コーチングは「個人のためのスキル」から「組織変革の手段」へと、その活用の場が広がっています。
コーチングが日本に導入された当初は、「一人一人のより良い人生をサポートする」とか「その人の人生をどう設計するか」といったテーマを扱う個人向けのコーチングが主流でした。
今でもライフコーチとして活動しているコーチが多くいます。
その後、企業でマネジメントに活用するビジネスパーソンをはじめ、教育関係者や医療関係者、コンサルタントや専門家などにも広がるようになり、コーチングはさまざまな分野で活用、展開されるようになりました。
今では、個人のみならず、「組織開発」や「人材開発」の手法として、多くの企業、組織において、リーダー、マネージャー育成、組織風土改革のためにコーチングが導入されています。
価値観の多様化
価値観が多様化している現代、「右向け、右」で、人が一斉に右を向くことはなくなりました。
これまでのように一律に知識やスキルを身に付けさせることだけで、人の能力を開発するのは難しくなっています。
チームのメンバー一人ひとりの持っている力を最大限に発揮させていくためには、一律の教育から個別対応が必要になっています。
その一つの可能性がコーチングです。
従来のマネジメント教育は、部下を管理して、いかに効率よく仕事させるかに焦点がありました。
無意識のうちに部下を自分の思い通りにしようとしていなかったか、コントロールしようとしていなかったかに注意が必要です。
人は管理されることで依存型人材となります。
「うちの社員は指示待ち人間ばかりで困る」「もっと自分で考えて行動する社員が欲しい」と、多くの経営者は言います。
しかしながら、知らず知らずのうちに、相手を管理し、意に反して依存型人材を育ててしまっていることがあります。
人を育てようと思いながら、なかなか人が育たない原因は、自分が今やっていることが、管理型になっていないかに目を向けてみることです。
時間がないからと、具体的な行動を指示してしまっていませんか?
こちらの言った通りに行動させようとするほど、部下は依存型人材になってしまいます。
つまり、自分で考え、自分で判断することを放棄するようになります。
言われたとおりにやっていれば楽だからです。
次第に、自分から意見を言わなくなり、いつも指示が出るのを待っているだけになってしまいます。
例えば、次のような言動になっていないか、注意が必要です。
(1)部下が納得していないのに、やらせる
「仕方ないじゃないか、仕事なんだから…」
「会社の指示なんだから、言われたとおりやっていればいいんだ」
など、何のためにやるのか、目的も考えず、納得しないまま、ただ言われたことをやることで、自発性を失っていきます。
(2)リーダー自身があきらめてしまっている
「そんなこと、うちの会社でできるはずがないだろう」
「どうせ、上がダメというに決まっているよ」
自分の思い込みや経験から、管理者、リーダー、マネージャー自身が「会社なんてこんなもんだと、どうせ言っても無駄だ」と諦めてしまっていると、部下も同じような言動になってしまいます。
(3)部下の話を聴かない
「それなら聞かなくても分かっているから、〇〇にしておいてくれ」
「今忙しいから後にしてくれ」
部下が話したいと思っているにも関わらず、上司が聴く耳を持たないと、信頼関係がなくなり、上司が困っていても知らんぷりするようになります。
(4)部下に責任を押しつける
「俺はどうなっても知らないからな」
「お前のせいだぞ」
失敗を許さず、責任逃れする上司の下では、上司の言われたとおりにしか動かないようになります。
(5)上司自身が他の人の仕事に関心を持とうとしない
「それは私の仕事ではない」
「私には関係ないことだ」
他人の仕事に関心を持つ必要はない、と部下も思ってしまいます。
コーチングは単なる型やノウハウではない
人の力とやる気を引き出すコーチングは、リーダーやマネージャーにとって必須のスキルとなっています。
現在コーチングはかなり普及してきましたが、残念ながら、いまだにコーチングは、上司が部下をコントロールするテクニックだとか、聞く姿勢や言葉かけ、態度といったビジネススキルの一つだと思われているところがあります。
しかしコーチングは、型やノウハウではありません。
どちらかと言うと、私たちがよりよく生きるための哲学や思想、人間観に近いものがあります。
型やノウハウで人の心を動かすことはできません。
コーチングの組織における活用場面
コーチングは、一対一の会話による方法が中心ですが、グループコーチングやチームコーチングと言われるようにグループやチームを対象に実施することもあります。
現在会社などでは、具体的に次のような形で活用されています。
1. 経営者や経営幹部にコーチをつける
経営者や経営幹部にエグゼクティブコーチをつけ、一対一でコーチング(経営者の目標達成や課題解決をサポート)をしていきます。
2. マネージャーにコーチをつける
部課長などマネージャーにコーチをつけ、一対一またはグルーブを対象に部下育成などのマネジメント課題や目標達成をサポートします。
3. 一般社員にコーチをつける
一般社員に社外のプロコーチをつけることによって、上司には言えない悩みを引き出すなどメンタル面を含め、社員一人一人の成長をサポートします。
4. 1on1ミーティング
上司が部下の面談をすることを1on1ミーティングと言いますが、現在多くの企業で、コーチングを取り入れた1on1が行われています。
5. 会議の活性化のためにコーチがファシリーター役を務める
会議が単なる報告会に終わってしまっているなど会議の形骸化が指摘され、会議のあり方が常に課題になっています。社外のプロコーチに、ファシリテーターを依頼することによって会議の活性化を図っています。
6. リーダーやマネージャーに対するコーチング研修
リーダーやマネージャー自身がコーチングの考え方やコーチングスキルを身につけて社内で展開できるよう社内コーチを育てます。
コーチングの主体はコーチングを受ける人にある
コーチングは、基本的にコーチングをするコーチとコーチングを受ける人の一対一で行います。
ここで重要なことは、コーチが先導したり強制したりしないことです。
コーチングは相手が主体性を持ちながらそれを実現するところにあります。
本人が自ら見つけ出すというプロセスを踏むことで、はじめてそのアイデアはその人のものになります。
一方向ではなく、双方向でアイデアを出し合い、検討し、それを行動に移すためのアイデアも双方向のコミュニケーションで生み出すところに、コーチングの特徴があります。
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