心理学とコーチング ~行動経済学とコーチング 「ヒトラーは犬と小さな子供が大好きだった」…!?~(2021/06/10)

…ある人のたった一つの目立つ特徴についての判断に、すべての資質に対する評価を一致させるよう仕向けるのがハロー効果だからである。たとえばあるピッチャーが精悍な顔つきの大男だと、きっとすごい球を投げるだろうと考えやすい。 ハロー効果はマイナス方向にも作用し、ある選手が軟弱な顔立ちだと感じると、運動能力まで過小評価しがちである。ハロー効果は、「よい人間のやることはすべてよく、悪い人間のやることはすべて悪い」という具合に評価に過剰な一貫性を持たせる働きをする。 そこで、講釈も単純で一貫したものになる。「ヒトラーは犬と小さな子供が大好きだった」という文章が何度聞いてもショッキングなのは、あれほど残酷な人間にこのような情愛の痕跡を認めることが、ハロー効果によって作り上げられた人物像に反するからである。こうした不一致があると私たちは落ち着かなくなり、自分の感覚に確信が持てなくなる。

今回は『ファスト&スロー』の第19章「わかったつもり」を取り上げます。

前回のコラムで、「ハロー(後光)効果」と「逆ハロー効果」について簡潔に紹介しています。カーネマン教授は、『ファスト&スロー』のなかの19章で、「後知恵とハロー効果」について詳述しています。

私が「心理学とコーチング」という横断テーマを冠し、伝えたかったその本質は、「人間には思い込みにとらわれてしまうという性(さが)が存在する。そのことから自由になるためにはどうすればよいのか? という命題を設定する。その解明のために心理学を学び、そしてコーチングを実践する。そうすることでメタ認知を体得できる(だろう…)。その結果素敵な人生を送ることができる(にちがいない)」…ということなのだな、という認識に至っています。

コラムを書き始めてしばらくは、そこまで顕在化した意識ではなく、心理学とコーチングの知見を、広い視野で紹介したい、という考えでした。したがって、認知心理学、社会心理学が掲げるさまざまのテーマを網羅的に紹介しています。

それがアドラー(20回目から)、そしてロジャーズ(34回目から)という人物をシリーズとして書き綴っていくうちに、両巨人が訴えたいことが、まさに、 “…ということ” なのではないか、という思いにつながってきたのですね。

ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授が心理学者であることは、これまでのコラムで触れています。『プロスペクト理論』というわかりやすく明瞭な理論で脚光を浴び、これまでの経済学の前提を流動化させてしまいそうなパワーを有する「行動経済学」は、 “…ということ” を科学的に洗練させて、世に送り出したのだ、と私は感じています。

カーネマン教授は、ヒトラーを例に挙げて(確かにショッキングです)、「あるある…」という、多くの人が陥ってしまう傾向を語ります。

カーネマン教授の語るグーグルの創業秘話とは…

説得力のある講釈は、不可避性という幻想を助長する。グーグルがIT産業の巨人になったサクセスストーリーを考えてみよう。スタンフォード大学計算機学科の博士課程にいた二人の創造性あふれる大学院生がインターネットで情報を検索する高度な方法を思いついた。 二人は資金調達に成功して起業し、一連の意思決定はどれもすばらしくうまくいった。数年後には同社の株はアメリカで最高値を付け、二人は世界でも有数の大富豪になる。彼らが非常に幸運だったことを示す印象的なある出来事が、このストーリーを一層感動的なものにしている。 グーグル設立から一年が経った頃、二人は100万ドル足らずで身売りしようとしたのだ。ところが買い手は、高すぎると言った。たった一つの幸運な出来事を書き添えることで、偶然がほかにもさまざまな方法で効果に関わっていることは、見落とされやすくなる。

私はこの箇所を読んで、カーネマン教授がどのように論を展開していくのか…わくわくしながら、読み進めています。そして、私の思考のクセでもあるのですが、これまでの人生の折々で感じた事柄が、連想ゲームのように記憶の底から浮かび上がってくるのですね。

今回は「アサヒ・スーパードライ」でした。1987年に遡ります(昭和ですね…笑)。酒販店の冷蔵ケースの中にある、銀色の「アサヒ・スーパードライ」のラベルが目に留まり(目立ちました…AIDMAのAです)、「あれっ? アサヒの新製品かな…特に宣伝していないようだが…とりあえず飲んでみようか…」、と手に取ったのですね。

ここで「アサヒ・スーパードライ」のサクセスストーリーを、マーケティングコラム(風)に記述してみましょう。

「アサヒ・スーパードライ」は市場・業界に地殻変動をもたらした怪物商品!

企業の商品ミックスの構成上、メインでないにも関わらず、思いがけなく大ヒットすることがある。「アサヒ・スーパードライ」はその典型的な商品だ。当時、アサヒビールが企業イメージを統合させるために「アサヒ生ビール」に販売促進を傾注していた。

したがってサブラインと位置付けた「アサヒ・スーパードライ」については、派手な宣伝を控える様子見の市場導入であった(経営陣は「アサヒ・スーパードライ」の発売について、「アサヒ生ビール」とのカニバリゼーションを不安視し、ネガティブのスタンスをとっていた)。ところが結果的に想定を覆す大ヒット。思惑とは異なり、「アサヒ生ビール」は市場から姿を消すことになる。

「ヒットさせるべくヒットする」という商品は実はまれで、何がヒットするのか、当初はわからないものだ。成功失敗ともに、後に分析することでその理由が浮かび上がってくる。つまり、後知恵で判断され、組み立てられるのだ。

成功した第一の要因は「味の斬新性」、というのが私の実感だ。ではなぜこのタイプのビールが市場に登場しなかったのか…? その背景は、絶対王者であり続けた「キリン・ラガービールの苦い味」が市場のスタンダードを形成しており、それとは異なるテイストのビールを投入することに、他社が成功のイメージを抱くことができなかったためだ。

そう思い込まされてしまったのも理解できる。ビール業界におけるキリンは、巨大すぎで「ガリバー」と称されていた。1970年代~1986年の間の企業シェアは60%以上を誇り、デ・マーケティング(販売促進を極力控える)こそが戦略だった時期が常態化していた。

1987年のとある日、私は酒販店の冷蔵ケースの中に見慣れないビールを視認する。銀色のラベルが妙に目立っていた。アサヒから発売された新製品のようだ。自宅で私は633mlの瓶を傾けグラスに注ぐ。そして一口ゴクリと飲む。すると…「あれっ? すっきり飲める。炭酸飲料みたいだなぁ~」と意外感にとらわれて、しげしげと銀色のラベルを見直してみた……

「アサヒ・スーパードライ」の大ヒットは偶然? 結果としての成功なのか…

小説風になってしまいました。私の通常の文体に戻します。
私の個人的な感覚を書いていますが、当時初めてこのビールを飲んだ多くのユーザーが同様な実感を抱いたと想像します。この「味の斬新性」によって、ビールの味も多様性があることを市場が認識します。その効果は絶大でした。これまでの不毛な容器戦争から味の違い、製法の違い(結局味のこと…キリンの「一番搾り」に代表されます)に、差別化の内容を大きく転換させるきっかけとなった画期的商品なのですね。

もっとも、味覚というのは学習効果を伴うので、いずれ慣れてしまい、その感覚は鈍麻していくのが通常です。だからこそ、パイオニアとしての「アサヒ・スーパードライ」は、マーケティング上の先行者利益を獲得することができ、ブランド化につながったのです。

「アサヒ・スーパードライ」は発売同年で1350万ケースを販売。アサヒのシェアは10.4%から12.9%に急上昇します(翌1988年には20.6%)。長年の間、キリン、サッポロに、大きく水をあけられていたシェアは、「アサヒ・スーパードライ」の貢献により、1988年にサッポロを抜き2位となり逆転しました。

そして、その勢いはとどまることを知らず、絶対王者であったキリンビールをも1998年に抜き去ってしまいます。その年のアサヒのシェアは40%、キリンは37.7%となり、名実ともに業界のトップに君臨することになるのです。

カーネマン教授の語りから、なぜ「アサヒ・スーパードライ」を連想したのか…その回答も踏まえ、記述してみました。このマーケティングコラム(風)の執筆コンセプトは…「偶然性」と「結果としての成功譚」です。カーネマン教授の論は次のように展開します。

無敵のオーラで包まれる二人のグーグル創業者…!?

私は意図的に素っ気なく書いたが、読者にはきっと、これがとても心地よいストーリーであることがおわかりいただけたと思う。くわしく細部を肉付けしたストーリーを読んだなら、あなたはきっと、なぜグーグルが成功したのかわかったと感じるはずだ。 さらに言えば、どうすれば企業は成功するのか、貴重な教訓を学んだと感じることだろう。だが残念ながら、さまざまな理由から、あなたがグーグルについて学んだと感じたことの大半は幻想だと言わざるを得ない。ある説明を読んでその後の出来事が予測できるかどうかが、その説明の正しさを裏付ける究極の試験だとしたら、グーグルの成功を説明するストーリーはどれも、この試験に堂々と合格するだろう。 なぜならどれも、結果を変えたかもしれない膨大な事象には言及しない(できない)からだ。人間の脳は、平凡な出来事、目立たない出来事は見落とすようにできている。 現に起きた重要な出来事の多くが選択を伴っていたという事実を読むと、ますますあなたは能力の果たした役割を過大評価し、結果を左右した運の役割を過小評価するようになる。 重大な決定はどれも正しかったことがわかっているのだから、結果から見れば、創業者には完璧な先見の明があったように思える。不運が紛れ込んだだけで成功への階段のどれかが崩れ落ちたかもしれない、などとは考えもしない。そして最後の仕上げはハロー効果で、主役の二人に無敵のオーラが加わる。

カーネマン教授のクールな視点に、異を唱えたくなる向きもあろうことが想像されます。「夢をこわさないで!」といったところでしょうか。
コラムの最後に、カーネマン教授の印象に残る記述を抜き出して引用しておきましょう。

心理学者であるカーネマン教授のクールな視点が浮かび上がってきます。

・後講釈する脳は、意味づけをしたがる器官だと言える。予想外の事象が起こると、私たちはただちにそれに合わせて自分の世界観を修正する。 ・自分の脳の一般的限界として、過去における自分の理解の状態や過去に持っていた自分の意見を正確に再構築できないことが挙げられる。新たな世界観をたとえ部分的にせよ採用したとたん、その直前まで自分がどう考えていたのか、もはやほとんど思い出せなくなってしまうのである。 ・過去の自分の意見を忠実に再現できないとすれば、あなたは必然的に、過去の事象に対して感じた驚きを後になって過小評価することになる。この効果を初めて取り上げたのはバルーク・フィッシュホフで、エルサレムの大学生だったときのことである。彼はこれを「私はずっと知っていた」効果と呼んだ。すなわち「後知恵バイアス(hindsight bias)」である。 ・実際にことが起こってから、それに合わせて過去の自分の考えを修正する傾向は、強力な認知的錯覚を生む。後知恵バイアスは、意思決定者の評価に致命的な影響を与える。評価する側は、決定に至るまでのプロセスが適切だったかどうかではなく、結果がよかった悪かったかで決定の質を判断することになるからだ。 ・標準的な事務手続きに従ってさえいれば後からとやかく言われる心配はない、というわけで、自分の決定が後知恵で詮索されやすいと承知している意思決定者はお役所的なやり方に走りがちになり、リスクをとることをひどくいやがるようになる。 ・後知恵バイアスや結果バイアスは、全体としてリスク回避を助長する一方で、無責任なリスク追求者に不当な見返りをもたらす。たとえば、無茶なギャンブルに出て勝利する将軍や起業家などがそうだ。たまたま幸運に恵まれたリーダーは、大きすぎるリスクをとったことに対して罰を受けずに終わる。 それどころか、成功を探り当てる嗅覚と先見の明の持ち主だと評価される。その一方で、彼らに懐疑的だった思慮分別のある人たちは、後知恵からすると、凡庸で臆病で弱気ということになる。かくして一握りの幸運なギャンブラーは、大胆な行動と先見性のハロー効果によって、「勇気あるリーダー」という称号を手に入れるのである。 ・何にでも意味づけをしたがるシステム1の作用によって、私たちは世界を実際よりも整然として、単純で、予測可能で、首尾一貫したものとして捉えている。過去の認識の錯覚は心地よい。事態がまったく予測不能だったら感じるはずの不安を和らげてくれるからだ。私たちはみな、勇気づけられるメッセージを必要としている。行動はきっとよい結果をもたらすとか、知恵と勇気は必ず成功で報われるとか。まさにこのニーズに応えてくれるのがビジネス書である。

カーネマン教授の、第19章「わかったつもり」は、次の言葉で締めくくられます。

・企業の成功あるいは失敗の物語が読者の心を捉えて離さないのは、脳が欲しているものを与えてくれるからだ。それは、勝利にも敗北にも明らかな原因がありますよ、運だの必然的な平均回帰だのは無視しても構いませんよ、というメッセージである。こうした物語は「わかったような気になる」錯覚を誘発し、あっという間に価値のなくなる教訓を読者に垂れる。そして読者の方は、みなそれを信じたがっているのである。

太字下線は私が付しています。一連のカーネマン教授のコメントを書き連ねてきて、最後は少々疲れました。改めて自分は…「そして読者の方は、みなそれを信じたがっている」という人間であることを理解したからです。やはり「ロマン」は感じたいですから…

私は「アサヒ・スーパードライ」のマーケティングコラム(風)をカーネマン教授寄りのスタンスで記述しています。ただその大成功は、住友銀行出身の樋口廣太郎氏ならではの意思決定(バンカーとしての本領発揮です)によるところが大きい、と感じているのですね。そこで私は次の質問をつくってみました。

マーケターの視点で質問させていただきます。

Q : 「アサヒ・スーパードライ」は、味の斬新性、そしてネーミングが素晴らしいからヒットした、という声がありますが、どのように評価しますか。

考えた末、私は以下を解答とします。
A : もちろん、味の斬新性、そしてネーミングがコンセプトとして合致し、消費者に受容されたのは確かです。これなくしては、成功はあり得なかったでしょう。一方、意思決定という視点で捉えた場合、導入後の早いタイミングでその動向を察知した経営トップが、大量のエクイティファイナンス、および借入を実施します。樋口廣太郎氏が社長に就任する1986年以前の年間設備投資額は70億円程度でした。それが、在任期間である1991年までの累計設備投資額は5千億円をはるかに超えているのです。

これを原資として短期間に工場を増設、供給力を飛躍的にアップさせました。今日に至るブランドヒストリーを鑑みると、このときの意思決定の的確さが際立っています。最終的には、店頭での商品露出量が勝敗を決しますから。

坂本 樹志 (日向 薫)

 

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