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第1回:コーチングとは「何をするか」ではなく「どう在るか」

ICFの定義に見る“在り方”の重要性

コーチングという言葉を聞くと、多くの人は「質問すること」「目標を明確にすること」
「行動を引き出すこと」といった“スキル”を思い浮かべるかもしれません。確かにそれらは、コーチングを構成する大切な技術です。しかし、国際コーチング連盟(ICF)のマスター認定コーチ(MCC)の視点から見れば、コーチングの本質はそうした“何をするか(Doing)”の部分にあるのではなく、“どのようにそこに在るか(Being)”にこそ宿るものだと言えます。

私たちは日々、様々な役割や肩書きを持って社会の中を生きています。上司として、部下として、親として、専門家として…そのいずれの役割にも“行うべきこと”が定められています。しかし、コーチングにおいては、その役割に基づく“行動”の積み重ねだけでは、クライアントの深い変容を支えることはできません。クライアントが本質的な気づきに至り、自らの人生の手綱を取り戻すためには、コーチが「どのような状態」でそこにいるかが問われます。

たとえば、クライアントが大きな決断を前に揺れているとき。コーチが「何をすべきか」と考えて次々に質問を投げかけたとしたら、クライアントは一時的には思考を整理できるかもしれません。しかし、その背後にある「本当の不安」や「大切にしたい価値」には届かないまま終わってしまうでしょう。一方で、コーチが評価も助言もせず、ただ深い信頼と静けさをもって“共にいる”ことができれば、クライアントの中から自然に気づきが立ち上がってくることがあります。

表面的なスキルと本質的な影響力の違い

このような“在り方”は、スキルのようにマニュアルで身につくものではありません。
それは、「相手を信じて待つことができる自分」であるかどうか、「問いを投げかけたあとに沈黙を抱えられるかどうか」といった、コーチ自身の内面の成熟度に深く関係しています。
ICFのコア・コンピテンシーにも「コーチとしての在り方(Embodies a Coaching Mindset)」という項目があり、ここでは自己認識、倫理性、継続的な学習への姿勢、そしてクライアント中心の在り方が強調されています。つまり、プロフェッショナルとしての技術だけでなく、人としてどんなあり方でセッションに臨むかが、成果を左右するという前提があるのです。

私はこれまで多くのコーチと関わってきましたが、最も印象的だったのは、技術的には未熟でも、クライアントに対する純粋な尊敬と信頼をもち続けたコーチのセッションでした。表面的にはぎこちなさがあっても、クライアントの内面が深く動かされているのが明らかだったのです。その逆に、完璧な質問や構造でセッションを進めながらも、どこかクライアントの内面と響き合わない場面にも出会ってきました。

コーチングの本質とは

コーチングの本質とは、クライアントの中にすでにある力を信じ、そこに光を当て続ける“在り方”の実践です。問いとは、情報を得るための道具ではなく、クライアントの内なる世界を尊重し、そっと扉をノックする行為です。そして沈黙とは、何も起きていない時間ではなく、“今まさに何かが芽吹こうとしている場”です。

技術や知識を学ぶことはもちろん重要です。しかし、それらが本当に意味を持つのは、「どんな状態でそこにいるか」が整っているときです。
コーチングとは、「何をするか」を超えた、「どんな存在として、誰と、どう出会うか」という営みです。
そしてそれは、コーチングという枠を越えて、人としてどう生きるかという問いへと続いていくのだと思います。

コーチングの本質に迫る方法の一つとして、リベラルアーツ教育に取り組んでいます。
興味のある方は是非ご参加ください。

詳しくはこちら:答えのない時代に対処できる力を養う「リベラルアーツ×コーチング」シニアエクゼクティブコーチ養成講座

国際コーチング連盟認定マスターコーチ(MCC
五十嵐 久

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