リーダーシップ理論の変遷(7)~『1兆ドルコーチ』を題材に米国流のコーチングとリーダーシップを考えてみる!~(2022/02/13)

今回は、『1兆ドルコーチ』からインスピレーションを得て、コラムを進めてみようと思います。この単行本の翻訳版は、2019年11月にダイヤモンド社から発刊されています。その第4刷の帯には次のようなメッセージがプリントされています。

スティーブ・ジョブズ(アップル共同創業者)、エリック・シュミット(グーグル元会長兼CEO)、ラリー・ペイジ(グーグル共同創業者)…… シリコンバレーの巨人たちの裏には、成功の全てを知り尽くした「共通の師」がいた!
ジェフ・べゾス(アマゾンCEO)、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、セルゲイ・ブリン(グーグル共同創業者)、ベン・ホロウィッツ(『HARD THINGS』著者)他、シリコンバレー中の成功者に絶大な影響を与えた伝説のリーダーの「成功の方程式」!

その冒頭のChapter1に、この本が書かれた理由が記されています。
……この本を書くというアイデアに、ビルが賛成してくれたかどうかはわからない。彼は黒子でいることを好み、スポットライトが当たりそうになると陰に隠れ、本を書きたいという作家やエージェントの申し出を断り続けた。だが最後にはそうした考えを受け入れるようになっていたのではないかと、私たちは思っている。……

『1兆ドルコーチ』はビル・キャンベルへのオマージュの書!

つまり、この本は「共通の師」であるビル・キャンベルへのオマージュであり、追悼の書なのですね。執筆者は、エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグルの3人となっています。

心理学を学びコーチングの資格を有する若手A課長の読書スタイルは、理論書が中心で、ビジネス系の本はあまり手に取っていないのですが、この本は読んでいるようです。
今回のコラムも引き続き、A課長と部長職を長く経験した実践派で定年再雇用のSさんとのバーチャル1on1ミーティングを覗いてみることにしましょう。

<A課長>
前回の1on1で、奥様とお嬢さんとのかかわりをお聴きし、いろいろ考えさせられました。

<Sさん>
Aさんからの心に刺さったフィードバック、さらにカウンセリングとコーチングの違いとは? について話題が転じていったので、個人的な体験を自己開示してしまいました。
自分の中だけに留めていたはずだったのに、Aさんの雰囲気というか、それがコーチング力、引力、磁力なのでしょうか、思わず口にしてしまった、という後悔の念も生じています(笑)

その一方で、興味本位ではなく私の本当の思いを理解してくれるかな…と思える人に話すことができて… これは私の勝手解釈かもしれませんが(笑)…肩の力が抜けたというか、カッコつけても意味ないなあ~ という感覚も生じて… いやいや複雑ですね(笑)

<A課長>
Sさん自らセルフコーチングをされている… 実は前回の1on1の後、私もいろいろ自問自答してみました。そのなかで『1兆ドルコーチ』の内容を反芻してみたのですね。

ゴージャスなカリスマが連なる帯を見てSさんが感じたこととは?

<Sさん>
ビル・キャンベルですね。本屋で平積みされていたので印象に残っています。ビジネス本はよく読むので買おうかな~と思ったのですが、タイトルといい、GAFAのトップが大きな文字でプリントされた帯を眺めているうちに…萎えてしまいました(笑)

<A課長>
萎えた…?

Sさん>
おそらくすごい内容で感銘を受けるだろうことは想像できたのですが、キャッチ―すぎて…というか、圧倒的に迫って来て、それだけでお腹がいっぱいになりました(笑)
すでに故人ですから、礼賛のオンパレードだということも想像できましたし…

<A課長>
なるほど… 私はむしろ相対化ができているのかもしれません。コーチングはさまざまスタイルがありますが、現在に至るコーチングの体系は1990年代の米国から始まっています。トマス・レナード、ティモシー・ガルウェイが登場します。

私の場合は、心理学、特にアドラーやロジャーズを勉強して、その後でコーチングと出会ったので、まさにハイブリッドとしての体系なのだなぁ、と腹落ちさせています。

それから日本で広がりつつあるコーチングと、コーチングの神様と呼ばれるマーシャル・ゴールドスミスの世界観はちょっと違っていますし… ビル・キャンベルもやはり米国のコーチングであり、リーダー論です。

<Sさん>
米国のコーチング… 一言でいうとどんなカンジですか?

米国のコーチングはアニマルスピリット、そしてアグレッシブ!

<A課長>
アニマルスピリットと言えるでしょうか… そしてアグレッシブです。ビル・キャンベルはマッチョ系ですね(笑)

<Sさん>
なんとなく…伝わってきます(笑)

<A課長>
ただコーチングの原理原則は不動です。最初の章の「ビルならどうするか?」に次のような箇所があります。

……マネジメントのスキルには人に任せられるものも多いが、コーチングはちがう。これこそが、ビルが私たちに教えてくれたいちばん大切なことだ。
めまぐるしく変化し、競争がし烈さを増す、テクノロジー主導のビジネス界で成功をつかむには、パフォーマンスの高いチームをつくり、途方もない成果を挙げるための資源と自由を彼らに与えるしかない。そしてパフォーマンスの高いチームに不可欠な要素が、卓越したマネージャーと思いやりのあるコーチの両面を併せ持つリーダーだ。ビル・キャンベルはこの点で、後にも先にも並ぶ者のない存在だった。……

<Sさん>
「卓越したマネージャーと思いやりのあるコーチの両面を併せ持つリーダー」は、まさにサーバントリーダーですね。グリーンリーフの言葉である「奉仕者としてのサーバントと人を導くリーダーを併せ持つ人」を思い出しました。

<A課長>
そうなんです。皆がコーチだと認める人には共通するマインドがあります。その上で、一人ひとりが自分の個性をしっかり見つめ、自分のコーチングスタイルを創り上げていきます。それが自己基盤であり、ファンデーションです。

私の、コーチとしての自己基盤づくりもまだ途上ですが、資格を取ったばかりの頃は、先輩コーチの素晴らしいところばかりに目が行ってしまい、「Aさんのようなコーチに…」「 Bさんのスタイルをまねよう…」「Cさんの質問力はすごいなぁ~」と、先輩コーチの素晴らしいところばかりに目が行ってしまい、なかなか自信が持てなかったのですね。
ただ、たくさんのコーチング実践を経験するうちに「自分は自分だから、他者にはなれない」と、自然体で受けとめることができるようになりました。

自信とはまた別の感覚なのですが、多くのフィードバックをいただくなかで、形成されてきたカンジです。
結局のところ、「他者の存在無くして自分を知ることはできない」ということです。

<Sさん>
すばらしい! Aさんの金言として受けとめました。
前々回の1on1の、「私も何か金言を作らなければ…」というAさんの言葉を思い出しましたよ。公約実行ですね。

「コーチングはあらゆる対象に効果を発揮する」と持論を語るA課長ですが…

<A課長>
実は密かに考えていました(笑)
ビル・キャンベルはコーチングをチームビルディングにも活用したコーチです。コーチングの基本は1on1ですが、コーチングの本質は、コミュニケーションが求められるあらゆる対象に機能し、効果が表れます。すべてです!

ビル・キャンベルの金言を紹介します。

「どうやって部下をやる気にさせ、与えられた環境で成功させるか? 独裁者になっても仕方がない。ああしろこうしろと指図するんじゃない。同じ部屋で一緒に過ごして、自分は大事にされていると、部下に実感させろ。耳を傾け、注意を払え。それが最高のマネージャーのすることだ」

「君がすぐれたマネージャーなら、部下が君をリーダーにしてくれる。リーダーをつくるのは君じゃない。部下なのだ」

<Sさん>
真のカリスマ的リーダーシップですね。そしてサーバントリーダーシップだ…

<A課長>
そしてこの本に、ずっと流れているキーワード… 通奏低音と喩えられるでしょうか、それを感じることができます。

<Sさん>
それは何ですか?

<A課長>
心理的安全性です。
チームに、組織に、この心理的安全性が形成、醸成されることを願って、ビル・キャンベルはすべてのエネルギーを注いだのだ! と私は総括しています。

<Sさん>
まさにキーワードですね。とても注目されています!

ビル・キャンベルは「心理的安全性」の伝道者だった!

<A課長>
次のような記述があります。

……1999年のコーネル大学の研究によれば、チームの心理的安全性とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり、ありのままでいることに心地よさを感じられるようなチームの風土である」
まさに、私たちがビルと仕事するときに感じていた気持ちだ。彼は私たちが恐れずにありのままの自分でいられるような関係をすばやく築いた。
グーグルが行った、チームを成功に導くカギに関する調査でも、もちろん心理的安全性が筆頭に挙がった。……

<Sさん>
ビジネスの世界で、組織で、これを実現するのは至難の業だと、私は感じるところもあります。まさに理想の環境です。

<A課長>
それをジム・キャンベルは、組織に、企業に、エグゼクティブたるトップに伝道していったのだと思います。そしてそれを実現した。だからこそ『1兆ドルコーチ』なのですね。

<Sさん>
なるほど… スキルを超えたコーチング力だ。

<A課長>
ただ…ビル・キャンベルの捉え方で、一つだけ気になるところがあります。

<Sさん>
それは納得できない、ということですか?

<A課長>
いえ、そうとも言い難く… ちょっと紹介します。

……彼はコーチングを受け入れられる「コーチャブル」な人だけをコーチングした。ひとたび彼のテストにパスした相手に対しては、じっくりと耳を傾け、誠実に徹し、偉大なことを成し遂げられると信じ、誠意を尽くした。……

構えがしっかりできている人を選んで、ということですから、「コーチングには汎用性がある!」ということをイメージしている私は少し考えてしまいました。

<Sさん>
う~ん… ビル・キャンベルは究極のエグゼクティブコーチですから、そのゴールは企業業績ということになると思うので…私は理解できます。
曖昧でない結果が問われるスポーツの世界は、より明快です。たとえば甲子園や箱根の優勝を期待されている監督やコーチは、まず選手のリクルート、人選からスタートします。こうなると学校全体の総力戦でもありますが…

コーチャブルな対象を選んで展開していくのがコーチング…?

<A課長>
おっしゃる通りです。私はちょっと肩に力が入りすぎですね(笑)
ただ、一つのきっかけだと思い立ち、最もコーチャブルではない人を対象にコーチングをやってみることにしました。究極のチャレンジです!

<Sさん>
誰ですか…?

<A課長>
妻です。「家族にコーチングをやっていくのは至難の業です」と言われることもあるので、私自身もゴールイメージがつかめない状態で、それでも自分のために(笑)…やってみようと始めました。
なぜこのことを話すのかというと…前回の1on1でSさんが奥様のことをお話しされたからです。Sさんの奥様は、実はSさんにとってのコーチというか、メンターだった、ということですよね。

今日の1on1の最初に私が、「前回の1on1で、奥様とお嬢さんのかかわりをお聴きし、いろいろ考えさせられました」と言ったのは、このことなのです。
Sさんの自己開示に影響されています。私もお話しさせてください。

<Sさん>
はっ、はい…

<A課長>
妻は私より1歳年上で、最大手のIT企業のマネージャーです。かなりの重責を担っています。昭和の価値観の欠片もない人物です。家事のシェアについては、妻はどう感じているのか…本音のところはわからないのですが、自分なりに懸命に取り組んでいます(笑)

<Sさん>
コーチングの申し子であるAさんですから、その言葉は信用できます(笑)

<A課長>
もともと忖度ゼロの関係性なのですが、「あなた、変わってきたわね~」と、1年たった頃、そんなことを言われました。

それまでは、お互いが主張しあって、ストレスが高まってくると妻は…
「あなたって、たくさん本を読んでいるから、確かに言っていることは立派よ。だけど、それってその人たちが考え抜いて、自分の腹に落として言ってることでしょ。あなたはどうなの? 自分の言葉になってるの?」と、こんなカンジで攻めてくるのです。

このパターンに限らず、私がそれなりに自己肯定している内容について、こういう言葉がいきなり飛んでくるので、防御壁がつくれておらず、“ムカっ”ときて、反論してしまいます。
「そんな言い方はないだろう!」と感情が高ぶります。

そのあとはもう「売り言葉に買い言葉」ですね。他の夫婦は知りませんが、私の場合、結構まいります。妻のトーク能力は空前絶後で、まったく太刀打ちできません。

<Sさん>
リアルですね… 今日はいつもとは違うAさんが登場しますね。

<A課長>
失礼しました。ネイティブコーチのSさんに身を預けます(深呼吸)
どうしたものか…と、悩みながらも、コーチングのプリンシプルは何かと考えるうちに、傾聴にたどりつきました。前回のお話ししましたが、本当に深い世界です。

それで、とにかく「妻の話を聴こう!」と決心して…もうこれは「決め‼」であり、しばらくは「苦行」でした。Aさん、笑わないでください。

<Sさん>
あっ、すみません(笑)
これまでの1on1と違って、Sさんの話ぶりに力が入っているので…

自分が変わったことで妻も変わっていった…のか?

<A課長>
そうですか… ちょっとクールダウンですね(笑)
そうこうするうちに、明らかに妻の態度が変わってきました。

妻曰く、「あなたはどう思っていたか知らないけど、私は本当に素直な性格よ、自信を持って言えるわ」
そしてこう続けます。「最初のころは無理して頑張っているというか、白々しかったけど、そういうあなたを見ていて、『かわいいところがあるじゃない』と感じてきたのね。すると私の方にも余裕ができてきたというか、ストレスもなくなってきたの…」
と展開していったのです。
ちょっとくやしいながら、まあ「悪くないなぁ」というカンジです(苦笑)

<Sさん>
いやぁ、一件落着ですね。
奥様にもコーチングは通用する! というビル・キャンベルとは違う哲学が提唱できたのでは? と私は感じています(笑)

<A課長>
今回のことで「情けは人のためならず」という諺を痛感しました。この情けを努力に置き換えて、妻に対する努力が、いつの間にか自分にプラスとなって返ってきた、ということです。
コーチングの汎用化は可能です!
ありがとうございます。クライエントとしてコーチのSさんに感謝です。

<Sさん>
私にとっての初めてのコーチング体験です。こちらこそありがとうございました。

坂本 樹志 (日向 薫)

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