リーダーシップ理論の変遷(6-3)~『サーバントリーダーシップ』でコーチングの奥義である“傾聴”を深掘りする!(2022/02/05)

哲学とは、「過酷な日々と多幸感が織り交ざる人生を通じて、その人の内部に根付き確立していく信念」…このようにSさんは自己流の定義を披露した上で、「まだ自分なりの信念が確立していない、現在進行形で探索中…」と、前回の1on1でA課長に告げています。

それに応えてA課長は「コーチングの3原則の一つにオンゴーイングがあります。Sさんの“現在進行形”の意味とは少し異なりますが、コーチングを通じての気づきは、おそらくとどまることはないと思います…」と、コメントしています。

今回もこれまでのコラムに引き続き、部長職を長く経験した定年再雇用のSさんと心理学を学びコーチングの資格を持つ若手A課長に、1on1を展開してもらうことにしましょう。

A課長のフィードバックはSさんの心に刺さったようです…

<A課長>
前回の1on1で、Sさんの波乱万丈な人生を通じて、ご自身としての哲学を確立されようとしていることに刺激を受けました。

<Sさん>
私の人生は別に波乱万丈ではありませんよ。そのようなことを口にしたつもりはありませんし…

<A課長>
このところの1on1では、Sさんにイジられっぱなしなので(笑)…私からも率直にフィードバックさせていただいてもよろしいですか?

<Sさん>
はい、お願いします(笑)

<A課長>
Sさんの語り口は、ハードな…修羅場といえるかもしれませんが、そんな人生を潜り抜けているにもかかわらず、どこかご自分を茶化すというか… 練り上げてきた「Sさん話法」に載せて、周りを煙に巻いています。ときおりギラっと光る眼光から、Sさんの人生が垣間見られます。

<Sさん>
……

<A課長>
……

<Sさん>
う~ん… はじめて指摘されました。少し心が揺さぶられたかな?(苦笑)
このようなフィードバックができるというのは、Aさんがコーチング力を磨いてきた、ということでしょうか?

<A課長>
力…とは感じていないのですが。そうか…“力”という表現を使われましたが、最近、“〇〇力”とあらゆるものに力をつけて表現することがブームになっているように感じます。

<Sさん>
その火付け役は、阿川佐知子さんの『聞く力』ですね。確か10年前くらいの発刊でしょうか…ググってみましょう。おっ、アマゾンを見ると…
『累計170万部突破、驚異のベストセラー。「面白そうに聞く」「なぐさめは2秒後に」「オウム返しで質問」等々「聞く」ための極意が満載!…』とあります。2012年ですね。

<A課長>
岸田首相のコンセプトも聞く力ですね。力という文字をつけると、トレーニングによって磨いていく、つまりスキルというイメージが伝わってきます。スキルは訓練によって獲得できるので、学ぶモチベーションもアップする。

<Sさん>
コーチングにもスキルというワードが登場しますよね。

コーチングのスキルはトレーニングによって習得できる…!?

<A課長>
はい、コーチングのスキル体系は、細かく分類するとかなりの数となりますが、承認、傾聴、質問、要約、フィードバックは外せません。コーチング資格はプロコーチとしての登竜門であり、当然スキルの習得が求められます。
ただ、この中で“傾聴”は別格だと感じています。

<Sさん>
別格とは…どういう意味ですか?

<A課長>
私はスキルを超えたところにあると感じています。ただしスキルであることも明快です。

<Sさん>
禅問答のようですね…

<A課長>
申し訳ありません。“傾聴”はコーチングの背骨といいますか、魂、ソウル… う~ん、適切な言葉が思い浮かびません… グリーンリーフの言葉を借りることにします。
『サーバントリーダーシップ』の「耳をすまし、理解すること」という中の一節です。

…つまり、サーバント志望の、サーバントでない人間でも、聞くことを学ぶという長く過酷な訓練、あらゆる問題への対応は、まず聞くことだという態度ができるまで訓練を積めば、生まれながらのサーバントと同等になれるかもしれない。

聞くという行為が自信を持ってできるまで訓練を積み、めざましい変化を遂げた人々を私は数多く見てきた。心から耳を傾けることによって、相手に力を植えつけられるからだ。

人は多かれ少なかれコミュニケーションをとることを求め、話し手は聞き手の重要な経験に触れたいと思う。それは非常に重要なことかもしれない。深いところまでコミュニケーションできているかどうかを測るには、まず自分にこう問いかけることだ。

「私は本当に耳を傾けているのか。コミュニケーションをとりたい相手の話に耳を傾けているか。相手と対面したときには、その人を理解したいという基本的態度をとっているだろうか」というように。

聖フランシスコの祈りの中の有名な一節を思い出してほしい。「神よ、理解されることよりも、理解することを私に望ませてください」

ちょっとした沈黙など恐れなくてもいい。沈黙が気まずいとか耐え難いとか思う人もいるが、リラックスして会話に入っていくには、ささやかな沈黙でも喜んで受け入れられるものだ。自問すると滅入ってしまうかもしれないが、ときにはこう問うことが大事である。

「今考えていることを口にするのは、沈黙の状態よりも本当にいいことだろうか」

<Sさん>
深いですね…

カウンセリングとコーチングを混同していないか…!?

<A課長>
よく「コーチングとは徹底的に聴くことですよね?」と尋ねられることがあるのですが、間違ってはいないものの、カウンセリングと混同されている場合が多いのですね。
カウンセリングは、精神的なダメージにより不安定な心境に陥ってしまっているクライエントに、治療的態度で寄り添います。うつ病を患っている方などへの対応です。

この治療的態度というのは「質問を重ねて本人の気づきを促す」というスタンスを一旦脇に置いて、情緒レベルの受容や共感を重視し、どのような発言も…つまり混乱して意味をなさない言葉に対してもOKと感じさせる、やさしさと温かさに満ちた…もちろん表面的ではない深いところでの態度でクライアントに接していくアプローチです。
基本的に公認心理士などの資格を持った人が担当します。

コーチングはそれとは異なり、パフォーマンスの向上を願う人が自ら気づきを得て、具体的な行動を起こすことでゴールに向かっていく、というプロセスです。
つまりプロコーチは、その気づきを引き出すための質問力も問われます。

<Sさん>
だからこそ、相手のことをとことん理解するためには傾聴であり、気づきを促す質問以前に、クライエントを深く理解するための質問も求められる、ということですね。

次の質問を考えながらクライエントの言葉を聞いていないか…?

<A課長>
ありがとうございます。本当にその通りです。
スキルを学び一応習得すると、その次に乗り越えなければならない大きな壁にぶち当たります。
それは「傾聴ができていない」ということに自分が気づいてしまうことです。

コーチングの資格取得講座では、「人は見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞く」ことを徹底的に実感させられます。そのためのエクササイズが豊富に用意されています。 よく「私は聞き上手だと言われます」という発言は、プロコーチになるととても恥ずかしくて口にできません。

<Sさん>
カウンセリングとコーチングの違いが微妙に理解できていなかったので腹落ちに近づきました。ただ…

A課長>
…ということは、その腹落ちまで至っていないSさんの疑問とは何でしょう?

人の心のありさまを分けて捉えることは可能か…?

<Sさん>
一人の人間を「ここまではコーチング、この先はカウンセリング」、というように分けることが可能でしょうか? うつ病もプロだとされる精神科医が認定して判断される訳ですが、ものすごく幅があるように感じます。

Aさんから修羅場…といわれましたが、自分が「精神的にヤバいんじゃないか?」と感じたことが人生で1回ありました。広島出身ですから「ネアカ・ノビノビ・ヘコタレズ」を自認し、自己肯定感と自己効力感については、きわめて高い独りよがりの自信を持っていました。それなのに…あるとき自分が良かれと思って判断した意思決定が全否定されたのです… 本当に全否定です!

信じていた…まあこれは独りよがりだったということなのですが…その世界が幻想だった、ということに気づかされた衝撃は、筆舌に尽くしがたいですね。

<A課長>
……

<Sさん>
失礼しました…
まだまだアドラー思想がわかっていないですね。過去を引きずっているな…(自嘲的な笑)

ただ… Aさんと1on1を続けていくうちに…何と言ったらよいのかな… 少し楽になってきたというか、人生って捨てたもんじゃないぞ…という楽観性が芽生えてきたように感じています。

<A課長>
ちょっと…心臓がドキドキしています。Sさんと同期してしまったのかな…

自己肯定感と自己効力感が大きく揺らいだSさんは、誰によって救われたのか…?

<Sさん>
いやいやお恥ずかしい… 自分がこのタイミングでこんなことを話してしまうとは…
私は非難や、ネガティブな言葉を浴びせられても、結構タフである自信はあるのですね。相手の興奮が見えると、「この人、朝出がけに奥さんと喧嘩して、まだそのことを引きずっているんだなぁ~」と、リ・フレーミングしたりして、自分なりのアンガー・マネジメントをやっています。

ところが、Aさんのフィードバックには動揺しました。そして“傾聴”がテーマになって、人生最大危機の際に、妻と娘が真剣に耳を傾けてくれたことを思い出したのですね。

面白いですね、私はとことん落ち込んでいます。ところが妻はそうではなく…このあたりの説明は難しいのですが、瞳の奥に火がともり始めているのを感じました。
私のプライドはズタズタで、妻に話すことを決心するのにもかなりの時間を要しました。勇気を振り絞って何とか言葉にして…ひと通り話し終えると、妻は次のように言うのです。
(少し間が空く)

<A課長>
Sさんの目も輝いてきました。
今日の1on1はどう展開していくのか…と正直不安になりましたが、奥様の話をするSさんが普通というか…言葉が貧困ですね(笑)…もとに戻ってきたので…

<Sさん>
恐縮です(苦笑)
妻は「〇〇ちゃん、これはパパだけが苦しんでいるのではなくて、私たちS家全体が乗り越えていかなければならない!ということなの。わかる?」と言うのです。

妻だけに話そうか、とも考えたのですが、長女も大学生になっており、一次情報として妻と同じタイミングの方がよいと判断した上で、長女にも同席してもらっています。

「もらっています…」と変な言い方になってしまいました。ただ、私の精神的ダメージは、「藁にもすがる」というところまでの心境でした。
長女も、妻に煽られたのか、これ以上ない真剣な表情でうなずきます。

一人あるいは二人…本当の味方がいる人は幸せを実感できる!

<A課長>
奥様とお嬢さんの態度こそが“傾聴”です。こんなリアルな“傾聴”をSさんから教えてもらえるとは…

<Sさん>
“傾聴”って、すごいことですね。
本当の味方は誰か… 私の場合はたまたま妻であり娘だったのですが、その味方がいることが実感できれば、人は幸せになれると思います。
一人、あるいは二人、本当の味方がいてくれれば、その人は幸せです。恩師だったり、友人だったり、そしてコーチです。

「私は一人で耐え抜きました…」と聞くことがありますが、私には無理です。そして「本当かな~」と感じます、というか「ウソだ!」と確信します(笑)

以前の1on1でAさんから「自己開示されましたね~」とフィードバックされたように記憶していますが、今日が正真正銘の自己開示です。

<A課長>
受けとめました。そして専門職としてのプロコーチには医者と同様に守秘義務があります。今回のお話は私の胸だけにとどめます。
そして…私はSさんの娘さんと同世代ですが、その娘さんの気持ちも想像しています。

私はつくづくSさんはネイティブコーチだなぁ、と感じています。今…スキルやテクニックを超えた「人生をどう生きるか」という遠大なテーマに思いを馳せています。
本当にありがとうございます。

<Sさん>
私の拙い自己開示が少しでもお役に立てれば… それで私は救われます(笑)
1on1はシナリオが無いというか、ミステリーですね。
引き続きよろしくお願いします。

坂本 樹志 (日向 薫)

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