまだ実感が持てない。

(Sさん)
それでとにかく勉強しました。松下幸之助、本田宗一郎、そしてソニーの盛田さんの本など、カリスマ経営者に関する本です。ドラッカーも読みました。理論については係長になる前、PM理論を社内研修で学び、印象に残っています。そのとき自分の性格を自覚したのですね。

PM理論、そして自分の弱点を見つめたSさんは…

(A課長)
「リーダーシップ理論の変遷を1on1のテーマとしてやってみましょう」、と合意した確か初回に、SさんがPM理論を解説してくれました。ええ~と… 去年の11月29日です。
https://coaching-labo.co.jp/archives/3472

(Sさん)
そうでしたね。PM理論を学んだ際、自分が典型的なpM型であることを知りました。仲間内の和気あいあいを重視するタイプです。それから自分の性格をいろいろ見つめてみました。コミュニケーション能力とは多面的な力です。「聴く力」「表現する力」「関わる力」の3つが統合された能力であり、そのうち私は「関わる力」が高く出ていることを知りました。

(A課長)
「関わる力」はコーチングでも重視される能力です。

(Sさん)
ええ… ただ私の場合は本来の「関わる力」ではなく「忖度能力」だったのです。空気を読むのに長けているのですが、管理職にとっては弱点となります。「部下との関係性に意識が偏ってしまい、部下を叱るべき状況でも指導することができない」というフィードバック結果でした。

(A課長)
なるほど…

(Sさん)
妻のアドバイス、そして自分を見つめ続けたことで、2年後に迫った課長試験・アセスメントまでの課題が輪郭を帯びてきました。
どちらかというと「聞き役」だった自分を「話す自分」に変えていく、ということです。

Sさんは実は口下手だった…?

(A課長)
ええっ? 「話さないSさん」なんて信じられない… 今と全然違うじゃないですか!

(Sさん)
昔の私を知っている人間はみなそういいます。実際変わりましたから(笑)
「感じたことは呑み込まず、無理してでもそのまま相手に伝える、ただし穏やかに」という方針を立て、ひたすら努力したのです。相手はどこまで、その「無理している風情」に気づいていたかわかりませんが、結構シンドイ期間が続きました。修行感覚です。

課長試験も何とか通過し、部下を持ったことで明瞭に自覚しました。「自分はおしゃべりだ」、ということを(笑)
ストレスはありません。むしろ言いたいことを自然体で言うことが出来る自分が好きになりました。ちょっと変かな?

(A課長)
現在のSさんになってきた訳だ(笑)

(Sさん)
そういうことなのでしょう(笑)

『京セラフィロソフィ』の稲盛さんは、「言葉を尽くす人」だと思います。もちろん「聴く力」もすごいかたですから、繰り出される言葉は洞察力に満ち溢れています。
Aさん、『京セラフィロソフィ』の412ページを開いてみてください。箴言は「ベクトルを合わせる」です。

(A課長)
…ここですね。最初の見出しは「ベクトルが合うまでとことん従業員と話し込む」となっていますね。「話し込む」が特に強調されているところをピックアップしてみましょうか?

私の考えを分かってくれない人にどこまでわかってもらえるようにするか、そのことに私は多くの時間を割きました。そうすることに一時間割くとしたら、本来なら仕事をしてもらったほうが得というふうに考える経営者が多いのですが、私は一時間でも二時間でもわかってくれない従業員が考えを変えるまで話をつづけました。

極端な例になりますが、そこまで話しても分かってもらえない人には「もういい。辞めてください」と言いました。すると、言われた従業員は大変な剣幕で「何で私が辞めなきゃならないのですか!」と食ってかかってきます。

稲盛さんは話す! とにかく話す!

(Sさん)
言葉を尽くしている稲盛さんの迫力が伝わってきます。
ただ、コーチング的にはどうですか? 稲盛さんは「説得」で臨まれています。コーチングの人間観は、「答えはその人の中に存在する」です。稲盛さんのスタンスとコーチングの人間観は調和するのでしょうか?

(A課長)
う~ん、難易度の高い質問ですね。その後続く言葉は…

今のように会社が大きくなってからそのようなことを言うと問題になるでしょうが、京セラが中小企業だった当時の状況を考えると、他に行くところはたくさんあり、何も無理して京セラにいる必要はありませんでした。だから私は、いくら頭が良くて優秀な人でも、ベクトルの合わない人には辞めてもらうことにしたのです。

つまり、少ない集団の中に、たとえ一人でもベクトルの合わない人がいると、他の人は「ああ、無理にベクトルを合わせなくてもいいのだな。それでも、会社にいられるのだ」となってしまいますから、私は従業員のベクトルを合わせることに、非常に注意を払ってきました。

中小企業の頃とありますので、稲盛さんは必死だったと思います。資金繰りをはじめ、「毎日が生き延びることができるかどうか」、であったことが想像されます。

JAL再建にあたった稲盛さんは、この時と同じ気持ちと言うか、同じ気合で臨まれたのではないでしょうか。JALは破綻しました。多くの従業員は「自分たちは悪くない、経営層、そして管理職がまともじゃないからつぶれたんだ」と思ったと想像します。「こんな会社こっちから辞めてやる」と思った社員も多かったでしょう。ただ会社更生法が適用されたにもかかわらず、運航は続けられたので、残った社員も倒産の実感がなかったりしたのではないでしょうか。

稲盛さんのベクトルは傍観者ではなく当事者意識、そして自律性の希求!

(Sさん)
JALはナショナルフラッグキャリアとして、半官半民の特殊法人がスタートです。1987年に純民間会社になっても、どこか公共事業をやっている感覚がはびこっていたのでしょう。上から下まで当事者意識がなく、利益を生み出していかないと会社は存続しないはずなのに、それすらも理解していなかった、と稲盛さんは驚いていますよね。「利益を出すことはよくない…」とまで思っていた人がいたのがJALという会社でした。
稲盛さんを三顧の礼でJAL再建を要請した、当時の前原国土交通大臣は「国にも責任はある」と言っていましたね。

つまりJALは倒産するまで、いや倒産してもなお、“他人依存”という価値観に全身が冒されていた。それにもかかわらず、そのことに気づいていない会社だったのです。ベクトルがバラバラという以前に、ベクトルそのものが存在しない会社だったのではないでしょうか。

(A課長)
アドラーは価値観、つまりライフスタイルについて次のような見解を述べています。

「そもそも正常なライフスタイルなどはなく、予期しなかったことが起こって弱点が表に出るまでは、どんなライフスタイルでも適切である」

さらに、このライフスタイルを行動の側面で3つに分類しました。

人びとが協力しながら社会的に有益な方法で目的へ進む建設的行動
目的に向かっていても他者には有益ではなく、ただし害にもならない非建設的行動
目的のための行動が周囲に有害となり、他者も自分も傷ついてしまう破壊的行動

アドラーの価値観は「共同体感覚」であり、目指すは建設的行動です。その信念は「価値観は強固であるが人は変わることが出来る」、です。

アドラー心理学とは、非建設的行動、破壊的行動を無自覚に選択している人に対して、さまざまなかかわり方を通して、建設的行動に向かっていくよう自己変革を促していく心理学なのです。アドラーはそのことを語ります。徹底的に!

(Sさん)
稲盛さんとアドラーがシンクロしている。Aさんは、アドラーをコ―チングの父とリスペクトしていますよね。

(A課長)
はい! 稲盛さんの語りで、改めての実感です。それから… 妻の話で恐縮なのですが、彼女の会社は日本を代表するIT企業です。口コミサイトの評価を見ると、「20代の成長環境」「風通しのよさ」「社員の相互尊重」「法令順守意識」の項目がかなり高く出ています。

(Sさん)
素晴らしいですね。

望まないと縁もやって来ない…

(A課長)
ただし、一つの項目がかなり低いのですね。それは「人材の長期育成」です。それについて妻が面白いことを言ったのです。

帰国子女や外国人が多い環境なので、「会社に染まろう」という以前に、「自分が会社でどういうキャリアを積みたいか」、という個人としてのやりたいこと… つまり目的意識がはっきりしているから、そこにアンマッチを感じると、まあ… 辞めていくわね。
もちろん人事部も定着率を高めようとしているのは他社と一緒よ。ただ、考えてみると、人それぞれ個性、価値観は違うし、相性というのも大切。しばらく頑張ってみて、「この会社の環境では、自分の成長が見込めない」と感じれば、別を探す、というのはアリよ。

そして、こう続けるのです。

現にレーダーチャートのトップは「20代の成長環境」だから、あなたがいつも口にするVUCAの時代にあって、これからの時代を担うZ世代は、私の会社のカルチャーを高く評価している。縁も大切だけど、ひとつの縁にしがみつくのではなく、「望めば縁はやって来る!」と、捉えることも必要ね。

(Sさん)
稲盛さんの言葉が現代調で語られている。

「コーチングは怪しい!?」

(A課長)
ありがとうございます。我田引水だったかな。
Sさん、つくづく思うのですが、SNS全盛の世になって、フェイクや誤った解釈が氾濫しています。誤解は解いていかなければならないと思うのですね。

特にコーチングは、英語のカタカナをそのまま使って広がっていきましたから、定義を理解することなく、そして体験することなく、「コーチングは怪しい…」という先入観にとらわれている人も多いようです。民間資格でもありますから、コーチングの本質とは異なるプロモーションで顧客を獲得している会社、団体も見受けられます。

ググってみると…
「そもそもコーチングが何なのかがよく分からない」
「洗脳される自己啓発セミナーと同じイメージがある」
「コントロールされるイメージがある」
などが出てきます。

ですから、コーチングの本質を正しく理解してもらうためには、言葉を尽くして説明することも必要です。このご時世、「いつかわかってくれる…」という以心伝心はほぼ期待できませんから。
“気づき”とは、正しい情報あってこそ!です。

アドラー、そして稲盛さんには高いこころざしがありました。だからこそアドラーに、そして稲盛さんになったのだと思います。

コーチングを「怪しい」と感じてしまっている人に対して、言葉を尽くしてその誤解を解こうとしているサイトがあります。コーチングにまだ興味を持っていない方も含めて、是非ともクリックしてほしいと願っています。
Sさんは「コーチング魔術」と言いましたが、魔法は使っていませんよ(笑)
https://coaching-labo.co.jp/archives/5507

(Sさん)
そのサイトは… 「コーチングは怪しい!?」ですね。画像もタイトルとぴったりのイメージだ。面白そうですね。読んでみます。

今日はAさんの熱血講義でした。私の質問にもしっかり答えていただき、ありがとうございます! 次回も稲盛さんから啓発を受けたいと感じています。

(A課長)
次回はSさんが思う存分語ってください。ぜひとも!

坂本 樹志 (日向 薫)

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