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「クレドは“わが社は何のために存在しているのか?”」というパーパスを言葉にしたもの…についてコーチング視点で考えてみる!

見逃せないのが社内教育だ。「サーバントリーダーシップ」という言葉が経営学にあるが、J&Jはそれを実践している。経営者はトップに君臨するのではなく、「従業員一人一人の模範、コーチ」(デュアト氏)との考え方だ。
(『日本経済新聞6月30日7面 オピニオンDeep Insight』より引用)

今回も前回に引き続き、A課長と妻とのコーチングを描いてみます。多忙な妻の状況に遠慮しつつ、A課長は何かを妻に伝えたいようです。

(A課長)
今日少し話したいんだけど、そっちの仕事の状況はどう?

(A課長の妻)
社長報告用の資料作成の予定。ただ、まだエンジンがかからないから、30分くらいならいいわ。

(A課長)
相変らず忙しそうだね。

(A課長の妻)
まあ、ストレスは半端ないけど、会社は評価も明快だから、モチベーションは維持できる。気が抜けないところもあるけど、役員も信頼してくれているので、最強の悪玉ストレスである人間関係のストレスからは、まあ…フリーといったとこかしら。

サラリーマンにとっての幸不幸は上司との関係性…?

(A課長)
それはなにより!(笑)
ESG評価をはじめ、社会からすばらしいと絶賛されている会社であっても、その会社のサラリーマンがみんな幸せかというと、決してそうではないんだよね。
結局は人間関係というか、特に評価者である上司との関係に行きつくと思う。君はマイクロアグレッションに詳しいけど、パワハラする上司は、自分がパワハラしているとは気づいていない! というのが実態。

(A課長の妻)
C社は世界から人材が集まっているので、その環境の中で、マイクロアグレッションの判別ができるようになっていく。誰かに教わる…というのとも違うわね。環境が先生よ。

「パワハラ対策講習」を管理職研修でやるのは重要だけど、マチズモとかが染みついている上司は、通り一遍の研修では変わることはできないわね。講座修了のアンケートで、「とても理解できた」と書いていながら、職場に戻ると「果たして講習を受けて来たの?」と、部下に見透かされてしまう上司が、日本企業のメジャー占める管理職じゃないかしら。
職位に胡坐をかく上司は特にやっかいね。

パワハラ対策講習にコーチングを組み込むと…

(A課長)
今君は「通り一遍の研修」って言ったけど、そこにコーチングを組み込むと、気づきを得る研修が実現する

パワハラ上司には、「相手に対する自分の言動、態度、行為」そのままを、自分が受けた場合はどうなのか… 感情レベルが体感としてイメージできるまでに至る、といったノウハウもあるからね。
ところでダイバーシティというと、LGBTQがすぐ連想されるけど、君の会社はどんな雰囲気?

(A課長の妻)
そうね…個性的カルチャーの会社だと思う。染まってきた、というわけではないけど、私もだんだん変わってきた。LGBTQという概念が溶けていく、というか…
つまり、身近にさまざまな個性を持った人たちがいることを実感すると、ポリティカル・コレクトネスとは違った尊重というか、それが当たり前になっていくのよ。

LGBTQというワードを浸透させるということは大切よ。とにかくマチズモとかに染まっている人にとっては、バイアスであることから紐解いていかなければならないから。

でも理想は、LGBTQという言葉そのものが消滅することだと思う。とにかくいろいろな人がいて、それぞれの個性というか、得意なところを提供し、補い合うことで、素敵なチーム、組織、共同体が育まれていくのだと思う。

「姿かたちの異なる」男女を「同型」と捉えてみることによって…

(A課長)
語るなぁ~(笑)
日本は辺境の島国で、古事記以来の歴史という「物語、ナラティブ」を国民が共有している。「姿かたち」の同じような人たちが、出入りも少ない環境で暮らしているので、「違い」を実感しにくい、というところがある。

その点、日本以外の多くの国は、「姿かたち」の違う人たちが行きかっているのが普通だ。アメリカのニューヨークに行って、つくづく実感した。
ところで、「分類する」というのは、そもそも学問というか科学としての前提だけど、ヒトについては、「男と女」という分類を自明としているのが問題なのかもね。

まあ「姿かたち」で対象を判別していく、というのはどうも脳に組み込まれているようだけど、「外形の違い」に気をとられてしまうことが根源にあると思う。ここを起点にして、「男は……」「女は……」といった、実体とは違う「物語、ナラティブ」が、次々とつくられていく。バイアスは量産化され、バイアス百貨店ができあがる。

僕がアドラーを好きなのは、アドラーは「男女同型」から思考をスタートさせていること。よく「前提を疑え!」と言われるけど、「〇〇ありき!」だと、視野狭窄に陥る可能性は大だよね。

(A課長の妻)
あなたも語るわね~(笑)
C社に興味があるようだから、ついでに紹介するけど、この口コミサイトを見てくれる? 会社評価の口コミサイトはいろいろあるけど、C社はかなり上位にポジショニングされている。

(A課長)
どれどれ…? ほんとだね。
レーダーチャートの数値でもっとも高いのは… 「20代の成長環境」、次に「風通しのよさ」が続いているね。「社員の相互尊重」「法令順守意識」は同率の3位かぁ… たいしたもんだなぁ~

「人材の長期育成」に難のあるC社は「20代の成長環境」で高評価!

(A課長の妻)
もうすぐ創業50年で規模は大企業に分類されるけど、いまだに中小企業的なガッツがあるわね。永遠のアントレプレナー企業といったらいいのかしら。トップは三代目だけど、社内のすみずみまで設立当初の起業家精神が、薄まることなく浸透している。

(A課長)
なるほどね… 外から見ると、トップの存在はあまり見えてこないけど、濃厚なカルチャーは感じるね。
おっ、レーダーチャートを見ると、一つだけ凹みがあるね。「人材の長期育成」だ。

(A課長の妻)
帰国子女や外国人が多い環境なので、「会社に染まろう」という以前に、「自分が会社でどういうキャリアを積みたいか」、という個人としてのやりたいこと… つまり目的意識がはっきりしているから、そこにアンマッチを感じると、まあ… 辞めていくわね。

(A課長)
なるほどね。社員の定着率を高めることが人事部の最大のテーマ、という会社が多いなかにあって、C社のカルチャーは、ちょっと特殊だなぁ~

(A課長の妻)
C社の人事部も定着率を高めようとしているのは一緒よ。ただ、考えてみると、人それぞれ個性、価値観は違うし、相性というのも大切。しばらく頑張ってみて、「この会社の環境では、自分の成長が見込めない」と感じれば、別を探す、というのはアリよ。

現にレーダーチャートのトップは「20代の成長環境」だから、あなたがいつも口にするVUCAの時代にあって、これからの時代を担うZ世代はC社のカルチャーを高く評価している。縁も大切だけど、ひとつの縁にしがみつくのではなく、「望めば縁はやって来る!」と、捉えることも必要ね。

(A課長)
ポジティブだなぁ~ 実に強い女性だ!

(A課長の妻)
マイクロアグレッションは意図的に使うものじゃないわよ。底が割れてるわ。
ところで何? 話したいことって…

日経新聞が取り上げる「サーバントリーダーシップ」とは…?

(A課長)
うん、日経電子版を見てくれる? C社のことが話題になったのでちょうど良かったと思う。

6月30日の7面Opinion…『中山淳史コメンテーターのDeep Insight』なんだけど、タイトルは「J&JのESG歴79年」。

J&J(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は、創業136年という超老舗企業であり、2021年まで60年連続して増配を重ねている。時価総額も旧フェイスブックの米メタを超えて、世界8位に順位を上げている。中山コメンテーターが、CEOのホアキン・デュアト氏にインタビューし、それを踏まえたOpinionだ。

僕が印象に残ったのは、この箇所…

経営上の判断を支えているのは、1943年に3代目社長(創業者の息子)がA4紙1枚にまとめた「アワクレド(我が信条)」というパーパス(存在意義)だ。同文書はESGの始まりや、米大手企業による脱株主市場主義宣言(18年)にも影響を与え、日本でも研究する企業は多い。
そんな同社のCEOが語ったのは主に3つ

▶「クレドは79年前から我々のESGであり不変の価値だ」
▶「CEOはサーバント。組織をレジリエント(強じん)にし、利害関係者の利益を守る奉仕者だ。(1944年の)株式上場以来、8人目の私までみな同じ役割を持ち、つないできた。カリスマである必要はない」
▶「経済にはサイクルがあり、悪い時もある。だが、長い目で見れば、世界は良い方向に向かっている。技術革新があるからであり、J&Jも25年先を見据え研究開発に最高水準の投資をしている」

この後で、中山コメンテーターもサーバントリーダーシップに触れている。この理論というか哲学は、ロバート・K・グリーンリーフがかなり前に提唱しているんだけど、現代によみがえったというか、ESGの本質を見事に描き切っていた、ということ。実践との親和性も抜群なんだよね。
(『サーバントリーダーシップ 25周年記念版/2008年12月・英治出版』)

「サーバントリーダーシップ」にはコーチングの理念が凝縮されている!

グリーンリーフは、コーチングをイメージして本を書いてないのかもしれないけど、出来上がったものは、コーチングの理念がギュッと濃縮されている。
地下水脈でつながっている感じだ。

実は、この理論・哲学については、これまでSさんとの1on1ミーティングで5回くらい、とことん語り合っている。
https://coaching-labo.co.jp/archives/5150

Sさんは、サーバントという語感からくるイメージに抵抗があって、最初はピンときていなかった。「召使いのリーダー… ですか?」とZoomの表情は否定的だった(笑)

ただ、世界で4000万部売れた大ベストセラー『7つの習慣』の著者であるコビー博士や、リーダーシップ理論で最も実践にフィットすると世界で認められた「SL理論」のブランチャードが、最大級のリスペクトをグリークリーフに送っていることを話すと、興味が出て来たみたいで、「私は権威の薦めに弱いんで…」と笑いながら、本も手に取ってくれている。
今ではSさんもサーバントリーダーに、共感している。

クレドであるパーパスは企業の根幹!

(A課長の妻)
日経にサーバントリーダーが登場したことが、よほど嬉しかったようね。私は読んでないから、あなたのように共感は出来ないけど、空気感はわかるわ。
いずれにしてもクレドであるパーパスが企業の根幹ということ。

(A課長)
クレドはラテン語の“信条”から来ているけど、「わが社は何のために存在しているのか?」というパーパスを言葉にしたものだ。それが、単になる文字ではなく、企業の隅々に浸透し、血肉化すると、その企業はレジリエンスを発揮する。強靭なパワーでもって、荒波を乗り越えていくことができる。

日本の大企業って、本音と建前の乖離が見えてしまう企業が多いと思うけど、C社の企業文化は、クレドと会社の実際に向かっている方向にズレがないというか、コーチング的自己基盤が会社として確立しているような気がする。

人も会社も有機体…エンパワーメントによって自律する自己基盤がつくられていく!

会社は法律的には法人という“人”の文字が付されている。経営者は脳であり、心臓や肺といった臓器は組織と喩えることも出来る。従業員一人ひとりはその細胞だよね。

コーチングの母であるロジャーズは、有機体ということばを多用している。有機体である人は、本音と建前がズレていくと、心の安定から遠ざかっていくことを指摘した。
組織、そして会社もまた有機体だ。

君の会社のトップは、目立っていないけど、健全な有機体のごとくC社は自律して行動しているね。エンパワーメントによって組織構成員が気概を持って仕事に取り組んでいるんだろうね。ひょっとしてC社のトップは『サーバントリーダーシップ』を読んでいるのかもしれない…

(A課長の妻)
有機体のあなたは今心の安定を獲得できているようだから、私との20分のコーチングセッションは意義があったということね。C社に関して共感してくれたようだから、それもよかった。

(A課長)
こちらこそサンキュー。日常の何気ないよもやま話もいいと思うけど、コーチングを意識して会話すると、また違った景色が見えてくる感じだ。夫婦ではコーチングがなかなか機能しないと言われることもあるけど、まあボチボチやっていきましょう…

坂本 樹志 (日向 薫)

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