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心理学とコーチング ~ロジャーズ その4~

『ロジャーズ選集(上)』6章のタイトルは、「指示的アプローチ 対 非指示的アプローチ」です。内容は、ポーターによる『カウンセリング面接の手続きに関する測定尺度の展開とその評価(1941年)』という未公開論文のなかの資料をロジャーズが取り上げ、解説したものです。ロジャーズはこの論文を「彼の多岐にわたる比較に用いられた面接の数は少ないものであったが、その結果に一貫性が認められたことは印象的であった。」と評価しています。

その「一貫性が認められた」のは、ポーターが「熟練した評定者に、録音した面接19例のなかでのカウンセラーの応答と、そこで行われたやりとりを、さまざまな範疇に分類し、さらにそれぞれの面接がどれほど指示的であるかという観点から評定するように依頼した」結果により、導き出されています。

その際、「上手なカウンセリングをしているかを評定するのではありません。その面接がどれほど指示的であったか、あるいはどれほど非指示的であったか、ということだけを相対的に評価していただきたいのです」とポーターは基準を説明しています。
結果は以下の通りです。(『ロジャーズ選集(上)』の表をアレンジして掲載)

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ロジャーズはポーターの研究を自身の理論を裏付けるものとして高く評価しています。

この結果を踏まえ、ロジャーズは次のように解説しています。

指示的なカウンセラーは平均して、非指示的カウンセラーの6倍近くにも上る語数を用いていたことになり、これはこの研究全体を通して最もはっきりとした違いのひとつであった。非指示的なカウンセリングにおいては、クライエントが「自分の問題をとことん話す」ために来談しているという事実が、はっきりと示されているのである。一方指示的なカウンセリングのなかでは、カウンセラーがクライエントに話してきかせているのである。

指示的なグループでは、面接をコントロールし、クライエントをカウンセラーの選んだ目標に向かわせるような技術が強調されているのに対して、非指示的なグループでは、クライエントが自分自身の態度や感情をより一層自覚し、その結果、洞察や自己理解がよりいっそう増大するように働きかける技術が強調されているのである。

指示的なカウンセリングの特徴は、ある特定の解答を予期しながらきわめて特殊な質問をしたり、またカウンセラーの方から情報を与えたり、説明したりする技術にあるといえよう。これら二つの技術によって、指示的タイプの治療面接でカウンセラーが半数以上の発言をしている事実が説明できる。

これに対して、非指示的なカウンセリングの特徴は、クライエント側の動き(activity)が優先され、会話の大部分が、クライエントが自分の問題を話すことで占められることである。ここでのカウンセラーの主な技術は、クライエントが自分の感情や、反応バターンをよりいっそう明瞭に認識し理解できるよう援助すること、そしてそれらをクライエントが話せるように力づけることである。

ロジャーズはポーターの論文により、勇気づけられたことは明確です。上記のロジャーズのコメントは、ポーターの論文を知る以前から自身としての確信でした。ただ、その「裏付けを示してほしい」と指摘された場合に、おそらくロジャーズは明快な回答を提示することができなかったように思います。
ポーターの論文は、ある意味で「実験」として捉えることができるので、自分の考えを補強する“根拠”となりうる、とロジャーズは考えました。ロジャーズ自身も、自分の考えを証明する「調査」、あるいは「実験的なこと」を検討していたのかもしれません。そんなときにポーターの論文を見つけて、「これは使える!」と喜んだのでは? と私の想像力は膨らんでいます。

カウンセラーやセラピストの指示性には、現実に基本的な差異があることを示すのに、筆者が不必要なまでにこだわっていると思われる向きもあるかもしれない。このような違いをできるかぎりはっきりさせる努力をしたのは、ほとんどすべてのカウンセラーが、自分の態度は非強制的であり、非指示的であると思おうとするはっきりとした傾向があるからである。この研究で指示性が高いと評定されたカウンセラーの大部分は、自分が面接の主導権を握っているとか、そうするように説得しているなどとは思っていなかった。その結果、すべてのカウンセリングが基本的に同じようなものであって、技術の違いなどたいしたことではないと考えられがちである。しかし事実はそうではなく、サイコセラピーをいっそう深く理解するためには、どんなセラピーでも考え方は同じである…実際は何の根拠もないのに…などと曖昧に考えるよりは、セラピーの観点の明確な対照を認識するほうがよいのである。…ポーターの研究は、このことを例証してみせたという点で重要な意義をもっている。

1940年12月11日の講演中にロジャーズは内なる声を聴いています。

11月16日のコラムで解説した「カウンセリング理論の歴史」のなかで、ロジャーズの「来談者中心療法」の始まりを1940年としています。このときロジャーズは38歳。採用されたオハイオ州立大学の講義において、臨床経験だけに基づいているため理論化が弱い、と学生が評していたことを踏まえ、理論の体系化を目指していました。

その体系化の試みを、たまたま招かれたミネソタ大学で講演したのですが、その最中に「この考えで自分は進めばよいのだ」という内なる声を聴いた、とロジャーズは語っています。1940年12月11日のことでした。これが来談者中心療法のスタートです(『カウンセリングの理論(国分康孝)/誠信書房(2000年2月10日第29刷)』)。

ロジャーズは1987年に亡くなっていますので、以後47年間、カウンセリングの伝道者として活躍することになります。長い年月です。それもあって、ロジャーズの考え方は時の流れと共に変遷していったことが指摘されています。
次回のコラムでは、そのあたりのことを取り上げてまいります。

坂本 樹志 (日向 薫)

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