プーチン大統領はどうやってつくられていったのか?(2022/04/14)

栢 : プーチン大統領が一番目指しているものは何でしょうか。強い国をつくることでしょうか。国民を豊かにすることでしょうか。それとも、ほかのことでしょうか。

ヤコブレフ : 分からない。強い国について言えることは、強い国とは新しい戦車でも戦艦でもミサイルでもないということだ。私からすれば強い国は日本だ。強い国と言える要素は国民の自由と国民の豊かさだと思う。ほかにはオーストリア、ベルギー、オランダ、デンマークなどが挙げられる。国民の豊かさについていえば、もちろんそれは人々が幸せと思うかどうかの話だ。しかしロシアで貧困層は減っていないし、法の独立は確立していない。

ペレストロイカをゴルバチョフと共に二人三脚で進めた歴史上の人物が2004年に語った言葉です。

冒頭のやりとりは、『株式会社ロシア(栢俊彦/日本経済新聞出版社・2007年)』の中の一節です。栢さんの略歴は、「1993年に最初のモスクワ赴任の後、証券部、ベンチャー市場部のデスクを経て、2002年に2度目のモスクワ駐在、2006年に帰国し東京本社編集局で生活経済部長、2007年から経営企画室担当部長」とあります。

私はこの本を2007年に購入し、目を通したものの、その時の印象は強いものではありませんでした。ところが、プーチン大統領がウクライナに侵攻したことで、この本のことを思い出し、再読してみました。

「人は見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞く」とは、認知心理学を持ち出すまでもなく実感できるところです。
したがって…「プーチンという人物のことを知りたい」という強い目的意識に動かされて読んでみると… 内容が身体のなかにどんどん染み込んでくるのですね。

テレビで多くの識者がプーチン大統領のことを語っています。
「さすがの視点だなぁ」と感じつつも、隔靴掻痒の感を抱いています。そこで今回のコラムは、当該著作の力も借りつつ、これまで展開してきたように、若手A課長と定年再雇用のSさんによる1on1ミーティングで、テーマタイトルについて自由に語ってもらうことにしました。

「ベスト・アンド・ブライテスト」は強烈な皮肉を込めた表現…?

(Sさん)
前回の1on1で質問しそこなったことがあります。「ベスト・アンド・ブライテスト」というワードは、ベトナム戦争に絡む言葉として広がったと思うのですが、なぜその言葉がAさんの口から出てきたのか、興味があります。

(A課長)
優秀な知的エリートが集まっている業界は、金融業界であり都市銀行ではないか、というイメージのもと、思わず口にしてしまいました。
米国の有名なジャーナリストによってクローズアップされた表現だと思いますが、ベトナム戦争との関連は実はよくわかっていません。格好つけてカタカナで言ってしまいました。

(Sさん)
そういうことですか… 私は広島出身という意識が影響しているのか、ベトナム戦争についてはいろいろ考えてきました。

そもそもこの言葉は、ニューヨーク・タイムズの記者であるハルバースタムが『THE BEST AND THE BRIGHTEST』のタイトルで出版した本がもとになっています。「最良の、最も聡明な人たち」という意味です。

これはケネディ大統領とジョンソン大統領の閣僚や顧問・補佐官として結集した人たち…アメリカの上流、中流家庭に生まれ、一流大学の出た選りすぐりの知的エリートを総称する表現です。

ところが、最高の知性であるはずの彼らが立案したベトナム戦争は、“著しく“という強調表現を使わざるを得ないほど、道義的にも国益的にも反する泥沼状態に米国を引きずり込んでいきます。

なので…若いAさんからその言葉が出て来るとは、と少し驚きました。

(A課長)
今少し恥ずかしい思いをしています。特に背景を知ることなくカタカナを使ってしまったことに…

世界のトップと20年に及ぶ交流を維持していたにもかかわらず…

(Sさん)
いえ、そういう意味ではなく…
私も考える良いきっかけ得たと思っています。

プーチン大統領は、米国的な「ベスト・アンド・ブライテスト」とは異なりますが、ダブって見えてしまうところがあります。

プーチン大統領は長期政権ということもありますが、世界のトップたちと20年に及ぶ長い交流を維持してきました。その人物がまるでスターリンの再来かと見間違うほどの様相でウクライナに侵攻し、本人自身も想定していなかっただろう、泥沼の様相を招き寄せています。私たちが「信じられない…」と口にしても、それが“現実に”起こっているのです。

(A課長)
……今回の1on1は、プーチン大統領をテーマにやってみませんか?
心理学を少しかじった者として、私もプーチン大統領のプロファイリングを無意識にやっているような気がします。ただ、私の学びではとても迫ることができない“現実”に圧倒されています。Sさんがプーチン大統領をどう捉えているのか… 虚心に知りたいと思います。

(Sさん)
なるほど…
実は、テレビでプーチン大統領のことを「推測ですが…」と前置きしながら語る識者の人たちのことを、私は「大変だろうなぁ」と感じています。プーチン大統領の頭の中は「わかりっこない」、と思っているので…

進行役の司会者は「プーチン大統領は何を考えているのでしょうか?」と、「知りたい願望を満たしたい視聴者」を代弁するかのように、強い言葉で尋ねます。

一般的に人は、「よくわからない状態はイヤ」なので、とりあえず「〇〇〇ということだ」と、真実を棚に上げても「わかったようになりたい」のですね。
したがって識者の人たちも、「視聴者は〇〇〇という答えを期待しているだろう」という想定のもと、現代の日本人が概ね理解というか、共感できそうな回答を口にしているのではないでしょうか。

わからない状態はイヤなので、真実はともかくわかったようになりたい…?

(A課長)
Sさんの視点は、いつも考えさせられます…

(Sさん)
プーチンが大統領になったのは1999年です。途中メドベージェフが大統領になりますが、傀儡であるのは明白なので、ロシアのトップとして20年以上君臨しています。そのプーチン大統領が仕出かしてしまいます。

この“疑問だらけの現実”を少しでも紐解いてみたい、という思いから、私は昔購入した『株式会社ロシア』という本を引っ張り出して再読してみました。

日経新聞経営企画室部長だった栢さんが2007年に書いた本です。ソ連が解体され、大混乱期に大統領であったエリツィン時代の1993年にモスクワに赴任し、その後は東京のデスクを経て、再度2002年から2006年までモスクワに駐在されています。
つまり栢さんは、プーチン大統領の始まりの時期を体感されているわけです。

Aさん、この本をZoomで紹介したいので、一旦共有を解いていただけますか?

(A課長)
了解しました。こういう場合、Zoomは便利ですね。リアルだと準備しておかないと本をいきなり紹介することはできませんから。

始まりの頃のプーチン大統領が描かれている…!?

(Sさん)
ありがとうございます。これです…
時代的には、プーチン大統領の就任後5年を経たころのロシアです。今に至るプーチン像のヒントが隠されているような気がしています。

(A課長)
興味深いですね~

(Sさん)
栢さんは、出版の目的を次のように書いています。

本書は2003年-05年にロシアの経済路線が転換し、20年にわたる「欧米を模倣する時代」から「グローバリゼーションの条件下でロシア的な市場経済化を模索する時代」に入ったことを示そうとしたものである。

それは時にソ連時代への回帰だと言われるが、そうではなくロシアの現実と風土に合った形に市場化路線を修正する動きと捕えるべきである。路線の転換はロシア社会に一定の安定を与えており、国際舞台でロシアが存在感を取り戻す力を生んでいる。

プーチン伝説の始まりです。ロシアに関わってきた者として、ロシアの将来に期待したい、という思いが伝わってきます。
一方で、多くのロシア要人にディプスインタビューをして、栢さんなりのプーチン像を描いていきます。

(A課長)
いくつか紹介していただけますか?

(Sさん)
そうですね…
私が特に印象に残ったのは、ゴルバチョフソ連共産党書記長の側近として、ペレストロイカを二人三脚で推し進めた歴史的人物のアレクサンドル・ヤコブレフへのインタビューです。2004年ですから18年前です。主だったところを読み上げてみます。

ペレストロイカを推進した人物は何を語るのか…?

……現在の指導部が独自の社会観や発展段階に基づいてテレビ局を監督下に置いたことについては、話は別だ。テレビ局が国営だというだけなら、まあいいだろう。残念なのは、テレビ局が国の利益のためだけに一生懸命になっていることだ。そんなテレビ番組は関心を持たれない。ロシアでは政権はいつも間違いを犯す。自分が褒められれば褒められるほど、自分の権威が高まっていると思い込んでしまう。実際には逆なのだが、幸い、新聞や雑誌などの印刷媒体は、今も自由に報道している。そのうちいくつかは非常に民主的だし創造的だと言える。そこまでプーチン政権が意のままにしようとしているとは思えない……

当時のプーチン大統領は周りへの目配せができていたようです…

(A課長)
「自分が褒められれば褒められるほど…」からの下りは、コーチングを彷彿させられます。ヤコブレフ氏はコーチングのことがわかっている(笑)

(Sさん)
「実際は逆なのだが」はいいですね~ 相対化して自己を捉えることができる人物です。
続いて栢さんの質問とそれに応えるコメントです。

栢 : プーチン大統領は、なぜペレストロイカに逆行するようなことをしているのですか。個人の性格によるのでしょうか。それともゴルバチョフ、エリツィン時代に対する反省からでしょうか。

ヤコブレフ : プーチン大統領の行動を推測するのは非常に難しい。彼は本心を外に出さない人だ。私の印象では、彼は誤った考えに基づいて自己武装している。つまり経済の自由主義と政治の権威主義の組み合わせだ。彼のいうような経済の自由主義改革は、政治を制御することによっては実行できない。もちろん、よく言われるように、秩序をもたらすことは必要である。汚職は(個人でなく)社会に根ざした現象だとプーチンが言うとき、それは正しい。しかし汚職は力の行使によってはなくせない。スターリンの時代にも、フルシチョフの時代にも、汚職はあった。いくら牢屋に入れても首をはねても汚職は残った。汚職と闘うには、法に基づかなければならない……

プーチン大統領のわかりにくさは、今も昔も一貫しているようです。権威主義国家の伝家の宝刀かどうかはわかりませんが、汚職撲滅の大キャンペーンにより、政権を維持させていくというのが定番の方法ですね。

(A課長)
ロシアという国の成り立ちについて語る切り口が最近増えてきているようですが、この本に歴史的な背景とか、ロシアという国のメンタリティや価値観を紹介するような箇所はありますか?

(Sさん)
いい質問です! …思わず池上彰になってしまいました(笑)
いくつか紹介します。

欧州という文明国の周辺に位置するロシアは歴史上常に、国造りに当たって欧州との距離感を意識してきた。特にナポレオン戦争でフランスの文明に触れた若きロシア貴族たちは、自由の後進性を痛感した。その衝撃(ウエスタン・インパクト)は、19世紀を通じてロシアの発展の方向を巡る西欧派とスラブ派の相克となって現れる。

「第二の西洋の衝撃」を、ロシアは「20世紀の開国」であるソ連崩壊とともに味わった。知識人や為政者の間で、西欧派とスラブ派は再び激突する。西欧派は一足飛びに欧州文明に仲間入りすることを目指した。ただしそれは根拠のある戦略というよりも夢だった。

スラブ派ないし非西欧派は自由の捕らえ方が全く異なった。ロシア社会は13~15世紀のモンゴルによる支配以降、自由を経験していない。90年代のように政府の統治能力が極めて低下すると、自由は弱肉強食の世界を生んだ。スラブ派は自由をムスータ(動乱)と同義語とし、唾棄すべきものとみなした。90年代は、スラブ派にとって歴史上三番目のムスータの時代だった。過去二回のムスータ(17世紀初と20世紀初)の後には、ロマノフ朝とボリシェビキによるソビエト政権が登場した。

(A課長)
ソ連崩壊後にルーブルが全く価値を失い、物々交換でしかモノを手に入れることができない弱肉強食を実体験した若きプーチンは、バリバリのスラブ派ということですね。これはトラウマとしてプーチン大統領の心に居座っている、ということか…?
自由を唾棄することがプーチン大統領のドグマとなっているのかもしれない。

ロシアが欧州文明を受け入れるようになるのは、さらに15年を経る必要があるのか…!?

(Sさん)
栢さんは、「はじめに」の最後で、次のようにロシアの行く末を占っています。

筆者の皮膚感覚では、ロシアが欧州文明の入り口に立つのは、市場化プロセスが順調に進んだとしても30年後くらいだろう。その間、ロシア社会は成熟国よりも大きな揺れを何度か経験するはずだ。「20世紀の開国」で生まれた新しいロシアの要素と伝統的な鈍重ロシアの要素は、今後は長らく併存し摩擦を繰り返す。摩擦と調整から来る揺れを頭から否定的に捕えるのではなく、冷静に見つめることが対ロシア理解には有益だと思われる。

2007年に出版されていますから、30年後は2037年です。このたびの全面的なウクライナ侵攻を「大きな揺れ」「摩擦」として起こりうる…と想定していたかどうかは、栢さんに訊いてみるしかありませんが、私たちの「信じられない!」とは別の視点で、プーチン大統領の姿を捉えていることが、この本からは伝わってきます。

(A課長)
ありがとうございます。
突然変異として受けとめる向きもあるプーチンロシアのウクライナ侵攻について、立体的な視点を得ることができました。
何か事件が起こると、すぐさま解説本が出版されますが、こうやって過去の本をじっくり読み返してみる、ということも実に大切ですね。

(Sさん)
私こそありがとうございます。
このような内容を話したくなるモチベーションは、「Aさんは必ず耳を傾けてくれる」と信じることができるからです。
次回の1on1もプーチン大統領のつづきをやってみたいのですが、いかがでしょうか? 

『株式会社ロシア』は題名にあるように、経済を切り口としてのアプローチです。私はそのことに加えて、ウクライナ侵攻はプーチン大統領の成功体験が重なっていくことで、幼児のように全能感が肥大化していったことも指摘できると考えています。それを促進した触媒は「裸の王様化」です。

太宰治の『走れメロス』のように、誰も信じることができない暴虐の王は、孤独であり過剰な不安と恐怖にさいなまれています。
歴史上自国のすぐ隣が敵対国であることを極度に恐れるロシアは必ず緩衝国家をつくろうとします。この国家的メンタリティも、現在のプーチン大統領をつくってしまったようです。

国家を預かる為政者が疑心暗鬼と恐怖にかられてしまうと、どんなことが起こってしまうのか…ベトナム戦争にも触れながら語ってみたいと思います。

(A課長)
思う存分語ってください! 私もインスパイアしますので!

坂本 樹志 (日向 薫)

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